(それにしても、あやかし王がご執心になるのもわかるくらい綺麗な子だな)

 扶久は人間を初めて見た。噂に聞いていた通り、あやかしにそっくりだ。

 でも、あやかしでもこんなに美しい女性は見たことがない。

(でも、着物はまるで切り裂かれたかのようにボロボロだ)

 何かあったのだろう。何もなければ、そもそもあやかしの国に来ることなんてできないか。

(私には、関係のないことだ)

 目の前に横たわる美しい人間に同情しそうになって、慌てて思考を変える。

 深入りしてはいけない。これは、仕事なのだから。

 体を丁寧に拭き、着替えさせ、そして髪の毛も拭いていく。

 それが終わったら、目覚めた後のことも考えて必要なものを準備しておく。

テキパキと仕事を終わらせ、部屋の外で待っていた煉魁に声を掛けた。

「それでは、わたくしはこれで」

「うん、また頼む」

一瞬、げっと思ったが、何も言わずに立ち去った。とりあえず、仕事は終わった。

扶久と入れ替わりで部屋に入った煉魁は、汚れも落ちてひと際輝くように綺麗になった琴禰に目を奪われた。

穏やかに眠り続ける琴禰の側に腰を下ろし、そっと頬をなでる。

(何か大変なことがあったのだろう。かわいそうに。これからは俺が守るからな)

 まるで誓いのような決断を自分に課す。

 愛おしい寝顔を見つめながら、それから何時間も側に居続けたのであった。