「とにかくもう僕のじゃないから――」
「元々お前のじゃねぇ」
「今は夏希の物だからそれは夏希に言ってよ」
これ以上は無駄だと思ったのか、莉玖は腕を解き夏希の方へ。
そして手を差し出した。
「そういうことだから。返せよ。それ」
「でもこれ代わりに貰ったやつだし」
「それはまた別であいつに買ってもらえばいいだろ」
実を言うと脚を組む夏希の莉玖を見上げる表情を見た時から俺には事の結末がある程度分かってしまってた。
夏希のそれは彼女が意地悪をする時に決まって浮かべる表情だったから。
「まぁ、確かにね。――分かったこれは返してあげる」
「さん――」
お礼を言いかけた莉玖の前で夏希は手早く蓋を開けると、透かさず飲み口を咥えて一口。ごくりと喉を通ると蓋を閉め、停止したような莉玖の手にペットボトルを乗せた。
「一口ぐらいはいいでしょ?」
夏希の言葉の後、餌に群がるように瑠依が透かさず莉玖のすぐ隣へ。
「良かったじゃん莉玖。それより喉渇いてたんでしょ? 早くそれ飲んだら?」
「あっ、ごっめーん。口付けて飲んじゃったけど、別にいいわよね?」
「もう何言ってんの夏希。たかが間接キスでそんな。しかも別に意識してる相手でもないんだし」
瑠依と夏希は少し似てる。人を揶揄うのが好きで、その恰好の的が莉玖。コイツには純粋なとこがあってちゃんと反応するし――言ってしまえば掌で転がしやすいタイプなんだろう。
だからこうやって二人に(夏希はたまにで瑠依はほぼ毎日何かしら)弄ばれてる。
でもまぁ、これも全部ちゃんとした関係性があるから成り立ってる訳で別にいじめられてるとかそういう訳じゃない。それにたまーに莉玖の仕返しが見れることもある。
「だよね。あれ? どうした莉玖?」
「おーい。飲む為にそれ買ったんじゃないの?」
「あぁー!」
叫声と共にペットボトルは宙を舞い、瑠依の頭へ莉玖の腕が抱えるように回った。所謂、ヘッドロックというやつだ。
「痛い痛い。痛いって!」
「うるせー! そもそもお前が持ち去ったのが悪ぃんだよ!」
「ちょっ! ごめんって。でもほら!」
瑠依は莉玖の腕を叩きながらプリントを掲げた。
「んだよ?」
「次の授業の宿題。どうせ莉玖もまだでしょ? 」
「確かにまだだけど?」
「一緒に写そーよ。折角、夏希から借りたんだから」
莉玖の視線が向くと夏希はその代わりだと言わんばかりにキャッチしていたペットボトルを軽く振って見せた。
「莉玖。前もやってないからやらないと怒られるよ?」
「――ったくしょーがねーな」
彼の中で天秤が大きく傾くと、莉玖は頭を解放しプリントを奪い取った。そして時計を一瞥し自分の席へと早足で向かい、その後を瑠依が追う。
俺はそれを見送ると視線を窓越しの空へと移した。
そして直ぐにぼーっと眺めながら眼前に広がるこの景色を、どうキャンパスに収めたらいい感じかを考えることに思考をシフトした。今日はそんな気分だった。
「れーん」
だがそこまで考える時間はなく、テンション同様低めな声が名前を呼んだ。声の方を見遣ると、ちょうど隣の席には眠そうな顔(多分コイツも寝てたな)の成瀬桃真が腰を下ろした。ジャケットの代わりにカーディガンを着て普段から眠そうな細目(今も変わらないと言えばそうだがやっぱりどこかいつより眠そう)、高い背と程よい体はモデル体型とでもいうのだろうか。
席に座った桃真は用件を口にする前に大きな欠伸をした。
それと同時に六限目開始のチャイムが鳴り響く。だけど次の授業の先生は毎回決まって遅れて来ることを知っているみんなは、席には着かず休み時間は延長に突入した。
「放課後カラオケいこーぜ」
「二人で?」
「今のとこは」
「はーい。あたしも行く」
すると少し低い声でそう言いながら桃真の前席に腰を下ろしたのは、分けられた前髪のショートヘアに耳で光るピアス、ジャケットの下にジップパーカーを着た相笠零奈。普段は低めの声をしてるけど歌う時は玉を転がすような歌声を響かせる。最初聞いた時は一驚に喫したのを今でも覚えてる。
「いいね。で、れんは?」
「んー。夏希、お前今日バイト?」
「いや。休み」
「じゃあ二人目だろ」
「何勝手に決めてんのよ。まぁ行くけど」
夏希の言葉を聞きながら桃真の向こうで必死にシャーペンを動かす二人へ視線を向け、聞こえるように大き目の声を出した。
「莉玖ー。瑠依ー。桃真が放課後カラオケ行くってよ」
俺の声に一瞬だけ手を止めた二人。
「オレ、行くー」
「僕もー」
順番に来た返事を聞いた後、桃真に視線を戻す。
「これで五人だな。俺はパス」
俺の言葉の後、ドアの開く音が聞こえ彰先生が入ってきた。ハーフアップの髪型が特徴の先生は生徒から人気があり、このクラスの担任でもある。ちなみに副担任は体育の明嵐伊吹先生。彼もまた人気があり、故にこのクラスは当たりと言われているらしい。
「はーい。席着けー。授業始めっぞー。五秒以内に着かない奴は遅刻な」
彰先生の声が響くとみんな素直に席へ戻り授業が始まった。
「元々お前のじゃねぇ」
「今は夏希の物だからそれは夏希に言ってよ」
これ以上は無駄だと思ったのか、莉玖は腕を解き夏希の方へ。
そして手を差し出した。
「そういうことだから。返せよ。それ」
「でもこれ代わりに貰ったやつだし」
「それはまた別であいつに買ってもらえばいいだろ」
実を言うと脚を組む夏希の莉玖を見上げる表情を見た時から俺には事の結末がある程度分かってしまってた。
夏希のそれは彼女が意地悪をする時に決まって浮かべる表情だったから。
「まぁ、確かにね。――分かったこれは返してあげる」
「さん――」
お礼を言いかけた莉玖の前で夏希は手早く蓋を開けると、透かさず飲み口を咥えて一口。ごくりと喉を通ると蓋を閉め、停止したような莉玖の手にペットボトルを乗せた。
「一口ぐらいはいいでしょ?」
夏希の言葉の後、餌に群がるように瑠依が透かさず莉玖のすぐ隣へ。
「良かったじゃん莉玖。それより喉渇いてたんでしょ? 早くそれ飲んだら?」
「あっ、ごっめーん。口付けて飲んじゃったけど、別にいいわよね?」
「もう何言ってんの夏希。たかが間接キスでそんな。しかも別に意識してる相手でもないんだし」
瑠依と夏希は少し似てる。人を揶揄うのが好きで、その恰好の的が莉玖。コイツには純粋なとこがあってちゃんと反応するし――言ってしまえば掌で転がしやすいタイプなんだろう。
だからこうやって二人に(夏希はたまにで瑠依はほぼ毎日何かしら)弄ばれてる。
でもまぁ、これも全部ちゃんとした関係性があるから成り立ってる訳で別にいじめられてるとかそういう訳じゃない。それにたまーに莉玖の仕返しが見れることもある。
「だよね。あれ? どうした莉玖?」
「おーい。飲む為にそれ買ったんじゃないの?」
「あぁー!」
叫声と共にペットボトルは宙を舞い、瑠依の頭へ莉玖の腕が抱えるように回った。所謂、ヘッドロックというやつだ。
「痛い痛い。痛いって!」
「うるせー! そもそもお前が持ち去ったのが悪ぃんだよ!」
「ちょっ! ごめんって。でもほら!」
瑠依は莉玖の腕を叩きながらプリントを掲げた。
「んだよ?」
「次の授業の宿題。どうせ莉玖もまだでしょ? 」
「確かにまだだけど?」
「一緒に写そーよ。折角、夏希から借りたんだから」
莉玖の視線が向くと夏希はその代わりだと言わんばかりにキャッチしていたペットボトルを軽く振って見せた。
「莉玖。前もやってないからやらないと怒られるよ?」
「――ったくしょーがねーな」
彼の中で天秤が大きく傾くと、莉玖は頭を解放しプリントを奪い取った。そして時計を一瞥し自分の席へと早足で向かい、その後を瑠依が追う。
俺はそれを見送ると視線を窓越しの空へと移した。
そして直ぐにぼーっと眺めながら眼前に広がるこの景色を、どうキャンパスに収めたらいい感じかを考えることに思考をシフトした。今日はそんな気分だった。
「れーん」
だがそこまで考える時間はなく、テンション同様低めな声が名前を呼んだ。声の方を見遣ると、ちょうど隣の席には眠そうな顔(多分コイツも寝てたな)の成瀬桃真が腰を下ろした。ジャケットの代わりにカーディガンを着て普段から眠そうな細目(今も変わらないと言えばそうだがやっぱりどこかいつより眠そう)、高い背と程よい体はモデル体型とでもいうのだろうか。
席に座った桃真は用件を口にする前に大きな欠伸をした。
それと同時に六限目開始のチャイムが鳴り響く。だけど次の授業の先生は毎回決まって遅れて来ることを知っているみんなは、席には着かず休み時間は延長に突入した。
「放課後カラオケいこーぜ」
「二人で?」
「今のとこは」
「はーい。あたしも行く」
すると少し低い声でそう言いながら桃真の前席に腰を下ろしたのは、分けられた前髪のショートヘアに耳で光るピアス、ジャケットの下にジップパーカーを着た相笠零奈。普段は低めの声をしてるけど歌う時は玉を転がすような歌声を響かせる。最初聞いた時は一驚に喫したのを今でも覚えてる。
「いいね。で、れんは?」
「んー。夏希、お前今日バイト?」
「いや。休み」
「じゃあ二人目だろ」
「何勝手に決めてんのよ。まぁ行くけど」
夏希の言葉を聞きながら桃真の向こうで必死にシャーペンを動かす二人へ視線を向け、聞こえるように大き目の声を出した。
「莉玖ー。瑠依ー。桃真が放課後カラオケ行くってよ」
俺の声に一瞬だけ手を止めた二人。
「オレ、行くー」
「僕もー」
順番に来た返事を聞いた後、桃真に視線を戻す。
「これで五人だな。俺はパス」
俺の言葉の後、ドアの開く音が聞こえ彰先生が入ってきた。ハーフアップの髪型が特徴の先生は生徒から人気があり、このクラスの担任でもある。ちなみに副担任は体育の明嵐伊吹先生。彼もまた人気があり、故にこのクラスは当たりと言われているらしい。
「はーい。席着けー。授業始めっぞー。五秒以内に着かない奴は遅刻な」
彰先生の声が響くとみんな素直に席へ戻り授業が始まった。