静穂はカクッとなって、はっと目を覚ました。
「では、今日の授業を終わります」
教壇に立つ男性教授がお辞儀をして教室を出て行く。
やば! また寝ちゃった!
隣を見ると、江山沙彩が笑いながら静穂を見ていた。
「花帆、今日も寝てたね」
静穂はうなずく。十二歳のときに双子の姉である花帆になりかわってから八年。花帆と呼ばれても違和感はなかった。
「先生の声が心地よすぎるのが悪いのよ」
「人のせいにするにもほどがある」
静穂はえへへ、と笑いを返した。
「それより沙彩、お昼にいこ! 席がなくなっちゃう」
二人は机の上を片付け、カフェテラスに向かった。
この大学には二つの食堂と二つのカフェテラスがある。中でも大きなガラス張りのカフェが二人のお気に入りだった。
すでに人でにぎわうカフェの中、トレイに本日のランチを載せ、なんとか窓際の席を確保して座る。
季節の花が咲く中庭を眺め、静穂はため息とともに呟いた。
「あやかし学、いっつも眠くなるのよね」
「でもこれからは必要だよ。瑞穂之国と国交正常化するらしいじゃんね」
十年前、富士山麓の洞窟に、突如としてあやかしの国である瑞穂之国との回廊がつながった。
観光化どころか調査もされていない洞窟だった。当時から立入禁止だったそこを、日本政府は厳重に囲い、立入禁止を徹底した。
回廊が開通した原因は不明だった。
あやかしは龍や鬼、、天狗など、日本では霊獣、妖怪とされているものたちだった。敵対することもあれば味方となることもある。
回廊の存在が発表された当時、日本は混乱した。今までは一時的に回廊がつながることはあっても稀で、自力で行き来ができるのは強力なあやかしに限られていた。ゆえに幻の存在とされてきた。
回廊が常時つながっていては人とあやかしの往来により、どのようなトラブルが発生するかわからない。
それを防ぐため、不可侵条約が結ばれた。