ある男が車を運転していると、トランクから音が聞こえてきた。彼が車を停めてトランクを開けると、人間の右手首が入っていた。すぐに男はそれが本物の手ではないことに気づいた。手は木製であり、手首の関節部分にフックが付いていた。
 翌日、男はこの手を警察に提出した。そして昨日起きたことを話し、車を調べてもらった。警察によればトランクをこじ開けられた痕跡はなく、車とその手首からは男の指紋しか検出されなかった。
 一週間後、またしても運転中にあの音がトランクから聞こえてきた。トランクを開けると、入っていたのは木製の人間の左足首だった。関節の部分には、やはりフックが付いていた。それから、何日かおきに似た様なことが起こるようになった。日によって前腕、大腿、上腕、脛部などが入っており、それらは全て木製でありフックが付いていた。また、同じ部位が二回以上入ってることはなかった。
 誰が何のためにこんなことをしているのか。
 男は何度もその『手』や『足』を警察に持って行ったが、何もわからなかった。警察は男をまともに相手にしなくなったばかりか、男の自作自演だと疑っているようだった。
 その日も男は車を運転していた。トランクから音がするので駐車して調べると、木製の人間の胴体が入ってるのを発見した。その胴体は肩と脚の関節部分にフックが付いていたが、首の部分にはフックはなかった。これまでに『頭部』以外の部位がトランクから見つかっていた。そしてその日以降、トランクから妙な音がすることも、その中に何かが入っていることもなくなった。その後、警察から連絡があり、捜査を終了するので今まで男が提出した作り物の人体を返却したいとのことだった。
 警察から連絡を受けた男は、それらを自宅に持って帰った。作り物の人体はダンボール箱の中で、一つ一つ別の袋に入れられていた。それを見た男は人体を組み立てることにした。組み立て終えた後、男は人体を自宅の物置にしまった。
 それからしばらくたったある夜、寝ていた男は急に目を覚ました。あの木製の人体が自分の首を掴んでいるのが目に入った。男は人体を突き飛ばした。人体は音を立てて床に転がったが、バラバラになることはなかった。男は紐で人体を縛った。そしてそれを車のトランクに入れて、自宅から離れたとある山に車を走らせた。男が山中の道路を車で通っていると、トランクが急に開いた。男は車を停めることもなく、笑いながらそのまま走り去っていった。
 男が去った後、その道路を通っていた大型トラックが急に停まった。トラックを降りた運転手は、トラックの数メートル先で倒れている木製の人体に走り寄った。運転手はしばしそれを見つめた後乱暴に掴み、罵りながら道路脇の林に放り投げると、トラックに戻った。林の中で人体は倒れたままだった。
 数か月後の強風が吹いた日に、林にサッカーボールが一つ転がってきた。ボールは倒れた木製の人体の首にくっつき、人体が頭部を手に入れたように見えた。人体にくっついたサッカーボールは回り続けた。強風が止んでも回り続けた。