よく考えると、このサウナ島も可笑しなところだと思う。
上級神様がアルバイトにくる島って、外にはないだろう。
上級神様は他にもまだまだ居るということだが、今の所御来島する気配は感じない。
正直お腹一杯なので、控えて貰えると助かる。
もう充分ですって、ほんとに。
冗談抜きでね。

ふと考えたことがある。
ギルやエリスのことを考えると、直ぐにでも北半球に向かうべきなんだろうが、そうとも思えない。
焦りは禁物である。
今や南半球の全ての国や街が転移扉で繋がり、国交も結ばれている。
タイロンを中心とした、友好条約がメッサーラとメルラドの三国間で締結され、南半球の平和は揺るぎないものとなっていた。

この友好条約だが、調印式をサウナ島で行った所為か、俺の功績との噂がたっていた。
実際のところはちょっと違う。

俺はエンゾさんに、
「友好条約を結んだら、より文化交流や技術交流が盛んになって、経済効果は高くなると思いますよ」
と入知恵し、メリッサさんと、ルイ君を引き合わせただけである。
その為、俺は友好条約の中身については、どんな条項があるのかは知らないし、どんな内容かも知らない。

サウナ島で調印式を行ったのも、中立を謳っているサウナ島が打って付けだったからだ。
深い意味は全くない。
誰の功績か?と問われたら。
間違いなくエンゾさんだろう。
この友好条約締結以降、三国間での交流は盛んになっている。
もはや南半球の平和は担保されている。

しかし、現状で満足していいのか?との考えが過る。
もし俺がこの島を離れたらどうなるのか?
当然五郎さん達神様ズが、纏め役を担ってくれるのだろう。
それに今では上級神達もいる。
戦争の様な事は間違っても起きないだろう。
だが危惧するのは、エンゾさんではないが、産業と娯楽の中心がサウナ島に偏り過ぎているのでないか?ということだ。
ここに来て俺は、娯楽が一所集中なのは良くないのではないかと、思う様になってきたのだ。
何もサウナ島に娯楽を集中させる必要は、無いのではなかろうか?
何が思い浮かぶか?
娯楽を広めることを考えてみたい。

まずこの島には四季がない。
それは逆を言えば、季節に伴う娯楽が無いということだ。
俺は思い至って、リチャードさんと話をすることにした。
場所は事務所の社長室だ。

「島野様、お呼びでしょうか?」
リチャードさんが息を切らして、社長室に飛び込んできた。

「リチャードさん、落ち着いてください。走ってきたんですか?」
リチャードさんは肩で息をしている。

「ええ、島野様からのお呼びとあっては、直ぐに駆けつける必要がございます」

「・・・まあまずは座ってください」
これは少し時間が必要だな。
ゴンが飲み物を尋ねてきた。

「俺はいつもの」
アイスコーヒーのことである。
ゴンにはこれで通じる。

「私は、はあ・・・はあ・・・水を」
息も絶え絶えだ。
相変わらずリチャードさんは生真面目だな。
ゴンが飲み物を持ってきた頃には、リチャードさんは落ち着きを取り戻していた。

「リチャードさん、今の時期のメルラドは雪が降っていますよね?」

「はい、その通りでございます」

「スキー場を造りませんか?」

「スキー場でございますか?」

「はい、街から簡単に行ける山はありますか?」

「・・・おそらくは・・・」
リチャードさんは考えているみたいだ。
右上方を眺めている。

「それがあれば、スキー場が作れます。それで、この時期のメルラドにも人が集まって来るようになりますよ」

「え!本当ですか?」
リチャードさんは眼を輝かせている。

「まずは見にいきましょうか?」
俺としては現地をまずは確認してみたい。
山の斜面を見てみないことにはね。

「是非お願いします」
俺は雪でも寒くないように、服装を変えて、リチャードさんとメルラドに向かった。
メルラドは雪に覆われていた。
メルラドの雪景色は久しぶりに見るな。
街が銀色に輝いていた。
綺麗な景色だ。

「山はどちらにありますか?」

「こちらでございます」
リチャードさんは指を指している。
うーん、町並みで隠れて見えないな。
俺達は連れ立って、歩を進めた。
じきに山が見えて来た。
良い傾斜だ、これならいけるか?
穏やかな斜面だった。

「リチャードさん、あの山は国の物ですか?」

「そうなります、どうされますか?」

「どうされますか?って、俺の独断でどうにかしていいのですか?」

「勿論でございます、国には私の方から捻じ込んでおきますので」
捻じ込むって・・・まあいいか・・・
俺を買い被りし過ぎなんじゃ・・・
そういうのならやっちゃうけど。

「そうですか・・・」
では遠慮なく。

「島野様はメルラドにとって損となるようなことは決してなさらないと、存じ上げておりますので」
じゃあお言葉に甘えて。
好きにやらせて貰いますよ。

俺は『転移』して、次々に木々を伐採していった。
伐採した木は後で使うので、一箇所に集めておいた。
その後伐採を繰り返し、概ね作業が終わったところで天候が吹雪に変わってきた為、一旦作業は終了することにした。

リチャードさんの元に戻ると、
「島野様、とてつもないスピードで伐採を行っておりましたね」
と慄いていた。

「そうですか?今日はとりあえず終了します。続きは明日行います」

「畏まりました、それにしてもスキー場とは、いったいなんでしょうか?」
そうだった、スキーを説明していなかった。
俺は先ほど伐採した木から、スキー板を造ってみせた。

「この板に靴を繋げて、雪の上を滑走するんです」

「滑走でございますか?」

「はい、これから帰ってスキー板を完成させるので、スキーを明日やってみましょう」

「畏まりました」
俺達は一旦サウナ島に帰ることにした。
それにしても寒かったー!
もっと厚着にすればよかった。
霜焼けが出来るかと思ったよ。
足先が冷たい・・・



サウナ島に帰ると、赤レンガ工房に直行した。

赤レンガ工房に入ると、リチャードさんが、
「ここが赤レンガ工房ですね」
工房内を見回していた。

「リチャードさんは、赤レンガ工房は始めてでしたか?」

「はい、小職は赤レンガ工房に入るのは始めてでございます」
小職って・・・サラリーマン時代のメールのやり取りを思い出すな。

「じゃあ早速スキー板を造っていきますね」
俺は『加工』と『合成』を繰り返し、スキー板を作製した。
スキー靴は堅めのゴムをベースとして、寒さ対策で靴内に皮と、麻を敷きつけておいた。
設置部分の金具も造っていく。

次に同じ要領で、今度はスノーボードを造ってみた。
どちらを使うかは好みが分かれるところだ。
更に、子供用にソリを造る。
勿論木製だ。
楽しめることは間違いないだろう。

最後に本命のスノーモービルを造っていく。
ここはベースを木製にして、クルーザーの時と同じ要領で、心臓部とハンドルを造っていく。
装甲はアルミを使うことにした。
神石バージョンと、魔石バージョンの両方を造っていく。
またこれで爆走できるだろう。
楽しみで仕方がない。

リチャードさんは常に、
「おお!」

「なんと!」

「これはいったい・・・」
と声を漏らしていた。

これにより、ウィンタースポーツ道具が一式完成した。
後はウェアーだが、一先ず後回し。
実走してからでもいいだろう。
メルラドの服飾職人達には、スキーウェアーの発注だけはしておいた。
後は彼らに任せるのみだ。

そして、翌日。
朝から俺はフレイズを伴ってメルラドに向かった。
フレイズには、特別なバイトがあると声を掛けたところ。

「我に任せよ!」
と喜んでいた。
どれだけ稼ぎたいのやらこいつは・・・
現地に着くと、既にリチャードさんが待機していた。

「リチャードさん、こちら火の神のフレイズです」

「我がフレイズだ!ナハハハ!」
フレイズはいつも通り偉そうにしている。
もう咎める気にもならない。

「フレイズ様でございますね、始めまして、私はメルラドの外務大臣を務めております。リチャードと申します、以後お見知りおきを」
リチャードさんは、仰々しくお辞儀をしていた。
リチャードさんにとっては、相手が上級神であっても、もう慣れっこになってしまったようだ。
これぐらいではもう驚かないらしい。
そんなに驚かせたっけ?

「それで島野。我は何をすればよいのだ?」

「この山の伐採しているエリアに積もっている、雪を溶かしてくれ」

「そんなことでよいのか?」

「ああ、これで金貨十枚はお手頃だろ?」

「なんと!金貨十枚もか?これはコスパが良いな!」
コスパってどこで覚えたんだよ?
変なことばかり覚えやがって・・・
まあいいか。

「フレイズ、さっそく頼む」

「心得た!」
フレイズは炎を纏って、雪すれすれに飛んで行く。
ものの数分で全ての雪が解けていた。
おおー、腐っても上級神だな。
仕事が早い。
やれば出来る子のようだな。

「よし、おつかれさん」
俺は金貨を十枚フレイズに手渡してやった。

「おお!ものの数分でこんなにも!島野、外にもこんなバイトはないのか?」
バイトを催促されてしまった。
もはや上級神の威厳はないらしい。

「今の所はないな、っていうかお前そんなにお金に困ってるのか?」

「ちょっと心元無くてな。まあよい、またこんなバイトがあったら声を掛けるのだぞ!」

「ああ、分かった」
フレイズは転移してサウナ島に帰っていった。
どうせ日本酒を飲むか、辛い食べ物を食べに行くのだろう。

さて、ここからは俺の仕事になる。
まずは自然操作の土で、坂の地面を耕していく。
小石や、石、岩等を『念動』で脇に追いやっていく。
この石はあとで、階段の材料になる。
全ての石を取り除いたら、今度は土を『自然操作』で固めていく。
これでコース自体は完成だ。

次に先ほど取り除いた石と、先日伐採した木材も使って、階段を造っていく。
階段造りには、地味に時間が掛かった。
リチャードさんも息も絶え絶え手伝ってくれた。
お疲れ様でございます。
後でお風呂にでも入って、温まってくださいな。
最後に自然操作で、雪を降らせてスキー場が完成した。

後は下部にロッジを作るのだが、まずは滑走してみたい。
俺はスキーを選択し、リチャードさんは子供用のソリを選択した。

「じゃあリチャードさん、行きますよ」
俺は一足先に滑り出した。

リチャードさんが、
「島野様、待ってください」
と言いながら後を追いかけてくる。

シュッ、シュッ、シュッ。
リズムを取りながら、俺は滑走していく。

リチャードさんは、
「あわわわわ!」

「おっとととと!」
等と言いながら、ソリを滑らせていた。

久しぶりのスキーだ。
これは楽しい!
疾走感が半端ない!
腰が引けながらも、リチャードさんも楽しんでいる様子。

「おお!おお!」
雪の上を滑る感覚を楽しんでいるみたいだ。

「よし、次はスノーボードだな」

「では、私はスキーを体験させていただきます」
ウィンタースポーツに前向きなリチャードさんだ。
俺は『転移』で一気に山頂まで移動した。

「では、行きましょう!」

「ちょっと待ってください!」
俺はスノーボードを楽しんだ。
リチャードさんは・・・かなり苦戦していた。

「これは・・・修業が必要です」
俺はまず、リチャードさんにパラレルを教えた。
Ⅴ字で内股のあれね。
リチャードさんは見かけによらず、めきめきとスキーが上達していた。
日が暮れる頃には、一端のスキー上級者になっていた。
この人は見かけによらず、運動神経が良いようだ。

そして俺は待望のスノーモービルを楽しんだ。
これは想定以上にスピードが出る。
雪上の暴走族だな。
ガンガン飛ばしていく。
ぶっこんでいくんでよろしく!と心の中で叫ぶ。
ネタが古いかな?
無茶苦茶楽しい!
スノーモービルを造って良かった。
もしかして俺は暴走狂なのか?
そんな自覚は無いのだが・・・

その翌日にはマークとランドを伴って、ロッジ建設に勤しんだ。
途中途中で俺達はスキーなどを楽しんだ。
マークはスキー派、ランドはスノーボード派だ。
こいつらは当初から上手に滑っている。
俺は勿論スノーモービル派だ。

一度スノーモービルの後部座席に二人を乗せてやったが、
「怖すぎる!」

「目が開けられなかった!」
二人は腰が引けてしまったようだった。

軟弱な奴らだ、もっと気合を入れろよな!
脱線してしまった・・・

そして二週間後にはロッジが完成し、このロッジは休憩所兼食堂として、使われることになった。
その後ブランドショップにて、スキー用品や、スノーボード用品の取り扱いが始まり、これは何だと、ウィンタースポーツの一大ブームが巻き起こった。
因みにスキーウェアーは、メルラドの服飾職人達が、大いに腕を振るってくれた。

そして冬の時期のメルラドに、たくさんの人達が訪れることになった。
沢山の人達がウィンタースポーツを楽しみ、スキーやスノーボード等を堪能していた。
この現象にメルラドの国民は沸いた。
我先にと、ウィンタースポーツを楽しむだけでは無く。
メルラドに訪れる人達を歓迎しようと、国を挙げての歓迎ムードになっていた。
冬の時期なのに、食堂や商店等が建設されていた。

そしてこの娯楽に特に飛びついたのは、上級神達だった。
あの人達は全く・・・
花魁がスノーボードをする仕草には笑えた。
何故かアースラ様は、スキーウェアーを着ようとはしなかった。
寒くないのかな?
拘りなのかな?
フレイズはスノーモービルを乗り回していた。
流石にこちらはスキーウェアーを着用していた。
フレイズは寒さには弱いらしい。
アクアマリン様はソリが大好きなようで、その様はとても可愛く見えた。
子供用のソリにちょこんと乗っている姿はとても和んだ。
ウィンドミル様はスキーを楽しんでいた。
一度調子に乗ったフレイズが、スキーの速度を上げようと、炎を纏って滑走していたところ。
雪が解けてしまい、スキー場が使えなくなってしまった。
これにキレたアクアマリン様が、フレイズを水浸しにして凍えさせていた。
フレイズの天敵はアクアマリン様らしい。
火に水とあれば、そうなんだろう・・・
急遽呼び出された俺は、自然操作で雪を降らせることになっていた。

フレイズは、
「我、死ぬかも・・・」
残念ながら完全にノックアウトされていた。
チーン!
という効果音を付けてください。

ウィンタースポーツブームにメルラドは沸いた。
そこで興の乗った俺は、モーグルの出来る瘤のある個所を何カ所か造ってみたところ。
ウィンドミル様は、難なくモーグルを滑走していた。
凄い運動神経だ。
思わず見惚れてしまった。

宿泊宿は、これまで冬場は閉店していたのが、常時開店となり大賑わいとなっていた。
今では予約が取れない事態となっているようだ。
そしてロッジには島野プロデゥースとして、新たな味が提供されることになった。
目玉のメニューは豚汁とトマトスープである。
あのメルラドを救ったメニューが、ここに来て異彩を放っていた。
メルラド国民は感慨深くこれを受け止めていた。

スキーで冷えた身体には持って来いだと大好評だ。
外には鍋料理を各種取り揃えている。
トマト鍋、豆乳鍋、が売れ筋として、水炊き鍋、カレー鍋が定番となっている。
異彩を放っているのがキムチ鍋だ。
フレイズが連日食べに来ていた。
ファメラもキムチ鍋が好きなようだ。
キムチはスーパー銭湯での裏メニューだったのだが、ここに来て瞬く間に人気メニューの仲間入りになっていた。

その後、キムチはチャーハンやラーメン等にも使われる様になっていた。
また俺の仕事が増えてしまった・・・
勘弁してくれよ・・・
誰か早く『熟成魔法』を覚えて欲しいものだ。
ゴンに期待するしかないな・・・
これによって、冬の時期のメルラドにも人が集まるようになった。
リチャードさんの興奮は、留まることを知らないようで。
これでメルラドは大国に成った!
と鼻息は荒い。
まあ俺としては、娯楽を広めたかっただけなのだが・・・
結果良しとしておこうかね。



そして今度は、メッサーラに話を持ち込んだ。
ルイ君は二言返事で俺の提案を了承した。
こちらも必ず議会を通すからと、確約してくれた。
メッサーラでは、俺はスポーツ施設を建設することにした。

まずは野球場と体育館だ。
特にバスケットボールの人気が高いメッサーラでは、喜ばれることは間違いないだろう。
それに、今ではバスケットボールだけに留まらず。
スーパー銭湯の漫画の影響で、バレーボール人気も高くなっている。
バレーボールは以外にも、エンゾさんが嵌っていた。
これで甘味が沢山食べられると、彼女は息巻いていた。
カロリーを消費出来るということなんだろう・・・
そこまでして甘味が食べたいのか?
お好きにどうぞ・・・

体育館はあまりの人気の高さに、二棟造ることになった。
さらに陸上競技場を作り、ここでは陸上競技を行えるようにした。
今ではメッサーラは魔法国というよりも、スポーツ王国といってもいいのではないかというほどの、スポーツ熱を帯びていた。
ルイ君も積極的にスポーツを行う様になっていた。
ルイ君は運動が得意とは思えない・・・
怪我には気を付けてくれよ。



次に手を加えたのは、コロンとカナンとエルフの村だ。
ここは自然を生かした、キャンプ場を建設することにした。
ドラン様も、レイモンド様も、大喜びしていた。

アンジェリっちは、エルフの村長に任せて報告だけ受けていた。
彼女は相変わらず忙しく、美容室に張り付いていた。
特にコロンのキャンプ場建設は、テリー達が奮起していた。
故郷に錦を飾れると、気合が入っている。
キャンプに関しては、今ではプロとの呼び声高いテリーだ。
彼は上級キャンパーと言っても過言では無いだろう。
フィリップとルーベンも肩を回していた。
鼻が高いと宣っている。
まあ気持ちは良く分かる、今ではこいつらも島野商事の主力と言える存在だ。
ただの孤児だった面影すらない。
青年の成長は本当に早い。

キャンプ場の建設には、一ヶ月の歳月を有することになった。
というのも、ロッジにちょっとした拘りを設けたからだ。
それは何かというと、屋根裏部屋を設けて、満天の星空を眺めることが出来る使用にしたからだった。
これはとても好評だった。
横になりながら満天の星空が眺めることが出来ると、大勢の人達が予約に殺到した。
そしてキャンプ場のオペレーションに関しては、テリーが全てを教え込み、文句の無いものに仕上がっていた。

これにより、娯楽目的でコロンとカナン、そしてエルフの村に訪れる人達が増えた。
今では、街を挙げて食堂や商店を建設するほどになっている。

更に俺はパターゴルフ場を造ってみた。
これが驚くほどにウケてしまった。
男女年齢関係なく楽しめると人気は高い。
因みにこれにドラン様は大嵌りしていた。
ホールインワンが出来たと、先日自慢していた。



鍛冶の街フランに関しては、本当に悩んだ。
だって酒の印象しかないんだもの。
外に何があるってのよ。
捻りに捻りを重ねた結果、室内競技場を造ることにした。
ビリヤードやダーツを中心に、将棋やチェス、ボードゲームを楽しむ施設だ。
ドワーフ達は、酒を煽りながら、ゲームを楽しんでいた。
よくもまあそんなことが出来るものだ。

更に俺は物足りないだろうと、ボーリング場を造った。
これが大人気となった。
色々な街からボーリングを楽しむ方々が、フランの街に訪れる様になった。
中にはマイボールを造る拘りを持つ者まで現れた。
今ではどうやって自動で、ボールが戻るのかの仕組みに、親父さんと頭を悩ませているぐらいだ。

そして俺はこっそりと、あるプロジェクトに着手した。
それは、不定期に現れる謎の屋台。
日本で集めれる高アルコールのお酒を提供する、謎の屋台だ。
いつ何時何処に現れるのかは秘密だ。
というより、俺の気が向いた時にしか現れない。
遂に禁断のカードを引いたと言える。
異世界のアルコールを持ち込んでしまったのだ。

メインの商品はウォッカだ。
これをショットで飲ませるのだ。
ライムを口に咥えるスタイルだ。
漏れなくドワーフ達は、酩酊にさせられている。
だがここは流石のドワーフだ。
数名は、これを乗り越えてきた。

ある猛者が言った。
「あれは最高峰のアルコールだ!」

「あの衝撃は人生を変える!」

「ここまで追い込まれたのは後にも先にも無い!」
と・・・
知るか!
俺はどこまでドワーフがアルコールを飲めるのかを、試したかっただけである。

これを嗅ぎ取った親父さんからは、
「儂には飲ませんのか?」
挑戦状を受けることになってしまった。
さっそくウォッカの試飲が始まった。
大満足の親父さん。

「もっとよこせ!」
瓶をぶん捕られてしまった。
こうなると思ったよ、全く。
その後ことある事にウォッカを強請られることになったが、断固として拒否した。
ここは譲れない。
異世界の物を際限無く持ち込むことになってしまう。
これは頂けない。
あくまで俺の気が向いた時に、しれっと行う屋台である。
タダの趣味でしかない。
常時何て・・・あり得ないでしょ?



そして俺の、娯楽を広めよう作戦に共鳴した、五郎さんが遂にその重い腰を上げることになった。

「島野、ボルンとボイルに温泉旅館を造るぞ、手伝え!」
との協力要請があった。
俺はこの時を待っていた。
泉源のあるこの二つの街には、温泉旅館が必要だと思っていた。
温泉旅館となれば、俺が発起人になる訳にはいかない。
ここは五郎さんの土俵だ。

五郎さんの指示の元、まずはボルンから温泉旅館が造られることになった。
ランドールさんからは、
「せっかくだから、これを機に上下水道を通そうと思います。協力して貰えますか?」
こちらからも協力要請があった。

メッサーラの学校の建設は弟子達に任せて、ランドールさんは上下水道の設置と、温泉旅館の建設に勤しんだ。
まずは上下水道から引き込みを行うことになった。
その隙に五郎さんは、温泉旅館の構想を練っていく。
サウナ島からは俺とマーク、ランドが積極的に手伝いを行った。
上下水道工事はもはや手慣れたマークとランドが、力を発揮していた。
故郷に恩返しができると、いつも以上に力が入っている。
時々マークの親父さんが現場を視察しに来ていたが、俺は捕まると長くなりそうなので、作業に没頭する振りをしていた。
だって、無駄な長話はしたくないじゃない?

上下水道は、今後は一般家庭にも広げると、ランドールさんは入念に作業を行っていた。
上下水道は一から造る方が簡単で、今ある家に引き込む方が大変だ。
それを理解しているランドールさんは、温泉旅館用に上下水道を引き込むだけでは無く、その先を見据えなければならない。
こちらもいつも以上に力が入っていた。
そして俺はアースラ様に声を掛けた。

「アースラ様、臨時バイトをやりませんか?」

「臨時バイトとな?」

「はい、土を掘り返して貰えればと」

「ほう、よかろう。余が手を貸そう」
アースラ様も満更でもなさそうだった。

上下水道の引き込みで、最も大変な土を掘り起こす作業を、一瞬で行うアースラ様だった。
これはありがたい。
一週間以上は期間を短縮できたかもしれない。
俺はバイト代をアースラ様に払って、作業に戻った。
アースラ様もほくほくの表情で、サウナ島に転移していった。
俺はどうやら上級神の扱い方に慣れて来たようだ。
ちょろくて助かる。
しめしめだ・・・

そして今ある温泉はもっと豪華な物に変えようと、五郎さんは余念が無い。
上下水道の引き込みが粗方完成するまでに、一ヶ月を要することになった。
そして遂に温泉旅館の着工が始まった。
俺は特に瓦等を能力で造っていくことになった。
その他の材料もサウナ島の木材などを使い、金具に関しては、ゴンガスの親父さんに造ってもらうことになった。
建築現場にゴンガスの親父さんがいることに、ちょっと違和感を感じたが、親父さんも建設現場に興味があったらしく。
入念に視察していた。

今では五郎さんを中心に、俺とランドールさん、親父さんのグループが出来上がり、親交はより深い物となっていた。
特にランドールさんは、これまで五郎さんとはあまり交流が無かったようで、親しくなれたと喜んでいた。
作業もどんどんと進んでいく。
ここぞとばかりにランドールさんは『加工』を使っていた。
俺がいるから、ここでもレベル上げがしたいのだろう。
精度も前に見た時よりも良くなっているのが分かる。

そして温泉旅館が遂に完成した。
温泉旅館は、日本家屋造りの豪華な物になっていた。
ボルンの街にはこれがよく似合う、宮造りの家と遜色ない。
いよいよ温泉街『ゴロウ』以外の街で、温泉旅館が出来上がった。
五郎さんは完成した温泉旅館を、感極まる表情で眺めていた。

「いよいよやっちまったな」
五郎さんは呟いていた。
俺がサウナを五郎さんの温泉街に広めた時と同じなんだろう。
気持ちはよく分かる。
自分の愛した文化が広まったと感激したものだ。
「島野、ここからだな」
五郎さんは気合を入れ直していた。



ボイルの街に降り立った俺と五郎さん。

「島野、どうするよ?」
と五郎さんが投げかけてきた。
言いたいことは分かる。
木造建築でいいのか?ということだろう。

「実は、ちょっと考えていたことがあるんです」

「ほう、なんでえ?」

「木造建築でいいのか?ってことですよね?」

「そうだ、この火山の影響を考えん訳にはいくめえ」
そこは考えていることがあった。

「結界を張るってのはどうですか?」

「結界?」
五郎さんには分からないようだ。

「俺の能力で結界を張れるんです、そうしたら万が一火山が噴火しても温泉旅館に火が付くことは無いかと思います」

「そうか・・・島野がやるのか?」

「でもいいですし、フレイズにやらせてもいいかと」

「そうか、ならこれまでと同じ温泉旅館でもいいとうことか?」

「ですね、でもこの街に馴染みますかね?」

「確かにな・・・ちょっと思案のし処だな。時間をくれや」
と一旦持ち帰ることになった。
ここは五郎さんに預けるしかない。

数日後、
五郎さんが事務所に現れた。

「島野、考えが纏まったぞ!」

「そうですか」
俺は五郎さんに着席を促した。

「島野、お前えコンクリートってものを準備できるよな?」

「ええ、出来ますが」

「それで造ろうと思ってな」

「コンクリートでですか?」

「ああ、そうでえ」
と五郎さんはほくそ笑んでいた。
なるほど、それならば街にも馴染むし、耐火能力も高い。
流石は五郎さんだ。
ホテルに舵を切ったということなのだろうか?
でも温泉旅館としては、異質に感じるのだがどうなんだろうか?
まあやってみようかな?
先入観は捨てましょう。

こうして五郎さんが構想を練ることになった。
その隙に俺はマークとランドを連れて、上下水道の引き込みを行う事にした。
ボイルの街には川まで結構な距離があった。
ここでもアースラ様のバイトが役に立った。
副産物的にありがたかった事は、ここの川でも大工の街ボルン同様に、鮭が取れたことだった。
ボルンに続きここでも鮭が取れるとは思わなかった。
鮭は今ではサウナ島でも取れない珍味となっている。
これも新たな特産品になるだろう。
ファメラも喜ぶことは間違いない。
こうしてボイルの街に温泉旅館の建設が始まった。
果たしてどうなることやら・・・
まあ、何とかなるだろう



ボイルの街の温泉旅館の建設だが、はっきりって俺の能力頼みの物になっていた。
それはそうだろう、コンクリ張りの建設物だ。
これならば耐火能力は高い。
でもこれが、思いの外この街の景観に合っていた。
五郎さんの先見の明が嵌った形だ。
一見異質だが、そうでも無いと感じてしまう。

温泉旅館とは言いづらいが、これはこれで良いのではないか?と思えるホテルが出来上がっていた。
ここは五郎さんなりの、棲み分けということなのかもしれない。
一気に日本風からは離れるが、こういう施設があってもいいと感じる。
温泉も豪華な造りになっている。

五郎さんに言わせると、
「ここの街には豪華さが必要だ。これぐらいやらねばなるめえ」
ということだった。

何となく言いたいことは分かる。
一見質素なこの街には、これぐらい目立つ建物があってもいいと感じる。
それに他の温泉旅館とは違って、これまでに無い楽しみ方ができそうだ。
流石は温泉街の神様だ。
発想が違う。
その後ボイルの温泉旅館は大人気となっていた。
ファメラもとても喜んでいた。
よかったよかった。



次に漁師街ゴルゴラドだが、ここは簡単だ。
既に半分は出来上がっていると言える。
ゴンズ様には既に構想は伝えてある。
ゴンズ様は街の為になるのならと、了承済みだ。

ゴルゴラドでは、マリンスポーツを充実させるつもりだ。
俺はゴンガスの親父さんを伴って、クエルさんの所にやってきた。
悪だくみ三人集の再結成だ。
ここでもまた、連日クエルさんの所に入り浸って、俺達は作業に没頭することになった。

まず最初に造ったのは、サーフボードだ。
これはウケるに決まっている。
サーフィンはマリンスポーツの花形だ。
それに波に乗るのは楽しい。
当然ボディーボードも作成した。
これも大いにウケるに決まっている。

次にジェットスキーだ。
前に造ったクルーザーの心臓部を参考に、ジェットスキーを造っていく。
素材はアルミを選択した。
そして水に浮かぶ様に、空気を含む箇所を何カ所も散りばめていく。
それでも水に浮かぶのか心配になったので、下部の脇にゴムで造った浮き輪を『合成』で設置していく。
日本のジェットスキーほどの、洗練されたフォルムにはなっていないが、これはこれで楽しめそうだ。
試走してみたが、思いの外速度は出なかった。
でもこれぐらいで良いのかもしれない。
安全第一に勤めたい。
体感としては、最大で時速四十キロぐらいだ。
問題になるかもと思っていた燃費問題だが、クルーザーとは違って、ジェットスキーは軽量な為、問題なく済んだ。
だが、ここは更に改良を加えたいところだ。

そして俺は、バナナボート、巨大浮き輪を造り、クルーザーで引くことを提案した。
試しに漁師達で試乗してみたところ。
「面白い!」

「楽しい!」

「新感覚!」
と大いにウケた。

一先ず開発系はこれで一旦ストップ。
ここからは、漁港と海岸を分ける護岸工事を開始した。
ゴルゴラドの漁師総出で、作業を開始していく。
俺は現場監督の様に、その作業を指揮していた。
これによって、海水浴場が出来上がった。
その様にゴルゴラドの街は沸き立った。
これまでは、この街に海岸は有って無いようなものだったからだ。
あまりに漁に特化し過ぎていた弊害とも言える。

これまで漁師以外の者達が海に近づくことは無かったが、このお陰で漁師以外の者達が、海に興味を示すようになっていた。
でもまだまだ手を加えなければならない。

次に手を入れたのは海の家だ。
まずは屋台を沢山造っていく。
そして休憩所兼食事が出来る場所を造っていく。
ここでは海の家に見合った屋台が提供されることになった。
大たこ焼きは当然の如く導入された。
それはそうだろう、ゴンズ様の肝いりだ。
とても食べ応えがある大たこ焼きだ、そして美味しい。
今では、紅ショウガを加えた大たこ焼きは、ゴルゴラドの名物とも言える。
この紅ショウガを加えることは、実は俺がアドバイスした結果だ。

そして、焼きそば、イカ焼き、フランクフルト、魚介類の焼き物、かき氷などの食べ物を提供できるようにした。
飲み物も多岐に渡る。
ビールは元より、ジュースやお茶等様々だ。
けど高アルコールの商品は置かない。
酔っぱらって溺死されたら元も子も無い。
そして、浮き輪やシュノーケル等も販売されている。
勿論水着もだ。
海水浴場の使用は夏場に限定されるが、ゴルゴラドの夏は半年近くある為、充分ともいえる。
新たな街の財源になると、ゴンズ様も大喜びしていた。
ゴルゴラドの今後に期待だ。

エアルの街の娯楽導入だが、俺には案があったのだが、カインさんからは。
「カレーの専門店を造って欲しい!」
と懇願されてしまった。

それはいいのだが・・・これも娯楽だよな?
そもそもダンジョンがあるからいいのか?
この要望を受けて、カレーの専門店を造ることにした。
島野商事直営のカレー専門店だ。
このカレー専門店では、これまで提供されているカツカレーに加え、スープカレー、ナン、カレーうどんも提供することにした。

そして何よりも喜ばれたのが、トッピングが出来ることだった。
トッピングは二十種類もある。
カインさんはほぼ毎日通い詰めていた。
あの人は本当にカレーが好きなようだ。
俺には毎日カレーは無理だな。
胸焼けが起こりかねない。
でもこれで喜んでもらえるのなら、それでいいのだろう・・・
外にも娯楽はあるのだが・・・
まあ無理強いはしまい・・・
やれやれだな。