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馬車から降りると、目の前にそびえ立つ大きなお城に圧倒された。

馬車を出迎えたお城の人に案内されていったイケメン2人と別れ、梨沙は城の前の石畳を歩く。

(このお城…、見覚えがある)

石造りのメルヘンチックな白亜の美しい佇まい。目の醒めるような青色の屋根。西にある大きな塔。

ロマネスク様式の外観はまるでおとぎ話の絵本に出てくるお城そのもの。

この夢、もしかして……。

ある予感に胸を高鳴らせていると、城の中からパタパタと走り寄ってくる人影。

「リサ! やっと見つけたわ!」

身長は梨沙と同じか少し高いくらい。

鈴を転がすような声とはこういう声かと納得してしまうほど、澄んだ美声で名前を呼ばれた。

ふわふわにカールした綺麗なブロンドの髪を靡かせ、大輪のバラを思わせる濃いピンク色のドレスを着た美しい女性は、梨沙を見つけぷくっと頬を膨らませている。

ドレス姿の女性に名前を呼ばれたことに驚いていると、急にぎゅっと抱きつかれてさらに戸惑いが大きくなった。

「え、え……?!」
「きのうの話、私は納得していないわ! 絶対出ていくなんてダメなんだから!」

何がなんだかわからないけど、梨沙はある疑問を解消しようと、抱きついてきた美少女に呼びかけてみた。

「あ、あの……シルヴィア姫?」

梨沙の首に腕を回していた彼女は、その呼びかけ方がよほど可笑しかったのか、クスクスと笑いながら顔を見合わせた。

「やだ、リサ。何を改まった呼び方をしているの?」
「や、あの……」
「私はあなたが出ていくなんて嫌。リサは私の侍女で友達で家族よ。姫だなんて呼ばないで」

―――――予感は的中した。

彼女はシルヴィア姫。梨沙が大好きな絵本『私だけの王子様』に出てくるお姫様。

(きっとこの夢は、眠る直前まで読んでいた絵本の世界なんだ……)

このお城も絵本に出てきた。きっとこの石畳を下った先には、清く澄んだ小さな川に掛かる眼鏡のような形をした橋があるに違いない。

「ねぇリサ、私とってもいいことを思いついたのよ!」
「いいこと?」

聞き返しつつ、梨沙はこのあと彼女が何を言い出すのかを知っている。自分にとんでもない提案をしてくるだろうとわかっている。

だって今、自分は『日比谷 梨沙』ではない。

シルヴィア=レスピナード様の侍女、リサ=レスピリアなんだから。