大学4年生の夏休み。
「……あぁ、暑い」
家を出て電車で2時間。
駅を出てすぐの大通りを横目に、人気のない細い道を5分ほど歩いたところにある。
坂道を上っている途中、頭の上からは太陽がジリジリと照りつけ、汗が首から背中のくぼみをつたって落ちていくのを感じた。しかもそれが服に染み込んでとても気持ち悪い。
両脇には竹林が広がり、まっすぐ吹き抜ける風は涼しかったが、抜けてからは真上から容赦なく照りつける日差しが痛い。
「こんなに暑いなら、お母さんの日傘を借りてくればよかった……」
来る時間が早かったせいか、すれ違う人はおらず長く続く坂道に1人だった。
こんなに良い天気なのに、少し寂しい。
夏休みに入ってからは、暑い中どうも外に出る気にはなれず毎日家にひきこもっていた。
それでも、今日ばかりは外に出なくてはいけなかった。
久しぶりに外に出た身体は、まだ8月の暑さについていかなかったが、気持ちだけはまっすぐと前を向いている。
坂道を上りきった時、汗でまとわりついた服も気にならないくらいの開放感があった。リュックに入っていたスマホを取りだして時間を見ると、すでに9時半を回っていた。
自分にしては結構歩いた、得意げにそう思いながら目的地に近づき、しゃがんでそっと手を合わせ話しかけた。
「……遅くなっちゃってごめんね」
そして、心の中でも謝った。