翌日。
朝からダンジョンアタックを行うことにした。
今日は行けるとこまで行こうと考えている。
いつまでも騒がれるのは趣味ではない。
既に準備を終え、入島受付で島野一家は集合していた。

「いいか、今日は行けるとこまで行く気だ。全力でいくぞ、気を抜くなよ!」

「「了解!」」

「分かったー」
とノンだけマイペースだ。
今さらに何も言うまい。
こいつがシリアスになることは無いと思う。
多分・・・

ダンジョンの街エアルに移動すると、たくさんの人々がいたが、昨日のカインさんの一喝が効いたのか。
話し掛けにくる者はいなかった。
遠巻きに見守られたぐらいだった。

「カインさん、おはようございます」

「島野君おはよう、今日は朝から挑むのかい?」

「ええ、ちゃちゃっと終わらせようと思いましてね」
カインさんの顔が歪んでいる。

「・・・無理はしないでくれよ」

「ええ、大丈夫です。そろそろ本気を出しますよ」

「おお!そうかい!」
カインさんは期待の眼差しになっていた。
さてと、さっそく向かおうかな。
俺は七階層に繋がる転移扉に手を掛けた。

「ではカインさん、いってきます」

「ああ、いってらっしゃい」
俺達は転移扉を潜った。
七階層のセーフティーポイントに降り立つ。

「よし、いくぞ!」

「「はい!」」
俺達は八階層へと繋がる階段を降っていく。
八階層に出ると、そこはジャングルだった。

「今度はジャングルかよ」
俺は思わず言葉にしてしまっていた。

「だね」
とギルが答える。
直ぐに『探索』を行う。
九階層に繋がる階段は、だいたい二キロぐらい先だ。
まずは歩いて向かうが、早く飛んで行きたいのが本音だ。
何故かというと足元が良くない、泥濘にたまに足を取られそうになる。

少し歩くとノンが、
「主、お客さんだよ」
と来客を予告した。

「そうか、分かった」
俺は『収納』からミスリルナイフを取り出し、狩りの準備をする。
ギル以外は皆、獣スタイルになっている。
このジャングルでは、ギルは獣スタイルにはならないようだ。
というより、獣化すると木に引っかかってしまいそうだ。

「ギル、武器はいるか?」

「要らない、欲しくなったら言うから、その時は頂戴」

「そうか、分かった」
お客さんの正体はデカい蟻だった。
それも数が多い。
正直面倒だ。
あまりお勧めできないが、焼き払うのがいいだろう。
ダンジョンの生態はよく分からないが、森林破壊とはならないだろう。
湿気を強く感じるし、なんとかなるだろう。
という安易な考えだ。

「ノン、焼き払ってくれ」

「OK!」
とノンは辺り一面に火魔法をぶっ放した。
デカい蟻が焼かれては消えていく。
木々の表面が焼かれ、焦げた匂いがした。
予想通り、森林破壊にはならなかった。
よかったよかった。

ドロップ品は牙だった。
小さくてよく見ないと見つからない。

『鑑定』 キラーアントの牙 薬の原料になる

薬の原料か・・・少しだけ拾っておこう。
俺は少量拾い『収納』に入れておいた。
その後も何度もデカい蟻の襲撃を受けた。
外にはデカいカマキリがいたが、これも焼き払っておいた。
ドロップ品は腕の鎌だった。
これも薬の原料になるらしく、少しだけ回収しておいた。
でもこの鎌は武器として使えそうだ。
随分とでかい。

更にデカい蛾からも襲撃を受けたが、ゴンが土魔法の土塊で八つ裂きにしていた。
ドロップ品は鱗粉だった。
鑑定すると幻惑の粉と記してあった。
採集は止めておいた。
幻惑ってなんだか怖い・・・よね?

そろそろ飽きて来たので飛行しようと思ったが、ギルの獣化した巨体が、木々に引っかかり、なかなかうまくいかなかった。
その為、俺が飛翔して人化したノンを担ぎ、エルが人化したゴンとギルを乗せるという、新スタイルでの飛行となった。

俺は思いの外ノンが重いことに気づいた。
まあ二メートル近い大男だからね。
ノンが調子に乗って甘えてきたので、肘鉄を喰らわせてやった。
人化した状態で甘えてくるなっての。
アホか!
BLじゃないっての!
九階層目に繋がる階段を見つけた為、そのまま階段を降りることにした。



そして九階層。
またジャングルだった。
先程よりは木々の感覚が広い。
これならばギルが獣化できる広さだ。
所々に開けた場所がある。
先程の階層の様な湿気を感じない。
足元も堅そうだ。

「ここならギルも獣化できそうだな?」

「そうだね、でも先に進んだら分からないけどね」

「それはそうだな・・・」
俺は『探索』を行った。
お!これは・・・
どうやらS級のハンター達がいるようだ。

「どうやらこの階層にS級のハンター達が居るようだ」

「へえー、そうなんだ」

「先行しているハンター達ですの?」

「一気に抜いちゃおうよ!」
とやる気を出している島野一家の面々。
俺とは違い、先行しているハンター達を気にかけていたようだ。
こうなってくると、先を急ぐしかないな。
すると、これまた見たことがある魔物が現れた。
ワイルドパンサーだ。
三匹のワイルドパンサーが、目をぎらつかせながらこちらを見ている。

「よし、やるか」

「「了解!」」
ゴンが土魔法で土塊を作っている、先がどんどんと尖っていく。
土塊が高速回転している所為か、フュンフュンと音を立てている。
ギルも同様に土魔法を使いだした。
ゴンの真似が板に付いてきたらしい。
ノンは一気に雷魔法で一匹を倒していた。
それに続いてゴンとギルの土塊も、ワイルドパンサーに向かっていく。
二匹のワイルドパンサーは躱し切れず、後ろ脚を引きずっている。
俺は『行動予測』でそうなることを見越して、瞬時に近寄って首をミスリルのナイフで切断した。
ワイルドパンサーが消えていく。

ドロップ品はワイルドパンサーの牙だった。
どうにも牙とか爪ばかりが出てくる。
やはり待望の肉は無いようだ。
ワイルドパンサーの肉は旨いのだが・・・

『鑑定』 ワイルドパンサーの牙 武器に加工できる

おお、始めて武器になるドロップ品が出て来たな。
防具になる物はあったが、武器は始めてだ。
これは拾っておこう。
ゴンガスの親父さんは喜ぶだろうな。

「それにしても、歯ごたえがないな」

「そうだね、ほとんど一撃だもんね」

「そうですの、物足りないですの」
こいつらも同意見のようだ。
しょうがない、もう少し狩りに付き合うか。
俺達は先を急いだ。
すると今度は始めてみる魔物だった。

『鑑定』 ワイルドタイガー ジャングルの主

こんどは虎か・・・それにしてもデカい。
昔動物園で見た虎より一回りは大きい。
体長が三メートル以上はありそうだ。
こちらを睨み、悠然と構えている。

「少しは相手になりそうだな。誰が行く?」

「はいはい!」

「私が!」
とノンとゴンが手を挙げた。

「じゃあ今回はノン、行け!」

「分かったー」
と気の抜けた返事をして、ノンが駆けていった。
どんな戦闘になるのか?
ノンはワイルドタイガーと距離を取って止まり、睨み合っている。
するとそれに構わず、ジャイアントベアーが右後方から現れた。

「ゴン、あっちを頼む」

「了解です、主!」
とゴンがジャイアントベアーに向かって駆け出す。
不意にノンが動き出す。
風魔法でワイルドタイガーを浮かせて動きを封じて、そこに一気に距離を詰める。
右前脚の爪で切り掛かった。
ワイルドタイガーは躱し切れず、左前脚を裂かれていた。
そこに更にノンが左前脚の爪で切り掛かった。
ワイルドタイガーの首から鮮血が飛び散る。
今度は急所に入ったようだ。
ワイルドタイガーは力なく倒れていった。

後ろを振り返ると、ゴンが照明魔法で目晦ましを行い。
ジャイアントベアーの視界を奪っていた。
そこに更に土魔法で、これまた先の尖った土塊を作り、ジャイアントベアーにぶつけていた。
ジャイアントベアーが消えていく。
ワイルドタイガーのドロップ品は牙だった。
こちらも武器の素材になるらしい。
親父さんへのお土産がどんどん溜まっていく。
そしてジャイアントベアーのドロップ品は胆嚢だった。
これは嬉しい、熊の胆嚢は胃薬になるはずだ、それも即効性があるはず。

『鑑定』 ジャイアントベアーの胆嚢 効き目の強い薬になる

やっぱり!これは使える。
大変ありがたい!

「皆、ジャイアントベアーは見つけたら積極的に倒していこう、良い薬になるんだ」

「へえー、そうなの、分かった」

「了解ですの」

「何の薬なの?」

「胃の薬だよ、二日酔いには必要だ」

「へえー」
俺はどうにも社員旅行での苦しみから、精神的に未だ解放されていないようだ。
胃薬があれば、大変ありがたい。
これで胸焼けに苦しむことは無いだろう。
その後も何度か襲撃にあったが、危なげなく倒していった。

時折デカい蛇にも遭遇した。
デカい蛇は思いの外スピードが速い魔物だったが、動きが単調過ぎて簡単に退治できた。
こちらのドロップ品は皮で、調度品などへの流用が出来そうだった。
蛇皮の財布かな?
そろそろ飽きたので飛んでこうかと思ったが、近くにS級のハンター達の気配を感じた為、止めておいた。
飛んでいるのを見られるのはあまりよくないだろう。

「皆、そろそろ遭遇するぞ」
と俺は注意を促す。
全員空気を呼んで、こくんと頷く。

先に進むとS級のハンター達が魔物に囲まれていた。
ハンター達を円状に囲むようにワイルドタイガーが三頭と、ワイルドパンサーが四頭いた。
じりじりとハンター達ににじり寄っている。
これは・・・救援した方がいいのだろうか?
判断に困る。
下手に手を出すと彼らの沽券に関わるからな。
一先ずは様子見かな?
すると戦士風のハンターが叫んだ。

「ちくしょう!なんでこいつら連携するんだよ!ありえねえだろ!」
随分と追い込まれているみたいだ。
しょうがない、救援するしかないな。
やれやれだ。

「エル、獣化してくれ。俺を乗せてあの上まで行こう。他の皆は様子見だ」
飛行を見られるが、今はそんなことには構ってはいられない。

「分かりましたですの」
とエルが答えると獣化した。
俺はエルに乗り込む。
この間も俺はハンター達からは目を離さない。
ハンター達はこちらに気づいていないようだ。
戦闘中の真上に俺達はホバリングした。

「やあ、大変そうだね、手を貸そうか?」
何だかデジャブだな。
マーク達との出会いを思い出す。
ハンターでは無く、魔物がこちらの気配を感じたようで。
ワイルドタイガーがこちらに向かって吠えて来た。

「グワオーーー!」
それに気づいた魔法士風の女性がこちらを見た。
その顔には何でと書いてあるようだった。
俺はもう一度話し掛ける。

「手伝おうか?」
その女性に向かってワイルドパンサーが飛び出した。
完全に不意を突いている。
不味い!
俺は瞬間移動でワイルドパンサーの横に出て、ミスリルのナイフで首を抉った。
その出来事に他の魔物達が後ろに飛び去った。
ワイルドパンサーが消えていった。

もうこうなったらやってしまおう。
俺はギルに『念話』でやるぞと伝える。
既にエルはワイルドタイガーの一団に狙いを定めて、氷塊を上から降らしていた。
避けきれず、数頭が消えていく。
その隙に俺は瞬間移動を繰り返し、ワイルドパンサーの首をさくさくと切っていく。
最後の一頭になったワイルドパンサーは、駆けつけたノンに雷撃を受けて消えていった。
ハンター達は何がおこったのかと、唖然としている。
たしかハンターの流儀として倒した者が獲物を貰えるはずだったので、俺はひとまずドロップ品を拾うことにした。
すると少しは気を持ち直したのか、戦士風の男性に話し掛けられた。

「助かった、ありがとう」

「ああ、気にしないでくれ。たまたま通り掛かっただけだ」

「そうか・・・」
と未だ茫然としている。
今度は先ほどの魔法士風の女性に話し掛けられた。

「助けていただきありがとうございます。あの、もしかして島野一家の方々ですか?」
こちらは気を取り直したのか、しっかりと目を見て話しかけられた。

「ああ、そうだ」

「やっぱり・・・」
すると、他のハンター達も持ち直し始めた。

口々に、
「島野一家か・・・」

「追いつかれたのか・・・」

「速すぎる・・・」
とぼやいていた。
改めてハンター達を見てみた。
それなりにボロボロだ。
怪我をしている者もいる。

「怪我をしているようだが、薬は持っているのか?」
先程の女性に話かけた。

「薬は尽きかけていて・・・」

「そうか」
俺は『収納』からエルフの傷薬を取り出した。

「あげるよ、使ってくれ」
と傷薬を手渡す。

「ありがとうございます」
とその女性は頭を下げて受け取っていた。
さっそく傷薬を仲間達に手渡していた。
念の為『探索』を行い、魔物がいないかチェックをする。
どうやら近くにはいないみたいだ。

さて、どうしたものか・・・
俺達は先を急ぐことにしようと思う。
悪いがこいつらに構っている理由は無い。
一先ず声を掛けておこう。

「俺達は先に進むが、君たちはどうするんだ?もし引き返すようなら、七階層のセーフティーポイントに通信用の魔道具があるから、それで呼びかければ、カインさんが迎えにきてくれるぞ」

「そうですか、ありがとうございます」
と戦士風の男性が頭を下げていた。
こいつがリーダーなのだろうか?
まあどうでもいいか。

「では、お先に」
と俺達は先を急いだ。
ハンター達は付いてくる気配は無かった。
その後ハンター達が見えないぐらいの距離まで来た所で、飛行スタイルに切り替えた。
十階層に繋がる階段にたどり着いた。
階段を降っていく。
するとギルから話し掛けられた。

「S級でも九階層で手古摺るんだね」

「戦力的にみたらそうなんだろうな」

「なんで?」

「前にワイルドパンサーを狩りした時の話だと、ワイルドパンサー一頭でAランクだって話だっただろ、それが複数となるとS級になるんじゃないか?それもワイルドパンサーよりも、ワイルドタイガーの方が強そうだったからな、それに複数から囲まれるとなると、厳しいんじゃないか?」

「そういうことね、結局僕達は何級なの?」

「うーん、なんだろうな・・・トリプルS級とか?」

「いいねそれ、トリプルS級ってかっこいいね!」

「そうだな」
ランクなんてどうでもいいでしょ。
そうこうしていると、十階層に辿りついた。



今度もジャングルだった。
先程のジャングルよりも開けている。
まるでアフリカを彷彿とさせる。
足元もさらに固くなっている。
遠目に象が歩いているのが見えた。

「ここはアフリカの大地か・・・」

「アフリカって何?」

「地球にある国で、こんな雰囲気なんだよ」

「へえー」
ギルが関心していた。
本当に分っているのだろうか?
正直疑わしい。

「さて、進むか」
先程のジャングルとは違い、視界が開けているから、魔物の接近は分かり易い。
『探索』を行い、進路を確認する。
セーフティーポイントが思いの外遠い。
五キロ以上はありそうだ。
これは早めに飛行スタイルに切り替えたほうがよさそうだ。
早くもこちらを伺う魔物の気配を感じた。
あれはハイエナだろうか、五頭がこちらにゆっくりと向かってきている。
鑑定するには遠すぎる。

「さて、進むぞ」

「「了解!」」

「はーい」
進んでいくと、先ほどのハイエナ達が急に速度を上げて、こちらに向かってきた。
近づくとそのデカさに圧倒される。
先程のワイルドタイガーぐらいにデカい。
それをいち早く察したギルがブレスで焼き払った。
あっさりと終わってしまった。
ここまで開けているとブレスを吐き放題だな。
ドロップ品も燃えてしまったようだ。

「ギルはブレスばっかりだね」
とノンが突っかかる。

「良いでしょ、別に!」

「他にもいろいろやりなよ」
と、ノンがまともな意見を述べている。

「簡単に倒したほうがいいでしょ?」

「まあまあ止めろ、二人共一理ある。どちらも正解だ」

「うーん」
とノンは納得がいかないようだ。

「今は早く倒せるならそれに越したことはないからな、でもノンの言う通り、いろいろな攻撃方法があった方が、良い事も確かだぞ」

「それは分かってるよ・・・」
分かってるならいい。
現にギルはゴンの魔法を参考にしてたしな。
ギルなりに工夫はしているみたいだ。

「そうか、ならいい。それよりもお客さんが来るぞ」

「「了解!」」
気を引き締める二人。
今度はデカいシマウマだ。
それも大群だ。
猛然と突っ込んでくる。
速っや!
だがまだ距離がある。

すると何故だか、変な子モードになったエルが、
「掛かってこーい!」
と叫ぶと、風魔法と雷魔法をぶっ放した。
雷が風を受けて最大化していく。
ドゴゴゴゴーーーン!!
という轟音を立ててデカいシマウマの一団は雷に貫かれていた。

「よっしゃー!!」
とガッツポーズをするエル。
歯茎むき出しで笑っている。
思わず笑ってしまった。

「ハハハ!」

「エル姉!最高!」

「プププ!」

「なにやってんの・・・」
それにしても、こんな魔法の複合技があるとは、案外エルって天才肌なのかもしれないな。

「よっしゃー!!」
とエルはまだ叫んでいる。
ゴンが気になったのか、俺に近づいてきた。

「主、今の魔法って複合でしたよね」

「そうみたいだな、エルは天才肌だ。本人も無意識に使っているのかもしれないな、後で聞いてみたらどうだ?」

「後でですか?」

「ああ、今は変な子モード全開だから話しにならないだろう」
調子に乗ってギルとノンも一緒になって、踊り出していた。
それをみて納得したのか、ゴンは肩を落としていた。
やれやれだ。



先程の一撃が魔物の興味を引いたのか、次々と魔物が襲い掛かってきた。
その中でも厄介だったのが、ジャイアントエイプだ。
要はデカい猿だ。
こいつらは中距離から石を投げてくる。
それなりに動きが速い、まあ躱すのは容易だけど、数限りなく石を投げてくる。
相当にうっとおしい。
イラっとした俺は、瞬間移動を繰り返して、さくさくと猿の首を切っていった。
そして一番腹が立ったのはドロップ品だった。

『鑑定』 ジャイアントエイプの石 投げやすい石

って、ふざけるな!
石なんかいるか!とドロップ品の石を掴んで、向かって来たデカいゴリラに投げつけたら。
眉間に当たって、一撃でやっつけてしまっていた。
うん、確かに投げやすかった・・・
・・・数個拾っておいた。
デカいゴリラのドロップ品は毛皮だったので、放置しておいた。

巨大な象を倒したところで、飛行スタイルに変更し、セーフティーポイントを目指した。
いい加減腹も減ってきた。
巨大な象のドロップ品は牙だった。
象牙といったところだ。
これは拾っておいた。
この牙はかなりデカい。

セーフティーポイントに着くと、これまで通り転移扉を『加工』で床に張り付け。
通信用の魔道具を設置した。
早速ゴンに通信用の魔道具を使ってもらう。

「カイン様、こちら十階層のセーフティーポイントです。聞こえますか?」
少し経ってから応答があった。

「ああ、聞こえるよ。お疲れ様」
俺は横から話し掛ける。

「カインさん食事にしましょう。こちらに来てください」
少し経ってから、

「分かった、そっちに行くよ」
と回答があった。
数秒後、転移扉が開かれ、カインさんがやってきた。

「島野君、お疲れ様。随分活躍していたみたいだね」

「そうですか?」

「ああ、ちゃんと見ていたよ」
とカインさんは嬉しそうにしていた。
多分それなりに狩りを行っていたからだろう。
本音としては、さっさと飛んで行きたいところなのだが・・・
そうはいかんよね。
やれやれだ。

俺は『収納』から昼御飯を取り出した。
本日の昼飯は、カインさんが愛して止まないカツカレーにした。
あとはツナサラダといったところ。
カツカレーを見たカインさんは、猛烈に興奮していた。

「カツカレーだ!やった!」
とこれまた年甲斐も無く騒いでいた。

「「いただきます!」」
とカインさんはガツガツとカツカレーを口にしていた。
それを見て負けじと、ギルもガツガツと食べだした。
ギル君、なに張り合おうとしているんだい?
君の方がたくさん食べるに決まっているでしょうが。
全く・・・まだまだ子供だな。

それにしてもカインさんの興奮が止まらない。
この日もカツカレーをお替りしていた。
カツカレーのお替りは、俺には無理だ・・・
胸焼けが・・・
胃がもたれるのは目に見えている。
そういえば、熊の胆嚢は結構集めれたな。
煎じるのはエルフの薬のブースの店員さんに、頼めばどうにかなるだろう。
それにしてもオットセイは・・・
『収納』に永久封印かな?
さて、そろそろ昼御飯も終わりそうだ。

「そろそろいいか?」

「ちょっと待って、あと少し」
とギルはまだ食べている。
カツカレー六杯って・・・
うーん、たんとお食べ。
やっと食事が終わり、カインさんも帰っていった。

カインさんは何故だがカツカレーをお持ち帰りしていいた。
冷めたらたいして上手くないと思うが・・・
まあいいだろう、好きにしてくれ。
俺達は要を済ませて、準備を整えた。

「よし、そろそろ行くぞ」

「「了解!」」
俺達は十一階層に繋がる階段を降りて行った。



十一階層は正に神殿だった。
まるでパルテノン神殿の様な石造りの神殿があった。
凄い・・・
正直いって、圧倒された。
圧倒的な重厚感だ。

俺達は神殿へと歩を進めた。
神殿の入口へと繋がる階段を上っていく。
魔物の気配は今のところ感じない。
この階層には魔物は居ないのだろうか?

俺達は神殿の入口に辿りついた。
それにしてもあまりに神殿がデカい。
神殿の中へと歩を進める。
神殿の中は薄明りに照らされていた。
ちょっと暗く感じる、何とか見えるぐらいだ。
ここでも魔物の気配は一切感じない。
どうなっている?

更に歩を進めていく。
ここまで一本道だ、更に疑問が生じてくる。
俺は『探索』を行った。
どうやらこのまま真っすぐに進むしかないようだ。

「パパ、何にも起こらないよ」

「そうだな『探索』をしてみたが、このままずっと進むしかなさそうだ」

「そうなんだね・・・」

「主、魔物の気配を感じないのですが・・・」

「そうなんだ『探索』にも引っかからない・・・」
ギルもゴンも気になっているようだ。
俺達は更に歩を進めた。
次第に照明が明るくなってきた。
始めの頃の暗さを感じない。
次第に充分に明るさを感じるようになってきた。
そろそろ最深部に到達する。
遂に壁に行き当たった。

「ここで行き止まりだな」

「どういうこと?」

「何なの?」
と疑問を口にしたところで、いきなり壁からおじさんの顔が現れた。
何だこれ?
かなりシュールな絵だぞ。
見たこと有るような無いような、おじさんの顔が壁から現れた。
そして壁のおじさんが話し掛けてきた。

「勇敢なる者達よ、よくぞここまでたどり着いた」
壁のおじさんが喋ってるよ。
どういうこと?
何なんだいったい。
にしてもこのおじさんの顔・・・何だがムカつく・・・

「どうも・・・」

「・・・」
ってなんか言えよ。

「俺達は島野一家です、よろしく」

「名前は聞いておらん」
なんだこのおっさん。
ちょっと態度がムカつくな。

「それで、何をすればいいんですか?」

「・・・ちょと余韻に浸らせてくれ・・・」
余韻?
何の?

「はぁ?・・・」
壁のおじさんが目を瞑り、余韻に浸っている。
だから何の余韻なんだよ!

「あの・・・」
壁のおじさんはまだ余韻に浸っている。
話にならん、もういいから帰ろうかな?

「なあ、話にならんから帰ろうか?」

「そうだね」

「そうしましょう」

「そうですの」

「だね」
と踵を返そうとした所を、壁のおじさんに話し掛けられた。

「待ってくれ!すまん。この通りだ。行かないでくれ!」
と壁のおじさんは必死に俺達を呼び止めて来た。
何だよいったい!
しょうがないから振り返った。

「すまん、許してくれ。人と話すのはかれこれ百年以上も無かったんだ。許してくれ!」
はぁ・・・何のことやら・・・

「こうやって人と話せるのが嬉しくて、余韻に浸ってしまった。許してくれ!」

「はぁ・・・人とってことは、人以外はあるのか?」

「それは・・・ある・・・」

「誰とだ?」

「それは業務上の秘密だ・・・」

「・・・」
ちょっと同情し掛けたが、いらん世話だったようだ。
ゴンと同じかと思ったぞ。
全く!

「来る日も来る日も暇で暇でしょうがなかったんだ、ごめん・・・」

「それで、ここでは何をすればいいんだ?」

「ちょっと待ってくれ、せっかくだからちょっと話をしていかないか?・・・な?いいだろ?な?」

「いや、先を急いでますのでそうはいきませんよ」

「そんな連れないことを言うなよ。一時間、否、三十分でいい、話し相手になってくれよ!な!」
おいおい!必死だな。
ていうか、カインさんはここには来ないのか?

「あのさ・・・カインさんはここに来たりしないのか?」

「カイン様は・・・昔はよく様子を見に来てくれていたよ、でも百年前に神気が薄くなってきたからあまり顔を出せなくなると言ったきり・・・来なくなったよ・・・」
そういうことね、だったら。

「今は事情が変わったから、カインさんが今後は来てくれることになると思うぞ」

「本当か?」
壁のおじさんは嬉しそうだ。
これで解放されるのか?

「ああ、間違いない、だから俺達は先に進まないといけないから、どうすればいいのか教えて欲しい」
壁のおじさんは考え込んでいた。

「本当か?」
疑っているようだ。

「そうだ、それに俺達はカインさんに頼まれて、この先の十三階層のセーフティーポイントに用があるんだ。急ぐ必要がある」
真実に近い嘘だけどね。

「そうなのか?・・・信じていいのか?」

「ああ、十三階層のセーフティーポイントに着いたら、ちゃんとカインさんに伝えておくよ」

「絶対だからな!」
壁のおじさんは必死だ。

「分かったよ、まったく・・・」

「そうであれば、勇敢なる者達を信じよう。ここではこれから三つの質問をすることになる。それを間違わずに答えることが出来たら、ここを通過する名誉を与えよう」
知力を試されるということか・・・
なるほど、面白い!
いいじゃないか、掛かってこい!

「そうか、で、どうすればいい?」

「そう構えるな、勇敢なる者よ。焦らずとも質問は逃げてはいかん」

「・・・」
なんかムカつく・・・

「ではこれから究極の質問を三つ行う。それの解答は各質問三回までだ。なお質問に質問は受付無い、いいかな?」
でしょうね・・・いいから早く質問をしろよ!

「ああ、さっさと質問をしてくれ」

「む!・・・まあいい、では行くぞ、第一問!」
とここで要らない間を置かれた。
俺の苛々が募る。

「パンはパンでも硬くて食べられないパンは何だ?」
嘘でしょ?
なぞなぞなのか?
それも小学生レベルじゃないか?
簡単過ぎる、いいのか?
何かのトラップか?
そうとも思えない・・・
よし、普通に答えよう。

「フライパン・・・」

「・・・勇敢なる者よ・・・正解だ!」
この要らん間は何だったんだ?
やっぱりこのおじさん相当ムカつくな!

「では次の質問だ!」
質問では無い、なぞなぞだ。
言葉を間違えるな・・・

「かばんの中にいる体の大きな動物は?」

「かば」
俺は食い気味で答えた。

「・・・勇敢なる者よ・・・正解!」
だからこの間は要らんだろう!
お前はミノさんか?

「勇敢なる者よ・・・お主凄いな・・・ここまで回答が早いのは、これまで一人もいなかったぞ」
どうでもいいから早く次に行ってくれ。

「いいから最後の質問をしてくれ」

「・・・まあそう焦るな・・・」
ふざけるな、焦ってなんかいない。
こんな不毛なやり取りを、早く終わらせたいんだよ!
俺はおじさんを睨んでいたようだ。

おじさんから、
「おー怖!」
と言われた。
今直ぐにこのおじさんを殴りたい衝動に駆られた。
この野郎!
いや駄目だ、無いとは思うがこれもトラップの一環なのかもしれない。
一先ず複式呼吸だ。
ふうー、落ち着いた。
さて、最後の質問を聞いてみよう。

「続けてくれ」

「あい、分かった。では最後の質問だ」
ここでも要らない間があった。

「イスはイスでも春にきれいな声で鳴くイスは?」

「ウグイス」
これもまた食い気味で答えた。

「・・・正解!・・・」
ちょろい・・・ちょろ過ぎる・・・

「勇敢なる者よ、先に進む名誉を与えよう、行くがよい!」
と壁のおじさんが言うと、壁が開き十二階層への階段が現れた。
はあ・・・疲れた・・・
なんだったんだ、この不毛なやり取りは・・・
俺達は十二階層に繋がる階段を降りていった。
それにしてもこの神殿って・・・
間抜け過ぎないか?
ほんとにやれやれだ・・・