「ホームルームはこれで終わりです!!みなさん、規則正しく良い夏休みを過ごしてくださいねー!」
前期の終業式が終わって、夏休みシーズンがやってくる。クラスの人達は夏休みに何をするか、どこに行くか、という話題でクラスは賑わっていた。
私は誰と話すこともなくいつも通り、駅まで歩きホームの椅子に座った。
夏休みは40日ほどあるが、宿題もあるからゆっくりすることはできないし、外は暑いのでなにか予定がない限り出かけることもないだろう。
夏休みは先に宿題をやって残りの休みを楽しむタイプで、8月の1週目くらいまでは宿題に専念したい。
毎年夏休みと冬休みでいとこの家に行っていて、冬休みは受験が長引くといけない可能性もあったので、夏休みだけリフレッシュがてら車で行くことになった。
ただ、部活もやっていないし、受験勉強をしなければいけないので比較的ずっと家にいる。とは言っても、夏休みはついだらけてしまう。
宿題をやろうとしても、やる気力が起きずスマホを手に持って、ベッドの上に寝転がり、気づくとお昼はとうに過ぎてしまうことも、今までの例を見てると明らかだ。
たまに、お母さんからお使いを頼まれる時もあり、部屋着のまま近くのコンビニかスーパーまで買いに行った。お使いに行くと同時に毎回アイスを買って、エコバッグを片手に食べながら帰るのはひそかな楽しみだった。
毎年お母さんのお姉ちゃんの家に2人で行っている。いとこの家に行くにはいくつか県をまたぐため、高速道路を使い途中のサービスエリアで軽食を買ってから向かうのがいつものルーティーンになっている。
今回は、メロンパンとベーコンエピを買って車の中で食べることにした。
そして、お昼すぎに着いた。お母さんはサービスエリアで休憩はしたもののずっと運転をしっぱなしだったので、着いたとたんにすぐにソファで寝てしまうのだ。
いつも3日間過ごし最終日の夜ご飯は全員で外食をするのが決まりで、今回もどこに行くのかとても楽しみにしていた。
2日目は、車で少し走ったところにあるフラワーガーデンに行った。冬のうちしか咲かないお花や、温室では夏のお花、自分の身長よりはるかに高い木にも小さな白いお花が咲いていた。
(桜以外はじっくりと見たことなかったから、なんかいいかも)
初めて行ったところだったけど、お花をじっくり眺める機会はなかったのでとても新鮮だった。
家に帰ってからはみんなでゲームをして、あっという間に楽しい時間は過ぎ、1番楽しみにしていた3日目の夜ご飯はイタリアンの食べ放題のお店に行った。小さめのピザや半人前より少ないパスタ、デザートもとても美味しかった。
そして、いとこの家を出たのは20時頃だった。一度戻ってから荷物を車に積んで出発した。帰るときは玄関の前に立って笑顔で私たちに手を振ってくれて、私もそれに返すように車の窓を開けて大きく手を振り返した。見えなくなるまで後ろを向いて手を振ってからシートベルトをはめた。
高速道路は、黒い夜景に車の赤いランプどこまでも繋がっている景色がとても綺麗に目に映る。
夜は、ずっと同じ空で埋め尽くされているせいで、時間が進んでいる気がしない。
明るいときなら空は青からオレンジ色に変わって、次の日に向かって進んで行く気がする。するとすぐに、夜がやってきて今日が終わってしまうのを暗示している。
この日のために、お母さんは有給を使って時間を空けておいてくれた。どこかに出かけたり、車の中で話したり、この時間は何にも変えがたい時間だった。お母さんも同じことを思っていてくれているんだろう。休みなしで働いて疲れているはずなのに、私の話を丁寧に聞いてくれた。
家に着いた頃には、22時はとうに過ぎていてお母さんにも先にお風呂に入るように言われた。お風呂は、いつもより温かくもっと入っていたかったけどお母さんも入るし明日も仕事だろうから早めに上がることにした。
8月にはいると、夏休みが終わるスピードは異常に早くなる気がする。
いとこの家から帰ってきて数日後、あの神社に向かった。長い休みも終わってしまうという実感が湧いてきて、毎日が休みだった幸せも終わってしまうと思うと悲しくなってくる。
しかし、夏休みの終わりを前にしてビッグイベントが待っていた。
私の家の近くで毎年開催される夏祭りだ。
学校の人はいないし、近所の人や子どもたちが楽しむためのお祭りだった。神社に続く道から境内に続く道では屋台が出店していて、食べ物を食べ、射的などのゲームをすることもできる。
この前、蒼生と会ったときに夏祭りのことも話していた。
『この前、駅前の掲示板に今年の夏まつりのチラシが貼ってあって、一緒に行こうよ』
スマホで撮った夏祭りの広告を見せながら言う。
『毎年恒例!桜台夏祭り 8月15日開催』という広告がスマホの画面に表示されている。
『行くの?』
『まぁ、もし行かないって蒼生が言っても頑張って説得するから』
『いや、写真撮って欲しいから、夏祭り行くよ』
『カメラもっていかないとね!しっかり充電しておくから、任せて!』
『うん、期待してる』
『あ、あとさ、浴衣で来てね!蒼生の浴衣姿見てみたいなー』
『うーん、家にあったかな……。あったとしても結構前だからはいらないかも。まぁ一応お母さんには聞いてみるけど』
『ほんと?ありがとう!』