ビールを飲み終え、まったりモードになった俺達は場所を変えて話しをすることにした。
場所は島野一家のロッジだ。
メンバーは俺とギル、ダイコクとライル、そしてソバルだ。
ソバルを加えるかどうかは悩んだが、ダイコクがソバルの名付け親と判明した今、同席を求めない訳にはいかないだろう。
揉めることは考えられないが、両方を知る者がいたほうが、話はスムーズになるだろう。
ソバルは喜んで会談に同席することを勝って出た。
会談というほどの格式ばったものでは無いが、ソバルにはそう言っておいた方が、通りが良い。
神様同士の打ち合わせなんていってしまったら、恐縮されてしまうだろう。
ライルも同席しているが、こいつが発言するとはあまり考えられない。
というもの、調子に乗って一気にビールを飲みまくったライルは既に出来上がっている。
お替りを繰り返し、二リットルぐらいは飲んでいるだろう。
こいつはゴブオクン以上のお調子者かもしれない。
そしてギルは同席しなくてはいけない。
もしかしたらエリスの事が何か分かるかもしれないからだ。
話し合いは夜更けまで及ぶだろう。
もしかしたら明け方まで続くかも?
お互い聞きたいことだらけなのだからだ。
話は尽きないに違い無い。
「さて、島野はん。そろそろやろ?」
ダイコクが口火を切った。
「ですね、お互い聞きたいことだらけだと思いますが、どちらからにしますか?」
ダイコクは分かっとるや無いかと言いたげににやける。
「ならわいからでええか?」
「どうぞ、ギルもそれでいいか?」
「僕はいいよ」
ダイコクはビールを一口舐めてから話しだした。
「まずはそうやな、じぶん何者なんや?神だということは分かっとる。でないと説明がつかんからな」
「俺はダイコクさんと同じ神ですよ。まあ同僚ですね。そして俺は転移者です」
ダイコクはゆっくりと頷いた。
「やっぱりな・・・そんな気がしたで」
「どうして分かったんですか?」
ギルが質問する。
「この街を見れば分かるがなギル、家の造り、上質な畑、それに豊富な娯楽の数々、何を取ってもこの世界の物とちゃうで。異世界人の文化や知恵を取り入れんとこうはならん。それにあのサウナや。この世界では全く聞いたことがない娯楽や、そうやろ?島野はん?ちゃうか?」
「その通りです、付け加えるなら、今では南半球ではサウナを知る者がほとんどです。俺が流行らせましたので」
「ほんまかいな・・・サウナはええな~。毎日でも入りたいがなー、気に入ったで!」
ダイコクは悦に浸りそうな表情をしている。
どうやらサウナにド嵌りしたようだ。
「分かりますよ、その気持ち」
毎日入りたいにきまっている。
それがサウナだ!
「脱線してまうな、あかんあかん。それで何の神なんや?まさかサウナの神だとでもいうんちゃうやろな?」
「アハハ!パパはそう呼ばれてるね」
ギルが面白がっている。
「まあ、南半球ではそう呼ばれてますが、通称というだけで実際にはどの神とのジャンルは俺にはないんですよ」
ダイコクはふざけるなという顔をしている。
「何ゆうてんねん?そんな神の存在は聞いたことがないで?ほんまかいな?」
「厳密に言うと、俺は神様修業中の身で、半神半人なんですよ」
創造神様の後任とは明かせない。
そこまでまだ心は許せない。
「嘘やろ?あり得んがな?そんなこと聞いたことが無いで!」
ダイコクは両手を挙げていた。
降参ということなんだろう、なんともひょうきんな神様だ。
それはよく分かる、漏れなくそんな反応だからね。
「でもそれで説明がつくなぁ、せやないと街を造り上げる指導なんて出来る訳がないがな、権能が広すぎるやないかい」
「ダイコクさん、僕のパパ凄いでしょう?」
ギル君・・・どや顔は止めなさい。
「ほんまやな、ギルのパパは凄すぎるやないかい。でなんでギルのパパやねん」
俺はずっこけそうになった。
今それ言うの?
遅いでしょ?
「それは俺が卵を孵化させたからですよ」
「ほう・・・そうかいな・・・ドラゴンと言えば、北半球にはドラゴンを祭る村があるんやで、知っとるか?」
俺はギルと顔を見合わせた。
「ドラゴンを祭る村ですか?」
ギルのテンションが一気に上がる。
「せや、儂も詳しくは知らんが、わての住む『ルイベント』王国から北に向かってゆくと、ベルル山脈と呼ばれる高度の高い山岳地帯があるんや、それを超えて二ヶ月も進むとドラゴンを祭る村があると聞いたことがある。わては行ったとはないけどな」
ギルは眼を輝かせている。
ドラゴンを祭る村か・・・そこにエリスが居るとは限らないが、何かしらの情報は手に入るのではなかろうか?
期待で胸が膨らむ。
ギルも目を輝かせていた。
「ダイコクさんはドラゴンのエリスを知っていますか?」
ギルは前のめりだ。
「ドラゴンのエリス・・・聞いたことがあるような・・・無いような・・・すまんよう分からん」
「いえ、大丈夫です」
ギルは落ち込んではいない。
ここまでドラゴンに関する情報に踏み込めたことは無かったからな。
それにドラゴンを祭る村は、これまでゴンガスの親父さんにそんな村があると聞いたことがあるだけだ。
それが実在し、場所まで知りうることができたのだ。
これでいつでもドラゴンを祭る村に行くことができる。
エリスの背中が見えてきた気がする。
「ギルはそのエリスとはどんな関係なんや?」
遠慮も無くダイコクは踏み込んできた。
「多分・・・僕のママだと思う・・・」
ギルは照れているような苦いような、何といえない笑顔を浮かべている。
「そうか、すまんな、変なことを聞いてもうたな」
「いいよ、そんなことより、そのドラゴンを祭る村に関して知っていることは何かないの?」
ギルの前のめりは止まらない。
「せやな、わては直接行ったことないから詳しくは知らんが、ルイベントは交流がまったくない訳ではないんやで」
「そうなんだ」
「わてが知る限りでは、住民のほとんどがリザードマンちゅうことや、リザードマンはドラゴンを崇拝しておるみたいやで、そしてエンシェントドラゴンがおるっちゅうことや、エンシェントドラゴンと言うたら、最長老のドラゴンや、その持つ知識は深く、この世界が出来た頃から生きていると言われてる存在なんやで、そして世界を滅ぼす力を持つとの逸話がある存在やねん」
なぜかダイコクはどや顔だ。
確かにリザードマンはドラゴンを崇拝している傾向にある。
俺は何度か、ギルに尊敬の念を持って見つめているリザードマンを見たことがある。
ある意味俺以上にギルに対して従順だ。
それを分かってか、ギルもリザードマン達の前では毅然とした態度を取っていることがある。
「そうなんだ!」
ギルは拳を握りしめていた。
相当興奮している。
「後はどうなの?」
ギルの興奮は止まらない。
「そやな・・・以上や」
これまたずっこけそうになってしまった。
いらない間はなんだったのか?
ギルは思わず椅子から滑り落ちそうになっていた。
「ダイコクさん・・・ちょいちょい放り込んできますね」
「すまん、すまん、そんな性分なんや」
まあいいけど。
関西弁を話すだけはあるな。
話を戻そう。
「ドラゴンを祭る村については思いだしたことがあったら教えてください。他に聞きたいことは何ですか?」
「そうやな、島野はん達は南半球から来たんやろ?それは間違いないか?」
それ以外に考えられないだろう。
「ええ、そうですね」
「どうやって来たんや?」
「クルーザーで来たんだよ」
ギルは何時になく饒舌だ。
それにしてもよかった、ここで転移扉と言われてしまっては止めるしかないからな。
まだそこまで心を開く訳にはいかない。
北半球と南半球を繋げるかは俺の一存では決めてはいけないと思う。
ここで転移扉の存在を明かす訳にはいかない。
今回は念のために入口の脇に設置している転移扉を隠しているぐらいだ。
流石にそれぐらいの観察眼をギルは持ってるみたいだ。
俺の方をチラリと見てきた。
分かってますよと言いたげな眼をしている。
「クルーザーってなんやねん?」
「時速百キロ以上出る船のことです、明日にでも見せますよ」
「時速百キロやと?マジかいな?」
ダイコクは呆れた顔をしていた。
「クルーザーは面白いよ、それに楽しいよ」
どうにもギルが前のめりになると脱線しそうになる。
まあいいか。
「そうかい、で、南半球でも神気不足になっとるんか?」
「実はですね・・・」
俺はこれまでの神気減少問題について行ってきたことや、その原因となること、対処方法などについて話をした。
ダイコクは何時になく真剣に話を聞いていた。
やはり彼にとっても神気減少問題は真摯に取り組まなければいけない事柄のようだ。
その対処方法についての質問が絶えなかった。
その様を見る限り、神気の減少に相当に悩まされてきたみたいだ。
ダイコクは今日この魔物同盟国に来た際に感じた神気の充足感に、涙を流しそうだったと言っていた。
その表情を見る限り大袈裟に話しているとは思えなかった。
でも俺に言わせてみれば、この魔物同盟国での神気の充足感は全く足りない。
サウナ島の半分しかないと感じる。
それに日本に帰ればサウナ島の数倍は充実している。
俺が思う以上に北半球での神気減少問題は切実になっているみたいだ。
これは北半球に住む神様全員に影響していることだろう、先ほど話に挙がったエンシェントドラゴンもその限りではないだろう。
それにエリスもそうだろう。
ダイコクはお地蔵さんを十体欲しいと懇願してきた。
勿論快く快諾した。
後はルイベントには教会があるらしく、その改修も頼まれた。
でもダイコクの表情を見る限りこれで一安心ではないのは分かる。
俺は敢えてそこに踏み込んでみた。
「お地蔵さんは明日にでも準備しましょう、でも何か言いたげですよね?」
「・・・敵わんな・・・分かるか?」
「ええ、俺は読心術は使えませんが、表情からある程度の事は分かりますよ。これでも心理カウンセラーですので」
「・・・そうかい・・・心理カウンセラーってのは知らんが、実はな、この北半球では神様離れが進んどるんや・・・」
「神様離れですか?」
「せや、百年前の大戦以降、神様離れが進んでおるんや・・・儚いことやで・・・この世界は神が顕現している世界や・・・神の能力が生活を支えておる・・・でもなあ・・・大戦以来この世界の荒廃は進んでるんや・・・この荒廃した世界を神は救う事が出来へんと神を崇拝する文化が廃れて来ておるんや・・・」
「そんな・・・」
ギルが思わず口ずさむ。
でも俺には分からなくも無かった。
人々にとって、神は崇拝するべき存在であったのは間違いない。
生活を支えてくれた存在なのだから。
でもその存在が、その権能を発揮できない状態になっていることなど、民衆は知りもしないのだ。
もしかしたらその様子は怠慢に見えたのかもしれない。
その権能を使わなくなったのだと・・・
借りにその事情を知ったとしてもどうだろうか?
神様は使いものにならないと吐き捨てることは容易に想像できる。
民衆にとっては日々の生活が最優先事項なのだから。
明日食べる食事を神様が準備してくれる訳ではないのだ。
そうなってしまえば崇拝する必要が何処にあるのだろうか?
そう考えてしまうのは手に取る様に分かる。
下手をすると邪魔な存在と感じてしまうことも考えられなくもない。
能力を持っているが故に、その存在が面倒だと感じても間違いは無いのだ。
それだけの危険の可能性があると、ここに来て俺は痛烈に感じてしまった。
そういった側面をこれまで全く考えてもみなかった。
これは良くない。
逆風と言えなくもない。
まさか風下に立つことになろうとは・・・
よくもこの状況でダイコクはこれまでやって来られたものだと、感心してしまう程だ。
そしてダイコクが不穏なことを言い出した。
「でな、これは悪まで噂や、中には神殺しを生業とする者もおるっちゅう話や、噂やけどな・・・」
神殺し?
余りに荒唐無稽とも言えなくはない・・・
なぜならば神は殺すことは出来るからだ。
前にゴンズ様が言っていた。
神力が無くなった状態で首を切られたら、消滅すると。
しかしそこまでする必要性は何処にあるのだろうか?
神を殺すなんてあまりに恐れ多い事だ。
神罰が降ることも容易に考えられる。
その神罰が末代にまで及ぶ可能性すらある。
どうしてそこまで神を恨むことが出来るのだろうか?
「でもちょっと考えられないですね。神を殺す事に何の意味があるのでしょうか?」
「そうやな、わてもそう思う。いうても噂や、気にせんでええ」
ここは話題を変えたい。
「ですね。他に聞きたいことはありますか?」
話を変えたほうがよさそうだ、現にギルが神妙な顔をしている。
決して心地いい会話では無い。
「せやな、南半球の事を知りたいで」
ここは慎重に話さなければならない、まだ転移扉の存在を明かす訳にはいかないからな。
それにまだダイコクを全面的に信用する訳にはいかない。
「南半球は至って平和ですよ、俺達はほとんどの国や街に訪れましたが、争っている国などは皆無ですよ」
「そうかい・・・それは羨ましいやないか・・・」
「やはり北半球は今でも戦争などがあるのですか?」
終息してくれていると嬉しいのだが・・・
「そうや・・・『ビランジ』国と『ポルレフ』国は、百年前の大戦以降、今だに戦争を継続中や、まあ今では小競り合いになっとるということやが、どうにもあれは止められん。どちらかが滅ぶまで続くやろうな。悲しいことやで」
ダイコクは居たたまれない表情をしていた。
「戦争の原因はそもそも何なんですか?」
これを俺は聞きたかったのだ。
「元々は領土拡大やったと思うで、でもな、それは表面的な理由や、本当の所はよく分からん、せやけど今はもう当初の目論見では無くなっておるんや、先祖の恨みを晴らそうと、復讐の連鎖になっとるんや」
そうなるんだろうな・・・それにしても百年以上も戦争が続くなんて・・・考えられない。
なにより人的な要因もそうだが資源が尽きるに決まっている。
どうなっているんだ?
今では小競り合いとなっているみたいだがそれにしても・・・
よくもそこまで恨みが続くものだな。
俺には全く分からない。
でももし俺の家族に危害を加えられたらどうなんだろうか?
ノンやゴン、ギルやエル、レケやエクスが傷つけられたら・・・
そう考えると分からなくもない。
でもそれを百年も続けられるものなんだろうか?
数年は尾を引くのは想像できる、でも・・・
どこかで俺は気持ちを切り替えるんじゃないかと思う。
前を向いて生きようとするのではないだろうか?
その当事者になっていない俺には、あくまで想像の域を超えることはできないのだが。
「その二国以外でも争いはあるんですか?」
「無くはないが、そこまででもないな。にしてもわてには気になることがあるんや・・・」
「といいますと?」
「そもそも『ビランジ』国と『ポルレフ』国は大戦以前は良好な関係やったんや、それが急に関係が悪くなってもうた。当時を知るわてとしても何であの両国が戦争に至ったのか今でも考えられんのや、それに被害がひどすぎる、なんであそこまで長期化したのかわてには不思議なんや」
ダイコクは眉間に皺を寄せていた。
それに忌避感が表情に現れている。
やはりダイコク神である、その魂の中心には慈悲があり、戦争という物が認められないのだろう。
「どれぐらいの被害がでたんですか?」
「両国共に二十万人の死者がでたんや、ケガや障害を負った者はその倍やで」
「それはひどすぎる、因みに戦力はどれぐらいだったんですか?」
「『ビランジ』国は八十万人『ポルレフ』国は九十万人や」
なるほど、ダイコクが言わんとすることは良く分かる。
戦争において、通常戦力の三割も削られれば、大敗と考えられ、その段階で何かしらの休戦協定が結ばれたりするものである。
しかし聞く限りでは七割以上の消費をしてやっと一時休戦となったようだ。
そこまで争い続けたことに疑問が残る。
それに戦争前までは良好な関係であったことからも、ここまでの消耗戦を行ったことがあまりに異質だ。
恐らくオリビアさんから聞いた大戦の模様の中で使われたであろう洗脳が関係しているのかもしれない。
「因みにその中に魔物達はいたんでしょうか?」
「いや、それは無いな、にしてもどうにも合点がいかんのや・・・」
「そうでしょうね、常識的には考えられない。これは第三者の意図があったということですかね?」
そう考えるのが妥当だろう。
第三者が両国の関係を悪化させ、戦争へと導いた。
戦争を凄惨なものにし、そして何かしらの利益を得ると・・・
もしかして死の商人でもいるのだろうか?
「・・・多分な・・・そうとしか考えられへん・・・」
「そうですか・・・」
「それにあの大戦を気に神気が薄くなりおった・・・これを偶然の一致と考えるのは愚の骨頂やろうか?」
その考えは正しいと思う。
「ですね・・・さっきも話した通り、世界樹が枯れてしまったのも百年前ですしね」
「それはどうなんやろうな?北半球と南半球では関係性がなさ過ぎるで」
確かにそうかもしれない、でも俺にはそうとも言いきれないと考えてしまう。
「考えすぎですかね?」
「答えは分からんがな・・・」
「第三者の意図とは何でしょうか?この世界に戦争を起こさせるメリットが何処にあるのか?そして近年に続く神様への崇拝離れ・・・」
ダイコクは身を乗り出した。
「そこを繋げるんかいな?」
ダイコクは嘘だろうと言いたげだ。
「ええ、そうとしか考えられないですね。第三者の意図が現在の神様離れを意図したものであったとしたならば・・・そのきっかけとして戦争を起こさせて、北半球を混乱に陥れた。としてもおかしくは無い。ただ分からないのは神気の減少をどうやって引き起こしたのかということです・・・」
ダイコクは席に付き、眼を瞑り考えを巡らせだしだ。
そして俺は一つ嫌な可能性を導きだしていた。
それはダイコクが実はその第三者の関係者、もしくは協力者であるとの可能性だ。
それも本人が意図していない上でだ。
そう考える原因はオリビアさんから聞いた大戦の様子の中で、洗脳が使われているのではないかと思ったからだ。
ダイコクが本人の知らぬ間に、洗脳を受けている可能性が否定できない。
俺は念のため『催眠』を発動させていた。
この先ダイコクの発言は潜在意識下の物となる、即ち嘘は付け無いということだ。
相当念入りな擦り込みをされていない限り、自分で思ってもいない発言は出来ない。
「つまりや・・・第三者の意図は神を陥れるということかいな?」
「そうです」
俺はダイコクの表情をこれまで以上に観察することにした。
「そう言われると、確かに辻褄が合うてまうな・・・」
「俺にはそうとしか考えられないですね」
ダイコクは眼をあけてこちらを見定めた。
その眼に曇りは無かった。
「島野はん・・・じぶん相当鋭いな・・・関心してまうで」
「それはどうも・・・」
「ちょっと待ってパパ、整理していい?」
ギルは頭の中を整理したいみたいだ。
「ああ」
「百年前に起こった大戦には第三者の介入があって、友好的な両国が戦争になってしまった。そしてそれは今にも続いている。その意図は神への崇拝を無くさせることっていうことなの?」
恐らくそうなんだろう・・・
「だぶんな・・・俺にはそうとしか考えられない。でもその理由が分からない」
「わてにも見当が付かんがな、それにその第三者はいったい誰やねん」
その発言に嘘は感じられない。
神の権能で支えられているこの世界の根底を覆そうとする行為だ。
意図がそうであったとして、その目的が見えてこない。
この世界を単純に破壊したいということなんだろうか?
それはあまりにも安直過ぎる。
そうであったとして何でこの世界を破壊したいのだろうか?
どうやらここで一旦手詰まりとなりそうだ。
今はこれ以上の考察は出来そうに無いな。
まだまだ情報が足りない。
ダイコクの反応を見る限り、彼は本心を語っているようだった。
疑ってすまないが、念には念を入れなければならない。
俺はそっとダイコクの『催眠』を解いた。
それにしても、北半球は思っている以上に不穏な空気が漂っているみたいだ。
でも俺に出来ることにはまだ限りがある。
今一度能力の開発を行うべきなんだろうか?
まずはこの情報を南半球に持ち帰るべきだろう。
神様ズとの会議が必要な段階がきたみたいだ。
五郎さんやゴンガスの親父さんと意見を戦わせてみたい。
「そんな不届き者が居ようとは・・・」
これまで黙っていたソバルが呟いた。
その眼は何かを決心した眼をしていた。
その後、いい時間になってしまった為、今回はお開きにすることにした。
ライルが完全に鼾をかいて寝だしてしまったのだ。
ダイコクさんとライルは魔物同盟国に滞在することになった。
彼らが満足するまでは帰ることはないだろう。
ダイコクさんは嬉しそうにそう宣言していた。
そうしてくれて構わない。
こちらとしてもまだまだ話したい事や聞きたい事が山ほどある。
ここからは時間も必要になるだろう。
せっかく袖振り合う隣人が出来たのだ。
じっくりと関係を深めたいものだ。
まだまだ先は長そうだ・・・
場所は島野一家のロッジだ。
メンバーは俺とギル、ダイコクとライル、そしてソバルだ。
ソバルを加えるかどうかは悩んだが、ダイコクがソバルの名付け親と判明した今、同席を求めない訳にはいかないだろう。
揉めることは考えられないが、両方を知る者がいたほうが、話はスムーズになるだろう。
ソバルは喜んで会談に同席することを勝って出た。
会談というほどの格式ばったものでは無いが、ソバルにはそう言っておいた方が、通りが良い。
神様同士の打ち合わせなんていってしまったら、恐縮されてしまうだろう。
ライルも同席しているが、こいつが発言するとはあまり考えられない。
というもの、調子に乗って一気にビールを飲みまくったライルは既に出来上がっている。
お替りを繰り返し、二リットルぐらいは飲んでいるだろう。
こいつはゴブオクン以上のお調子者かもしれない。
そしてギルは同席しなくてはいけない。
もしかしたらエリスの事が何か分かるかもしれないからだ。
話し合いは夜更けまで及ぶだろう。
もしかしたら明け方まで続くかも?
お互い聞きたいことだらけなのだからだ。
話は尽きないに違い無い。
「さて、島野はん。そろそろやろ?」
ダイコクが口火を切った。
「ですね、お互い聞きたいことだらけだと思いますが、どちらからにしますか?」
ダイコクは分かっとるや無いかと言いたげににやける。
「ならわいからでええか?」
「どうぞ、ギルもそれでいいか?」
「僕はいいよ」
ダイコクはビールを一口舐めてから話しだした。
「まずはそうやな、じぶん何者なんや?神だということは分かっとる。でないと説明がつかんからな」
「俺はダイコクさんと同じ神ですよ。まあ同僚ですね。そして俺は転移者です」
ダイコクはゆっくりと頷いた。
「やっぱりな・・・そんな気がしたで」
「どうして分かったんですか?」
ギルが質問する。
「この街を見れば分かるがなギル、家の造り、上質な畑、それに豊富な娯楽の数々、何を取ってもこの世界の物とちゃうで。異世界人の文化や知恵を取り入れんとこうはならん。それにあのサウナや。この世界では全く聞いたことがない娯楽や、そうやろ?島野はん?ちゃうか?」
「その通りです、付け加えるなら、今では南半球ではサウナを知る者がほとんどです。俺が流行らせましたので」
「ほんまかいな・・・サウナはええな~。毎日でも入りたいがなー、気に入ったで!」
ダイコクは悦に浸りそうな表情をしている。
どうやらサウナにド嵌りしたようだ。
「分かりますよ、その気持ち」
毎日入りたいにきまっている。
それがサウナだ!
「脱線してまうな、あかんあかん。それで何の神なんや?まさかサウナの神だとでもいうんちゃうやろな?」
「アハハ!パパはそう呼ばれてるね」
ギルが面白がっている。
「まあ、南半球ではそう呼ばれてますが、通称というだけで実際にはどの神とのジャンルは俺にはないんですよ」
ダイコクはふざけるなという顔をしている。
「何ゆうてんねん?そんな神の存在は聞いたことがないで?ほんまかいな?」
「厳密に言うと、俺は神様修業中の身で、半神半人なんですよ」
創造神様の後任とは明かせない。
そこまでまだ心は許せない。
「嘘やろ?あり得んがな?そんなこと聞いたことが無いで!」
ダイコクは両手を挙げていた。
降参ということなんだろう、なんともひょうきんな神様だ。
それはよく分かる、漏れなくそんな反応だからね。
「でもそれで説明がつくなぁ、せやないと街を造り上げる指導なんて出来る訳がないがな、権能が広すぎるやないかい」
「ダイコクさん、僕のパパ凄いでしょう?」
ギル君・・・どや顔は止めなさい。
「ほんまやな、ギルのパパは凄すぎるやないかい。でなんでギルのパパやねん」
俺はずっこけそうになった。
今それ言うの?
遅いでしょ?
「それは俺が卵を孵化させたからですよ」
「ほう・・・そうかいな・・・ドラゴンと言えば、北半球にはドラゴンを祭る村があるんやで、知っとるか?」
俺はギルと顔を見合わせた。
「ドラゴンを祭る村ですか?」
ギルのテンションが一気に上がる。
「せや、儂も詳しくは知らんが、わての住む『ルイベント』王国から北に向かってゆくと、ベルル山脈と呼ばれる高度の高い山岳地帯があるんや、それを超えて二ヶ月も進むとドラゴンを祭る村があると聞いたことがある。わては行ったとはないけどな」
ギルは眼を輝かせている。
ドラゴンを祭る村か・・・そこにエリスが居るとは限らないが、何かしらの情報は手に入るのではなかろうか?
期待で胸が膨らむ。
ギルも目を輝かせていた。
「ダイコクさんはドラゴンのエリスを知っていますか?」
ギルは前のめりだ。
「ドラゴンのエリス・・・聞いたことがあるような・・・無いような・・・すまんよう分からん」
「いえ、大丈夫です」
ギルは落ち込んではいない。
ここまでドラゴンに関する情報に踏み込めたことは無かったからな。
それにドラゴンを祭る村は、これまでゴンガスの親父さんにそんな村があると聞いたことがあるだけだ。
それが実在し、場所まで知りうることができたのだ。
これでいつでもドラゴンを祭る村に行くことができる。
エリスの背中が見えてきた気がする。
「ギルはそのエリスとはどんな関係なんや?」
遠慮も無くダイコクは踏み込んできた。
「多分・・・僕のママだと思う・・・」
ギルは照れているような苦いような、何といえない笑顔を浮かべている。
「そうか、すまんな、変なことを聞いてもうたな」
「いいよ、そんなことより、そのドラゴンを祭る村に関して知っていることは何かないの?」
ギルの前のめりは止まらない。
「せやな、わては直接行ったことないから詳しくは知らんが、ルイベントは交流がまったくない訳ではないんやで」
「そうなんだ」
「わてが知る限りでは、住民のほとんどがリザードマンちゅうことや、リザードマンはドラゴンを崇拝しておるみたいやで、そしてエンシェントドラゴンがおるっちゅうことや、エンシェントドラゴンと言うたら、最長老のドラゴンや、その持つ知識は深く、この世界が出来た頃から生きていると言われてる存在なんやで、そして世界を滅ぼす力を持つとの逸話がある存在やねん」
なぜかダイコクはどや顔だ。
確かにリザードマンはドラゴンを崇拝している傾向にある。
俺は何度か、ギルに尊敬の念を持って見つめているリザードマンを見たことがある。
ある意味俺以上にギルに対して従順だ。
それを分かってか、ギルもリザードマン達の前では毅然とした態度を取っていることがある。
「そうなんだ!」
ギルは拳を握りしめていた。
相当興奮している。
「後はどうなの?」
ギルの興奮は止まらない。
「そやな・・・以上や」
これまたずっこけそうになってしまった。
いらない間はなんだったのか?
ギルは思わず椅子から滑り落ちそうになっていた。
「ダイコクさん・・・ちょいちょい放り込んできますね」
「すまん、すまん、そんな性分なんや」
まあいいけど。
関西弁を話すだけはあるな。
話を戻そう。
「ドラゴンを祭る村については思いだしたことがあったら教えてください。他に聞きたいことは何ですか?」
「そうやな、島野はん達は南半球から来たんやろ?それは間違いないか?」
それ以外に考えられないだろう。
「ええ、そうですね」
「どうやって来たんや?」
「クルーザーで来たんだよ」
ギルは何時になく饒舌だ。
それにしてもよかった、ここで転移扉と言われてしまっては止めるしかないからな。
まだそこまで心を開く訳にはいかない。
北半球と南半球を繋げるかは俺の一存では決めてはいけないと思う。
ここで転移扉の存在を明かす訳にはいかない。
今回は念のために入口の脇に設置している転移扉を隠しているぐらいだ。
流石にそれぐらいの観察眼をギルは持ってるみたいだ。
俺の方をチラリと見てきた。
分かってますよと言いたげな眼をしている。
「クルーザーってなんやねん?」
「時速百キロ以上出る船のことです、明日にでも見せますよ」
「時速百キロやと?マジかいな?」
ダイコクは呆れた顔をしていた。
「クルーザーは面白いよ、それに楽しいよ」
どうにもギルが前のめりになると脱線しそうになる。
まあいいか。
「そうかい、で、南半球でも神気不足になっとるんか?」
「実はですね・・・」
俺はこれまでの神気減少問題について行ってきたことや、その原因となること、対処方法などについて話をした。
ダイコクは何時になく真剣に話を聞いていた。
やはり彼にとっても神気減少問題は真摯に取り組まなければいけない事柄のようだ。
その対処方法についての質問が絶えなかった。
その様を見る限り、神気の減少に相当に悩まされてきたみたいだ。
ダイコクは今日この魔物同盟国に来た際に感じた神気の充足感に、涙を流しそうだったと言っていた。
その表情を見る限り大袈裟に話しているとは思えなかった。
でも俺に言わせてみれば、この魔物同盟国での神気の充足感は全く足りない。
サウナ島の半分しかないと感じる。
それに日本に帰ればサウナ島の数倍は充実している。
俺が思う以上に北半球での神気減少問題は切実になっているみたいだ。
これは北半球に住む神様全員に影響していることだろう、先ほど話に挙がったエンシェントドラゴンもその限りではないだろう。
それにエリスもそうだろう。
ダイコクはお地蔵さんを十体欲しいと懇願してきた。
勿論快く快諾した。
後はルイベントには教会があるらしく、その改修も頼まれた。
でもダイコクの表情を見る限りこれで一安心ではないのは分かる。
俺は敢えてそこに踏み込んでみた。
「お地蔵さんは明日にでも準備しましょう、でも何か言いたげですよね?」
「・・・敵わんな・・・分かるか?」
「ええ、俺は読心術は使えませんが、表情からある程度の事は分かりますよ。これでも心理カウンセラーですので」
「・・・そうかい・・・心理カウンセラーってのは知らんが、実はな、この北半球では神様離れが進んどるんや・・・」
「神様離れですか?」
「せや、百年前の大戦以降、神様離れが進んでおるんや・・・儚いことやで・・・この世界は神が顕現している世界や・・・神の能力が生活を支えておる・・・でもなあ・・・大戦以来この世界の荒廃は進んでるんや・・・この荒廃した世界を神は救う事が出来へんと神を崇拝する文化が廃れて来ておるんや・・・」
「そんな・・・」
ギルが思わず口ずさむ。
でも俺には分からなくも無かった。
人々にとって、神は崇拝するべき存在であったのは間違いない。
生活を支えてくれた存在なのだから。
でもその存在が、その権能を発揮できない状態になっていることなど、民衆は知りもしないのだ。
もしかしたらその様子は怠慢に見えたのかもしれない。
その権能を使わなくなったのだと・・・
借りにその事情を知ったとしてもどうだろうか?
神様は使いものにならないと吐き捨てることは容易に想像できる。
民衆にとっては日々の生活が最優先事項なのだから。
明日食べる食事を神様が準備してくれる訳ではないのだ。
そうなってしまえば崇拝する必要が何処にあるのだろうか?
そう考えてしまうのは手に取る様に分かる。
下手をすると邪魔な存在と感じてしまうことも考えられなくもない。
能力を持っているが故に、その存在が面倒だと感じても間違いは無いのだ。
それだけの危険の可能性があると、ここに来て俺は痛烈に感じてしまった。
そういった側面をこれまで全く考えてもみなかった。
これは良くない。
逆風と言えなくもない。
まさか風下に立つことになろうとは・・・
よくもこの状況でダイコクはこれまでやって来られたものだと、感心してしまう程だ。
そしてダイコクが不穏なことを言い出した。
「でな、これは悪まで噂や、中には神殺しを生業とする者もおるっちゅう話や、噂やけどな・・・」
神殺し?
余りに荒唐無稽とも言えなくはない・・・
なぜならば神は殺すことは出来るからだ。
前にゴンズ様が言っていた。
神力が無くなった状態で首を切られたら、消滅すると。
しかしそこまでする必要性は何処にあるのだろうか?
神を殺すなんてあまりに恐れ多い事だ。
神罰が降ることも容易に考えられる。
その神罰が末代にまで及ぶ可能性すらある。
どうしてそこまで神を恨むことが出来るのだろうか?
「でもちょっと考えられないですね。神を殺す事に何の意味があるのでしょうか?」
「そうやな、わてもそう思う。いうても噂や、気にせんでええ」
ここは話題を変えたい。
「ですね。他に聞きたいことはありますか?」
話を変えたほうがよさそうだ、現にギルが神妙な顔をしている。
決して心地いい会話では無い。
「せやな、南半球の事を知りたいで」
ここは慎重に話さなければならない、まだ転移扉の存在を明かす訳にはいかないからな。
それにまだダイコクを全面的に信用する訳にはいかない。
「南半球は至って平和ですよ、俺達はほとんどの国や街に訪れましたが、争っている国などは皆無ですよ」
「そうかい・・・それは羨ましいやないか・・・」
「やはり北半球は今でも戦争などがあるのですか?」
終息してくれていると嬉しいのだが・・・
「そうや・・・『ビランジ』国と『ポルレフ』国は、百年前の大戦以降、今だに戦争を継続中や、まあ今では小競り合いになっとるということやが、どうにもあれは止められん。どちらかが滅ぶまで続くやろうな。悲しいことやで」
ダイコクは居たたまれない表情をしていた。
「戦争の原因はそもそも何なんですか?」
これを俺は聞きたかったのだ。
「元々は領土拡大やったと思うで、でもな、それは表面的な理由や、本当の所はよく分からん、せやけど今はもう当初の目論見では無くなっておるんや、先祖の恨みを晴らそうと、復讐の連鎖になっとるんや」
そうなるんだろうな・・・それにしても百年以上も戦争が続くなんて・・・考えられない。
なにより人的な要因もそうだが資源が尽きるに決まっている。
どうなっているんだ?
今では小競り合いとなっているみたいだがそれにしても・・・
よくもそこまで恨みが続くものだな。
俺には全く分からない。
でももし俺の家族に危害を加えられたらどうなんだろうか?
ノンやゴン、ギルやエル、レケやエクスが傷つけられたら・・・
そう考えると分からなくもない。
でもそれを百年も続けられるものなんだろうか?
数年は尾を引くのは想像できる、でも・・・
どこかで俺は気持ちを切り替えるんじゃないかと思う。
前を向いて生きようとするのではないだろうか?
その当事者になっていない俺には、あくまで想像の域を超えることはできないのだが。
「その二国以外でも争いはあるんですか?」
「無くはないが、そこまででもないな。にしてもわてには気になることがあるんや・・・」
「といいますと?」
「そもそも『ビランジ』国と『ポルレフ』国は大戦以前は良好な関係やったんや、それが急に関係が悪くなってもうた。当時を知るわてとしても何であの両国が戦争に至ったのか今でも考えられんのや、それに被害がひどすぎる、なんであそこまで長期化したのかわてには不思議なんや」
ダイコクは眉間に皺を寄せていた。
それに忌避感が表情に現れている。
やはりダイコク神である、その魂の中心には慈悲があり、戦争という物が認められないのだろう。
「どれぐらいの被害がでたんですか?」
「両国共に二十万人の死者がでたんや、ケガや障害を負った者はその倍やで」
「それはひどすぎる、因みに戦力はどれぐらいだったんですか?」
「『ビランジ』国は八十万人『ポルレフ』国は九十万人や」
なるほど、ダイコクが言わんとすることは良く分かる。
戦争において、通常戦力の三割も削られれば、大敗と考えられ、その段階で何かしらの休戦協定が結ばれたりするものである。
しかし聞く限りでは七割以上の消費をしてやっと一時休戦となったようだ。
そこまで争い続けたことに疑問が残る。
それに戦争前までは良好な関係であったことからも、ここまでの消耗戦を行ったことがあまりに異質だ。
恐らくオリビアさんから聞いた大戦の模様の中で使われたであろう洗脳が関係しているのかもしれない。
「因みにその中に魔物達はいたんでしょうか?」
「いや、それは無いな、にしてもどうにも合点がいかんのや・・・」
「そうでしょうね、常識的には考えられない。これは第三者の意図があったということですかね?」
そう考えるのが妥当だろう。
第三者が両国の関係を悪化させ、戦争へと導いた。
戦争を凄惨なものにし、そして何かしらの利益を得ると・・・
もしかして死の商人でもいるのだろうか?
「・・・多分な・・・そうとしか考えられへん・・・」
「そうですか・・・」
「それにあの大戦を気に神気が薄くなりおった・・・これを偶然の一致と考えるのは愚の骨頂やろうか?」
その考えは正しいと思う。
「ですね・・・さっきも話した通り、世界樹が枯れてしまったのも百年前ですしね」
「それはどうなんやろうな?北半球と南半球では関係性がなさ過ぎるで」
確かにそうかもしれない、でも俺にはそうとも言いきれないと考えてしまう。
「考えすぎですかね?」
「答えは分からんがな・・・」
「第三者の意図とは何でしょうか?この世界に戦争を起こさせるメリットが何処にあるのか?そして近年に続く神様への崇拝離れ・・・」
ダイコクは身を乗り出した。
「そこを繋げるんかいな?」
ダイコクは嘘だろうと言いたげだ。
「ええ、そうとしか考えられないですね。第三者の意図が現在の神様離れを意図したものであったとしたならば・・・そのきっかけとして戦争を起こさせて、北半球を混乱に陥れた。としてもおかしくは無い。ただ分からないのは神気の減少をどうやって引き起こしたのかということです・・・」
ダイコクは席に付き、眼を瞑り考えを巡らせだしだ。
そして俺は一つ嫌な可能性を導きだしていた。
それはダイコクが実はその第三者の関係者、もしくは協力者であるとの可能性だ。
それも本人が意図していない上でだ。
そう考える原因はオリビアさんから聞いた大戦の様子の中で、洗脳が使われているのではないかと思ったからだ。
ダイコクが本人の知らぬ間に、洗脳を受けている可能性が否定できない。
俺は念のため『催眠』を発動させていた。
この先ダイコクの発言は潜在意識下の物となる、即ち嘘は付け無いということだ。
相当念入りな擦り込みをされていない限り、自分で思ってもいない発言は出来ない。
「つまりや・・・第三者の意図は神を陥れるということかいな?」
「そうです」
俺はダイコクの表情をこれまで以上に観察することにした。
「そう言われると、確かに辻褄が合うてまうな・・・」
「俺にはそうとしか考えられないですね」
ダイコクは眼をあけてこちらを見定めた。
その眼に曇りは無かった。
「島野はん・・・じぶん相当鋭いな・・・関心してまうで」
「それはどうも・・・」
「ちょっと待ってパパ、整理していい?」
ギルは頭の中を整理したいみたいだ。
「ああ」
「百年前に起こった大戦には第三者の介入があって、友好的な両国が戦争になってしまった。そしてそれは今にも続いている。その意図は神への崇拝を無くさせることっていうことなの?」
恐らくそうなんだろう・・・
「だぶんな・・・俺にはそうとしか考えられない。でもその理由が分からない」
「わてにも見当が付かんがな、それにその第三者はいったい誰やねん」
その発言に嘘は感じられない。
神の権能で支えられているこの世界の根底を覆そうとする行為だ。
意図がそうであったとして、その目的が見えてこない。
この世界を単純に破壊したいということなんだろうか?
それはあまりにも安直過ぎる。
そうであったとして何でこの世界を破壊したいのだろうか?
どうやらここで一旦手詰まりとなりそうだ。
今はこれ以上の考察は出来そうに無いな。
まだまだ情報が足りない。
ダイコクの反応を見る限り、彼は本心を語っているようだった。
疑ってすまないが、念には念を入れなければならない。
俺はそっとダイコクの『催眠』を解いた。
それにしても、北半球は思っている以上に不穏な空気が漂っているみたいだ。
でも俺に出来ることにはまだ限りがある。
今一度能力の開発を行うべきなんだろうか?
まずはこの情報を南半球に持ち帰るべきだろう。
神様ズとの会議が必要な段階がきたみたいだ。
五郎さんやゴンガスの親父さんと意見を戦わせてみたい。
「そんな不届き者が居ようとは・・・」
これまで黙っていたソバルが呟いた。
その眼は何かを決心した眼をしていた。
その後、いい時間になってしまった為、今回はお開きにすることにした。
ライルが完全に鼾をかいて寝だしてしまったのだ。
ダイコクさんとライルは魔物同盟国に滞在することになった。
彼らが満足するまでは帰ることはないだろう。
ダイコクさんは嬉しそうにそう宣言していた。
そうしてくれて構わない。
こちらとしてもまだまだ話したい事や聞きたい事が山ほどある。
ここからは時間も必要になるだろう。
せっかく袖振り合う隣人が出来たのだ。
じっくりと関係を深めたいものだ。
まだまだ先は長そうだ・・・