数週間後、店頭に並び始めたという報告とともに完成したものが送られてきた。
帯には、『プロカメラマン蓮見健吾 大絶賛!「撮り手の表情が見える不思議な体験でした」』と書かれていた。
「私の写真がみんなに見てもらえるんだ」
やっと自分が一から始めて結果が出せたことが一番嬉しかった。
今まで何も挑戦しないで周りのことや自分自身から逃げ続けてきたけどようやく向き合って前に進むことができた気がした。
次の日、手元に届いた写真集を持ってある場所に向かった。
インターホンを押すとなじみのある声が聞こえた。
「こんにちは」
「あら、茜さんいらっしゃい」
あの頃より少し元気そうな表情をしていた。
「あなたが茜さんですか?」
すると奥から1人の男性が出てきた。
「こんにちは」
「蒼生の父です。どうぞ中に入ってください」
靴をそろえた後、リビングに案内された。お茶と和菓子を蒼生のお母さんが持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ茜さんに来てくださって嬉しいわ。せっかく来てくれたところ申し訳ないのだけれど、茜さんが来てくださったっていうことは蒼生について何かわかったからなのかしら?」
「はい、先日手紙を読みました。今まで蒼生が思っていたことが書かれてありました。以前私が傘を貸したときに傘が濡れていなかった理由もわかりました」
「なんて書いてあったのかしら」
クリスマスの時のことが書かれた部分を蒼生の両親に見せた。
「そういうことだったのね。確かにあの時、右手で傘を持っていたけどびしょ濡れだったわ」
「そんなことがあったのか」
2人とも目元にティッシュをあてていた。
「もう1つ伝えたいことがあるんです」
「何でしょう」
「コンテストで大賞を取ることができました」
「まぁ、ほんと?それは嬉しいわ」
「すごいですね」
「それで今日はこれを渡ししたくて」
カバンの中から届いた製本を取り出し蒼生の両親の前に置いた。
「これは」
「私がコンテストで大賞を受賞した作品の製本です。一番にお見せしたかったんです」
まず蒼生のお母さんが手に取り、ハードカバーの表紙を開いた。
「Model By 蒼生……」
1枚1枚丁寧にページをめくっていた。蒼生のお父さんもそれをのぞき込むようにして見ていた。
私は静かに2人が読み終わるのを待っていた。部屋にはページをめくる音と秒針が刻む音だけが響いていた。
そして、本を閉じるときには2人とも涙を流していた。
「蒼生との思い出をこんな素敵なものにしてくれてありがとう」
「一生の思い出よ。茜さん、ありがとう」
「私が写真を好きになったのも蒼生がいたからです。あの時あの場所で出会えていなかったら、私の人生はもっとつまらないものになっていました。全部蒼生からもらった宝物です」
「蒼生にもこんな素敵な友達ができていたなんて知らなかった。茜さんが蒼生の傍にいてくれてから蒼生は毎日楽しそうだった」
「えぇ、本当ね。感謝してもしきれないわ」
「最後にもう1つお願いがあるのですが」
「何でも言ってみて」
「蒼生のお墓参りに行きたいんです」
「茜さんが行ってくれるなら蒼生も喜んでくれると思うわ」
「でも、無理はしてほしくないですから、茜さんが行きたいと思ったときに行ってください」
「お墓の場所は今書きますね」
「ありがとうございます」
住所がもらった紙を受け取り、今日は帰ることにした。