興奮さめやらぬところすまないが、カイン様と話をしなければならない。

「カイン様、お時間頂戴できますか?」

「ああ、構わないよ。家にくるかい?」

「いいのですか?」

「是非来て欲しい、お礼もしたいしね」
というと、カイン様はダンジョンに手を翳し、ダンジョンの入口を塞いでいた。
ということで、カイン様の家に御呼ばれすることになった。
改めてニュービーの面々から感謝の意を伝えられた。
彼らは何度も頭を下げながら、帰っていった。



カイン様の家は、いたってごく普通の一軒家だった。
調度品なども特になく、質素といえる部屋だ。

「適当に腰かけてくれ。今お茶を入れるよ」
と、台所に立つカイン様。
なんとも一人寡の哀愁が漂っているな。
その背中がなんとなく寂しい。

「どうぞお構いなく」
と社交辞令を言っておく。

「そうはいかんよ、茶ぐらい出させてくれ」
カイン様はきびきびとお茶の準備をしている。
随分と板についているな。

「そういえば、ゴンガスの親父さんとは知り合いですか?」

「そうだね、知り合いというか、ご近所さんかな?」
ご近所さんと呼ぶには距離があるんじゃないか?
隣街になるのだろうか?
まあこの世界の人達の距離感はよく分からんからな。

「カイン様は神様に成ってどれぐらいですか?」

「島野君、様は止めてくれ、柄じゃないよ。それと私は神に成って、だいたい二百年ぐらいかな」
この神様もフランクな性格のようだ。
恰好から見るに元ハンターかな?
二百年ということは、神気減少問題については分かっていることだろう。
さっそく聞いてみようか。

「そうですか、それじゃあ神気の減少についてはご存じですよね?」

「なんで君が!」
とこちらを振り返るカインさん。

「そうだった、そうだった。君は神力を持っていたんだったね、もう神気の減少については死活問題だよ」
と項垂れている。

「といいますと?」

「神気が薄くなったせいで、ダンジョンの維持管理が行き届かなくなってしまってね。今では利用をかなり制限しなくては、いけなくなってしまったからね」
たしかゴンガスの親父さんがそんなこと言っていたな。

「百年前までは、このエアルの街もそれは大いに賑わっていたんだよ。多くのハンター達が腕試しにやってきたり、レベル上げにやってきたり、初心者のハンター達は、まずは二階層を踏破しないと、ハンターとして認めて貰えないなんて制度も当時はあったんだよ」
そんな制度があったんだ。

「へえー、そうなんですか」

「ハンター協会も今では随分と緩くなっているみたいだね」
緩くなったか・・・
俺にはよく分からんが・・・

「・・・」

「昔はダンジョンに夢を見る者達が多くいたものだよ」

「ロマンってやつですか?」
ギルが口を挟む。

「そうだ、ロマンだ。ギル君は若いのにそんなことも知っているんだね?」

「いえいえ」
と照れているギル。
どうせマーク辺りの受け売りだろう。
よくハンターの話をしているみたいだしな。
それに未だに、勇者の英雄譚なんかが好きみたいだし。
そういうのに憧れるお年頃なんだろ。
一方ノンは興味無さそうで、眠そうにしている。

「さて、待たせたね?」
とカインさんはお茶を人数分持ってきてくれた。
お茶が配られる。

「それで、神気の減少問題なんですが、何か心当たりはありませんか?」
真っすぐ目をみてカインさんが答える。

「全くないよ、というかそれがあったら、真っ先に対処に向かうよ。それぐらい切羽詰まっている」
どうやらほんとうに困っているようだ。

「そうですか、では」
と俺は『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「これは!凄い造形の石像だね!ここまで見事な石像は始めて見るよ」
と感心している。

「これはお地蔵さんと言って、祈ると神気を放出してくれる物なんです」
カインさんが目を見開いている。

「本当かい?」

「ええ、これを何体か寄贈したいと考えています。あと、この街に教会はありますか?」
もはや新たな街に訪れた時のルーティーンだ。

「ああ、一つあるよ」

「後で教会に祭ってある石像を俺に改修させてください」

「そうか、これが噂に聞くお地蔵さんか・・・ほうほう」
カインさんはまだ、まじまじとお地蔵さんを見ている。

「噂になっているんですか?」

「ハンター達から少し聞いたことがあってね。実は欲しかったんだよ。島野君が造っていたんだね、本当に助かるよ」
とカイン様はお地蔵さんをべたべたと触っていた。

「でも、これで解決とはならないのが現状なんです。多少は益しにはなりますがね」

「でもありがたいよ、特に私には死活問題だからね。ありがとう」
とカインさんは右手を指し出してきた。
俺もそれに答えて握り返す。
相当に力が入っていた。
それだけ喜んでいるということなんだろう。
多少はこれで貢献できるといいのだが。

「あと、よかったらこちらも差し上げます。お土産です」
俺は『収納』からいつものお土産セットを取り出した。

「これはまた立派なワインと野菜だね。君はいったい何者なんだ?」

「俺は・・・神様修業中の異世界からの転移者です」
これが正解の回答だと思うのだが・・・
どうだろう?
間違ってるか?

「へえ、転移者なのか。それは凄いな」
そっちに食いつくんだ。
神様の修業中ではないんだ。

「俺が知る限り転移者は結構いるみたいですね?」

「そうなのかい?」
あれ?
知らない?
何で?

「はい」

「そうか、私は世間知らずな神でね」

「どういうことですか?」
世間知らずとは?

「神になってからというもの、この街から離れられなくなってしまったからね・・・世情には疎いんだよ」
何でだ?
ダンジョンの所為か?

「それは、ダンジョンの維持の為ということでしょうか?」

「そういった面もあるが、この街はダンジョンに訪れた者達から収入を得ている街なんだよ。ダンジョンを今のように封鎖して離れることは出来るけど、街の住民達にとってはね・・・」
そういうことか、産業の中心がダンジョンであるが故に起こる現象といえるな。
であれば、協力は出来る。
というよりは、手を貸すしかなさそうだ。
やるからには徹底的にやろう。
再生事業、いいじゃないか。
腕がなるねー。

「あの、いきなりいろいろ話をするのもなんなんですが、俺達が街の再興に協力できると思います」

「ん?」
カインさんは首を傾げている。
俺は『収納』から転移扉を取り出した。

「なんだい?この扉は?」
カインさんは扉を繁々と眺めている。

「これは転移扉といって、転移の能力が付与してある扉です」

「まさか・・・そんな伝説のアイテムが・・・」
カインさんが驚愕の表情を浮かべていた。
伝説って・・・そうなのか?
そもそもアイテムなんだ・・・
知らなかったよ。
まぁ道具だからアイテムか。

「これは凄いことになってきたぞ!」
とカインさんは興奮しだした。

「実は既に南半球の街や村のほどんどが、この転移扉を通じて繋がってますので、大いに期待してください」

「な!・・・・」
今度はびっくりしていた。

「ビックリさせて申し訳ありませんが、後でサウナ島に招待させてください」

「サウナ島・・・」

「サウナ島は俺達が住む島です」

「楽しい島だよ」
とギルは喜々としている。

「そうなのか・・・」
カインさんにしたら余りに現実離れした出来事なのだろう。
そろそろフリーズしかねない。
ここで固まってしまっては先に進めない。
どうしたものか・・・
まずは基の話しに立ち返ろう。

「まずはお地蔵さんですが、街道筋や街の片隅に何体か置いて欲しいのですが、何体必要でしょうか?」
顔を振ってなんとか理性を取り戻しているカインさん。
ほんとにフリーズ手前だったようだ。
よかった、危うく止まってしまうところだった。

「一先ず七体ほど貰えないだろうか?」

「分かりました、さっそく教会に行きましょうか?」

「ああ、そうして貰おう・・・」
俺達は教会に移動した。
カインさんがシスターと牧師に事情を説明している。
俺は、創造神様の石像を見てみることにした。
これまでの教会と同様に、創造神様の形を呈していない。
何でどこもこんな仕上がりなんだろうか?
でもこの仕事って、マリアさんでも出来るんじゃないのか?
彫刻も出来るって言ってなかったか?
石像に彫刻刀では無理か?
まあいいか。

「島野君、お願いしてもいいかい?」

「では始めますね」
俺は『加工』で石像を改修した。

「ええ!」

「なんと!」
シスターと牧師さん、カインさんが驚愕の声を漏らしていた。
そしてシスターと牧師が祈りを始める。
すると、聖者の祈りが発動しだした。
神気が空気中に広がっていく。

「素晴らしい!」
とカインさんが拍手をしている。
シスターは聖者の祈りが出来て嬉しいのだろう。
万遍の笑顔をしている。
そして牧師は涙を流していた。

「ありがとう・・・」
と今度はカインさんが涙を流していた。



一度カインさんの家に戻ることになった。
どうやら、何かを俺に渡したいらしい。
お礼の品なのだろうか?
再度、部屋に戻って来た。

「島野君ちょっと待っててくれないか?」

「ええ」
カインさんは何処かにいってしまった。
数分後、笑顔のカインさんが現れた。

「島野君、これを貰ってくれないか?」
鞘に収まったナイフを手渡された。
意匠が凝られた一品だった。
相当に高価な物と見受けられる。
頂いても良い物なんだろうか?

「これは?」

「オリハルコンのナイフだ」

「はい?」
オリハルコンってやっぱあるんだ。
ミスリルより硬いんだよな。
そんな一品を貰っていいのか?
これこそ伝説のアイテムじゃないのか?
というよりこれを持ってダンジョンに挑めってことなのか?
そんな気がしてならない・・・

「君とはまだ出会って半日足らずだが、神力をたらふく貰ったし、ハンター達を助けて貰ったし、お地蔵さんも貰ったし、教会の石像も改修して貰った、挙句の果てにはこの転移扉だ、聞いた話を察するに、この街は君に救われたということになる。貰ってばかりでは申し訳ない。このオリハルコンのナイフはこの世界では、他には無い一品だと自負している。受け取って貰えないだろうか?」
うう・・・そこまで言われると断れないじゃないか。
断ることすら憚られる。

「分かりました、そこまでおっしゃるのでしたら遠慮なく頂いておきます」

「それを携えて、是非ともダンジョンを踏破してみてくれたまえ」
やっぱり言われた。
案の定じゃないか。
ノンが、暇そうにしていたのに急に顔を上げて、こちらを見ている。
ギルも興奮した顔をしてこちらを見ている。
こいつら・・・
はあ、ダンジョンに挑むしかなさそうだ。
やれやれだ。

「頑張ります・・・」

「言質は取ったからね」

「・・・」
言質って・・・ただの誘導尋問じゃないか!

「パパ、ダンジョンに挑むの?」

「そうだな」
あまり乗り気ではないのだが・・・
こんな物貰って辞めておきますとは言えんだろう。

「主!今から?」
こいつはアホなのか?
な訳無かろうが。

「な訳ないだろう。また今度だ」
ノンもギルもやる気満々だ、目がぎらついている。
こいつらはほんとに・・・どんだけ暴れたいんだよ。
全く・・・
そんなに欲求不満でも溜まってんのか?

「君なら踏破出来るかもしれない、今まで踏破した者はいないからね」

「そうなんですか?」

「そうだ、S級のハンターチームの最高到達点は十六階層までだ」

「S級でも十六階層ですか・・・」
俺達で大丈夫なのか?
まあ、なんとかなるだろう。
と思う・・・

「さて、そろそろサウナ島に行きましょうか?」
うん、サウナで気分を変えよう。

「ああ、よろしく頼む」
俺達は転移扉を開いて、サウナ島に帰島した。



サウナ島に移動すると、
「凄い・・・」
とカインさんが呟いていた。
入島受付を出て、島の景観を眺めている。

「こんな街は見たことがない・・・」
お褒めいただき光栄です。

「これを君が造ったのかい?」

「皆の力を借りてですね」
そう俺一人ではここまでは出来ませんでしたよ。
皆さんの協力あってのことです。
ありがたいことです。

「そうか・・・」
カインさんはキョロキョロと島のあちこちを眺めている。
まるでお上りさんだ。
ノンとギルは解散した。
これ以上カインさんに付き合う必要はないだろう。

まずはゴンガスの親父さんに報告に行くことにした。
やきもちして待っているとは思えないが、念のためだ。
鍛冶屋に着くと、ゴンガスの親父さんが待ち構えていた。

「お前さん、帰ったか」
やっと来たかという顔をしていた。

「ただいまです」

「お!カインじゃないか?」

「お久しぶりです」
二人は握手をしていた。

「また神力不足か?」

「ええ、お手数をおかけしました」

「ここなら神気が満ちておるから補充出来るだろう」
よく言うよ、まったく・・・
もう充分に渡してますよ。

「島野君からたくさん貰いましたから大丈夫です」
分かってた筈でしょうが、全く。

「そうか、こいつは底なしだからの」
何だそれ。
俺のことなんだと思ってんだよ!

「俺は神力タンクじゃないっての」

「そうか、ガハハハ!」
ほんとこの親父は・・・
いい加減にせい!

「それにしても、ここは凄いですね。転移扉も始めて使いましたが、驚きが止まりませんよ!」
カインさんはまだ興奮しているようだ。

「だろうのう、儂は今では慣れたが、始めてきた時にはド肝を抜かれたわい」
へえー、そうなんだ。
普通にずかずかと土足で上がってきたような気がするのだが・・・
記憶間違いか?

「ひとまず、飯にしませんか?」
そろそろ腹も空いてきた。

「そうですね」

「儂も着いて行こう」
儂も着いて行こうは、要は奢れということだ。
いい加減慣れて来た。
俺達は連れ立って、大食堂に向かった。



カインさんは終始圧倒されっぱなしだった。
それはそうだろう、ダンジョンの街からほとんど出ていないという話だったし、このサウナ島は、そもそもこの世界の中では異質な場所だからね。
カインさんは、始めて食べたカツカレーの味に猛烈に感動していた。
お替りをするほどだった。
カツカレーのお替りって・・・
気に入ってくれたということだろう。
俺にはカツカレーのお替りは無理です。
ゴンガスの親父さんもちゃっかりと、ご相伴に預かっており、案の定俺の奢りとなっていた。
まあ、毎度のことなので気にしないのだが・・・
ほんとに親父さんって金に執着してるよね。
俺はハンバーガーとフライドポテトにした。
何となくジャンクフード的なものを食べたくなった。
たまにはいいよね。

「それで、お前さんダンジョンの街はどうだった?」
親父さんが話を振ってきた。

「ダンジョンにも潜りましたが、面白かったですよ」

「そうか、お前さんなら踏破出来るんじゃないか?」
あんたもそれを言うんかい!

「カインさんと同じこと言うんですね」

「島野君なら出来ると思うよ」

「またまたー」
社交辞令と受け取っておこう。

「お前さんと、聖獣陣を連れて行ったら、出来ると思うがの」
確かに戦力としては充分だと思う。
でもなー、乗り気では無いのが本音です。
ダンジョンは争いごとではないかもしれないが、いまいち乗り気にはなれないのが本音だ。

「まあ、後日挑みますので期待していてください」
社交辞令では済まないよな。

「かあー、お前さんがダンジョンに挑むか。これは一大事だの」
何が一大事なんだよ。
大袈裟だっての。

「それは良いとしてカインさん、今後のことを話したいんですけどいいですか?」

「ああ、是非聞かせて欲しい」
カインさんは姿勢を改めていた。

「まず、転移扉の運用方法ですが、基本的に任せます」

「いいのかい?」
嘘だろといった表情をしていた。

「はい、どこの街でも神様に一任してますので、カインさんの判断で使ってください」

「分かった、そうさせて貰うよ」

「そして、ここからが重要なんですが、入島受付で見られたと思うのですが、他の街からダンジョンの街に一瞬で移動が可能です」

「そのようだね」
真剣な表情に変わった。

「今後ダンジョンの街に訪れる者達は多くなります。その目的はもちろんダンジョンですし、中には行商が新たな販路を作ろうと、多く訪れることも間違いありません」

「そうなのかい?」
カインさんは喜びで笑顔に溢れている。
それだけこれまでが、辛かったということなんだろう。
エアルの街はこれから変わっていくことになる。

「そしてそれはダンジョンの街の住民にとっても、逆に新たな街や村に簡単に訪れることができるようになるということになります」
逆も然りってね。

「なるほど、相互利用が出来るということか・・・」

「儂の街の住民もこのサウナ島にはしょっちゅう訪れておるし、いろんな街に良く鍛冶で作った物を売りにいっておるのう」
実際に利用している、神様の先輩からの言葉は説得力があるようだ。
カインさんは何度も頷いていた。

「そこで問題となるのは、ダンジョンをどれぐらい解放するのかということです」
カインさんは眉を潜める。

「どういうことかな?」

「教えて欲しいのは、まずダンジョンを解放している時は、カインさんはダンジョンから離れることが可能なのか?ということと、仮に全階層を解放した時に、神力が何日持つのかということです」
これが重要なポイントだ。

「そうか、そういうことか」
納得いったようだ。

「転移扉はカインさんにしか開けられませんので、ダンジョンに掛りっきりとなるようでは、一方通行になってしまいます」

「まず、ダンジョンを解放している時に離れることは出来る」
一先ずはOKだ。

「であれば、転移扉の運用は双方向に出来そうですね」
一歩前進だ。

「そうなると思う、あと全階層を解放した場合に私の神力がどれだけ持つかというと、これまでを基準に考えると一ヶ月が限界だと思う」
お地蔵さんを設置したら倍ぐらいにはなるのだろうか?

「そうなりますか、これは提案なんですが、セーフティーポイントに転移扉を設置してみませんか?」
これでいくらかは時間短縮が出来ると思う。

「それはどうしてだい?」

「まず、今回の様な遭難を避けることと、途中で帰れるようにしたら、常時解放しなくてもよくなるんじゃないでしょうか?」
カインさんは目を見開いている。

「君は・・・天才か?・・・すごく良いアイデアじゃないか!」
上手く嵌ったようだな。

「それで、セーフティーポイントはいくつあるんですか?」

「三、五、七、十、十四、十七階層だから、計六カ所だね」

「分かりました、準備しておきます」
これぐらいは楽勝だね。

「いいのかい?」
ここで遠慮されても困る。

「もちろんです、このセーフティーポイントなんですが、一度辿り着いたら、次はそこからチャレンジできるようにすれば、何日間も潜らないといけないことにはならないかと思いますが、どうでしょうか?」

「そうなるね」
神妙な表情を浮かべている。

「そうすれば、例えば週に二回ぐらいはダンジョンを閉鎖して、ここにも来れるようになりますし、他の街や村にも行くことが出来ませんかね」

「できるかもしれない・・・」
カインさんがわなわなと震えている。

「あと、セーフティーポイントに通信用の魔道具を設置すれば、更に運用がしやすくなると考えられます」
ハンター側からもお迎えに来てくれと言えるしね。

「おお!」
カインさんの興奮が止まらない。

「ちなみにダンジョンに入るのに、いくら貰ってるんですか?」

「銀貨二十枚貰っているよ」
安すぎる・・・
それはないでしょう・・・

「せめて倍、いや銀貨五十枚にしませんか?」

「でも、そうすると挑む者達が減りはしないだろうか?」
カインさんは眉間に皺を寄せている。

「いえ、それはないですね」

「どうしてだい?」

「これまでは陸路での移動だったのが、転移扉での移動に変わります」
カインさんはそうかという表情をしている。

「そうだったね」

「ダンジョンの街までいく経費が大幅に減るんです。銀貨五十枚にしても、充分にお釣りがくると考えられます」
時間も短縮できる訳だし、惜しまないでしょう。

「カインよ、こ奴の助言は受け入れるべきだと思う。こやつのアイデアは外したことが無いからのう」
先輩からのアドバイスは重要ですよ。

「ええ、分かります」
でもいきなり全面的に信頼するには早すぎると思うのだが・・・
こちらとしてはありがたいが・・・

「それでどうでしょうか?」

「ああ、これでエアルの街も救われる・・・」
カインさんは涙に暮れていた。



その後、お風呂とサウナを堪能したカインさんは、
「ここは天国だ・・・」
とご満悦だった。

その後は大食堂で、ビールを飲み、
「ここは楽園だ・・・」
と漏らしていた。

その気持ちはよく分かる。
サウナ明けのビールは堪らんよね。
ちょうど良い事にロンメルが通り掛かったので手招きした。

「旦那、どうしたんだ?」

「ロンメル紹介するよ。カインさんだ。ダンジョンの神様だ」

「あれ?ほんとうだ。カイン様お久しぶりです」

「・・・」
カインさんは首を傾げている。

「ハンターに成りかけの頃に、一度ダンジョンに挑戦したことがあるんですよ。その時に挨拶をさせて貰ったんですが、さすがに覚えてないですよね?」
ロンメルにしては珍しく低姿勢だ。

「そうなのか?・・・すまない。あまりに多くの者に挨拶をされるから。どうしても覚えられないんだ」
カインさんは頭を下げていた。

「いえ、謝ってもらうことではありませんよ」
ロンメルにしては珍しく、敬語に近い。

「それでなロンメル、ダンジョンの街とも繋がったから、ダンジョンの街に転移扉で行けると、噂を流して欲しいんだ」

「なんだそんなことか、任せてくれ」
こいつに任せておけば、ものの数日で広がるだろう。

「ロンメル君、よろしく頼むよ」
とカインさんも頭を下げていた。

「カイン様止めてくださいよ」
と流石のロンメルも恐縮していた。



翌日、ダンジョンの街に行くと、お地蔵さんを設置する場所を検討しているカインさんを見かけた。
挨拶を終えて、俺はエアルの街を散策することにした。
はやり他の街や村とは変わり映えしないという印象だったが、少し気になる露店を見かけた。
これは・・・ダンジョンのドロップ品を売っている露天商だった。
これがこの街の特産品なんだろうか・・・
そのほとんどが服飾に役立つ品物ばかりだった。
だろうなとは思っていたのだが、案の定だ。
これは報せないといけないな。
俺は一度転移扉でサウナ島に帰り、服屋に寄ってリチャードさんを誘い、エアルの街に訪れた。

露天商をみてリチャードさんが、
「これは・・・新しい仕入れ先が見つかりましたね」
と商魂逞しい意見を述べていた。
しめしめだ。

リチャードさんにカインさんを紹介したところ、
「早くも恩恵が・・・」
とカインさんは涙を浮かべていた。

こうやって広げていければいいと思う。
そして、ロンメルの噂が早くも効力を発揮し出していた。
商人がこぞってエアルの街に訪れていた。
その光景に街の住民が狂喜乱舞している。
そこいらで商談が行われていた。
ロンメルのネットワークたるや否や・・・
あいつはここぞとばかりに、真価を発揮しているといえる。
やるな情報屋・・・



ダンジョンアタックは一旦置いといて。
俺はエアルの街の再興に力をいれることにした。
まず行ったことは、入島受付に『ダンジョンの街エアル開通』と大きく横断幕を設置することにした。
真っ先にやらなければいけない宣伝だろうといえる。
これでサウナ島に来た人達だけでは無く、移動で来た人達にも宣伝になるだろう。
そして、カインさんに宿屋や食堂の値段を上げる様に入知恵した。
これもダンジョンの入場料と同じで、転移扉で来る人には、移動で浮いた金銭と時間がある為、釣り合うことは間違いないと思われる。

そして、各国や街のハンター協会にその土地の神様達と共に出向き、ダンジョンの街に転移扉で行けることになったことを話に行った。
神様ズも皆な好意的だ。
ハンター協会の会長達は、昔のダンジョンの二階層踏破をしないとハンター登録が出来ない制度を、再検討する必要があると前向きだった。

そして、俺は盛り上がればと、ダンジョンに賞金を出すことを提案した。
もちろん賞金の支払い先は島野商事である。
内容は簡単で、最初に十七階層に到達したハンターチームには、金貨五百枚を支払うといったもの。
さらにその後に十七階層到達者には、スーパー銭湯の年間パスポートを贈呈するというおまけまでつけておいた。
俺としては、自分達で賞金を取りに行くつもりだから、問題ないと考えている。
もし先に到達されても、それはそれで賞賛しようと思う。

賞金のことをカインさんに話すと、
「ほんとうにそんなことまで世話になっていいのかい?」
と言われたが。

「これまで十七階層の到達者はいないんですよね?」

「そうだが・・・」

「それに俺のチームで取りに行きますので、問題ありませんよ」

と言うと、
「流石は島野君だ。君なら最終階層まで行ってもおかしくないな。ハハハ!」
と笑っていた。

そして俺はゴンガスの親父さんに、
「出資するからエアルの街に武器屋を作りませんか?」
と提案したところ。

「元よりそのつもりだ、なんだ出資してくれるのか。ありがたいのう」
と言われてしまった。

どうやら余計なことをしてしまったようだ。
というか上手く使われてしまった。
ちょっと調子に乗り過ぎたか?
まあいいや。

そして、さっそくカインさんに許可を貰い。
鍛冶屋の建設にマークとランドを伴って行うことになった。
更に島野商事のお店も出店させてもらうことにした。
お店の内容は道具屋といったら分かり易いだろうか。
体力回復薬と魔力回復薬を中心に販売するお店だ。
後は少しだけ食べ物を販売している。
主に飴などのお菓子なのだが、携行食になるのではと考えたからだ。
なんちゃって冷蔵庫に関しては、小さい版を鍛冶屋で販売して貰う様に親父さんに話してある。
お客様には魔力回復薬と体力回復薬は、なんちゃって冷蔵庫で保管することをお勧めしている。

体力回復薬に関しては、ハンター協会からの許可は得ている。
ダンジョンでは復活の指輪がある為、無理をするぐらいが丁度いいだろうと判断したようだ。
その方がレベルアップに繋がるとも思える。
まだ三階層までしか潜ったことはないが、三階層に関しては狩りの参考になることは間違いない。
体力回復薬の有効性がこれで示せれば、外での販売も許可されることだろう。
もはや秒読みといってもいいだろう。
それに実は既にサウナ島の野菜の販売所にて、体力回復薬は販売している。
流石のハンター協会も、ここには文句は言ってきてはいない。
治外法権というところだ。

ハンター協会から体力回復薬の販売許可を得た時は、少し笑えた。
タイロンのハンター協会が、全てのハンター協会の仕切り役であった為。
俺はオズとガードナーに付いてきて貰った。
気合の入ったオズとガードナーは、まるで脅すかのごとく、販売の許可をさせていた。
オズの理論武装は秀逸だったと言っておこう。
ちょっと総会長が可愛そうに思えたぐらいだ。
オズはどうやら、俺から頼られて嬉しかったようだ。
ちょっとやり過ぎたとも思えるが、大目にみて欲しい。

管理チームに仕切らせて、従業員の中から異動希望者を公募した。
異動希望者は少なかったが、なんとか道具屋を運営できるだけのメンバーが集まった。
まあ、手が足りなくなったら、また従業員を増やせばいい。
お店の建設は、ものの一週間で終わった。
その間にもたくさんのハンター達が、ダンジョンに挑む姿を見かけた。
それを嬉しそうにカインさんが眺めていた。
ダンジョンの絶頂期の賑わいが、どれほどのものかは知らないが、人が集まり出していることには変わりはない。
今後さらに人が集まりだすだろう。
ダンジョンの街の再興は、まだ始まったばかりだった。