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 買い物から帰ると、茉優がソファーで眠っていた。夜はあまり眠れていないのだから、日中眠くなるのは当然だろう。
 すやすやと寝息を立てている茉優を見ていたら、ふいにあくびがこぼれた。わたしも眠気が限界に近づいている。少し横になろうかと思ったとき、茉優が寝返りを打った。その拍子にTシャツの袖から二の腕が覗いた瞬間、思わず息を呑んだ。
 日中はまだ暑いというのに、茉優はずっと薄手のパーカーを羽織っている。気になっていたが訊くことはしなかった。なんとなく察していたからだ。
 その推測が、たった今確信に変わった。

 ──茉優が、クラスの子を刺そうとしたの。

 何度でも考える。
 本当にそうだったのだろうか、と。

 学年集会の最中だったため、現場にいたのは当事者だけ。しかも未遂で終わっている。だからといって許されることではないが、客観的に見れば、刺そうとしたことが事実か否かは誰にもわからないのだ。
 カッターを握っていた、茉優本人にしか。

 どちらにしろ、わたしが知りたいのはただひとつ。
 茉優の身になにが起きたのか、だ。

 茉優がこの家に来てから過ごした数日間で、この子を信じたいという思いがより強くなっている。これもまた叔母の欲目かもしれないが、茉優がちょっと口論になったくらいで友達を刺そうとするとは思えないのだ。
 そんな願望の域を出なかった気持ちをあと押ししてくれたのは朔の様子だった。

 つい昨日わかったことだが、例の男子生徒とは朔だった。
 姉にあの日の話を聞いた直後から、朔が右手に包帯を巻いていることは気になっていた。とはいえ偶然がすぎるし、まさかな、と思っていたが〈喫茶かぜはや〉で顔を合わせたふたりの様子を見て確信した。ふたりがおつかいへ行った隙に敦志に確認すると、やはりそうだった。
 朔は怪我を負ってからしばらくコップを持つことさえできなかった。ケーキなど作れるはずもない。
 それほどの大怪我をさせられたというのに、朔の態度はとても茉優を恨んでいるように見えない。むしろ好意さえ感じる。

 だからこそ、思う。
 もしも、刺そうとしたのが事実だとしたら。
 そうせざるを得ないほどのなにかが茉優の身に起きていたのかもしれない、と。
 考えてすぐに、ひとつの可能性にたどり着いていた。

「おかえり」

 薄く目を開けた茉優が呟いて、わたしははっと我に返る。
 ただいま、と返すよりも先に、茉優は再び目を閉じた。
ほとんど寝言みたいなものだろう。なんだか幼い頃の茉優を思い出してしまい、ふ、と笑いがこぼれた。

 ──しばらく、うちで預かろうか。

 たかが一週間やそこらで状況が好転するわけでも、なにかが解決するわけでも、茉優の傷が癒えるわけでもない。わかってはいたが、たとえ束の間でも現実から目を背けられる時間を与えてあげたかった。
 寝室からタオルケットを持ってきて茉優にかけ、布越しにそっと茉優の肩を撫でた。

 この子の心の傷は、いったいどれほど深く刻まれているのだろう。