ここは頭の中の地図には「森」としか載ってない。迷ったらどうしよう。

 それでも追いかけられた恐怖で、私はどんどん中に進んだ。

 疲れ切って、とうとう木の根っこにつまずいて転んだ。

 もうだめだ。
 息を切らし、座り込む。

 周りを見ると鬱蒼と木が生い茂っていた。

 ここまで来たらもう大丈夫だろう。
 もう少しして落ち着いたら街に帰ろう。
 そう思って木によりかかったときだった。

「追いついた」
 声がして振り返ると、男の人がいた。

 私は恐怖で顔が引きつった。

「なんで逃げるの?」
 前に回ったその人は、息を切らしている様子がなかった。なにかの能力のおかげだろうか。

 にこにこしている笑顔が、逆に怖かった。

「さあ、助けてあげるよ」
 彼が手を伸ばしてくる。

 私は思わずあとずさる。が、背が木に当たり、もうよけられない。

「いやあ!」
 私はとっさに手を上げて防御姿勢を取った。
 直後、透明な壁のようなものが私の周りにできた。

「え!?」
 男は驚いて手をひっこめる。

 追いついた人たちが、なんだなんだと私を取り囲む。

「能力がない人だって噂だったのに」
「立派な防御壁だなあ」
「能力、あるんじゃん」
「なーんだ」
「助けられると思ったのに」
 人々は口々に言いながら、その場を立ち去り始めた。

「え? なに?」
 私は呆然と自分の手を見つめた。





 後日、私は悟った。

 この世界の人たちはみな、非凡な力を持っている。が、全員が力を持っているがゆえに、非凡はもはや平凡となっているのだ。

 神は、平凡に普通に生きたいという私の願いを叶え、防御という非凡な……というかこの世界では平凡な力を与えてくれたのだった。



* 終 *