その銃声を最後にもうそれは終わったのか、二人は元の位置へと戻ってきた。

「オレは俳優になりてーな」
「ボクも。あとはモデルとかもやってみたいな」

 だからこの二人は映画とかドラマとかが好きなのか。それによく子どものごっこ遊びみたいな事をしてるのもこれが理由なのかもしれない、俺は普段の彼らの行動に一人納得していた。

「素敵な夢だね。じゃあ一番出てみたい映画は? ジャンルとかなら何がいい?」
「オレは断然アクションだな! 拳銃一つで押し寄せる敵を薙ぎ倒していく。もちろん接近戦でも流れるように」

 莉玖はそう語りながら瑠依に向け手の銃を撃ったり殴る動作をしたりした。それに瑠依も撃たれたり殴られたりとそれにやられた振りで合わせる。

「伝説の殺し屋とかスパイとかがたった一人で敵地に乗り込んで戦うとかそういうカッコイイやつがいいな」
「ボクはアクションもいいけど……。推理モノとかにも出てみたいな。――小さな矛盾も見逃さず、巧みな嘘を暴き、点と点を繋げ犯人を追い詰めていく」

 目を瞑り腕を組みながら顎に手を添え、緩慢な足取りで歩き始める瑠依。二歩、三歩、と進んだ足はそこで止まった。

「そして完璧な推理で真実を解き明かし犯人へ確実に罪を償わせる凄腕の名探偵」

 犯人という言葉と共に瑠依は莉玖を勢い良く指差した。それに対し莉玖は頭を抱える。

「あとは……」
「SFとか!」

 手を下げた瑠依が次を出すより先に隣に並んだ莉玖が続きを口にした。
 そしてバトンを受け取った瑠依が続く。

「タイムトラベル、宇宙、AIとかね」
「あとは恋愛モノもいいかも」
「巧みな駆け引きで揺さぶる小悪魔系」
「意地悪で強引だけどたまに優しさも見せるドS王子様」
「出るだけならホラーもいいかも」
「病院に学校に誰も近寄らない廃墟」
「殺人鬼、幽霊に得体の知れない何か」
「ゆっくりと振り向いたら……」

 莉玖のその声に瑠依が怯えながら振り向く。そして二人の目が合うと莉玖は両手を広げ「わっ!」と雑な脅かし方をした。

「わぁー。助けてぇ」

 それに対する瑠依の反応も雑だったが二人は楽しそうに笑い合った。

「お前らどんだけ好きなんだよ」

 語り出したら止まらない二人を見ていた俺は呆れたように言葉を零した。その声に向かい合い笑う二人の視線が同時に俺を見る。

「だって楽しいじゃん。普通に生きてたら絶対に見れない世界が味わえるんだしさ」
「そうそう。それに俳優になったら実際に役として体験できるんだぜ」
「つまりボク達が感じてるこの興奮をみんなにも味わってもらえるんだよ。感動も興奮も癒しも恋のときめきだって。しかもボク達の演技で」
「自分も楽しいし見てる人も楽しませることが出来る。――それって最高じゃん!(最高でしょ!)」

 重なり合った声と俺を見る二人の表情は、あの時の夏希と同じ様に真っすぐで煌びやかなものだった。
 その表情を見ていると何故かフラッシュバックするように思い出した昔の事。絵を描き上げた時や母さんに将来は絵を描く人になるなんて語っていたあの頃を。自分の事だから分からないけどもしかしたら俺もこんな良い顔をしていたのかもしれない。
 でももう、今の俺には関係ないただの記憶だ。

「だから高校卒業したらそういうのが学べるとこ行きたいんだよね」
「オレも。もしくは劇団に入ったりな」

 多分この二人は同じとこに行くんだろう、普段の二人を見ているとそれは容易に想像できた。とことん仲良いな。

「あぁー、こんな話してたらまた映画観たくなってきちゃった」
「じゃあアレ観に行こうぜ。ヴァンパイアブラッド」
「いいじゃーん。行こう行こう。――じゃあ僕達はまた映画観て来るから、明日学校でね、蓮。蒼空さんもさようならー」
「またなー蓮」

 俺と蒼空さんに一言ずつ声を掛け手を振った瑠依、そして俺に一言を蒼空さんには軽く頭を下げた莉玖は楽しそうに話しながら行ってしまった。
 二人が居なくなるとまるで嵐の後に訪れる静寂のような沈黙が駅前の喧噪に紛れ俺と蒼空さんだけを包み込む。
 その最中、俺は二人の後姿から蒼空さんへと顔を向けた。視線を感じたのか少し遅れて彼の顔が反応する。

「中々……楽しい子達だね。活力に満ち溢れてる」

 あの二人に少し気圧されたようにも聞こえたが蒼空さんの表情はむしろ感心しているようだった。

「まぁ確かにあの二人のテンションは普段から高めですけど……」

 さっきはそれと比べても高く、そして楽しそうだった。
 改めてそう思いながら俺はもう一度、既に人混みへ消えた二人に目を向けた。

「でも一気に二人分集まったのは嬉しいね」

 視界外から聞こえた蒼空さんの声に顔を戻すと、彼はあの小瓶を眺めていた。中では増えた小さな光が三つ灯っている。

「あっ、そーだ」

 するとその突然の声と共に蒼空さんの視線は小瓶から俺へ。何か名案でも思い付いたんだろうか。

「君の他の友達に会いに行こうよ。それでその子に夢を聞かせてもらう。――うん。いいね。よし! それでいこう」

 ポケットに小瓶を仕舞いながら彼は一人で再確認し、一人で納得した。

「さっ、君の友達に会いに行こうか。流石に呼ぶのは申し訳ないから会いにね」

 俺に選択肢は無いようだけど、別に断るつもりもない。

「まぁいいですけど……」

 だけど会いに行くと言ってもどこに行ったらいいのやら。あとは誰に会うかもか。今どこにいるかをLINEで訊く方が早いか? 
 色々とその場で少し考えてみた結果、アイツがよく居る場所を思い付いた。

「じゃあ、もしかしたら居るかもしれない場所に行きましょうか」
「おっけ」