ボイルの港に転移した俺達は船旅を開始した。
まずは俺がハンドルを握る。
方角は北西、風速はおよそ二キロメートル。
追い風が吹いている。
幸先良好だ。
俺は神石に神力を込めて、クルーザーを走らせていく。
クルーザーが音を立てて進んで行く。
ギルは穂先に立って、海上を眺めていた。
ノンは絶賛お昼寝中。
エルは早くも台所に立って、理料を始めていた。
ゴンは読書に夢中になっている。
皆リラックスしているみたいだ。
俺の運転に全幅の信頼を寄せているようだ。
ならばと俺は速度を上げる。
クルーザーが壊れない程度に、最高速度で走らせていった。
海中のスクリューが途轍もない音を立てていた。
たぶんこれぐらいなら問題ないだろう。
と安易な俺。
最悪壊れても、スペアは準備されているしね。
それに直ぐに造れるし。
海上の暴走族と化したクルーザーは、進路をグングン進めていった。
潮風が気持ちよかった。
船旅は順調と言える。
二時間すると運転をノンにスイッチした。
こいつも遠慮なく速度を上げている。
その後、ギル、ゴン、エルの順に操縦者を変更する。
途中何度かカモメのような鳥が並行することがあった。
これぞ船旅と楽しくなってしまった。
さっそく暇になったので、釣りでも行うことにした。
クルーザーの速度を時速二十キロぐらいに落として貰う。
今の操縦者はエルだ。
『探索』を行ってみたところ、魚群があった為、釣りを開始した。
狙いの魚かどうかは釣ってみないと分からない。
今回は大物狙いではない。
俺としては、俺以外の家族に釣りを経験させたかったのだ。
俺とエルを除くその他の家族達は、釣り竿を垂らして、今か今かと当たりに集中している。
今回のエサは疑似餌を選択している。
海老で鯛を釣るにしようかとも考えたが、疑似餌を選択した。
だって、何度も同じ疑似餌で釣れた方が、エコでしょ?
間違ってるかな?
疑似餌は一般的にタイラバと呼ばれている物で。
派手な装飾に、触手の様なヒラヒラが付いた物だ。
ロッドはカーボン製の頑丈な一品だ。
仕掛けなどは赤レンガ工房で、俺がせっせと造った物だ。
糸やリールなども拘った使用になっている。
後日トローリングを行うつもりだが、まずは前哨戦である。
家族の中で釣り初心者はノンとゴンだ。
エルとギルはロンメル達との漁で、時々釣りを行っていたらしい。
ただ釣り竿等の仕掛けは、ここまで豪華な物ではなかったらしく。
これならばばらすことは無いだろうと、鼻息は荒い。
俺はノンとゴンに釣りのやり方を教えてから、早速釣り糸を垂らすことにした。
釣り方は簡単で、着底させてから巻くだけだ。
着底させたままだと、根が掛かりしてしまう。
時々タックルと呼ばれる疑似餌を上下させる方法を取る。
さてどうなることやら・・・
真っ先に当たりがあったのはノンだ。
お!ビギナーズラックか?
本人が予想する以上の引きだったのか、面食らっているノン。
「ノン、落ち着いて」
「ん!」
明らかに力んでいる。
「ゆっくり巻きながら、時折竿を上に挙げるんだ。ゆっくりとだぞ」
「うん」
ノンはぎこちなくも、リールを巻きながら、時々竿をしゃくっている。
俺は網を持ってノンに近づく。
魚影が見えてきた。
「お!真鯛か?」
「嘘!」
「いきなり!」
ギルとゴンも驚いていた。
俺は魚を網に捉えて引き上げた。
本命の真鯛をビギナーのノンが釣り上げていた。
「ノン!真鯛だぞ!やったな!」
疑似餌を外して、鯛の口を掴んでノンに差し出した。
「いいよ、持たなくても・・・」
こいつ始めて釣れた感動は無いのか?
ていうか魚が苦手なのか?
「お前、持ってみろよ」
「いいよ、僕は食べ専なの」
はあ?
よく分からんが、これ以上は止めておこう。
ノンの顔は忌避感満々だ。
こいつのことはよく分からん。
そうこうしていると、ギルとゴンの竿にも当たりがあったみたいだ。
俺はゴンのサポートに向かった。
何とかして釣り上げたゴン。
ゴンが釣り上げた魚はブリだった。
「ゴン、やったな!真鯛ではないけど立派なブリだぞ!」
「はい、やりました!釣りって楽しいですね!」
眼を輝かせているゴン。
釣れれば嬉しいよね。
今後はギルから声が挙がる。
「パパ、こっちも!」
網を持って駆け寄ると、魚影が見えてきた。
今度はどの魚なんだ?
「よし!」
俺は魚を網で掬った。
平目だった。
高級魚だ!
これは今日は刺身パーティーだな。
豪勢でいいじゃないか。
「ギル、平目だ!やったな!」
平目の尻尾を持って渡すと、ギルは大事そうに平目を抱えていた。
「主!またこっち!」
ノンが叫んでいた。
網を持って駆け寄る俺。
結局俺は網役になってしまい、まともに釣りが出来なかった。
俺以外は全員入れ食いだった。
もう!
俺にも釣らせてくれよな!
この日の晩飯は豪華刺身の盛り合わせになった。
それにしても旨い!
最高だ!
普段は魚をあまり食べないノンだが、今日は自分で釣ったからか、たくさん刺身を食べていた。
ちくしょう!
明日は絶対に俺が釣るぞ!
晩飯を終え、俺はクルーザーに『結界』を張って、念の為『探索』で海獣が居ないのを確認してから転移扉を開いた。
この転移扉は社長室に繋がっている。
だって入島受付にする理由は無いしね。
今日の見張り当番は俺とゴンの為、俺はゴンと二人で先にサウナ島に帰ってきた。
社長室にはマークがおり、疲労感たっぷりの顔をしていた。
「ただいま」
「あ、島野さんお帰りなさい」
マークが席から立ち上がって迎えてくれる。
「どうした?疲れた顔して?」
いきなりトラブルか?
大丈夫か?
「いえ、そうでもないです・・・」
マークの表情は変わらない。
「何かあったのか?」
「いえ、商人達の相手をして疲れただけです」
そういうことね。
洗礼を受けたって訳だな。
「相手が俺だからか、無理難題を言われまして。困ったものです」
「そうか、そんな輩は遠慮なく追い出していいぞ」
無理難題を言う輩は追いだすに限る。
二度と敷居を跨ぐんじゃない!ってね。
「そう言われましても・・・」
ここはちょっと葉っぱをかけておこう。
「マーク、お前は俺の代理なんだぞ、お前が舐められるってことは、俺を舐めてるってことなんだぞ?お前それでいいのか?」
マークは顔を上げた。
その眼には炎が灯り出していた。
「そうですね、島野さんが舐められるのは許せませんね!」
拳を握っている。
これで大丈夫だろう。
マーク性格から考えて、自分より他者を優先する。
それが俺となれば血相を変えるだろうことは分かっている。
「じゃあ俺は風呂に行くけど、一緒に行くか?」
「はい、お供します」
俺達は連れ立って、スーパー銭湯に向かった。
今日もスーパー銭湯は繁盛していた。
未だ俺と一緒にサウナに入ろうとする者達がいた。
俺はもう気にしないことにした。
やれやれだ。
ゴンとクルーザーに戻り、三人と交代した。
今日はこのまま俺とゴンはクルーザーの見張り番だ。
『結界』が張られているので、安全は担保されている。
これと言って心配はないのだが、放置って訳にはいかない。
俺は星空を眺めて見た。
満天の星空だった。
日本ではこうはいかない。
日本では星空を眺めるなんて無かったな。
センチな気分になりそうだ。
俺達は仮眠室で寝ることにした。
お休みなさい。
いい夢が見られますように。
ターラーラーラーラッタッター。
翌日。
転移扉を潜ってギル達がクルーザーに乗り込んできた。
「おはようさん」
「「おはよう」」
「おはようですの」
挨拶を終え、朝食作りに取りかかる。
朝の散歩を行っていないのは久しぶりだ。
たまにはいいよね。
今日は久しぶりに俺が料理を作ることにした。
メニューはノンのリクエストがあり、味噌汁は外せないことになった。
どんだけ犬飯が好きなんだか・・・
昨日釣れた魚を焼いて、お米を炊く。
焼き魚定食だ。
焼き揚がったブリが油を滴らせている。
旨そうだ。
「「「「「いただきます!」」」」」
久しぶりの島野一家の大合唱。
ノンが骨がめんどくさいと文句を言いながら食べていた。
好き嫌いは良くないですよ、ノン君。
ゴンは綺麗に魚を食べていた、骨のみが残っている。
お上手なことで。
ギルは骨ごとボリボリと食べていた。
まぁ豪快!
エルは大根おろしで食べていた。
なんとも皆さん個性的ですな。
朝食を終え、本日も順番にクルーザーを走らせていく。
そして今日は念願のトローリングを行うことにした。
腕がなるぜ。
遂にこの時がきたな・・・
竿はクルーザーの床板に装備してある金具に装着してある。
これで竿が持っていかれることはないだろう。
こちらもエサは疑似餌だ。
昨日のタイラバよりも倍以上の大きさだ。
速度を時速三十キロぐらいに落として貰い、レッツフィッシュ!
俺は敢えて『探索』は行わなかった。
始めぐらいちゃんとトローリングを楽しみたい。
まずはズル無しからだ。
竿先を眺めてみる。
軽く撓っているのが分かる。
一時間後。
当たりは全く無かった。
ただただ海面を眺めている。
自己催眠に入ってしまいそうだ。
昔テレビで見た、大物俳優がトローリングをする番組『世界を釣る』を思い出していた。
トローリングとはこんなものなのだろう。
半日近く経っても当たりが無いなんてことはざらの様だ。
そんなことを考えていると念願の当たりがあった。
ビッグヒット!
レッツファイト!
えぐい角度でロッドがしなっている。
俺は一度竿をしゃくって併せた。
これで獲物は掛かったはず。
その後も糸がグイグイと引かれていく。
クルーザーの速度を落として貰い、巻き上げを開始した。
巻いては引かれて、巻いては引かれてを繰り返す。
無茶苦茶楽しい!
これがトローリングか?!
結局三十分間格闘し、釣り上げることに成功した。
俺は『身体強化』等の能力は一切使わなかった。
純然とトローリングを楽しみたかったのだ。
釣り上げた獲物はカジキマグロだ。
二メートル越えのサイズだ。
良い戦闘だった。
少し腕に疲労感を感じる。
「パパ凄えー!」
「主、やりましたね!」
「大きいですの!」
賛辞が続いた。
ノンは、
「へえー」
と無感動だった。
こいつはほんと・・・マイペースが過ぎるな。
「僕もやりたい」
ギルの申し入れに答えることにした。
竿をギルに渡す。
俺はギルにトローリングのやり方を教えた。
気合の入ったギルが、トローリングを開始した。
俺はカジキマグロを千貫してから『自然操作』の氷で凍らせて、『収納』に保管しておいた。
今日の晩御飯はマグロ尽くしか?
でも昨日の夜も、今日の朝も魚だったから辞めておこうかな?
するとギルの竿にいきなり当たりがあった。
恐ろしい程の引きだった。
ロッドのしなりが半端ない。
ボキッといってしまいそうだ。
リールも煙を発生しそうなぐらいだ。
猛烈な勢いで引かれている。
でもご安心ください。
糸はワイヤーと呼べるぐらい頑丈な物だし。
針も『合成』で張り付けてあるから切れることはまず無い。
そしてロッドとリールは実はミスリル製なのだ。
実に金貨五百枚掛かった装備なのだよ。
破壊の心配は不要なのです。
フフフ。
無駄使いと言いたければ言ってくれ。
最高の娯楽には、お金の糸目は付けてはいけないと、俺は学んだのだよ。
それにしても・・・引きが強すぎるような・・・
絶対カジキマグロでは無い・・・
俺は『探索』を発動した。
ん!・・・マジか?・・・
「おーい!皆手伝ってくれ!」
全員を集合させた。
ギルは必死に竿を引いている。
「どうやら海獣が掛かったみたいだ、全員で引くぞ!」
「嘘!」
「海獣?!」
「やるねー」
俺達は全員で竿を引きリールを巻くことになった。
ギル君やビギナーズラックが過ぎませんかね?
始めてのトローリングで海獣に当たるなんて・・・
結果、一時間の格闘の末、シーサーペントを釣り上げることに成功したのだった。
あー、疲れた。
いや、ほんと。
「やったー!」
「疲れた」
「釣れましたの!」
騒いでいるのはいいのだが、このシーサーペント、どうしようか?
リリースする訳にはいかないしな。
にしても腕がパンパンだ。
明日は筋肉痛確定だな。
いや、今日の夜か?
俺は『自然操作』の氷で固めて『収納』に放り込んでおいた。
どうしたものか?
サウナ島に持って帰る?
ゴンズキッチンでもやって貰うか?
まぁいいや。
とりあえず『収納』の中に塩漬けにしておこう。
その後も、途中でマリンスポーツを楽しみつつ北半球を目指した。
特に海上のホバーボードを皆なやりたがった。
船旅は実に楽しいものだった。
俺達は大いにエンジョイしたのだった。
そして分かったのは、小島が所々にあったが、これといった人が生息できるような島は無かったということ。
それにしても天候に恵まれたな。
一度だけ雨が降ったことがあったが、嵐に巻き込まれるようなことにはならなかった。
ありがたいことです。
そして遂に俺達は北半球にたどり着いていた。
やっと辿りついた。
実に六日間の船旅だった。
大半は遊んでいた様な気もするが・・・
まあ許してくださいな。
その海岸はサウナ島の海岸とは違い、断崖絶壁の崖が連なっていた。
クルーザーを何処に接舷しようかな?・・・
接舷できなくてもいいか?
錨を降ろして、沖にクルーザーを固定することにした。
念の為『結界』は張っておいた。
これで大丈夫だろう。
見張りを置こうかとも考えたが、止めておいた。
やんちゃはされないと思う。
そんな不届き者は成敗してやるしね。
俺達はいつもの飛行スタイルで、崖を登っていく。
そこには開けた広場があり、その先には森が広がっていた。
誰かに遭遇した時に怖がらせない様に、全員人化スタイルになった。
そして森に入ろうかと歩を進めた時。
ガザッ!
という音がした。
一人の人?
魔物?が現れた。
それは全身が薄緑色で、貧相な体つきをしていた。
まるでユニセフの宣伝に出てくるような、恵まれない子供達の様な体躯。
ガリガリの身体に、お腹だけがポッコリと飛び出している。
腰布を纏っただけの服装。
尖った耳と尖った鼻。
右手にはこん棒?
角材?
の様な木材を持っていた。
これは・・・
間違いない、異世界物の雑魚キャラの定番のゴブリンだった。
嘘だろ?!
ここに来てまさかのゴブリン?
第一村人がゴブリン?
オーマイガー!
世界観変わり過ぎじゃね?
北半球ってなんなの?
うーん差し詰めこいつはゴブリンのゴブオ君だな。
多分男性だろう。
胸が無いしね。
するとゴブオ君が話した。
「ダレ、ダべ?」
・・・
話せるんだ・・・
無茶苦茶たどたどしいぞ・・・
ダべって・・・
どうしよう・・・
知性はあるんだ・・・
ここでの正解が分からない・・・
そうだ!
ここは無害な神様アピールをしよう!
それなら怖がられることは無いだろう。
俺は身体に神気を纏って話し掛けた。
「やあ!始めまして!」
ゴブオ君は固まってしまった。
木材を落としている。
そして一目散に逃げだしてしまった。
「ビエエエエーーーー!」
と叫んでどっかに行ってしまった。
ゴブオ君・・・何処え・・・
想定外の第一村人であった。
まずは俺がハンドルを握る。
方角は北西、風速はおよそ二キロメートル。
追い風が吹いている。
幸先良好だ。
俺は神石に神力を込めて、クルーザーを走らせていく。
クルーザーが音を立てて進んで行く。
ギルは穂先に立って、海上を眺めていた。
ノンは絶賛お昼寝中。
エルは早くも台所に立って、理料を始めていた。
ゴンは読書に夢中になっている。
皆リラックスしているみたいだ。
俺の運転に全幅の信頼を寄せているようだ。
ならばと俺は速度を上げる。
クルーザーが壊れない程度に、最高速度で走らせていった。
海中のスクリューが途轍もない音を立てていた。
たぶんこれぐらいなら問題ないだろう。
と安易な俺。
最悪壊れても、スペアは準備されているしね。
それに直ぐに造れるし。
海上の暴走族と化したクルーザーは、進路をグングン進めていった。
潮風が気持ちよかった。
船旅は順調と言える。
二時間すると運転をノンにスイッチした。
こいつも遠慮なく速度を上げている。
その後、ギル、ゴン、エルの順に操縦者を変更する。
途中何度かカモメのような鳥が並行することがあった。
これぞ船旅と楽しくなってしまった。
さっそく暇になったので、釣りでも行うことにした。
クルーザーの速度を時速二十キロぐらいに落として貰う。
今の操縦者はエルだ。
『探索』を行ってみたところ、魚群があった為、釣りを開始した。
狙いの魚かどうかは釣ってみないと分からない。
今回は大物狙いではない。
俺としては、俺以外の家族に釣りを経験させたかったのだ。
俺とエルを除くその他の家族達は、釣り竿を垂らして、今か今かと当たりに集中している。
今回のエサは疑似餌を選択している。
海老で鯛を釣るにしようかとも考えたが、疑似餌を選択した。
だって、何度も同じ疑似餌で釣れた方が、エコでしょ?
間違ってるかな?
疑似餌は一般的にタイラバと呼ばれている物で。
派手な装飾に、触手の様なヒラヒラが付いた物だ。
ロッドはカーボン製の頑丈な一品だ。
仕掛けなどは赤レンガ工房で、俺がせっせと造った物だ。
糸やリールなども拘った使用になっている。
後日トローリングを行うつもりだが、まずは前哨戦である。
家族の中で釣り初心者はノンとゴンだ。
エルとギルはロンメル達との漁で、時々釣りを行っていたらしい。
ただ釣り竿等の仕掛けは、ここまで豪華な物ではなかったらしく。
これならばばらすことは無いだろうと、鼻息は荒い。
俺はノンとゴンに釣りのやり方を教えてから、早速釣り糸を垂らすことにした。
釣り方は簡単で、着底させてから巻くだけだ。
着底させたままだと、根が掛かりしてしまう。
時々タックルと呼ばれる疑似餌を上下させる方法を取る。
さてどうなることやら・・・
真っ先に当たりがあったのはノンだ。
お!ビギナーズラックか?
本人が予想する以上の引きだったのか、面食らっているノン。
「ノン、落ち着いて」
「ん!」
明らかに力んでいる。
「ゆっくり巻きながら、時折竿を上に挙げるんだ。ゆっくりとだぞ」
「うん」
ノンはぎこちなくも、リールを巻きながら、時々竿をしゃくっている。
俺は網を持ってノンに近づく。
魚影が見えてきた。
「お!真鯛か?」
「嘘!」
「いきなり!」
ギルとゴンも驚いていた。
俺は魚を網に捉えて引き上げた。
本命の真鯛をビギナーのノンが釣り上げていた。
「ノン!真鯛だぞ!やったな!」
疑似餌を外して、鯛の口を掴んでノンに差し出した。
「いいよ、持たなくても・・・」
こいつ始めて釣れた感動は無いのか?
ていうか魚が苦手なのか?
「お前、持ってみろよ」
「いいよ、僕は食べ専なの」
はあ?
よく分からんが、これ以上は止めておこう。
ノンの顔は忌避感満々だ。
こいつのことはよく分からん。
そうこうしていると、ギルとゴンの竿にも当たりがあったみたいだ。
俺はゴンのサポートに向かった。
何とかして釣り上げたゴン。
ゴンが釣り上げた魚はブリだった。
「ゴン、やったな!真鯛ではないけど立派なブリだぞ!」
「はい、やりました!釣りって楽しいですね!」
眼を輝かせているゴン。
釣れれば嬉しいよね。
今後はギルから声が挙がる。
「パパ、こっちも!」
網を持って駆け寄ると、魚影が見えてきた。
今度はどの魚なんだ?
「よし!」
俺は魚を網で掬った。
平目だった。
高級魚だ!
これは今日は刺身パーティーだな。
豪勢でいいじゃないか。
「ギル、平目だ!やったな!」
平目の尻尾を持って渡すと、ギルは大事そうに平目を抱えていた。
「主!またこっち!」
ノンが叫んでいた。
網を持って駆け寄る俺。
結局俺は網役になってしまい、まともに釣りが出来なかった。
俺以外は全員入れ食いだった。
もう!
俺にも釣らせてくれよな!
この日の晩飯は豪華刺身の盛り合わせになった。
それにしても旨い!
最高だ!
普段は魚をあまり食べないノンだが、今日は自分で釣ったからか、たくさん刺身を食べていた。
ちくしょう!
明日は絶対に俺が釣るぞ!
晩飯を終え、俺はクルーザーに『結界』を張って、念の為『探索』で海獣が居ないのを確認してから転移扉を開いた。
この転移扉は社長室に繋がっている。
だって入島受付にする理由は無いしね。
今日の見張り当番は俺とゴンの為、俺はゴンと二人で先にサウナ島に帰ってきた。
社長室にはマークがおり、疲労感たっぷりの顔をしていた。
「ただいま」
「あ、島野さんお帰りなさい」
マークが席から立ち上がって迎えてくれる。
「どうした?疲れた顔して?」
いきなりトラブルか?
大丈夫か?
「いえ、そうでもないです・・・」
マークの表情は変わらない。
「何かあったのか?」
「いえ、商人達の相手をして疲れただけです」
そういうことね。
洗礼を受けたって訳だな。
「相手が俺だからか、無理難題を言われまして。困ったものです」
「そうか、そんな輩は遠慮なく追い出していいぞ」
無理難題を言う輩は追いだすに限る。
二度と敷居を跨ぐんじゃない!ってね。
「そう言われましても・・・」
ここはちょっと葉っぱをかけておこう。
「マーク、お前は俺の代理なんだぞ、お前が舐められるってことは、俺を舐めてるってことなんだぞ?お前それでいいのか?」
マークは顔を上げた。
その眼には炎が灯り出していた。
「そうですね、島野さんが舐められるのは許せませんね!」
拳を握っている。
これで大丈夫だろう。
マーク性格から考えて、自分より他者を優先する。
それが俺となれば血相を変えるだろうことは分かっている。
「じゃあ俺は風呂に行くけど、一緒に行くか?」
「はい、お供します」
俺達は連れ立って、スーパー銭湯に向かった。
今日もスーパー銭湯は繁盛していた。
未だ俺と一緒にサウナに入ろうとする者達がいた。
俺はもう気にしないことにした。
やれやれだ。
ゴンとクルーザーに戻り、三人と交代した。
今日はこのまま俺とゴンはクルーザーの見張り番だ。
『結界』が張られているので、安全は担保されている。
これと言って心配はないのだが、放置って訳にはいかない。
俺は星空を眺めて見た。
満天の星空だった。
日本ではこうはいかない。
日本では星空を眺めるなんて無かったな。
センチな気分になりそうだ。
俺達は仮眠室で寝ることにした。
お休みなさい。
いい夢が見られますように。
ターラーラーラーラッタッター。
翌日。
転移扉を潜ってギル達がクルーザーに乗り込んできた。
「おはようさん」
「「おはよう」」
「おはようですの」
挨拶を終え、朝食作りに取りかかる。
朝の散歩を行っていないのは久しぶりだ。
たまにはいいよね。
今日は久しぶりに俺が料理を作ることにした。
メニューはノンのリクエストがあり、味噌汁は外せないことになった。
どんだけ犬飯が好きなんだか・・・
昨日釣れた魚を焼いて、お米を炊く。
焼き魚定食だ。
焼き揚がったブリが油を滴らせている。
旨そうだ。
「「「「「いただきます!」」」」」
久しぶりの島野一家の大合唱。
ノンが骨がめんどくさいと文句を言いながら食べていた。
好き嫌いは良くないですよ、ノン君。
ゴンは綺麗に魚を食べていた、骨のみが残っている。
お上手なことで。
ギルは骨ごとボリボリと食べていた。
まぁ豪快!
エルは大根おろしで食べていた。
なんとも皆さん個性的ですな。
朝食を終え、本日も順番にクルーザーを走らせていく。
そして今日は念願のトローリングを行うことにした。
腕がなるぜ。
遂にこの時がきたな・・・
竿はクルーザーの床板に装備してある金具に装着してある。
これで竿が持っていかれることはないだろう。
こちらもエサは疑似餌だ。
昨日のタイラバよりも倍以上の大きさだ。
速度を時速三十キロぐらいに落として貰い、レッツフィッシュ!
俺は敢えて『探索』は行わなかった。
始めぐらいちゃんとトローリングを楽しみたい。
まずはズル無しからだ。
竿先を眺めてみる。
軽く撓っているのが分かる。
一時間後。
当たりは全く無かった。
ただただ海面を眺めている。
自己催眠に入ってしまいそうだ。
昔テレビで見た、大物俳優がトローリングをする番組『世界を釣る』を思い出していた。
トローリングとはこんなものなのだろう。
半日近く経っても当たりが無いなんてことはざらの様だ。
そんなことを考えていると念願の当たりがあった。
ビッグヒット!
レッツファイト!
えぐい角度でロッドがしなっている。
俺は一度竿をしゃくって併せた。
これで獲物は掛かったはず。
その後も糸がグイグイと引かれていく。
クルーザーの速度を落として貰い、巻き上げを開始した。
巻いては引かれて、巻いては引かれてを繰り返す。
無茶苦茶楽しい!
これがトローリングか?!
結局三十分間格闘し、釣り上げることに成功した。
俺は『身体強化』等の能力は一切使わなかった。
純然とトローリングを楽しみたかったのだ。
釣り上げた獲物はカジキマグロだ。
二メートル越えのサイズだ。
良い戦闘だった。
少し腕に疲労感を感じる。
「パパ凄えー!」
「主、やりましたね!」
「大きいですの!」
賛辞が続いた。
ノンは、
「へえー」
と無感動だった。
こいつはほんと・・・マイペースが過ぎるな。
「僕もやりたい」
ギルの申し入れに答えることにした。
竿をギルに渡す。
俺はギルにトローリングのやり方を教えた。
気合の入ったギルが、トローリングを開始した。
俺はカジキマグロを千貫してから『自然操作』の氷で凍らせて、『収納』に保管しておいた。
今日の晩御飯はマグロ尽くしか?
でも昨日の夜も、今日の朝も魚だったから辞めておこうかな?
するとギルの竿にいきなり当たりがあった。
恐ろしい程の引きだった。
ロッドのしなりが半端ない。
ボキッといってしまいそうだ。
リールも煙を発生しそうなぐらいだ。
猛烈な勢いで引かれている。
でもご安心ください。
糸はワイヤーと呼べるぐらい頑丈な物だし。
針も『合成』で張り付けてあるから切れることはまず無い。
そしてロッドとリールは実はミスリル製なのだ。
実に金貨五百枚掛かった装備なのだよ。
破壊の心配は不要なのです。
フフフ。
無駄使いと言いたければ言ってくれ。
最高の娯楽には、お金の糸目は付けてはいけないと、俺は学んだのだよ。
それにしても・・・引きが強すぎるような・・・
絶対カジキマグロでは無い・・・
俺は『探索』を発動した。
ん!・・・マジか?・・・
「おーい!皆手伝ってくれ!」
全員を集合させた。
ギルは必死に竿を引いている。
「どうやら海獣が掛かったみたいだ、全員で引くぞ!」
「嘘!」
「海獣?!」
「やるねー」
俺達は全員で竿を引きリールを巻くことになった。
ギル君やビギナーズラックが過ぎませんかね?
始めてのトローリングで海獣に当たるなんて・・・
結果、一時間の格闘の末、シーサーペントを釣り上げることに成功したのだった。
あー、疲れた。
いや、ほんと。
「やったー!」
「疲れた」
「釣れましたの!」
騒いでいるのはいいのだが、このシーサーペント、どうしようか?
リリースする訳にはいかないしな。
にしても腕がパンパンだ。
明日は筋肉痛確定だな。
いや、今日の夜か?
俺は『自然操作』の氷で固めて『収納』に放り込んでおいた。
どうしたものか?
サウナ島に持って帰る?
ゴンズキッチンでもやって貰うか?
まぁいいや。
とりあえず『収納』の中に塩漬けにしておこう。
その後も、途中でマリンスポーツを楽しみつつ北半球を目指した。
特に海上のホバーボードを皆なやりたがった。
船旅は実に楽しいものだった。
俺達は大いにエンジョイしたのだった。
そして分かったのは、小島が所々にあったが、これといった人が生息できるような島は無かったということ。
それにしても天候に恵まれたな。
一度だけ雨が降ったことがあったが、嵐に巻き込まれるようなことにはならなかった。
ありがたいことです。
そして遂に俺達は北半球にたどり着いていた。
やっと辿りついた。
実に六日間の船旅だった。
大半は遊んでいた様な気もするが・・・
まあ許してくださいな。
その海岸はサウナ島の海岸とは違い、断崖絶壁の崖が連なっていた。
クルーザーを何処に接舷しようかな?・・・
接舷できなくてもいいか?
錨を降ろして、沖にクルーザーを固定することにした。
念の為『結界』は張っておいた。
これで大丈夫だろう。
見張りを置こうかとも考えたが、止めておいた。
やんちゃはされないと思う。
そんな不届き者は成敗してやるしね。
俺達はいつもの飛行スタイルで、崖を登っていく。
そこには開けた広場があり、その先には森が広がっていた。
誰かに遭遇した時に怖がらせない様に、全員人化スタイルになった。
そして森に入ろうかと歩を進めた時。
ガザッ!
という音がした。
一人の人?
魔物?が現れた。
それは全身が薄緑色で、貧相な体つきをしていた。
まるでユニセフの宣伝に出てくるような、恵まれない子供達の様な体躯。
ガリガリの身体に、お腹だけがポッコリと飛び出している。
腰布を纏っただけの服装。
尖った耳と尖った鼻。
右手にはこん棒?
角材?
の様な木材を持っていた。
これは・・・
間違いない、異世界物の雑魚キャラの定番のゴブリンだった。
嘘だろ?!
ここに来てまさかのゴブリン?
第一村人がゴブリン?
オーマイガー!
世界観変わり過ぎじゃね?
北半球ってなんなの?
うーん差し詰めこいつはゴブリンのゴブオ君だな。
多分男性だろう。
胸が無いしね。
するとゴブオ君が話した。
「ダレ、ダべ?」
・・・
話せるんだ・・・
無茶苦茶たどたどしいぞ・・・
ダべって・・・
どうしよう・・・
知性はあるんだ・・・
ここでの正解が分からない・・・
そうだ!
ここは無害な神様アピールをしよう!
それなら怖がられることは無いだろう。
俺は身体に神気を纏って話し掛けた。
「やあ!始めまして!」
ゴブオ君は固まってしまった。
木材を落としている。
そして一目散に逃げだしてしまった。
「ビエエエエーーーー!」
と叫んでどっかに行ってしまった。
ゴブオ君・・・何処え・・・
想定外の第一村人であった。