結局ダンジョンの打ち上げは、後日サウナ島で行われることとなり。
何故か、ダンジョン物語を、ギルが再度サウナ島でお披露目することになっていた。
多分テリー達に聞かせたいのだろう。
それにギルの昨日の観衆への語りは、満足の行くものだったようだ。
実際に上手に話せていたと思う。
当のギルも満更ではないご様子。
というよりご機嫌ともいえる。
その所為か、今日のスーパー銭湯の客入りは、通常の倍以上になっていた。
昨日は機転?を効かせて、エンドレスお酌からは解放されたが、今日も今日で気が抜けないのが俺である。
そこでダンジョンで手にいれた薬の原料を持ち込んで、さっそく薬を作って貰おうと考えている。
スーパー銭湯のエルフの薬ブースで、見慣れたエルフの店員に声を掛けた。
「ちょっといいかい?」
「あ、どうも島野さん。ダンジョン踏破おめでとうございます。それで何か御用ですか?」
「ありがとう。実はな、ちょっと見て欲しい物があるんだ」
と俺は『収納』から薬の原料となる。熊の胆嚢、ジャイアントイーグルの爪、キラーアントの牙、ジャイアントカマキリの鎌、ジャイアントカモシカの角等を取り出していった。
「おお!どれも状態がいいですね」
オットセイは・・・止めておいた。
ちょっと恥ずかしいし・・・ね。
「これで薬が作れるんじゃないかな?」
「ええ、どれもいい素材です、是非買い取らせてください」
「実は熊の胆嚢だけ、優先的に薬を作ってくれないだろうか?もちろん熊の胆嚢の材料費はいらない」
「いいんですか?胃薬で良ければ直ぐに作れます。後で寄ってください。他の材料も査定しておきます」
「いやいいよ、薬の材料はエルフの村に寄贈させてもらうよ」
「ほんとですか?」
「ああ、その代わり、何かいい薬が出来たら、今後は優先的に回して欲しい」
「もちろんです」
俺はエルフの薬ブースを後にした。
次に向かったのは、赤レンガ工房だ。
武具の材料になる材料を親父さんにプレゼントする為だ。
中に入ると、親父さんとエクスが何やら話をしていた。
「おお、お前さん、丁度いいところに来たの」
「ん?どうしましたか?」
「いやな、エクスをお前さんに仕えさせるはよいが、何をやらせたらよいのか分からんくてのう」
エクスもまだ俺に遠慮があるのだろう、本当なら俺に相談に来る内容だ。
現にエクスは俺に対して、申し訳なさそうにしている。
「それなら俺に考えがありますから大丈夫です」
「マスター、本当か?」
エクスは分かりやすく目を輝かせている。
「ああ、お前にはドアボーイをやって貰おうと考えている」
「ドアボーイ?」
「そうだ、昨日入島受付には行ったよな?」
「行ったぜ」
「そこで働いて欲しいと思っている」
「そうか、お迎え問題だの」
と親父さんは理解したようだ。
「そうです」
実は、神様ズからサウナ島に向かう一団を送り込むこと自体は問題ないが、迎えに行くのが大変だと前々から言われていたのだ。
神様ごとに各自のルールを設けて、転移扉の運用を行っているが、中には急なトラブルなどで、そのルール内の運用が出来ず、四苦八苦していることもあったようなのだ。
例えば五郎さんの場合、最後の迎えの時間は二十二時としているが、その時間に温泉街であったトラブルで、迎えに来られなかったことが何度かあった。
俺かギルをランドが呼び出して対応したのだが、五郎さんはとても申し訳なさそうにしていた。
なので、エクスには十三時から二十二時までの勤務で、ドアボーイをして貰おうということなのだ。
「まずエクス、お前は島野商事の社員になってもらう」
「島野商事?」
「ああ、俺達の会社だ」
「会社?・・・」
「まあいい、細かい事はギルに聞いてくれ。それとこの島では働かない者は、飲み食い出来ないからな」
「え!そんな・・・」
「お前どう思ってたんだ?ただ飯が食えるとでも思ってたのか?」
「いや、マスターが普通に飲み食いさせてくれるもんだとばっかり・・・」
「あのな、俺はそんなに甘くはないぞ」
「でも昨日はそうしてくれたじゃないか、それにほとんどの奴らに奢ってただろ?」
「あれは宴会だから別物だ」
確かにやり過ぎたとは思うがな。
そう思われてもしょうがないのか?
「そうなのか・・・」
「ちゃんとお前には仕事があるし、それによってちゃんと給料を貰えるから、自分でやりくりするんだぞ」
「分かったぜ・・・」
「細かい事はこれから覚えつつ、ギルからも教わってくれ、後で俺と入島受付にいくぞ、責任者のランドに合わせるからな」
「おう!」
「よかったの、エクスや」
「おう!」
親父さんも胸を撫で降ろしているようだ。
「それはさておいて、親父さんにプレゼントがありますよ」
「なんだと!プレゼントだと?」
俺は『収納』から武具の素材となる、ワイルドタイガーの牙等を次々と取り出していった。
「おお!これはいいな。貰ってもよいのか?」
「どうぞ、遠慮なく」
「こ・・・これは・・・まさか・・・恐竜の牙か?」
数個ではあるが、せっかくなのであげることにした。
でも俺の鑑賞用と、スーパー銭湯に飾る分はあげないけどね。
まあ、エクスを造ってくれたお返し?かな?
「嬉しいな、これであれが造れる、いやこれにもいいのう」
等と親父さんはさっそく鍛冶師モードに突入していた。
俺はエクスを連れて、入島受付へと向かうことにした。
「エクス、これからお前はいろいろと学ぶことがある、まずは相手を立てて、謙虚にするんだぞ」
「なんだよマスター、あんたもカイン様と同じことを言うのかよ」
「カインさんまでそう言ったという事は、そうする必要があるんじゃないのか?二人から言われるとなると、本気で改める必要があるんじゃないのか?」
「う!・・・確かに・・・」
「特にこのサウナ島は特別だから、気を引きしめてかからないと大変なことになるぞ。何よりこの島には、神様達が集まってくるからな」
「嘘!」
「嘘じゃねえよ、これからお前は神様達の相手をするんだぞ。それも十人近くのな」
「・・・嘘だろ・・・」
エクスは頭を抱えていた。
「だから謙虚にしろと言ってるんだ」
「分かったよ、マスター・・・」
腹を決めたエクスと共に、入島受付へと入っていった。
俺はランドを呼びこんで。
「ランド、新入りだ。教育してくれ」
「新入りですか?」
「ああ、神剣のエクスだ」
というと、ランドが一瞬体を硬直させた。
「神剣って・・・」
「よう!おいらはエクス。よろくしくな!獣人!」
とエクスが偉そうに挨拶をした。
俺は問答無用でエクスに肘鉄をかました。
「ウグ!」
と蠢くエクス。
こいつは何も分かっちゃいないようだ。
「マスター!何するんだよ!」
「エクス、お前、俺の話を聞いて無かったのか?」
「・・・」
「謙虚にしろといったよな・・・」
俺の怒気にたじろぐエクス。
「・・・ごめんなさい・・・」
これはまずはちゃんと言って聞かせなきゃ駄目だな。
「エクス、一つ言っておく。このサウナ島では絶対的に守らなければならないルールがある」
「・・・」
「それは、この島では立場や身分は一切関係なく、皆平等というルールがある」
「・・・だったら前持って教えてくれよな、マスター・・・」
「だから教えただろうが、謙虚にしろと、それを理解できないぐらい、お前は人を舐めているってことだ。分かるか?」
「うう・・・」
これで気づいてくれるだろうか?
こいつの上から目線は本物だからな、ここは鼻っ柱をへし折るしかない。
「俺も注意した、カインさんも注意した。なのにお前は始めて会う、先輩のランドに偉そうにしやがった。なんだお前、神だからって偉いと思ってるのか?どうなんだ?」
「・・・」
エクスは縮こまっていた。
「おまえはどこか人を舐めてるところがある、これは俺にとっては、看過することは出来ない、何故だか分かるか?」
「・・・分からない・・・」
「そうか・・・であれば、学ぶことだな」
「そんな・・・」
「今日明日とお前は様々な神様に出会うことになる、その中から大いに学ぶことだ」
「・・・分かった・・・頑張ってみる」
「お前には期待している、お前はそんなもんじゃないと、俺は分かっているぞ!」
あえて出鼻をくじいてやったが、エクスがやる気になったのを俺は感じた。
神様初心者を導くことすら俺の仕事になるとは・・・
やれやれである。
多少昭和感があるのは勘弁して欲しい。
精神年齢定年なもんでね。
後は出来たら褒めてやらないとな。
「さあ、もう一度ちゃんとランドに挨拶をするんだ」
「分かった、ランド。さっきはすまない。おいらはエクソダス。エクスと呼んで欲しい」
「おうエクス、よろしくな!」
とランドが右手を差し出す。
エクスが笑顔で握り返す。
「ちゃんと出来るじゃないかエクス!」
「へへ!」
やってみせ、言って聞かせてやらせてみて、出来たら褒めてあげなければ、人は動かない。
とある偉人の名言だな。
これで少しは、エクスの上から目線が治るといいのだが、後は神様ズと接する姿勢をみれば、分かってくれるはずだ。
それにしても、エクスが勘違いしてしまうのも、分からなくはない。
エクスは親父さんの手から生れて、世間を知ることなく、カインさんに預けられてしまった。
カインさんもダンジョンから離れられない生活を続けていたから、まともにエクスを教育していられなかったんだろう。
エクスは自分で実績を造って、神に成った訳ではない。
そしてギルの様に家族に囲まれて、育ってきた訳でも無い。
神が人よりも偉いものだと、勘違いしてしまうのも分からなくはない。
どうやら俺はこいつの新たな保護者になってしまったようだし、ここからはちゃんと教育していかないといけないな。
まあこのサウナ島で暮らす限り、良き神様性?を学べることだろう。
周りは立派な先生だらけだしね。
入島受付で神様ズを待っていると、さっそくゴンズ様がやってきた。
この時間に来たということは、早朝の漁を終えてきたということだな。
「おう!島野!聞いたぞお前、やったらしいな!」
既にゴルゴラドにまで話は周っているようだ。
「ありがとうございます」
「お前なら楽勝だっただろ?」
「いえいえ、そんなことは有りませんでしたよ。そんなことよりも、新人を紹介させてください」
「新人?」
俺はエクスの背中を押す。
「お、おいらは神剣のエクソダス、エクスと呼んでください」
ゴンズ様は興味深げにエクスを眺めている。
「ほお、神剣かー、噂には聞いていたが実在したんだな」
「・・・」
エクスは明らかにビビッている。
ゴンズ様の迫力に押されているようだ。
「で、新人ってことは、こいつは島野のところで働くってことか?」
「はい、それで今後なんですが、お迎えを週に五日はしなくてもいいようにしようかと、ここでドアボーイを任せることにしました」
「お!そうか!それは助かるな。エクス!よろしくな!」
とゴンズ様はぐいっとエクスに近寄った。
「は、はい!頑張ります!」
とたじたじのエクス。
始めにこの人は強烈過ぎたみたいだ。
エクスは完全に腰が引けている。
「ゴンズ様、ちょっとやり過ぎです」
「ガハハハ!そうか、悪いな。気合入れてやろうと思ってよ」
逆にビビッてますがな。
「ハハハ・・・」
と愛想笑いをするエクス。
「詳細は後日お話します。あとギルが今日何かやるみたいなんで、よかったら見ていってやってくださいね」
「そうか、分かった、よし、お前ら行くぞ!」
「「うぃっす!」」
と部下を引き連れてゴンズ様は、サウナ島に入っていった。
未だ顔が引き攣っているエクス。
これはこの先が楽しみだな。
逆に出鼻がゴンズ様でよかったのかも?
次に訪れたのはドラン様だった。
この時間ということは、今日は牛乳ブースの準備の日のようだ。
「ドラン様、おはようございます」
「島野君おはよう!ガハハハ!」
「さっそくですが、紹介させてください。新人です」
まだ少し困惑気味のエクスが、
「おいらは神剣のエクソダス、エクスと呼んでください」
「・・・神剣?」
ドラン様は神剣を知らないようだ。
「実はダンジョンを踏破したら、俺に仕えることになりまして」
「へえー、それはそれは・・・ん?そうか!島野君おめでとう!ガハハハ!」
と背中をバシバシと叩かれた。
ハハハ・・・カールおじさん・・・思いの外痛いですよ・・・
「それで、詳細は後日話しますが、エクスは週五でドアボーイをしますので、迎えは不要になります」
「そうなのか、それはありがたいね。ガハハハ!」
後ろから恐る恐るアグネスが顔を出した。
「よう!アグネス」
「守・・・あんた今度は神様たらしなの?」
何でたらしなんだよ?
「知るか!アグネスは置いておいて、今日ギルが何かやるみたいなんで、よかったら見ていってやってください」
アグネスが睨んできたが無視することにした。
相変わらずうざい。
「そうか、それは楽しみだ!ではエクス君、よろしく!ガハハハ!」
と大笑いキャラ全開のドラン様だった。
入島を見送った後、ぼそりとエクスが呟いた。
「マスター・・・神様って強烈なんだな・・・」
「エクス、これで驚いていたら身が持たんぞ」
「う!・・・マジか・・・」
まあ、そうなるよな。
次に訪れたのはアンジェリっちだった。
アンジェリっちは営業日は、決まってこの時間だ。
ただサウナ島に泊まってない時に限るけどね。
「守っち、おはよう!」
俺は島野っちから、守っちに知らぬ間に昇格していた。
昇格であってる?
「アンジェリっち、おはよう」
「この時間に受付にいるなんて珍しいじゃん、どうしたの?」
「それは新人を紹介する為だよ、エクス挨拶しなさい」
エクスはボケっとアンジェリっちを眺めていた。
心ここに有らずだ。
「おい!エクス!」
「ああ・・・お、お、おいらはエクスです。よ、よろしくお願いします」
ん?こいつどうしたんだ?
なんだか余所余所しいぞ。
「へえー、エクスっていうんだ。私はアンジェリよ、よろしくね。ねえ守っち、ギル君に似てないこの子?」
「そうなるよね、まあ詳しくは今度話すよ、エクスには今後転移扉のドアボーイを任せるから、お迎え問題は解消できそうだよ」
「ほんと?ムッチャ嬉しい!エクスやるじゃん!」
思いの外照れているエクス。
こいつ・・・もしかして・・・
「あ!そうそう、守っちさあ、今度手が空いた時でいいから美容室に寄ってくんない?」
「いいけど、どうした?」
「その時でいいわよ」
「分かった、あと今日ギルが何かやるみたいだから、時間が合ったら見にいってやってくれないかな?」
「いいよ、じゃあまたね」
と手を振りながら、アンジェリっちはサウナ島に入っていった。
今日も美容室の予約で手一杯なんだろうと思う、もはや美容室アンジェリは、予約の取れないお店として有名だからね。
隣を見ると、エクスが夢見心地の表情を浮かべていた。
やれやれだ。
その後直ぐ現れたのは、オズとガードナーだった。
この時間から現れるとは珍しい。
俺を見つけると二人は、
「「島野さん!おめでとうございます!」」
と駆け寄ってきた。
「おお、ありがとな、やっぱり聞いてたか」
「聞かない訳ないでしょ?遂にやりましたね、島野さんなら絶対やってくれると思ってましたよ!で、お祝いはどうするんですか?絶対駆けつけますから教えてくださいよ!絶対ですよ!」
と二人の圧が凄い!
こいつらはほんとに・・・
さては祝いの席に出席したいからこの時間に来たな?
タダ飯狙いかよ。
「オズ、ガードナー、新人を紹介させてくれ。神剣のエクソダスだ」
エクスが前に出る。
「おいらは神剣のエクソダス、エクスって呼んで欲しい。よろしくお願いします」
とエクスがちゃんとお辞儀をしていた。
良いじゃないか、エクスも分かってきたかな?
「島野さん、新人って・・・それも神剣って・・・」
とわなわなとし出した二人。
「おお!実在したのか!」
「凄い!流石は島野さん!」
と騒ぎだした。
「おいおい!騒ぎ過ぎだって!」
「いやいや、これが興奮せずにいられますか?」
おい!オズ!お前こんなキャラじゃなかったよな?
「いいから落ち着け、それにエクスが名乗ったのに、大人のお前らが何をやってるんだ。挨拶ぐらい返してやれよ」
しまったという顔をした二人は、背筋を正した。
「すまなかったエクス君、私は法律の神のオズワルドだ、よろしく頼む」
とオズは軽く会釈をした。
「私もすまなかったね、私は警護の神のガードナーだ、今後ともよろしく」
とガードナーも会釈をする。
「はい・・・」
と二人の急な変わり身に、エクスは面食らっていた。
「今日は部下は連れて来なかったのか?」
この二人は最近では、部下を連れてくるようになったのだ。
ガードナーはまだしも、オズが部下を労う為だと、連れて来た時には俺も嬉しかった。
徐々にではあるが、オズの周りの反応も変わりつつあるのが分かる。
「今日は連れて来てないです」
「そうか、まあゆっくりしていってくれ。あと今後は迎えの必要は週五で要らなくなるからな。詳細はまた後日だ」
「それはどういうことで?」
「エクスがドアボーイをすることになったんだ」
「なるほど、それは助かりますね。私達もエンゾまでとはいきませんが、今後はタイロンの国民を連れて来れる様にしようと、話してた所だったんですよ」
この二人の目利きならまず間違いないだろう。
こういってはなんだが、エンゾさんよりも目利きは上だろう。
「そうか、あと今日ギルが何かやるみたいだから、時間があったら見てやってくれ」
「分かりました、ゴンは今日は何処ですか?」
「今日も事務所じゃないか?顔出してくのか?」
「はい、前に相談があると言われてまして」
ゴンがオズに相談?
俺じゃなくて?
まあいいか。
「そうか、まあよろしくな」
興奮冷めやらぬ感じで、二人はサウナ島に入っていった。
次に現れたのは、マリアさんだった。
マリアさんはこちらを見つけると、一目散に駆けてきた。
エクスの目前でビタリと止まり、いろいろな角度からエクスを、舐め回すように見つめている。
エクスは恐怖で身体が動かないみたいだ。
緊張で脂汗を掻いているのが分かる。
「守ちゃん!ちょっとこの子!エクセレンとよ!」
といつものノリを始め出した。
やれやれ、毎度毎度この人は・・・それにエクスもビビり過ぎだ。
いや、マリアさん相手じゃしょうがないか。
「マリアさん、紹介しますね。新人の神剣エクソダスです」
「お、お、お、おいら、エ、エ、エクソダス。よ、よろしくお願いします」
エクスはマリアさんの顔を直視すること無く、挨拶をしていた。
本当は行儀悪いのだが、こればっかりはしょうがない。
初マリアで直視はハードルが高いだろう。
「あらま、エクスちゃんね。よろしこ!」
とマリアさんは、体をくねくねとしている。
「・・・はい・・・」
エクスはなんとか踏ん張って返事をしている。
返事としては心許ないのだが、しょうがないか。
「マリアさん、今後エクスは週五でドアボーイをしますので、お迎え問題は解消できそうです」
「ほんと、嬉しいじゃない!」
と更にエクスに詰め寄っている。
もう止めてあげてくれ!今にもエクスの目ん玉が白眼になりそうだ。
「あと、ギルが今日なにかやるみたいなんで、時間があったら是非見に行ってやってください」
「ギルちゃんが?何をやるっての?」
やっとこっちを見てくれたか、これでエクスが少しは回復するだろう。
「それは見てのお楽しみです、マリアさんは好きなジャンルだと思いますよ?」
「あらま!それは芸術寄りってことね。ムフ!」
「そうですね、あいつにあんな才能があったなんて驚きですよ」
「へえー、守ちゃんがそんなに褒めるなんて、ギルちゃんやるじゃない、お姉さん期待しちゃうわ!」
と目をハートマークにしていた。
その後、もう一度エクスを舐める様に見た後に、マリアさんはメッサーラに帰っていった。
エクスは放心状態から回復するまでに、それなりの時間を有することになった。
頑張れエクス!
次に現れたのは五郎さんだ。
「おう、島野!おはようさん!で、おめでとさん!」
「五郎さん、おはようございます。ありがとうございます」
「なんでえ、お前えがここにいるなんて珍しいじゃねえか、どうした?」
「新人を紹介させてください」
俺はエクスの背中を押す。
「おいらは神剣のエクソダスです、エクスと呼んでください。よろしくお願いします」
エクスは挨拶が大分板に付いてきたな。
「ほう、お前えがエクスか、ゴンガスの親父から聞いてるぜ。よろしくな」
と五郎さんが右手を差し出す。
親父さんから聞いてたんだ・・・この人の情報収集力には舌を巻くな。
「はい!」
と差し出された右手を握り返すエクス。
五郎さんがゴンガスの親父さんから、前もって聞かされてたことが嬉しかったんだろう。
エクスは今日一の笑顔だ。
「それで何でえ、こいつも島野のところで働くってか、お前えのとこばっかり人が集まりやがるな、儂のところにもちっとは回せ」
「ハハハ、家の新戦力を渡す訳にはいきませんよ」
「ちぇ!連れねえな」
「まあ、それはさておき、今日はギルが何かやるらしいので、見に来てやってくださいね。五郎さんが見に来てくれたらギルは喜びますので」
「何?ギル坊がか・・・何時からだ?」
「確か二十時だったと思います」
「そうか、その時間なら何とかならあ、じゃあ済まねえが儂は戻らさせて貰うからな。またなエクス!」
「はい!」
と五郎さんは帰っていった。
その後五郎さんと入れ違う様にやって来たのは、オリビアさんだった。
「守さん、おはよ」
と未だ眠そうに目を擦っている。
「オリビアさんおはようございます。昨日はメルラドで泊まったんですね」
「だって、昨日は守さん居なかったじゃない。私が居なくて寂しかった?」
「昨日の夜はそれどころじゃありませんでしたよ・・・」
ほんとに大変だった。
「もう、そうじゃなくて・・・」
ん?何だ?
「そうそう、紹介させてください、新人のエクスです」
エクスはガチガチに緊張していた。
何でだ?緊張する相手なのか?
「は、は、は、始めまして、神剣のエクソダスです!エクスって呼んでください!」
と直立不動の姿勢で自己紹介していた。
「へえー、ねえ守さん、この子ギル君に似ていない?」
「そうですね、ギルが装備者なのでそうなのかもしれないですね」
「へえー」
とオリビアさんが近い距離でエクスを眺めている。
顔を赤らめたエクスが更に姿勢を正している。
かあー、エクス君、照れてますねー。
「あ、そうそう今日ギルが何かやるみたいなんで、良かったら見ていってやってくださいね」
「ギル君が?」
「はい、たぶんオリビアさんは好きなジャンルだと思いますよ?」
「わたしが好きって音楽ってこと?」
「直接的ではないですが、オリビアさん好みだと思いますよ」
「そうなんだ、なんだか楽しみね。見に行くわ。じゃあ今日はお店の手伝いだから行くね守さん、またねー」
とオリビアさんはサウナ島に入っていった。
隣を見ると、エクスが未だに顔を赤らめていた。
このお色気小僧め!
次にランドールさんが、やってきた。
今日は珍しく早い時間だ。
「やあ島野さん、おはよう。ダンジョン踏破おめでとう!」
「ランドールさん、おはようございます。ありがとうございます。今日は早いですね」
「今日は、何人か移動で使わせてもらうからね。その後直ぐにメッサーラだよ」
「もう二校目ですか?」
「打ち合わせだけどね」
「なるほど、じゃあ夕方からはまた来られるんですか?」
「そのつもりだよ」
「今日は夜にギルが何か催し物をやるみたいなんで、よかったら、見に来てやってください」
「ギル君が?へえー、催し物だなんて意外だね」
ランドールさんにとっては意外なようだ。
まあ気持ちは分かる、俺も最初は意外と感じた。
でも昨日の様子を見る限り、そうでもないと思えたけどね。
「あと、新人を紹介しますね。神剣のエクスダスです」
「おいらは神剣のエクソダス、エクスと呼んでください」
とエクスは大きく腰を折っている。
「エクス君だね、よろしく」
とランドールさんは右手を差し出す。
その差し出された右手を、嬉しそうに握り返すエクス。
「神剣か、噂で聞いているよ。やはりゴンガス様は凄いな。私にはまだそこまで辿り着かないよ、まだ加工も出来ないしね。後ちょっとから、なかなか進まないんだよな」
「ランドールさんなら絶対に出来る様になると、俺は思うんですけどね」
「ありがとう島野さん。じゃあ早速で悪いが行かせて貰うよ」
「じゃあ、また」
とランドールさんは、メッサーラに向かっていった。
見送るとエクスが、
「マスター、ランドール様はかっこいいな」
と尊敬の眼差しを向けていた。
エロ神であることを話そうかどうか悩んだが、止めておいた。
青年の心を折るにはまだ早いだろう。
そうこうしていると、今度はエンゾさんがやってきた。
「あら島野君、おはよう。そしておめでとう」
「エンゾさん、おはようございます。そしてありがとうございます」
「今日はどうしたのよ?」
「新人を紹介しようと思いまして、神剣エクソダスです」
これまたエクスが真っ赤な顔をして、もぞもぞとしている。
こいつはどんだけ女神に弱いんだ?
「お、お、おいらは神剣、エ、エクソダス、エクスって呼んで・・・」
エンゾさんが揶揄うかの様に、エクスの顔を覗き込んだ。
やっぱりこの女神は意地が悪いな。
「へえー、エクスね。よろしく」
「は、はいー!」
と今にも卒倒しそうなエクス。
「エンゾさん、揶揄わないでやってくださいよ」
「そう?そんなことないわよ」
「ふう、それで、今からサウナ島ですか?」
「いや、今日は一度帰って夕方からまた来るわ。ちょっと仕事を残してるから」
「そうですか、夜にギルが催し物を行うので、よかったら来てやってください」
「そう、いいわよ。じゃあまたね島野君、エクス」
と颯爽とタイロンに帰っていった。
最後に現れたのは、デカいプーさんだった。
「やあ、君ー、おはようー」
「おはようございます」
相変わらずのペースで話す、レイモンド様だ。
「そういえばー、おめでとうー」
おお!レイモンド様からこの一言を貰うとは、ダンジョン恐るべし!
「ありとうございます。それで今日はこれからサウナ島ですか?」
「違うよー、皆を送ったらー、カナンに戻るよー」
「そうですか、今日夜にギルが何か催し物をやるので、よかったら来て下さいね」
「へえー、そうなんだー。行けたらー、行くねー」
「あと、紹介しますね、神剣のエクソダスです」
「おいら神剣のエクソダスです。エクスって呼んでください!」
「へえー、エクスって言うんだー。僕はー、レイモンドー、よろしくねー」
とテンポの合わないエクスは、何も出来ずにわなわなしていた。
こればっかりは慣れるしかないな。
結局エクスは、神様ズからなかなかの洗礼を受けたようだ。
頑張れエクス!
今後に期待だ!
何故か、ダンジョン物語を、ギルが再度サウナ島でお披露目することになっていた。
多分テリー達に聞かせたいのだろう。
それにギルの昨日の観衆への語りは、満足の行くものだったようだ。
実際に上手に話せていたと思う。
当のギルも満更ではないご様子。
というよりご機嫌ともいえる。
その所為か、今日のスーパー銭湯の客入りは、通常の倍以上になっていた。
昨日は機転?を効かせて、エンドレスお酌からは解放されたが、今日も今日で気が抜けないのが俺である。
そこでダンジョンで手にいれた薬の原料を持ち込んで、さっそく薬を作って貰おうと考えている。
スーパー銭湯のエルフの薬ブースで、見慣れたエルフの店員に声を掛けた。
「ちょっといいかい?」
「あ、どうも島野さん。ダンジョン踏破おめでとうございます。それで何か御用ですか?」
「ありがとう。実はな、ちょっと見て欲しい物があるんだ」
と俺は『収納』から薬の原料となる。熊の胆嚢、ジャイアントイーグルの爪、キラーアントの牙、ジャイアントカマキリの鎌、ジャイアントカモシカの角等を取り出していった。
「おお!どれも状態がいいですね」
オットセイは・・・止めておいた。
ちょっと恥ずかしいし・・・ね。
「これで薬が作れるんじゃないかな?」
「ええ、どれもいい素材です、是非買い取らせてください」
「実は熊の胆嚢だけ、優先的に薬を作ってくれないだろうか?もちろん熊の胆嚢の材料費はいらない」
「いいんですか?胃薬で良ければ直ぐに作れます。後で寄ってください。他の材料も査定しておきます」
「いやいいよ、薬の材料はエルフの村に寄贈させてもらうよ」
「ほんとですか?」
「ああ、その代わり、何かいい薬が出来たら、今後は優先的に回して欲しい」
「もちろんです」
俺はエルフの薬ブースを後にした。
次に向かったのは、赤レンガ工房だ。
武具の材料になる材料を親父さんにプレゼントする為だ。
中に入ると、親父さんとエクスが何やら話をしていた。
「おお、お前さん、丁度いいところに来たの」
「ん?どうしましたか?」
「いやな、エクスをお前さんに仕えさせるはよいが、何をやらせたらよいのか分からんくてのう」
エクスもまだ俺に遠慮があるのだろう、本当なら俺に相談に来る内容だ。
現にエクスは俺に対して、申し訳なさそうにしている。
「それなら俺に考えがありますから大丈夫です」
「マスター、本当か?」
エクスは分かりやすく目を輝かせている。
「ああ、お前にはドアボーイをやって貰おうと考えている」
「ドアボーイ?」
「そうだ、昨日入島受付には行ったよな?」
「行ったぜ」
「そこで働いて欲しいと思っている」
「そうか、お迎え問題だの」
と親父さんは理解したようだ。
「そうです」
実は、神様ズからサウナ島に向かう一団を送り込むこと自体は問題ないが、迎えに行くのが大変だと前々から言われていたのだ。
神様ごとに各自のルールを設けて、転移扉の運用を行っているが、中には急なトラブルなどで、そのルール内の運用が出来ず、四苦八苦していることもあったようなのだ。
例えば五郎さんの場合、最後の迎えの時間は二十二時としているが、その時間に温泉街であったトラブルで、迎えに来られなかったことが何度かあった。
俺かギルをランドが呼び出して対応したのだが、五郎さんはとても申し訳なさそうにしていた。
なので、エクスには十三時から二十二時までの勤務で、ドアボーイをして貰おうということなのだ。
「まずエクス、お前は島野商事の社員になってもらう」
「島野商事?」
「ああ、俺達の会社だ」
「会社?・・・」
「まあいい、細かい事はギルに聞いてくれ。それとこの島では働かない者は、飲み食い出来ないからな」
「え!そんな・・・」
「お前どう思ってたんだ?ただ飯が食えるとでも思ってたのか?」
「いや、マスターが普通に飲み食いさせてくれるもんだとばっかり・・・」
「あのな、俺はそんなに甘くはないぞ」
「でも昨日はそうしてくれたじゃないか、それにほとんどの奴らに奢ってただろ?」
「あれは宴会だから別物だ」
確かにやり過ぎたとは思うがな。
そう思われてもしょうがないのか?
「そうなのか・・・」
「ちゃんとお前には仕事があるし、それによってちゃんと給料を貰えるから、自分でやりくりするんだぞ」
「分かったぜ・・・」
「細かい事はこれから覚えつつ、ギルからも教わってくれ、後で俺と入島受付にいくぞ、責任者のランドに合わせるからな」
「おう!」
「よかったの、エクスや」
「おう!」
親父さんも胸を撫で降ろしているようだ。
「それはさておいて、親父さんにプレゼントがありますよ」
「なんだと!プレゼントだと?」
俺は『収納』から武具の素材となる、ワイルドタイガーの牙等を次々と取り出していった。
「おお!これはいいな。貰ってもよいのか?」
「どうぞ、遠慮なく」
「こ・・・これは・・・まさか・・・恐竜の牙か?」
数個ではあるが、せっかくなのであげることにした。
でも俺の鑑賞用と、スーパー銭湯に飾る分はあげないけどね。
まあ、エクスを造ってくれたお返し?かな?
「嬉しいな、これであれが造れる、いやこれにもいいのう」
等と親父さんはさっそく鍛冶師モードに突入していた。
俺はエクスを連れて、入島受付へと向かうことにした。
「エクス、これからお前はいろいろと学ぶことがある、まずは相手を立てて、謙虚にするんだぞ」
「なんだよマスター、あんたもカイン様と同じことを言うのかよ」
「カインさんまでそう言ったという事は、そうする必要があるんじゃないのか?二人から言われるとなると、本気で改める必要があるんじゃないのか?」
「う!・・・確かに・・・」
「特にこのサウナ島は特別だから、気を引きしめてかからないと大変なことになるぞ。何よりこの島には、神様達が集まってくるからな」
「嘘!」
「嘘じゃねえよ、これからお前は神様達の相手をするんだぞ。それも十人近くのな」
「・・・嘘だろ・・・」
エクスは頭を抱えていた。
「だから謙虚にしろと言ってるんだ」
「分かったよ、マスター・・・」
腹を決めたエクスと共に、入島受付へと入っていった。
俺はランドを呼びこんで。
「ランド、新入りだ。教育してくれ」
「新入りですか?」
「ああ、神剣のエクスだ」
というと、ランドが一瞬体を硬直させた。
「神剣って・・・」
「よう!おいらはエクス。よろくしくな!獣人!」
とエクスが偉そうに挨拶をした。
俺は問答無用でエクスに肘鉄をかました。
「ウグ!」
と蠢くエクス。
こいつは何も分かっちゃいないようだ。
「マスター!何するんだよ!」
「エクス、お前、俺の話を聞いて無かったのか?」
「・・・」
「謙虚にしろといったよな・・・」
俺の怒気にたじろぐエクス。
「・・・ごめんなさい・・・」
これはまずはちゃんと言って聞かせなきゃ駄目だな。
「エクス、一つ言っておく。このサウナ島では絶対的に守らなければならないルールがある」
「・・・」
「それは、この島では立場や身分は一切関係なく、皆平等というルールがある」
「・・・だったら前持って教えてくれよな、マスター・・・」
「だから教えただろうが、謙虚にしろと、それを理解できないぐらい、お前は人を舐めているってことだ。分かるか?」
「うう・・・」
これで気づいてくれるだろうか?
こいつの上から目線は本物だからな、ここは鼻っ柱をへし折るしかない。
「俺も注意した、カインさんも注意した。なのにお前は始めて会う、先輩のランドに偉そうにしやがった。なんだお前、神だからって偉いと思ってるのか?どうなんだ?」
「・・・」
エクスは縮こまっていた。
「おまえはどこか人を舐めてるところがある、これは俺にとっては、看過することは出来ない、何故だか分かるか?」
「・・・分からない・・・」
「そうか・・・であれば、学ぶことだな」
「そんな・・・」
「今日明日とお前は様々な神様に出会うことになる、その中から大いに学ぶことだ」
「・・・分かった・・・頑張ってみる」
「お前には期待している、お前はそんなもんじゃないと、俺は分かっているぞ!」
あえて出鼻をくじいてやったが、エクスがやる気になったのを俺は感じた。
神様初心者を導くことすら俺の仕事になるとは・・・
やれやれである。
多少昭和感があるのは勘弁して欲しい。
精神年齢定年なもんでね。
後は出来たら褒めてやらないとな。
「さあ、もう一度ちゃんとランドに挨拶をするんだ」
「分かった、ランド。さっきはすまない。おいらはエクソダス。エクスと呼んで欲しい」
「おうエクス、よろしくな!」
とランドが右手を差し出す。
エクスが笑顔で握り返す。
「ちゃんと出来るじゃないかエクス!」
「へへ!」
やってみせ、言って聞かせてやらせてみて、出来たら褒めてあげなければ、人は動かない。
とある偉人の名言だな。
これで少しは、エクスの上から目線が治るといいのだが、後は神様ズと接する姿勢をみれば、分かってくれるはずだ。
それにしても、エクスが勘違いしてしまうのも、分からなくはない。
エクスは親父さんの手から生れて、世間を知ることなく、カインさんに預けられてしまった。
カインさんもダンジョンから離れられない生活を続けていたから、まともにエクスを教育していられなかったんだろう。
エクスは自分で実績を造って、神に成った訳ではない。
そしてギルの様に家族に囲まれて、育ってきた訳でも無い。
神が人よりも偉いものだと、勘違いしてしまうのも分からなくはない。
どうやら俺はこいつの新たな保護者になってしまったようだし、ここからはちゃんと教育していかないといけないな。
まあこのサウナ島で暮らす限り、良き神様性?を学べることだろう。
周りは立派な先生だらけだしね。
入島受付で神様ズを待っていると、さっそくゴンズ様がやってきた。
この時間に来たということは、早朝の漁を終えてきたということだな。
「おう!島野!聞いたぞお前、やったらしいな!」
既にゴルゴラドにまで話は周っているようだ。
「ありがとうございます」
「お前なら楽勝だっただろ?」
「いえいえ、そんなことは有りませんでしたよ。そんなことよりも、新人を紹介させてください」
「新人?」
俺はエクスの背中を押す。
「お、おいらは神剣のエクソダス、エクスと呼んでください」
ゴンズ様は興味深げにエクスを眺めている。
「ほお、神剣かー、噂には聞いていたが実在したんだな」
「・・・」
エクスは明らかにビビッている。
ゴンズ様の迫力に押されているようだ。
「で、新人ってことは、こいつは島野のところで働くってことか?」
「はい、それで今後なんですが、お迎えを週に五日はしなくてもいいようにしようかと、ここでドアボーイを任せることにしました」
「お!そうか!それは助かるな。エクス!よろしくな!」
とゴンズ様はぐいっとエクスに近寄った。
「は、はい!頑張ります!」
とたじたじのエクス。
始めにこの人は強烈過ぎたみたいだ。
エクスは完全に腰が引けている。
「ゴンズ様、ちょっとやり過ぎです」
「ガハハハ!そうか、悪いな。気合入れてやろうと思ってよ」
逆にビビッてますがな。
「ハハハ・・・」
と愛想笑いをするエクス。
「詳細は後日お話します。あとギルが今日何かやるみたいなんで、よかったら見ていってやってくださいね」
「そうか、分かった、よし、お前ら行くぞ!」
「「うぃっす!」」
と部下を引き連れてゴンズ様は、サウナ島に入っていった。
未だ顔が引き攣っているエクス。
これはこの先が楽しみだな。
逆に出鼻がゴンズ様でよかったのかも?
次に訪れたのはドラン様だった。
この時間ということは、今日は牛乳ブースの準備の日のようだ。
「ドラン様、おはようございます」
「島野君おはよう!ガハハハ!」
「さっそくですが、紹介させてください。新人です」
まだ少し困惑気味のエクスが、
「おいらは神剣のエクソダス、エクスと呼んでください」
「・・・神剣?」
ドラン様は神剣を知らないようだ。
「実はダンジョンを踏破したら、俺に仕えることになりまして」
「へえー、それはそれは・・・ん?そうか!島野君おめでとう!ガハハハ!」
と背中をバシバシと叩かれた。
ハハハ・・・カールおじさん・・・思いの外痛いですよ・・・
「それで、詳細は後日話しますが、エクスは週五でドアボーイをしますので、迎えは不要になります」
「そうなのか、それはありがたいね。ガハハハ!」
後ろから恐る恐るアグネスが顔を出した。
「よう!アグネス」
「守・・・あんた今度は神様たらしなの?」
何でたらしなんだよ?
「知るか!アグネスは置いておいて、今日ギルが何かやるみたいなんで、よかったら見ていってやってください」
アグネスが睨んできたが無視することにした。
相変わらずうざい。
「そうか、それは楽しみだ!ではエクス君、よろしく!ガハハハ!」
と大笑いキャラ全開のドラン様だった。
入島を見送った後、ぼそりとエクスが呟いた。
「マスター・・・神様って強烈なんだな・・・」
「エクス、これで驚いていたら身が持たんぞ」
「う!・・・マジか・・・」
まあ、そうなるよな。
次に訪れたのはアンジェリっちだった。
アンジェリっちは営業日は、決まってこの時間だ。
ただサウナ島に泊まってない時に限るけどね。
「守っち、おはよう!」
俺は島野っちから、守っちに知らぬ間に昇格していた。
昇格であってる?
「アンジェリっち、おはよう」
「この時間に受付にいるなんて珍しいじゃん、どうしたの?」
「それは新人を紹介する為だよ、エクス挨拶しなさい」
エクスはボケっとアンジェリっちを眺めていた。
心ここに有らずだ。
「おい!エクス!」
「ああ・・・お、お、おいらはエクスです。よ、よろしくお願いします」
ん?こいつどうしたんだ?
なんだか余所余所しいぞ。
「へえー、エクスっていうんだ。私はアンジェリよ、よろしくね。ねえ守っち、ギル君に似てないこの子?」
「そうなるよね、まあ詳しくは今度話すよ、エクスには今後転移扉のドアボーイを任せるから、お迎え問題は解消できそうだよ」
「ほんと?ムッチャ嬉しい!エクスやるじゃん!」
思いの外照れているエクス。
こいつ・・・もしかして・・・
「あ!そうそう、守っちさあ、今度手が空いた時でいいから美容室に寄ってくんない?」
「いいけど、どうした?」
「その時でいいわよ」
「分かった、あと今日ギルが何かやるみたいだから、時間が合ったら見にいってやってくれないかな?」
「いいよ、じゃあまたね」
と手を振りながら、アンジェリっちはサウナ島に入っていった。
今日も美容室の予約で手一杯なんだろうと思う、もはや美容室アンジェリは、予約の取れないお店として有名だからね。
隣を見ると、エクスが夢見心地の表情を浮かべていた。
やれやれだ。
その後直ぐ現れたのは、オズとガードナーだった。
この時間から現れるとは珍しい。
俺を見つけると二人は、
「「島野さん!おめでとうございます!」」
と駆け寄ってきた。
「おお、ありがとな、やっぱり聞いてたか」
「聞かない訳ないでしょ?遂にやりましたね、島野さんなら絶対やってくれると思ってましたよ!で、お祝いはどうするんですか?絶対駆けつけますから教えてくださいよ!絶対ですよ!」
と二人の圧が凄い!
こいつらはほんとに・・・
さては祝いの席に出席したいからこの時間に来たな?
タダ飯狙いかよ。
「オズ、ガードナー、新人を紹介させてくれ。神剣のエクソダスだ」
エクスが前に出る。
「おいらは神剣のエクソダス、エクスって呼んで欲しい。よろしくお願いします」
とエクスがちゃんとお辞儀をしていた。
良いじゃないか、エクスも分かってきたかな?
「島野さん、新人って・・・それも神剣って・・・」
とわなわなとし出した二人。
「おお!実在したのか!」
「凄い!流石は島野さん!」
と騒ぎだした。
「おいおい!騒ぎ過ぎだって!」
「いやいや、これが興奮せずにいられますか?」
おい!オズ!お前こんなキャラじゃなかったよな?
「いいから落ち着け、それにエクスが名乗ったのに、大人のお前らが何をやってるんだ。挨拶ぐらい返してやれよ」
しまったという顔をした二人は、背筋を正した。
「すまなかったエクス君、私は法律の神のオズワルドだ、よろしく頼む」
とオズは軽く会釈をした。
「私もすまなかったね、私は警護の神のガードナーだ、今後ともよろしく」
とガードナーも会釈をする。
「はい・・・」
と二人の急な変わり身に、エクスは面食らっていた。
「今日は部下は連れて来なかったのか?」
この二人は最近では、部下を連れてくるようになったのだ。
ガードナーはまだしも、オズが部下を労う為だと、連れて来た時には俺も嬉しかった。
徐々にではあるが、オズの周りの反応も変わりつつあるのが分かる。
「今日は連れて来てないです」
「そうか、まあゆっくりしていってくれ。あと今後は迎えの必要は週五で要らなくなるからな。詳細はまた後日だ」
「それはどういうことで?」
「エクスがドアボーイをすることになったんだ」
「なるほど、それは助かりますね。私達もエンゾまでとはいきませんが、今後はタイロンの国民を連れて来れる様にしようと、話してた所だったんですよ」
この二人の目利きならまず間違いないだろう。
こういってはなんだが、エンゾさんよりも目利きは上だろう。
「そうか、あと今日ギルが何かやるみたいだから、時間があったら見てやってくれ」
「分かりました、ゴンは今日は何処ですか?」
「今日も事務所じゃないか?顔出してくのか?」
「はい、前に相談があると言われてまして」
ゴンがオズに相談?
俺じゃなくて?
まあいいか。
「そうか、まあよろしくな」
興奮冷めやらぬ感じで、二人はサウナ島に入っていった。
次に現れたのは、マリアさんだった。
マリアさんはこちらを見つけると、一目散に駆けてきた。
エクスの目前でビタリと止まり、いろいろな角度からエクスを、舐め回すように見つめている。
エクスは恐怖で身体が動かないみたいだ。
緊張で脂汗を掻いているのが分かる。
「守ちゃん!ちょっとこの子!エクセレンとよ!」
といつものノリを始め出した。
やれやれ、毎度毎度この人は・・・それにエクスもビビり過ぎだ。
いや、マリアさん相手じゃしょうがないか。
「マリアさん、紹介しますね。新人の神剣エクソダスです」
「お、お、お、おいら、エ、エ、エクソダス。よ、よろしくお願いします」
エクスはマリアさんの顔を直視すること無く、挨拶をしていた。
本当は行儀悪いのだが、こればっかりはしょうがない。
初マリアで直視はハードルが高いだろう。
「あらま、エクスちゃんね。よろしこ!」
とマリアさんは、体をくねくねとしている。
「・・・はい・・・」
エクスはなんとか踏ん張って返事をしている。
返事としては心許ないのだが、しょうがないか。
「マリアさん、今後エクスは週五でドアボーイをしますので、お迎え問題は解消できそうです」
「ほんと、嬉しいじゃない!」
と更にエクスに詰め寄っている。
もう止めてあげてくれ!今にもエクスの目ん玉が白眼になりそうだ。
「あと、ギルが今日なにかやるみたいなんで、時間があったら是非見に行ってやってください」
「ギルちゃんが?何をやるっての?」
やっとこっちを見てくれたか、これでエクスが少しは回復するだろう。
「それは見てのお楽しみです、マリアさんは好きなジャンルだと思いますよ?」
「あらま!それは芸術寄りってことね。ムフ!」
「そうですね、あいつにあんな才能があったなんて驚きですよ」
「へえー、守ちゃんがそんなに褒めるなんて、ギルちゃんやるじゃない、お姉さん期待しちゃうわ!」
と目をハートマークにしていた。
その後、もう一度エクスを舐める様に見た後に、マリアさんはメッサーラに帰っていった。
エクスは放心状態から回復するまでに、それなりの時間を有することになった。
頑張れエクス!
次に現れたのは五郎さんだ。
「おう、島野!おはようさん!で、おめでとさん!」
「五郎さん、おはようございます。ありがとうございます」
「なんでえ、お前えがここにいるなんて珍しいじゃねえか、どうした?」
「新人を紹介させてください」
俺はエクスの背中を押す。
「おいらは神剣のエクソダスです、エクスと呼んでください。よろしくお願いします」
エクスは挨拶が大分板に付いてきたな。
「ほう、お前えがエクスか、ゴンガスの親父から聞いてるぜ。よろしくな」
と五郎さんが右手を差し出す。
親父さんから聞いてたんだ・・・この人の情報収集力には舌を巻くな。
「はい!」
と差し出された右手を握り返すエクス。
五郎さんがゴンガスの親父さんから、前もって聞かされてたことが嬉しかったんだろう。
エクスは今日一の笑顔だ。
「それで何でえ、こいつも島野のところで働くってか、お前えのとこばっかり人が集まりやがるな、儂のところにもちっとは回せ」
「ハハハ、家の新戦力を渡す訳にはいきませんよ」
「ちぇ!連れねえな」
「まあ、それはさておき、今日はギルが何かやるらしいので、見に来てやってくださいね。五郎さんが見に来てくれたらギルは喜びますので」
「何?ギル坊がか・・・何時からだ?」
「確か二十時だったと思います」
「そうか、その時間なら何とかならあ、じゃあ済まねえが儂は戻らさせて貰うからな。またなエクス!」
「はい!」
と五郎さんは帰っていった。
その後五郎さんと入れ違う様にやって来たのは、オリビアさんだった。
「守さん、おはよ」
と未だ眠そうに目を擦っている。
「オリビアさんおはようございます。昨日はメルラドで泊まったんですね」
「だって、昨日は守さん居なかったじゃない。私が居なくて寂しかった?」
「昨日の夜はそれどころじゃありませんでしたよ・・・」
ほんとに大変だった。
「もう、そうじゃなくて・・・」
ん?何だ?
「そうそう、紹介させてください、新人のエクスです」
エクスはガチガチに緊張していた。
何でだ?緊張する相手なのか?
「は、は、は、始めまして、神剣のエクソダスです!エクスって呼んでください!」
と直立不動の姿勢で自己紹介していた。
「へえー、ねえ守さん、この子ギル君に似ていない?」
「そうですね、ギルが装備者なのでそうなのかもしれないですね」
「へえー」
とオリビアさんが近い距離でエクスを眺めている。
顔を赤らめたエクスが更に姿勢を正している。
かあー、エクス君、照れてますねー。
「あ、そうそう今日ギルが何かやるみたいなんで、良かったら見ていってやってくださいね」
「ギル君が?」
「はい、たぶんオリビアさんは好きなジャンルだと思いますよ?」
「わたしが好きって音楽ってこと?」
「直接的ではないですが、オリビアさん好みだと思いますよ」
「そうなんだ、なんだか楽しみね。見に行くわ。じゃあ今日はお店の手伝いだから行くね守さん、またねー」
とオリビアさんはサウナ島に入っていった。
隣を見ると、エクスが未だに顔を赤らめていた。
このお色気小僧め!
次にランドールさんが、やってきた。
今日は珍しく早い時間だ。
「やあ島野さん、おはよう。ダンジョン踏破おめでとう!」
「ランドールさん、おはようございます。ありがとうございます。今日は早いですね」
「今日は、何人か移動で使わせてもらうからね。その後直ぐにメッサーラだよ」
「もう二校目ですか?」
「打ち合わせだけどね」
「なるほど、じゃあ夕方からはまた来られるんですか?」
「そのつもりだよ」
「今日は夜にギルが何か催し物をやるみたいなんで、よかったら、見に来てやってください」
「ギル君が?へえー、催し物だなんて意外だね」
ランドールさんにとっては意外なようだ。
まあ気持ちは分かる、俺も最初は意外と感じた。
でも昨日の様子を見る限り、そうでもないと思えたけどね。
「あと、新人を紹介しますね。神剣のエクスダスです」
「おいらは神剣のエクソダス、エクスと呼んでください」
とエクスは大きく腰を折っている。
「エクス君だね、よろしく」
とランドールさんは右手を差し出す。
その差し出された右手を、嬉しそうに握り返すエクス。
「神剣か、噂で聞いているよ。やはりゴンガス様は凄いな。私にはまだそこまで辿り着かないよ、まだ加工も出来ないしね。後ちょっとから、なかなか進まないんだよな」
「ランドールさんなら絶対に出来る様になると、俺は思うんですけどね」
「ありがとう島野さん。じゃあ早速で悪いが行かせて貰うよ」
「じゃあ、また」
とランドールさんは、メッサーラに向かっていった。
見送るとエクスが、
「マスター、ランドール様はかっこいいな」
と尊敬の眼差しを向けていた。
エロ神であることを話そうかどうか悩んだが、止めておいた。
青年の心を折るにはまだ早いだろう。
そうこうしていると、今度はエンゾさんがやってきた。
「あら島野君、おはよう。そしておめでとう」
「エンゾさん、おはようございます。そしてありがとうございます」
「今日はどうしたのよ?」
「新人を紹介しようと思いまして、神剣エクソダスです」
これまたエクスが真っ赤な顔をして、もぞもぞとしている。
こいつはどんだけ女神に弱いんだ?
「お、お、おいらは神剣、エ、エクソダス、エクスって呼んで・・・」
エンゾさんが揶揄うかの様に、エクスの顔を覗き込んだ。
やっぱりこの女神は意地が悪いな。
「へえー、エクスね。よろしく」
「は、はいー!」
と今にも卒倒しそうなエクス。
「エンゾさん、揶揄わないでやってくださいよ」
「そう?そんなことないわよ」
「ふう、それで、今からサウナ島ですか?」
「いや、今日は一度帰って夕方からまた来るわ。ちょっと仕事を残してるから」
「そうですか、夜にギルが催し物を行うので、よかったら来てやってください」
「そう、いいわよ。じゃあまたね島野君、エクス」
と颯爽とタイロンに帰っていった。
最後に現れたのは、デカいプーさんだった。
「やあ、君ー、おはようー」
「おはようございます」
相変わらずのペースで話す、レイモンド様だ。
「そういえばー、おめでとうー」
おお!レイモンド様からこの一言を貰うとは、ダンジョン恐るべし!
「ありとうございます。それで今日はこれからサウナ島ですか?」
「違うよー、皆を送ったらー、カナンに戻るよー」
「そうですか、今日夜にギルが何か催し物をやるので、よかったら来て下さいね」
「へえー、そうなんだー。行けたらー、行くねー」
「あと、紹介しますね、神剣のエクソダスです」
「おいら神剣のエクソダスです。エクスって呼んでください!」
「へえー、エクスって言うんだー。僕はー、レイモンドー、よろしくねー」
とテンポの合わないエクスは、何も出来ずにわなわなしていた。
こればっかりは慣れるしかないな。
結局エクスは、神様ズからなかなかの洗礼を受けたようだ。
頑張れエクス!
今後に期待だ!