――ほろ酔いで帰宅した若。

「おー聞いてくれよウ●コ」

 ネクタイを緩めつつ、スマホをずいと向ける。
 すかさず、

『××くん、今までありがとう。楽しかったよ♥』

 女性の声でメッセージが流れた。

「また振られちゃったよ~」

 軽い調子で情けないステップを踏んでみせた。
 もう、見飽きた光景だ。

「社交辞令いらんから、××の指輪返してくんねーかなー高かったのに~」

 しわい事を言わんでくれ、若。

『メメシクテ! メメシクテ!』
「オレもツラいんだよ~」





『挨拶より円札』
《礼を言われるより金を貰うほうがチーッス!》

 だな。
 これ「ことわざ」なの?
『愛されるより圓楽(えんらく)』でどうか。意味不。
『座布団寄り圓楽』。大喜利。ハハハ。サッカーボールと翼クンだな。
 いっそ『彼岸より圓楽』? 黄泉がえられてもな……。

 ダメだ。こんな、圓楽推しが過ぎるだろ。
 ハラ●チのネタみたいだし。



 若は徐に、グラスと電気ブランの小瓶を取り出した。※
 これはいかぬ。酔い潰れて寝落ちのパターンだ。
 若、風呂ぐらい入ろうぜ。

「サキニシャワーアビテコイヨ! サキニシャワーアビテコイヨ!」
「そりゃ女に言う台詞だろ。正論だけどムカツクぅ~」

 珍しく深い溜め息をついて、若は部屋を出て行った。
 スリッパのペタペタいう音が粘っこく廊下を遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。





 若の境遇から、金目当ての蝶が常に周囲をヒラヒラ舞っている。
 彼も惚れっぽい質なので、軽いノリで取っ替え引っ替えしてはあっさり別れる――という愚行を繰り返している。

 時折、父御(先代社長)も心配して見合いなぞセッティングするが、若は元々「お嬢様系」とは相性が悪いので、当然のように上手くはいかぬ。

 悪い人間ではないのだがな……優しいトコロもあるし。
 瀕死の(だったか?)インコを拾って、付きっきりで看病するくらいには。
 ……確か。そう。記憶が改竄されていなければ、だが。





 さっぱりした顔で若が戻ってきた。
 憂いも洗い流せたようで、なによりだ。

 どれ。
 今日は私が労おう。

 私は電気ブランの小瓶に抱きつくと、嘴で開栓を試みた。
 思いの外、固い。力のパワーが欲しい。
 バタンと横倒しになってしまった。

「おいおいー大丈夫かー?」

 すまぬ。若。

「割れてね? 貴重なんだからよ~気を付けろ~」

 そこは私の身を気遣うトコだぞ。
 優しさとは……?

「ウ、ウマレル! ウマレル!」
「マジ?! オレを置いていくなウ●コ!」

 落ち着け若。
 私は男ゆえにー。

 ……………………多分?

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※ 「電気ブラン」→浅草『神谷バー』創業者考案、ブランデーベースのアルコール飲料。度数高め。店内では氷水も一緒に共されたり。小売りあり。