翌朝、案の定俺は毒消しの丸薬を飲む嵌めになっていた。
一度南半球に帰り、風呂とサウナを満喫した。
頭と身体をリセットしたかったからだ。
朝から風呂とサウナを決め込む俺に、ランドが心配そうな顔をしていた。
宴会明けはこんなもんさ。
どうやらしこたま飲まされた俺は、ゴブリン達と雑魚寝をしてしまっていたらしい。
ロッジの一室で眠りこけてしまっていた。
朝起きた時には、俺の周りに多くの女性のゴブリン達が寝ていたことに驚いてしまった。
何もなかったよね?
たぶん・・・うん無いと思う。
なにより俺の隣にノンとギルが居たから、おいたは無いだろう。
セーフ!
おー怖!
それにしてもさっぱりした。
やっぱり風呂とサウナは格別だね。
身体と頭がシャキッとしたよ。
島野一家を連れて、俺はゴブリンの村に向かった。
ゴブリン達は今日もせっせと働いている。
するとゴブオクンが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「島野様!大変だべ!頭が痛いし、気持ち悪いだべ!おら病気だべか?おら死ぬだべか?」
と騒いでいた。
ただの二日酔いだっての。
煩い奴だな。
俺は胃薬と、毒消しの丸薬を渡してやった。
三十分後には回復したゴブオクンは、
「おら復活だべ!」
と大騒ぎ。
例の如くゴンに叱られていた。
やれやれだ。
俺はゴブコを探した。
脚踏み式のミシンが赤レンガ工房に眠っているのを思い出し、持ってきたからだ。
「おーい!ゴブコはいるか?」
「はーい!ここに」
ゴブコが駆け寄ってくる。
ブルンブルンと揺れる胸に視線が向きそうになる。
駄目だ、セクハラは良くないぞ。
反射的に見てしまうのはセーフにしてくれ。
これ男の性。
治るもんじゃない。
「脚踏み式のミシンを持ってきた、使ってくれ」
「嬉しい!島野様大好き!」
嬉しい事を言ってくれる。
俺は上機嫌で脚踏み式ミシンの使い方を教えた。
ゴブコは熱心に解説を聞いていた。
そしてやはり知能の高さが光る。
俺の拙い解説のみで、既にミシンの構造や使い方をゴブコはマスターしていた。
こいつ天才か?
もう数台欲しいと言われたので、三台ほど造っておいた。
これで服飾の生産性が格段に上がるだろう。
これでまた格段に文明が発達したのは間違いない。
もはや衣食住は手に入れた。
あとは焦らずにブラッシュアップを行っていこう。
進化するこの村に俺は喜びを隠せなかった。
そして俺はプルゴブを呼び出した。
「プルゴブ、何人か使って岩を八個ほど集めて来てくれ、大きいに越したことはないが、無理はするなよ」
「は!お任せくださいませ!」
というのも、俺はお地蔵さんを設置することを考えているのだ。
北半球初のお地蔵さんだ。
ゴブリン達に『聖者の祈り』が出来るかは分からないが、あったに越したことはないだろうと思う。
俺は待っている間、手持無沙汰になり、ホバーボードを造ることにした。
ランドールさんが建設現場で使っていると言っていたからね。
これで作業効率があがることだろう。
手慣れたもので、速攻で十個造った。
後はギルに渡して、魔石に浮遊魔法を付与してもらうだけだ。
建設現場に立ち寄りギルにホバーボードを渡す。
理解の早いギルは俺が何も言わずとも、魔石に浮遊魔法を付与し、ゴブリンの作業員達に説明を行っていた。
出来た息子で助かりますなあ。
ええ子じゃな。
親バカでごめん。
そうこうしていると、プルゴブ達が岩を持ってきた。
「島野様、どうなさるおつもりで?」
「ああ、お地蔵さんを造ろうと思ってな」
「お地蔵さんとは?」
「まあ見てろ」
俺は『加工』でサクッとお地蔵さんを造る。
その様を見てプルゴブが慄いていた。
「なんと、石像が一瞬にして・・・」
「これはなプルゴブ、創造神様だ」
プルゴブが首を傾けている。
「創造神様?はて?」
あれ?創造神様を知らない?
「創造神様は一番偉い神様だぞ」
「そう言われましても・・・実感が湧きませんな。威厳のあるお姿をしているのは分かりますが・・・」
これは期待はずれか?
とても『聖者の祈り』は発動出来ないだろう。
でも試してはみよう。
「プルゴブ、この石像に祈りを捧げてみてくれないか?」
「はあ、そんなことでよろしいのですか?」
「ああ、頼む」
「分かりました」
プルゴブは跪き両手を合わせて祈りを捧げた。
『聖者の祈り』は発動しなかった。
駄目か・・・ん?待てよ・・・
実感が湧かないと言っていたよな、もしかして・・・
自分で言うのもなんだが・・・
「プルゴブ・・・この石像を俺だと思って祈ってみてくれないか?」
「は!畏まりました!」
気合の入ったプルゴブが祈りを捧げた。
すると・・・
おいおいおい!
神気が放出されてるじゃないか?
マジか?
「おお!これは凄い!」
プルゴブは大喜びだ。
「おい、お前達!この石像を島野様だと思って祈りを捧げてみるのだ!」
近くにいたゴブリン達が祈りを捧げた。
神気が濛々と立ち上っている。
嘘だろ?
メタン並みじゃないか!
神気発生装置がここに誕生した。
何ということだ・・・
俺はお地蔵さんをあと七体造り、村の周りを覆う様に正八角形に配置した。
樹齢千年の樹がある訳ではないので、結界が張られないことは分かっているが、それが良いと感じたからだ。
その後『聖者の祈り』がゴブリン達の間で大ブームになった。
正直ありがたい。
というのも、北半球は南半球に比べて神気が薄いと感じていたからだ。
俺は始めてこの異世界に来た時に感じた神気の薄さよりも、神気が薄いと感じているぐらいだ。
実際ギルも同様のことを言っていた。
やはりこの北半球に神気を減少させている何かがあるのは間違いなさそうだ。
早くその答えに辿り着きたいが、焦りは禁物だ。
一歩一歩着実に進んで行きたい。
闇雲に進むべきではない。
今はまず魔物の同盟国を設立するのが先だ。
その後、建設現場を手伝って、俺達はこの日を終えた。
翌日。
ソバルがオークの首領とコボルトの首領を伴って現れた。
ソバルは今日もソモサンとセッパを引きつれている。
こいつらも、もはや手慣れたもので、俺を見てニコニコしている。
ウィース、とでも言いそうだ。
首領達も、二人づつお付きの者を引きつれていた。
俺は『結界』を解いて、両者を迎えることにした。
今後はもう結界は必要ないだろう。
俺はギルと、プルゴブとで対峙する。
俺を見つけるなり、オークとコボルトの首領がいきなり土下座をした。
「モウシワケ、ゴザイマセン!」
「ゴメンナサイ!」
スライディング土下座だ。
膝が擦りむけている。
痛そう。
ちょっと待て、違うだろ。
「おい!ソバル!お前何を教えているんだ?」
敢えて俺は言い放った。
俺の意を汲んだソバルが、
「へい!島野様!申し訳ございません!お前達、謝る相手を間違えるな!島野様では無く、ゴブリン達に謝るべきじゃろうが!そんなことも分からんか?!」
と言うと。
はっと頭を挙げた二人は、プルゴブに頭を下げた。
だがそうはいかない。
ギルも憤然としている。
「違うよ」
「足りませんな」
プルゴブの言う通りだ。
「そうだな、プルゴブ。お前の言う通りだ、全員集めて来い」
「は!」
ゴブリン達が全員集まってきた。
狩りに出ている者達も全員集まっている。
手には武器が握られていた。
オークとコボルトにしたら、途轍もないプレッシャーだろう。
建設作業に従事していた者達は、大工道具を肩に乗せているしな。
二人はワナワナと震えていた。
お付きの者達は今にも泡を吹いて失神しそうだ。
「「ゴベンナサイ!!!」」
オークとコボルトの首領の声が響き渡った。
もはや慟哭だ。
お付きの者達も土下座をしていた。
それにしても土下座が様になっているな、さてはソバルの奴の入れ知恵だな。
「フン!」
「まあいいだろう」
「二度とするなよ!」
「俺達は島野様の教えに従うのみだ!」
「そうだぞ!感謝しろよ!」
ゴブリン達は寛容に受け止めていた。
誰一人として俺の意に背く者はいなかった。
でもまだ気は抜けない。
いつ怒りが再燃するかは分からない。
だが俺はゴブリン達を信じることにした。
こいつらは俺を裏切らないだろう。
何となくそんな気がする。
俺も甘いな。
もう愛着が沸いてしまっている。
「さて、それでソバル。まずはこいつらを立ち上がらせてくれ」
「へい!」
ソバルは二人を立ち上がらせていた。
二人は申し訳なさそうに下を向いている。
「お前達、俺を見ろ」
二人は俺に向き直った。
今にも泣き出しそうな眼をしていた。
一度だけビビらせてやろう。
「フン!」
俺は神気を纏って、二人を睨みつけた。
「アア!」
「ウグ!」
と慄く二人。
膝がガクガクと震えている。
直視できることも無く、顔を背けている。
「おい!」
「ちゃんと見ろよ!」
「目を背けるな!」
ゴブリン達が騒いでいる。
まぁ、こんな事が意趣返しになる訳ではないが、これでゴブリン達の溜飲が少しでも下がるのならそれでいい。
ちょっと大人気ないか?
俺は神気を纏うのを止めた。
ちょっと気が晴れた気がする。
俺は知っていた。
こいつらの部下がこっそりとゴブリンの村を覗いていたことを。
そうなるだろうと思ったから、敢えて結界の外から見える場所で食事をし、風呂を造ったのだから。
文明を見せ付ければ格の違いを知るだろうと考えたからだ。
その予想が当たっていたことは、この二人を見れば分かる。
もはやゴブリンの村は脅威でしかないだろう。
そしてこの村の文明に憧れを抱いたはずだ。
あわよくばその文明を享受したいと。
それにソバルからいろいろと聞かされてもいるだろう。
ソバルのことだ、相当ビビらせているに違い無い。
企業舎弟だからね。
さて話を進めようか。
「お前達、まずは名を与えてやろうと考えているが、居るか?」
「オネガイシマス」
「アリガトウゴザイマス」
だろうな。
恐怖の眼から羨望の眼差しに変わっていた。
ゴブリン達からは、誰一人として反対する視線は感じなかった。
どうしようか?
オークの首領だからな。
分かり易くいこう。
「オークの首領よ、お前はこれからオクボスを名乗れ」
俺から神気が流れ出す。
オクボスが神気に包まれた。
「は!拝名致します!」
オクボスが跪いた。
次はコボルトか・・・
コボボスは言いづらいな・・・
「よし、お前はこれよりコルボスを名乗れ」
俺から神気が流れる。
コルボスを神気が包み込む。
「は!承知いたしました!」
コルボスも跪いて頭を垂れた。
ここで名付けは一旦終了。
お付きの者達はまた今度だ。
二人は体形こそあまり変化が無かったが、その眼には知性が宿っていた。
そして二人は泣いていた。
地獄から一転天国だからな。
安堵の気持ちを抑えられないのだろう。
そして儀式が執り行われることになった。
プルゴブ、ソバル、オクボス、コルボスによる五分の盃の儀だ。
俺はこの儀式用に準備した、ゴブスケが造った盃を手渡す。
四人は大事そうに盃を受け取る。
俺は『収納』から日本酒を取り出し、四人に注いでいく。
俺はこの場にいる全員に聞こえる様に言った。
「いいかお前達!今この時からお前達は五分の兄弟分だ、その誓いは血よりも濃いものであると肝に命じろ、兄弟を助け、支え合い、共に生きるのだとここに誓え。種族こそ違えど、お前達は魂を分け合った兄弟であると心に刻み込め。いいな!」
「「「「は!」」」」
四人は一気に飲み下した。
「「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」」
大歓声が巻き起こった。
ゴブリンの村が揺れていた。
まるで地響きだ。
拍手喝采が巻き起こっていた。
またも大騒ぎだ。
これにて魔物同盟が締結された。
モエラの大森林に新たな勢力が誕生した。
これによりモエラの大森林に新時代が訪れようとしていた。
ギルが駆け寄ってきた。
「パパ、やったね」
ギルは笑顔だ。
「作戦通りだな」
「作戦?」
「ああ」
俺はギルに説明した。
俺が仕掛けた作戦はこうだ。
『ランチェスター戦略からのなし崩し的な盃、更に文明見せびらかし作戦』だ。
長いよね・・・作戦名。
まずは全てのゴブリン達に知力を与えて、個の力を強くする。
そうすることによって、どの勢力でも太刀打ちできないようにする。
これすなわちランチェスター戦略だ。
強い個が弱い個を撃破していく戦法だ。
そうした上で、なし崩し的に首領による五分の関係を締結させ、上下関係を無くさせる。
恐らくはオークもコボルトもオーガも、全員名付け終えてしまえば、その勢力はゴブリン達を凌ぐだろう。
だが一度知力を得てしまったら最後。
俺の教えに背いて神罰を受けようなんて考える奴は一人もいないはずだ。
それに気づいたとしても、もう遅いのである。
更に文明を見せつけることで、格の違いを分からせ。
文明を享受したいと思わせる。
その為には和睦するしかない。
我ながら完璧だな。
もっと褒めてくれてもいいのだよギル君?
「そうか・・・パパはそうやって争いごとを収束させたんだね」
その通りです。
「そうだ、力に力では意味が無い。俺は文明と名づけを上手く利用したんだ」
「そうか・・・文明か・・・」
ギルは考え込んでいた。
「少しでも参考になったか?」
「うん」
「そうか、よかったな」
少しは父親の背中を見せられたようだ。
これを得てギルがこの先どうしていくのかは見守るしかないだろう。
でもこれで大きなヒントは与えられたはずだ。
何も解決策はど真ん中に答える必要はないのだ。
力に対抗するのは、力では無いのだと。
それを学んでくれたなら俺は本望だ。
まだまだ先は長い。
一度南半球に帰り、風呂とサウナを満喫した。
頭と身体をリセットしたかったからだ。
朝から風呂とサウナを決め込む俺に、ランドが心配そうな顔をしていた。
宴会明けはこんなもんさ。
どうやらしこたま飲まされた俺は、ゴブリン達と雑魚寝をしてしまっていたらしい。
ロッジの一室で眠りこけてしまっていた。
朝起きた時には、俺の周りに多くの女性のゴブリン達が寝ていたことに驚いてしまった。
何もなかったよね?
たぶん・・・うん無いと思う。
なにより俺の隣にノンとギルが居たから、おいたは無いだろう。
セーフ!
おー怖!
それにしてもさっぱりした。
やっぱり風呂とサウナは格別だね。
身体と頭がシャキッとしたよ。
島野一家を連れて、俺はゴブリンの村に向かった。
ゴブリン達は今日もせっせと働いている。
するとゴブオクンが俺を見つけて駆け寄ってきた。
「島野様!大変だべ!頭が痛いし、気持ち悪いだべ!おら病気だべか?おら死ぬだべか?」
と騒いでいた。
ただの二日酔いだっての。
煩い奴だな。
俺は胃薬と、毒消しの丸薬を渡してやった。
三十分後には回復したゴブオクンは、
「おら復活だべ!」
と大騒ぎ。
例の如くゴンに叱られていた。
やれやれだ。
俺はゴブコを探した。
脚踏み式のミシンが赤レンガ工房に眠っているのを思い出し、持ってきたからだ。
「おーい!ゴブコはいるか?」
「はーい!ここに」
ゴブコが駆け寄ってくる。
ブルンブルンと揺れる胸に視線が向きそうになる。
駄目だ、セクハラは良くないぞ。
反射的に見てしまうのはセーフにしてくれ。
これ男の性。
治るもんじゃない。
「脚踏み式のミシンを持ってきた、使ってくれ」
「嬉しい!島野様大好き!」
嬉しい事を言ってくれる。
俺は上機嫌で脚踏み式ミシンの使い方を教えた。
ゴブコは熱心に解説を聞いていた。
そしてやはり知能の高さが光る。
俺の拙い解説のみで、既にミシンの構造や使い方をゴブコはマスターしていた。
こいつ天才か?
もう数台欲しいと言われたので、三台ほど造っておいた。
これで服飾の生産性が格段に上がるだろう。
これでまた格段に文明が発達したのは間違いない。
もはや衣食住は手に入れた。
あとは焦らずにブラッシュアップを行っていこう。
進化するこの村に俺は喜びを隠せなかった。
そして俺はプルゴブを呼び出した。
「プルゴブ、何人か使って岩を八個ほど集めて来てくれ、大きいに越したことはないが、無理はするなよ」
「は!お任せくださいませ!」
というのも、俺はお地蔵さんを設置することを考えているのだ。
北半球初のお地蔵さんだ。
ゴブリン達に『聖者の祈り』が出来るかは分からないが、あったに越したことはないだろうと思う。
俺は待っている間、手持無沙汰になり、ホバーボードを造ることにした。
ランドールさんが建設現場で使っていると言っていたからね。
これで作業効率があがることだろう。
手慣れたもので、速攻で十個造った。
後はギルに渡して、魔石に浮遊魔法を付与してもらうだけだ。
建設現場に立ち寄りギルにホバーボードを渡す。
理解の早いギルは俺が何も言わずとも、魔石に浮遊魔法を付与し、ゴブリンの作業員達に説明を行っていた。
出来た息子で助かりますなあ。
ええ子じゃな。
親バカでごめん。
そうこうしていると、プルゴブ達が岩を持ってきた。
「島野様、どうなさるおつもりで?」
「ああ、お地蔵さんを造ろうと思ってな」
「お地蔵さんとは?」
「まあ見てろ」
俺は『加工』でサクッとお地蔵さんを造る。
その様を見てプルゴブが慄いていた。
「なんと、石像が一瞬にして・・・」
「これはなプルゴブ、創造神様だ」
プルゴブが首を傾けている。
「創造神様?はて?」
あれ?創造神様を知らない?
「創造神様は一番偉い神様だぞ」
「そう言われましても・・・実感が湧きませんな。威厳のあるお姿をしているのは分かりますが・・・」
これは期待はずれか?
とても『聖者の祈り』は発動出来ないだろう。
でも試してはみよう。
「プルゴブ、この石像に祈りを捧げてみてくれないか?」
「はあ、そんなことでよろしいのですか?」
「ああ、頼む」
「分かりました」
プルゴブは跪き両手を合わせて祈りを捧げた。
『聖者の祈り』は発動しなかった。
駄目か・・・ん?待てよ・・・
実感が湧かないと言っていたよな、もしかして・・・
自分で言うのもなんだが・・・
「プルゴブ・・・この石像を俺だと思って祈ってみてくれないか?」
「は!畏まりました!」
気合の入ったプルゴブが祈りを捧げた。
すると・・・
おいおいおい!
神気が放出されてるじゃないか?
マジか?
「おお!これは凄い!」
プルゴブは大喜びだ。
「おい、お前達!この石像を島野様だと思って祈りを捧げてみるのだ!」
近くにいたゴブリン達が祈りを捧げた。
神気が濛々と立ち上っている。
嘘だろ?
メタン並みじゃないか!
神気発生装置がここに誕生した。
何ということだ・・・
俺はお地蔵さんをあと七体造り、村の周りを覆う様に正八角形に配置した。
樹齢千年の樹がある訳ではないので、結界が張られないことは分かっているが、それが良いと感じたからだ。
その後『聖者の祈り』がゴブリン達の間で大ブームになった。
正直ありがたい。
というのも、北半球は南半球に比べて神気が薄いと感じていたからだ。
俺は始めてこの異世界に来た時に感じた神気の薄さよりも、神気が薄いと感じているぐらいだ。
実際ギルも同様のことを言っていた。
やはりこの北半球に神気を減少させている何かがあるのは間違いなさそうだ。
早くその答えに辿り着きたいが、焦りは禁物だ。
一歩一歩着実に進んで行きたい。
闇雲に進むべきではない。
今はまず魔物の同盟国を設立するのが先だ。
その後、建設現場を手伝って、俺達はこの日を終えた。
翌日。
ソバルがオークの首領とコボルトの首領を伴って現れた。
ソバルは今日もソモサンとセッパを引きつれている。
こいつらも、もはや手慣れたもので、俺を見てニコニコしている。
ウィース、とでも言いそうだ。
首領達も、二人づつお付きの者を引きつれていた。
俺は『結界』を解いて、両者を迎えることにした。
今後はもう結界は必要ないだろう。
俺はギルと、プルゴブとで対峙する。
俺を見つけるなり、オークとコボルトの首領がいきなり土下座をした。
「モウシワケ、ゴザイマセン!」
「ゴメンナサイ!」
スライディング土下座だ。
膝が擦りむけている。
痛そう。
ちょっと待て、違うだろ。
「おい!ソバル!お前何を教えているんだ?」
敢えて俺は言い放った。
俺の意を汲んだソバルが、
「へい!島野様!申し訳ございません!お前達、謝る相手を間違えるな!島野様では無く、ゴブリン達に謝るべきじゃろうが!そんなことも分からんか?!」
と言うと。
はっと頭を挙げた二人は、プルゴブに頭を下げた。
だがそうはいかない。
ギルも憤然としている。
「違うよ」
「足りませんな」
プルゴブの言う通りだ。
「そうだな、プルゴブ。お前の言う通りだ、全員集めて来い」
「は!」
ゴブリン達が全員集まってきた。
狩りに出ている者達も全員集まっている。
手には武器が握られていた。
オークとコボルトにしたら、途轍もないプレッシャーだろう。
建設作業に従事していた者達は、大工道具を肩に乗せているしな。
二人はワナワナと震えていた。
お付きの者達は今にも泡を吹いて失神しそうだ。
「「ゴベンナサイ!!!」」
オークとコボルトの首領の声が響き渡った。
もはや慟哭だ。
お付きの者達も土下座をしていた。
それにしても土下座が様になっているな、さてはソバルの奴の入れ知恵だな。
「フン!」
「まあいいだろう」
「二度とするなよ!」
「俺達は島野様の教えに従うのみだ!」
「そうだぞ!感謝しろよ!」
ゴブリン達は寛容に受け止めていた。
誰一人として俺の意に背く者はいなかった。
でもまだ気は抜けない。
いつ怒りが再燃するかは分からない。
だが俺はゴブリン達を信じることにした。
こいつらは俺を裏切らないだろう。
何となくそんな気がする。
俺も甘いな。
もう愛着が沸いてしまっている。
「さて、それでソバル。まずはこいつらを立ち上がらせてくれ」
「へい!」
ソバルは二人を立ち上がらせていた。
二人は申し訳なさそうに下を向いている。
「お前達、俺を見ろ」
二人は俺に向き直った。
今にも泣き出しそうな眼をしていた。
一度だけビビらせてやろう。
「フン!」
俺は神気を纏って、二人を睨みつけた。
「アア!」
「ウグ!」
と慄く二人。
膝がガクガクと震えている。
直視できることも無く、顔を背けている。
「おい!」
「ちゃんと見ろよ!」
「目を背けるな!」
ゴブリン達が騒いでいる。
まぁ、こんな事が意趣返しになる訳ではないが、これでゴブリン達の溜飲が少しでも下がるのならそれでいい。
ちょっと大人気ないか?
俺は神気を纏うのを止めた。
ちょっと気が晴れた気がする。
俺は知っていた。
こいつらの部下がこっそりとゴブリンの村を覗いていたことを。
そうなるだろうと思ったから、敢えて結界の外から見える場所で食事をし、風呂を造ったのだから。
文明を見せ付ければ格の違いを知るだろうと考えたからだ。
その予想が当たっていたことは、この二人を見れば分かる。
もはやゴブリンの村は脅威でしかないだろう。
そしてこの村の文明に憧れを抱いたはずだ。
あわよくばその文明を享受したいと。
それにソバルからいろいろと聞かされてもいるだろう。
ソバルのことだ、相当ビビらせているに違い無い。
企業舎弟だからね。
さて話を進めようか。
「お前達、まずは名を与えてやろうと考えているが、居るか?」
「オネガイシマス」
「アリガトウゴザイマス」
だろうな。
恐怖の眼から羨望の眼差しに変わっていた。
ゴブリン達からは、誰一人として反対する視線は感じなかった。
どうしようか?
オークの首領だからな。
分かり易くいこう。
「オークの首領よ、お前はこれからオクボスを名乗れ」
俺から神気が流れ出す。
オクボスが神気に包まれた。
「は!拝名致します!」
オクボスが跪いた。
次はコボルトか・・・
コボボスは言いづらいな・・・
「よし、お前はこれよりコルボスを名乗れ」
俺から神気が流れる。
コルボスを神気が包み込む。
「は!承知いたしました!」
コルボスも跪いて頭を垂れた。
ここで名付けは一旦終了。
お付きの者達はまた今度だ。
二人は体形こそあまり変化が無かったが、その眼には知性が宿っていた。
そして二人は泣いていた。
地獄から一転天国だからな。
安堵の気持ちを抑えられないのだろう。
そして儀式が執り行われることになった。
プルゴブ、ソバル、オクボス、コルボスによる五分の盃の儀だ。
俺はこの儀式用に準備した、ゴブスケが造った盃を手渡す。
四人は大事そうに盃を受け取る。
俺は『収納』から日本酒を取り出し、四人に注いでいく。
俺はこの場にいる全員に聞こえる様に言った。
「いいかお前達!今この時からお前達は五分の兄弟分だ、その誓いは血よりも濃いものであると肝に命じろ、兄弟を助け、支え合い、共に生きるのだとここに誓え。種族こそ違えど、お前達は魂を分け合った兄弟であると心に刻み込め。いいな!」
「「「「は!」」」」
四人は一気に飲み下した。
「「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」」
大歓声が巻き起こった。
ゴブリンの村が揺れていた。
まるで地響きだ。
拍手喝采が巻き起こっていた。
またも大騒ぎだ。
これにて魔物同盟が締結された。
モエラの大森林に新たな勢力が誕生した。
これによりモエラの大森林に新時代が訪れようとしていた。
ギルが駆け寄ってきた。
「パパ、やったね」
ギルは笑顔だ。
「作戦通りだな」
「作戦?」
「ああ」
俺はギルに説明した。
俺が仕掛けた作戦はこうだ。
『ランチェスター戦略からのなし崩し的な盃、更に文明見せびらかし作戦』だ。
長いよね・・・作戦名。
まずは全てのゴブリン達に知力を与えて、個の力を強くする。
そうすることによって、どの勢力でも太刀打ちできないようにする。
これすなわちランチェスター戦略だ。
強い個が弱い個を撃破していく戦法だ。
そうした上で、なし崩し的に首領による五分の関係を締結させ、上下関係を無くさせる。
恐らくはオークもコボルトもオーガも、全員名付け終えてしまえば、その勢力はゴブリン達を凌ぐだろう。
だが一度知力を得てしまったら最後。
俺の教えに背いて神罰を受けようなんて考える奴は一人もいないはずだ。
それに気づいたとしても、もう遅いのである。
更に文明を見せつけることで、格の違いを分からせ。
文明を享受したいと思わせる。
その為には和睦するしかない。
我ながら完璧だな。
もっと褒めてくれてもいいのだよギル君?
「そうか・・・パパはそうやって争いごとを収束させたんだね」
その通りです。
「そうだ、力に力では意味が無い。俺は文明と名づけを上手く利用したんだ」
「そうか・・・文明か・・・」
ギルは考え込んでいた。
「少しでも参考になったか?」
「うん」
「そうか、よかったな」
少しは父親の背中を見せられたようだ。
これを得てギルがこの先どうしていくのかは見守るしかないだろう。
でもこれで大きなヒントは与えられたはずだ。
何も解決策はど真ん中に答える必要はないのだ。
力に対抗するのは、力では無いのだと。
それを学んでくれたなら俺は本望だ。
まだまだ先は長い。