不思議なことに、死んだという悲しみは沸かなかった。神とやらが取り除いてくれたのだろうか。

 なぜかこの世界のルールも街の地図も頭に入っている。まるでずっと住んでいた場所であるかのように。

 お金は最初に支度金のようなものがあり、あとは働いて得ることになっている。

 緩い世界なので、のんびりと働いてゆっくりとすごせるのはわかっていた。

 だが、誤算があった。
 私が来た翌日、街中の人が私の元を訪れた。

「なんの力もないって本当に?」
「なんかあったら俺が助けてやるよ」
「いえ、私が助けるわ」
 親切な人たちだった。

 だけど、私は困っていることなどないから、すべて断った。

 断るとすんなりと帰ってくれたけど、すぐに別の人が来て、困ったことはないかと聞きに来るのが、若干、うっとうしかった。

 みんな、助けたい願望が強すぎる。いい人たちなんだろうけどそれがネックだな、と思った。





 翌日、仕事を探そうと街に出たときだった。
 職安のようなところに行く途中で、私は石につまずいてころんだ。

「大丈夫か!?」
 近くにいた人が声をかけてくれる。

「大丈夫です」
 恥ずかしく苦笑いを浮かべながら立ち上がる。

 周囲の人たちが一斉に自分を注目していた。

「私が服をきれいにしてあげるわ」
「俺が傷を治してやるよ」
 一斉に取り囲まれた。

「だ、大丈夫です!」
 私は怖くなってとっさに逃げた。

「遠慮するなよ」
 なぜか追いかけてくる。

「なんで!?」
 私は逃げた。

 なぜか追いかけてくる人が増える。

「新しく来たあいつ、助けを拒んで逃げてるらしい」
「大丈夫なのか!?」
「おーい、怖がらなくていいよー!」

 みんな、心配して追ってくるみたいだけど、なおさら怖くて仕方ない。

 走って走って、森の中に逃げ込んだ。