「さ!入って入って~!靴はテキトーに置いちゃっていいから~!」
俺の家から二駅離れた場所に新たに建てられ、噂になっていたちょっとした庭付きの豪邸。それが茉莉花の家だった。
「お茶と炭酸とジュース~……お兄ちゃんどれ飲む?」
「なんでもいいよ、苦手なのないし」
「じゃあこれね~」
イモウトが投げてきた炭酸飲料のペットボトル2本をとっさに受け止める。
リビングのソファーの方に駆けて行ったので付いていくと、イモウトはクッションやらなんやらをテーブルの側に雑に並べた。
「ほい!座って座って~!」
「……どうも」
イモウトはクッションに腰を下ろすと、大量の週末課題を取り出した。
今日は、「初キョーダイ日」という名の勉強会だ。茉莉花曰く、
「ずっっと憧れだったの!上の兄弟に勉強教わるの!ただの勉強会だと思わないで頂戴な!」
――らしい。定期テストも近いし、丁度いいのかもしれないな。
「お前、勉強できるのか?」
「できるような頭をしてると思うのかい?」
「思わないな」
「あれぇ!?」
こうして、キョーダイ二人での勉強会が始まった。
「お兄ちゃん、ここわかんない」
「ここはこの表現が大事だからそこをピンポイントで見比べて……」
「なるほど!」
そんな会話を繰り返す。広大な豪邸に響く壁時計の針の音、ペンの走る音、消しカスを手で払う音、そして、呼吸をする二人の吐息。
流石に何時間もぶっ通しでやっていると喉が渇いてきた。テーブルの上をまさぐってペットボトルのキャップに触れた、と思われた俺の手は――イモウトの手に触れていた。正確には、キャップに触れたイモウトの手に俺の手が重なっていた。
「あ……すまん、間違えたか」
「ん?全然大丈夫!」
両手を添えて炭酸飲料をイモウトが飲んでいく。
「うわ!久しぶりの炭酸が喉に来たぁ~!」
「ガキかよ」
思わず笑ってしまった。イモウトが自分が手に持っているペットボトルをじっと見つめだす。
「ん?どうした?」
すると――
「はい!喉渇いたなら飲むでしょ?」
なんとついさっきまで自分が口を付けていたペットボトルをこちらに差し出してきた。
「え……」
「飲まないの?」
「いや、そうじゃなくて……俺自分のあるし」
「いいじゃないの。キョーダイぽくって。"飲み回し"」
「……」
正直に言うと、飲み回しは自分の兄弟ともしたことがなかった。――俺は差し出されたペットボトルを受けとり、一口飲んだ。炭酸が喉の奥をチクチクと刺してきた。心なしか、体の表面がほんのり熱かった気がした。
「良い飲みっぷりじゃない!それに免じてお菓子を持ってきてあげよう!」
イモウトが立ち上がって台所へと歩こうと動き出した。だが――
「「あっ!」」
長い時間座りっぱなしで足が痺れたのか、よろけてテーブルに足をぶつけてしまった。筆箱などが落ち、蓋を開けたままにしていた炭酸飲料が床にこぼれてしまった。
「ご、ごめん!服濡れちゃったりとかしてない!?」
「気にするな、これくらい」
「でも……」
こぼれた炭酸飲料を拭き終えたりしてからも、イモウトの目が涙ぐんでいた。俺は反射的に慰めようとして、イモウトの頭をそっと撫でてみた。
「それ……」
「ん?」
「それ……もっとやってほしい」
おねだりに押され、その後の数分間、俺はイモウトの頭を撫で続けた。
「えへへ~……」
ほころんだ笑みを見せるイモウト表情をみて、俺は全て許せてしまったのである。
俺の家から二駅離れた場所に新たに建てられ、噂になっていたちょっとした庭付きの豪邸。それが茉莉花の家だった。
「お茶と炭酸とジュース~……お兄ちゃんどれ飲む?」
「なんでもいいよ、苦手なのないし」
「じゃあこれね~」
イモウトが投げてきた炭酸飲料のペットボトル2本をとっさに受け止める。
リビングのソファーの方に駆けて行ったので付いていくと、イモウトはクッションやらなんやらをテーブルの側に雑に並べた。
「ほい!座って座って~!」
「……どうも」
イモウトはクッションに腰を下ろすと、大量の週末課題を取り出した。
今日は、「初キョーダイ日」という名の勉強会だ。茉莉花曰く、
「ずっっと憧れだったの!上の兄弟に勉強教わるの!ただの勉強会だと思わないで頂戴な!」
――らしい。定期テストも近いし、丁度いいのかもしれないな。
「お前、勉強できるのか?」
「できるような頭をしてると思うのかい?」
「思わないな」
「あれぇ!?」
こうして、キョーダイ二人での勉強会が始まった。
「お兄ちゃん、ここわかんない」
「ここはこの表現が大事だからそこをピンポイントで見比べて……」
「なるほど!」
そんな会話を繰り返す。広大な豪邸に響く壁時計の針の音、ペンの走る音、消しカスを手で払う音、そして、呼吸をする二人の吐息。
流石に何時間もぶっ通しでやっていると喉が渇いてきた。テーブルの上をまさぐってペットボトルのキャップに触れた、と思われた俺の手は――イモウトの手に触れていた。正確には、キャップに触れたイモウトの手に俺の手が重なっていた。
「あ……すまん、間違えたか」
「ん?全然大丈夫!」
両手を添えて炭酸飲料をイモウトが飲んでいく。
「うわ!久しぶりの炭酸が喉に来たぁ~!」
「ガキかよ」
思わず笑ってしまった。イモウトが自分が手に持っているペットボトルをじっと見つめだす。
「ん?どうした?」
すると――
「はい!喉渇いたなら飲むでしょ?」
なんとついさっきまで自分が口を付けていたペットボトルをこちらに差し出してきた。
「え……」
「飲まないの?」
「いや、そうじゃなくて……俺自分のあるし」
「いいじゃないの。キョーダイぽくって。"飲み回し"」
「……」
正直に言うと、飲み回しは自分の兄弟ともしたことがなかった。――俺は差し出されたペットボトルを受けとり、一口飲んだ。炭酸が喉の奥をチクチクと刺してきた。心なしか、体の表面がほんのり熱かった気がした。
「良い飲みっぷりじゃない!それに免じてお菓子を持ってきてあげよう!」
イモウトが立ち上がって台所へと歩こうと動き出した。だが――
「「あっ!」」
長い時間座りっぱなしで足が痺れたのか、よろけてテーブルに足をぶつけてしまった。筆箱などが落ち、蓋を開けたままにしていた炭酸飲料が床にこぼれてしまった。
「ご、ごめん!服濡れちゃったりとかしてない!?」
「気にするな、これくらい」
「でも……」
こぼれた炭酸飲料を拭き終えたりしてからも、イモウトの目が涙ぐんでいた。俺は反射的に慰めようとして、イモウトの頭をそっと撫でてみた。
「それ……」
「ん?」
「それ……もっとやってほしい」
おねだりに押され、その後の数分間、俺はイモウトの頭を撫で続けた。
「えへへ~……」
ほころんだ笑みを見せるイモウト表情をみて、俺は全て許せてしまったのである。