翌日。
朝食を大食堂で済ませて、さっそくゴブリンの村に向かうことにした。
既に気合の入った島野一家の面々は勢ぞろいしていた。
なんで気合が入っているのだろう?
全員がやる気に満ち溢れている表情をしている。
よく分からん。

俺は『転移』で一気にゴブリンの村に転移した。
突然現れた俺達に数名のゴブリンが腰を抜かしていた。
ああ、ごめん。
慣れてくれると助かる。
今後もこのスタイルになると思う。

今日は役割を分担して作業をおこなっていく、そして今日は心強いアドバイザーを帯同している。
アイリスさんである。
もはや島野一家のご意見番兼相談役と言える存在だ。
それにアイリスさんなら、種族の違いとか全く気にしなさそうだしね。
こんなに心強いアドバイザーは居ない。
俺はプルゴブに命じて全員を集めさせた。

「お前達、この人はアイリスさんだ。農業の専門家だ。失礼の無い様にな。彼女の言葉は俺の言葉と思って欲しい。いいな!」

「「「「「は!!!」」」」」
ゴブリン達は片膝を付きながら答えた。
ひとりゴブオクンはアイリスさんを見てうっとりしていた。
こいつの頓珍漢ぶりは見てて気持ちがいいな。
俺としては好感が持てる。
でもゴンにこっぴどく怒られるんだろうな。
もはや見慣れた光景だ。

それにしてもいい加減この片膝を付くスタイルは止めてくれないかな?
型っ苦しいったりゃありゃしないよ。
アイリスさんが満更でもないからいいけど・・・

まあいい、役割を説明しよう。
まずは狩りの担当は言わずもがなのノンだ。
ゴブリン達に狩りを教えることを主としている。
まだまだ武器は揃ってはいないが、それは無くとも狩りは出来る。
一応森の木から簡単な木剣と槍は作ってやった。
今はこれで充分だろう。
ノンには狩りの基本から教える様に話しはしてある。
まあノンに任せておけばいいだろう。
ノンは案外面倒見はいいみたいだからな。

ゴンは変わらず魔法の指導と、礼儀作法や行儀を教えることを任せている。
特に生活魔法から教える様にゴンには伝えてある。
浄化魔法と照明魔法は急務だ。
生活魔法は生活を豊かにするからね。
ゴンに言わせると、以外にもゴブリン達には魔法が使える者達が多く。
それなりにセンスもあるらしい。
ちょっと期待が持てる。
既にゴンは先生と呼ばれている。
ゴンも満更でもないようで、鼻が伸びていた。

もはやゴブリンは最下層の魔物では無くなっているようだ。
俺は嬉しかった。
ゴブリン達がこの先活躍できるのではないか?と思えたからだ。
最弱の魔物だなんてもう言わせない。
こいつらの活き活きする姿を俺はもっと見たい。

そしてエルは料理を教えることになっている。
副料理長の腕を決して舐めてはいけない。
エルは料理の心得から教えていた。
ここまで心強いとは正直意外だ。
エルは天然系100%の子だと思っていたのだが・・・
包丁とは何のか?
料理とは真心である。
そんな処から熱心に説明していた。
不思議な指導力を感じた。
今後はもっとこいつに何かと任せてみよう。

そしてギルは、俺と一緒に作業を行うことになっている。
俺とギルが行う作業はロッジの建築だ。
これは時間が掛かる作業だ。
根気よく行っていかなければいけない。
建設には体力と知力が要る。
一石二鳥とはいかない。
力自慢のゴブリン達が俺に任せろと言わんかの如く、各自大工道具を肩に担いている。
おお!これは期待できるな。

因みにこの大工道具は、俺が適当に造ってゴブリン達に配っておいた。
鋸やハンマー等いろいろ。
始めは武器と勘違いするゴブリンが多かった為、ちゃんと大工道具だと説明しておいた。
確かに武器に転用は出来るが・・・
ランドはピッケルを武器にしていたな・・・
そんなことはおいといて。

「今日からお前達の力を借りることになる、いいな!」

「「「おいっす!」」」
ガテン系の掛け声が木霊した。
良いじゃないか!嫌いじゃないぞ俺は。

俺は現場監督と化して、作業を指示していった。
丁張を掛け、高さと範囲を示していく。
そして簡易な水平器を使って、簡単なレベル測量を行う。
高低差は間違う訳にはいかない。
知能の高くなったゴブリン達は、その指示に抗うことも無く、黙々と作業を行っていく。
大したものだ、的確に作業をおこなっている。
時々質問もしていた。
建築に随分と関心があるみたいだ。
熱心でなによりです。

やはり知力を得たゴブリン達は、もはや人族と変わらないと言える。
建設作業はハイペースで進んでいく。
想像以上に。

そして急報が入った。

「島野様!大変だべ!」
ゴブオクンが飛び込んできた。
何かあったかのか?

「どうした?ゴブオクン」

「結界の所にオークの一団が現れたべ!」

「そうか、で?」
だから何だ?

「でって・・・だべ?」

「何か問題あるか?」
ゴブオクンはキョトンとしている。

「・・・」

「オークでは結界は破れないぞ」
そう言ったよね?

「そうだべか・・・それはよかった・・・」
ゴブオクンは安心した表情を浮かべていた。
どうやらまだ負け癖は治らないみたいだな。
オークにまだまだビビっているみたいだ。
まあ、じきに治るだろう。

「オーク達は外っておけばいいさ、でもちょっと見ておこうかな」
少し興味が沸いた。

「島野様が行くだべか?」

「ああ、どんな奴らか見ておきたい」

「分かったべ、案内するだべ」
俺はゴブオクンと連れ立って、結界の縁までやってきた。

「ナンダ!」

「コレ?」

「グガ!」
大きな豚さん達が騒いでいた。
豚さんとは言っても、大きな牙と武器を持参している。
それに二足歩行だ。

想像以上にオークはデカかった。
オークも腰布を纏うスタイルだ。
野生が満ち溢れている。
そして漏れなく臭い。
『結界』に『限定』で匂いの非通過も付け足そうかな?
鼻がひん曲がりそうだ。

俺は結界に『限定』で匂いを通さない様にした。
臭いの嫌いなんだもん・・・

オーク達は俺を見つけると、
「オマエ!」

「ダレ!」

「ギギ!」
俺を睨んでいた。
結界を壊そうと、こん棒でガンガンと叩いている。
全くもって結界はビクともしていない。
君達では無理ですって、諦めなさいな。

それにしても、オークも一定の知性はあるみたいだ。
意思の疎通は出来るみたいだ。
どうしたものか・・・
こいつらにはゴブリン達の様に接する訳にはいかない。
こいつらは搾取する側の奴らだからな。
まずは反省を促さないと。
ちょっとビビらせてやろうかな?

「ゴブオクン、ちょっと眼を瞑っていて貰えるかな?」

「なんでだべか?」

「いいから」
俺はそう言うと、身体に神気を纏ってオーク達に近づいた。

「アア!」

「グガ!」

「ガミ!」
始めてゴブリン達に遭遇した時と同じ反応だった。
俺に恐れ慄き、俺を直視出来ることなく眼を塞いでいる。
オーク達は脱兎のごとく逃げ出していった。
ずっこけて顔を擦りむいている者もいた。
あらあら、痛そう。
まずは追っ払っておこう。
今は構ってられない。
やることだらけだっての、こっちはさ!



オークのことはおいといて。
俺は建設作業を再開した。
俺とギルは説明を加えながらロッジを建てていく。
ギルもちょくちょくお手伝いしていた所為か、ロッジの建設に精通していた。
ギルは木材確保にゴブリン達と森に入っていった。
ちゃんと次木をするように俺は教えてある。
自然破壊はいけませんよ。
アイリスさんに叱られますよ。

そのアイリスさんは余念無く、畑の開墾作業を行っていた。
何処まで畑を拡張するつもりなのだか・・・
結構広大なんですけど・・・
一先ずは静観しよう。
やり過ぎないことを祈ろう。
アイリスさんは喜々として畑作業をゴブリン達に教えていた。

その隙に俺はゴブロウに、ロッジの建設の知識を教えていく。
このゴブロウだが、親方と呼べるぐらいのガテン系の身なりと知力を有している。
必死に俺から学ぼうと、余念なく俺の話を聞いている。
集中力が半端ない。

俺達は時々質問に解説を交えながらロッジ建設を進めて行く。
それにしても知力を得たゴブリン達はとても熱心だった。
今や働くことに喜びを感じているみたいだ。
良いじゃないか、俺は安心した。

昼になり、一旦作業は休憩する。
いい加減腹が減った。
今日はバーベキューコンロを持ち込んでいた為、全員でバーベキューを食べることにした。
エルからはもうちょっと手の込んだ料理がしたいと言われたが、食事スペースさえままならない今の状況では、これしか出来なかった。

だがこれにゴブリン達は大興奮していた。
収穫の済んだ野菜と、昨日の残りのシーサーペントを焼いていく。
そして俺は、塩やマヨネーズ等の調味料をお披露目した。

「この味はいったい・・・」

「こんなに美味しい食べ方があったとは・・・」

「味とはこんなに幸せなものだったのか・・・」
ゴブリン全員が驚愕していた。
感動して涙を流す者達もいた。
大騒ぎは止まらない。

「島野様、おで感動が止まらないだべ!大好きだべ!」

「島野様、今直ぐ死んでも私は構わないです!」
ゴブオクンとプルゴブがコメントに困る発言をしていた。
やれやれだ。
食とはここまでに幸せを運んでくれるみたいだ。
気持ちは分かるぞ。
特に神気を与えた野菜は格別だからな。
たんとお食べ。
全員が喜んで食事を行っていた。



さて、ロッジの建設を一旦ギルに任せて、俺は風呂の建設に乗り出した。
サウナはおいおいということで今はいいだろう。
今は生活基盤を優先すべきだ。
まずは公衆浴場を造らなければならない。

知性を得たこいつらには、清潔感をちゃんと学ばせておきたい。
今はゴンの浄化魔法で清潔は保てているが、風呂ぐらいの娯楽は享受してあげないといけないだろう。
どんな造りにしようかな?
思案のし処である。

そうだ・・・
俺は男女共用の海外スタイルの露天風呂を造ることにした。
それも敢えて結界から見える位置にした。
それには意味がある。
それは・・・また今度にしておくよ。

俺はゴブリン達に指示を出して、岩を集めさせた。
その間に俺は排水について考える。
今回は自然に帰るシステムにしようと思う。
畑に向かってとも考えたが、少々気が引けた。
アイリスさんの邪魔にはなりたくない。

排水溝を造り、それを一本の道に繋げる。
その先には絶壁の崖があり、排水は海へと帰っていく。
道は『自然操作』の土で造っていく。
ペースは速い。

今回の水の供給は水魔法を使い、火魔法で温度調節、又は火魔法を付与している魔石を利用する。
そして浄化の魔法を付与された魔石も嵌め込む使用だ。
今のゴブリン達なら上手く使いこなすだろう。

岩が集まってきた為、俺は岩風呂を造っていくことにした。
俺の指示に従って、ゴブリン達が岩を並べていく。
サイズ感としてはかなり大きい。
凡そ四十名が入れる大きさだ。
最後に万能鉱石のコンクリートで隙間を埋めて完成。
これで風呂自体は完成した。

そして、柱を立てて屋根造っていく。
全部木製だ。
ゴブロウを伴い、作業を進めていく。
その後も細かい作業をおこなっていく。

何とか夜までに露天風呂は完成した。
まあ屋根付き洗い場までの代物だけどね。
多少の手直しはまた明日以降だな。
一先ずはこれでいいだろう。
にしても終日働いたな。
少々疲れたな。



さあ、まずは晩飯にしよう。
夜もバーベキューになった。
ノンと狩り班のゴブリン達が、ジャイアントピッグ二頭を仕留めて来ていた。
ノンが言うには二頭とも魔獣化していたようだった。
魔獣とは穏やかではないな。
ノン曰く楽勝だったらしい。
それもゴブリン達でだ。
俺は心強く感じた。
あんな竹やりみたいな装備で、よくもまあ狩れたものだ。

俺はさくっとジャイアントピッグの解体だけ行い、後はエルに任せた。
ギルがエルの手伝いに入る。
安定の二人だ。
俺は調理場から離れた。

俺はゴブリン達を二班に分けて、食事をする者達と風呂に入る者達に分けた。
そして前もって作製を指示しておいた水着を着用させることにした。
この水着を作製する作業だが、ゴブコに参考に与えた水着を基に作らせた。
ゴブコはかなり優秀だ。
余裕が出来たら足で漕ぐタイプのミシンを造ってやろうと思う。

余談になるのだが、この足で漕ぐタイプのミシンだが、カベルさんにプレゼントしたところ。
大漁発注を受ける始末となってしまったことがあった。
俺は連日ヘロヘロになるまで赤レンガ工房に入り浸って、作業を行う羽目になっていた。
今では親父さんに引き継がれて安定したのだが・・・
苦い記憶だ。
もう勘弁して欲しい。

ゴブコは女性ゴブリン達を従えて、裁縫の作業を行っていた。
勿論針などは俺が提供した。
今後の衣服等の裁縫系は、ゴブコに一任するつもりだ。
服やズボンなどいろいろと作ってくれそうだ。
なんとかテントも完成させていたからね。
優秀な者がいると助かるね。
特に立ち上げ時にはさ。
後は参考程度に、南半球で販売されている衣服や、布団等を持ち込むだけだ。

俺は洗い場にゴブリン達を誘導し、まずは石鹸を与えて身体を洗うことを教える。
知性を得たゴブリン達は身体を洗えたことが嬉しかったみたいだ。

「島野様、この石鹸という物はいいですね!」

「島野様、清潔になるってこんなに気持ち良いのですね!」

「あー!さっぱりした!」
と言っていた。
そして湯舟に浸かる。

「おおーーー」

「ああーーー」

「ふうーーー」
声を漏らしている。

「お風呂最高」

「身体が解れる」

「はあーーー」
初めての風呂に満足したみたいだ。
もしかしたらこいつらにとっては、初めての娯楽になったのかもしれないな。
皆が皆笑顔だ。
ゴブリン達は風呂を満喫した。
中には風呂に浸かり過ぎて、湯当たりを起こしている者もいた。
気持ちは分からなくもないが、ほどほどにな。

そして今日は特別にビールを振舞うことにした。
こいつらの反応を見て見たかったからだ。

「お前達、至高の飲み物を飲みたくはないか?」

「至高でございますか?」

「ああ、幸せになれる飲み物だ」

「それはいったい・・・」
俺は『収納』からキンキンに冷えたビール樽を取り出した。
添付られている蛇口を捻って、ビールを注いでいく。

俺はまずプルゴブにビールの入ったジョッキを渡して、
「プルゴブ、飲んでみろ」
と言い放った。

プルゴブは一度唾を飲み込み、ビールの匂いを嗅いだ。
一気に表情が崩れていく。

「島野様、よろしいので?」
舌なめずりをしている。

「じゃあ乾杯といこうか?」
俺は自分のビールを準備した。

「は!」
俺とプルゴブは乾杯をして一気にビールを飲み干した。
最高に旨い!
特に今日は肉体労働の一日だったからか、身体に染み渡る。
これがサウナ明けならもっと旨かっただろう。
でもこれはこれで充分に美味しい。
プルゴブは幸せそうな顔をしていた。
口の周りに泡が付いている。
幸せそうな顔をしやがって。

「ああー、最高ー」
プルゴブが昇天しそうな表情をしていた。
これに騒めくゴブリン達。

「お前達!飲みたいか?」
俺は煽る様に言い放った。

「飲ませてください!」

「一生のお願いです!」

「後生な!」
フフフ。
良いだろう!
飲ませてやろう!
これが至高の飲み物だ!

「全員並べ!」

「「「「「は!」」」」」
俺は全員にジョッキを渡し、並々とビールを注いでいく。

「初ビール!大いに味わえ!乾杯!」

「「「「「乾杯!!!」」」」」
グビグビとビールを味わうゴブリン達。

「おお!」

「なんと!」

「だべ!」
どうやら口に合ったみたいだ。
皆な笑顔だ。
そして食事を開始する。
ゴブリン達は食事とビールを謳歌していた。
たくさん飲んで、たくさん食べてくれ!
明日からも頑張れよ!
にしてもビール旨!