サウナ島が日常を取り戻しつつあると言っていいだろう。
スーパー銭湯は相変わらず連日大賑わいで、迎賓館も今では空席が無い時もあるほどになっている。
スタッフ達も、仕事に慣れ、各々の仕事をしっかりとこなしている。

ここで俺は更にスタッフを増やすことを決定した。
そのきっかけとなったのは、週二回の休日を取得できない者が、数名現れたからだ。
当初の目論見以上に盛況になったあおりが、スタッフ達に出ていると思われた。
これは見逃せない。
ブラックな労働環境は認められない。

そこで、急遽リーダー陣を集めて会議を行うことにした。
メンバーは俺を筆頭に、ノン、ギル、エル、ゴン、レケ、メルル、マーク、ランド、メタン、ロンメル、アイリスさん、リンちゃんの旧メンバーにジョシュアを加えた。面子となる。
所謂幹部連だ。

「まずは、皆お疲れ様」

「「お疲れ様です!」」

「急な招集に応じてくれてありがとう」
数名が軽く会釈した。
場所は大食堂。

「実は、数名だが、週二回の休日を取得できなかった、ということが先日判明した。これは由々しき事態だ」
頷く一同。

「そこで、従業員を増やそうと思う」

「「おお!」」
好反応だ。

「幸い寮にはまだ空き室がある、そこでざっくりとだが五十名近く増員しようと考えている」

「そんなに増やして大丈夫なんですか?」
メルルからの疑問だ。

「ああ、全然構わない」
そうなのだ、全然構わないのだ。
詳細は後日報告させて貰うが、利益がとんでも無いことになっていた。

「それで、どの部署が何人増員したいのかを教えて欲しい」
マークが手を挙げる。

「島野さん、それはどれぐらいの規模で考えればいいですか?」
妥当な質問だな。

「それは、少々シフトがダブついてしまうぐらいで構わない、これを気に余裕を持ってスタッフ達に、仕事を行って貰えるようにしたいと考えている」

「そんなにですか?」

「ああ、遠慮はいらない」
全員が考え込んでいる。
ノンが手を挙げた。

「僕のところは要らない」
でしょうね、君のところは始めから増員なんて考えていませんよ。

「お前が増員は要らないのは分かっている」
ノンは当たり前といった表情を浮かべている。
メルルが手を挙げた。

「島野さん、増員できるのならこれを気に、メニューにも手を加えてもいいですか?」

「ああ、構わない、それを見越した上で考えてみてくれ」

「わかりました」
メルルはエルと相談を始めた。
ギルが手を挙げた。

「どうしたギル?」

「パパ、僕もせっかくだから提案したいことがあるんだけど」

「ほお何だ、言ってみろ」

「リンちゃんには悪いんだけど、テリー達をスーパー銭湯班に、移籍させて欲しいんだ」

「それはどうしてだ?」

「テリー達は熱波師の仕事もあるから、こっちに来て貰ったほうが、シンプルになるんじゃないかと思って、それに簡単な火魔法とかが、テリー達は使える様になったんだよ。こっちの方が戦力になるかと思って」

「なるほど、言っていることはよくわかるが、リンちゃんとしてはどうなんだ?」

「できれば、直ぐに移籍されるのは困るので、新たに雇う新人が物になりしだいであれば、問題ありません」

「分かった、ではそうしよう」
レケが手を挙げた。

「ボス、出来れば船を扱える者が二人は欲しいな」

「分かった、二人だな」
俺はメモを取った。

「五人欲しいです」
とジョシュアが言う。
これもメモを取っていく。
ランドが手を挙げる。

「七名欲しいです。いっそのこと受付の人数を、今の四人態勢から五人態勢に変更します」
その方がいいだろう、大いに賛成だ。

「OK、良いだろう」

「俺も七人欲しいです」
とマークが続く。

「僕は、テリー達以外に五人欲しいな」
ギルが言った。
メタンが何かを言いたそうにしている。

「メタンどうしたんだ?」

「島野様よろしいでしょうか?」

「ああ、どうした?」

「せっかくなので、神社に人員を配置してもよろしいでしょうか?」

「何を仕事にするんだ?」

「それは・・・神社の管理とかですかな・・・」

「まあいいだろう、何人いるんだ?」

「三人お願いします」
メタンが笑顔になっていた。

「分かった」
これはいるのか?
祝詞でも挙げるってのか?
まあいいだろう。好きにやってくれ。

リンちゃんが手を挙げる。
「テリー達の移籍を考慮して、五人は欲しいですね」

「分かった」
ゴンが手を挙げる。

「管理チームに読み書き計算ができる者を、四人は欲しいです」
これまで管理チームには無理をさせてきたからな、見直したいところだ。
大いに結構。

「あと、事務所が欲しいです。もう倉庫では手狭ですので」

「そうか、分かった」
ランドールさんと後日相談だな。

メルルが手を挙げた。
「調理版とホール班で十人は欲しいです」

アイリスさんが手を挙げた。
「これを機に野菜の販売をサウナ島でも始めたいので、十人欲しいですわ」
これは禁じ手だが、始めるか・・・
このサウナ島での野菜の販売は、イコール畑の拡大だ。
これまた、俺とギルの仕事が増えるが・・・
いつかは始めると言い出すと思っていたのだが、こうなったらやるしかなさそうだ。

全部で五十八人か、妥当なところだろう。

「よし、募集だが、どんな方法を取りたい?意見はあるか?」
レケが手を挙げる。

「ボス、声を掛けたい奴がいるんだけど、どうかな?」

「知り合いに声を掛けるのか?」

「ああ、船を扱える奴に当てがあるんだ」

「そうか、構わない。そうしてくれ。他にも声を掛けたい者がいる者は、直接声を掛けてくれて構わない」
縁故のほうが、信用できる者達が揃いやすいだろう。
悪い考えではないと思う。

メルルが手を挙げた。
「お客様から募集してはどうでしょうか?サウナ島を利用してくれたことがある人の方が、勝手が良いのではないでしょうか?」

「良い考えだ、では、知り合いに声を掛けて集めるのと、お客様には張り紙で募集をおこなうようにしよう。雇用条件は現スタッフ達と同じで、採用は二週間後から、面接は十日後ぐらいに設定するようにしよう」

「募集の張り紙は、何処に張り出しますか?」
マークからの質問だ。

「入島受付と、迎賓館の会計所、後はスーパー銭湯の受付でいいんじゃないか?この三カ所であれば、見落としは無いだろう。あまりたくさん張り出しても、みっとも無いしな、どうだ?」

「「「分かりました!」」」
賛同を得られたようだ。

「それで、今回の面接だが、全てお前達に任せる」

「えっ!」

「嘘でしょ?」

「どうして?」
動揺している者達がいるな。

「まてまて、お前達は各班のリーダーなんだ、もっと胸を張ってくれよ。それにお前達は人を見る目があると俺は考えている。どうしてもという時は相談に乗ろう。問題は無いだろう?」
全てを俺が仕切っているうちは、これ以上の発展は無いだろう。
俺はそろそろ第一線からは離れるべきだ。
現場のことは現場に任せるべきなんだ、高みの見物とまではいかないが、俺は困った時の知恵袋的なポジションに収まるべきだろうし、まだまだ出会ってない神様達もいる。
神様修業中であることは忘れてはいないのだ。
今後はできる限りの仕事は手放していこうと考えている。

「じゃあそういうことで、よろしく。解散!」
俺達は大食堂を後にした。



俺は事務所建設の相談をしようと、ランドールさんを探している。
この時間であれば、そろそろサウナ島に来る時間だ。

俺は入島受付で、ランドールさんを待つことにした。
入島受付では、ちょうどゴンガス様の所からの入島者が受付を行っていた。
手際よく、入島作業が行われている。

ゴンガス様が俺を見かけて話し掛けに来た。
「お前さんが受付にいるなんて珍しいな、どうした?」

「ランドールさんを待ってるんですよ」

「ランドール?てことはまた何か建てるのか?」
目ざとく食いついてきた。

「はい、事務所を建てようと考えています」

「事務所かー、そうなるとあまり儂の出番はなさそうだのう」
確かに今回は、あまりゴンガス様の世話になることはなさそうだな。

「ですね、ちょっとした家具ぐらいですかね」

「だな、でも家具は儂のところから買ってくれよ」

「そうさせて貰います」
相変わらず、抜け目がない人だな。
そういえば、今はゴンガス様への野菜の納品は、サウナ島で行う様になっている。
なかなかサウナ島から離れられない俺は、マジックバックをゴンガス様にプレゼントし、来島した際に、管理チームから野菜を買い付ける様にお願いした。

ゴンガス様はマジックバックが貰えるならと、快く受け入れてくれた。
ちなみにマジックバックはゴンのお手製だ。
本当にゴンガス様は分かり易くて助かる、お金か、物か、酒があれば大体のことは受け入れてくれる。
神としてそれでいいのか?と思う事もあるのだが、それが彼の個性だから俺はそれを否定することは一切ない。
付き合う身としては、ちょろくて助かるのが本音だが、たまに鋭いところがあるので舐めて掛かることは絶対にしない。
敬意を払って付き合っている。

「じゃあ、またの」
とゴンガス様は、サウナ島に入っていった。
これからスーパー銭湯にいくんだろう、右手にはタオルが握られている。

ランドールさんが入島した。
さっそく話掛けに行く。
「ランドールさん、こんちは」

「島野さん、どうも」

「ランドールさん時間ありますか?」

「ええ、どうしました?」

「事務所を作ろうと考えてまして、ご協力いただけないかと」

「事務所ですか?」

「そうです」

「どれぐらいの規模です?」

「そこら辺含めて相談しようかと、ただそんなに大きな物とは、考えてはないんですけどね」

「分かりました」
俺達は迎賓館の個室に入った。
二人ともアイスコーヒーを注文した。
何事かとマークも顔を出した。

「マークも同席するか?」

「ええ、事務所の件ですよね?」

「そうだ」

「であれば、興味がありますので同席させてください」

「ああ」
マークはスタッフにアイスコーヒーを追加で注文し、俺の隣に腰かけた。

「それで、どんなイメージですか?」

「そうですね、入口入って直ぐに受付があって、受付の中では管理チームが資料などを使って作業が出来るスペースがあって、その奥に資料保管庫があるイメージですね。後は簡単な台所とトイレがあればと」

「随分シンプルですね、本当にそれだけでいいのですか?」

「といいますと?」

「サウナ島には島野さんと商談や、話をする為に来ている者達もいるのでしょ?」

「ええ、そうですが」

「であれば、応接室がいるのではないでしょうか?」

マークが横から割り込んで来た。
「あと、島野さんの部屋も要りますね」

「俺の部屋?」

「はい、社長室とでも言うんでしょうか?必要ですね」

「そうなのか?」

「はい要りますね、この際ですからはっきり言わせてもらいますが、これまで島野さんの仕事用の部屋が無いことがまず間違っていると思うんです。島野さんはこれまで、だいたいは現場を見回ったり、手の足りないところを手伝ったりしてましたけど、人も増えるのですから、今後はその必要はなくなるかと。それに島野さんの家の執務室は、あくまで島野さんの家じゃないですか?家で仕事して貰うものどうかと思いますし、俺達旧メンバーならともかく、新しい社員達では、なかなか島野さんの家には伺えないですよ」
そうか、マークの言う通りだな、俺はこれまで何となく社長という立場を、あまり出したく無かったから、無意識に社長然とすることを避けていたと思う。
それは従業員達にとっては、働きづらいことになっていたんだな。
ちゃんと反省すべきだ。
流石はマークだ、こいつでなければ言えない意見だろう。
社長室か・・・この際だから造ってみるか。

「分かったマーク、大事な意見をありがとう、お前の言う通りだと思う。これまですまなかった」
俺はマークに頭を下げた。

「ちょっと、島野さん止めてくださいよ」
マークは立ち上がって制止した。

「いや、まったくもってお前の言う通りだ、これからは人も増えて俺の有り様も変わらなければいけない、ちょうどそんなことを考えていたにも関わらず、そこまで考えが及ばなかった、良い意見をありがとう」

「そ、そんな止めてくださいよ」
マークは謙遜していた。

「せっかくだから会議室も造ろう、大食堂で会議というのも締まらんからな」

「そうですね」

「じゃあ、社長室と会議室を追加と、それで会議室の規模はどれぐらいにしますか?」
ランドールさんが話を進めて行く。

「二十人ぐらいが座れる程度でお願いします」

「それで、応接室はどうしますか?」

「応接室は、無しでお願いします」

「それはどうして?」

「あまり永居されると困るので、今まで道り迎賓館で対応させて貰います。特に商人を相手にする時はね」
これまでも商人達には迎賓館で対応したが、あれが応接室でとなると、結構粘られたと思う。
追い返す訳にはいかないからな。
応接室はいらないな。
無駄な時間を過ごしたくはない。

「分かりました、そうなると平屋でいいですね」

「そうしてください」

「じゃあスケッチが出来たら、また打ち合わせしましょう」

「お願いします」

「また材料は島野さんが準備しますか?」

「そうしましょう」
安く仕上げるに、越したことは無いだろう。
それに工期の問題もある、早く出来たにこしたことは無いからな。

「であれば、工期もそんなに掛からないでしょう」

「ちなみにどれぐらいですか?」

「まだ、何とも言えないけど、十日もあれば十分かと思いますよ」

「分かりました、家具もお願いできますか?」

「もちろんです」
こうして打ち合わせは終了した。
二日後、スケッチを現地で確認し、建設工事の発注をした。

どうやら新しい従業員を、事務所が完成した状態で迎え入れることができそうだ。
各々の班のリーダー達が順調に面接等を行い、新しい従業員が決まっていっているようだ。
今回の応募も凄い人気で、倍率は三十倍近くにもなったらしい。

ここから先、俺は極力手も口も要望が無い限り、出さないと決めている。
今後は各リーダー達が、報連相を行ってくれることだろう。
又、週に一度リーダー達を集めて、会議を行うことにした。
サウナ島は次の段階に入り出している。



これまでは忙しさにかまけて、島野商事がどれだけの利益を上げているのかを、見て見ぬ振りをしてきたが、ここら辺で決算報告をさせて貰わなければいけないだろう。
心して聞いて欲しい。
とは言っても決算月がある訳ではないのだが、雰囲気として捕らえて貰えればと思う。
なにせここは異世界なんでね。

最初に一言いわせて貰うと、ここが異世界で良かったということと、サウナ島で良かったということ。
日本であれば、どれだけの税金を払うことになったのか。
また仮にタイロン王国内であったとしたら、固定資産税を払わなければいけない上に、商人組合に上前を跳ねられていたことだろう。
税金を払うのは国民の義務であるから、払うのは当然なのだが、出来れば払わないに越したことは無いと思ってしまう。
根が貧乏性なのは許して欲しい。

まずはどこで売上が立っており、どれぐらいの利益が出ているのかから、おさらいしようと思う。

一番初めにこのサウナ島にお金を落としてくれたのはアグネスだ。
半ば強引に物にしたのは、目を瞑ってもらうとしよう。
今でも毎月だいたい金貨三十枚ぐらいの利益となっている。

アグネスは相変わらずミックスサラダを、てんこ盛り食べている。
アグネスとは、ここまで長い付き合いになるとは思ってもみなかった。
まあ、相変わらず彼女は駄目天使であることには変わりはない。
今は、サウナ島では神様が大勢いるからおとなしくしているが、時間の問題だろうと思っている。
あの鬱陶しさと偉そうな態度は、治らんだろう。

次にこのサウナ島に大きな利益をもたらしたのは、五郎さんといっても過言ではないだろう。
今でも五郎さんの温泉街には、野菜を始め果物や、味噌や醤油やマヨネーズ等の調味料類や、ビールなど日本酒を除くアルコール類も卸している。

五郎さんとはズブズブの関係を継続している。
毎月の売上は金貨五百枚ぐらいだ、実はこれでもだいぶ売上が落ち着いた方で、スーパー銭湯オープン前までは、金貨七百枚を超えた月もあったぐらいだ。
本当に助かっている。

スーパー銭湯を造ると考えた時は、五郎さんのところのお客様を奪ってしまうのではないかと、心配したが、そこまで影響は出ていない様子。
長年に渡って掴んだお客様は、そう簡単には離れないということだ。
流石は五郎さんだ。

とはいっても多少は影響が出ている訳で、そのことを五郎さんに話した時は、そんなもん気にするんじゃねえ、儂を舐めんな。
と一喝されてしまった。
本当に豪胆な人だ。
頭が下がります。

なんちゃって冷蔵庫の販売も、その後も順調に売れているのだが、今ではなんちゃって冷蔵の製造は、ゴンガス様に移行している。
目聡いゴンガス様が、なんちゃって冷蔵庫を見つけては、意味深に構造や内容を聞いてきたのでピンときた。
ここでも稼ぎたいのが見え見えだった。
俺はそれを察して、製造を任せる様にした。

こちらとしても、なんちゃって冷蔵庫の製造が、多少負担にはなっていた為、快くお願いすることにした。
ただ、真空にする技術は、ゴンガス様は持ち合わせて無い為、そこだけは俺が仕上げを行っている。
材料も、万能鉱石とサウナ島産のゴムを使用している。
ゴンガス様は、鍛冶の街フランでも、なんちゃって冷蔵庫を販売している。

これまではなんちゃって冷蔵庫は、金貨九枚で五郎さんのところに卸し、金貨十五枚で販売してきた。
なんちゃって冷蔵庫一台当たりの材料となる万能鉱石は、金貨二枚となる。ゴンガス様には万能鉱石とゴムを一台当たり、金貨四枚で卸している。従ってこちらの利益は一台当たり金貨二枚とだいぶ利益率は下がったが、ほとんど手間がかかっていない為、特に文句は無い。

その先の五郎さんに卸す価格は、これまで道り金貨九枚として貰っている。
急に卸し値が変わってしまうのは良くない。
ここはゴンガス様には口酸っぱく話をさせて貰った。
なんちゃって冷蔵庫は、毎月百台近く売れている為、ここでも毎月金貨二百枚近くの利益が出ている。
今後も続くとありがたいが、ハード商品の為、一家庭に一台持ってしまえば、もう購入の必要はなくなる為、どこかで販売が止まることは間違いないだろう。

そして魔力回復薬だが、今では随分と落ち着いて来ている。
魔力の回復に、スーパー銭湯を訪れる人も中にはいて、魔力回復薬を購入する必要が無い人も出始めている。
それに瓶入りの魔力回復薬を買う人も、随分といなくなってきており、樽での納品がほどんどだ。
納品頻度も週に二回程度。

売上は今月に関しては金貨四百三十四枚、利益としては、金貨四百一枚となっている。
魔力回復薬班のリーダーのリンちゃんは、俺の見込んだ通りの働きをしてくれていると言ってもいいだろう。
テリー達からの信頼も厚く、また働き者の彼女は、手が空いたら管理チームを積極的に手伝ってくれている。
今でもゴンとは大の仲良しだ。
メッサーラとの関係も、リンちゃんが上手く取りもっているとも言える。
やはり出身者がいるのは心強い。

ここまでで、既に金貨千百三十一枚の利益となるが、ここからがとんでも無いことになっていた。

まずは、今月の入島料金と移動費だが、金貨五百五十枚となった。
神様ズと折半とはいえ、大きな金額だ。
俺は今後は移動費が大きくなっていくと予想している。

エンゾさん曰く、この転移扉での移動は、南半球の国々を、今よりも豊かにする大きなネットワークだ、ということだ。
移動が楽になり、安全と時間が安価に買えるということの意味は、相当にして大きいということだ。
今まさに流通革命が起ころうとしている。

そして、迎賓館の売上は金貨百八十七枚、これは飲み物と食事代を高めに設定しているのが大きいのと、宿泊施設の利用者が多かったことが、要因だろうと考えられる。

宿泊施設は、ベットにトイレと簡易な造りになっており、部屋も一人用としての広さしか無い。
ビジネスホテルといったところか、使用用途としては、主に宿泊以外は無いという、至ってシンプルなものだが、商談にきた商人達がこぞって使いたがった。
どうやら連日の商談には、宿泊した方が安上がりだと考えているようだ。
実際宿泊費は銀貨三十枚と、格安と言える金額だ。

迎賓館の価値は日を追うごとに挙がってきており、当初の目論見通り、迎賓館に訪れることが、商人達にとってはステータスとなっている。
商人達にとっては憧れの施設になっているようだ。
ここまで上手くいくとは正直思ってはいなかった。
迎賓館の価値が伝わるのには、時間が掛かるものと思っていたからだ。
この世界の商人達も、どうやら面子に拘る傾向があるようだ。

そしてスーパー銭湯の入泉料だが、金貨四百八十四枚となった。
後は備品の販売も上手くいっており、金貨五十五枚の売り上げとなっている。
ただし、タオルなどの備品はメルラドから仕入れている為、実際の利益は金貨二十五枚となっている。
受付だけで、金貨五百九枚もの利益となっていた。
更に今後は備品の拡充を行おうと考えている。

一ヶ月間の利用者は約一万二千人、既にリピーターも多く見かける。
サウナ文化がこの異世界で根付き始めているようで、俺としては嬉しい限りである。

後は他にも、遊戯施設に訪れる人達もいて、娯楽がこの世界に浸透しだしているとも言える。
特にバスケットボールは人気で、ランドが頑張ってバスケットボールを拡めた成果が表れている。
来月にはサウナ島対ボルンの対抗戦が控えており、ランドは血気盛んに練習を行っている。

遊びから新たな文化が開けてくることに、俺は期待している。
遊びは重要で、息抜きというだけでは無く、暮らしを豊かにするものだと俺は考えている。
真面目に働くだけではなにも面白くはない。
人生には余白が必要だと思う。
俺は今後もたくさんの娯楽を広めていこうと考えている。

最後に大食堂の売上が異常なことになっていた。
売上がなんと金貨二千三百四枚、破壊力満点の売上となっていた。

仕入れで掛かるのはコロンの乳製品と、カナンのハチミツとゴルゴラドでの魚介類だが、全部足しても金貨八十枚以下となる為、利益としては金貨二千二百二十四枚となる。
全部を足すと金貨四千六百一枚となってしまった。
利益の半分を大食堂で賄っているということだ。

人の食に対する欲求は測り知れない。
三大欲求の一つは伊達ではないということだ。
旨い物には際限なく人が集まる。

ちなみに食事の一番人気は、カツカレーだ。
この世界にはこれまでカレーは無かったが、一度食べると病みつきになると、定番の人気メニューとなっている。
飲み物の一番人気は言わずもがなのビールだ。
サウナ明けの一杯を男女分け隔てなく楽しんでいるし、神様ズも皆んなビールが大好きだ。
まさに神ドリンクだ。
これを味わったが最後、この呪縛からは逃れることは不可能と言える。

売上から支払う経費としては人件費しかないのだが、人件費は一ヶ月で約金貨千四百枚しかかかってない為、最終的な利益は金貨三千二百枚となってしまった。
なんとも恐ろしい数字である。

喜ぶというよりも引いてしまうというのが、偽らざる感想だ。
こんなに稼ぐ気は全くなかったのだが・・・
お金がお金を呼ぶとはこのことだろう・・・
なんだか申し訳なく思ってしまう。

そして、今回の初期投資だが、建設に使った万能鉱石は約金貨千八百枚、ランドールさん達に支払う人件費は金貨三千枚となっている。

実は、ランドールさん達に払う金額も、予定よりもだいぶ大きく払うことにして貰ったのだ。
本当は金貨二千枚という話であったが、これすらも通常の倍近い金額とのことだったが、俺が半ば強引に金貨三千枚を押し付けた形だ。
こうなることが何となく分かっていた俺が、少しでも回避しようと無理やり捻じ込んだことだった。

他には家具などの備品やら、ゴンガス様に頼んでいたロッカー等に金貨千二百枚近くかかった、結局のところ初期投資に掛かったのは約金貨六千枚で、このままでは初期投資の投資回収をわずか二ヶ月で達成することになってしまう。

新たに従業員を六十名近く増やしたが、焼け石に水とはこのことである。
人件費に金貨六百枚増えたぐらいでは、まったくもって揺るがない。
そして初期投資に掛かった金額も、すでに半額以上は支払が済んでしまっている為、来月には初期費用は完済してしまう。
これから先が思いやられるのは間違いないのである。

そして、俺の預金額も遂に五千万円を超えており、どう見繕ってもサウナ満喫生活は当初考えていた三十年を、はるかに上回りそうであった。
この先エンゾさんが言う、経済として不健康な状態は続きそうで、今のところこれと言った打開策も考えついていない。
痛し痒しである。

どうしても俺の性分として、無駄なことや要らないことに、無駄にお金は掛けたくないし、従業員の給料もこれ以上上げるのも良くないようだ。
どうしたものか・・・
何ともしがたいのが現状だ。

寄付でとも考えたが、前にオットさんから咎められたことが頭を過り、莫大な金額の寄付は返って良くない事だと思い留まった。

考え方を変えれば、これで盤石な運営基盤が出来たとも言える。
お金の心配がまったく無くなったとまでは言わないが、今後は経済的に悩むことは少なくなりそうだ。
後は何にお金をかけていくことにするのかということだ。
贅沢な悩みとはこのことだろう。
俺にとっては頭が痛い話なのだが・・・

エンゾさんには到底話すことは出来ない。
無茶苦茶文句を言われるに決まっている。
本気で怒ったエンゾさんは鬼人かと思えるほどに怖い。
やれやれだ。

新たな新入社員を受け入れてからというもの、俺の仕事は随分と楽になってきていた。
朝はこれまで通り、畑に神気を与えに行くのだが、ギルも随分と上手になってきているので、俺の負担は随分と減ってきている。

ギルは成長著しく、今では魔力と神気を上手に使い分けて作業を行っている。
俺は昼前には身軽になるのだが、未だ貧乏性が抜けず、何かとやれることが無いかと見回ってしまうのだが、俺の隙いるところなど無いため、だいたい徒労に終わる。
結局のところ現場感が抜けきらないのだ。

昼からは面談依頼の商人達の相手をすることが多いのだが、これは、サラリと終わらせてしまうことがほとんどだ。
現在サウナ島には、様々な相談や依頼が持ち込まれているのだが、その大半は商人達からのものが多く、その内容は、専属商人にして欲しいという物と、サウナ島で商売をさせて欲しいという物だった。

専属商人はそのままのことで、このサウナ島で行われる商売の全てをその商人が一括で行うというもので、それをするメリットは全く思いつかない為、そうそうに丁重にお断りさせて頂いている。
どういう神経で申し入れているのかが理解できないのが本音だ。
何故にこのサウナ島の商売を取り仕切れると、考えているのかがよく分からない。
根拠のない自信ということなんだろうか?
正直言って呆れてしまっている。

そして、サウナ島で商売がしたいという申し入れは、大体が屋台を開きたいという申し入れなのだが、内容を聞くと、肉の串料理やらがほとんどで、中には試食を持ち込む熱心な者もいたが、お眼鏡に敵う者は一人もいなかった。
残念だが、これは旨いと思える物は今までにはなかった。
アドバイスをしようかとも思ったが、そこまでする必要はないと止めておいた。

中には武器類を販売したいという耳を疑う申し入れもあった、武器の所有を禁止しているのに、何故に武器類の販売が出来ると考えたのだろうか?頭のネジが相当に緩んでいるとしか考えられなかった。
もちのろんで速攻で帰って貰った。

残念な話であったが、この様な素っ頓狂な申し入れをする商人の大半はタイロンからの商人が多かった。
エンゾさんに苦情を入れようかとも思ったが、人選で悩んでることは分かっていたので、止めておいた。
エンゾさんなりに試行錯誤してくれているのだろう。
生温かく見守ろうと思う・・・

はっきりと言わせてもらえば、無駄な時間を過ごしている。
でも、この者達は神様達の信用を勝ち取った者達なのだから、無下には出来ないことは事実だ。
本当にこれが社長業なのか?と考えさせられるのだが・・・

他には雇って欲しいという者や、何の為の売り込みかよく分からない者も多く、どうとも身を結ばない日々を過ごすことになっていた。
まあ、これまでも同様の話は多く、上手に逃げまわっていただけなのだが、時間が出来た今となっては改めて無駄と感じてしまう。

何ともこの世界の商人達の我儘を、俺はひらりと躱し続けるしかないのだろうか・・・
せめて相手にとってのメッリトであったり、受け入れられるだけの工夫をして欲しいと思うのだが・・・
残念としか言いようがない。

そんな中懐かしい人達との再会があった。
『サンライズ』御一行である。
噂を聞きつけ、サウナ島にやって来てくれたのだった。

「皆さんお久しぶりです!」

「島野さん、元気そうですね」
ライドさんが握手を求めてきた。
当然に俺はそれに答える。

「島野さん、どういうことだよ?ここが島野さんの島だってのかよ?」
カイさんも変わらない物言いだ。

「噂を聞いた時には嬉しかったぜ!島野さんが、あのサウナ島の盟主だって話を聞いたからよ」
とサンライズの面々は、会うなり興奮気味だった。
俺も嬉しくなり、これ以降の予約を全部キャンセルして、サンライズの皆さんにサウナ島をアテンドし、サウナを堪能して貰うことになった。
サンライズの皆さんは相変わらずで、俺にとってもいい気分転換となった。
俺にとってはありがたい来島者だった。

「それにしても島野さんが、噂のサウナ島の盟主だったとは思いもしなかったぜ」
カイさんは相変わらずの口調で話し掛けてくれる、嬉しい限りだ。

「それで島野さん、なにがどうしてこんなことになっているんですか?」
ライドさんが尋ねてきた。

「俺もいろいろありまして、どこから何を話したらいいのやら、答えに困ってしまいますよ」
本当に説明に困ってしまう、いろいろとあり過ぎている。

「そんな雰囲気ですね、にしてもあの頃から、この人は何か違うと思っていましたが、まさかここまでのことをやってしまうとは、俺達には想像も出来なかったですよ、なあお前ら!」

「そうだよ、島野さん、何をどうしたらこんな事になるんだよ」
カイさんの遠慮のない物言いが心地よい。
まるで旧友と話しているみたいだ。

「なにをどうって言われても、こんなことになっちゃいましたよ」

「それ説明になってないだろ?島野さん」

「まったくだ」

「島野さんも変わりませんね」
とこんな他愛もない会話が俺には嬉しかった。

サウナと風呂を堪能した俺達は、大食堂に移り、食事とアルコールの時間となっていた。

「そういえば、サンライズの皆さんはどこでサウナ島の噂を聞いたんですか?」

「メッサーラですよ」
ライドさんが答えてくれる。

「メッサーラですか?ということは、最近はメッサーラで狩りを行っているのですか?」
メッサーラとはちょっと意外だ。

「ああ、最近は俺達もA級に昇格したんだ、魔獣の森にチャレンジ中ってところですよ」
お!魔獣の森、そうだったそうだった。あそこには魔獣の森があったんだった。

「魔獣の森の狩りはどうなんですか?」

「島野さん興味があるのか?」
しっかりありますよ。

「ええ、ありますね」
ルイ君にはまだ許可をもらってないが、先に情報収集を行っておこう。

「まあ、島野さん達ならどうってことない狩場でしょうね」
あれ?いきなり梯子を外された様な気がする。

「そうなんですか?」

「魔獣とは言ってもジャイアントピッグとかジャイアントブル、後はジャイアントボアやジャイアントラットが中心で、島野さん達が遅れを取るなんてことはないでしょう」
ああ、そのぐらいでは脅威にもならないな。

だが、今の俺達にとっては・・・
「それは魅力的な狩場ですね」

「でも、間違っても魔獣だから気は抜けませんけどね」

「でしょうね、他の種類の魔獣は出ないんですか?」

「どうだろう、森の奥の方まで潜っていけば、いろいろと出くわすかもしれないけど、だいたい浅いところでも狩れちゃうからな」

「でも家が欲しい獣ばかりですね」

「欲しいってどういうことなんだ?」
ジョーさんも相変わらずグイグイくるな。

「実は、慢性的な肉不足に悩まされているんですよ」

「肉不足?」

「そうです、このサウナ島で得られる肉には限りがあって、でもここの利用者は肉を所望しているということなんです」
俺は掻い摘んでこれまでの経緯を話した。

「てことはだ、島野さんは安定的に肉が欲しい、でもそうともいかないのが現状ということだな」
ウィルさんが話を纏めてくれた。

「そういうことです、なので時間がある時にルイ君と話をしようと考えていたところなんですよ」
俺の発言を受けて、サンライズの一行が引いていた。
どうして?

「島野さん、今さらっとルイ君と言ったけど、もしかして賢者ルイのことなのか?」

「はい、そうですけど・・・」
あれ?
俺は何か間違ってしまったらしい・・・そうか!

「いやいや彼はここの常連なんですよ、それで仲良くなって・・・」
ルイ君は甥っ子みないな感じなんだよな・・・

「まあ、島野さんの出鱈目は今に始まったことではないしな」

「そうだな」

「間違いない」
やはりそういう反応なのね・・・

「それで、ルイ君に許可を貰って魔獣の森で狩りをしようと、俺も考えていたんです」

「島野さん達なら相当数狩れるんじゃないか?」

「ああ、そうだろうな」

「なんなら一緒に狩りに出てみるかい?」
ライドさんからの申し入れだ。
ありがたい申し入れだが、どうなんだろうか・・・
マーク達の時とは事情が違うしな・・・
正直足で纏いな感じがするな、特に今のノンなら一人でも充分過ぎる戦力だしな。

「ありがたい申し入れですが、ちょっと考えさせてください」

「そうか、そうしてくれて構わない」

「俺達じゃあ足で纏いになっちゃうかもな?」
ジュースさんが横から割り込んできた。

「だろうな!ハハハ!」
ライドさんは笑い飛ばしている。

「でもよう、島野さんハンター協会には話を通さなくていいのか?」
ハンター協会か!忘れてた・・・

「そうだな、一応話は通しておいた方がいいかもな。ハンター協会にも面子ってもんがあるだろうしな」
面子ねー、やだやだ。

「討伐報酬とかいらないんですけどね」

「討伐報酬が要らないって?」

「はい、ただ単に肉が欲しいだけですから」

「であっても、一応話はしておいたほうがいいと思うぞ」

「そんなもんなんですかね?」

「そんなもんなんですよ」
面倒くさいがしょうがないか、まずはルイ君に話して、その後にハンター協会に話をしにいくか。
この後、サンライズの面々と何気ない話に盛り上がり、会話を楽しんだ。
旧友との何気ない会話には大きなリセット効果があった。
俺は気分が晴れて前向きになれたような気がした。