その後も娯楽を広めようは続く。
南半球でも広めていない娯楽は何かと俺は考えた。
二番煎じでもいいのだが、気分的に新しい娯楽を持ち込みたかったのだ。
そして広めたのはモルックだった。
日本に帰った時に知ったゲームだ。
おでんの湯のサウナ室に入っていた時に、TVでやっていたのを見かけたのが切っ掛けだ。
こけしの様な木材の顔の部分に数字が刻まれており。
それを円状に何本も並べたところに木材を投げ込む。
そして倒れた木材の数字を足して五十になった者が勝ちというゲームだ。
ルールの詳細はいろいろあるようだが、簡易的でいいだろう。
魔物達はモルックを大いに楽しんだ。
というか大流行した。
ゲームや遊びという概念が無かった魔物達にとっては斬新だったみたいだ。
魔物達はゲームを楽しむということを満喫しだしていた。
大いに結構!
ゲームは嵌ると楽しいよね。
気持ちは良く分かる。
沢山楽しんでくれ!
そして気分を良くした俺は、これまで南半球で導入してきた娯楽を次々と導入した。
今では娯楽場まで造られている始末だ。
ここまで急速に広まるとは思ってもみなかった。
一度ゲームの楽しみを知ってしまったが最後、ここぞとばかりに魔物達は全力で娯楽を極めようとしていた。
俺に向けて沢山娯楽を導入してくれとの圧が凄い。
将棋やオセロ、ビリヤードにダーツ、そしてバスケットボールとバレーボール。
そして漫画と本を図書館に俺は格納した。
連日図書館は大賑わいとなった。
というか漫画にド嵌りし、連日徹夜をするものまで現れてしまった。
少々刺激が強すぎたみたいだ。
今では図書館の利用時間は制限されており、徹夜する者達は減った。
やれやれだ。
その熱意は買うが・・・
限度というものがあるだろう。
スポーツも大いに賑わった。
健全で宜しい!
今ではバスケットに関しては十チーム以上あるぐらいだ。
何処かでランドのチームと戦わせても良いのかもしれない。
あ!俺が監督だった・・・
俺の見方としては魔物達の方が強いと思う。
たぶん・・・
将棋やオセロなどは知力の底上げになると、ほとんどの魔物達が競いあうように切磋琢磨していた。
皆な本気で戦っていた。
正に熱を帯びていた。
今後大会も開催されるみたいだ。
好きに楽しんで欲しい。
懸賞は何か準備させて貰おう。
何が良いかな?
実は野球はまだとっておいてある。
流行ることは鉄板だからだ。
まだまだ楽しみは取っておこうということだ。
第一陣で披露するにはもったい無いからね。
俺は今度時間がある時にゴルフを導入しようと考えている。
問題はゴルフボールだった。
あの細かい凹みをどうしようか思案処だ。
俺の能力で造ることはできるが、ゴブスケが再現できなければ意味が無い。
ゴブスケに期待だ。
ゴルフコースは・・・いくらでも造れそうだ。
手間はかかるだろうけども・・・
でも受けるに違い無いだろう。
俺は魔物同盟国会議で皆に一つ提案することにした。
本当は口を挟むべきでは無いのだが、言わざるを得なかったのだ。
それは休日の導入だ。
俺は週休二日を提案した。
その意図はあまりに魔物達は従順に働き過ぎていたからだ。
こいつらは毎日働いて当たり前と思っていた。
現在の魔物会議の主要メンバーはソバル、プルゴブ、オクボス、コルボス、クモマル、リザオ、マーヤ、の七名だ。
そこに俺がアドバイザーとして参加している。
たまにギルとゴンも参加することもある。
島野一家の参加率は適当だ。
特に何も決めてはいない。
ノン以外の島野一家の面々は参加したたことがある。
それでいいだろう。
ノンが参加しても、どうせ寝てしまうに決まっている。
そんな姿をプルゴブ達に見せるのもどうかと思う。
「島野様、休日とは何なのでしょうか?」
クモマルが尋ねてきた。
そこからか・・・
一瞬頭を抱えそうになった。
教えて差し上げましょう!
「休日とは休みの日のことだ、その日は仕事をしなくていい、そして各自好きな事をして過ごしていい日なんだ」
全員が嘘だろという表情をしていた。
だが休日は確実に必要だ。
無くてはならないとも言える。
休日無くして何が自由な人生か?
人生を謳歌するには無くてはならないだろう。
「仕事をしなくていい日なんて・・・」
「いったい何をすればいいんだ・・・」
「生産性が落ちるのでは?」
「返って落ち着かないかも?」
いまいち休日の良さを理解していないみたいだ。
これは良く無い。
これまでは常に働くことが当たり前だったのだからしょうが無いかもしれないが、ここから改めなければいけない。
毎日働くことが当たり前と言う概念から覆さなければならない。
こうなれば固定観念を打ち砕くのみだ。
さて語ろうか・・・
「いいか、ちゃんと休みを取ることによって、心と身体をリセットすることは大事な事だ。それにちゃんと休みを取ることによって、生産性が返って上がったというデータもあるぐらいだ。始めはどうしようかと戸惑うかもしれないが、今では娯楽がこの街にはある、好きに過ごせばいいんだよ」
プルゴブが話を繋ぐ。
「せっかくの島野様のご提案、まずは試してみてはどうだろうか?」
「そうだな」
「確かに」
「だな」
と賛同が続く。
「ちょっと待てお前達、俺が言う事が全てでは駄目だろう、自分達でちゃんと考えて決めろよ。お前達の国にするんだろ?」
ソバルが手を挙げた。
「分かっております島野様。実は儂としては、休日に風呂とサウナを大いに楽しみたいと思っておりました」
「俺も」
「俺は釣りがしたいな」
「私は将棋をしたい」
なんだこいつら、何だかんだ言ってやりたいことがあるんじゃないか。
「まあいいさ、お前達の好きすればいい」
「「「「「「は!」」」」」」
この日を境に魔物同盟国では週休二日が当たり前となった。
休日は各自様々な過ごし方をしていた。
ただ数名は仕事が趣味だと休日にも仕事をする者達もいた。
特にゴブスケとゴブコは休もうとしなかった。
個人的には仕事から離れて欲しいのだが、そうは言うまい。
まあ好きにやってくれ。
ほどほどにな。
ダイコクとライルはモエラの大森林を歩んでいた。
此処までに遭遇したのは魔獣が数体しか無かった。
全てC級以下の魔獣であった為、ライルがあっさりと仕留めていた。
(それにしてもおかしいやないか・・・)
ダイコクの違和感は全く止むことが無い。
(わての知っているモエラの大森林はもはやないやないか)
その認識は間違ってはいない。
そしてダイコクはあり得ない光景を目にすることになった。
半日以上かけてやっとたどり着いたオーガの里。
そこはもぬけの殻だった。
(なんやねんこれは・・・あり得ん・・・どないなっとんねん?)
ダイコクの知るオーガの里はもはや無く。
廃墟と化したオーガの里がそこにはあった。
ダイコクの考察が始まる。
(魔獣の襲撃でも受けたんか?)
(な訳ないか・・・襲われた形跡はないしな)
(移住したんか?)
(にしてもなんでや?)
(意味が分からん・・・)
ダイコクは考察をするものの、結論に達することは出来なかった。
ライルは狼狽えるばかりだ。
そして日も暮れようとしていた。
「しゃあないな、ライル。今日はここで過ごすで」
「そうっすね、一先ず火を熾すっす」
ライルは火を熾す準備を始めた。
二人は落ち着かないまま夜を迎えることになった。
翌日。
軽めの朝食を済ませた二人は、モエラの大森林の更に南に歩を進めた。
というのも、人が通った形跡がある道を見つけたからだ。
その道は獣道に近い。
二人の足取りは重い。
特にダイコクに関してはこれまで通い慣れたオーガの里が、もぬけの殻になっており、かつ魔獣の生息域が大きく変化していることが気になって仕方が無かった。
もはやダイコクの知るモエラの大森林では無くなっている。
その事に不安を感じると共に、強烈な興味を抱いているダイコクであった。
ライルは他人事と感じつつも、何かが起こっていることは理解している。
ダイコクほどの不安は感じていないようだ。
そして歩をすすめること数時間、森が慌ただしくなってきた。
風が舞い、空気が重い物になっていた。
二人は異様な気配を感じていた。
「ライル・・・気を抜いたらあかんで」
「分かってるっす・・・」
早くもライルは抜剣している。
ライルの緊張している姿にダイコクは口元を緩める。
その眼は分かっとるやないかとでも言いたそうだ。
不意に進行方向から物音がした。
ガサッガサッ!
目前から魔獣化したジャイアントベアーが現れた。
これは不味いとダイコクはライルの後ろに控える。
魔獣化したジャイアントベアーはAランクの獣だ。
ライルでも手こずることが予想された。
ライルは一度剣を横薙ぎに払い、気合を入れた。
「ダイコク様、もっと下がってくださいっす」
「せやな」
ダイコクは更に後ろに控える。
魔獣化したジャイアントベアーが威嚇を始める。
腕を拡げて咆哮を挙げる。
怯まずライルは状態を低くして構える。
ライルは先手必勝とばかりにジャイアントベアーに向かって行く。
それに応える様に、ジャイアントベアーもライルに標準を定めた。
二人の距離が詰まる。
ライルは剣を下段に構えている。
ジャイアントベアーが四足歩行になり、一気に距離を詰めた。
そこに合せる様に、ライルが剣を切り上げた。
寸でのところでジャイアントベアーが後ろに身体を引いてそれを躱す。
その反動を使って、ライルが剣を戻すところに合わせてジャイアントベアーが前足をライルに向けて襲い掛かる。
狙いは頭だ。
ライルは戦慄していた。
(こいつ分かってやがるっす)
横にスイープしてライルが避ける。
それを追って、二撃目が放たれる。
それをライルは剣で受け止める。
ライルは想像以上の力に身体を持ってかれていた。
(不味い!)
ダイコクは戦闘に関しては素人だ。
だがそんなダイコクでもライルのピンチが分かる。
(わてには何にも出来へん、どないしよう?)
「ライル!」
ダイコクは思わず叫んでいた。
吹っ飛ばされたライルにジャイアントベアーが追撃を加えようと迫る。
ライルは戦慄の表情を浮かべていた。
今まさにジャイアントベアーの剛腕が、ライルの頭に向かって降ろされようとしていた。
シュン!
そんな音がしたのをダイコクは聞いた。
あり得ない光景をダイコクは眺めていた。
一匹の大きなオオカミの様な獣が、ジャイアントベアーの首に強烈な一撃を放っていた。
爪が首を横薙いで、ズルっという音と共にジャイアントベアーの首が一瞬の間の後に地面に転がっていた。
ダイコクの思考は止まっていた。
何が起こったのかは視界に捕らえることは出来たが、これが現実なのか把握できていない。
一拍置いて何処からか声がした。
「ノン様ー!待ってくれだべー!」
ドタドタと足音を立てながら、ゴブリンがこちらに向かってくる。
ここでやっと、ダイコクは我を取り戻した。
(どないなっとんねん!)
ダイコクは心の中で叫んでいた。
余りの出来事にそう言う事しか出来ないみたいだ。
常に冷静沈着なダイコクだが、現状を掴み切れていない。
ライルに至っては、大きなオオカミを茫然と見つめている。
心ここに有らずだ。
二人にとっては命を救われた訳だが、それすらも今は理解の先にあった。
大きなオオカミはダイコクとライルを見ると突然人化した。
銀髪のイケメン大男が突如現れた。
「あれー?お客さんかなー?」
ノンである。
何時も通りのマイぺース感を漂わせながら、素っ頓狂な感じで語り掛けている。
ノンはマジックバックをゴブオクンに手渡した。
ゴブオクンは息絶えたジャイアントベアーを、マジックバックに収納しようとしている。
ジャイアントベアーのサイズがマジックバックに合っていないのか、ゴブオクンは収納することに苦戦していた。
ダイコクは今度は人化したノンに度肝を抜かれている。
その眼が大きく見開かれていた。
だが何とかパニックにならない様にダイコクは踏ん張っている。
拳を握って耐えていた。
ライルは許容を超えてしまったのだろう、彼は気絶してしまった。
口から泡を吹いている。
「あれー?大丈夫ー?」
ノンは呑気にライルを眺めている。
「ノン様、大丈夫じゃないだべ。こいつ気絶してるだべ」
ゴブオクンがツッコんでいる。
「ほんとだ。それでおじさんは誰なの?」
ノンはゆっくりとダイコクに向かって行く。
「僕はノンだよー」
ダイコクは意を決したかの如く、歯を食いしばっている。
そして何とか話し掛けることが出来た。
「わては・・・ダイコクや・・・じぶん・・・もしかして聖獣のフェンリルかいな?」
「そうだよー、よろしくねー」
ノンは事も無げに言う。
「おいらはゴブオクンだべ」
ゴブオクンも名のった。
ダイコクはゴブリンが流暢に話をしていることに更に驚いている。
「マジか・・・」
「何が?」
ノンが不思議がっている。
「いや、じぶんゴブリンやろ?ちゃうか?」
ダイコクはゴブオクンに向かって言った。
「そうだべ」
「やけに流暢に話すやないか・・・なんでやねん」
ノンはその質問には食いつかず、
「関西弁だ!凄い!凄い!」
と喜びだした。
「そこかいな・・・何やねんいったい・・・」
「なんやねん、何でやねん!」
ノンは関西弁を話すことが楽しいらしい。
万遍の笑顔をしていた。
ノンは日本のテレビで、コメディーを多く視聴していた為、大いにウケていしまっているようだ。
なんともマイペースだ。
「おらはゴブリンだべ、それがどうかしただか?」
やっとゴブオクンが質問に答えた。
ダイコクは頭を抱えそうになっている。
「なんでそんなに流暢に話しとんねん、ありえんやろ?」
「それはね、主が加護を与えたからだよ。ね?ゴブオクン?」
ノンが事も無げに言う。
「そうだべ」
二人はどや顔になっている。
ちょっと鼻に付く顔をしている。
「マジか・・・せや、ノンといったか?自分も名があるっちゅうことは仕える神がおるっちゅうことやな」
「そうだよ、おじさん物知りだね」
「それぐらい常識や、にしても神がおるんか・・・どないなっとんねん」
「どないなっとんねん!」
ノンはまだ関西弁から離れられないみたいだ。
ダイコクは少々煩く感じているみたいだ。
苦い顔をしている。
「まあええわ、そうやった。ノン、助けてくれてありがとうな、恩にきるで」
ダイコクはやっとノンによって救われたことを理解し、お礼を口にした。
「全然良いよー、楽勝だよー」
続けてリザードマンとオーガがやってきた。
「ノン様、早すぎますって。ちょっとは加減をしてくださいよ」
息を切らしながらオーガがノンに苦情を言う。
「えー、君達が遅いんだよ。それにちょっとやばそうだったからさー」
「そんなー」
今度はリザードマンが嘆く。
このやり取りを見てダイコクはまた混乱しそうになった。
(なんでこいつらも流暢に話しとんねん!ありえんやろ!)
「ちょっと待ちいな、お前の主はどんだけの魔物達に加護を与えとんねん?こいつらだけちゃうやろ?」
ノンが首を傾げる。
「全員だよ」
何か間違ってますか?とノンは言わんばかりだ。
「な!・・・」
ダイコクの考察が始まる。
(そいつの神力は底なしかいな・・・もしかして創造神様か?)
(な訳ないわな・・・地上に顕現されたとは聞いたことはないしな)
(まあええわ、これは直接会うしかないな)
(そいつの所為でモエラの大森林の勢力図が変わってしまったということやな)
(そうとしか考えられへんわ)
(何をしてくれてんねん)
(全く・・・)
(にしても、もしかしてこのモエラの大森林の魔物達全員に加護を与えよったんかいな?)
(ありえんだろう?)
(そうなってくるとこの北半球の勢力図すらも脅かすかもしれん)
(魔物は知性が低いと蔑まれてきおったが、その魔物が知性を得たとなると脅威以外の何物でもないがな)
(戦力的に見たら人族では敵わんかもしれんで)
(魔法が使えるエルフあたりでも苦戦するかもしれんで)
(ここは慎重に見極めんとあかん)
(ほんとにその神、何をしてくれてんねん!)
(ことによっては迷惑やないか)
(ただでさえ、神気が薄くなっとんねん)
(こちとら商売活動も制限しとるんやで)
(これ以上どうせいっちゅうねん)
(勘弁してくれや!)
ダイコクのボヤキは止まらない。
不意にノンから声を掛けられる。
「おじさん、主に会ってみる?」
「あたり前や、その主の所に連れてってくれや」
「分かったー」
ゴブオクンが割って入る。
「ノン様、これは初めてのお客様ということだべか?」
「うん、そうだね。ゴブオクンは先に魔物同盟国に行って、主達に伝えておいてよ」
「分かっただべ、おいらは先に行くだべよ」
というとゴブオクンは一足先に掛けていった。
(ちょっと待てや・・・魔物同盟国やと?)
(なんやそれ・・・)
(あかん・・・)
(もう何も考えたくなくなってきてもうたわ・・・)
(もうなんでもこされや・・・)
(一先ずライルを起こさんとな)
ダイコクはライルを遠慮も無く蹴飛ばした。
「ライル!起きんかい!」
蹴られて眼を覚ましたライルは茫然としていた。
「ちゃっちゃと眼を覚まさんかい!置いてくで!じぶん!」
ライルは頭を振っている。
「ダイコク様・・・いったい何が・・・」
「やかましい、どうでもええからさっさと行くで!」
「・・・ちょと待ってくださいっすよ・・・」
ライルは立ち上がり、ダイコク達に着いていった。
ライルは何も理解が及ばぬまま、魔物同盟国へと歩を進めていた。
ダイコクは奥歯を噛みしめていた。
(もうわては驚かんで・・・たぶん・・・)
その想いはあっさりと打ち砕かれることになろうとは、この時のダイコクは知る由も無かった。
南半球でも広めていない娯楽は何かと俺は考えた。
二番煎じでもいいのだが、気分的に新しい娯楽を持ち込みたかったのだ。
そして広めたのはモルックだった。
日本に帰った時に知ったゲームだ。
おでんの湯のサウナ室に入っていた時に、TVでやっていたのを見かけたのが切っ掛けだ。
こけしの様な木材の顔の部分に数字が刻まれており。
それを円状に何本も並べたところに木材を投げ込む。
そして倒れた木材の数字を足して五十になった者が勝ちというゲームだ。
ルールの詳細はいろいろあるようだが、簡易的でいいだろう。
魔物達はモルックを大いに楽しんだ。
というか大流行した。
ゲームや遊びという概念が無かった魔物達にとっては斬新だったみたいだ。
魔物達はゲームを楽しむということを満喫しだしていた。
大いに結構!
ゲームは嵌ると楽しいよね。
気持ちは良く分かる。
沢山楽しんでくれ!
そして気分を良くした俺は、これまで南半球で導入してきた娯楽を次々と導入した。
今では娯楽場まで造られている始末だ。
ここまで急速に広まるとは思ってもみなかった。
一度ゲームの楽しみを知ってしまったが最後、ここぞとばかりに魔物達は全力で娯楽を極めようとしていた。
俺に向けて沢山娯楽を導入してくれとの圧が凄い。
将棋やオセロ、ビリヤードにダーツ、そしてバスケットボールとバレーボール。
そして漫画と本を図書館に俺は格納した。
連日図書館は大賑わいとなった。
というか漫画にド嵌りし、連日徹夜をするものまで現れてしまった。
少々刺激が強すぎたみたいだ。
今では図書館の利用時間は制限されており、徹夜する者達は減った。
やれやれだ。
その熱意は買うが・・・
限度というものがあるだろう。
スポーツも大いに賑わった。
健全で宜しい!
今ではバスケットに関しては十チーム以上あるぐらいだ。
何処かでランドのチームと戦わせても良いのかもしれない。
あ!俺が監督だった・・・
俺の見方としては魔物達の方が強いと思う。
たぶん・・・
将棋やオセロなどは知力の底上げになると、ほとんどの魔物達が競いあうように切磋琢磨していた。
皆な本気で戦っていた。
正に熱を帯びていた。
今後大会も開催されるみたいだ。
好きに楽しんで欲しい。
懸賞は何か準備させて貰おう。
何が良いかな?
実は野球はまだとっておいてある。
流行ることは鉄板だからだ。
まだまだ楽しみは取っておこうということだ。
第一陣で披露するにはもったい無いからね。
俺は今度時間がある時にゴルフを導入しようと考えている。
問題はゴルフボールだった。
あの細かい凹みをどうしようか思案処だ。
俺の能力で造ることはできるが、ゴブスケが再現できなければ意味が無い。
ゴブスケに期待だ。
ゴルフコースは・・・いくらでも造れそうだ。
手間はかかるだろうけども・・・
でも受けるに違い無いだろう。
俺は魔物同盟国会議で皆に一つ提案することにした。
本当は口を挟むべきでは無いのだが、言わざるを得なかったのだ。
それは休日の導入だ。
俺は週休二日を提案した。
その意図はあまりに魔物達は従順に働き過ぎていたからだ。
こいつらは毎日働いて当たり前と思っていた。
現在の魔物会議の主要メンバーはソバル、プルゴブ、オクボス、コルボス、クモマル、リザオ、マーヤ、の七名だ。
そこに俺がアドバイザーとして参加している。
たまにギルとゴンも参加することもある。
島野一家の参加率は適当だ。
特に何も決めてはいない。
ノン以外の島野一家の面々は参加したたことがある。
それでいいだろう。
ノンが参加しても、どうせ寝てしまうに決まっている。
そんな姿をプルゴブ達に見せるのもどうかと思う。
「島野様、休日とは何なのでしょうか?」
クモマルが尋ねてきた。
そこからか・・・
一瞬頭を抱えそうになった。
教えて差し上げましょう!
「休日とは休みの日のことだ、その日は仕事をしなくていい、そして各自好きな事をして過ごしていい日なんだ」
全員が嘘だろという表情をしていた。
だが休日は確実に必要だ。
無くてはならないとも言える。
休日無くして何が自由な人生か?
人生を謳歌するには無くてはならないだろう。
「仕事をしなくていい日なんて・・・」
「いったい何をすればいいんだ・・・」
「生産性が落ちるのでは?」
「返って落ち着かないかも?」
いまいち休日の良さを理解していないみたいだ。
これは良く無い。
これまでは常に働くことが当たり前だったのだからしょうが無いかもしれないが、ここから改めなければいけない。
毎日働くことが当たり前と言う概念から覆さなければならない。
こうなれば固定観念を打ち砕くのみだ。
さて語ろうか・・・
「いいか、ちゃんと休みを取ることによって、心と身体をリセットすることは大事な事だ。それにちゃんと休みを取ることによって、生産性が返って上がったというデータもあるぐらいだ。始めはどうしようかと戸惑うかもしれないが、今では娯楽がこの街にはある、好きに過ごせばいいんだよ」
プルゴブが話を繋ぐ。
「せっかくの島野様のご提案、まずは試してみてはどうだろうか?」
「そうだな」
「確かに」
「だな」
と賛同が続く。
「ちょっと待てお前達、俺が言う事が全てでは駄目だろう、自分達でちゃんと考えて決めろよ。お前達の国にするんだろ?」
ソバルが手を挙げた。
「分かっております島野様。実は儂としては、休日に風呂とサウナを大いに楽しみたいと思っておりました」
「俺も」
「俺は釣りがしたいな」
「私は将棋をしたい」
なんだこいつら、何だかんだ言ってやりたいことがあるんじゃないか。
「まあいいさ、お前達の好きすればいい」
「「「「「「は!」」」」」」
この日を境に魔物同盟国では週休二日が当たり前となった。
休日は各自様々な過ごし方をしていた。
ただ数名は仕事が趣味だと休日にも仕事をする者達もいた。
特にゴブスケとゴブコは休もうとしなかった。
個人的には仕事から離れて欲しいのだが、そうは言うまい。
まあ好きにやってくれ。
ほどほどにな。
ダイコクとライルはモエラの大森林を歩んでいた。
此処までに遭遇したのは魔獣が数体しか無かった。
全てC級以下の魔獣であった為、ライルがあっさりと仕留めていた。
(それにしてもおかしいやないか・・・)
ダイコクの違和感は全く止むことが無い。
(わての知っているモエラの大森林はもはやないやないか)
その認識は間違ってはいない。
そしてダイコクはあり得ない光景を目にすることになった。
半日以上かけてやっとたどり着いたオーガの里。
そこはもぬけの殻だった。
(なんやねんこれは・・・あり得ん・・・どないなっとんねん?)
ダイコクの知るオーガの里はもはや無く。
廃墟と化したオーガの里がそこにはあった。
ダイコクの考察が始まる。
(魔獣の襲撃でも受けたんか?)
(な訳ないか・・・襲われた形跡はないしな)
(移住したんか?)
(にしてもなんでや?)
(意味が分からん・・・)
ダイコクは考察をするものの、結論に達することは出来なかった。
ライルは狼狽えるばかりだ。
そして日も暮れようとしていた。
「しゃあないな、ライル。今日はここで過ごすで」
「そうっすね、一先ず火を熾すっす」
ライルは火を熾す準備を始めた。
二人は落ち着かないまま夜を迎えることになった。
翌日。
軽めの朝食を済ませた二人は、モエラの大森林の更に南に歩を進めた。
というのも、人が通った形跡がある道を見つけたからだ。
その道は獣道に近い。
二人の足取りは重い。
特にダイコクに関してはこれまで通い慣れたオーガの里が、もぬけの殻になっており、かつ魔獣の生息域が大きく変化していることが気になって仕方が無かった。
もはやダイコクの知るモエラの大森林では無くなっている。
その事に不安を感じると共に、強烈な興味を抱いているダイコクであった。
ライルは他人事と感じつつも、何かが起こっていることは理解している。
ダイコクほどの不安は感じていないようだ。
そして歩をすすめること数時間、森が慌ただしくなってきた。
風が舞い、空気が重い物になっていた。
二人は異様な気配を感じていた。
「ライル・・・気を抜いたらあかんで」
「分かってるっす・・・」
早くもライルは抜剣している。
ライルの緊張している姿にダイコクは口元を緩める。
その眼は分かっとるやないかとでも言いたそうだ。
不意に進行方向から物音がした。
ガサッガサッ!
目前から魔獣化したジャイアントベアーが現れた。
これは不味いとダイコクはライルの後ろに控える。
魔獣化したジャイアントベアーはAランクの獣だ。
ライルでも手こずることが予想された。
ライルは一度剣を横薙ぎに払い、気合を入れた。
「ダイコク様、もっと下がってくださいっす」
「せやな」
ダイコクは更に後ろに控える。
魔獣化したジャイアントベアーが威嚇を始める。
腕を拡げて咆哮を挙げる。
怯まずライルは状態を低くして構える。
ライルは先手必勝とばかりにジャイアントベアーに向かって行く。
それに応える様に、ジャイアントベアーもライルに標準を定めた。
二人の距離が詰まる。
ライルは剣を下段に構えている。
ジャイアントベアーが四足歩行になり、一気に距離を詰めた。
そこに合せる様に、ライルが剣を切り上げた。
寸でのところでジャイアントベアーが後ろに身体を引いてそれを躱す。
その反動を使って、ライルが剣を戻すところに合わせてジャイアントベアーが前足をライルに向けて襲い掛かる。
狙いは頭だ。
ライルは戦慄していた。
(こいつ分かってやがるっす)
横にスイープしてライルが避ける。
それを追って、二撃目が放たれる。
それをライルは剣で受け止める。
ライルは想像以上の力に身体を持ってかれていた。
(不味い!)
ダイコクは戦闘に関しては素人だ。
だがそんなダイコクでもライルのピンチが分かる。
(わてには何にも出来へん、どないしよう?)
「ライル!」
ダイコクは思わず叫んでいた。
吹っ飛ばされたライルにジャイアントベアーが追撃を加えようと迫る。
ライルは戦慄の表情を浮かべていた。
今まさにジャイアントベアーの剛腕が、ライルの頭に向かって降ろされようとしていた。
シュン!
そんな音がしたのをダイコクは聞いた。
あり得ない光景をダイコクは眺めていた。
一匹の大きなオオカミの様な獣が、ジャイアントベアーの首に強烈な一撃を放っていた。
爪が首を横薙いで、ズルっという音と共にジャイアントベアーの首が一瞬の間の後に地面に転がっていた。
ダイコクの思考は止まっていた。
何が起こったのかは視界に捕らえることは出来たが、これが現実なのか把握できていない。
一拍置いて何処からか声がした。
「ノン様ー!待ってくれだべー!」
ドタドタと足音を立てながら、ゴブリンがこちらに向かってくる。
ここでやっと、ダイコクは我を取り戻した。
(どないなっとんねん!)
ダイコクは心の中で叫んでいた。
余りの出来事にそう言う事しか出来ないみたいだ。
常に冷静沈着なダイコクだが、現状を掴み切れていない。
ライルに至っては、大きなオオカミを茫然と見つめている。
心ここに有らずだ。
二人にとっては命を救われた訳だが、それすらも今は理解の先にあった。
大きなオオカミはダイコクとライルを見ると突然人化した。
銀髪のイケメン大男が突如現れた。
「あれー?お客さんかなー?」
ノンである。
何時も通りのマイぺース感を漂わせながら、素っ頓狂な感じで語り掛けている。
ノンはマジックバックをゴブオクンに手渡した。
ゴブオクンは息絶えたジャイアントベアーを、マジックバックに収納しようとしている。
ジャイアントベアーのサイズがマジックバックに合っていないのか、ゴブオクンは収納することに苦戦していた。
ダイコクは今度は人化したノンに度肝を抜かれている。
その眼が大きく見開かれていた。
だが何とかパニックにならない様にダイコクは踏ん張っている。
拳を握って耐えていた。
ライルは許容を超えてしまったのだろう、彼は気絶してしまった。
口から泡を吹いている。
「あれー?大丈夫ー?」
ノンは呑気にライルを眺めている。
「ノン様、大丈夫じゃないだべ。こいつ気絶してるだべ」
ゴブオクンがツッコんでいる。
「ほんとだ。それでおじさんは誰なの?」
ノンはゆっくりとダイコクに向かって行く。
「僕はノンだよー」
ダイコクは意を決したかの如く、歯を食いしばっている。
そして何とか話し掛けることが出来た。
「わては・・・ダイコクや・・・じぶん・・・もしかして聖獣のフェンリルかいな?」
「そうだよー、よろしくねー」
ノンは事も無げに言う。
「おいらはゴブオクンだべ」
ゴブオクンも名のった。
ダイコクはゴブリンが流暢に話をしていることに更に驚いている。
「マジか・・・」
「何が?」
ノンが不思議がっている。
「いや、じぶんゴブリンやろ?ちゃうか?」
ダイコクはゴブオクンに向かって言った。
「そうだべ」
「やけに流暢に話すやないか・・・なんでやねん」
ノンはその質問には食いつかず、
「関西弁だ!凄い!凄い!」
と喜びだした。
「そこかいな・・・何やねんいったい・・・」
「なんやねん、何でやねん!」
ノンは関西弁を話すことが楽しいらしい。
万遍の笑顔をしていた。
ノンは日本のテレビで、コメディーを多く視聴していた為、大いにウケていしまっているようだ。
なんともマイペースだ。
「おらはゴブリンだべ、それがどうかしただか?」
やっとゴブオクンが質問に答えた。
ダイコクは頭を抱えそうになっている。
「なんでそんなに流暢に話しとんねん、ありえんやろ?」
「それはね、主が加護を与えたからだよ。ね?ゴブオクン?」
ノンが事も無げに言う。
「そうだべ」
二人はどや顔になっている。
ちょっと鼻に付く顔をしている。
「マジか・・・せや、ノンといったか?自分も名があるっちゅうことは仕える神がおるっちゅうことやな」
「そうだよ、おじさん物知りだね」
「それぐらい常識や、にしても神がおるんか・・・どないなっとんねん」
「どないなっとんねん!」
ノンはまだ関西弁から離れられないみたいだ。
ダイコクは少々煩く感じているみたいだ。
苦い顔をしている。
「まあええわ、そうやった。ノン、助けてくれてありがとうな、恩にきるで」
ダイコクはやっとノンによって救われたことを理解し、お礼を口にした。
「全然良いよー、楽勝だよー」
続けてリザードマンとオーガがやってきた。
「ノン様、早すぎますって。ちょっとは加減をしてくださいよ」
息を切らしながらオーガがノンに苦情を言う。
「えー、君達が遅いんだよ。それにちょっとやばそうだったからさー」
「そんなー」
今度はリザードマンが嘆く。
このやり取りを見てダイコクはまた混乱しそうになった。
(なんでこいつらも流暢に話しとんねん!ありえんやろ!)
「ちょっと待ちいな、お前の主はどんだけの魔物達に加護を与えとんねん?こいつらだけちゃうやろ?」
ノンが首を傾げる。
「全員だよ」
何か間違ってますか?とノンは言わんばかりだ。
「な!・・・」
ダイコクの考察が始まる。
(そいつの神力は底なしかいな・・・もしかして創造神様か?)
(な訳ないわな・・・地上に顕現されたとは聞いたことはないしな)
(まあええわ、これは直接会うしかないな)
(そいつの所為でモエラの大森林の勢力図が変わってしまったということやな)
(そうとしか考えられへんわ)
(何をしてくれてんねん)
(全く・・・)
(にしても、もしかしてこのモエラの大森林の魔物達全員に加護を与えよったんかいな?)
(ありえんだろう?)
(そうなってくるとこの北半球の勢力図すらも脅かすかもしれん)
(魔物は知性が低いと蔑まれてきおったが、その魔物が知性を得たとなると脅威以外の何物でもないがな)
(戦力的に見たら人族では敵わんかもしれんで)
(魔法が使えるエルフあたりでも苦戦するかもしれんで)
(ここは慎重に見極めんとあかん)
(ほんとにその神、何をしてくれてんねん!)
(ことによっては迷惑やないか)
(ただでさえ、神気が薄くなっとんねん)
(こちとら商売活動も制限しとるんやで)
(これ以上どうせいっちゅうねん)
(勘弁してくれや!)
ダイコクのボヤキは止まらない。
不意にノンから声を掛けられる。
「おじさん、主に会ってみる?」
「あたり前や、その主の所に連れてってくれや」
「分かったー」
ゴブオクンが割って入る。
「ノン様、これは初めてのお客様ということだべか?」
「うん、そうだね。ゴブオクンは先に魔物同盟国に行って、主達に伝えておいてよ」
「分かっただべ、おいらは先に行くだべよ」
というとゴブオクンは一足先に掛けていった。
(ちょっと待てや・・・魔物同盟国やと?)
(なんやそれ・・・)
(あかん・・・)
(もう何も考えたくなくなってきてもうたわ・・・)
(もうなんでもこされや・・・)
(一先ずライルを起こさんとな)
ダイコクはライルを遠慮も無く蹴飛ばした。
「ライル!起きんかい!」
蹴られて眼を覚ましたライルは茫然としていた。
「ちゃっちゃと眼を覚まさんかい!置いてくで!じぶん!」
ライルは頭を振っている。
「ダイコク様・・・いったい何が・・・」
「やかましい、どうでもええからさっさと行くで!」
「・・・ちょと待ってくださいっすよ・・・」
ライルは立ち上がり、ダイコク達に着いていった。
ライルは何も理解が及ばぬまま、魔物同盟国へと歩を進めていた。
ダイコクは奥歯を噛みしめていた。
(もうわては驚かんで・・・たぶん・・・)
その想いはあっさりと打ち砕かれることになろうとは、この時のダイコクは知る由も無かった。