「ははっ、なにそれ。親戚のおじさんみたい」
「わ、悪い……」
「ううん。……まぁ、わたしは元気だよ」
その言葉に、じゃあ芽衣は?と聞きたくなるのをグッと堪えた。
聞いてどうするんだ。
知ってどうするんだ。
あんな泣きそうな顔で去っていった芽衣が、本当に元気だと思うのか?
記憶が戻ったことも告げられない俺が、どうやって聞くんだ。
仮に聞けたところで、紫苑がこんな俺にまともに答えてくれると思うか?
今さら何言ってるんだって。ふざけんなって。
そう言われて帰っていくに決まっている。
「──何かあった?」
「……え?」
だけど、そんな俺の葛藤など知らない紫苑は中学のころと同じように柔らかく微笑んでくれた。
「わたしに聞いた割には大雅は元気じゃないみたいだから。透に聞いたよ。最近はあんまり連絡も取れないって」
「……まぁ、な」
記憶を取り戻してからというもの、病院で忙しかったり芽衣のことばかりを考えていて学校にもあまり行かず、夏休みに入ってからは引きこもっていた。
いくは夏休みとは言え、二週間も経ったのに透ともまともに顔を合わせておらず、たくさん連絡が来ているから心配してくれているのはわかっていた。
「もしかして……だけどさ」
「……」
「……もしかして、何か思い出した……とか?」
ドクン、と。心臓が大きく鳴り響く。
恐る恐る俺の顔色をうかがう紫苑の真剣な目に、俺の中の全てが見透かされているような気がして一瞬息を止めた。