リッチスケルトンの残念なインパクトに、今さらながらに首を傾げたくなるのを我慢して。
俺達は十九階層に繋がる階段を降りていった。

「パパ、さっきのスケルトンは何だったんだろうね?」

「何だったんだろうな、神気銃であっさりだったな。ちょっとだけ死霊魔法を見てみたかったけど、呪われるとかあり得んからな」

「だね、十八階層はハズレだね」

「そうだな」

「そうだギル、神力は足りてるか?」

「ちょっと使い過ぎたかな」

「そうか、分けてやるよ」
と俺はギルの肩を掴んで、神力贈呈を行った。

「もう大丈夫、満タンだよ!」

「そうか」

そうこうしていると、十九階層に辿り着いた。
十九階層は、草原ステージだった。
ここでの魔物はこれまでの草原ステージでの魔物が、全て魔獣化していた。
魔物達は無茶苦茶好戦的だ。
とにかく出会う魔物全てが、引っ切り無しに俺達に向かってくる。
かなり荒い。

休む暇がないほど、魔物が押し寄せてくる。
その数も多い。
捌くのにも大忙しだ。
まるで魔物のスタンピートだ。

それでも歩を進めて行く俺達、徐々に前が開けてくる。
そしてそこには十八階層と同じ、神殿のような建造物が鎮座していた。
一先ず、皆なの意見を聞くことにした。
というのも、ここの階層のありがたかったことは、全ての魔物のドロップ品が魔石だったことだった。
魔石はとても利用価値がある。
大いに結構だ。
もう一周してもいいぐらいだ。

現に、
「主、ここは歯ごたえが有ります!」

「ここ良いよ、パパ!」

「いいですの!」

「もう一周やろうよ、主!」
と皆な楽しかったようだ。

「そうか、じゃもう一周行こうか?」
と俺も気を良くしてしまった。
瞬間移動を繰り返して、入口からもう一度踏破することになってしまった。
気が付くと魔石は三百個以上になっていた。
大漁大漁!

ここでも神殿でボスが待っていた。
魔獣化した、ワイルドタイガーが十頭だった。
その内の一頭は明らかに様相が違った。
外のワイルドタイガーよりも一回り大きい。
鑑定してみるとこんな感じだった。

『鑑定』 キングワイルドタイガー(魔) とても狂暴で、好戦的な魔獣、ダンジョンでしか拝めない

ということらしい・・・
ダンジョンでしか拝めないって・・・
だが、テンションの挙がった島野一家には、へでも無かった。
其々が好き放題魔法をぶっ放し、あっと言う間に殲滅していた。

見せ場が無くて申し訳ない・・・
過剰戦力を持つとこんなもんなんだろうね・・・
ごめんなさい。
我らはとても強いのです。
ハハハ・・・



俺達は遂に最終階層を迎えることになっていた。
いよいよ降り立った最終階層。
そこは開けたジャングルだった。
そして俺達はあり得ない光景を見ていた。
とても心が高鳴る。

「きょ、恐竜!」

「嘘でしょ!」
ギルとゴンが思わず声に出していた。

その気持ちはよく分かる。
現にプテラノドンと思わしき恐竜が、大空を舞っている。
それに、そこかしこから恐竜の気配を感じる。
また遠くには、ブラキオサウルスが悠然と闊歩していた。
デカい、あまりにデカい。
全長二十五メートルはありそうだ。

そして思ってしまった。
カッコいい!
男心を擽る!
俺は少年の頃、恐竜の図鑑を飽きることなく、何時間も眺めていたことを思い出した。
なんで恐竜は、こんなにも心惹かれる存在なんだろう。
出来ることならペットとして飼ってみたい。
ヴェロキラプトルぐらいなら、飼えると思うのだが・・・肉食獣だから無理か?

なんてことを考えていると、アロサウルスの集団がこちらに向かってきた。
デカい上に速い。
おお!良いじゃないか!
掛かってこいよ!恐竜!
男のロマンを一旦脇に追いやり、俺達は戦闘に意識をスイッチした。

獣化したギルがさっそくブレスをぶちかましたが、怯むこと無く、数匹のアロサウルスが突っ込んでくる。
俺は瞬間移動で、先頭を走る一匹の首の後ろに移動し、首にミスリルのナイフを突きつけた。

「ギュエエエ!!」
と蠢くアロサウルス。
だがまだ浅い、もっとナイフを突き立てないといけない。
俺は更にナイフを首に突き立てる。
それにしても堅い。
いつもの様にスパッといかない。
流石は恐竜だ!
こうでなくては!

するとアロサウルスは体を捻って俺を落とそうとして来た。
まるでロデオの様に俺はアロサウルスに跨り、振り落とされない様に、股に力を込めた。
そして更にナイフを突き立てる。
ナイフが深く入り込むと共に、首から鮮血が飛び散る。
ほどなくして、アロサウルスは力付きていた。

一方、ギルは向かって来た一匹に、尻尾でビンタを加えていた。
更に追撃でショートレンジから、顔面に火魔法をぶつけた。

「ギョウエエエ!」
と叫ぶアロサウルスに、更にもう一発最大火力の火魔法をぶっぱなす。
シュルシュルとアロサウルスが消えて行く。

そして、もう一匹のアロサウルスには、ゴンがお得意の土魔法の塊を口の中にぶち込んでいた。
土塊がいつもよりのデカい上に、高速回転をしており、ヒュンヒュンという音がしている。
土塊が空けている口から頭を貫いて、アロサウルスが消えていく。

後方にいる複数のアロサウルスに対して、ノンが最大級の雷撃を放っている。
直撃に耐えているアロサウルスに、更にエルが最大級の風の刃を放つ。
胴体を刻まれたアロサウルスはゆっくりと消えていった。

ふう!
なんとかアロサウルスの一団を撃破したようだ。
ここの階層では、力加減は必要なさそうだった。
ノン達の魔法も、最大威力の物になっている。
十メートルもあるアロサウルスには、手加減は出来ないとも言える。
これまでとはレベルがダンチだ。

因みにドロップ品は牙だった。

『鑑定』 アロサウルスの牙 武器の材料になる

武器にするものいいが、俺としてはコレクションとして持っていたいな。
恐竜の牙なんてロマン中のロマンだろう。
棚を作って、部屋に飾っておきたい。
是非とも自慢してみたい一品だ。

当然全部を回収した。
やったね!
まさか自分の家に恐竜の牙を飾れるとは。

それにしてもアロサウルスは堅かった。
ミスリスのナイフで、これまでのようにスパッと切れなかった。
ここまで堅い魔物には、これまで遭遇したことは無かった。
皆も今の攻防では、それなりに魔力を使ってしまったようだ。
一度立て直した方がいいだろう。
俺は結界を張り『収納』から体力回復薬と、魔力回復薬を取り出し皆に配った。

「流石は最終階層ということだな、いきなりアロサウルスの一団が向かってくるとは思わなかったぞ」

「主、こいつら堅かったよ!」

「そうですの、風の刃も最大級でないと効かなかったですの!」

「私も辺り処が良かっただけのようです」

「ここからは、体力と魔力の温存は一切出来ないと考えたほうがいいな」

「そのようです」

「ギル、お前よりデカい奴なんてビックリだろ?」

「うん、興奮するよ!」
とギルは楽しんでいる様子。

「ハハハ、そうか。体力と魔力の回復が終わったら、先を進もう」

「「はい!」」
ひと休憩終えて、先に進んでいくことにした。



困ったことに、草食の恐竜達も襲い掛かってきた。
まさかトリケラトプスやステゴザウルフに、襲われるとは思ってもみなかった。
やはりそこは魔物ということなんだろう。

トリケラトプス突進はなかなかの衝撃だった。
一匹で猛然と突っ込んできたので、皆で人化して角を掴んで力比べをしてみたが、適わなかった。
俺を含めて皆、吹っ飛ばされていた。
これはこれで楽しい!

その後オリハルコンのナイフに持ち替えて、トリケラトプスをあっさりとやっつけてしまったのだが、これもご愛好ということで・・・
ここでも牙がドロップされた為、漏れなく回収していく。

そして、待ちに待った空中戦。
プテラノドンは、意外とあっさりしたものだった。
翼を破壊すると、こいつらは全く相手にならない。
簡単に狩ることが出来た。

でも楽しかったのは、ケツァルコアトリスだった。
全長十メートル近い恐竜で、尖った嘴で抉ろうと狙ってくる。
それに大きな体からは、考えられないほど動きが速い。
だが行動予測を駆使した俺にとっては、何てことない動きだ。
サクサクと首を撥ねていった。

それにしてもオリハルコンのナイフの切れ味は半端ない。
どんな恐竜の皮も、紙を切る様にスパスパと切れていく。
このナイフに切れない物は無いのではないか?と思えてしまう。
多分石や岩でも簡単に切れるだろう。
正に伝説の一品だ。



そして嬉しいことに、ちゃんと海を越えないといけない場所があった。
海?湖?どっちでもいいのだが、飛んで超えて行こうとしたのだが、何度か海中からの襲撃を受けた。

リオプレウロドンが海中から、俺達に向かって飛び跳ねてきたのには感動すら覚えた。
水中に入っての戦闘も考えたが、止めておいた。
水中での戦闘は全員不向きと思われる。

タゴサウルスも見かけたが、襲ってくることは無かった。
水中の恐竜を見られただけでも感動だ。
終始感動し、皆で声を上げていた。

先を進むと陸に辿りついた。
少し名残惜しい気持ちがあるが、そうとも言ってはいられない。
今度はタルボサウルスが襲い掛かってきた。
これまたデカい。
全長十二メートルはありそうだ。

「グワオオオオオー!!」
と叫んでいる。
大きな口を開けて、咥えようと向かってくる。
瞬間移動で首の下に入り込んで、一気にオリハルコンのナイフで首を撥ねる。
「ギュオオ!!」
とタルボサウルスが悲鳴を挙げた。

そこにギルがブレスをぶつける。
嫌がるタルボサウルスに、ノンが雷撃を追加した。
雷を纏いながら、タルボサウルスが消えていった。

ドロップ品はこちらも牙だった。
勿論回収する。
さて、楽しい狩りもそろそろ終わりを迎えそうだ。
俺達は神殿に辿り着いていた。

「ひとまず、立て直そう」
俺は神殿の階段で立ち止まり、結界を張った。
体力回復薬と魔力回復薬を配っていく。

「さあ、いよいよ最後のボス戦だな」

「だね、最後のボスはどんな奴だろうね?」
多分・・・言わないでおこう。
俺の予想は・・・

「何だろうな?」

「パパ、恐竜ってカッコいいよね!」

「そうだな」
異世界でも恐竜のかっこよさは、共通のようだ。

「次で最後だから全力で暴れていいからな!」

「「はい!」」

「でも、その前に腹ごしらえだな」

「やったね、なになに?」
俺は『収納』から昼飯を取り出した。

「今日の昼飯は、ゲン担ぎでかつ丼だ!」

「やった!」

「イエーイ!」

「よっしゃ!」
と皆な妙にハイテンションになっている。
恐竜に当てられたか?
ウン!いい味だ。
メルルはまた腕を上げたようだ。
カツの柔らかさが絶妙だ。
これは蕎麦屋のかつ丼だな。
甘さ控えめだ。
間違いなく俺の好みだ。

皆なお替りをしていた。
ギルに至ってはかつ丼を七杯も平らげていた。
流石は島野一家が誇るフードファイターだ。
気持ちいいぐらい、ガツガツ食べていた。

俺達は食後のお茶で一服タイム。
結界の外では、アロサウルスが突進してきたが、結界に弾かれて倒れ込んでいた。
何が起こったかという顔をしているアロサウルスが、とても笑えた。
その後何度か突進していたが、最後には諦めてどっかに行ってしまった。



休憩を終えて、神殿の中に入っていく。
すると直ぐに扉の前に出た。
この扉を開けたらボスバトルが始まる。
ダンジョン最後の戦いだ。
俺は気を引き締めると共に、身体強化と行動予測を発動させる。
横を見て全員の表情を確かめる。
よし、いい具合に気合が入っているな。

「行くぞ!」

「「おう!」」

「了解!」

「ですの!」

「OK!」
俺は扉を開けた。

直ぐに緊張感が高まってくるのが分かる。
俺達は一歩中に踏み込んだ。
すると、壁に設置されている照明が一斉に明るくなる。
その明かりに照らされて、ラスボスが姿を現した。

やっぱりか!
待ってたぜ!
俺はその姿に感動を覚えた。
興奮が止まらない!
恐竜と言えばこいつだろう!

俺達の目の前に三頭のTレックスが荒い息と、威喝を籠めた視線を送ってくる。
その視線に全身の肌がヒリヒリするのが分かる。
そして全身の毛が逆立つかのようだ。

これまでの恐竜達も強烈だったが、それとは比べ物にならない存在感と圧倒的な力を感じる。
それはそうだろう、よく見ると黒い瘴気を纏っており、目が真っ赤になっている。
Tレックスが魔獣化していたのである。

カインさん・・・やってくれる!
これは全力でいかないと流石の俺達でも、殺られかねない。
一切気を抜けない。

この局面で『睡眠』の能力を使う気にはなれない。
そうすれば楽勝なのは分かっているが、それをやってはこいつらに、何を言われるのか分かったもんじゃない。
数年は文句を言われそうだ。

それに俺としても全力バトルを楽しんでみたい。
魔獣化したTレックスなら相手として不足はないだろう。
やっと本気を出せるということだ。

「グアアアアア!!」
とTレックスは威嚇を始めた。

それに共鳴する様に、ノンが叫び出した。
「ワオオオオオオーーーーー!!」
ノンを見ると獰猛な眼つきでTレックスを睨んでいる。
威嚇合戦が始まったようだ。
それにつられてギルも叫び出した。

「ギャオオオーーー!!」
こちらも獰猛な眼つきで睨んでおり、口元には威圧的な笑みが浮かんでいる。
強敵に出合えて、喜んでいるのが分かる。
こいつらもやっと全力で挑める相手に出会えたということなんだろう。
身体から野生が溢れているのが分かる。

ゴンもエルも同様だった。
ゴンに至っては実際に全身の毛が逆立っていた。
本性を剥き出しだ。
エルはやはり変な子モードに入っていて。
「殺すぞおら!掛かってこいや!恐竜は偉いのか?ああ!」
と叫んでいた。

エルだけ何か違う気がするのだが・・・
まあいいでしょう。



「行くぞ!」
と俺は叫ぶと、瞬間移動で一気に真ん中のTレックスへの距離詰めて、オリハルコンのナイフで首に一撃を加えた。

「グアアアア!!」
と叫ぶTレックス。

オリハルコンのナイフはやはり切れ味が違う。
だが一撃で仕留めるとはいかない、まだまだ浅い。

そして俺は驚愕していた。
僅かながらではあったが、魔獣化したTレックスは、俺の瞬間移動に反応したのだった。
野生の勘なのか?
凄い!あり得ないぞ!

俺は興奮していた。
最強の恐竜に俺は挑んでいる。
それも魔獣化している状態だ、力も俊敏性も反応速度も格段に上がった状態だ。
胸が高まる。

俺は矢継ぎ早に瞬間移動を繰り返し、オリハルコンのナイフでTレックスを切り刻む。
狙いは全身だ。
とにかく予測できない箇所に一撃を与える。
首ばかりを狙っていると、こいつには通用しない気がする。
時折あり得ないタイミングで反撃が行われる。

反撃を受けるなんて始めてだ。
何だか楽しい!
間違いなくアドレナリンが出ているのだろう。
俺らしからぬ好戦的な気分だ。

俺はナイフだけに頼ること無く、自然操作の雷を交えた攻撃にでた。
雷にはTレックスの反応を鈍くする効果があり、一瞬動きを止めるのだ。
その隙を見計らってオリハルコンのナイフを突きつける。
これを何度も繰り返した。

そして、一度距離を取ってTレックスを眺めてみる。
満身創痍のTレックスがこちらを睨んでいる。
その顔は掛かって来いというかの如く、こちらを凝視している。
俺はそれに答えなければならない。
王者に対して、遠慮はいらない。
一気に決めてやろう。

「行くぞ!」
と俺が叫ぶと。

「グアアアア!!」
と答えるかの如く咆哮を挙げるTレックス。
まるで受けて立つと言っているかのようだ。

俺は瞬間移動すると見せかけて、一気にTレックスとの最短距離を詰める。
それに戸惑ったTレックスが、俺を咥えようと顔を前に突き出してきた。
それを潜る様にして、俺は一気にオリハルコンのナイフで、顎から腹までを一気に掻っ捌いた。
ブショー!!
と勢いよく鮮血が飛び出す。

「グ、グガ・・・!」
と生命の灯を一気に失ったTレックスが、ゆっくりと消えていった。
その様を俺は少し寂し気に眺めていた。
ありがとうTレックス・・・
なんとも言えない感傷に浸ってしまった。
終わっちゃったな・・・

左右を見ると構図がはっきりとしていた。
ゴンとノンが共同戦線を張っており。
同じくギルとエルが安定のコンビを組んでいた。

だが、なかなか膠着している模様。
こいつらのいつもの勢いを感じない。
それだけ魔獣化したTレックスが強敵ということだ。
今にも弾けそうな緊張感が漂っている。

俺は距離を取って静観することにした。
勿論気は抜かない。
加勢しようかとも思ったが、止めておいた。
充実した表情をするこいつらに、手出しは無用ということだ。
ここで水を差す訳にはいかない。
俺はこいつらの勝利を信じるのみだ。

どうやら極大の雷魔法をエルが狙っている様子。
それをギルが注意を引いて、サポートしているようだ。
ギルが頻りに行こうか行かまいかと、フェイントをしている。
魔獣化したTレックスは知能が高いのか、このフェイントをちゃんと警戒してる。
それに何度もエルに視線を送っている。
駆け引きができる恐竜って・・・何だかズルい。
ここまでくると最強の一言では、片付けられない。

痺れを切らしたTレックスが、ギルに噛みつこうと前傾姿勢を取った。
それを見逃さないギルが、お得意のブレス攻撃を行う。
しかしそれを意に返さないTレックスが、更に前傾姿勢を深くする。
それに対応する様にギルは振り向き様に、尻尾でTレックスの顔を狙った。
それを身を引いて躱したTレックスは、今度はお返しにと同様に、尻尾で攻撃を加えていた。
その尻尾を今度はギルが飛んで躱す。

それを待っていたエルが、最大化した雷魔法をTレックスに放った。
最大化された雷がTレックスを襲う。
流石に躱し切れなかったTレックスだが、その攻撃のほどんどを右前脚で防いでいた。
右前脚がシューと音を出して、炭化している。
まさか躱されると思っていなかったんだろう。
エルは驚愕の表情を浮かべていた。
これは不味い。

「エル!気を抜くな!」
俺はエルに激を飛ばす。
しまったとエルが気を取り戻すと同時に、Tレックスが動き出す。
狙いをエルに変えたTレックスが、エルに向かって左前脚を横薙ぎに払った。
これをギルがカバーに入る。
Tレックスの左前脚を尻尾で払った。

なんとかギリギリの処で、エルに攻撃は当たらなかった。
エルは危なかったという表情をしている。
そして、ギルが更に畳みかける。
態勢を崩したTレックスに、神気銃を放った。
これが決めてとなった。

Tレックスは神気銃を受けて、動けなくなっていた。
ここからはワンサイドだ。
各種攻撃魔法をギルとエルがこれでもかと打ち込み。
気が付くとTレックスは声を挙げること無く、消えていった。

「よっしゃー!」

「やった!」
とギルとエルが抱き合って健闘を讃えていた。
その様子を俺は微笑ましく眺めていた。
よかったよかった。

それにしてもギルがこの局面で神気銃を使うとは思ってもみなかった。
それだけ追い詰められたということなんだろ。
技のバリエーションが広がっている。
成長の証だな。

そして最後の戦いを見守ることにした。
ノンとゴンの、犬猿の仲コンビの戦いだ。
こいつらは未だに犬飯論争を繰り広げている。
いい加減仲良くして欲しいものだ。
どうなることか・・・

ここでも膠着状態が続いていた。
やはりTレックスは知能が高い。
ノンがのらりくらりと不規則に攻撃を加えるが、全てを凌いでいる。
ゴンも隙を見て、土塊を打つがあまりダメージを与えるには至っていない。
こちらも皮膚が堅いということだ。
見た感じほぼノーダメージだ。

Tレックスは外の二体が消滅したことに、一切の動揺を示していない。
それどこか俺が全員殺ってやる、という気概すら感じる。
俺の横で、エルが甲斐甲斐しくも、ギルに回復魔法で傷を癒している。
それをギルが今は良いからと、遠慮がちに手当てを受けている。
エルは優しいお姉さんだな。
未だにギルを子供扱いだ。
兄弟とはそんなものかもしれないな。
こいつらは完全に観戦モードだが、ちょっと気を抜き過ぎじゃないか?
流れ弾がきても知らないぞ。

ノンがTレックスから距離を取り、行こうか行かないかを何度も繰り返していた。
何やってんだあいつ?
俺はある芸人さんのネタを思い出して、不謹慎にも思わず笑ってしまった。
それを振り返って俺を見て、にやけ顔になるノン。
おいおい、余裕過ぎないか?

案の定Tレックスが、ノンに向けて襲い掛かってきた。
それを待ってましたと言わんかの如く、ノンは振り向き様に、右前脚の爪で首を抉りにいった。
Tレックスの首に一撃が入るが、これは浅い。
決め手とまではいかない。
やはりTレックスは堅い。

そのノンに対して、Tレックスは右前脚で掴みに行くが、ゴンが土塊でそれをさせない。
犬猿の仲にしても、コンビネーションは抜群だ。
やはりこいつらの格闘センスは本物だ。

不意にゴンが尻尾を逆立させていた。
九本の尻尾が天を突くかの如く立ち上がっている。
何かを狙っている?
それをチラリと見たノンは、何かを感じ取ったのか、後ろに体重をかけて身構えた。
それに対してTレックスも、何が来るのかと身構えているのが分かる。
ゴン頭上に水の塊が出来上がっていた、その塊がどんどんと大きくなっていく。

それをさせないとTレックスが動き出す。
だがそれに動きを合わせてノンも前に出る。
行かせないとノンがTレックスを牽制する。

ゴンの頭上でどんどん水の塊が大きくなっている。
既にゴンの身体の倍ぐらいの塊になっている。
Tレックスとノンの牽制は続いている。
水の塊が更に大きくなる。

「ノン!」
とゴンが叫んだ。
それを聞いてノンが後ろに飛ぶ。
それに合わせてゴンが、水の塊をTレックスにぶつけた。
Tレックスは全身水びたしだ。

水をぶっかけられて、怒気を強めるTレックス。
ゴンに掴み掛ろうと前傾姿勢になった所で、ノンが雷撃を放った。

「ドドン!」
という轟音と共にTレックスの身体を雷撃が貫く。
全身に水を被っている所為か、Tレックスのダメージが大きい。
動けずに固まっている。
Tレックスの身体から、プスプスという音が漏れてきそうだ。
でもまだ、Tレックスは息絶えてない。
その目が死んでいない。

そこからは雷撃と土塊の追撃が始まった。
ドシャドシャとぶつけていく。
そして、連撃を受けたTレックスが遂に消滅していった。



「やっと終わったか・・・」

「終わったね」

「そのようですの」
終わったことの実感がいまいち感じられないままに、俺達は全階層を踏破していた。

「皆お疲れさん!」
俺は声を掛けた。

「終わったんですね」
とゴンは未だ夢現の様子。

ノンは、
「踏破ー!」
とご機嫌だった。

そしてドロップ品が現れた。
これは・・・剣だった。
鞘の無い抜き身の剣が現れた。
その剣は光輝いていた。
素人の俺でもこの剣がただの剣では無い事が分かる。
剣なのに雰囲気や知性を感じる。
この剣はいったい・・・
思わず俺は剣を拾い上げて柄に手を掛けていた。
凄い!
無茶苦茶手に馴染む、まるで柄に吸い付かれているかの様な感覚まである。

『鑑定』

名前:神剣 エクソダス
種族:インテリジェンス ウエポン
職業:鍛冶神ゴンガスの眷神
装備者:島野 守
神力:399
体力:456(耐久値)
魔力:782
能力:人語理解Lv3 浮遊魔法Lv3 火魔法Lv3 念話 念動 能力共有(装備者) 鍛冶神の加護

神剣って・・・何?
ツッコミどころ満載なんだけど・・・
剣であって神なの?
分からん、まったくもって分からん。
これは親父さんに聞くしかないな。

すると不意に地面が揺れた。
何だ?地震か?
ゴゴゴゴという音を立てて、神殿の壁が動きだした。
そして、階段が現れた。

「これを登っていけということか?」

「多分そうなんじゃない?」
と俺の疑問にギルが答える。

「じゃあ、行こうか」

「「はい!」」
と俺達は階段を登っていった。

神剣だが、流石に『収納』にしまう気にはならなかった。
武器剥き出しで申し訳ないが、しょうがないということで勘弁して欲しい。
それにしても随分長い階段だった。
何百段登ったか分からない。

そして、やっと出口に辿りついた。
階段はダンジョンの入口に繋がっていた。
階段を出ると、俺達は大歓声に迎えられた。

「やったー!」

「島野一家最高!」

「遂に踏破だ!」
と声援が凄い。

俺達に駆け寄ってくるカインさん。
その表情から興奮しているのが分かる。

「島野君!」
とカインさんが叫ぶと、いきなり抱きつかれた。

「やったな!遂にやったな!」
とカインさんの興奮が止まらない。
それに声援が輪をかけて大きくなっていく。

「おめでとう!」

「流石です!」

「何てことだ!」
と賛辞が止まない。

これはいったい・・・
おいおい、騒ぎ過ぎだっての。
またノンが調子に乗るぞ・・・
案の定、気を良くしたノンが、例の変てこダンスを始めていた。
もはや突っ込む気にもなれない。
否、それよりも凄すぎじゃないか?
ちょっと皆さん・・・騒ぎ過ぎだっての!
ここまでの騒ぎになったのは今までにも無かったぞ。
タイロンの時よりも数段に凄い。
ダンジョン踏破って、そんなに凄いことなのか?

空前絶後のお祭り騒ぎが始まりそうな気配を俺は感じた。
今直ぐ日本に帰りたい・・・
駄目だよね・・・
はあ・・・やれやれだ・・・