タイロンの娯楽を充実させなければならない。
これは・・・重大だ・・・

連日俺の所にオズとガードナーが現れては、
「期待してます!」
「好きに何でもやっちゃってください!」
勝手にハードルを上げてくれていた。

いい迷惑です!
しかし、俺にはタイロンに娯楽を持ち込むつもりは全くない。
それは簡単な理由で、タイロンには温泉街『ゴロウ』があるからだ。
それに移動式サウナまである。
既に最高の娯楽があるでは無いか。
更にと言われてもねえ。
欲張らないでくれよな。

五郎さんがこれまで頑張って広めてくれた文化があるんだ、俺が横から入っていくってのもねえ?
それよりも俺には気になることがあった為、エンゾさんとオズ、ガードナーを呼び出すことにした。
場所は事務所の社長室である。

「島野君、私を呼び出すとはどういうことなの?」
今日のエンゾさんはご機嫌斜めのようだ。
甘味でも奢ってやろうかな?
相変わらずの上から女神だ。
出会った頃のエンゾさんは何処え・・・

「エンゾ、別にいいじゃないか?」

「そうだぞ、そんなことで食ってかかるなよ。どれだけ島野さんにお世話になってると思っているのだ?」
オズとガードナーが擁護に回る。

「フン!あなた達は島野君に甘すぎるのよ、まったく・・・」
俺に甘い?
何処が?
まあいい、この人の不機嫌にはもう慣れた。

「今日三人を呼んだのには理由があります」

「それは何故なんですか?」
オズは前のめりだ。

「まず俺は今、各国に娯楽を広めています」

「知っているわよ。それでタイロンにはどんな娯楽を広めてくれるのかしら?」

「タイロンには娯楽は広めません」

「・・・」

三人とも絶句している。

「まず、タイロンには温泉街『ゴロウ』があります。充分に娯楽は足りているかと思いますがどうでしょうか?」

「そう言われればそうだけど・・・ねえ?」

「確かに・・・」

「欲張り過ぎていたようですね・・・」
ガードナーは項を垂れていた。

「五郎さんが頑張って築いてきたところに、俺が乗り込む訳にもいかないでしょう?それよりも話し合いたいことがあります」

「それは何?」
エンゾさんは機嫌を一旦、横に置いてくれたようだ。
俺はさっそく切り出す。

「銀行を造りませんか?」

「銀行?」

「それは何ですか?」
知らなくて当然か。

「説明しましょう、まず簡単に言うと、銀行はお金を集める機関です」

「お金を集める?」

「はい、まずは預金です。銀行にお金を預けることによって、年に一度その金額に応じた利息を貰います」

「利息ですか?」
ガードナーは分からないようだ。

「利息とは、例えば金貨一枚を銀行に預けたとする。そのままお金を引き出さずに一年を迎えた時に、銀行から銀貨一枚を貰えるということだ。金貨一枚預けた者は、金貨一枚と銀貨一枚になるということだ。すなわち利息は1%」
これでも日本よりかよっぽど高利息だけどね。

「なるほど」

「そして、メインとなるのはこの先になる。預金を集めたそのお金で、銀行はお金が必要な者にお金を貸し出すことが出来る。そしてそのお金に利息を付けるということだ。それにお金を預けるところがあることで、犯罪の抑止にもなるだろ?」
俺はガードナーを見ていた。
ガードナーはブンブンと首を縦に振っていた。

「その場合の利息は、預金で得られる利息よりも大きいものになるという事ね」
じゃないと成り立たないよね。

「その通りです、銀行はそうやって利益を得ます。とは言っても借り入れる時の利息は決して暴利にはしません、高くても5%までとします」
これでも高めだと思うけどね。
それにこの世界にも高利貸しがいるとのことだったが、あまり良い噂を聞かない。
これを機に廃業してくれると助かる。

「5%ね・・・」
エンゾさんは考え込んでいる、頭の中で計算しているのだろう。

「それ以上となると、元金を返済できなる可能性が高くなります。それでは意味がありません。それに銀行は高利貸しになってはいけません」
そうなのだよ、高利貸し反対!

「島野さん、なぜそのようなお考えを持たれたのですか?」
お!良い質問ですね。ナイスパス!

「実は、この世界に来てからというもの、今では様々な人達と話ができるようになった、その会話の中で感じたのは、この世界は既得権益を得ている者達に、利益が偏り過ぎているということなんだ」

「確かに・・・」
オズは納得しているみたいだ。

「一部の豪商や領主は、元々持っている家を貸し出して、賃料で収入を得ている。それ自体は可笑しなことではない。俺が問題と感じる部分は、一般の国民達にチャンスがないということなんだよ」

「それは・・・」

「例えばタイロンの国民で、自分の家を持っている一般国民達はどれだけいるんだ?既得権益者以外でいるのか?」

「この十年で自分の家屋を所有出来た者は、S級のハンターが二名いただけね」
エンゾさんが答えた。
やっぱりな。

「ですよね、あまりに夢が無いと思いませんか?」

「・・・」
三人は黙ってしまった。

「自分の家を持ちたいと思う者は多い、でも現状としては、現金が家を買えるだけの金額にまで達しなければ、まず購入することが出来ない。そうでない場合は相当な信用が必要となる」

「そうですね・・・」

「毎日労働に勤しんで、食べて行くだけというのはあまりに不憫だ。そう思わないか?」
自分の頑張りの成果が欲しいものだよね。
それが形になるのはもっと嬉しいはずだ。

「夢が無い・・・言われてみればそうだ・・・」
それに大工の街ボルンの大工はまだしも、外の国の大工達の需要がなさ過ぎる。
公共事業以外の仕事が必要でしょう。

「銀行は国民に対して、より豊かな生活を送ってもらう為の機関とも言える。住宅ローン、事業の融資などを行って、より経済を潤滑に活性化させる機関なんだ」
まあ、借り物でも日々の生活は出来るし、商売も出来るけど、そういうことじゃあないんだよね。

「島野君、貸し倒れの懸念はどうなの?」
エンゾさんからの当然の疑問だ。

「そこは担保を取るんです」

「そういうことね」
エンゾさんは経済の神様だけあって理解が早い。
オズとガードナーは、何とか食いついて来ているみたいだ。

「住宅ローンであれば、新たに建てる家を担保にします。土地は国の物だからその限りではありません。他にも何かしら担保に相当する物があれば、それも担保にします。更にそれでも足りなければ、連帯保証人を付けます」

「連帯保証人ですか?」
オズには連帯保証人の意味が分からないようだ。

「そうだ、例えば一般的な家庭で考えてみて欲しい。まず父親名義で住宅ローンを組むとする。担保として新たに建てる家を担保にする。その連帯保証人は妻となる。これは万が一父親が何かしらの事故などで死んでしまった場合、その住宅ローンを妻が引き継がなければならない。そして更にその妻に不幸があった場合には、担保となっている家を、銀行に引き渡さなければならないということだ」

「なるほど、理解出来ました」
オズは理解できたようだ。

「銀行をタイロン国主導で造らないか?ということなんです。どうでしょうか?」

「島野君、ちょと考えさせて貰える?」
慎重なエンゾさんなら、そう言うだろうなとは思っていたよ。

「俺は別に構いませんよ」

「エンゾ、考える必要があるのか?私にはやらない選択肢を考えられないが?」
オズはあっさりと受け入れていた。

「それに今では転移扉の恩恵で、タイロンも好景気になっている。これを更に加速させることができるのではないのか?」
ガードナーも前向きなようだ。

「そんなことは分かっているわよ。一番の問題は初期投資の問題よ。タイロンにそれだけの体力があるのか調べてみないといけないわ。それに人材が不足しているのよ」
そういうことね、それならば・・・

「それなら、銀行の役割を商人組合が行ってみてはどうでしょうか?新たに造るのもありですが、初期投資を大幅に削減できませんでしょうか?それに人材も揃っている」
それに商人組合はエンゾさんが創立者だと聞いている。
話は通り易いだろう。

「その手があったわね・・・」
エンゾさんは俯いてしまった。
一点を見つめている。
どうやら考えているようだ。

「分かったわ、やりましょう。まずはタイロン国の承認を得ましょう。オズワルド、ガードナー協力して貰うわよ」

「分かっている」

「ああ、もちろんだ」
こうしてこの世界初の銀行が誕生する運びとなった。
俺としては、これでタイロンが上手くいくとは言えないが、タイロン国民達の出来ることの幅が広がったのではないかと思う。

そして外の国々もこれを参考にして、より発展していってもらえたら何よりだ。
運営上の詳細は、後日時間を作ってくれとエンゾさんからは言われている。
俺は出来る限りのアドバイスをするのみだ。
これにて、娯楽を広めよう作戦は完了した。
タイロンは娯楽じゃなかったけどね。
少し疲れたかな、サウナにでも入りましょうかね。



今後のことを考えて、俺は久しぶりにゴンガスの親父さんを誘って、船大工のクエルさんの所に来ている。
クエルさんと、クルーザーの改良版を造ろうと考えているのだ。
というのも、北半球に向かうことを考えた時に、瞬間移動を繰り返す移動手段は、下策であると考えたからだ。
何といっても、空中で食事という訳にはいかないだろう。

それにトイレを催したくなった時に困る。
要は休憩場所があるとは限らないということだ。
後はあまりに北半球との間に交流が無いという事は、北半球と南半球の間に、休憩できる島などがあまり無い、ということではないだろうか?
何日の旅になるのかは分からないが、そう考えるのがスマートに思える。
そうなると、船を使うしかない。

今の現状としては、その選択肢しかない。
流石に航空機は作る気にはなれない。
『浮遊』と『自然操作の風』を駆使すれば、出来なくはないだろうが・・・
余りに突飛過ぎると思う。
それに航空機はハードルが高すぎる。
ホバーボードを改良してもたかが知れているだろうし。
そして今あるクルーザーは、サウナ島の漁等に使っている為、それに手を加えるという訳にはいかない。
新たに船旅用のクルーザーを造る必要がある。
その為にクエルさんの所に訪れているのである。

悪だくみ三人衆がまた再結成された。
今のクルーザーを造った時の高揚感が蘇ってくる。
また楽しめそうだ。

まずは現クルーザーの問題となっている、燃費の悪さを改良する必要がある。
今のクルーザーの構造としては、風魔法の付与された魔石が、パイプに繋がっており。
そして、パイプの先にはプロペラがあり、プロペラが周ることで、推力を得ている。
まずはここから改良をする必要がある。

「お前さん、どう改良するつもりなのだ?」

「いつくか解決策がありますが、まずはパイプの口径を変えてみようかと」
風を凝縮させた方が推力を得られるとの考えからだ。

「小さくするというのだの?」

「そうです」

「そうすると、魔力が少なくても済むということか・・・」
ちょっと違うが、クエルさんも前向きに考えてくれているようだ。

「それを実験してみようと思います」

「実験とな?」
いきなり造る訳にはいかんでしょう。

「そうです。いきなり船を造るんじゃなくて、心臓部だけを造って、実際にプロペラがどれぐらい周るのか?魔力がどれぐらい必要か?を確かめて、納得がいく段階になったら船を造ろうと思います」

「そういうことか・・・」
クエルさんも親父さんも理解したようだ。

「それと、今はプロペラに風が当たる箇所が一箇所しかないじゃないですか?これをパイプをもう一本分岐させて、プロペラに当てたらどうかも、検証してみたいと考えています」
要は一気筒を二気筒にするということだ、その分魔力の消費が倍にならない様に、魔石の設置部分はあくまで一箇所で、その先でパイプが分岐する形をとるつもりだ。

「儂も考えてみたんだが、プロペラの形も変えてみてはどうかの?」
そこに辿り着いたか、流石は親父さんだ。

「それも考えてました、今のプロペラの羽の形は成型ですが、流線形にするのもありかと思います」

「なるほど、まあ島野さん、やってみようや?」
クエルさんの言う通りだ、まずはやってみよう。
俺達は実験を繰り返すことになった。
まずは口径を絞ってみた。
サイズ感はとても難しかった。
小さくすればいいという物ではなかったからだ。
一番良いサイズを探すことになった。

次に二気筒にしてみた。
これはあっさりと結果がでた。
二気筒の方がはるかにパワーがあった。
まあそうだろうとは思っていたが・・・
でも四気筒までする気にはならなかった。
そこまでの出力は要らないだろう。
ここから先はトライアンドエラーの日々が続いた。

そして遂に後はプロペラの形状を試すのみとなった。
ここからは実際に海でプロペラを回してみないと分からない。
風を感じるだけでは何とも分かりづらかったからだ。

そこでまずは簡単に筏を造って、心臓部のみを設置して海で実走してみることにした。
筏なら速攻で造れるし、安価だ。
海に浮かべて実走を開始することにした。
結果、プロペラの形状に最も最適なのは、楕円型の物であることが分かった。
最終的には二気筒で、楕円型のプロペラにすることに決定した。

これで心臓部の概要は固まった。
この実験には数日かかったがまったく気にならなかった。
それよりも、三人とも活き活きと実験を行っていた。
悪だくみ三人衆は健在である。
実験楽しかった!



ここからは、実際にクルーザーを造っていく。
サイズ感としては今のクルーザーよりも、一回り大きくしようと考えている。
このクルーザーはあくまで船旅用だ、設備は重要になる。
設備はトイレとキッチン、更に簡単なシャワールーム、仮眠室を設けようと考えている。これは欠かせない。
外にも細かい調整を入れるつもりだが、今はこれぐらいにしようと思う。

悪だくみ三人衆だが、一度クルーザーを造っている所為か、親父さんもクエルさんも作業が早い。
次々にクルーザーが組み上がっていく。
俺は余念なく心臓部を作り上げていった。
そして遂にクルーザーが完成した。
新クルーザーの完成には、実に十日間の歳月を有することになった。
ゴンズ様が気になったのか、何度も覗きにきていた。

試走を開始することにした。
実験の成果をお披露目だ。
俺と親父さんとクエルさんに加えて、ゴンズ様も同乗している。
ゴンズ様は新クルーザーが気になって仕方がないようだ。
当然の如く新クルーザーに乗り込んできた。

まずは俺が舵を取る。
ここは役得ですよね。
一番手は譲れない。

「では、出発進行!」
俺は神石に神力を込めていく。
クルーザーが静かに音を経てて進んで行く。

沖に出ると、
「どうなんだ?島野?」
ゴンズ様が尋ねてくる。

「ええ、順調です。速度を上げますよ」
俺は神力を更に込める。

ぐんぐんと速度が上がっていく。
クルーザーが風を切って走っている。
爽快な気分だ。
恐らく時速六十キロは出ていると思う。
俺は体感的に分かったことがある。
成功だ!各段に燃費が良くなっている。
前のクルーザと比べて、半分以下の神力で、同等以上の速度が出ている。
燃費としては、たぶん三倍以上は良くなったと感じる。

「皆さん、成功です!」
と俺は宣言した。

「おお、やったか!」

「やりやがったな!」

「よっしゃ!」
三人は盛り上がっていた。

「変わりますか?」

「儂に運転させてくれ!」
ここは年の功でゴンガスの親父さんからハンドルを握る。
クルーザーを楽しそうに運転している親父さん。
笑顔が輝いている。

「よし!各段に燃費がよくなっておる!」
親父さんは、ハンドルを切ってクルーザーの動きを確認していた。

運転を変わったゴンズ様は、
「島野!同じやつが欲しい!いくらだ?」
と聞かれてしまった。
いくらなんだろうか?
悪だくみ三人集で相談だな。

そして、いよいよクエルさんの出番だ。
クエルさんは少し緊張している様に見える。
魔力に関する部分はクエルさんの担当だ。

「クエル、一気に行け!」
ゴンズ様が背中を押す。

「分かりました!」
クエルさんは魔石に魔力を込め出した。
クルーザーが一気に進みだす。

「おお!魔力の減りが少ない!」
よし!
魔石バージョンも上手くいったみたいだ。
その後は遊びとなってしまった。
海上の暴走族となった俺達は、新クルーザーを目一杯楽しんだ。
途中で海獣に遭遇したが、轢き逃げしてしまった。
あれはクラーケンか?
ごめんね・・・

調子に乗って俺が時速百キロぐらいで走らせた時には、
「島野、早すぎる、いい加減にしろ!」

「怖え!」

「お前さん、クルーザーがもつのか?」
咎められてしまった。
反省して、俺はハンドルを手放した。
調子に乗ってすんません。

こうしてクルーザーの試乗は終了した。
それにしても楽しかった。
また遊びたい。
あ!遊び用じゃなかったな。
いけない、いけない。
船旅用だった・・・
ちょいちょい調子に乗ってしまう俺。
反省です。



港に戻ると、漁師達から歓迎を受けることになった。
港は大騒ぎだ。
何故にこんなことになっているんだ?

「島野さん、新しいクルーザーですか?」

「すげー!かっこいい!」

「なんだこの船は!」
漁師達は盛り上がっている。

「これは困りましたね・・・」

「そうだな、こいつら何やってんだか・・・」
ゴンズ様もぼやいている。

「いっそのこと、このままサウナ島に転移しますか?」

「それはいいな、そうしてくれ」

「儂も構わんぞ」

「俺もそれでいいですよ」
合意が得られたので、問答無用でクルーザーごとサウナ島に転移した。
漁師の皆よ、すまんな。文句は君達の親方に言ってくれ。

フュン!

サウナ島の港に転移すると、たまたま居合わせたレケが突然現れたクルーザーに、腰を抜かしていた。
驚かせてすまん。

それを見てゴンズ様は、
「レケ!何ビビってんだよ!ガハハハ!」
大爆笑していた。

「煩せえ!親方!ビビるに決まってるだろ。せめて沖に転移してくれよボス!」
レケも言い返していた。
レケの言う通りだった。
いきなり港はまずかったな。
ごめんなさい。

「すまんレケ!」
俺は謝っておいた。
でも俺も笑えて仕方が無かった。
だってあのレケの顔って・・・目ん玉飛び出そうだったぞ!

「プププ!」

「ボスも笑ってんじゃねえよ!」

「ガハハハ!」
俺とゴンズ様は、笑いのツボに入ってしまった。
レケは俺達が笑い終わるまでずっと怒っていた。
すまん、すまん。
にしてもオモロ!
ノンも悪く無いが、レケの驚く様も面白い。

レケが疑問をぶつけてきた。
「それでボス、なんでまたクルーザーがあるんだ?」

「ああ、これは北半球に乗り込む為に造ったんだ」

「え!」
レケは絶句していた。

「何?島野お前マジか!?」
ゴンズ様も驚いている。
そうか言ってなかったな。
驚かせてごめんなさい。

「言って無かったですね。準備が整ったら俺は北半球に乗り込みますよ」

「だと思ったわい、急にクルーザーを改良すると言い出した時には、何故かと思ったが、そういう訳だの」
親父さんは合点がいったみたいだ。

「そうか・・・遂に行くのか・・・」
ゴンズ様は苦い顔をしていた。

「俺が行くしかないでしょう?それに俺が南半球で出来ることは、大体済んだと思ってますよ」
南半球ではもう、俺に出来ることは無いかもしれないな。
娯楽も広めたし、全ての街も転移扉で繋げたしね。
あとは見守ることしか出来ないでしょう。

「だがの・・・大丈夫なのか?」
親父さんが俺の心配とは珍しいな。

「正直言って、あまりに情報が無いので、困ってますけどね」

「そうか・・・まあお前さんなら問題なかろう」
ですよねー、そう言われると思ってましたよ。

「でも、まだまだ準備には時間が掛かると思いますよ」

「壮行会でもするか?」
ゴンズ様がこんなことを言い出すとは思ってもみなかったな。
意外過ぎる。
というよりは、神気減少問題を押し付けて、申し訳ないと感じているのだろう。
そんなこと気にしなくてもいいのにね。

「いや、そう言うのは止めてください。それにしょっちゅう帰ってきますので、返って気まずくなります」
間違いなくしょっちゅう帰ってきますよ。
だってサウナに入りたいですからね。

「分かった」

「まずは準備が整ったら、皆さんには改めてお話させていただきますよ」

「無理はするなよ」
またも、らしくないことを言う親父さんだ。
どうやら相当な大ごとに感じているみたいだな。
そんなこととは、俺は思っていないんだけどね。
まあいっちょやってみますか、って程度なんだけど。
それにしても、これはちゃんとした説明が必要みたいだ。
面倒くさ!



俺はその後も準備を行っていた。
まずはメンバーだ。
敢えて聞く必要は無いのだが、聞いてみる。

「ギル、北半球に行くよな?」

「当たり前でしょ?」

「だよな」
ギルは早くエリスのその後を知りたいに決まっている。
俺も知りたい。
オリビアさんが何か知ってそうだけど・・・俺から聞いていいのだろうか?
でもそろそろ待ってはいられない。
どうしたものか・・・

次にノンだ。

「ノン、北半球に行くけど来るか?」

「行くよー」
相変わらずのマイペースだ。
俺が地獄に行くけど一緒に来るか?
と言ってもこいつは、
「行くよー」
といいそうだ。
流石は俺のソウルメイトといった所か。

ゴンに関しては俺が聞くより先に、
「私も行きますから!」
と宣言していた。

だろうな、俺もゴンが来ないとは考えられないからな。
そしてこちらも来るに決まっているメンバーに声を掛ける。

「エル、北半球に行くけど来るか?」

「勿論ですの」
安定の回答だった。
問題はここからだった。
レケはどうするのか?
ダンジョンの時の反応を見る限り、何とも言えない。
それにこいつが魚の養殖場から離れられるのか?
と思ってしまう。

案の定レケは、
「ボス、考えさせてくれ」
といった回答だった。

どうやら考えたいみたいだ。
俺としてはどちらであっても良いと考えている。
さて、これからはどうしたものか・・・
言わざるを得ない為、マークとランドに話をした。

「くっそ!連れて行ってほしい!でも・・・」

「俺は島野さんに・・・」
と歯切れは悪い、俺は分かっていた。
こいつらが付いてきたいのは分かっている、でも俺の真意を分かっているこいつらはそうは言わないのだと・・・
すまんなマーク、ランド、・・・
メタンだが・・・無茶苦茶泣かれた。
こいつも付いてきたかったみたいだ。

メルルは、
「行ってらっしゃい!」
と元気に送り出してくれるみたいだ。

ロンメルは、
「そうか旦那・・・」
と少し寂しそうな顔をしていた。
すまんなお前達、留守は任せる。