多分、紫苑は俺の記憶が戻ったことを知らないから、芽衣の名前を出さないように気を遣ってくれているんだと思う。
この二年間、俺は紫苑のことも遠ざけていた。
ただ芽衣と仲がいいと言うだけで。
ただそれだけのことで、芽衣や家族だけでなく昔からの友達にも迷惑をかけていたのかと改めて情けなく思った。
紫苑に記憶が戻ったことを告げるべきなのだろうか。
告げたら、紫苑はどんな反応をするのだろう。
二年間も紫苑の親友である芽衣にひどい態度をとっていたんだ。怒られるのは当然だろう。
そう思ったら、言うのを躊躇してしまうずるい自分がいた。
「ごめんね、急に話しかけて。じゃあね」
そう立ち去ろうとする紫苑に「待って」と声をかけて止めた。
「どうしたの?」
「いや……」
無意識に止めてしまったため、話すことなんて何も考えていなかった。
口籠る俺に首を傾げながらも、紫苑はその場に立ち止まって俺に視線を向けてくれる。
「……元気か?」
自分でもそれは無いだろうと言いたくなる話題に、紫苑が噴き出した。