僕らに明日があるなら

夢を見る。
毎日、天使が私を迎えにくる夢。
真っ暗な空間に私が居て、突然、天井が光る。
そして、天使が舞い降りてくる。
とても、綺麗なんだ。
真っ白で大きな翼に純白のローブに身を包んだ天使。
「迎えに来た」
天使が手をのばして、私の手を掴んで引き上げようとする。
でも、私は拒んで、手を離す。
「まだ、行きたくない」
すると、天使は諦める。
「また、来る」
と言って、光に吸い込まれるように消える。
私はまだ、生きないといけない。
後、もう少しだけ。
お願いだから、まだ、連れて行かないで。
真っ暗な空間で願った。
「綾」
私を呼ぶ声がして、目が覚める。
「大丈夫か?」
お兄ちゃんが私の顔を覗き込んでいた。
「汗、ひどいな」
「大丈夫だよ。ちょっと、夢でうなされちゃって」
「怖いか?」
「怖くないけど、寂しいなって思うよ」
私の余命は、一年。
三年前、病気が見つかって、治療してたけど、もう、治らないと、この春に余命宣告を受けた。
退院し、薬を飲んで、痛みを抑えることにした。
体が動くのは、半年。
だから、後、一年、青春を謳歌するって決めた。
「そろそろ、着替えないと、学校、遅刻するからな。
準備しろよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
お兄ちゃん、心配して、見に来てくれたんだ。
あと、どれくらい、こうやっていられるんだろうと思う。
出来るだけ、長く、ここに居たい。
体が動かなくなったら、また、入院になって、そのまま、最期を迎えるから。
私は高校の制服に着替えて、髪を整え、鞄を持って、一階に降りる。
「おはよう」
「おはよう、綾。朝ご飯はスクランブルエッグよ。
皆が迎えに来る前に食べちゃいなさい」
「はーい」
「母さん、行ってきます」
お兄ちゃんがリビングのドアから顔を出した。
大学に行くところだろう。
「いってらっしゃい」
「綾も気をつけてな」
「お兄ちゃんも」
お兄ちゃんは笑って、ドアを閉めた。
そのまま、行ったのかと思ったら、お兄ちゃんが戻って来た。
「綾、皆が来た」
「分かった」
「これ、お弁当、二個あるから、授業の前とかに食べなさい。後、薬。飲み忘れないでね」
「うん、ありがとう。行ってきます」
私は鞄を持って、外に出た。
『綾、おはよう』
出迎えてくれたのは、幼馴染の和貴、洸、奏斗、潤。
最近、学校に行く時、迎えに来てくれるんだ。
「遅い」
「朝ご飯、食べようとしてたから」
「もしかして、食べ損ねた?」
「うん。でも、お弁当、二つあるから、学校着いたら、一個食べる」
「おかず、何、入ってるの?」
「あっ、弁当、忘れた」
「購買だな」
「皆、電車の時間あるんだから、歩くペース考えろよ」
皆に病気がもう、治らなくて、余命一年だということは言ってないし、絶対に伝えない。
この日々が壊れてしまうのが怖いから。
今、この時が終わらないでほしい。
そう願わない日は無い。