「ご、めん。余計なこと言ったね。忘れて」



困ったように笑みをこぼす紫苑に、胸が痛んだ。



俺は、馬鹿だ。どうしようもないくらい、馬鹿だ。



「……俺は、臆病でずるい自分自身が心底嫌になる」


「……大雅?」



少しでも戸惑った自分が情けない。


こんなんだから龍雅にも呆れられてしまうんだ。


こんなんだから、芽衣をずっと傷付けたままなんだ。


俺は、こんな自分自身が大嫌いだ。



「紫苑」


「ん?」



何度ももう逃げないと決めたはずなのに。


その決心は簡単に揺らいでしまう。


だけど。芽衣のためにも、言わなきゃ。言わなきゃいけないんだ。



「……実は俺。……記憶が戻ったんだ」


「……え……?」



多分、半分冗談で聞いたんだろう。事実を知った紫苑の表情は、"嬉しさ"と"安心"が見えたけれど、同時に"困惑"と"複雑"が見えた気もした。



「そ、それって……芽衣のこと、思い出したの……?」



恐る恐る尋ねてくる紫苑にこくりと頷くと、その目に涙を浮かべながら



「うそ……! 本当? 本当に?」


「あぁ」


「良かった……本当に良かった……!」



と微笑んでくれた。



「それで、芽衣にはもう……?」


「……いや、まだ」


「そう……」



紫苑は頭の中でいろいろなことを考えているようだった。


今までのこと、これからのこと。芽衣のことを考えているのはすぐに想像できる。


そのまましばらくお互い黙っていると、俺のスマホが規則的に震えて着信を知らせた。