遂に俺は北半球に来て初めて神様に出会うことになった。
初のお客様は神様であるとノンから聞いていたのだ。
何となくそうでは無いかとの勘は働いていたのだが、案の定という程の強い物ではなかった為、少しだけ驚いた。
俺は予めソバル達に初めに俺の所に連れてくるのではなく、街を一通り案内してから連れてくるように指示していた。
その思惑は、まずは俺がここに定住する神であると誤解を招く可能性がある為だ。
特に何かしらの考えがあって、この街に訪れた者であれば、最高責任者に会いたいとなるだろう。
しかし、俺はこの街の最高責任者では無く、アドバイザーでしかない。
それを防ぐ為のことだ。
更には俺に会うにしてもこの街の価値を知った上で会いにきて欲しいからだ。
俺がこの街の良さをアピールするよりも、見て知って経験してからの方が話は早い。
それに俺がアテンドするのもどうかと思うしね。
後は魔物達が何回もおもてなしするをするシュミレーションをしていたのに、俺が出しゃばってしまっては本末転倒だろう。
あいつらの頑張りを俺は無下にはしたくない。
この街の全てを観て周るには一日以上は掛かるだろう。
掻い摘んで観るとしても半日近くは掛かるに違いない。
北半球初の神に会うのは恐らく早くて晩飯時か晩酌時だろう。
俺は特に気に掛けることも無く、日中をやり過ごすことにした。
何となく手入れをしたい箇所に梃入れをすることにした。
そして遂にその時を迎えたのだった。
俺は定食屋で晩飯を終え、最近出来た島野一家専用のロッジのリビングで寛いでいた。
本来この街で住居を構えるつもりなど無かったのだが、いつの間にか島野一家専用のロッジが造られていた。
プルゴブからは、
「島野様が我らの国に居続けることは無いと承知しておりますが、寛げる場所が無いのはどうかと思い、勝手ながらも造らせていただきました」
と頭を下げられてしまった。
正直無茶苦茶困った。
だって毎日サウナ島のスーパー銭湯に行くのが当たり前のルーティーンだったからだ。
要らないと言う訳にもいかず、島野一家のロッジとして使う事にした。
外のロッジに比べて、豪華な造りであるのが気になったのだが・・・
まあいいだろう。
一家に相談してみたところ、好意は受け取っておこうということになった。
その為、最近では寝食を魔物同盟国で過ごす日が増えた。
でもいつでもサウナ島に帰れるように、玄関の脇には転移扉も設置されている。
ノンやエル、ゴンには魔物同盟国では『黄金の整い』は行ってもいいと言ってある為、自由にサウナ島と行き来している。
俺は食後の休憩を終え、露天風呂とサウナに行こうとしていた。
不意にドアがノックされる。
ドンドン。
「島野様、よろしいでしょうか?」
ソバルの声がした。
どうやら来たようだな。
「ああ、いいぞ」
扉が開かれる。
「島野様、失礼します」
ソバルが二人の男性を引き連れてロッジに入ってきた。
俺は一目見てその者が神であると分かった。
それには理由がある。
トレードマークとも言える、丸形の頭巾を被っている。
そして特徴的な顔をしていた。
耳朶がデカかった・・・とても。
肩に付こうかという程にデカかった。
この顔は間違いない。
七福神だ。
眼にはひょうきんさが漂っている。
誰からも好かれる、そんな印象を持つ顔立ちをしていた。
まさか北半球初の神が俺の見慣れた神様であったとは・・・
もう一人の男性はお付きの者なのだろう。
控えるように神様の後ろに位置していた。
「始めまして、島野と申します」
俺は立ち上がってから名乗り、ソファーに座る様に誘った。
「わてはダイコクや、よろしゅう」
なんと!
名前まで一緒かよ。
これは偶然の一致なのか?
にしても関西弁って・・・
だからノンはウケるよと言っていたのか・・・
あいつはバラエティーが好きだからな。
ダイコクは誘われるが儘にソファーに腰をかけた。
ソバルは俺の後ろに控える。
「こいつはライルや」
「ライルっす、よろしくっす」
ライルもダイコクの後ろに控えた。
ライルと言われた男性はへこへことしていた。
小者感が漂っている。
「こちらこそ、よろしく。ソバル、一通り見て貰ったのか?」
「は!簡易的でございますが」
「そうか、もう風呂とサウナには入ったのか?」
「いえ、まだでございます」
そういうことなら。
「ダイコクさん、せっかくですので先にまずは風呂とサウナを堪能しませんか?話ならその後どれだけでも話はできますしね」
ダイコクは心得たと視線を送ってきた。
「任せるで、夜はこれからっちゅうことやな」
「そういうことです」
俺達は四人連れ立って風呂とサウナに向かうことになった。
話はいくらでも出来る。
焦る必要は全くない。
話はサウナ明けにビールを傾けながらでいいだろう。
その方が気心が知れていい。
そんなことを想いながら俺はダイコク達を風呂へと誘導した。
俺達は風呂とサウナを楽しむことにした。
まずはマナーをダイコクとライルに教えることにした。
ふたりは熱心に話を聞いていた。
郷に入れば郷に従えと心得ているのだろう。
特に反論することも無く、受け入れている。
早速身体を洗うことにした。
ダイコクはシャンプーが気になったみたいだ。
「これはええなあー」
と頷いていた。
実はシャンプーはサウナ島のアンジェリッチの物では無く。
前に俺が造っていた旧タイプの物だ。
アンジェリッチのシャンプーほどの満足感はないが、どうやら北半球は南半球程、日用品は発展していないみたいだ。
早くも商売の匂いがプンプンしてきた。
正直言って足掛かりは何でもいい。
魔物同盟国にとって認められること、それはすなわち経済力を得るということだ。
その為、国としての体制を整えるには経済に繋がる物品が必要だ。
要はお金になる物が居るということだ。
お金はお金がある所に集まってくる。
今はお金は全くといっていいほどない。
ほんの少しだけ、森で拾ったと俺にお金を持ってきたオーガがいたが。
俺は手に取ってみただけで、大事にとっておけとオーガーに返した。
鑑定してみたところ銅貨だった。
南半球の物とはデザインが違っていたし、銅の含有量も少なく感じた。
南半球での金貨の価値と、北半球での金貨の価値が一緒とは考えてはいけない。
ここはしっかりと見定める必要がある。
俺達は風呂に入ることにした。
ダイコクとライルは思わず声が漏れていた。
「おお~」
「あ~」
表情が綻んでいる。
そこにギルがやってきた。
もしかしたらプルゴブあたりから聞いたのかもしれない。
ギルもダイコクの事が気になるんだろう。
「パパ、一緒するよ」
「おおギル、紹介するよ。ダイコクさんと、ライルさんだ」
ギルは二人を見た。
「僕はギルだよ、よろしくね」
「島野はん、じぶんのご子息かいな?」
「ええ、そうです。俺の自慢の息子です。ギルは今は人化していますがドラゴンです」
ダイコクとライルはフリーズした。
暖かい風呂の中なのに・・・
あんまり上手くないな。
溶けたダイコクは名乗った。
「わてはダイコクや、よろしゅう。にしてもドラゴンってどないなっとんのや?島野はん、自分聖獣も連れとるんやろ?何者やねん」
やはり言われてしまったな。
もう慣れっこだけど。
「家にはドラゴンと、フェンリル、九尾の狐とペガサスがいますよ、北半球には連れてきてないですけど、白蛇と神剣もいます」
ライルはまだ凍ったままだ。
ダイコクは頭を抱えてしまった。
寛ぐ場所なのに、なんだかごめん。
でも嘘は言ってないからね。
それにここを乗り越えて貰わなければ話にならない。
島野一家は、南半球を代表してこの地にいるのだから。
これぐらいで驚かれては先に進めない。
「驚く気持ちはよくわかりますよ、皆さん概ね同じ反応をしますからね」
「あ、ああ・・・」
「今は風呂を楽しみましょう」
「そ、そうだな。すんまへん・・・」
何とか持ち直したダイコクは風呂を楽しんでいた。
ライルはダイコクに小突かれて我を取り戻していた。
さてと、いよいよサウナに入りましょうかね。
サウナ室に入ると八割方埋まっていた。
利用中の魔物達全員が俺とギルに目釈した。
サウナの中では極力静かにするようにとのマナーが徹底されている。
始めはサウナ室で跪く者が居たので、娯楽施設内と仕事中は俺に跪くのは厳禁とのお達しをプルゴブにさせた。
こちらとしても楽しんでいる処を邪魔したくはなし、仕事の手を止めてまですることではない。
「せめて頭を下げさせてください」
というプルゴブに、
「軽い会釈までにしてくれ、特にサウナ室では目釈程度までにしてくれ」
「ですが・・・」
「そもそも俺に跪く必要がないんだよ、もっと気軽に接してくれていいんだぞ」
「名づけ親にそうはいきません、我らにとっては名付け親というだけでは無く、大恩人でございます」
とは言ってもな・・・
「でもゴブオクンなんかは随分気軽になってきたぞ、それでいいんだよ。俺としては」
「・・・ゴブオクンは・・・はぁ・・・時間をください・・・もはやこれは我らの本能ですので・・・」
「そうか・・・好きにしてくれ」
本能って・・・
といったやり取りがあったのだ。
魔物達のこの統制の取れた動きにダイコクは感心していた。
ライルはそんなことは気にもならかなったみたいで、
「熱いっす!」
と騒いで、魔物達に睨まれていた。
マナー違反者には厳しい目線が送られる。
ライルは、
「おっと・・・怖いっすよ・・・」
とぼやいていた。
お前が悪い、反省しなさい。
ちゃんと入口に『大きな声での会話はお控えください』と書いてあったでしょうが!
俺達は下段が空いていた為、揃って座ることにした。
ダイコクが小声で話し掛けてくる。
「島野はん、このサウナちゅうのは強烈やな、どれぐらいここにおるんや?」
「そうですね、好きにして貰っていいのですが、お勧めは汗をかきだしてから三分以上をお勧めしています。入り過ぎはよくないので、ねばり過ぎは厳禁ですよ」
「分かったで」
下段だった所為か汗をかきだすまでに五分近く掛かってしまった。
たまにはこういう日もあっていい。
結局十分ほどでサウナ室から出ることにした。
いい具合に汗をかいていた。
水風呂に入る前に掛け水をすることを二人に教え、俺も掛け水をする。
その後水風呂に入る。
するとまたライルが。
「寒いっす!」
と叫んでいた。
いちいち煩い奴だ。
ライルはどうやらお調子者のようだ。
ダイコクは、
「はぁ~」
と気が抜けた表情をしていた。
どうやら水風呂がお気に召した様子。
「島野はん、これは気持ちええな~」
「この後の外気浴も気持ちいいですよ」
「ほんまかいな~、楽しみやな~」
一分ほど水風呂に浸かった。
「ではいきましょうか」
二人を外気浴場へと誘導した。
ちょうどインフィニティーチェアーが四台空いていた。
もしかしたら魔物達が気を使ってくれたのかもしれない。
ここはご厚意に甘えることにしよう。
「この椅子に腰かけましょう」
「さようか」
「了解っす」
「この椅子は結構後ろまで倒れますので、注意してくださいね」
二人はゆっくりと後ろに倒れていった。
想像以上に後ろに倒れたのだろう。
途中でライルは、
「あわわわ」
と慄いていた。
こいつはどうやら人の話を聞いていないタイプだな。
そんなライルのことは置いといて、身体の内側から感じる熱が全身を駆け巡る。
心拍数が高い。
心拍数が徐々に落ち着いてくると共に感じる解放感。
ダイコクの前では『黄金の整い』は行えない。
でもこの整ったリラックス感だけでも充分だ。
サウナトランス・・・多幸感が止まらない。
ああ、俺はサウナジャンキーだな・・・
余韻に浸っていると、ダイコクに話し掛けられた。
「島野はん・・・最高やないか・・・これはええな~」
「そうでしょ?最高ですよ。あと二セットは行いますよ」
「ほんまか・・・付き合うで・・・」
俺達はサウナを三セット行い、大いに整った。
ダイコクもライルも満足そうな顔をしていた。
よかったよかった。
その表情は解れていた。
そして大いに整った俺達は定食屋を目指した。
晩飯は済んでいるが、食事をする為ではない。
そう、サウナ明けのビールを飲むためだった。
ここまでで一セットだろう。
俺は常々そう思っている。
サウナ明けにビールが無い。
そんな悲しい出来事は俄然認められない。
俺は至福の一杯を口にした。
それに倣ってダイコクとライルもビールを口にした。
ギルはお茶を飲んでいた。
それでもギルは満足そうに麦茶を一気飲みしていた。
その気持ちは分かる。
サウナ明けの麦茶もいいよね~。
「旨ま!これなんやねん、島野はん、至極の組み合わせやないかい!最高やでー!」
「ほんと旨いっす!最高っす!」
二人は一気に飲み干す勢いでビールを飲んでいた。
今は余韻に浸っている。
幸せを噛みしめている表情をしていた。
不意にダイコクが話だした。
「島野はん、今日はいろいろあったが、最高の一日やったで、恩にきるで。それにしても魔物達がここまでの国を造り上げたんか・・・儂にはようせなんだことや、でもじぶんはやってしもうたんやな・・・まったく、敵わんわい」
眼を閉じながらダイコクは幸せそうな顔で言っていた。
「ダイコクさん、それはちょっと違いますよ。俺は確かに加護を与えたし、知恵も貸した。この国の今の繁栄は魔物達が全て造り上げたものですよ。俺はそのためのきっかけを与えたに過ぎません」
ダイコクは眼を開けると、
「さようか・・・・」
と呟いた。
この後は話し合いになるだろう。
これまで謎に包まれていた北半球の全貌が明らかになるかもしれない。
神気減少問題の原因に辿り着くことが出来るのだろうか?
俺は期待と不安に揺れていた。
今はサウナ明けのビールの余韻に浸りたい・・・
でもそうともいかないのだろうな・・・
初のお客様は神様であるとノンから聞いていたのだ。
何となくそうでは無いかとの勘は働いていたのだが、案の定という程の強い物ではなかった為、少しだけ驚いた。
俺は予めソバル達に初めに俺の所に連れてくるのではなく、街を一通り案内してから連れてくるように指示していた。
その思惑は、まずは俺がここに定住する神であると誤解を招く可能性がある為だ。
特に何かしらの考えがあって、この街に訪れた者であれば、最高責任者に会いたいとなるだろう。
しかし、俺はこの街の最高責任者では無く、アドバイザーでしかない。
それを防ぐ為のことだ。
更には俺に会うにしてもこの街の価値を知った上で会いにきて欲しいからだ。
俺がこの街の良さをアピールするよりも、見て知って経験してからの方が話は早い。
それに俺がアテンドするのもどうかと思うしね。
後は魔物達が何回もおもてなしするをするシュミレーションをしていたのに、俺が出しゃばってしまっては本末転倒だろう。
あいつらの頑張りを俺は無下にはしたくない。
この街の全てを観て周るには一日以上は掛かるだろう。
掻い摘んで観るとしても半日近くは掛かるに違いない。
北半球初の神に会うのは恐らく早くて晩飯時か晩酌時だろう。
俺は特に気に掛けることも無く、日中をやり過ごすことにした。
何となく手入れをしたい箇所に梃入れをすることにした。
そして遂にその時を迎えたのだった。
俺は定食屋で晩飯を終え、最近出来た島野一家専用のロッジのリビングで寛いでいた。
本来この街で住居を構えるつもりなど無かったのだが、いつの間にか島野一家専用のロッジが造られていた。
プルゴブからは、
「島野様が我らの国に居続けることは無いと承知しておりますが、寛げる場所が無いのはどうかと思い、勝手ながらも造らせていただきました」
と頭を下げられてしまった。
正直無茶苦茶困った。
だって毎日サウナ島のスーパー銭湯に行くのが当たり前のルーティーンだったからだ。
要らないと言う訳にもいかず、島野一家のロッジとして使う事にした。
外のロッジに比べて、豪華な造りであるのが気になったのだが・・・
まあいいだろう。
一家に相談してみたところ、好意は受け取っておこうということになった。
その為、最近では寝食を魔物同盟国で過ごす日が増えた。
でもいつでもサウナ島に帰れるように、玄関の脇には転移扉も設置されている。
ノンやエル、ゴンには魔物同盟国では『黄金の整い』は行ってもいいと言ってある為、自由にサウナ島と行き来している。
俺は食後の休憩を終え、露天風呂とサウナに行こうとしていた。
不意にドアがノックされる。
ドンドン。
「島野様、よろしいでしょうか?」
ソバルの声がした。
どうやら来たようだな。
「ああ、いいぞ」
扉が開かれる。
「島野様、失礼します」
ソバルが二人の男性を引き連れてロッジに入ってきた。
俺は一目見てその者が神であると分かった。
それには理由がある。
トレードマークとも言える、丸形の頭巾を被っている。
そして特徴的な顔をしていた。
耳朶がデカかった・・・とても。
肩に付こうかという程にデカかった。
この顔は間違いない。
七福神だ。
眼にはひょうきんさが漂っている。
誰からも好かれる、そんな印象を持つ顔立ちをしていた。
まさか北半球初の神が俺の見慣れた神様であったとは・・・
もう一人の男性はお付きの者なのだろう。
控えるように神様の後ろに位置していた。
「始めまして、島野と申します」
俺は立ち上がってから名乗り、ソファーに座る様に誘った。
「わてはダイコクや、よろしゅう」
なんと!
名前まで一緒かよ。
これは偶然の一致なのか?
にしても関西弁って・・・
だからノンはウケるよと言っていたのか・・・
あいつはバラエティーが好きだからな。
ダイコクは誘われるが儘にソファーに腰をかけた。
ソバルは俺の後ろに控える。
「こいつはライルや」
「ライルっす、よろしくっす」
ライルもダイコクの後ろに控えた。
ライルと言われた男性はへこへことしていた。
小者感が漂っている。
「こちらこそ、よろしく。ソバル、一通り見て貰ったのか?」
「は!簡易的でございますが」
「そうか、もう風呂とサウナには入ったのか?」
「いえ、まだでございます」
そういうことなら。
「ダイコクさん、せっかくですので先にまずは風呂とサウナを堪能しませんか?話ならその後どれだけでも話はできますしね」
ダイコクは心得たと視線を送ってきた。
「任せるで、夜はこれからっちゅうことやな」
「そういうことです」
俺達は四人連れ立って風呂とサウナに向かうことになった。
話はいくらでも出来る。
焦る必要は全くない。
話はサウナ明けにビールを傾けながらでいいだろう。
その方が気心が知れていい。
そんなことを想いながら俺はダイコク達を風呂へと誘導した。
俺達は風呂とサウナを楽しむことにした。
まずはマナーをダイコクとライルに教えることにした。
ふたりは熱心に話を聞いていた。
郷に入れば郷に従えと心得ているのだろう。
特に反論することも無く、受け入れている。
早速身体を洗うことにした。
ダイコクはシャンプーが気になったみたいだ。
「これはええなあー」
と頷いていた。
実はシャンプーはサウナ島のアンジェリッチの物では無く。
前に俺が造っていた旧タイプの物だ。
アンジェリッチのシャンプーほどの満足感はないが、どうやら北半球は南半球程、日用品は発展していないみたいだ。
早くも商売の匂いがプンプンしてきた。
正直言って足掛かりは何でもいい。
魔物同盟国にとって認められること、それはすなわち経済力を得るということだ。
その為、国としての体制を整えるには経済に繋がる物品が必要だ。
要はお金になる物が居るということだ。
お金はお金がある所に集まってくる。
今はお金は全くといっていいほどない。
ほんの少しだけ、森で拾ったと俺にお金を持ってきたオーガがいたが。
俺は手に取ってみただけで、大事にとっておけとオーガーに返した。
鑑定してみたところ銅貨だった。
南半球の物とはデザインが違っていたし、銅の含有量も少なく感じた。
南半球での金貨の価値と、北半球での金貨の価値が一緒とは考えてはいけない。
ここはしっかりと見定める必要がある。
俺達は風呂に入ることにした。
ダイコクとライルは思わず声が漏れていた。
「おお~」
「あ~」
表情が綻んでいる。
そこにギルがやってきた。
もしかしたらプルゴブあたりから聞いたのかもしれない。
ギルもダイコクの事が気になるんだろう。
「パパ、一緒するよ」
「おおギル、紹介するよ。ダイコクさんと、ライルさんだ」
ギルは二人を見た。
「僕はギルだよ、よろしくね」
「島野はん、じぶんのご子息かいな?」
「ええ、そうです。俺の自慢の息子です。ギルは今は人化していますがドラゴンです」
ダイコクとライルはフリーズした。
暖かい風呂の中なのに・・・
あんまり上手くないな。
溶けたダイコクは名乗った。
「わてはダイコクや、よろしゅう。にしてもドラゴンってどないなっとんのや?島野はん、自分聖獣も連れとるんやろ?何者やねん」
やはり言われてしまったな。
もう慣れっこだけど。
「家にはドラゴンと、フェンリル、九尾の狐とペガサスがいますよ、北半球には連れてきてないですけど、白蛇と神剣もいます」
ライルはまだ凍ったままだ。
ダイコクは頭を抱えてしまった。
寛ぐ場所なのに、なんだかごめん。
でも嘘は言ってないからね。
それにここを乗り越えて貰わなければ話にならない。
島野一家は、南半球を代表してこの地にいるのだから。
これぐらいで驚かれては先に進めない。
「驚く気持ちはよくわかりますよ、皆さん概ね同じ反応をしますからね」
「あ、ああ・・・」
「今は風呂を楽しみましょう」
「そ、そうだな。すんまへん・・・」
何とか持ち直したダイコクは風呂を楽しんでいた。
ライルはダイコクに小突かれて我を取り戻していた。
さてと、いよいよサウナに入りましょうかね。
サウナ室に入ると八割方埋まっていた。
利用中の魔物達全員が俺とギルに目釈した。
サウナの中では極力静かにするようにとのマナーが徹底されている。
始めはサウナ室で跪く者が居たので、娯楽施設内と仕事中は俺に跪くのは厳禁とのお達しをプルゴブにさせた。
こちらとしても楽しんでいる処を邪魔したくはなし、仕事の手を止めてまですることではない。
「せめて頭を下げさせてください」
というプルゴブに、
「軽い会釈までにしてくれ、特にサウナ室では目釈程度までにしてくれ」
「ですが・・・」
「そもそも俺に跪く必要がないんだよ、もっと気軽に接してくれていいんだぞ」
「名づけ親にそうはいきません、我らにとっては名付け親というだけでは無く、大恩人でございます」
とは言ってもな・・・
「でもゴブオクンなんかは随分気軽になってきたぞ、それでいいんだよ。俺としては」
「・・・ゴブオクンは・・・はぁ・・・時間をください・・・もはやこれは我らの本能ですので・・・」
「そうか・・・好きにしてくれ」
本能って・・・
といったやり取りがあったのだ。
魔物達のこの統制の取れた動きにダイコクは感心していた。
ライルはそんなことは気にもならかなったみたいで、
「熱いっす!」
と騒いで、魔物達に睨まれていた。
マナー違反者には厳しい目線が送られる。
ライルは、
「おっと・・・怖いっすよ・・・」
とぼやいていた。
お前が悪い、反省しなさい。
ちゃんと入口に『大きな声での会話はお控えください』と書いてあったでしょうが!
俺達は下段が空いていた為、揃って座ることにした。
ダイコクが小声で話し掛けてくる。
「島野はん、このサウナちゅうのは強烈やな、どれぐらいここにおるんや?」
「そうですね、好きにして貰っていいのですが、お勧めは汗をかきだしてから三分以上をお勧めしています。入り過ぎはよくないので、ねばり過ぎは厳禁ですよ」
「分かったで」
下段だった所為か汗をかきだすまでに五分近く掛かってしまった。
たまにはこういう日もあっていい。
結局十分ほどでサウナ室から出ることにした。
いい具合に汗をかいていた。
水風呂に入る前に掛け水をすることを二人に教え、俺も掛け水をする。
その後水風呂に入る。
するとまたライルが。
「寒いっす!」
と叫んでいた。
いちいち煩い奴だ。
ライルはどうやらお調子者のようだ。
ダイコクは、
「はぁ~」
と気が抜けた表情をしていた。
どうやら水風呂がお気に召した様子。
「島野はん、これは気持ちええな~」
「この後の外気浴も気持ちいいですよ」
「ほんまかいな~、楽しみやな~」
一分ほど水風呂に浸かった。
「ではいきましょうか」
二人を外気浴場へと誘導した。
ちょうどインフィニティーチェアーが四台空いていた。
もしかしたら魔物達が気を使ってくれたのかもしれない。
ここはご厚意に甘えることにしよう。
「この椅子に腰かけましょう」
「さようか」
「了解っす」
「この椅子は結構後ろまで倒れますので、注意してくださいね」
二人はゆっくりと後ろに倒れていった。
想像以上に後ろに倒れたのだろう。
途中でライルは、
「あわわわ」
と慄いていた。
こいつはどうやら人の話を聞いていないタイプだな。
そんなライルのことは置いといて、身体の内側から感じる熱が全身を駆け巡る。
心拍数が高い。
心拍数が徐々に落ち着いてくると共に感じる解放感。
ダイコクの前では『黄金の整い』は行えない。
でもこの整ったリラックス感だけでも充分だ。
サウナトランス・・・多幸感が止まらない。
ああ、俺はサウナジャンキーだな・・・
余韻に浸っていると、ダイコクに話し掛けられた。
「島野はん・・・最高やないか・・・これはええな~」
「そうでしょ?最高ですよ。あと二セットは行いますよ」
「ほんまか・・・付き合うで・・・」
俺達はサウナを三セット行い、大いに整った。
ダイコクもライルも満足そうな顔をしていた。
よかったよかった。
その表情は解れていた。
そして大いに整った俺達は定食屋を目指した。
晩飯は済んでいるが、食事をする為ではない。
そう、サウナ明けのビールを飲むためだった。
ここまでで一セットだろう。
俺は常々そう思っている。
サウナ明けにビールが無い。
そんな悲しい出来事は俄然認められない。
俺は至福の一杯を口にした。
それに倣ってダイコクとライルもビールを口にした。
ギルはお茶を飲んでいた。
それでもギルは満足そうに麦茶を一気飲みしていた。
その気持ちは分かる。
サウナ明けの麦茶もいいよね~。
「旨ま!これなんやねん、島野はん、至極の組み合わせやないかい!最高やでー!」
「ほんと旨いっす!最高っす!」
二人は一気に飲み干す勢いでビールを飲んでいた。
今は余韻に浸っている。
幸せを噛みしめている表情をしていた。
不意にダイコクが話だした。
「島野はん、今日はいろいろあったが、最高の一日やったで、恩にきるで。それにしても魔物達がここまでの国を造り上げたんか・・・儂にはようせなんだことや、でもじぶんはやってしもうたんやな・・・まったく、敵わんわい」
眼を閉じながらダイコクは幸せそうな顔で言っていた。
「ダイコクさん、それはちょっと違いますよ。俺は確かに加護を与えたし、知恵も貸した。この国の今の繁栄は魔物達が全て造り上げたものですよ。俺はそのためのきっかけを与えたに過ぎません」
ダイコクは眼を開けると、
「さようか・・・・」
と呟いた。
この後は話し合いになるだろう。
これまで謎に包まれていた北半球の全貌が明らかになるかもしれない。
神気減少問題の原因に辿り着くことが出来るのだろうか?
俺は期待と不安に揺れていた。
今はサウナ明けのビールの余韻に浸りたい・・・
でもそうともいかないのだろうな・・・