――転校して初めて教室に入った時、知ってる匂いがした気がしたんだ。
 自己紹介をした時、最初に目についた男の子は、気だるげな目をしてた。ず~っと毎日同じで、つまんなーいって表情をしてた。
 ――だから、わざわざ話しかけた。「同類」なら、って。

「ねぇ、君。あたしのお兄ちゃんになってよ」

 家に帰って、誰もいないリビングの明かりをつける。手を洗って、拭いて、冷蔵庫の中のタッパーを取り出す。
「……一人で食べるご飯なんて、味しないから、食べても意味ないんだけどな」
 それでもお腹は空くから、レンチンした冷凍ご飯をタッパーのおかずと一緒に頂く。
「いただきます。……やっぱり、一人じゃ味、しないな」

 食べ終えた食器達を片付けて、自分の部屋に入る。部屋着に着替えて、ベッドに飛び乗る。
**やっほー!元気してる~?茉莉花だよ!これからよろしくねー!**
「これでよし!」
 颯汰のラインのプロフィール画面を見て、返事を待つ。背景は河川敷で撮った空なのかな?凄い綺麗。アイコン猫だ。今度猫の画像でもあげようか。名前、加賀美にしてるんだ。『そーた』に変えておこう。
 そんなことを考えていたら、いつの間にか部屋の壁時計が7時半を指していた。
「あ、返事来た!」
**返事は明日。またあの河川敷で。**
 即座に指を動かして返信する。
**了解!!!**
 ポンッ!と音が鳴ったかと思ったら、可愛い猫のスタンプだった。
「可愛いかよ!?」
 思わずスクショを撮ってしまう。
「返事、楽しみだなあ……」
 
 お風呂に入って、もこもこのパジャマを着て、寝る準備をして、布団に入る。
 断られたらどうしよう。気まずくなっちゃうかな?そんな不安とかはなかった。通学鞄のキーホルダーをそっと触る。
「……おやすみ、"そーた"」
 その夜は、懐かしい夢を見た。