気がつくと、真っ白の世界にいた。

 私はキョロキョロと見周す。

 上も下も右も左も、もちろん斜めも真っ白で、上下の感覚すら危うくなりそうだ。立っているから、足がついているところが地面ということでいいのだろうけど。

「どこなんだろう……」
 つぶやいた直後だった。

「ようこそ」
 声が響いた。

 気がつくと、男性が目の前に立っていた。若くも見えるし、年老いても見える。不思議な人だった。

 長い髪は真っ白で、瞳は髪に隠れて見えなかった。木の杖を持ったさまは、よくあるイメージの神様みたいだった。ヒゲは生えてなかったけど。

「君は選ばれた」
 彼はそう言った。

 どういうことだろう。
 私は返事もせずに彼を見た。

「君は事故で死んだ。だが、善良な君は第二の世界で生きる資格を得た」

 ああ、そうだ。
 私は普通に生きて普通に生活していた。

 横断歩道を渡っていたら、信号を無視した暴走車にはねられたんだった。
 悲しいとかショックとか、そういう感情は沸かなかった。実感がなかったから。

「転生するにあたり、なにか能力を授けることになっている。君はなんの能力がほしい?」

「転生……能力……」
 私はつぶやく。

 そういう物語を読んだことはあるが、自分がそんな立場になるなんて思いもしなかった。物語では、たいていそんな能力があるせいでトラブルに巻き込まれるパターンばかりだったなあ、と思い出す。

「善良な者たちだけを集めているから、変なことにはならないと思うよ」
 神は私の内心を察したように説明した。

「本当に善良な人たちだけなんだったら、私はなにも力はいりません」
「へえ?」
 神は面白そうに私を見た。口元が笑っている。

「平凡に、普通に生きたいですから」

「平凡に、普通に、ね。前世でもそうだったよね。それが君の望みってことでいいのかな?」