「茉優! あたし彼氏できた!」

 怜南に報告を受けたのは、夏休みが明けた日のことだった。

「ええ!? おめでとう! 宗像(むねかた)くんだよね?」

 声のトーンを下げて確認すると、怜南は大きく何度も頷いた。
 宗像くんは、怜南が前々から気になると言っていた同じクラスの男の子だ。明るくて外見が派手だから学年全体で見てもかなり目立っている。怜南いわくめちゃめちゃモテるらしい。
 さらに彼は、同じクラスのミカちゃんとナナミちゃんという、これまた派手で可愛い女の子たちと仲がいい。
 だから怜南は自信がないと弱音を吐いていたけれど、いつからか宗像くんがよく話しかけてくれるようになって距離が縮まり、連絡を取ったりたまに遊ぶようになっていた。

「実は一昨日ふたりで遊んで、つき合ってほしいって言われちゃいましたー! ほんとはすぐ報告したかったんだけど、茉優には絶対に直接言いたいなと思って!」
「そっかあ。本当におめでとう。初彼だよね?」
「うん! 実は、告られるまですっごい不安だったんだあ。……ムネは茉優が好きなのかなって思ってたから。茉優可愛いし」
「なに言ってるの? そんなわけないじゃん」
「自覚ないところが罪なんだよ茉優は。あーでもよかった! ほんっと嬉しい! 幸せ!」

 可愛いなあと思う。同時に、ほんのりと寂しさも覚えた。毎日のように私と一緒にいてくれたけれど、これからはそうもいかないだろう。ちょっとだけ複雑な心地になりながらも、幸せそうに笑っている怜南を見ていると嬉しさの方が断然(まさ)った。

 予想通り、怜南は昼休みや放課後を宗像くんと過ごすことが増えた。宗像くんと予定が合わない日や休み時間は私といてくれたけれど、今までみたいにたわいもない話で笑い合うことはほぼなくなり、宗像くんの話が大半を占めるようになった。
 もちろん聞いてあげたい。だけど、なかなかついていけないというのが本音でもあった。
 私は恋愛経験がゼロだ。彼氏どころか好きな人ができたことすら一度もない。だからどんどん怜南の話についていけなくなっていった。怜南も怜南で、恋バナにまるで乗ってこない私に戸惑っているようだった。