あとがき

 私がこのコンテストに応募した理由は、この過ごした青春を忘れたくないと思ったからです。

 これは、自分がカメラというものと向き合い、一歩踏み出して初めて目に見えるものとなって残ってくれたものです。

 やはり、写真のすごさというものは音声がなくても、動きがなくても、その写真を見るだけであの時の気落ち、表情、声を鮮明によみがえさせてくれることが、ほかにはない写真のすごさだと思っています。

 同じ瞬間は二度と訪れない。

 これは私が強くみなさんに感じていただきたいことです。

 私は高校3年生の時に、今までの自分からは想像することができないくらいに眩しい青春がありました。その出来事を、ただただ思い出を残したくて、自分が幻の中にいたのではなくちゃんと存在して生きていたんだと、そう思わせるような自分への記憶のあてでもあります。

 人間はいつか忘れてしまいます。いつか死んでしまいます。

 この人生という与えられた時間の中で一度しか体験できないものが、写真によって自分の意志でよみがえり、永遠になります。

 皆さんにはこの写真集を見て、一瞬一瞬に経験したことは何十年経っても色褪せることのない思い出として、何度でも思い出すことができるということを伝えたかったんです。

 それと、ページにメッセージが付いているものとそうでないものがあります。

 メッセージがついていないものは、写真を見てあなた自身の特別な思い出を想起させるような、そんな能動的に思い出すための、いわば道具というような使い方をするもよし、この写真の風景を見て思いを馳せるもよし。そこから、その景色を見に行く、そんなきっかけに使ってほしいです。

 そして、皆さんのそれぞれの解釈で見てほしい。書かれているメッセージに縛られずに見てほしい、そんな願いもあります。

 それと、写真についている一言は私が撮るときに思ったことや、私自身の思い出の瞬間ですので、読んでも読まなくてもお好きなほうを選んでいただけたら幸いです。

 最後に、私がこの写真集につけた『ゆるし色の栞』というタイトルについてですが、前提としてまず、栞には何かを止めておく役割があります。

 その前までは読んでいて、また途中から読み始めることができる、そんな便利な道具です。

 私は、栞のような写真集にしたかった。どこから見ても、途中で見るのをやめてしまっても、またそこから見直すことができる。今までのページを見なくても思い出すことのできるそんな写真集にしたいと、この作品を作っているときに思っていました。

 この作品を読んでくださった皆さんに、自分が過ごしたかけがえのない過去を忘れてほしくないという思いがこの作品には込められています。

 私もいつかは少しずつあの時何を話したのか、どんな表情をしていたのか、細かいことを少しずつ忘れていってしまいます。誰しも100%すべてのことを覚えていることは不可能です。

 なので、何度見ても思い出せるように、あの時の感覚を、声のトーンも、笑い声も泣き声も、いつか忘れてしまっても、この青春の続きからまた思い出してほしいそんな私の我儘でもあります。

内田 茜