「おはよー!」
「おはよ。」
朝、モナが待ち合わせ場所に着いたので業務開始だ。
お互い昨日と同じ服で歩き始める。
商店街のあたりをウロウロしていると、モナがさっと俺の後ろに隠れた。
「ん?仕事?」
「違うよ。そこに…お兄ちゃんが…。」
指を刺した方には、確かに若そうな男性が立っていた。こちらと同じ、なにを買うわけでもなくウロウロしている。
「仲悪いの?」
「お兄ちゃん…めんどくさいんだよなぁ。」
「逃げた方がいい感じ?」
「うん。」
「じゃ、逃げるか。なるべく気配消して歩こう。」
その時だった。モナが足元の落ちていた缶を踏む。そのまま滑ってビタン!と転んでしまった。
「いてて…。」
「あ、バレた。こっち見てるよ。」
「えっ…!?」
スタスタとこっちへ向かってくる。モナは「げっ…!」と呟きすぐに起き上がって逆方向へ歩き出した。
「やばいやばいやばい。目合っちゃった〜!」
「モナ〜!」
「ひいいいっ!」
随分陽気なお兄さんだなぁと思ってしまう。モナが視界に入った途端、非常に軽やかな足取りで追いかけてくる。なんて言うんだっけ、こういうの…あ、「手の舞い足の踏む所を知らず」だっけ。
とにかく、すっごい笑顔だなぁ。ダッシュでこっちに走ってくるんだけど。
「モナ!会いたかったぞ〜!」
案の定、モナはお兄さんに捕まり、そのまま熱いハグをお見舞いされた。
「仲良いね。」
「良くないっ!お兄ちゃん離れて!」
「なに言ってんだよモナ〜。…お前誰だ!?うちのモナに何をした!」
なんだかゲンと同じものを感じる。だが、ゲンなら送らないであろう、ギロッと冷たい視線にさらされた。
どう返すべきか少し考えて、一応名前と教育係であることを言っておく。
「大丈夫か?モナ。何か嫌なことがあったらいつでも言うんだぞ?いつ逃げてきてもいいからな?」
「はいはい。分かってるって。」
「おいお前!うちのモナに何かしたら…ただじゃおかねぇからな!」
多分その前に俺が倒してますよ〜と思ったけど、言わないでおいた。
お兄さんがご口舌垂れている隙に、チラリとモナの方を見る。目が合った。俺と目が合うなり、小さく首を振る。逃げたいんだろうなぁ。残念ながら俺も早くこの場を脱却したい。
どうやって逃げるかなぁ…。まあここだし普通に走っても人にぶつかるんだよな。いい感じに切り上げたいけど、どうしよう。
「あー仕事じゃなーい?行かないとー。」
激しく下手な芝居をモナが披露し始める。いや、これは信じないだろ…。
「そうなのかっ!?気をつけるんだよっ?」
信じた!?信じるんだ、あれ!やっば、全然わかんねぇ…。絶対この人の目、なんかフィルターでも入ってるだろ…。
「行かないとー。ねー?コウー。」
「はっ!?名前呼び…!?おいお前、あんまり親しくすんなよ?」
再び長話がスタートしてしまった。それはダメなんだ!?本当に全然分かんねぇ…。
もうここは実力行使に出るしかない。
「そうだな。仕事の時間だ。ってことなんで、また〜。」
本当の笑顔より得意かもしれない作り笑いを浮かべ、言うことは全て無視して裏道へ小走りで入った。
「…ここまで来れば大丈夫か。」
「ありがと〜!助かった〜!いつもならあのまま2時間は足止め食らうのに、ちょっとで終わっちゃったよ!」
抱きついてこようとするが、一応避けておいた。俺が肩に触ったのは無理だったのに、それは大丈夫なんだ…?
「ありがとっ!」
少しだけ、心が明るくなった気がした。
モナはシングルマザーの家庭だった。モナが歩けるように鳴った頃、離婚したらしい。だから、モナは父親のことは一切覚えていない。父が人間、母が『何か』だったため、モナとお兄さんは『何か』に育てられたと言ってもいい。モナに宝石はなかったが、お兄さんには宝石があった。
いつか兄が暴走したら…モナが握りつぶさなければならないのだ。
つくづく思う。俺、一人っ子で良かったなぁ。
「やあ二人とも!元気にしてるか〜い?」
「え…何そのキャラ…。」
「は!?これは、『ノリが良くて上司からも部下からも愛される、スーパー仕事できるイケメン上司』のキャラだよ!分かれって!」
「イケメン…?」
「スーパー仕事できる…?」
「おい!そこで引っかかるな!あとモナちゃんも加わらないで!?」
「なかなかいいじゃん。」
「ありがと。」
「そこでチームワーク発揮すんな!?」
なんとなく行く場所がなく、ここに来てみたが、来て正解だったかもしれない。美味しそうなコーヒーが入る瞬間に立ち会えた。
ゲンも何やらぶつぶつ呟きながら俺らの分も淹れてくれる。
「ところで…コウ…。さっきなんで避けちゃったの?モナのこと嫌いだった?
「あ〜。普通。」
「好きって言ってやんなよ〜。」
「え、だって普通だし…。」
「もう!後でキックお見舞いしてやるから!」
「はいはい。全部受け流すよ。」
「若者は血気盛んだなぁ…。」
のんびりとした昼下がり、あたたかいコーヒーで本格的に春がやってきたことを自覚した。
「そう言えば、今年は桜がまだ咲いてないですね。もう咲いてもいい頃なのに…。」
「確かにね〜。なんかバケモノが悪さしてるとか〜?」
「きゃーこわーい!」
「そんなやついねえだろ…。…で、今週の給料は?」
「あれ〜?渡さなかったっけ〜?」
「ん?」
精一杯の笑顔を披露すると、なぜかモナとゲンはカタカタ震えて青ざめ出した。そんなに怖かったかな…。
デスクの浅い引き出しから、俺とモナの分を取り出した。
「分かってんじゃん。」
「お前、将来絶対不良にはなるなよ…?絶対ボスになるから…。」
「わーい、やった〜!お母さんに送らないと〜。」
「自分で使わないんだ?」
「うん。いつも迷惑しかかけてないから、せめてもの償いで…。っていうか、そのためにこの職に就いたのもちょっとあるからね!」」
またピッと胸を張る。そして安定の誇らしげな顔。段々と癖が分かってきた。
なんて分析してしまう自分がちょっと悔しい。常に仕事。きっとこの年齢の普通のやつは、モナみたいな感じなんだろうな〜と考える。
まあ、この職に就いた理由は、同じだけど。
「おはよ。」
朝、モナが待ち合わせ場所に着いたので業務開始だ。
お互い昨日と同じ服で歩き始める。
商店街のあたりをウロウロしていると、モナがさっと俺の後ろに隠れた。
「ん?仕事?」
「違うよ。そこに…お兄ちゃんが…。」
指を刺した方には、確かに若そうな男性が立っていた。こちらと同じ、なにを買うわけでもなくウロウロしている。
「仲悪いの?」
「お兄ちゃん…めんどくさいんだよなぁ。」
「逃げた方がいい感じ?」
「うん。」
「じゃ、逃げるか。なるべく気配消して歩こう。」
その時だった。モナが足元の落ちていた缶を踏む。そのまま滑ってビタン!と転んでしまった。
「いてて…。」
「あ、バレた。こっち見てるよ。」
「えっ…!?」
スタスタとこっちへ向かってくる。モナは「げっ…!」と呟きすぐに起き上がって逆方向へ歩き出した。
「やばいやばいやばい。目合っちゃった〜!」
「モナ〜!」
「ひいいいっ!」
随分陽気なお兄さんだなぁと思ってしまう。モナが視界に入った途端、非常に軽やかな足取りで追いかけてくる。なんて言うんだっけ、こういうの…あ、「手の舞い足の踏む所を知らず」だっけ。
とにかく、すっごい笑顔だなぁ。ダッシュでこっちに走ってくるんだけど。
「モナ!会いたかったぞ〜!」
案の定、モナはお兄さんに捕まり、そのまま熱いハグをお見舞いされた。
「仲良いね。」
「良くないっ!お兄ちゃん離れて!」
「なに言ってんだよモナ〜。…お前誰だ!?うちのモナに何をした!」
なんだかゲンと同じものを感じる。だが、ゲンなら送らないであろう、ギロッと冷たい視線にさらされた。
どう返すべきか少し考えて、一応名前と教育係であることを言っておく。
「大丈夫か?モナ。何か嫌なことがあったらいつでも言うんだぞ?いつ逃げてきてもいいからな?」
「はいはい。分かってるって。」
「おいお前!うちのモナに何かしたら…ただじゃおかねぇからな!」
多分その前に俺が倒してますよ〜と思ったけど、言わないでおいた。
お兄さんがご口舌垂れている隙に、チラリとモナの方を見る。目が合った。俺と目が合うなり、小さく首を振る。逃げたいんだろうなぁ。残念ながら俺も早くこの場を脱却したい。
どうやって逃げるかなぁ…。まあここだし普通に走っても人にぶつかるんだよな。いい感じに切り上げたいけど、どうしよう。
「あー仕事じゃなーい?行かないとー。」
激しく下手な芝居をモナが披露し始める。いや、これは信じないだろ…。
「そうなのかっ!?気をつけるんだよっ?」
信じた!?信じるんだ、あれ!やっば、全然わかんねぇ…。絶対この人の目、なんかフィルターでも入ってるだろ…。
「行かないとー。ねー?コウー。」
「はっ!?名前呼び…!?おいお前、あんまり親しくすんなよ?」
再び長話がスタートしてしまった。それはダメなんだ!?本当に全然分かんねぇ…。
もうここは実力行使に出るしかない。
「そうだな。仕事の時間だ。ってことなんで、また〜。」
本当の笑顔より得意かもしれない作り笑いを浮かべ、言うことは全て無視して裏道へ小走りで入った。
「…ここまで来れば大丈夫か。」
「ありがと〜!助かった〜!いつもならあのまま2時間は足止め食らうのに、ちょっとで終わっちゃったよ!」
抱きついてこようとするが、一応避けておいた。俺が肩に触ったのは無理だったのに、それは大丈夫なんだ…?
「ありがとっ!」
少しだけ、心が明るくなった気がした。
モナはシングルマザーの家庭だった。モナが歩けるように鳴った頃、離婚したらしい。だから、モナは父親のことは一切覚えていない。父が人間、母が『何か』だったため、モナとお兄さんは『何か』に育てられたと言ってもいい。モナに宝石はなかったが、お兄さんには宝石があった。
いつか兄が暴走したら…モナが握りつぶさなければならないのだ。
つくづく思う。俺、一人っ子で良かったなぁ。
「やあ二人とも!元気にしてるか〜い?」
「え…何そのキャラ…。」
「は!?これは、『ノリが良くて上司からも部下からも愛される、スーパー仕事できるイケメン上司』のキャラだよ!分かれって!」
「イケメン…?」
「スーパー仕事できる…?」
「おい!そこで引っかかるな!あとモナちゃんも加わらないで!?」
「なかなかいいじゃん。」
「ありがと。」
「そこでチームワーク発揮すんな!?」
なんとなく行く場所がなく、ここに来てみたが、来て正解だったかもしれない。美味しそうなコーヒーが入る瞬間に立ち会えた。
ゲンも何やらぶつぶつ呟きながら俺らの分も淹れてくれる。
「ところで…コウ…。さっきなんで避けちゃったの?モナのこと嫌いだった?
「あ〜。普通。」
「好きって言ってやんなよ〜。」
「え、だって普通だし…。」
「もう!後でキックお見舞いしてやるから!」
「はいはい。全部受け流すよ。」
「若者は血気盛んだなぁ…。」
のんびりとした昼下がり、あたたかいコーヒーで本格的に春がやってきたことを自覚した。
「そう言えば、今年は桜がまだ咲いてないですね。もう咲いてもいい頃なのに…。」
「確かにね〜。なんかバケモノが悪さしてるとか〜?」
「きゃーこわーい!」
「そんなやついねえだろ…。…で、今週の給料は?」
「あれ〜?渡さなかったっけ〜?」
「ん?」
精一杯の笑顔を披露すると、なぜかモナとゲンはカタカタ震えて青ざめ出した。そんなに怖かったかな…。
デスクの浅い引き出しから、俺とモナの分を取り出した。
「分かってんじゃん。」
「お前、将来絶対不良にはなるなよ…?絶対ボスになるから…。」
「わーい、やった〜!お母さんに送らないと〜。」
「自分で使わないんだ?」
「うん。いつも迷惑しかかけてないから、せめてもの償いで…。っていうか、そのためにこの職に就いたのもちょっとあるからね!」」
またピッと胸を張る。そして安定の誇らしげな顔。段々と癖が分かってきた。
なんて分析してしまう自分がちょっと悔しい。常に仕事。きっとこの年齢の普通のやつは、モナみたいな感じなんだろうな〜と考える。
まあ、この職に就いた理由は、同じだけど。