「――とりあえず、急にごめんね。それと昨日も急にどっか行っちゃってごめん」
わざわざこうやって連絡してきて会ってる訳だから昨日は逃げた訳じゃなさそう。もしくは敢えてこうすることで信頼を取り戻そうとでもしてるのだろうか。
でもそんな事はどうだっていい。
「それはいいです。でもみんなの夢を元に戻してください」
「君は誤解してるよ」
真っ先に本題へと入った俺だったが、蒼空さんは緩慢と首を横に振った。
「本当にそれは僕じゃない。夏希ちゃんとはたまたま会ってなんてことない話をしてただけだし、バッティングセンターにもただ打ちに行っただけなんだ。だってほら、僕ホームラン打ったし。それが忘れられなくてね。もちろん彼とはちょっとぐらい話はしたけどそんな事はしてないよ」
「じゃあ誰が?」
正直、そういわれてはいそうですかと思える訳もなかった。
でも取り合えずはその言い分を聞いてあげようなんて具合に俺は更に質問を投げつける。
「それは分からないけど――知ってる」
矛盾するその発言に俺は心の中で首を傾げた。
「大丈夫。ちゃんと説明するから」
口を噤んだことでそれを察したのか蒼空さんは透かさずそう言った。
「お待たせしましたぁ」
するとそのタイミングで俺のレモンティーが到着し目の前に湯気の出るカップが置かれた。
俺が店員さんへ軽く頭を下げている間に蒼空さんは横に置いてあったコートのポケットを探り始める。
そして店員さんがテーブルを離れるとあの小瓶を自分カップの傍に置いた。
「まぁ、これの説明は今更いらないと思うけど、どうしてこれを集めてたか覚えてるよね?」
「鯨の餌ですよね?」
「そう。夢の欠片、これを夢鯨は食べる。つまりこれは夢鯨の為のモノなんだ」
「はぁ。何が言いたいんですか?」
当たり前の事をそんな重要そうに言われても困る。実際、俺はつい気の抜けた返事をしてしまった。だからなんだ、と思いながら。
「じゃあもしこれを人間が食べたらどうなると思う?」
そもそも食べられるのか? という疑問はあったがそう言うという事は食べられるんだろう。だからそれを訊き返す事は止め、俺はそのまま質問について頭を働かせた。
「――でも元々人間の中にあった訳だから、別に何ともならないんじゃないですか? もしくはその分の希望とか情熱が得られてやる気が増すとか?」
「まぁどちらかと言えば後者が近いかな。でも正確には、これを口にしたら一時的に多幸感を感じるんだ。人が夢を語る時って楽しそうでしょ? その時みたいな心地好さを感じるだ」
確かにみんな楽しそうに(人によっては少し恥ずかしそうに)夢を語っていた。
「もっと簡単に言えば薬物みたいな物だね」
「薬物?」
物騒な言葉が出てきた、そう俺は身構えるように眉を顰めた。
「でもそれがどう関係あるんですか?」
「これを一度口にしてしまえばまた欲しくなる。その欲に呑まれもう一度口にすれば更に欲するようになる。そして最終的にはこんな欠片じゃ我慢できなくなるんだ」
「そうなったら欠片じゃなくて夢そのモノを食べようとする?」
蒼空さんは一度頷いた。
ということはそうなった誰かがいるってこと? でももしそうならさっきの矛盾していた言葉の意味は分かる。
「それを僕達は夢喰いって呼んでるんだ」
「じゃあその夢喰いがみんなの夢を食べたって言うんですか?」
「そう」
正直、その言葉を潔く受け入れる事は出来ず、俺は疑心を抱いていた。
だけどそれは最初からそうだ。夢結晶や欠片、空を泳ぐ夢鯨。彼の口にする言葉は突拍子もないものばかり。
でもどうしてだろうか。最初の頃より信じることが出来ないのは……。いや、そんなのは分かり切っている。
「でもそれが誰なのかまでは分からない。昨日、蓮君からその話を聞いて急いでどうにかしようとしたけど結局、何も出来なくて……」
そう言うと蒼空さんは顔を俯かせ少し沈んだ表情を浮かべた。
「じゃあもうみんなの夢は戻らないんですか?」
「いや、まだ方法はある。夢鯨に夢の欠片をあげて空に夢結晶を流すんだ。それは人々に輝きを与える。燈火が消えたばかりの――忘れる前の今なら、またもう一度輝きを灯せればみんなそこに向かって歩み始めるかもしれない」
「なら――」
「だけど、」
一刻でも早く。そう言おうとした俺の声を遮り蒼空さんの言葉が続いた。
「その前に夢喰いを捕まえないと」
確かに蒼空さんの言う事も分からなくないけど、俺はそれよりみんなの方を先にどうにかしたかった。こうしてる今もその夢喰いという存在が誰かの夢を奪ってるかもしれない。それは分かるし先に被害が広がるのを止めないといけないのも分かる――。
すると俺の中でチクりと指すように疑心が生まれた。
本当に夢喰いなんて存在するのだろうか?
もしかしたらそういう体で協力者かなにかを捕まえてそのまま夢の欠片を集めるのを手伝わせようとしてるとか。だとしたらやっぱり目的は世界の終焉? でもやっぱり世界を終わらせたいと思う理由が分からない。いや、そもそも俺は蒼空さんについて良く知らないからそれも当然なのか。
そんな事を考えていると、ふと、今日学校で澪奈が話していたことを思い出した。星丘一夜と鯨臥蒼空。もしこの二人が同一人物なら納得は出来ないけど一応、理由は考えられる。
俺はゆっくりと口を開いた。
「あの――蒼空さんってもしかして星丘一夜なんですか?」
わざわざこうやって連絡してきて会ってる訳だから昨日は逃げた訳じゃなさそう。もしくは敢えてこうすることで信頼を取り戻そうとでもしてるのだろうか。
でもそんな事はどうだっていい。
「それはいいです。でもみんなの夢を元に戻してください」
「君は誤解してるよ」
真っ先に本題へと入った俺だったが、蒼空さんは緩慢と首を横に振った。
「本当にそれは僕じゃない。夏希ちゃんとはたまたま会ってなんてことない話をしてただけだし、バッティングセンターにもただ打ちに行っただけなんだ。だってほら、僕ホームラン打ったし。それが忘れられなくてね。もちろん彼とはちょっとぐらい話はしたけどそんな事はしてないよ」
「じゃあ誰が?」
正直、そういわれてはいそうですかと思える訳もなかった。
でも取り合えずはその言い分を聞いてあげようなんて具合に俺は更に質問を投げつける。
「それは分からないけど――知ってる」
矛盾するその発言に俺は心の中で首を傾げた。
「大丈夫。ちゃんと説明するから」
口を噤んだことでそれを察したのか蒼空さんは透かさずそう言った。
「お待たせしましたぁ」
するとそのタイミングで俺のレモンティーが到着し目の前に湯気の出るカップが置かれた。
俺が店員さんへ軽く頭を下げている間に蒼空さんは横に置いてあったコートのポケットを探り始める。
そして店員さんがテーブルを離れるとあの小瓶を自分カップの傍に置いた。
「まぁ、これの説明は今更いらないと思うけど、どうしてこれを集めてたか覚えてるよね?」
「鯨の餌ですよね?」
「そう。夢の欠片、これを夢鯨は食べる。つまりこれは夢鯨の為のモノなんだ」
「はぁ。何が言いたいんですか?」
当たり前の事をそんな重要そうに言われても困る。実際、俺はつい気の抜けた返事をしてしまった。だからなんだ、と思いながら。
「じゃあもしこれを人間が食べたらどうなると思う?」
そもそも食べられるのか? という疑問はあったがそう言うという事は食べられるんだろう。だからそれを訊き返す事は止め、俺はそのまま質問について頭を働かせた。
「――でも元々人間の中にあった訳だから、別に何ともならないんじゃないですか? もしくはその分の希望とか情熱が得られてやる気が増すとか?」
「まぁどちらかと言えば後者が近いかな。でも正確には、これを口にしたら一時的に多幸感を感じるんだ。人が夢を語る時って楽しそうでしょ? その時みたいな心地好さを感じるだ」
確かにみんな楽しそうに(人によっては少し恥ずかしそうに)夢を語っていた。
「もっと簡単に言えば薬物みたいな物だね」
「薬物?」
物騒な言葉が出てきた、そう俺は身構えるように眉を顰めた。
「でもそれがどう関係あるんですか?」
「これを一度口にしてしまえばまた欲しくなる。その欲に呑まれもう一度口にすれば更に欲するようになる。そして最終的にはこんな欠片じゃ我慢できなくなるんだ」
「そうなったら欠片じゃなくて夢そのモノを食べようとする?」
蒼空さんは一度頷いた。
ということはそうなった誰かがいるってこと? でももしそうならさっきの矛盾していた言葉の意味は分かる。
「それを僕達は夢喰いって呼んでるんだ」
「じゃあその夢喰いがみんなの夢を食べたって言うんですか?」
「そう」
正直、その言葉を潔く受け入れる事は出来ず、俺は疑心を抱いていた。
だけどそれは最初からそうだ。夢結晶や欠片、空を泳ぐ夢鯨。彼の口にする言葉は突拍子もないものばかり。
でもどうしてだろうか。最初の頃より信じることが出来ないのは……。いや、そんなのは分かり切っている。
「でもそれが誰なのかまでは分からない。昨日、蓮君からその話を聞いて急いでどうにかしようとしたけど結局、何も出来なくて……」
そう言うと蒼空さんは顔を俯かせ少し沈んだ表情を浮かべた。
「じゃあもうみんなの夢は戻らないんですか?」
「いや、まだ方法はある。夢鯨に夢の欠片をあげて空に夢結晶を流すんだ。それは人々に輝きを与える。燈火が消えたばかりの――忘れる前の今なら、またもう一度輝きを灯せればみんなそこに向かって歩み始めるかもしれない」
「なら――」
「だけど、」
一刻でも早く。そう言おうとした俺の声を遮り蒼空さんの言葉が続いた。
「その前に夢喰いを捕まえないと」
確かに蒼空さんの言う事も分からなくないけど、俺はそれよりみんなの方を先にどうにかしたかった。こうしてる今もその夢喰いという存在が誰かの夢を奪ってるかもしれない。それは分かるし先に被害が広がるのを止めないといけないのも分かる――。
すると俺の中でチクりと指すように疑心が生まれた。
本当に夢喰いなんて存在するのだろうか?
もしかしたらそういう体で協力者かなにかを捕まえてそのまま夢の欠片を集めるのを手伝わせようとしてるとか。だとしたらやっぱり目的は世界の終焉? でもやっぱり世界を終わらせたいと思う理由が分からない。いや、そもそも俺は蒼空さんについて良く知らないからそれも当然なのか。
そんな事を考えていると、ふと、今日学校で澪奈が話していたことを思い出した。星丘一夜と鯨臥蒼空。もしこの二人が同一人物なら納得は出来ないけど一応、理由は考えられる。
俺はゆっくりと口を開いた。
「あの――蒼空さんってもしかして星丘一夜なんですか?」