セットしてない俺の髪を揺らす春風。ガタガタの道路の端を駆けていく小学生達。枯れかけた桜の花びらが木から落ちていく。
「ねぇ君。私のお兄ちゃんになってよ」
「――は?」
沈みかけていく夕日に照らされる河川敷で、そいつは俺にそう言った。
「聖 茉莉花漢字です!父親の都合で転校してきました!よろしくお願いします!」
時の流れに身を任せるがまま迎えてしまった高校二年の春。それも終わりに差し掛かった頃、俺のクラスに転校生が来た。赤茶色の艶のある髪を高めのポニーテールに束ねた、大きな二重をした女だった。通学カバンには、桜の押し花をいれたキーホルダーをつけていた。
俺と目が合うと転校生は、にこりと微笑んで指定された席へと歩いていった。
昼休み。転校生は席の周りをクラスの奴らに囲まれていた。好奇心に満ちた質問が飛び交う中、どの質問にも丁寧に全て拾って答える神対応に、身の回りにいる女子より優れた外見。そのせいなのか、他クラスからも見物客が押し寄せていた。
「颯汰!お前、話しかけねーの?あの子」
「青葉。……別に?一生話す機会がないってわけでもないだろ」
「ッかー!つまんね~やつだな!」
青葉こと瀬戸青葉は、俺が小学生の頃から常に一緒に行動している親友だ。運動神経が良く、勉強もそれなりにでき、おまけに性格も良い。非の打ち所がない。とは、こいつを指すのだろう。
「うるさい。放っとけ」
放課後。いつもは青葉と徒歩で帰っているのだが、今日は青葉が委員会らしいので一人で帰ることにした。
「さて、帰るか」
下駄箱を閉めながら呟くと――
「君。ちょっと待って」
聞き覚えのある声に引き留められた。振り向くと真後ろに転校生がいた。
「……なんか用?」
面倒だ。用があるならさっさと済ませて帰らせてもらおう。
「君、わたしと同じでしょ」
「……同じ?――って、おい!何すんだよ!」
次の瞬間、俺は転校生に手を引かれて走り出していた。……逃げられそうになかった。
学校の近くにある河川敷に連れ出されたところでようやく俺の手は解放された。
「――ったく。いきなりなんなんだよ…」
転校生はニヤリと笑った。
「君とあたしは、同類ってことさ」
「……同類?」
「そ!」
転校生は夕日を背にして佇んだ。
「ねぇ君。あたしのお兄ちゃんになってよ」
「――は?」
しばらくの間沈黙が流れる。
「……なんで?」
「実はあたし一人っ子でさ!ず~~~っと甘えられるお兄ちゃんがほしかったんだよね!で、朝君と目が合ったとき、同類だ。って思ったの!言わば、契約上の義兄妹ってわけ!」
興奮気味にプレゼンをしてくる転校生の目は、らんらんと輝いていた。
「あたし、昔から勘だけは冴えてるの!……あれ?もしかして、違った?(汗)」
たんたんと得意気に話していた転校生の表情が、段々と不安げに曇っていく。元々、喜怒哀楽が激しい人間なのかもしれないな。
「――少し、時間をもらえないか?」
……心当たりが、無いわけではなかった。
「いいよ!」
転校生の顔が明るさを取り戻す。
「じゃあさ、ラインだけは交換しよ?返事はそれで言ってくれて構わないからさ」
「わかった」
スマホを見せ合い、連絡先を交換する。辺りはすっかり、暗くなってきていた。
「そういや君、名前は?」
「……颯汰。颯にさんずいのついた太郎の太」
「そっか!よろしくね!颯汰お兄ちゃん!また明日~!!」
「おう」
久し振りにどっと疲れた気がした。嵐のようだったな。と、俺は溜め息を一つついた。
「――さて、今度こそ帰るか」
少し生ぬるい風が、俺の頬を撫でた。俺はガタガタの道路の端を、駆けていった。
「ねぇ君。私のお兄ちゃんになってよ」
「――は?」
沈みかけていく夕日に照らされる河川敷で、そいつは俺にそう言った。
「聖 茉莉花漢字です!父親の都合で転校してきました!よろしくお願いします!」
時の流れに身を任せるがまま迎えてしまった高校二年の春。それも終わりに差し掛かった頃、俺のクラスに転校生が来た。赤茶色の艶のある髪を高めのポニーテールに束ねた、大きな二重をした女だった。通学カバンには、桜の押し花をいれたキーホルダーをつけていた。
俺と目が合うと転校生は、にこりと微笑んで指定された席へと歩いていった。
昼休み。転校生は席の周りをクラスの奴らに囲まれていた。好奇心に満ちた質問が飛び交う中、どの質問にも丁寧に全て拾って答える神対応に、身の回りにいる女子より優れた外見。そのせいなのか、他クラスからも見物客が押し寄せていた。
「颯汰!お前、話しかけねーの?あの子」
「青葉。……別に?一生話す機会がないってわけでもないだろ」
「ッかー!つまんね~やつだな!」
青葉こと瀬戸青葉は、俺が小学生の頃から常に一緒に行動している親友だ。運動神経が良く、勉強もそれなりにでき、おまけに性格も良い。非の打ち所がない。とは、こいつを指すのだろう。
「うるさい。放っとけ」
放課後。いつもは青葉と徒歩で帰っているのだが、今日は青葉が委員会らしいので一人で帰ることにした。
「さて、帰るか」
下駄箱を閉めながら呟くと――
「君。ちょっと待って」
聞き覚えのある声に引き留められた。振り向くと真後ろに転校生がいた。
「……なんか用?」
面倒だ。用があるならさっさと済ませて帰らせてもらおう。
「君、わたしと同じでしょ」
「……同じ?――って、おい!何すんだよ!」
次の瞬間、俺は転校生に手を引かれて走り出していた。……逃げられそうになかった。
学校の近くにある河川敷に連れ出されたところでようやく俺の手は解放された。
「――ったく。いきなりなんなんだよ…」
転校生はニヤリと笑った。
「君とあたしは、同類ってことさ」
「……同類?」
「そ!」
転校生は夕日を背にして佇んだ。
「ねぇ君。あたしのお兄ちゃんになってよ」
「――は?」
しばらくの間沈黙が流れる。
「……なんで?」
「実はあたし一人っ子でさ!ず~~~っと甘えられるお兄ちゃんがほしかったんだよね!で、朝君と目が合ったとき、同類だ。って思ったの!言わば、契約上の義兄妹ってわけ!」
興奮気味にプレゼンをしてくる転校生の目は、らんらんと輝いていた。
「あたし、昔から勘だけは冴えてるの!……あれ?もしかして、違った?(汗)」
たんたんと得意気に話していた転校生の表情が、段々と不安げに曇っていく。元々、喜怒哀楽が激しい人間なのかもしれないな。
「――少し、時間をもらえないか?」
……心当たりが、無いわけではなかった。
「いいよ!」
転校生の顔が明るさを取り戻す。
「じゃあさ、ラインだけは交換しよ?返事はそれで言ってくれて構わないからさ」
「わかった」
スマホを見せ合い、連絡先を交換する。辺りはすっかり、暗くなってきていた。
「そういや君、名前は?」
「……颯汰。颯にさんずいのついた太郎の太」
「そっか!よろしくね!颯汰お兄ちゃん!また明日~!!」
「おう」
久し振りにどっと疲れた気がした。嵐のようだったな。と、俺は溜め息を一つついた。
「――さて、今度こそ帰るか」
少し生ぬるい風が、俺の頬を撫でた。俺はガタガタの道路の端を、駆けていった。