ふと思いつき、エクスを呼びだすことにした。
念話でエクスに話し掛ける。

「エクス、ちょっと来てくれ」

「分かった、何処にいけばいいんだ?」

「事務所に来てくれ」

「了解!」
エクスが元気よく事務所に駆け込んできた。

「マスター、何か用か?」

「ああ、ちょっと試したいことがあってな」

「何をやるんだ?」

「一時的に装備者を俺にしてもいいか?」

「いいけど、どうしてだ?」

「いいから、いいから」

「ちゃんとギルに戻してくれよ」

「分かってるって」
エクスは怪訝そうな表情をしている。

「いいけど・・・」
人化を解いたエクス。
例の如く、剣になりフワフワと浮いている。
俺はエクスの柄を握り締めた。

「俺になったか?」

「ああ、なってるぜ」

「よし!」
俺はエクスを手放した。

「エクス、そのままフワフワ浮かんでいてくれ」

「そんなことでいいのか?」

「ああ」
俺はエクスとの繋がりに意識を向ける。
そして、念動で動いているエクスに意識を集中する。

「ちょっと、マスター、何をしてるんだ。ぞくぞくするぞ」

「いいから、そのまま浮いてろ」
更に意識を集中する、そして全身を神気で纏う。

ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認ください」

よし!パクったぞ!
俺は『念動』を取得した。

「もういいぞエクス、お疲れさん」

「マスター、何したんだよ?」

「お前の念動をパクったんだよ」

「パクった?嘘だろ?」

「本当だ、見てろよ」
と俺は社長室にある、椅子に意識を向け、念じて動かしてみた。
椅子がフワフワと上下に動いている。

「嘘だろ!マジか!」

「マジだ、もういいぞ。装備者をギルに戻していいぞ」

「・・・マスター・・・出鱈目過ぎだって・・・」
俺はそんなエクスを無視して、いろいろな物を念動で動かして、感触を確かめていた。
ウン!これは使える!
便利な能力だな。



赤レンガ工房に籠って、俺は念動の能力を神石に付与していく。
そして革張りの椅子を作製し、骨組みに神石を『合成』で設置していく。
その神石にはゴムで出来たローラーが付いており『限定』と『念動』で動きを制限していく。
そのゴムローラーは主に肩と背中、そして腰周りを中心に動くことになっている。
そして微調整を繰り返し、遂に出来上がった。

「自動マッサージ機」が完成した!
やった!
遂に出来た!
この日をどれだけ待ち焦がれていたことか。
使い道が薄いと思われた『限定』も、ここに生きてくるとは思わなかった。
神様ズにしか使えないが、これは喜ばれると思う。

それにしても気持ちがいい。
特に腰周りは最高だ!
よく逸れているのが分かる。
思わず声が漏れる。

「ああああああああああ」
そんな俺を不思議そうに、親父さんが眺めていた。

「お前さん、何をやっておるのだ?」

「親父さん、ちょっと座ってみてくださいよ」
俺は親父さんに席を譲る。

「ここに座ればよいのか?」

「ここの神石に神力を流してください」

「そうか・・・ん?」
親父さんがマッサージ機を堪能していた。
その様はちょっと笑えた。
ドワーフのおっさんが、マッサージ機で繕いでいる。

「ああああああああああ」
親父さんは声を漏らしていた。

「でしょ?」

「おお・・・・止められんな・・・」
親父さんはマッサージ機を堪能した様だった。
その後、マッサージ機は、スーパー銭湯の休憩室の片隅に、神様ズ専用として、ひっそりと置かれることになった。

神様ズは我先にと、このマッサージ機を使う様になった。
気持ちいいよねマッサージ機、気持ちは良く分かる。
神様ズはご満悦のようだった。
連日奪い合いが続いている。
神様ズの間で、ちょっとしたブームになった。
特に五郎さんが、これで腰痛が治ると大喜びだった。
治るかどうかは分からんが・・・
にしても、サウナ明けのマッサージ機は格別だよね。
分かるよ、大いに分かる。
ほんとに気持ちが良い。



最近のアンケートを見ると結構な確率で、サウナに関するものが増えていた。
どうやらこの世界にも、サウナ文化が根付きつつあるようで、俺としては嬉しい限りである。
まだこの世界の全員が、スーパー銭湯に訪れた訳ではないが、相当数の方々が、この島にやってきている。
この先もまだまだ様々な人々が、やってくるだろう。

アンケートにもあったサウナに関する声として、サウナの温度についての意見が多かった。
もっとサウナの温度を上げて欲しいとか、もっとサウナの温度を下げて欲しいとかがほとんどだ。
その気持ちはよく分かる。
サウナの温度については、好みが分かれるところだ。
俺は九十前後の温度帯が好きだし、個人的な意見としては、最もパフォーマンスが良い温度ではないかと考えている。

そこでサウナに特化した施設の建設を行おうと、今は思案している。
もっともっとサウナを楽しんでもいいと思うのだ。
森の一部を切り開いて、自然の中でサウナを大いに楽しんで貰いたい。
そこでは様々な温度帯のサウナを用意し、また水風呂も温度帯を変えるだけではなく、川から引いた水をそのまま使うことも検討している。
そこでは男女問わず水着を着用し、外気浴ではポンチョを着ることにしようと思う。
そして足元にはサンダルを使用する。
休憩所も造るが、スーパー銭湯ほどの大きな物とは考えていない。
休憩所とは言っても要は外気浴場だ。
この休憩所は、雨の時に使用する程度との考えだ。
その為簡単な屋根を設けるぐらいで、壁は造らないつもりだ。

もしかしたら、日に焼けたくない人も使うかもしれないが、好きにしてもらったらいい。
食堂も併設するが、最大で五十名ぐらいが使用できる施設にしようとの考えだ。
コンセプトとしては『サウナ好きによるサウナ好きの為のサウナ施設』だ。
従ってここではお風呂は設けない。
簡単なシャワー室は設けるが、これはあくまでサウナ前後に身体を洗って貰う為でしかない。
そしてログハウスを建設し、泊まることも可能とする。
終日サウナを楽しんでもらう施設だ。

今回の建設には、ランドールさんの手を借りることはできない。
彼は既にメッサーラの学校建設で、手一杯の状況だからだ。
その為今回の建設は、俺がゆっくりと造ろうと考えている。
まあ休日の従業員達が、また赤レンガ工房の時の様に、手伝うと言い出すだろうしね。
それにどうせマークとランドは、勝手に手伝うに決まっている。
俺一人でコツコツと、とはならないだろう。
でも急いで建設するつもりは全くない。

ゆっくりとじっくりと、手作り感剥き出しの施設にしようと思う。
スーパー銭湯は公衆浴場として、多くの人々に使っていただくことを前提に造った施設だが、こちらは違う。
こちらはサウナが好きな人が、終日サウナを楽しむだけの施設だ。
当然宴会場なんて設けない。
食堂で宴会を勝手に始められてしまうことはありそうだが・・・
まあ好きに使ってくれればいいさ。



俺はまず森の一部を切り開きだした。
場所としては、入島受付から北に百メートルほどの位置だ。
『加工』をひたすら繰り返して、木を木材へと変える。
木の根は自然操作の土で剥き出しにし、後で一部は肥料に変え、その他は薪になる。
広さは適当にする。
敢えて成型にはしない。
整った造りに見えると、手造り感を損なうからだ。

そしてまずはサウナを造っていく。
サウナは一見ログハウスに見えるかもしれない。
今は無きサウナ一号機を広くしたものだ。
このサウナの最大収容人数は十名ほど。
ここではセルフロウリュウを行うことが出来る。
温度帯は八十度にする予定だ。
サウナの入口には、アロマ水の入ったバケツを設置する。
使いたい人が好きに使ってくれといった具合だ。
セルフロウリュウをしたい人はお好きにどうぞ。

そして更にサウナをもう一棟建設していく。
サウナの造りはほとんど同じだが、先ほどのサウナよりも少し大きめに造っていく。
最大の収容人数はおよそ十五名だ。
こちらは温度帯を九十度にする予定。
今のスーパー銭湯と同じ温度帯だ。
その為、一番利用者が多いのではないか?
というのがその理由だ。

このサウナでも先ほどと同様に、セルフロウリュウを行うことが出来。
入口にはアロマ水の入ったバケツを設置する予定だ。
そして更にもう一棟サウナを建設する、こちらのサウナはこれまでのサウナと多少造りを変えることにした。
簡単に言うと、吹き抜けのある二階建てとしたのだ。
こちらのサウナの温度帯は七十度にする予定だ。

そしてセルフロウリュウが出来、これまで同様にアロマ水も、入口にバケツを置いておくようにする。
こちらは二階建ての為、最大の収容人数は二十名程度。
先程のサウナよりも多く収容できる造りとなってしまったが、それはご愛敬。
まあ特に困ることも無い為、これで良しとしようと思う。
そしてここからはまず三棟を繋げる様に、石畳みを地面に設置していく。
石は『万能鉱石』は使わず、東の海岸から運んできた。

そして石を『加工』で成型して地面に埋めていく。
この作業が地味に日数が掛かった。
作業に関しては、案の定マークとランドは、常に手伝いをしており。
また、時間を持て余している従業員達が、手伝いを申し入れてきた。
俺が森を切り開きだした時には、既にマークが目聡くやってきて。

「島野さん、今度は何を造るんですか?」
興味深々の顔をしていた。

「今度はサウナ好きの施設を造ろうと思ってな」

「サウナ好きの施設ですか?」
いまいち理解できていないみたいだ。
そりゃあそうだろう、そんな施設にはこの世界にはないからな。
まぁ楽しみにしていてくれ。

「ああ、サウナに特化した施設だ」

「へえー、面白そうですね」

「ランドも誘うのか?」

「そりゃ声を掛けないと、恨まれますからね」

「そうか、任せる」
といった具合だ。
その後更に森を切り開き、休憩所兼外気浴場を造る。
ここにはインフィニティーチェアーを二十五台設置した。
加えて屋根を設けて、こちらには屋根の有る部分だけは、地面をコンクリートで固めた。
その他の場所はあえて土剥き出しにしている。
これは使用してみて、具合が悪ければ変更しようと思うのだが、サンダルを履いて使用する為、問題ないと今は考えている。

そして水風呂だが、まずは浄水池から分岐する形で水を引き込み。
その先には更に分岐する形で、ドラム缶を五台設置した。
今回の水風呂は、温度帯を変えることを検討していたのだが、雰囲気を第一優先としてこの様に変更した。

この案にランドは、
「これは面白いですね、水風呂を独り占めってのは嬉しいですね」
と感心していた。

マークは、
「流石はサウナ上級者だ、発想が違う」
と褒めてくれたのかどうか、よく分からないことを言っていた。

俺としては五右衛門風呂を、水風呂にしてみただけだったのだが。
これが良いとのことだった。
そしてこの水風呂で一番苦労したのは、排水をどう流すのかということだった。
その為、ドラム缶は簡単に言えば、大きな側溝の上に設置することになった。
そして、スーパー銭湯の排水施設からは離れている為、新しく排水施設も造ることになった。
とはいっても俺達は排水施設を、これまでも何度も造ってきている為、決して手間とはならない。
マークとランドも手慣れたもので、排水施設を造るのに数日で完成していた。
建設中には神様ズが、何度も視察に訪れていた。
皆な今度は何を始めたのか?と興味津々だった。

オリビアさんからは、
「そんなことよりに歌劇場を造ってよ」
とまたおねだりをされたが、

「計画がちゃんと出来たら考えます」
きっぱりとお断りしておいた。
そして一番熱心に通っていたのはランドールさんだ。

「ランドールさん、学校の建設はいいんですか?」

「大丈夫だよ、二校目ともなるとノウハウは共有済だからね、弟子たちだけでもなんとかなるよ」
とのことだった。
だったら最初からこの人に頼ればよかったな、と思ってしまった。
無理だろうと決めつけずに、声を掛ければよかった。

「それで、今度は何を造ってるんだい?」

「今回はサウナに特化した施設を造ってます」

「サウナに特化か・・・面白そうだね」
ランドールさんもサウナに嵌ってるからな。
完成したら使ってくださいな。

「まあ、サウナ好きにしかウケないでしょうがね」

「そうなのかい?」
ランドールさんには意外そうだ。

「だと思いますよ」

「でも、この世界では既にサウナは認知されてるからね。流行るんじゃないかな?」

「だといいんですけどね」

「島野さんが外すなんて想像できないね」

「ハハハ」
俺を買い被り過ぎなんだって。
それに今回もただの思いつきといってもいいぐらいだ。
まあ外したとしても、多いに結構なんだけどね。
俺としてはサウナ満喫生活を、よりグレードアップさせるだけなんだから。

「『加工』がもう少しでどうにかなりそうなんだよ」

「へえー」

「見れば、ヒントがあるかもしれないだろ?」

「確かに」
俺も見てパクったからな。
念動なんかはそうだろう、でもエクスとの繋がりがあったから違うのか?
よく分からんな。

「そういえば、能力を得る時に、俺は神気を全身に纏うようにしてますが、ランドールさんはどうですか?」

「全身に神気を纏う?やってないね」
と答えるとランドールさんは考え込んでいた。
もしかして全身に神気を纏うことが出来ないのだろうか?

「島野さん、ちょっとやって見せてくれないか?」

「いいですよ」
それぐらい楽勝です。
俺は全身に神気を纏って見せた。

「うわ!」
ランドールさんが仰け反っている。

「これは・・・私にも出来るのだろうか?・・・」
ん?どういうことだ?

「島野さん、多分その全身に神気を纏うのって、かなり神力を消費すると思う・・・恐らく私では、完全に神力が溜まった状態でないと出来ないな」
あらら・・・神力お化けの俺だから簡単に出来るってことか・・・
でも『黄金の整い』を教える訳にはいかないからな。

「でも、満タンの時なら出来そうなんですよね?」

「多分どうにか・・・ちょっと怖いけど」
そうだよな、神力切れになるのは怖いだろうな。
俺も神力が無くなったらと思うと怖いもんな。

「でも今度試してみるよ。その時は一緒にいて貰っていいかな?」

「ていうか、よかったら神力分けましょうか?」

「はい?君はそんなことができるのかい?」

「ええ、カインさんからパクりましたので。神力贈呈っていう能力です」

「おお・・・凄いな・・・」
ランドールさんはちょっと引いている。

「今からやってみますか?」

「いいのかい?」

「せっかくですので、やってみましょう」

「そうだね、お願いするよ」
前向きになっているランドールさん。

「ちょっと、それ見学させて貰っていいですか?」

「俺も!」
マークとランドが興味を持ったようだ。

「俺は構わないけど、ランドールさんは?」

「ああ、構わないよ」
俺はまずランドールさんの肩を掴んで、神力贈呈を行った。
俺の中の神力がランドールさんに流れていく。

「凄い!ほんとうに神力が溜まっていく」
ランドールさんは両手を凝視していた。

「じゃあ、ちょっと待ってくださいよ」
俺は適当に地面に転がる石を掴んだ。
それをランドールさんに手渡す。

「まず、この石に意識を集中してください」

「ああ」

「次にこの石が、真っ二つになる所を想像してください。それも強く!」

「・・・」
ランドールさんが石に集中している。

「もっと強く!」
ランドールさんの集中力が高まっているのが分かる。

「今だ!身体に神気を纏って!」
ランドールさんが神気を身体に纏った。
すると石が少し欠けた。

「どうですか?」

「・・・駄目だ・・・」
項垂れているランドールさん。
相当神力を使ったのか、肩で息をしている。
何が足りなかった?
ランドールさんはちゃんと集中出来ていた。
それは見ていたから良く分かる。
イメージも良く出来ていたと思う。
何でだ?
あれ?
ちょっと待てよ。
俺の時と何が違うんだ?
もしかして・・・

「ランドールさん、もう一度やってみましょう、ちょっと俺に考えがあります」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」
というと、まだランドールさんは肩で息をしていた。
これは息が整うまで待つしかないな。
数分待つと、ランドールさんが。

「待たせた、再トライだ!」
俺に手を差し出した。
俺はその手を握り返して、神力贈呈を行う。
俺の身体から、神力がランドールさんに移っていく。

「島野さん、もう大丈夫だ」
神力は充分に溜まったようだ。

「ランドールさん、ちょっと腰かけましょう」
俺は地面に腰かけた。
それに倣ってランドールさんも地面に腰掛けた。
二人で胡坐を掻いて、正面に座っている状態。

「俺の能力を使って、ランドールさんの状態を無意識の状態にします」

「無意識ですか?」

「そうです、おそらくここが能力開発の鍵では無いかと思います」

「なるほど」
神妙な表情のランドールさん。

「これは俺の直感と経験則からの予想なんですが、能力開発はイメージだけでは無く、潜在意識に関係していると思うんです」

「潜在意識ですか?」

「そうです、俺は実は自己催眠が得意なんです。なので俺は常に無意識に自己催眠の状態に、なっている可能性が高いです。その状態を作り出せば、能力開発が可能かと考えたのです」

「・・・」

「実験するようで悪いですが、今はやってみましょう」

「島野さんがそういうのなら、私は君に任せるよ」
不安な顔をしているランドールさん。
そりゃあ怖いよな。
でも任せてくれるんだから、目一杯やりましょう。

「ありがとうございます」
ランドールさんはコクリと頷く。

「じゃあ俺の誘導に従ってください」
マークとランドが息を飲んで俺達を見守っている。

「行きますよ『催眠』」
俺は『催眠』の能力をランドールさんに使った。
するとランドールさんが一気に力を抜いて、リラックス状態に入ったのが分かった。
よし、いいぞ!

「ランドールさん、この石に意識を集中してください」
俺は石をランドールさん手渡す。
すると先ほど以上にランドールさんが、集中して石に意識を向けていた。
でも身体はリラックス状態だ。
さっきとは明らかに集中力が違う、全身全霊で石に意識を集中しているのが分かる。

「では今度は、この石が真っ二つに分かれるところをイメージしてください」
更にランドールさんが石に集中する。

「ではそのイメージを保ちながら、身体に神気を纏ってください」
ランドールさんが神気を全身に纏った。
すると、石が真っ二つに割れていた。
やったか?
ランドールさんが不意に糸の切れた操り人形の様に、パタンと倒れた。
嘘だろ!
生きてるか?
俺は思わず『鑑定』を使用していた。

『鑑定』

名前:ランドール
種族:大工の神 (下級神)
職業:大工の神Lv5
神気:16
体力:2824
魔力:234
能力:土魔法Lv5 大工道具使用Lv8 測量Lv7 製図Lv6 構造計算Lv5 加工Lv1

おお!
『加工』があるぞ!
俺は神力贈呈をランドールさんに行った。
多分急激に神力を失ったから、気絶したと思うがどうだろうか?
身体をビクっと震わせたランドールさんが、意識を取り戻した。

「ああ・・・」

「ランドールさん、大丈夫ですか?」
未だ夢現なランドールさん。
まだ眼に力が無い。

「ランドール様!」
マークが心配している。

「どうですか?」

「・・・ああ・・・ちょっと休憩させて貰えないかな・・・」
俺達はランドールさんの回復を待つことにした。
ランドールさんが急激に回復していくのが分かる。

「おお・・・島野さん・・・これは何といったらいいのか・・・」
と回復したランドールさん。

「どうですか?大丈夫ですか?」

「ああ・・・心配させてすまない、もう大丈夫だ。ありがとう」
ランドールさんは顔を振っていた。

「どうですか?」
と敢えて振ってみた。
能力の取得が出来ていることは分かっているのだが。

「・・・おお!やっと『加工』が手に出来たようだ・・・ああ・・・ありがとう、島野さん・・・やっと・・・やっとだ!」
ランドールさんにとっては念願の能力獲得なんだろう。
涙目になっているランドールさんは、泣きながら笑っていた。
それにしても・・・この人にとってはある意味、命を懸けた能力開発の様に俺は思えた。
簡単に能力開発を行ってきた俺って・・・
何とも申し訳ない。

でも能力開発のヒントが、ここに来て大いに分かった気がする。
結局のところ、能力開発にはイメージ力だけでは無く、潜在意識にアクセスすることが重要なようだ。
俺は自己催眠に慣れているから、潜在意識を解放することは、無意識に行っていたんだと思う。
それにしても・・・ランドールさんには、辛い思いをさせてしまったのかのしれない。
だが、その俺の想いとは裏腹に、ランドールさんは万遍の笑顔をしていた。
よかった、よかった。

「じゃあちょっと試してみましょう」

「そうだね、まずはどれからにしようか?」

「そこの木なんかどうですか?」
俺は木材の切れ端を手渡した。

「これをどう加工するかをイメージして能力を発動してみてください」

「分かった、やってみよう」
ランドールさんは木材に集中している。

「『加工』」
とランドールさんが唱える。
すると木材が三つに分かれていた。

「成功ですか?」
木材を拾うとランドールさんが呟いた。

「だと思うが、木材の表面がイメージよりも荒いね」

「俺も始めはそうでしたよ、レベルが上がると表面がツルツルになる様になりますよ」

「そうか・・・あと思いの外神力の減りが多いね。これでは一日に仕える回数が限定されるな」

「使いどころを見極めないといけないようですね」

「そうだな、でもまずは能力の獲得を喜ぶとするよ、島野さんありがとう」
右手を指し出された。
勿論俺は握り返す。
俺達は力強い握手を交わした。



更に作業を進めて行く。
まずは一旦、寮の増築を行った。
今回の施設の運営に、従業員を増やさないといけないのは、目に見えている。
先にそちらに手を付けようということだ。
今後どれだけの従業員を増員するのかは、まだ決めていないが、多少多くても良いように、五十名が住める寮を建設することにした。
場所は現在の寮の隣である。

この寮の建設はとても早く行われた。
というのも『加工』を取得したランドールさんが、寮の建設の手伝いを、買って出てくれたからだった。
彼にしてみれば、一度造った寮の小規模サイズを、もう一度造るだけのことなので、なんてことはない作業だ。
更に当時の資料も残っていることから、お手の物だろう。
相当な急ピッチで作業は進められた。
だが、彼の本音は少し違っていたと思う。
『加工』を沢山試したいということなんだろうが、神力の量からいって乱発は出来ない。
けど俺が近くにいれば、どうにかなるだろうし、最悪サウナ島は外の場所よりも神気が濃いから、どうにかなると考えているのだろう。
詰まるところ『加工』のレベルアップ上げがしたいんだと思う。
俺としてはそれでも全く構わない。
そういった下心があっても一向に問題は無いのだ。

レベルアップに努めたい気持ちは充分に分かるし、実際彼にはもっとレベルアップして欲しいとすら思う。
彼がレベルアップするということは、今後の様々な建築物が早くて、良質な物になるということだからだ。
おそらく彼は、今はサウナ島に修業にやってきている気分なんだと思う。
実際そういった眼をしている。
エロ神モードは完全に封印し、真剣に作業に没頭しているのが分かる。
大いに結構だ。
ここは使わせて貰うほかない。
恩にきます。



次に取り掛ったのは、食堂兼宿泊施設の建設だ。
まず一階は食堂がメインとなっているが、入口を入って直ぐに受付がある。
この受付で手続きを行わないと、中には入れないことになる。
受付を通過すると、まずは更衣室に入ることが出来る。
ここで着替えを済ませてから、サウナに向かうことが出来るし、食堂に行くことも出来る造りとなっている。

そして二階と三階は宿泊施設となっており、一部屋で最大四名が寝泊り出来ることになっている。
部屋の数は十部屋だ。
最大で四十名が寝泊り出来ることになる。
少ないのでは?と思われるかもしれないが、日帰りの方もいることだろうし、これぐらいが丁度いいと考えている。

それに宿泊料金は決して安くはしない予定だ。
五郎さん温泉旅館ほどは掛からないが、迎賓館のビジネスホテルほど、リーズナブルにするつもりはない。
どちらかというと、バカンスに使って貰うという方が、意味合いが近いと思われる為、その様にしようと考えた。
宿泊部屋には二段ベットが二つと、遊び心を擽る設備にしており、談笑が出来るテーブルも設置されている。
俺は二段ベッドを使ったことは無いが、寮生活のようで楽しんで貰えることだろう。

そして外周を簡単な木の枠で囲っていく。
特に測量や、丁張などは張らず、手作り感満載の木枠だ。
ぱっと見、素人の手作り感をあえて演出している。
木枠は当初無くても良いかと考えていたが、獣が紛れ込む可能性がゼロでは無い為、止む無く造ることにした。
最後に、入島受付までの道を石畳みで繋げて、完成と相成った。

「サウナ好きのサウナ好きによるサウナ施設」

俺はこの施設を、
「サウナビレッジ」
と名付けることにした。

自然の中で、ただ単にサウナを楽しむ。
贅沢な時間を過ごして欲しいと思う。
ある人は、自分自身の人生を振り返る時間となるだろう。
ある人は、この先の人生を考える時間となるだろう。
サウナの可能性は無限大だ。
大いに整って頂きたい。
俺ももちろん整わせていただくけどね。
サウナビレッジ、よろしくお願い致します!