次の日の放課後。俺は蒼空さんとあの場所で会う約束をしていたがそれまでの余分な時間を街で適当に潰していた。

「(先に行って待ってようかな)」

 そんな消費しきれない余った時間を抱えたまま俺は人混みを歩いていた。
 すると行き交う人々の向こう側に見慣れた顔が。そこに居たのは夏希。彼女は立ち止まったまま楽しそうに誰かと話をしているようだった。

「(誰だろう?)」

 単なる興味本位の関心が彼女の相手に向くと、まるでそれを察したかのように人混みに隙間が開く。すると俺からその人まで一本の線を引ける道が出来た。それをなぞるように俺の視線はその人の姿を捉える。
 そこにいたは蒼空さんだった。夏希同様に笑みを浮かべ何かを話している。
 俺は今から会おうとしている彼の姿に近づこうと足を一歩踏み出したがその時。今度はまるで俺を阻むように大きな人波が前を通り蒼空さんの姿を隠した。その間、俺の前で人波と時間だけが進んでいく。
 そして(実際にはそこまで掛かってないと思うけど)俺にとっては長くも感じた時間が経過しやっと人波は消えたが――もうそこに蒼空さんの姿は無かった。

「おっ、蓮じゃーん」

 その姿をどうにか追おうと頻りに辺りを見回している俺の視線を夏希の声が一点に定めさせた。

「今さっき蒼空さんと会ったよ。あとでアンタと会うって言ってたけどこんな近くにいるなんてね」
「何話してたの?」
「ただの世間話ってやつ? 別になんてことない話。――そういえばさ。アタシ、アンタに謝らないといけないことあんだよね」

 夏希はそう言いながら決まり悪そうな表情を浮かべた。だけど俺には彼女に謝られるようなことは何一つ思い付かない。

「謝るって何を?」
「昨日アンタが折角、応援してるって言ってくれたのにさ。ちゃんと考えてみたらアタシ、何だか自信が無くなってきちゃって……」

 その予期せぬ言葉に俺は唖然とし立ち尽くしてしまった。声を出すこともできず数秒の間、頭が真っ白になってたかと思うと今度は彩られていき、ついさっき見た光景を思い出す。
 それは夏希と話す蒼空さんの姿。

「だからアンタには申し訳ないけど――」

 俺は夏希の言葉を遮り走り出していた。後ろから夏希の呼ぶ声が聞こえるが、俺の頭はあることで一杯だった。
 昨日まで夏希はこの前聞いた夢を抱いていたのに――なのに今はもうそれを手放している。そしてそんな彼女と会っていたのは蒼空さん。確か今日、学校で夏希が友達と話をしてるのを聞いたが(別に盗み聞きした訳じゃない。結果的にそうなったが俺は自分の席で寝てただけ。夏希達はそんな俺の前の席で話をしていた訳だから聞こえたのは不可抗力だ)、その時に海外ドラマの吹き替えとかをやる声優になりたいと言っていた。
 だから今日の学校終わるまで彼女は夢を持っていたことになる。となるとそれを失ったのは放課後。学校が終わってから夏希の動向を確認してた訳じゃないから誰と会ったのかは分からないけど確実な人が一人。