両親が生き返った。生き返らせたのは、すずだ。
その情報はあっと言う間に村中に広まっていく。
殺されてしまった親族を蘇らせてもらおうと、村人達はすずに詰めかけた。
「すずちゃん! 私の娘も生き返らせて!!」
「は、はい!」
「すず! 親父も頼む!!」
「分かりました……!」
「すず!!」
「はい!!」
自分の両親を生き返らせたことに負い目を感じるすずには、村人達の願いを断ることなどできない。
「ありがとう! ありがとう、すずちゃん!」
「また妻と過ごせるなんて……奇跡だ!」
それに、大切な人達が蘇ったことに喜ぶ村人達を見ていると、自分と同じ目に合った人たちを救うことが出来るということに、彼女は喜びを感じていた。
蘇生の数をこなす度にすずの両親は心配そうな様子でひどく引き止めたそうにしている。
しかし、次々と押し寄せる人の波に邪魔をされてしまい、引き止めることが叶わなかった。
請われるまま村人達の蘇生を行っていくと、すずは次第に疲労を感じていった。
そうしていると……。
「すずちゃん、髪……どうしたんだい?」
「え?」
村人に指摘されて気付いた頃には、黒かった髪色は白く染まっていた。
「どう……して?」
すずが力を使うたびに、髪から色が抜けていることを見ていることしかできなかった両親は、ようやく人手をかき分けてすずを抱きしめた。
「すず……! これ以上その力を使うのはやめなさい!」
「父さん……」
「そうよ。すずに何かあったら……」
「母さん……」
死人の蘇生を残された村人達は不満そうにしているが、すず一家の様子に口を挟めずにいた。
そんな時、村長が彼女の元を訪れた。
「儂のせがれも助けてやってくれ!!」
「村長、この子はもう疲れていているんです。休ませてあげてください!」
「あんなに黒かった髪の毛が、こんなに真っ白になってまで皆のことを生き返らせていたから……」
「なんだと! お前達ばかり生き返りおって! 儂のせがれは死んだままで良いというのかッ!!」
「っ……!」
後ろめたさを感じていたすずは、激昂した村長に痛いところを突かれて言葉を失う。
「分かりました……」
「すず!」
「もういいのよ、すず!」
「父さん、母さん。心配してくれてありがとう……」
それに、村長の願いを断ってしまったら、すず達は村八分になってしまうに違いない。
折角生き返ったというのに、この厳しい時代において貧しいすず一家が村人達から疎外されてしまったら、この先を生き永らえることは厳しいだろう。
「村長の息子さんのところに、連れて行ってください」
そうして村長の息子の元へ連れていかれたすずは、彼の亡骸を前に祈る。
(お願い、戻ってきて……!)
意識を集中させる彼女の耳の奥で、風鈴のちりん……という物悲しげな音が鳴り響くと、幼い頃の三途の川での光景が脳裏に浮かぶ。
風に吹かれて彼岸へと向かおうとしていた鬼灯が、こちら側へと還り返される
「う……」
「おおっ!! 息子よ!!」
村長の喜びに満ちた声が辺りに響き渡り、すずは我に返った。
「親父……? ん? 俺、寝てたのか……?」
「良かった! これでこの村は安泰だ!」
喜び勇む村長の様子に、息子は何が起きたのかと呆然としている。
村長の息子は、自分が死んでいたことに気付いていないようだ。
「すす、大丈夫?」
すずの両親が心配そうに近寄り、身体に大事ないかと気付かってくれる。
頭痛や気怠さを感じるものの、両親に心配をかけまいとすずが頷く。
「うん……」
すずの顔色の悪さに気付いたふたりは、大事そうに我が子を抱き締めると、村長の家から立ち去ろうとした。
「村長さん、私達はお暇します」
「いや、待て!」
しかし尊重は、今度こそ共に生きる喜びを分かち合おうとした三人を引き止める。
「すずよ。お前に褒美を取らせる。せがれの嫁に来い!」
「え!?」
「何言ってるんだよ、親父! 俺は嫌だぞ!!」
「待ってください! すずはまだ私たちの元で一緒に暮らすべきです!」
「すずは十五だろう。婚期としては問題ない」
「だからと言って……!」
すずの両親と村長の息子は、村長の提案に酷く反対をする。
すずは両親の袖をぎゅっと握り締めながら、不安な気持ちを抱えて黙って見ていることしかできなかった。
しかし、村長が息子に耳打ちをすると、息子は手のひらを返し始めた。
「ちっ。仕方ないな。うちに来い、すず」
「そんな……」
当事者が同意をしているならば、ただの村人であるすずたちには逆らう術はない。
両親と共に生活を続けていられると思っていた矢先の出来事に、すずは絶望する。
「ほら、早く来い!」
「父さん! 母さん……!!」
「村長、すずを帰してください!!」
「ダメだダメだ! 用が済んだろう、お前達はもう帰れ!!」
「すず!!」
村長の家から両親が追い出されてしまった後、すずは村長の息子によって家の奥へと連れられて行く。
「ここがお前の部屋だ」
「私……本当にあなたの妻になるの?」
「なるの? じゃない! なるんですか? だろ! 口の聞き方に気を付けろ!!」
「きゃあっ! ご、ごめんなさい!」
両親や友人に対するいつも通りの口調で何気なく問いかけたつもりだったが、村長の息子はそれを気に入らず、すずを突き飛ばした。
「本当はお前みたいな気味の悪い女が妻なんて、ごめんだ!」
すずの白く染まった髪と色の変わってしまった右目を、夫となった村長の息子が蔑むように睨みつける。
「気味の、悪い……」
思いもよらぬ発言に、すずが傷つき俯く。
「覚えておけ、お前は名目上の妻ってだけで、俺はお前を愛することはない。それと、式も執り行うつもりはない」
「そう……ですか」
名目上の妻であるならば、自分は何のために嫁がされたのだろう。
「だが、お前のお披露目式はやるつもりだ」
「お披露目……? 妻としてではなければ、何のでしょうか……?」
「お前には、死者を生き返らせる『黄泉還しの巫女』として働いてもらうからな!」
「……え? どういうことですか、あの……っ!」
「さあて、明日から忙しくなるぞ! ハハハ!」
自分は何をやらされるのだろうか、そう問いかけようとしたすずだが、夫は答えることなく襖を閉じる。
取り残されたすずはしゃがみこんで、呆然と呟いた。
「黄泉還しの巫女……? そのために……私を妻に……?」
蒼く染まった右眼をまぶた越しに触れ、すずは悲しみを漏らした。
「もしかして……。私……この先、死者を生き返らせ続けることになるの……?」
その情報はあっと言う間に村中に広まっていく。
殺されてしまった親族を蘇らせてもらおうと、村人達はすずに詰めかけた。
「すずちゃん! 私の娘も生き返らせて!!」
「は、はい!」
「すず! 親父も頼む!!」
「分かりました……!」
「すず!!」
「はい!!」
自分の両親を生き返らせたことに負い目を感じるすずには、村人達の願いを断ることなどできない。
「ありがとう! ありがとう、すずちゃん!」
「また妻と過ごせるなんて……奇跡だ!」
それに、大切な人達が蘇ったことに喜ぶ村人達を見ていると、自分と同じ目に合った人たちを救うことが出来るということに、彼女は喜びを感じていた。
蘇生の数をこなす度にすずの両親は心配そうな様子でひどく引き止めたそうにしている。
しかし、次々と押し寄せる人の波に邪魔をされてしまい、引き止めることが叶わなかった。
請われるまま村人達の蘇生を行っていくと、すずは次第に疲労を感じていった。
そうしていると……。
「すずちゃん、髪……どうしたんだい?」
「え?」
村人に指摘されて気付いた頃には、黒かった髪色は白く染まっていた。
「どう……して?」
すずが力を使うたびに、髪から色が抜けていることを見ていることしかできなかった両親は、ようやく人手をかき分けてすずを抱きしめた。
「すず……! これ以上その力を使うのはやめなさい!」
「父さん……」
「そうよ。すずに何かあったら……」
「母さん……」
死人の蘇生を残された村人達は不満そうにしているが、すず一家の様子に口を挟めずにいた。
そんな時、村長が彼女の元を訪れた。
「儂のせがれも助けてやってくれ!!」
「村長、この子はもう疲れていているんです。休ませてあげてください!」
「あんなに黒かった髪の毛が、こんなに真っ白になってまで皆のことを生き返らせていたから……」
「なんだと! お前達ばかり生き返りおって! 儂のせがれは死んだままで良いというのかッ!!」
「っ……!」
後ろめたさを感じていたすずは、激昂した村長に痛いところを突かれて言葉を失う。
「分かりました……」
「すず!」
「もういいのよ、すず!」
「父さん、母さん。心配してくれてありがとう……」
それに、村長の願いを断ってしまったら、すず達は村八分になってしまうに違いない。
折角生き返ったというのに、この厳しい時代において貧しいすず一家が村人達から疎外されてしまったら、この先を生き永らえることは厳しいだろう。
「村長の息子さんのところに、連れて行ってください」
そうして村長の息子の元へ連れていかれたすずは、彼の亡骸を前に祈る。
(お願い、戻ってきて……!)
意識を集中させる彼女の耳の奥で、風鈴のちりん……という物悲しげな音が鳴り響くと、幼い頃の三途の川での光景が脳裏に浮かぶ。
風に吹かれて彼岸へと向かおうとしていた鬼灯が、こちら側へと還り返される
「う……」
「おおっ!! 息子よ!!」
村長の喜びに満ちた声が辺りに響き渡り、すずは我に返った。
「親父……? ん? 俺、寝てたのか……?」
「良かった! これでこの村は安泰だ!」
喜び勇む村長の様子に、息子は何が起きたのかと呆然としている。
村長の息子は、自分が死んでいたことに気付いていないようだ。
「すす、大丈夫?」
すずの両親が心配そうに近寄り、身体に大事ないかと気付かってくれる。
頭痛や気怠さを感じるものの、両親に心配をかけまいとすずが頷く。
「うん……」
すずの顔色の悪さに気付いたふたりは、大事そうに我が子を抱き締めると、村長の家から立ち去ろうとした。
「村長さん、私達はお暇します」
「いや、待て!」
しかし尊重は、今度こそ共に生きる喜びを分かち合おうとした三人を引き止める。
「すずよ。お前に褒美を取らせる。せがれの嫁に来い!」
「え!?」
「何言ってるんだよ、親父! 俺は嫌だぞ!!」
「待ってください! すずはまだ私たちの元で一緒に暮らすべきです!」
「すずは十五だろう。婚期としては問題ない」
「だからと言って……!」
すずの両親と村長の息子は、村長の提案に酷く反対をする。
すずは両親の袖をぎゅっと握り締めながら、不安な気持ちを抱えて黙って見ていることしかできなかった。
しかし、村長が息子に耳打ちをすると、息子は手のひらを返し始めた。
「ちっ。仕方ないな。うちに来い、すず」
「そんな……」
当事者が同意をしているならば、ただの村人であるすずたちには逆らう術はない。
両親と共に生活を続けていられると思っていた矢先の出来事に、すずは絶望する。
「ほら、早く来い!」
「父さん! 母さん……!!」
「村長、すずを帰してください!!」
「ダメだダメだ! 用が済んだろう、お前達はもう帰れ!!」
「すず!!」
村長の家から両親が追い出されてしまった後、すずは村長の息子によって家の奥へと連れられて行く。
「ここがお前の部屋だ」
「私……本当にあなたの妻になるの?」
「なるの? じゃない! なるんですか? だろ! 口の聞き方に気を付けろ!!」
「きゃあっ! ご、ごめんなさい!」
両親や友人に対するいつも通りの口調で何気なく問いかけたつもりだったが、村長の息子はそれを気に入らず、すずを突き飛ばした。
「本当はお前みたいな気味の悪い女が妻なんて、ごめんだ!」
すずの白く染まった髪と色の変わってしまった右目を、夫となった村長の息子が蔑むように睨みつける。
「気味の、悪い……」
思いもよらぬ発言に、すずが傷つき俯く。
「覚えておけ、お前は名目上の妻ってだけで、俺はお前を愛することはない。それと、式も執り行うつもりはない」
「そう……ですか」
名目上の妻であるならば、自分は何のために嫁がされたのだろう。
「だが、お前のお披露目式はやるつもりだ」
「お披露目……? 妻としてではなければ、何のでしょうか……?」
「お前には、死者を生き返らせる『黄泉還しの巫女』として働いてもらうからな!」
「……え? どういうことですか、あの……っ!」
「さあて、明日から忙しくなるぞ! ハハハ!」
自分は何をやらされるのだろうか、そう問いかけようとしたすずだが、夫は答えることなく襖を閉じる。
取り残されたすずはしゃがみこんで、呆然と呟いた。
「黄泉還しの巫女……? そのために……私を妻に……?」
蒼く染まった右眼をまぶた越しに触れ、すずは悲しみを漏らした。
「もしかして……。私……この先、死者を生き返らせ続けることになるの……?」