ひと騒動あったその後、風呂に入る者、食事をする者に分かれ、何とか全員をスーパー銭湯に、入場させることができた。
それにしても騒がしい。
いつも以上に客で混雑している。
それにもういい加減遅い時間だ、閉店時間が迫ってきている。
そして問題となるのは明日だ。
言ってしまったからには、やらなければいけない。
明日はスーパー銭湯の無料開放だ。
間違いなく大人数が、駆けつけるだろう。
入場制限は当たり前におこることだろう。
それだけで終わる訳はないのだが・・・
選択を間違ってしまったか?
それにしても、そもそも俺は祝われる側であって、何で俺がサービスする側に周らなければいけないのか?
いっそのこと、全員分の入場料をカインさんに請求してやろうか?
ふう・・・まあ皆が喜んでくれるのならいいか?
これは慈悲深いってことなのか?
違うと思うのだが・・・
まあいい、こうなったからにはやるまでだ。
俺はサービス精神の塊ということにしておこう。
これ以上の解釈を、俺は出来そうもない。
それにしても今日はもう遅いからもう寝るか、明日は朝から大変だな。
やれやれだ。
翌朝。
いつも通りの朝の散歩に向かうと、多くの従業員から話し掛けられた。
「今日は無料開放って、ほんとですか?」
「ああ、そうだ」
「今日は休みなんですが、手伝いますので指示してください」
「そうか・・・すまんな」
「島野さん、無料開放ってことは、屋台とか出しますよね?」
「その予定だ」
「俺にやらせてください、やってみたかったんです」
「そうか、何の屋台をやるんだ?」
「ラーメンがいいかと思うんですが?どうでしょう?」
「いいが、メルルの許可をちゃんと取るんだぞ」
「分かりました、場所は何処にしましょうか?」
「そうだな、スーパー銭湯の入口付近しかないだろうな」
「ですよね」
とよくできた従業員達で助かります。
皆が皆、自主的に考えて行動している。
なんとも逞しい限りである。
ランドからは、
「島野さん思い切りましたね。入島料と入泉料無料ですか?」
「まあな、そうでも言わんとあの場では、納得してもらえなかっただろうしな、ギルにやられたよ」
「にしもギルの奴、好き放題やってましたね」
ほんとだよ。
「だな、これで気が済んだんじゃないか?」
「ですかね?まだまだやりそうな気がしますよ」
「おいおい、勘弁してくれよ。ギルはいいとして、無料でもちゃんと受付業務は行ってくれよ。何かあった時には頼むぞ。あとエクスもちゃんと指導してくれよ。舐めたこといったら締め上げてくれな」
あいつには強めの指導が必要だからな。
「締めあげてくれって、俺に出来ますかね?」
「簡単なことだ、俺に言いつけるって言えばいいさ」
「それでいいなら楽勝です」
「あいつはまだまだ子供だから、一から教育しないといけないからな」
「それは分かります」
「昨日でだいぶ分かったとは思うが・・・根が人を舐めている上に、お調子ものだからな」
「そのようですね」
「困ったものだ」
「気苦労が絶えませんね」
「全くだ」
俺達は散歩を終えて、朝食を取る為に大食堂に向かった。
大食堂では既に多くの従業員が朝食を取っていた。
いつもよりも多いな。
皆なありがたいことだ、今日の状況を理解している。
最近の朝食は、バイキング形式となっている。
各自が好きな物を食べれるのが好評だ。
所謂ホテルの朝食ってやつだな。
「皆、食事しながらでいいから聞いてくれ」
全員がこちらに注目している。
「今日は無料開放することになったのは、聞いていると思う。悪いが休日の者で手伝うことが出来る者は出勤して欲しい。もちろん休日手当は支給させて貰う。あと、この場にいない従業員にも、声を掛けてやってほしい。本来なら残業もさせないが、今日に限っては、残業出来る者は残ってくれ、当然残業手当は支給する」
本当は、休日出勤や残業は認めたくないのだが、今日ばかりはどうしようもない。
無念だ!
「やった!」
「よっしゃ!」
「やりますよ!」
こいつらはほんとうに働き者だな。
ありがたや、ありがたや。
「あと、テリーはいるか?」
「はい!ここです」
とテリーが手を挙げる。
「ちょっといいか?」
「はい、今向かいます」
とテリーが席を並べる。
「テリー、おはようさん」
「おはようごいます」
「今日のキャンプ場はどんな感じだ?」
「夜の予約は既に満席です」
「昼は大丈夫だよな?」
「はい、特には。何かしますか?」
「たぶんお客で溢れるから、昼からバーベキューを行えるようにしておいてくれ。下手すると朝からかもしれん。飲み物と食べ物も、多めに準備しておいてくれ」
「分かりました」
「頼んだぞ」
「了解です!」
うん、良い返事です。
にしてもテリーも頼れる存在になったもんだ。
俺としても誇らしいよ。
俺は朝食を終えて厨房に入った。
さっそくメルルを捕まえる。
「メルル、今いいか?」
「はい、屋台ですよね?」
話が早くて素晴らしいです。
「そうだ、何台いける?」
「四台ですね?」
「そうか、内容は任せるが、アルコール類も提供できるように手配してくれ」
「分かりました、いつから始めますか?」
「落ち着いてからでいいぞ、俺も手伝うから言ってくれ」
「否、それには及びません。それよりも来賓のお相手をしてください。島野さんにしか出来ませんよね?」
うう・・・メルルにはバレているようだ。
それが一番したくないんだよな。
流石に昼から飲まされることは無いとは思うが、気は抜けないな。
俺は念のため、各施設を巡ってみた。
至るところで、
「大丈夫です」
「手は足りてますから」
「ちゃんと分かってますから」
と誰も取り合ってはくれなかった。
俺の存在意義って・・・
自分の仕事をやれということなんだろう。
うん、きっとそうだ。
要はお前は自分の仕事をしろと、手伝いと言う名のサボりは許さんぞ、ということだな。
それが一番めんどくさいんだよね!
そうこうしていると『念話』が入った。
「マスター、聞こえるか?」
「ああ、エクスどうした?」
「マスター大変だ、もう入島受付がいっぱいなんだよ。どうすればいい?」
はあ?もう?
まだ八時前だぞ。
しょうがないか、開けるか。
「しょうがない、開けてくれ」
「分かった。じゃあ受付を開始するぞ」
「頼んだ」
始まったか・・・激動の一日になりそうだ。
入島受付を解放してから僅か三十分後。
サウナ島は人で溢れていた。
嘘だろ?!
途轍もない数の人々が、大挙して訪れていた。
早くもスーパー銭湯の入口には長蛇の列が並び、今か今かと入口の扉が開くのを待っていた。
それだけでは無い、入島受付からスーパー銭湯まで敷かれている、石畳の両脇に設置を開始している屋台にまで、列が作られている。
まだ、屋台は建設中だというのに・・・
流石に見かねて俺も屋台の設置を手伝うことにした。
ありがたいことに、数名のお客も作業を手伝ってくれた。
手数が多いお陰か、僅か数十分で四台の屋台が完成した。
その後も手伝おうとしたのだが、
「もう大丈夫です」
と追いやられてしまった。
うう、やっぱり駄目か・・・
また『念話』が入る。
今度はギルだ。
「パパ、スーパー銭湯開けてもいいかな?」
「開けるしかないだろう」
「だよね、じゃあ開けるね」
「任せた」
とスーパー銭湯も入場を開始した。
そして、ものの三十分でお風呂の入場制限が行われていた。
入場制限が行われる最短記録である。
そして、大食堂を覗くと既に満席となっていた。
それだけならまだしも、朝から宴会を開始している客が多数いた。
これは・・・カオスだな・・・
手が付けられない・・・
そして、スーパー銭湯自体にも、入場制限が行われていた。
無料開放恐るべしだ!
外を見に行くことにした。
案の定キャンプ場では、バーベキューが開始されていた。
テリー達もてんやわんやだ。
ここでも宴会が開かれていた。
どんだけ朝から飲みたいんだよ!こいつら!
一旦これは事務所に避難だな。
俺は事務所に行くと、マリアさんとオリビアさんが、俺を待ち受けていた。
「守さん、おはよ」
「守ちゃん、おはよう!ムフ!」
「お二方おはようございます、二人揃ってどうしたんですか?」
二人を社長室に通した。
「守ちゃん、お願いがあるのよ」
マリアさんが話し出す。
「お願いですか?」
「そうよ守ちゃん、歌劇場を造ってちょうだい!」
「歌劇場ですか?」
「いいでしょ?」
オリビアさんも追随する。
さては昨日のギルの一件で火がついたな。
でも、はいそうですかとはいかないな。
「歌劇場で何をする気なんですか?」
「ライブよ!」
「ミュージカルよ!」
「・・・」
揃ってませんがな・・・
「どっちもよね、マリア・・・」
「そう、そうねオリビア・・・」
なんだかな・・・
「あれですか?昨日のギルの熱弁で火が付いたんですか?」
「そうよ!ギルちゃんはエンターテイナーよ。あの子はもっと伸びるわ。私がプロデュースすればもっともっとよくなるわ!」
マリアさんは必死だ。
「それに私も、もっといい環境で歌いたいのよ!」
オリビアさんも必死だ。
なんだかな・・・まあ別にいいけど・・・けどな・・・
「別にいいですけど、どれぐらいの規模で考えてるんですか?」
「そうね・・・五百人が入れるぐらいかしら?」
「駄目よ!そんなんじゃ、もっとよ!」
「ちょっと待ってください。適当に言わないで貰えますか?まさか何も考え無しにここに来てないですよね?」
二人は分かり易く下を向いていた。
おいおい、いい加減にせいよ。
丸投げは許さんぞ。
「あのですね、俺は何でも屋ではありませんよ、ただやりたいで、何でも叶えるランプの魔人じゃありませんからね」
「そ、そうよね」
「だよねー」
視線すら合わせない二人。
「ちゃんとそれなりに話を纏めてから来て貰えませんか?別に協力しないとは言わないですから、丸投げは止めてください」
「う・・・」
「ムフ・・・」
ほんとにこの人達は・・・甘やかし過ぎたか?
「それにやるからにはちゃんと、利益が出る構造にしないと続きませんから、ちゃんと考えてくださいね」
「利益って・・・」
絶望な表情を浮かべるオリビアさん。
「そ、そうよね・・・」
考え込むマリアさん。
「歌劇場を造るのにいくらかかるのか?誰が管理して、どういった興行を行うのか?どうやって客を集めるのか?考えることは山ほどありますよ、ほんとに分かってますか?」
「うう・・・」
「・・・」
二人は小さくなっていた。
「せめてそれぐらいは考えを纏めてからにして下さい。俺に丸投げは絶対に無しです。特にオリビアさん、いいですね?」
「・・・分かりました・・・」
二人は肩を落として帰っていった。
歌劇場か・・・大食堂のステージで充分だと思うのだが・・・物足りないということなのかな?
まぁいいや。
そういえば、アンジェリっちが話があると言っていたことを思い出し、俺は美容室に行くことにした。
それにしても凄いことになっている。
島の至る所で、宴会が開かれていた。
準備がいいとい言うのかなんと言うのか、こうなることを見越していた者達が多いようだ。
なんと御座を敷いて、宴会を行っている。
そこまでして朝から飲みたいのかね?
絶対にこいつらは、努力の方向性を間違っている。
もっと違うことに頭を使ってくれよ。
お店街では宴会を行っている者達は居なかった。
いたら追い出してやろうと思っていたが、それぐらいの配慮は有るみたいだ。
返って面倒だな。
なんなんだよ全く!
美容室に入ると、アンジェリっちが。
「守っち、お帰り」
と独特な歓迎を受けてしまった。
この人達のノリは独特だ。
メグさんとカナさんも、
「お帰りなさい」
「お帰り」
と俺に挨拶を行っている。
俺の家ではないのだが・・・
でも何だか悪い気はしない。
身内と感じてくれているということなんだろう。
であれば遠慮なく。
「ただいま、アンジェリっち、話があるっていってなかった?」
「そうそう、奥で待ってて」
「はいはい」
と俺は奥の控室で待つことにした。
確かに俺はこの控室に慣れている。
お帰りなさいとは言いえて妙だな。
俺は『収納』からアイスコーヒーを取り出して、アンジェリっちを待つことにした。
それにしても、今日はこの先どうなるんだろうか?
サウナ島は大宴会場と化している。
無料開放がここまでのインパクトになるとは思わなかった。
夜まで持つんだろうか?
幸い今のところ、お酌攻撃は始まってないが、気は抜けないな。
どこでどう捕まるか分かったもんじゃない。
そういえば、エルフの胃薬を貰ってなかったな。
後で貰いに行こう。
等と考えていると、アンジェリっちが控室にやってきた。
「守っち、お待たせ」
「お疲れさん、で話って?ああ待った、何か飲む?」
「ありがとう、同じ物を貰うわ」
俺は『収納』からアイスコーヒーを取り出して渡した。
「それで、今は大丈夫なの?」
「うん、丁度手が空いたから」
「それで?」
「あのね、こんなこと守っちに聞くことでも無いかもしれないけど、もしかしたら異世界の知識で何とかなるかも?と思っての相談なんだけどね」
「望み薄ってこと?」
「そう、でもせっかくだからする相談なんだけど、エルフの村全体、否、エルフ全体に関わる話なんだけどね、実はエルフって妊娠率が低いのよね」
「妊娠率?」
「そう、種族的なことなんだと思うんだけど、簡単にいうとエルフは妊娠しづらいのよね」
「へえー」
「それでも、これまで何とか血を絶やすことなく、種族を存続させてきたんだけど、最近は特に妊娠率の低下が著しくてね。どうにか出来ないかと思ってね」
これは俺にはどうにもできないな。
俺は産婦人科医では無いし、ましてや誰かを妊娠させたことすらない。
それに妊娠率を上げるような手立ては、まったくもって思いつかない。
これは現代日本にとっても、問題となっている課題だ。
正に少子化問題だ。
到底どうにかできるとは思えない。
アンジェリっちには悪いが、力になれるとは思えないな。
「すまないがこればかりはどうすることも出来ないな・・・」
「そうよね・・・」
ん?ちょっと待てよ?・・・でもこれでどうにか出来るのだろうか?
でも有ったに越したことはないのか?
どうなんだろう?
俺は『収納』からオットセイの牙を取り出した。
「よかったらこれをあげるけど、妊娠率を上げる効果があるかは分からないな」
オットセイの牙をアンジェリっちに手渡した。
「ちょっと・・・」
何故だかアンジェリっちは顔を真っ赤に染めていた。
ん?どういうこと?
「どうした?」
「・・・」
アンジェリっちは、らしくも無く照れた表情をしていた。
「ん?」
「・・・守っち・・・知らなかったんだろうから、いいんだけどね・・・・」
アンジェリっちにしては歯切れが悪いな。
「何が?」
「・・・あのね・・・エルフの風習でね・・・オットセイの牙を男性が女性に渡すのはね・・・結婚してくださいってことなのよ・・・」
アンジェリっちは下を向いて話していた。
・・・嘘でしょ!
いやいやいや!
「ちょっ・・・そんなつもりは・・・ねえ?」
「分かってるわよ・・・」
俺も顔が赤くなってきているのが分かる。
無茶苦茶恥ずかしい!
ちょっと、ちゃんと教えといてよ!
これはいかんよ。
「あの・・・何だかごめんなさい・・・」
「うん・・・ちょっとビックリした・・・」
あれ?満更でもない?
もしかしてアンジェリっち・・・いやいやいや!
勘違いは良くない。
俺としても嬉しいな・・・
駄目だ、俺は何を勘違いしている・・・
冷静になろう・・・そうだ複式呼吸だ。
鼻から吸って・・・口から吐く・・・鼻から吸って・・・口から吐く・・・
はあ・・・これは何とも・・・
ちっとも落ち着かない。
心臓がバクバクする。
「それで、このオットセイの牙で妊娠率は上がるのかな?」
「・・・多分ね・・・」
「あといくつかあるけど・・・エルフの村に寄贈しようか?」
「そ・・・そうね・・・貰えるなら・・・」
「分かった・・・何だかごめん・・・」
「いいのよ・・・」
気まずい!
無茶苦茶気まずい!
逃げ出したい!
「じゃあここに置いておくね」
俺は四個オットセイの牙を置いておいた。
「ごめん・・・じゃあ行くわ・・・」
「うん・・・」
俺はそそくさと美容室を後にした。
ああ・・・まだ顔が赤くなっているのが分かる。
俺は年甲斐も無く何をやっているんだか・・・
この齢でアオハルかよ!
でも悪い気はしないな・・・
いやいや、何を考えているんだ。
その後エルフの薬ブースに立ち寄って、俺は胃薬を受け取った。
事務所に帰ると、社長室でオズとガードナーが待っていた。
「島野さん、お祝いに来ました!」
「おめでとうございます!」
二人は既に一杯始めていた。
どうやらワインを持ち込んでいるみたいだ。
ワインの瓶が五本も置かれている。
どんだけ飲むつもりなんだ?こいつらは?
なんだか俺も飲みたくなってきた。
まだ気が動転しているみたいだ。
とにかく落ち着きたい。
「じゃあ俺も飲ませて貰おうかな?」
「もちろんですよ、ゴンすまないがグラスをもう一つ貰えるか?」
オズが受付に向かって話し掛ける。
「分かりました」
ゴンの返事が返ってくる。
「あれ?島野さん顔が赤くないですか?」
「そ、そうか?まだ飲んでないぞ・・・」
いやいやいや、オズそこはツッコまないでくれよ。
「にしてもお前達、朝からここに居ていいのか?」
「何を言ってるんですか?祝いに絶対に駆けつけるって、言ったじゃないですか?」
「そうですよ島野さん、祝いなんですから、今日は仕事は無しです」
笑顔で答える二人。
そんなに祝いたいのか?
何でなんだ?
「なあ、なんでそんなにこの世界の人達は、ダンジョンを踏破したことに、そこまで興奮するんだ?俺にはちょっと分からんぞ」
「島野さん、ダンジョンの踏破は歴史的な快挙なんですよ。カイン様がダンジョンを踏破したのは、今より二百年以上も前なんです。それにカイン様が踏破したダンジョンは、今のダンジョンとは違って、十階層までしか無かったということらしいです、現在のダンジョンを踏破するのは、簡易モードであってもS級ハンターでも無理と言われていたんです。そりゃあ興奮するに決まってます。ましてや超ハードモードとなると、真の勇者にしか踏破出来ないと言われてきたんですから」
勇者って・・・これを聞いたら、またギルが何かやらかしかねないぞ。
あいつの中二病は治りそうもないからな。
「勇者ってさあ、いちいち大袈裟なんだって」
「何を言ってるんですか?もっと誇ってくださいよ」
「とはいってもな・・・そもそも島野一家は過剰戦力なだけなんだって」
「それが良いんじゃないですか?私にとっては誇り以外の何物でもないですよ。だって友人二人とゴンがいるんですよ!これ以上に嬉しいことはないですよ!」
オズはギル並みに熱弁していた。
オズにしてみればそうなのかもしれないが、なんだかね・・・
ここでゴンがグラスを持ってやってきた。
グラスを受け取ると、並々とワインが注がれる。
「ゴンは飲まないのか?」
「私は今日は止めておきます。先日飲み過ぎてやらかしましたので」
「そうか、じゃあまた飲もうな」
「はい」
オズとゴンは親し気にしていた。
こいつらは再会時にはいろいろとあったが、今ではいい関係性を保てているようで、なによりだ。
「では、ダンジョン踏破おめでとうございます!乾杯!」
「「乾杯!」」
ワイングラスを持ち上げた。
グビグビと飲みだす、オズとガードナー。
ちょっとペース早いって・・・
俺は一口ワインを舐めた。
朝から飲む罪悪感ったら、ありゃしないよ。
「そういえばゴン。ダンジョンを踏破して更に強くなったんじゃないか?」
オズは誇らしげだ。
オズにとってはゴンが強くなることが嬉しい様で、興味津々らしい。
確かにダンジョンを踏破してから、ステータスを確認してなかったな。
正直気にもかけて無かった。
そもそもこいつらのステータスを、長い事確認していない。
ギルからは『熱弁』と『千両役者』を、手に入れたとは聞いたけど。
俺はどうなっているのだろうか?
今は止めておこう。
到底そんな気分にはなれない。
気を抜くとアンジェリっちのことを考えてしまいそうだ。
たぶんダンジョン踏破で、レベルが上がってはいるだろうけどね。
何度もアナウンス入ってたし。
でもゴンのステータスはちょっと気になるな。
せっかくだから見てみようかな?
「ゴン『鑑定』してもいいか?」
「いいでよ」
「そうか」
『鑑定』
名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv23
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2556
魔力:3457
能力:水魔法Lv23 土魔法Lv20 変化魔法Lv16 人語理解Lv9 人化Lv8 人語発音Lv8 念話Lv3 照明魔法Lv2 浄化魔法Lv2 契約魔法Lv2 付与魔法Lv2 空間収納魔法LV2
そこまで上がってないような・・・
まあ、そもそもこいつらは、レベルが高いような気がする。
すでにカンスト状態か?
これ以上はそうそう上がらないだろうな。
充分に強いしな。
水魔法が特出しているのは、一時期畑の水やりをゴンに任せていたからだろうか。
特にゴンは強さに拘っていないように思える。
こいつが今求めるのは生活魔法の類だろうし。
多分強さを求めているのはギルぐらいだろう、ノンに関してはよく分からん。
エルは・・・もっと分からん。
せっかくだから他のメンバーも見てみるか。
俺は『念話』でギルに社長室に、ノンとエルと集合する様に伝えた。
こいつらのステータスを見るのも久しぶりだな。
どうなっていることやら。
『鑑定』
名前:ノン
種族:フェンリルLv30
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:5448
魔力:4985
能力:火魔法Lv19 風魔法Lv22 雷魔法Lv25 人語理解Lv8 人化Lv7 人語発音Lv7 念話Lv3
ノンが一番レベルが高いな、しょっちゅう狩りをやっているから、そんなもんか。
でもこいつも頭打ちっぽいな。
『鑑定』
名前:エル
種族:ペガサスLv21
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3043
魔力:5002
能力:風魔法Lv23 浮遊魔法Lv18 氷魔法Lv19 雷魔法Lv18 治癒魔法Lv15 人語理解Lv8 人化Lv8 人語発音Lv7 念話Lv3
エルも強くなってるな。
でもエルも頭打ちのように感じるな。
『鑑定』
名前:ギル
種族:ドラゴンLV3
職業:島野 守の子供
神力:2843
体力:6504
魔力:5434
能力:人語理解Lv7 浮遊魔法Lv7 火魔法Lv18 風魔法Lv17 土魔法LV17 人語発言L18 人化魔法Lv7 神気操作LV4 念話Lv3 念話(神力)Lv3 神気解放Lv1 神気放出Lv2 熱弁Lv1 千両役者Lv1
おお!遂にギルがドラゴンに成ったぞ!
いよいよ大人の仲間入りか?
「ギル!遂にお前ドラゴンになったじゃないか!おめでとう!」
「おお、ギル君おめでとう!」
「「おめでとう!」」
ギルは照れていた。
「これで僕も大人の仲間入りさ!」
せっかくだから俺のステータスも見ることにした。
『鑑定』
名前:島野 守
種族:半人半神
職業:神様見習いLv51
神気:計測不能
体力:2404
魔力:0
能力:加工L7 分離Lv7 神気操作Lv7 神気放出Lv4 合成Lv6 熟成Lv5 身体強化Lv5 両替Lv2 行動予測Lv3 自然操作Lv7 結界Lv2 同調Lv2 変身Lv2 念話Lv3 探索Lv4 転移Lv5 透明化Lv3 浮遊Lv4 照明LV2 睡眠LV2 催眠LV3 複写LV4 未来予測LV2 限定LV2 神力贈呈Lv1 神力吸収Lv1 初心者パック
預金:6432万4355円
ああ・・・いよいよ俺は人では無くなったようだ・・・
さらば人類・・・さらば人間としての俺・・・
一気にレベルが上がったのは、ダンジョンを踏破したからなのか?
否、エアルの再興に協力したからだろうな。
それなりに徳を積んだという事かな?
やれやれだ。
「なあ、遂に俺も人では無くなったみたいだ」
「「「「ええー!!」」」」
全員が仰け反っていた。
その後酔っぱらったオズが、俺への賛辞と感謝を語り出し。
隣にいるガードナーが、それを聞いて大号泣。
何とも言えない気持ちになっていたところに、なし崩し的に神様ズが現れて、結局会議室で宴会となってしまった。
今回もアホほど飲まされて、気がついたら会議室の机に突っ伏すようにして、俺は寝てしまっていた。
起きるとさっそく頭痛と吐き気に襲われた。
息が酒臭い。
完全な二日酔いである。
ありがたい事にエルフの胃薬はとても良く効いた。
胸焼けが一瞬で治っていた。
でも、当分の間はアルコールは控えたい。
あー、しんど。
周りを見ると地獄絵図となっていた。
床には裸にされたランドールさんが寝ており、よく見ると顔に落書きをされていた。
そのランドールさんに、後ろから抱きつくようにマリアさんが眠っており、そのマリアさんに後ろから抱きつくように、オリビアさんが寝ていた。
この人達はなにやってんだか・・・
机にはタイロンの三柱が突っ伏して寝ており、その足元ではゴンズ様が大鼾をかいて寝ており、そのゴンズ様を枕にレケが酒瓶を抱えて寝ていた。
社長室のソファーでは剣化したエクスを抱えて、ゴンガスの親父さんが鼾をかいて寝ており、その足元でカインさんが大の字を書いて寝ていた。
どうやら五郎さんと、ドラン様とデカいプーさんは帰っていったみたいだ。
そこら中に酒瓶が散らかっている。
俺はため息をつくしか無かった。
酒を抜こうとスーパー銭湯に行くと、エルフの薬ブースで、顔見知りの店員に話し掛けられた。
「島野さん、ゾンビみたいな顔してますよ。大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫じゃない。二日酔いで死にそうだ」
ほんとにしんどい・・・
「そんな感じですね。あっ!そうだ。これ飲んでください」
丸薬を手渡された。
「これは毒消しです。二日酔いにはこれですよ」
おお!そんな薬があったとは!
これは助かる!
「ありがとう!いくつかストックも貰えるか?」
「ええ、いいですよ。島野さんにはお世話になってますので」
更に丸薬を貰った。
俺は丸薬を口に入れ、自然操作の水を口にダイレクトに入れて飲み込んだ。
ものの数分後、頭痛が治っていた。
エルフの薬、恐るべし!
エルフの伝統に感謝です!
でも当分の間は、アルコールを控えたい。
肝臓君が心配でなりませんよ。
無料開放は相当なインパクトを残していた。
過去最高の客入りとなり、入場制限も常に行われることになっていた。
夕方に来島したお客が、スーパー銭湯に入るのに、最大二時間待ちとなっていたらしい。
スーパー銭湯だが、現場の判断で、閉店時間が深夜二時まで延長されたらしい。
当分の間俺は、無料開放は行わないことを俺は心に誓った。
というより二度とやりたくない。
本当にやれやれだ。
それにしても騒がしい。
いつも以上に客で混雑している。
それにもういい加減遅い時間だ、閉店時間が迫ってきている。
そして問題となるのは明日だ。
言ってしまったからには、やらなければいけない。
明日はスーパー銭湯の無料開放だ。
間違いなく大人数が、駆けつけるだろう。
入場制限は当たり前におこることだろう。
それだけで終わる訳はないのだが・・・
選択を間違ってしまったか?
それにしても、そもそも俺は祝われる側であって、何で俺がサービスする側に周らなければいけないのか?
いっそのこと、全員分の入場料をカインさんに請求してやろうか?
ふう・・・まあ皆が喜んでくれるのならいいか?
これは慈悲深いってことなのか?
違うと思うのだが・・・
まあいい、こうなったからにはやるまでだ。
俺はサービス精神の塊ということにしておこう。
これ以上の解釈を、俺は出来そうもない。
それにしても今日はもう遅いからもう寝るか、明日は朝から大変だな。
やれやれだ。
翌朝。
いつも通りの朝の散歩に向かうと、多くの従業員から話し掛けられた。
「今日は無料開放って、ほんとですか?」
「ああ、そうだ」
「今日は休みなんですが、手伝いますので指示してください」
「そうか・・・すまんな」
「島野さん、無料開放ってことは、屋台とか出しますよね?」
「その予定だ」
「俺にやらせてください、やってみたかったんです」
「そうか、何の屋台をやるんだ?」
「ラーメンがいいかと思うんですが?どうでしょう?」
「いいが、メルルの許可をちゃんと取るんだぞ」
「分かりました、場所は何処にしましょうか?」
「そうだな、スーパー銭湯の入口付近しかないだろうな」
「ですよね」
とよくできた従業員達で助かります。
皆が皆、自主的に考えて行動している。
なんとも逞しい限りである。
ランドからは、
「島野さん思い切りましたね。入島料と入泉料無料ですか?」
「まあな、そうでも言わんとあの場では、納得してもらえなかっただろうしな、ギルにやられたよ」
「にしもギルの奴、好き放題やってましたね」
ほんとだよ。
「だな、これで気が済んだんじゃないか?」
「ですかね?まだまだやりそうな気がしますよ」
「おいおい、勘弁してくれよ。ギルはいいとして、無料でもちゃんと受付業務は行ってくれよ。何かあった時には頼むぞ。あとエクスもちゃんと指導してくれよ。舐めたこといったら締め上げてくれな」
あいつには強めの指導が必要だからな。
「締めあげてくれって、俺に出来ますかね?」
「簡単なことだ、俺に言いつけるって言えばいいさ」
「それでいいなら楽勝です」
「あいつはまだまだ子供だから、一から教育しないといけないからな」
「それは分かります」
「昨日でだいぶ分かったとは思うが・・・根が人を舐めている上に、お調子ものだからな」
「そのようですね」
「困ったものだ」
「気苦労が絶えませんね」
「全くだ」
俺達は散歩を終えて、朝食を取る為に大食堂に向かった。
大食堂では既に多くの従業員が朝食を取っていた。
いつもよりも多いな。
皆なありがたいことだ、今日の状況を理解している。
最近の朝食は、バイキング形式となっている。
各自が好きな物を食べれるのが好評だ。
所謂ホテルの朝食ってやつだな。
「皆、食事しながらでいいから聞いてくれ」
全員がこちらに注目している。
「今日は無料開放することになったのは、聞いていると思う。悪いが休日の者で手伝うことが出来る者は出勤して欲しい。もちろん休日手当は支給させて貰う。あと、この場にいない従業員にも、声を掛けてやってほしい。本来なら残業もさせないが、今日に限っては、残業出来る者は残ってくれ、当然残業手当は支給する」
本当は、休日出勤や残業は認めたくないのだが、今日ばかりはどうしようもない。
無念だ!
「やった!」
「よっしゃ!」
「やりますよ!」
こいつらはほんとうに働き者だな。
ありがたや、ありがたや。
「あと、テリーはいるか?」
「はい!ここです」
とテリーが手を挙げる。
「ちょっといいか?」
「はい、今向かいます」
とテリーが席を並べる。
「テリー、おはようさん」
「おはようごいます」
「今日のキャンプ場はどんな感じだ?」
「夜の予約は既に満席です」
「昼は大丈夫だよな?」
「はい、特には。何かしますか?」
「たぶんお客で溢れるから、昼からバーベキューを行えるようにしておいてくれ。下手すると朝からかもしれん。飲み物と食べ物も、多めに準備しておいてくれ」
「分かりました」
「頼んだぞ」
「了解です!」
うん、良い返事です。
にしてもテリーも頼れる存在になったもんだ。
俺としても誇らしいよ。
俺は朝食を終えて厨房に入った。
さっそくメルルを捕まえる。
「メルル、今いいか?」
「はい、屋台ですよね?」
話が早くて素晴らしいです。
「そうだ、何台いける?」
「四台ですね?」
「そうか、内容は任せるが、アルコール類も提供できるように手配してくれ」
「分かりました、いつから始めますか?」
「落ち着いてからでいいぞ、俺も手伝うから言ってくれ」
「否、それには及びません。それよりも来賓のお相手をしてください。島野さんにしか出来ませんよね?」
うう・・・メルルにはバレているようだ。
それが一番したくないんだよな。
流石に昼から飲まされることは無いとは思うが、気は抜けないな。
俺は念のため、各施設を巡ってみた。
至るところで、
「大丈夫です」
「手は足りてますから」
「ちゃんと分かってますから」
と誰も取り合ってはくれなかった。
俺の存在意義って・・・
自分の仕事をやれということなんだろう。
うん、きっとそうだ。
要はお前は自分の仕事をしろと、手伝いと言う名のサボりは許さんぞ、ということだな。
それが一番めんどくさいんだよね!
そうこうしていると『念話』が入った。
「マスター、聞こえるか?」
「ああ、エクスどうした?」
「マスター大変だ、もう入島受付がいっぱいなんだよ。どうすればいい?」
はあ?もう?
まだ八時前だぞ。
しょうがないか、開けるか。
「しょうがない、開けてくれ」
「分かった。じゃあ受付を開始するぞ」
「頼んだ」
始まったか・・・激動の一日になりそうだ。
入島受付を解放してから僅か三十分後。
サウナ島は人で溢れていた。
嘘だろ?!
途轍もない数の人々が、大挙して訪れていた。
早くもスーパー銭湯の入口には長蛇の列が並び、今か今かと入口の扉が開くのを待っていた。
それだけでは無い、入島受付からスーパー銭湯まで敷かれている、石畳の両脇に設置を開始している屋台にまで、列が作られている。
まだ、屋台は建設中だというのに・・・
流石に見かねて俺も屋台の設置を手伝うことにした。
ありがたいことに、数名のお客も作業を手伝ってくれた。
手数が多いお陰か、僅か数十分で四台の屋台が完成した。
その後も手伝おうとしたのだが、
「もう大丈夫です」
と追いやられてしまった。
うう、やっぱり駄目か・・・
また『念話』が入る。
今度はギルだ。
「パパ、スーパー銭湯開けてもいいかな?」
「開けるしかないだろう」
「だよね、じゃあ開けるね」
「任せた」
とスーパー銭湯も入場を開始した。
そして、ものの三十分でお風呂の入場制限が行われていた。
入場制限が行われる最短記録である。
そして、大食堂を覗くと既に満席となっていた。
それだけならまだしも、朝から宴会を開始している客が多数いた。
これは・・・カオスだな・・・
手が付けられない・・・
そして、スーパー銭湯自体にも、入場制限が行われていた。
無料開放恐るべしだ!
外を見に行くことにした。
案の定キャンプ場では、バーベキューが開始されていた。
テリー達もてんやわんやだ。
ここでも宴会が開かれていた。
どんだけ朝から飲みたいんだよ!こいつら!
一旦これは事務所に避難だな。
俺は事務所に行くと、マリアさんとオリビアさんが、俺を待ち受けていた。
「守さん、おはよ」
「守ちゃん、おはよう!ムフ!」
「お二方おはようございます、二人揃ってどうしたんですか?」
二人を社長室に通した。
「守ちゃん、お願いがあるのよ」
マリアさんが話し出す。
「お願いですか?」
「そうよ守ちゃん、歌劇場を造ってちょうだい!」
「歌劇場ですか?」
「いいでしょ?」
オリビアさんも追随する。
さては昨日のギルの一件で火がついたな。
でも、はいそうですかとはいかないな。
「歌劇場で何をする気なんですか?」
「ライブよ!」
「ミュージカルよ!」
「・・・」
揃ってませんがな・・・
「どっちもよね、マリア・・・」
「そう、そうねオリビア・・・」
なんだかな・・・
「あれですか?昨日のギルの熱弁で火が付いたんですか?」
「そうよ!ギルちゃんはエンターテイナーよ。あの子はもっと伸びるわ。私がプロデュースすればもっともっとよくなるわ!」
マリアさんは必死だ。
「それに私も、もっといい環境で歌いたいのよ!」
オリビアさんも必死だ。
なんだかな・・・まあ別にいいけど・・・けどな・・・
「別にいいですけど、どれぐらいの規模で考えてるんですか?」
「そうね・・・五百人が入れるぐらいかしら?」
「駄目よ!そんなんじゃ、もっとよ!」
「ちょっと待ってください。適当に言わないで貰えますか?まさか何も考え無しにここに来てないですよね?」
二人は分かり易く下を向いていた。
おいおい、いい加減にせいよ。
丸投げは許さんぞ。
「あのですね、俺は何でも屋ではありませんよ、ただやりたいで、何でも叶えるランプの魔人じゃありませんからね」
「そ、そうよね」
「だよねー」
視線すら合わせない二人。
「ちゃんとそれなりに話を纏めてから来て貰えませんか?別に協力しないとは言わないですから、丸投げは止めてください」
「う・・・」
「ムフ・・・」
ほんとにこの人達は・・・甘やかし過ぎたか?
「それにやるからにはちゃんと、利益が出る構造にしないと続きませんから、ちゃんと考えてくださいね」
「利益って・・・」
絶望な表情を浮かべるオリビアさん。
「そ、そうよね・・・」
考え込むマリアさん。
「歌劇場を造るのにいくらかかるのか?誰が管理して、どういった興行を行うのか?どうやって客を集めるのか?考えることは山ほどありますよ、ほんとに分かってますか?」
「うう・・・」
「・・・」
二人は小さくなっていた。
「せめてそれぐらいは考えを纏めてからにして下さい。俺に丸投げは絶対に無しです。特にオリビアさん、いいですね?」
「・・・分かりました・・・」
二人は肩を落として帰っていった。
歌劇場か・・・大食堂のステージで充分だと思うのだが・・・物足りないということなのかな?
まぁいいや。
そういえば、アンジェリっちが話があると言っていたことを思い出し、俺は美容室に行くことにした。
それにしても凄いことになっている。
島の至る所で、宴会が開かれていた。
準備がいいとい言うのかなんと言うのか、こうなることを見越していた者達が多いようだ。
なんと御座を敷いて、宴会を行っている。
そこまでして朝から飲みたいのかね?
絶対にこいつらは、努力の方向性を間違っている。
もっと違うことに頭を使ってくれよ。
お店街では宴会を行っている者達は居なかった。
いたら追い出してやろうと思っていたが、それぐらいの配慮は有るみたいだ。
返って面倒だな。
なんなんだよ全く!
美容室に入ると、アンジェリっちが。
「守っち、お帰り」
と独特な歓迎を受けてしまった。
この人達のノリは独特だ。
メグさんとカナさんも、
「お帰りなさい」
「お帰り」
と俺に挨拶を行っている。
俺の家ではないのだが・・・
でも何だか悪い気はしない。
身内と感じてくれているということなんだろう。
であれば遠慮なく。
「ただいま、アンジェリっち、話があるっていってなかった?」
「そうそう、奥で待ってて」
「はいはい」
と俺は奥の控室で待つことにした。
確かに俺はこの控室に慣れている。
お帰りなさいとは言いえて妙だな。
俺は『収納』からアイスコーヒーを取り出して、アンジェリっちを待つことにした。
それにしても、今日はこの先どうなるんだろうか?
サウナ島は大宴会場と化している。
無料開放がここまでのインパクトになるとは思わなかった。
夜まで持つんだろうか?
幸い今のところ、お酌攻撃は始まってないが、気は抜けないな。
どこでどう捕まるか分かったもんじゃない。
そういえば、エルフの胃薬を貰ってなかったな。
後で貰いに行こう。
等と考えていると、アンジェリっちが控室にやってきた。
「守っち、お待たせ」
「お疲れさん、で話って?ああ待った、何か飲む?」
「ありがとう、同じ物を貰うわ」
俺は『収納』からアイスコーヒーを取り出して渡した。
「それで、今は大丈夫なの?」
「うん、丁度手が空いたから」
「それで?」
「あのね、こんなこと守っちに聞くことでも無いかもしれないけど、もしかしたら異世界の知識で何とかなるかも?と思っての相談なんだけどね」
「望み薄ってこと?」
「そう、でもせっかくだからする相談なんだけど、エルフの村全体、否、エルフ全体に関わる話なんだけどね、実はエルフって妊娠率が低いのよね」
「妊娠率?」
「そう、種族的なことなんだと思うんだけど、簡単にいうとエルフは妊娠しづらいのよね」
「へえー」
「それでも、これまで何とか血を絶やすことなく、種族を存続させてきたんだけど、最近は特に妊娠率の低下が著しくてね。どうにか出来ないかと思ってね」
これは俺にはどうにもできないな。
俺は産婦人科医では無いし、ましてや誰かを妊娠させたことすらない。
それに妊娠率を上げるような手立ては、まったくもって思いつかない。
これは現代日本にとっても、問題となっている課題だ。
正に少子化問題だ。
到底どうにかできるとは思えない。
アンジェリっちには悪いが、力になれるとは思えないな。
「すまないがこればかりはどうすることも出来ないな・・・」
「そうよね・・・」
ん?ちょっと待てよ?・・・でもこれでどうにか出来るのだろうか?
でも有ったに越したことはないのか?
どうなんだろう?
俺は『収納』からオットセイの牙を取り出した。
「よかったらこれをあげるけど、妊娠率を上げる効果があるかは分からないな」
オットセイの牙をアンジェリっちに手渡した。
「ちょっと・・・」
何故だかアンジェリっちは顔を真っ赤に染めていた。
ん?どういうこと?
「どうした?」
「・・・」
アンジェリっちは、らしくも無く照れた表情をしていた。
「ん?」
「・・・守っち・・・知らなかったんだろうから、いいんだけどね・・・・」
アンジェリっちにしては歯切れが悪いな。
「何が?」
「・・・あのね・・・エルフの風習でね・・・オットセイの牙を男性が女性に渡すのはね・・・結婚してくださいってことなのよ・・・」
アンジェリっちは下を向いて話していた。
・・・嘘でしょ!
いやいやいや!
「ちょっ・・・そんなつもりは・・・ねえ?」
「分かってるわよ・・・」
俺も顔が赤くなってきているのが分かる。
無茶苦茶恥ずかしい!
ちょっと、ちゃんと教えといてよ!
これはいかんよ。
「あの・・・何だかごめんなさい・・・」
「うん・・・ちょっとビックリした・・・」
あれ?満更でもない?
もしかしてアンジェリっち・・・いやいやいや!
勘違いは良くない。
俺としても嬉しいな・・・
駄目だ、俺は何を勘違いしている・・・
冷静になろう・・・そうだ複式呼吸だ。
鼻から吸って・・・口から吐く・・・鼻から吸って・・・口から吐く・・・
はあ・・・これは何とも・・・
ちっとも落ち着かない。
心臓がバクバクする。
「それで、このオットセイの牙で妊娠率は上がるのかな?」
「・・・多分ね・・・」
「あといくつかあるけど・・・エルフの村に寄贈しようか?」
「そ・・・そうね・・・貰えるなら・・・」
「分かった・・・何だかごめん・・・」
「いいのよ・・・」
気まずい!
無茶苦茶気まずい!
逃げ出したい!
「じゃあここに置いておくね」
俺は四個オットセイの牙を置いておいた。
「ごめん・・・じゃあ行くわ・・・」
「うん・・・」
俺はそそくさと美容室を後にした。
ああ・・・まだ顔が赤くなっているのが分かる。
俺は年甲斐も無く何をやっているんだか・・・
この齢でアオハルかよ!
でも悪い気はしないな・・・
いやいや、何を考えているんだ。
その後エルフの薬ブースに立ち寄って、俺は胃薬を受け取った。
事務所に帰ると、社長室でオズとガードナーが待っていた。
「島野さん、お祝いに来ました!」
「おめでとうございます!」
二人は既に一杯始めていた。
どうやらワインを持ち込んでいるみたいだ。
ワインの瓶が五本も置かれている。
どんだけ飲むつもりなんだ?こいつらは?
なんだか俺も飲みたくなってきた。
まだ気が動転しているみたいだ。
とにかく落ち着きたい。
「じゃあ俺も飲ませて貰おうかな?」
「もちろんですよ、ゴンすまないがグラスをもう一つ貰えるか?」
オズが受付に向かって話し掛ける。
「分かりました」
ゴンの返事が返ってくる。
「あれ?島野さん顔が赤くないですか?」
「そ、そうか?まだ飲んでないぞ・・・」
いやいやいや、オズそこはツッコまないでくれよ。
「にしてもお前達、朝からここに居ていいのか?」
「何を言ってるんですか?祝いに絶対に駆けつけるって、言ったじゃないですか?」
「そうですよ島野さん、祝いなんですから、今日は仕事は無しです」
笑顔で答える二人。
そんなに祝いたいのか?
何でなんだ?
「なあ、なんでそんなにこの世界の人達は、ダンジョンを踏破したことに、そこまで興奮するんだ?俺にはちょっと分からんぞ」
「島野さん、ダンジョンの踏破は歴史的な快挙なんですよ。カイン様がダンジョンを踏破したのは、今より二百年以上も前なんです。それにカイン様が踏破したダンジョンは、今のダンジョンとは違って、十階層までしか無かったということらしいです、現在のダンジョンを踏破するのは、簡易モードであってもS級ハンターでも無理と言われていたんです。そりゃあ興奮するに決まってます。ましてや超ハードモードとなると、真の勇者にしか踏破出来ないと言われてきたんですから」
勇者って・・・これを聞いたら、またギルが何かやらかしかねないぞ。
あいつの中二病は治りそうもないからな。
「勇者ってさあ、いちいち大袈裟なんだって」
「何を言ってるんですか?もっと誇ってくださいよ」
「とはいってもな・・・そもそも島野一家は過剰戦力なだけなんだって」
「それが良いんじゃないですか?私にとっては誇り以外の何物でもないですよ。だって友人二人とゴンがいるんですよ!これ以上に嬉しいことはないですよ!」
オズはギル並みに熱弁していた。
オズにしてみればそうなのかもしれないが、なんだかね・・・
ここでゴンがグラスを持ってやってきた。
グラスを受け取ると、並々とワインが注がれる。
「ゴンは飲まないのか?」
「私は今日は止めておきます。先日飲み過ぎてやらかしましたので」
「そうか、じゃあまた飲もうな」
「はい」
オズとゴンは親し気にしていた。
こいつらは再会時にはいろいろとあったが、今ではいい関係性を保てているようで、なによりだ。
「では、ダンジョン踏破おめでとうございます!乾杯!」
「「乾杯!」」
ワイングラスを持ち上げた。
グビグビと飲みだす、オズとガードナー。
ちょっとペース早いって・・・
俺は一口ワインを舐めた。
朝から飲む罪悪感ったら、ありゃしないよ。
「そういえばゴン。ダンジョンを踏破して更に強くなったんじゃないか?」
オズは誇らしげだ。
オズにとってはゴンが強くなることが嬉しい様で、興味津々らしい。
確かにダンジョンを踏破してから、ステータスを確認してなかったな。
正直気にもかけて無かった。
そもそもこいつらのステータスを、長い事確認していない。
ギルからは『熱弁』と『千両役者』を、手に入れたとは聞いたけど。
俺はどうなっているのだろうか?
今は止めておこう。
到底そんな気分にはなれない。
気を抜くとアンジェリっちのことを考えてしまいそうだ。
たぶんダンジョン踏破で、レベルが上がってはいるだろうけどね。
何度もアナウンス入ってたし。
でもゴンのステータスはちょっと気になるな。
せっかくだから見てみようかな?
「ゴン『鑑定』してもいいか?」
「いいでよ」
「そうか」
『鑑定』
名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv23
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2556
魔力:3457
能力:水魔法Lv23 土魔法Lv20 変化魔法Lv16 人語理解Lv9 人化Lv8 人語発音Lv8 念話Lv3 照明魔法Lv2 浄化魔法Lv2 契約魔法Lv2 付与魔法Lv2 空間収納魔法LV2
そこまで上がってないような・・・
まあ、そもそもこいつらは、レベルが高いような気がする。
すでにカンスト状態か?
これ以上はそうそう上がらないだろうな。
充分に強いしな。
水魔法が特出しているのは、一時期畑の水やりをゴンに任せていたからだろうか。
特にゴンは強さに拘っていないように思える。
こいつが今求めるのは生活魔法の類だろうし。
多分強さを求めているのはギルぐらいだろう、ノンに関してはよく分からん。
エルは・・・もっと分からん。
せっかくだから他のメンバーも見てみるか。
俺は『念話』でギルに社長室に、ノンとエルと集合する様に伝えた。
こいつらのステータスを見るのも久しぶりだな。
どうなっていることやら。
『鑑定』
名前:ノン
種族:フェンリルLv30
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:5448
魔力:4985
能力:火魔法Lv19 風魔法Lv22 雷魔法Lv25 人語理解Lv8 人化Lv7 人語発音Lv7 念話Lv3
ノンが一番レベルが高いな、しょっちゅう狩りをやっているから、そんなもんか。
でもこいつも頭打ちっぽいな。
『鑑定』
名前:エル
種族:ペガサスLv21
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3043
魔力:5002
能力:風魔法Lv23 浮遊魔法Lv18 氷魔法Lv19 雷魔法Lv18 治癒魔法Lv15 人語理解Lv8 人化Lv8 人語発音Lv7 念話Lv3
エルも強くなってるな。
でもエルも頭打ちのように感じるな。
『鑑定』
名前:ギル
種族:ドラゴンLV3
職業:島野 守の子供
神力:2843
体力:6504
魔力:5434
能力:人語理解Lv7 浮遊魔法Lv7 火魔法Lv18 風魔法Lv17 土魔法LV17 人語発言L18 人化魔法Lv7 神気操作LV4 念話Lv3 念話(神力)Lv3 神気解放Lv1 神気放出Lv2 熱弁Lv1 千両役者Lv1
おお!遂にギルがドラゴンに成ったぞ!
いよいよ大人の仲間入りか?
「ギル!遂にお前ドラゴンになったじゃないか!おめでとう!」
「おお、ギル君おめでとう!」
「「おめでとう!」」
ギルは照れていた。
「これで僕も大人の仲間入りさ!」
せっかくだから俺のステータスも見ることにした。
『鑑定』
名前:島野 守
種族:半人半神
職業:神様見習いLv51
神気:計測不能
体力:2404
魔力:0
能力:加工L7 分離Lv7 神気操作Lv7 神気放出Lv4 合成Lv6 熟成Lv5 身体強化Lv5 両替Lv2 行動予測Lv3 自然操作Lv7 結界Lv2 同調Lv2 変身Lv2 念話Lv3 探索Lv4 転移Lv5 透明化Lv3 浮遊Lv4 照明LV2 睡眠LV2 催眠LV3 複写LV4 未来予測LV2 限定LV2 神力贈呈Lv1 神力吸収Lv1 初心者パック
預金:6432万4355円
ああ・・・いよいよ俺は人では無くなったようだ・・・
さらば人類・・・さらば人間としての俺・・・
一気にレベルが上がったのは、ダンジョンを踏破したからなのか?
否、エアルの再興に協力したからだろうな。
それなりに徳を積んだという事かな?
やれやれだ。
「なあ、遂に俺も人では無くなったみたいだ」
「「「「ええー!!」」」」
全員が仰け反っていた。
その後酔っぱらったオズが、俺への賛辞と感謝を語り出し。
隣にいるガードナーが、それを聞いて大号泣。
何とも言えない気持ちになっていたところに、なし崩し的に神様ズが現れて、結局会議室で宴会となってしまった。
今回もアホほど飲まされて、気がついたら会議室の机に突っ伏すようにして、俺は寝てしまっていた。
起きるとさっそく頭痛と吐き気に襲われた。
息が酒臭い。
完全な二日酔いである。
ありがたい事にエルフの胃薬はとても良く効いた。
胸焼けが一瞬で治っていた。
でも、当分の間はアルコールは控えたい。
あー、しんど。
周りを見ると地獄絵図となっていた。
床には裸にされたランドールさんが寝ており、よく見ると顔に落書きをされていた。
そのランドールさんに、後ろから抱きつくようにマリアさんが眠っており、そのマリアさんに後ろから抱きつくように、オリビアさんが寝ていた。
この人達はなにやってんだか・・・
机にはタイロンの三柱が突っ伏して寝ており、その足元ではゴンズ様が大鼾をかいて寝ており、そのゴンズ様を枕にレケが酒瓶を抱えて寝ていた。
社長室のソファーでは剣化したエクスを抱えて、ゴンガスの親父さんが鼾をかいて寝ており、その足元でカインさんが大の字を書いて寝ていた。
どうやら五郎さんと、ドラン様とデカいプーさんは帰っていったみたいだ。
そこら中に酒瓶が散らかっている。
俺はため息をつくしか無かった。
酒を抜こうとスーパー銭湯に行くと、エルフの薬ブースで、顔見知りの店員に話し掛けられた。
「島野さん、ゾンビみたいな顔してますよ。大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫じゃない。二日酔いで死にそうだ」
ほんとにしんどい・・・
「そんな感じですね。あっ!そうだ。これ飲んでください」
丸薬を手渡された。
「これは毒消しです。二日酔いにはこれですよ」
おお!そんな薬があったとは!
これは助かる!
「ありがとう!いくつかストックも貰えるか?」
「ええ、いいですよ。島野さんにはお世話になってますので」
更に丸薬を貰った。
俺は丸薬を口に入れ、自然操作の水を口にダイレクトに入れて飲み込んだ。
ものの数分後、頭痛が治っていた。
エルフの薬、恐るべし!
エルフの伝統に感謝です!
でも当分の間は、アルコールを控えたい。
肝臓君が心配でなりませんよ。
無料開放は相当なインパクトを残していた。
過去最高の客入りとなり、入場制限も常に行われることになっていた。
夕方に来島したお客が、スーパー銭湯に入るのに、最大二時間待ちとなっていたらしい。
スーパー銭湯だが、現場の判断で、閉店時間が深夜二時まで延長されたらしい。
当分の間俺は、無料開放は行わないことを俺は心に誓った。
というより二度とやりたくない。
本当にやれやれだ。