狂ったように鳴り続けるアラームの音で目が覚めた。



 スマホをタップし、目をこすながら体を起こす。目の前にあるのは私の部屋。眠る前とまったく変わらない、整然とした空間がそこにある。

 だけど今日は、いつもと違う朝だった。

 夜十一時に寝て、そこから意識がなくなって。次に認識したのが今のスマホのアラームだった。

 今夜は、夢を見なかった。

 何年かぶりの、夢を見ない夜。

 なにもない、ただ真っ暗な安らぎだけが存在している、穏やかな夜……。

 両手を前に伸ばして、指先まで血液を循環させる。

 体が軽い。今夜はぐっすり眠れたみたい。

 これが寝るってことなんだな、と、思う。

 しばらくぼんやりして、ようやく立ち上がって鏡の前に座った。目元を確認すると、相変わらず目の下にはクマがあって、不健康そうな私が私を見返していた。

 長年の寝不足だったから、体質はすぐには変わらないのかもしれない。それだけは残念だった。

 相変わらずのひどい顔に、いつものように目の下をマッサージしながらため息をつく。

 そうしながら、ふと要くんのことを思い出した。

 ……要くん、ファンデをしていても私のクマに気づいてたな。

 要くんは観察眼が鋭くて、なんでも気づいてしまう。演技もだし、演技とかと関係なくても、人の変化に気づきやすい。

 でもたぶん、クラスの子たちは私のクマに気づいていなくて。体育で吐きそうになったときみたいに、よっぽど顔色が悪くないとわからない。

 世の中にはいろんな人がいるな、と思う。

 私のすっぴんを見たらきっと、心配する人がいて。

 でも、きっと気づきもしない人もいる。

 こういう顔の人なのかな、と思って気にも留めない人もいる。反対に、ブサイク、気持ち悪い、なんて思って敬遠する人もいるかもしれない。

 顔が好みじゃないだけで一緒のグループに入れるのを拒否してしまう、そんな人もいるかもしれない。

「……全員に、好かれなくてもいいんだよね」

 鏡の中の自分に伝えた。

 みんな、違う。

 趣味も。好みも。性格も。

 まったく同じ人なんて、この世にいない。

 だから私は、みんなに寄り添いながら生きていく。

 それと同時に、自分を守りながら生きていく。

 本当は、出会う人みんなに好かれたいたいけど。それはとても難しいことだから。私はできる範囲で、できることをしながら生きていく。

 誰よりも私は、私を好きでいたいから。

 ……そうだよね。

 きっと、それで、いいんだよね。