暮れ六ツの鐘が……残念ながら、この邸宅までは然程届かない。

 ウチの場合、門限がこの時間だ。
 誰向けの門限かというと。
 私と、一階に住む黄色いインコ。アイツはセキセイインコだ。それはハッキリしている。私と違って出自も確かだ。
 目が赤い、「ルチノー」という種、らしい。♂は珍しいのだそうな。三毛猫のオスみたいなもんか。

 名を「メリーアン」という。白いバルコニーが似合いそうだろ?
 私の名と比較してみるがよい。あの消えそうに燃えそうな……違うな(ため息)。

 ピンと来ない? では、口にしてごら~ん。
「メリーアンとウ●コ」、「メリーアンのウ●コ」、いや「ウ●コとメリーアン」でもよい。
 まあ、そういうコトだ。

 大旦那(先代社長)が若(と私)に対抗して、数年前、どこぞの夜露に濡れる森から連れて来たのだ(嘘ぴょ~ん)。


 アイツは午後6時になると、「バンゴハン! バンゴハン!」と騒ぎ出す。
 夕餉(ゆうげ)の時間が決まっているワケでもないのに。
 また今日も、階下からヤツの絶叫が聞こえる。



 私はアイツの教育係なので、私の方が偉い。
「大佐」と呼ばせている。ウ●コとは呼ばせない。

 調べものの際、よくパシりにして外界へ放り出している。
 報告させると、いつも要領を得ない。
 やたら羽ばたいてカタコトを繰り返すだけ。
 それを噛み砕いて纏める苦労といったら……。

 なのに、家人にはアイツ(阿呆)の方が受けはよい。この差が承服出来ない。
 アイツは高級珍味なぞよく与えられている。
 所謂、『開いた口へ牡丹餅』というヤツだ。
《たいした努力もナシに、思いがけず幸運がやってくる》という。
『開いた口へ餅』とも言うらしいが、語呂からして、私は「牡丹餅」の方を推奨する。
 おっと。急にセンス(ほとばし)るー。


 実行部隊は頭カラッポのアイツ。ただ散歩してるだけ。
 指示を出す私は頭脳労働者と言えるが、この苦労は中々理解してもらえないようだ。


「会いたくて牡丹餅」……違う! ごっちゃやがな。
『会いたくて震える』のは西●カナを指す(いにしえ)のことわざだが、私の人とナリ(インコではあるが)を的確に持ち上げてくれる、某かの善き一句はないものか。





 私だって、偶さかには旨いもの(高級品)を口にしてみたいのだ……。
 頼むよ若。
 こないだのような、「あれ? パクチーに追いパクチー?」みたいなパンチの利いた土産はいらんから。
 取り敢えず草喰わせとけばオケ? とは偏見以外のナニモノでもない。
 インコ舐めんな。