それから蒼空さんの後に続いて俺は岬から街へと戻った。
これから一体全体何をするのか予想すらつかないまま、ただ蒼空さんの半歩後ろを歩く。
「それでこれからどうするんですか?」
「そーだな。とりあえず……」
言葉と共に足を止めると彼は体の方向を変えた。
そして見上げた。
「ここに入ろうか」
彼の視線の先にあったのはカフェの看板。
そこには、『Étincelge(エタンセジュ)』という聞き覚えのある店名が書かれていた。
「いらっしゃいませー。って蓮じゃん」
自動ドアを通った俺らを出迎えたのは、カフェの制服姿の夏希だった。その姿を見た瞬間、店先で感じた微かな引っ掛かりは彼女のバイト先だったからだと腑に落ちた。ということは確かここって随分と昔からあるカフェだったはず。
「お疲れ」
「そりゃどうも。ってあれ? アンタって兄貴いたっけ?」
夏希は隣の蒼空さんを一度見てから俺の方へ少し丸くした双眸と共に顔を戻しては疑問を口にした。
「この人は兄貴じゃなくて――」
「初めまして。蓮君の友人の鯨臥蒼空です」
俺の言葉を喰いながら蒼空さんはあの微笑みを浮かべ、爽やかに自己紹介をした。どうやら彼の中で俺は友人らしい。俺の中では……。
「どうも。蓮のクラスメイトの黒沢夏希です」
俺は正直、カフェの入り口で何をしてるんだと思いながらそのやり取りを見ていた。他にお客さんが来なかったからいいものの。
「とりあえず二名で」
「はい。二名様ですね。かしこまりました。――それではお席の方へご案内させて頂きますのでこちらへどうぞ」
これ以上の会話を防ぐ為の一言に夏希はわざとらしく友達から店員へと変わった。
そんな彼女に案内されたのは窓際のソファ席。向かい合って座った俺らはそのまま飲み物を注文し、蒼空さんは夏希のおすすめだというケーキも注文した。
夏希が店員としてテーブルを離れると蒼空さんは脱いだコートを隣に置き視線を窓外の通りへ向ける。それに釣られ俺も顔を外へ。
相変わらずいい天気の空の下、歩道を往来する様々な服装の人々。
「今日も綺麗な青空だね」
「そーですね」
「でもみんなは手元の青に夢中みたい。青以外にもか」
確かに行交う殆どの人が手元のスマホに視線を落としてる。前を向いている人もいるけど空を見上げてる人は一人もいない。
「ネットの中の蛙、膨大な情報を得る。されど空の深さを知らず」
突然、聞き覚えのあるが少し違う事を言い始めた彼は最後の言葉を口から旅立たせるとこっちへ顔を向けた。微笑んでいるのかドヤ顔をしてるのか、そんな表情を浮かべている。
「どう? ネットにばかりのめり込んでそこには情報が膨大にあるけど実際の空の青さを知ることは出来ない。正確には実際に見て感じれないっていう意味での知らないね。どう? ちょっと上手くない?」
「どうって言われても。まぁ、俺はいいと思いますけど」
そんなありきたりな感想を聞いた蒼空さんは嬉しそうな笑みを浮かべると再び窓外へと顔を向けた。
「みんなもっと空を見上げればいいのに」
そして独り言のようにぼそりと呟いた。
その姿を見ながら俺はふと思ったことがあった。
「蒼空さんってもしかしてスマホ持ってないんですか?」
まさかとは思ったけど、何だかこの人ならあり得るかもしれないと思うところもあったから。
俺の質問に忙しなくまたもやこっちを向く蒼空さんの顔。
「いや、持ってるよ」
その言葉より遅れて手はスマホを取り出した。しかも某機種の最新バージョン。
「といってもそんなには使わないけどね。あっ、そうだ。折角だし連絡先交換しない?」
正直、俺はどう答えるか迷った。
今の俺にとって彼は、どこか信頼や安心できるような雰囲気を漂わせているがそれ以上に言動がおかしい人。まだ完全には心を許しているわけじゃない。でもここで断るのは何だか申し訳ない気がする。それは今まさに俺の返事を待つ彼の真っすぐな瞳による部分も大きいんだろう。
一体どうしたものか。
これから一体全体何をするのか予想すらつかないまま、ただ蒼空さんの半歩後ろを歩く。
「それでこれからどうするんですか?」
「そーだな。とりあえず……」
言葉と共に足を止めると彼は体の方向を変えた。
そして見上げた。
「ここに入ろうか」
彼の視線の先にあったのはカフェの看板。
そこには、『Étincelge(エタンセジュ)』という聞き覚えのある店名が書かれていた。
「いらっしゃいませー。って蓮じゃん」
自動ドアを通った俺らを出迎えたのは、カフェの制服姿の夏希だった。その姿を見た瞬間、店先で感じた微かな引っ掛かりは彼女のバイト先だったからだと腑に落ちた。ということは確かここって随分と昔からあるカフェだったはず。
「お疲れ」
「そりゃどうも。ってあれ? アンタって兄貴いたっけ?」
夏希は隣の蒼空さんを一度見てから俺の方へ少し丸くした双眸と共に顔を戻しては疑問を口にした。
「この人は兄貴じゃなくて――」
「初めまして。蓮君の友人の鯨臥蒼空です」
俺の言葉を喰いながら蒼空さんはあの微笑みを浮かべ、爽やかに自己紹介をした。どうやら彼の中で俺は友人らしい。俺の中では……。
「どうも。蓮のクラスメイトの黒沢夏希です」
俺は正直、カフェの入り口で何をしてるんだと思いながらそのやり取りを見ていた。他にお客さんが来なかったからいいものの。
「とりあえず二名で」
「はい。二名様ですね。かしこまりました。――それではお席の方へご案内させて頂きますのでこちらへどうぞ」
これ以上の会話を防ぐ為の一言に夏希はわざとらしく友達から店員へと変わった。
そんな彼女に案内されたのは窓際のソファ席。向かい合って座った俺らはそのまま飲み物を注文し、蒼空さんは夏希のおすすめだというケーキも注文した。
夏希が店員としてテーブルを離れると蒼空さんは脱いだコートを隣に置き視線を窓外の通りへ向ける。それに釣られ俺も顔を外へ。
相変わらずいい天気の空の下、歩道を往来する様々な服装の人々。
「今日も綺麗な青空だね」
「そーですね」
「でもみんなは手元の青に夢中みたい。青以外にもか」
確かに行交う殆どの人が手元のスマホに視線を落としてる。前を向いている人もいるけど空を見上げてる人は一人もいない。
「ネットの中の蛙、膨大な情報を得る。されど空の深さを知らず」
突然、聞き覚えのあるが少し違う事を言い始めた彼は最後の言葉を口から旅立たせるとこっちへ顔を向けた。微笑んでいるのかドヤ顔をしてるのか、そんな表情を浮かべている。
「どう? ネットにばかりのめり込んでそこには情報が膨大にあるけど実際の空の青さを知ることは出来ない。正確には実際に見て感じれないっていう意味での知らないね。どう? ちょっと上手くない?」
「どうって言われても。まぁ、俺はいいと思いますけど」
そんなありきたりな感想を聞いた蒼空さんは嬉しそうな笑みを浮かべると再び窓外へと顔を向けた。
「みんなもっと空を見上げればいいのに」
そして独り言のようにぼそりと呟いた。
その姿を見ながら俺はふと思ったことがあった。
「蒼空さんってもしかしてスマホ持ってないんですか?」
まさかとは思ったけど、何だかこの人ならあり得るかもしれないと思うところもあったから。
俺の質問に忙しなくまたもやこっちを向く蒼空さんの顔。
「いや、持ってるよ」
その言葉より遅れて手はスマホを取り出した。しかも某機種の最新バージョン。
「といってもそんなには使わないけどね。あっ、そうだ。折角だし連絡先交換しない?」
正直、俺はどう答えるか迷った。
今の俺にとって彼は、どこか信頼や安心できるような雰囲気を漂わせているがそれ以上に言動がおかしい人。まだ完全には心を許しているわけじゃない。でもここで断るのは何だか申し訳ない気がする。それは今まさに俺の返事を待つ彼の真っすぐな瞳による部分も大きいんだろう。
一体どうしたものか。