メルラドの復興開始から三ヶ月が経ったある日。

そういえば能力の『未来予測』が置き去りになっていたことを思い出し、さっそくどんな物かと試してみた。
LV1ということもあるんだろうが、結論から言うと、今日一日に起こる出来事を予測できる能力だった。
そして俺は既にこの能力を封印することを決めている。
何故かというと、つまらないからだ。
今日一日に起こる出来事として、ロンメルが晩飯の席で

「今日は笑ったぜ!レケの奴、もう昼過ぎだってのに二日酔いが抜けなくて、養殖場に落ちてやがんの。ハハハ!」

「ウッソ!」

「笑える!」

「ハハハ!」
と皆で爆笑している中、俺一人が笑えなかった。
笑えなかった理由は、レケが養殖場に落ちたことは知っていることだったからだ。

皆と笑えない、こんな能力は封印するに限る。
面白くない人生なんてつまらない。
先のことを知りたいと思う事はよくあったが、いざ体験してみると。
まったく違った。
先の事など知らないに限る。
ということであっさりと封印を決意したのだった。
でも本当に必要と思う時には、使うかもだけどね。

さて、神社が完成した。
出来は素晴らしい物だった。

宮造りの神社の存在感は圧倒的だった。
マークとランドに任せて正解だったようだ。
メタンが朝からそわそわしている。早く神社に行きたくてしょうがないようだ。

俺達は全員で神社へと向かう。
神社に着くと、まずは手を洗い、創造神様を祭ってある祭壇に向かう。
ここで皆に二礼二拍手一礼を教えた。
メタンがそんな作法が合ったのかと感心していたが、これは日本での物なので、こちらの世界ではどうなんだろうか?

皆で二礼二拍手一礼を行い、祈りを捧げた。
世界が平和でありますように・・・
聖者の祈りで、神気が濛々と立ち上っている。
メタンの信仰心が更に深くなりそうだ。

メタンはこの後、畑の創造神様の石像に祈る時も、二礼二拍手一礼を行う様になった。
パンパン、パンパンと煩い。
正直迷惑だ。
教えたのは俺だから文句は言えまい。



メルラドの復興だが、もはや完成したと言ってもいいだろう。
これは全てアイリスさんのお陰というところだ。
農場の技術改革が進み、またこれまで育ててこなかった野菜の品種も増え。
収穫量は大いに増えている。

既に、屋台の販売も終えている。
島の野菜のファンがついており、屋台終了には延期を望む声が多数寄せられたが、ジョシュア達が契約期間満了を迎えた為、やむなく終了となった。
人員を増やせばいいのだが、なかなかそうも行かない。



あと、ハウス栽培が順調に進んでおり、今ではイチゴ、小松菜、アスパラガスなどが収穫を迎えている。
流石はアイリスさんといったところだ。

ゴンガス様に、またハウス建設の依頼をしなければいけないのだが、こればかりは俺の一存という訳にはいかない。リチャードさんとピコさんと相談だな。
メルラドの復興はもはや終わりを告げていた。



俺はサウナで蒸されている、蒸されながらあることを考えている。
行うべきか、止めておくべきか。
汗をかきながらそんなことを考えていた。
よし!
俺は決心を固めた。
やろう!
いや、やってやろう!!


今日は五郎さんとゴンガス様にサウナ島に来てもらい、相談に乗って貰う手筈となっている。
まずは連れ立って、風呂とサウナを堪能し、晩飯を済ませて、晩酌がてらの話となった。

場所は俺の家のリビングである。あまり人に聞かれたくは無い為、あえてそうした。
俺はワインを飲み、ゴンガス様はトウモロコシ酒、五郎さんはビールを飲んでおり、つまみには枝豆だ。
そして、なぜかオリビアさんがいる。
呼んで無いのに・・・
普通にワインを飲みながら混じっている。まるでここにいて当然といわんばかりに。

「あの・・・オリビアさん?何故ここに?」

「え?何か面白そうな話を聞けそうな気がしたからですわ」
何という嗅覚だ!あんた何者なんだよ。
勘が鋭すぎるぞ!
怖いったらありゃしないよ!
まあ・・・いいんだけどね・・・

「それで、お前さんどうしたんだ?」

「ゴンガスの親父、そうせっつくなって」
五郎さんが咎める。

しかしこの二人も気が付いたら、随分と仲良くなったもんだ。
五郎さんはゴンガス様をゴンガスの親父と呼び、ゴンガス様は五郎さんのことをお前さんと呼ぶ。
ていうか、ゴンガス様は誰でもお前さんとしか呼ばない。
複数人の会話に合わないんだよな、誰のこと言ってるのか、分からない時があるんだっての。

「五郎さんいいんですよ、そろそろ話そうと思ってましたので」

「そうなのか?じゃあ始めてくれや」

「今このサウナ島と転移扉で繋がっているのは、五郎さんの所とゴンガス様の所、あとはゴンズ様とメルラドです」

「オリビアの所と言ってくだいさいませんの?」
女神に覗きこまれた。
あー、めんどくさい。

「オ、オリビアさんの所です」
そう言うと、オリビアさんは笑顔になった。
やれやれ。

「そこで、これから先は転移扉の設置個所を拡げようと考えています」

「ほう」

「そうか」

「ウフフ」
概ね理解を得れそうな雰囲気だ。

「これまでは、このサウナ島に来る人はかなり限定してきたつもりです」

「そうだな、そうする理由があったからのう」

「ええ、しかし、これからは方針を変えようと思うんです」

「それで、どうすると?」

「これからは、転移扉の設置個所を増やし、サウナ島に神様であれば、誰でも来れるようにしようと思うんです」

「なるほど」

「ただ、これは俺が会ったことがある神様に限定されます」

「どうしてだ?」

「転移扉が設置できないからです」

「ああ、そういうことか・・・」

「今後設置できるのは、コロン街と、カナンの村と、ボルンの街です。あとメッサーラの設置はできますが、あそこには神様がいませんので何ともです。タイロンは・・・今のところ積極的には考えていません」

「そうか、何でそうしようと思うんでえ?」

「まずはこの世界の流通を変えようと思うんです」

「流通ですの?」

「そうです、このサウナ島を起点に様々な物や人が、行き来できるようにしようということです」

「ほう、物や人をか・・・いいんじゃねえか」

「今でいえば、ゴンガス様はメルラドにもいかれましたし、五郎さんの温泉街に行くことも可能です」

「そうだな、現に儂はメルラドに行ったからのう」

「ゴンガスの親父、いい加減に儂の温泉街に来いよな?」

「おお悪い悪い、近いうちにきっとな」

「ああ?本当だろうな?」

「ああ、約束だ」

「私も五郎の温泉街に行きたいわ」

「おお、いいじゃねえか、オリビアも来てくれや」
話が脱線しておりますがな・・・

「あの・・・よろしいでしょうか?」

「ああ、すまねえ島野、続けてくれや」

「それで、物と人が僅かな時間で移動可能というのは画期的なことです。これのネットワークを、今後は積極的に広げていこうと考えています」

「ちょっと待て島野、例の件はどうするんだ?」

「世界樹のことですか?」

「ああ、そうだ」

「そこですが、あくまで転移扉を開けれるのは神様だけです。逆にいえばここは神様が集まる場所です。そんな所で悪さをしようとする者が紛れ込むことは、無いんじゃないかと思いますが、どうでしょう?」

「確かにそうだな。そんな不届き者が紛れ込むことはまず無いだろうな」

「それに言ってなかったかもしれませんが、世界樹には俺が結界を張ってあります」

「そうなのか?なら万が一にも、世界樹の葉を取ることなんて出来無いだろうのう」

「守さんはそんなこともできますのね」
オリビアさんに関心されてしまった。

「ええ、それにこのサウナ島は聖獣と神獣がいます。戦力は充分かと」

「それは間違えねえな、お前えらと相対出来るのは、この南半球にはどこにもねえな、ガハハ!」
五郎さんが豪快に笑っている。

「それにこのサウナ島に来れるのは、神様がこいつなら連れて行ってもいいと判断した者に限られます」

「なるほどのう、身元も確かな者に限定されるということだの」

「ええ、そうです」

「そこで、相談したいのは、どういうルールを設けるかということなんです」

「ルールか・・・難しいのう」

「ああそうだ。お前さんのことだ、腹案があるんだろう?」

「ありますが、ものすごくざっくりした物ですよ」

「島野、いいから言ってみろや」

「では言いますが、フリーにしようと考えています。各自の神様の判断に任せようと思っています」
場が一瞬凍り付いた。

「お前さんそれは、やり過ぎじゃないか?」

「ええ、そうですわ」

「いや、それぐらいでいいと思うんです。ただ、扉を出たら即サウナ島という造りにはしないようにと考えています」

「ほう?どういうことでえ?」

「今は扉を開いたら、サウナ島の中心に繋がりますが、転移扉の設置場所を変えて、扉を開いたら、囲われた場所を経てから、その先の用途に合わせた利用が出来る様にしようと考えています」

「一度、門番のチェックと受けるということだのう」

「いえ、警備兵なんて物々しい者は配置しません」

「じゃあ、どうするんだ?」

「受付を設けます」

「受付だと?不用心じゃねのか?」

「そこは、神様達を信じようと思います。間違ってもこの島に仇名す者など連れて来ないでしょうし」

「そうは言うがな、万が一ってこともあるだろうが?」

「それを言い出したら、切りが無いので、何も出来なくなりますよ」

「まあ、そりゃあそうだがな」
五郎さんなりの優しさだな。
それに万が一があっても対応できる気がする、身内を褒める訳では無いが、うちは優秀な者達ばかりだからね。

「俺はこれまでに何ヶ国訪れましたが、入国する際の対応は様々でした。はやり入国時の対応はその国や村の顔です、物々しくしたくはないんです。良い印象を与えたいんですよ」

「そういう考え方か・・・嫌いじゃないがな」

「ええ、分かって貰えると助かります」

「私は、いいと思いますわ」

「ありがとうございます」

「お前さんがそういうなら、そうすればいい」

「それに、この島に訪れる人の目的は五種類になると思います」

「五種類ですか?」

「ええ、まずは商売で商談や、商品のやり取りを行うケース。これは実は迎賓館を作って、そこで行っていただく様にしようと考えてます」

「迎賓館か、考えたな」

「迎賓館って何だ?」

「お客をお迎えすることに特化した建物、と考えて貰っていいかと」

「ほう、具体的にはどうなんだ?」

「商談が出来る個室や、フロアーを作ります。そこでお茶やコーヒー等を飲みながらゆっくりとして貰い、じっくりと商談を行って貰います。さらに宿泊施設も作ろうと思ってます」

「なるほどのう、それは良いかもしれんのう」

「そこで、様々な国や村の代表者や商人が交流を図ってもらい、商品のやり取りだけでは無く、文化の発信地となるのではないかと思うんです」

「文化か・・・国と国が交われば、そうなって行くんだろうな」

「それに技術の交流も出来るようになるとも思えます」

「技術交流っていうと、アイリスちゃんがやってる農業指導の様な物なのかしら?」

「そうですね、分かりやすく言えばですが」

「アイリスさんのって、何やってんだ?島野?」

「それは、また今度説明します」

「儂も聞きたいのう」

「だから、また今度にしてくださいって」
この親父達は本当に、何度も話の腰を折るんじゃないよ、まったく。

「話を戻しますよ」

「ああ、悪りい」

「次に移動手段としての利用です」

「まあ、そうなるわな」

「これまで移動に何十日も掛かったのが、数分で済み、更に安全で移動できるのは驚異的な発展です」

「間違いねえな、しかしこれはとんでもねえ価値だな。日本の高速道路よりも価値がある。遂に日本を超えるな。これは面白れえ。ガハハハ!」
確かに現代日本を超える便利さだ。

「次に観光です」

「それはまあ、そうだろうのう」

「観光はあるわな」

「そうですわ」

「まあ、これは普通のことです、特に何をする訳でもありませんが、俺の予想としては、畑を見たいという人達が多いかと思います」

「それはそうだろう、ここの畑は特別だからのう」

「お褒め頂き光栄です」

「けっ!こればっかりは間違えねえな、とはいってもアイリスさんが凄えんだけどな」

「分かってますよ、ありがとうございます、それで次が一番大事なことなんですが・・・」

「何だ?」

「大事って?」

「何があるのかしら?」
俺は全員を見回してから言った。
しっかり間を作って、言い放った。

「この島にスーパー銭湯を造ります!!」
全員が目を見開いた。
そして、笑顔の花が咲き乱れた。

「おお!遂にやるのか!」

「五郎から聞いてはいたが、いよいよ造るのか!」

「スーパー銭湯とは、何て甘美な響きなのかしら!」

「やります!いえ、やらせて頂きます!島野守!最高のスーパー銭湯を、ここサウナ島に造ります!」
俺は立ち上がって、ガッツポーズをして宣言した。
遂に造ることにした、念願の?念願なのか?そうなのか?いや、ここは念願としておこう。
俺は異世界に念願のスーパー銭湯を造るぞ!
何故か拍手で迎えられた、気分が良いな。
ああ、悦に浸りそうだ。
そして整いそう・・・

「そうか、そうなると話が変わってくるな・・・」

「そうだな、変わってくるのう・・・」

「ええ、そうなりますわね・・・」
何故だか、考え込みだした三人の神様達。
あれ?話しが変わる?ん?どゆこと?
俺はもっとこう、文化交流とか、物流革命とか・・・
ん?まあいっか。

一先ずブツブツ言っている神様達を眺めて過ごした。
この人達は・・・はよ終わらんかあ!
待ち切れず手を叩いた。
パンパン!

「そろそろいいですか?」

「ああ、すまん、いろいろ考えてしまった」

「私も我を忘れてしまいましたわ」

「すまん島野、この世界にスーパー銭湯は・・・嬉しいじゃねえか!ええ!」

「はい、ありがとうございます。全力で行います!」

「頼むぞ!」

「そうしてくれ!」

「お願いしますわよ!」
期待の眼差しを一身に受け止めた。
五郎さんとゴンガス様はともかく、オリビアさんはスーパー銭湯を知ってるのか?
まぁいいや、この人のことはよく分からん。

「そして、最後にこの島に来る、理由としてはその他になりますかね」

「その他か、ってそりゃそうだろ」

「そうだのう」

「ただ、どんなその他があるのかは、正直分かりませんが」

「相談事とかがあるんだろうのう」

「ああ、相談事が持ち込まれるのは間違えねえだろうな」

「といいますと?」

「なんだお前さん、分からんのか?」

「ええ、どういうことでしょうか?」

「お前さんは異世界人だろうが、その知識を求めて相談事があるに違いない」

「ちょっと待ってください。この島は解放する方向にしますが、俺自信のことを吹聴する気はありませんよ」

「そんなことは分かっておる。そうでは無く、お前さんは既にメルラドやメッサーラ、タイロンで活躍しておる。素性が分かるのも時間の問題だと思うがのう?それにこのサウナ島を解放するとなると尚更じゃないのか?」

「言われてみれば、そうですね・・・」
でもここにきて引くことは出来ないしな。
まあいいか、なんとかなるだろう。

「まあ、どうにかなるでしょう」

「急に雑だな、お前えらしいといえば、らしいがな、ガハハハ!」
俺らしいのか?五郎さんが言うんだから、そうなんだろうな。

「他にも考えられることはありますか?」

「どうだろうな、神が集まる場所となれば、各神に依頼ごとがあるやもしれんのう?」

「そうなったら、各自の判断で行ってください」

「まず間違えなくそうなるな、ゴンガスの親父に一番仕事が回ってきそうだな」

「そうなのか?」

「そりゃあそうだろうがよ、儂なんか、親父が打つ包丁が欲しくて仕方がねえんだぞ」

「ハハハ、お前えさんがそこまで言うのなら、お前さん専用に打ってやろうか?」

「ほんとうか?まけておいてくれよ」

「ああ、任せとけ」
ゴンガス様の包丁は高いからな、俺でも買わなかった一品だからな。

「そういえば、入島時に用途に分けて、お金を貰うようにします」

「えっ!いくら取るんだ?」

「まだ金額は決めてませんが、神様達からは取りませんよ」

「「本当か!」」
何でここはハモルかね・・・

「それは何でなんですか?」
オリビアさんからの質問だ。

「神様達はいわばツアーコンダクターですからね」

「何でえそれは?」

「要は、この島にお金を落としてくれる人達を連れて来てくれる方々ですので、お金を取らないということです。但し、食事やアルコール類は、お金を支払って貰います」

「何?それはどうにかならんのか!これまで道りとはいかんのか?」
ゴンガス様にはどれだけ飲み食いされたことか・・・いやそれを言うならオリビアさんか・・・五郎さんはそこまででもないか・・・

「まあ、ビールの二杯ぐらいならいいですよ」

「そこを何とか!もう一声!」
ゴンガス様が手を合わせて頭を下げている。
この人そんなにお金に困ってるのか?

「親父もう、充分じゃねえか」

「それじゃあ神様料金ということで、半額にしますよ」

「おお!流石はお前さんだのう」

「太っ腹過ぎじゃねえか」
やれやれだな。これからもお世話になるから良しとしよう。

「まあ、完成までには随分時間が掛かるとは思いますが、期待しておいてください」

「そうだのう」

「期待しておりますわ」

「楽しみが増えたじゃねえか」
こうして俺の決意表明は終わった。



転移扉の設置と、迎賓館とスーパー銭湯の建設、そして新たな社員寮の建設依頼に、大工の街ボルンに来ている。
お供はマークとランドだ。

「ランドール様は何処にいるかな?」

「この時間なら現場か事務所でしょうね」

「事務所があるのか?」

「はい、設計事務所とでもいいましょうか、設計や製図の作成はそこで行っていますね」

「そうなのか、じゃあその事務所に行ってみようか」

「分かりました、付いてきてください」

「ああ」
俺達はマークに着いて行った。
ランドール様は事務所にいた。
ランドール様は、一心不乱に製図を書いていた。

なんか、声かけずらいな・・・
空気を読まずにランドが声を掛ける。

「ランドール様、こんちわっす!」

「おお、ランドか、あっ!島野さんまで、お久しぶりです」

「ランドール様お久しぶりです。すいませんお仕事中に」

「いえいえ、どうしましたか?」

「ちょっと、込み入った話がありまして」

「込み入った話ですか?」

「はい、まずは見て貰いたい物があります」

「どういった物でしょうか?」
『収納』から転移扉を取り出した。

「これは転移扉です」

「転移扉ですか?その名の通り転移する扉ということですか?」

「はい、そうです」
ランドール様は驚愕の表情を浮かべていた。

「島野さん、世界が変わりますね」

「ええ、変わりますよ」

「おお、何という・・・」
言葉にならないようだ。

「これをまずはランドール様に寄贈します、これでランドール様は、いつでもサウナ島に来ることが出来ます」

「素晴らしい、何ということだ。本当に世界が変わるな」

「今から時間はありますか?」

「ああ、何を差し置いても、島野さんの話を聞いた方がよさそうだ」

「そう言って貰えると助かります」

「それで、どうすればいい?」

「ひとまずはサウナ島に来ませんか?」

「行っていいのか?」

「はい、もちろんです」

「じゃあこの扉を使えばいいのか?」

「はい、そうしましょう」
ランドール様は恐る恐る扉を開いた。
その視線の先には、サウナ島が広がっていた。

「なんということだ・・・」

「では、行きましょう」
ランドール様の背中を押して、サウナ島に転移した。



「言葉にならんな・・・本当に転移してしまったようだ」
まだ実感が薄い様子。

「まずはこちらにお掛けください」
と椅子を勧めた。

「ああ、そうさせて貰うよ」

「メルル、ちょっといいか?」
メルルが駆け寄ってくる。
ランドール様はメルルを見ると、一瞬だけ鼻の下を伸ばした。
この人は変わらんな、反射的に鼻の下を伸ばしていたぞ。

「すまないがアイスコーヒーをお願いできるか?ランドール様は何にしますか?」

「申し訳ない、何があるのかな?」

「水にお茶に、コーヒーと後はジュースとか、大体何でもありますよ」

「じゃあ、飲んだことはないが、島野さんと同じものをお願いできるかな?」

「はい、マークとランドは?」

「俺もアイスコーヒーで」

「俺も」

「はいはい、皆さんブラックでいいですか?」

「俺はミルクと砂糖を」
甘党のランドが言った。

「俺はブラックで」

「俺も」

「では私もそうしよう」

「了解です」
メルルは調理場に向かった。

「なあ、可愛い子だな」
とランドール様がマークに言った。

「そうですか?元チームメンバーとしては、何とも思いませんがね」

「お前達のメンバーだったのか・・・残念だ・・・」
何が残念なんだよ!このエロ神め!

「ランドール様改めまして、サウナ島にようこそ」

「島野さんありがとう、ランド達からここの噂は聞いてはいたが、素晴らしい島ですね、気持ちがいいよ」

「ありがとうございます。ここの島風は気持ちいいんですよ、湿り気も無く、最高の環境だと自負しております」

「その気持ちはわかるよ、羨ましい限りだ」

「さて、話を始めましょうか」

「ええ、お願いします」

「まず端的な話をさせて貰います」

「どうぞ」

「この島でこれから建設ラッシュを迎えます」

「建設ラッシュですか?」

「そうです大規模な建設工事を行います、それをランドール様に手伝って欲しいのです」

「具体的には何を造っていこうと?」

「はい、順を追って説明させて頂きます。少し長くなりますがいいでしょうか?」

「お願いします」

「まず、このサウナ島に神様が集まる様に、この転移扉を国や街や村に、どんどん展開していきます」

「・・・」

「分かっているとは思いますが、この転移扉は神様にしか開けることは出来ません」

「それはさっき気づいたよ、神力が減ったのを感じたからね」

「それで、今はボルン含めて五カ所繋がっています。今後随時転移扉の設置先を増やしていく予定です」

「ちなみに今はどこと繋がっているのかな?」

「今はメルラド、ゴロウ、鍛冶の街、漁師の街、そしてボルンです」

「広範囲に繋がっているようだ」

「はい、この先はコロンの街と、養蜂の村カナンに繋げる予定です。メッサーラとタイロンは考え中です」

「なるほど」

「この先も俺は旅を続けて、転移扉の設置先を増やしていこうと考えています」

「そうなのか・・・」

「そこで、このサウナ島に集まる人達の為に、迎賓館とスーパー銭湯を造ろうと考えています」

「ちょっと待ってくれ島野さん、迎賓館は何となく分かるが、スーパー銭湯とは何なのかな?」

「それは後で体験して貰おうと思います」

「体験ですか?」

「はい、そうです。期待していてください」

「ほう、それは楽しみだ」

「それで、後は社員寮も作ります」

「社員寮ね、それは流石に分るよ」

「ということで建設ラッシュになります。そこで、設計段階からランドール様に手伝って貰えないかという相談なんです」

「なるほど・・・」
ランドール様が腕を組んで考えている。
メルルがコーヒーを持って現れた。
各自にコーヒーを給仕してくれる。
コーヒーをランドール様が、ちょろっと口につけた。

「ん!何とも表現に困るが、複雑な味ですね。でも奥深い味を感じる・・・」
始めてコーヒーを飲んだ時の感想はまちまちだが、大体こんな感じだろう。

「島野さん、メッサーラの学校はどんな状況なんだろうか?そことバッティングしたら流石に難しいと思うのだが・・・」

「それは大丈夫かと思います。あそこはまだまだ下準備が始まったばかりですので」

「であれば問題無いと思うが、問題は島野さんがいうスーパー銭湯がどういう物かということだな」

「スーパー銭湯と迎賓館に関しては、俺が積極的に手を入れて行くつもりなので、多分上手くいくのではないかと考えています」

「そうなのか?」

「はい、今回の工事は、木材やその他必要な材料に関しても、惜しげなく俺の能力をフル稼働するつもりです」

「そうか、実はあれからいろいろと試してはいるんだが、いまいちまだ私も新能力を会得出来ていなくてね、この機会にいろいろ見させて貰えるとありがたいな」

「ええ、一切手を抜くこと無くやろうと思ってますので、どれだけでも観察してください」

「それは助かる」

「個人的には『加工』は、ランドール様には取得して欲しいと思っていますので、そうして貰えると嬉しいです」

「島野さん、ありがとう・・・」
ランドール様は頭を下げた。

「では、まずはイメージが出来る様に、風呂とサウナを体験して貰いましょうか」

「サウナですか?」

「ええそうです。スーパー銭湯とは、お風呂やサウナ等を中心とした施設です。食事もできますし、横になって寛ぐこともできます」

「そんな施設を造ろうというのですね、これはまた壮大な建築物になりますね」

「ええ、成し遂げましょう」

「ええ、是非!」
俺達は堅い握手を交わした。



脱衣所で海パンに着替えて、シャワーで体を洗ってから、露天風呂に入った。
ランドール様は終始、シャワーの構造や、水道に関して質問し、特に上下水道に関してはそうとうな興味を持っていた。

「ああー」

「気持ちいい」

「これは素晴らしい」
と皆で声を漏らす。

「島野さん、この露天風呂だけでも素晴らしい施設です。何より水がこうもふんだんに使えることが素晴らしい。私もたまに温泉は入るが、ここまで透明感のある水は見たことが無い」

「大工の神様に褒められるとは、嬉しいですね」

「実際に素晴らしいですよ、この風呂の構造もしっかりしている。この石の隙間を無くす加工はなかなかできるもんじゃないですよ」

「ありがとうございます。これも異世界の知識と、俺の能力で出来たものです」

「どんな能力ですか?」

「これは『合成』という能力で、引っ付ける能力です」

「なるほど『合成』ですか、興味が尽きないですね」

「これもランドール様には、親和性がある能力かもしれないですね」

「そうかもしれませね」
ここで人の気配を感じて振り返ってみると、水着姿のオリビアさんとゴンとリンちゃんが居た。

「あれ?守さんも露天風呂ですか?」

「オリビアさん、またいらしてたんですね」

「良いじゃない、減るもんじゃないんだし」
減るもんじゃないって・・・あんた結構飲み食いしてるよね。

「あ、ああ!」
振り返るとランドール様が声を漏らしていた。
おいおいおい!鼻血出てんじゃないか!
下似た顔で鼻血を垂らすランドール様がいた。

「ちょ、ちょっとランドール様、大丈夫ですか?」

「ああ、駄目だ・・・刺激が強すぎる・・・」
これは何とも・・・
一先ず鼻血が収まるまで、女性陣には露天風呂から出てもらった。
何やってんだよ、このエロ神!



気を取り直してサウナに向かう。
女性陣達には申し訳ないが、時間をずらして入浴する様にお願いした。
俺はスーパー銭湯は、完全に男女別々にすると固く決意した。

「うわ!熱っ!」
ランドール様が騒いでいる。

「ここでじっくり汗を流すんですよ」

「そうなんですね、しかし熱い。もう汗が滲み出ている」

「まだまだですよ」

「そうなのか、これは忍耐力が付きそうですね」

「いえいえ、我慢のし過ぎは返ってよくないので、ほどほどにしましょう」

「なるほど、匙加減が難しいですね」

「慣れてくるとそうでもありませんよ」

「そうなんですね・・・」
五分後に俺達はサウナを出た。
掛け水をしてから水風呂に入る。

「・・・寒い・・・が気持ちいい・・・」
ランドール様が声を漏らしていた。
水風呂を出て外気浴を行う。

「ああ・・・これはいい・・・解放感が凄い・・・癖になりそうだ・・・内側から暖かくなっていく」
新たなサウナジャンキー神様の誕生だな。
その後二セット行い終了した。



「サウナは凄い解放感でした、これは素晴らしい娯楽になりますね」

「そうでしょう、これは癖になるんですよ」
マークが自慢げに言う。

「もはやこれが無いと、生きていけませんよ」
ランドも自慢げだ。

「中には苦手な人も居ますが、好きな人は本当に好きですからね。癖になるのは分かります」

「それで、このサウナやお風呂を中心とした施設を造るということですね、どれぐらいの規模感で考えてますか?」

「そうですね、構想はこれからランドール様と詰めていこうと考えていますが、この際ですから、お金に糸目は付けないつもりですし、皆が喜んでくれるよう大規模な物にしようと考えています」

「なるほど、木材などの材料はどうするつもりなんですか?」

「はい、この島の木材を利用しますし、当然次木をして環境保護にも勤めます。更に必要な材料も俺の『万能鉱石』を使って、何でも揃えることは出来ます」

「何でも?ちょっと待ってくれ『万能鉱石』とは何のことなんだ?」

「そう言えば話して無かったですね、せっかくですので見て貰いましょうか」

「ああ、頼むよ」
俺は、現在マーク達が住んでいる社員寮にアテンドした。

「まずこの基礎ですが、コンクリートを使用しております」

「コンクリート?」
と言ってランドール様は、コンクリートを触ったり、叩いたりしている。

「コンクリートは、砕いた石灰石に砂と砂利を混ぜて、水を混ぜ合わせた物です。それが固まると、この様な堅い石の様になります。そして、実はこの中に格子状の鉄を入れることによって、更に強度の強い基礎になっています」

「凄い技術じゃないか!島野さんあなたはとても博識だ、もっと教えてくれ!」

「ええ、あと、ちょっと見にくいですけれど、屋根にはガルバ二ウム合金という素材を利用しています。そして、これらの素材を俺の能力で確保しているんです」

「そうなのか。その『万能鉱石』とやらを見させて貰えないだろうか?」

「ええ、いいですよ」
俺は『万能鉱石』を出して見せた。

「今は何とも言えない鉱石なんですが、自分の欲しい鉱石をイメージしながら触れるとその通りの代物に代わります」

「なんとも・・・あまりに便利な能力だ・・・」

「でも例えば、金にしようとしたら、現在の価値などによって質量が変化しますので、今の大きさのままでは無く、小さな物になってしまうんですけどね」

「その辺は、上手く出来ているということか・・・これで、スーパー銭湯建設の部材は全て調達できるということか、それも一瞬で」

「はい、出鱈目でしょ?」

「ああ、出鱈目だ・・・」

「あとは、どういった構造で、どういった建物にしていくのか。そんなところから打ち合わせを重ねて行って。作図をして構造計算をしていければと考えています」

「島野さんは構造計算も出来るのか?」

「いえ、そこはお任せできればと・・・」

「そうか、それは任せて貰おう。だが俄然面白くなってきたぞ。何かと夢が広がるな、島野さん」

「はい、夢が広がります!」
それから、候補地を視察し、サウナ島をアテンドして夜を迎えた。



晩御飯がてらも話は尽きない。
今日のメニューはから揚げ他、野菜の揚げ物とを中心にした御飯となった。

から揚げは島の皆の大好物、一瞬で売れていく。
料理番の面々は、せっせと揚げ物を作ってくが、それよりも皆が食べるスピードが速い為、揚げ物渋滞を起こしている。
皆そうなることは分かっているので、誰も文句は言わない。
それよりも揚げたての揚げ物が、食べれることの方が嬉しい様だ。
ランドール様もから揚げには舌鼓を打っていた。

「それにしても、始めてこの島に来たが、あまりに魅了的な島だ、マークとランドが羨ましく思えてきたよ」

「でも、これからはランドール様もこのサウナ島にいつでも来られますよ、それに既に何人もの神様が、この島には転移扉を使って訪れています。ほら普通に島の皆に交じってますが、彼女は音楽の神様ですしね」
オリビアさんを指さした。
オリビアさんは、一心不乱にから揚げを頬張っている。

「彼女はなんて綺麗なんだ」
ランドール様がエロ神の顔をしていた。

「はは、話を進めてもいいですか?」

「ああ、すまない。続けて貰おう」

「それで、職人の数はどれぐらい集めれそうですか?」

「おそらく今は建設中の者達は少ないし、メッサーラの学校もまだまだ先となれば、二十人近くは揃えられると思う」

「それは心強いです、今回はスーパー銭湯だけでなく、社員寮と迎賓館もありますので、職人の人数は一人でも多くいて貰えると助かります」

「タイミングが良かったよ、ちょうど大きな仕事を終えた所だったんでね」

「後、工事中の食事はこちらで提供しようと考えてます」

「そこまでやってくれるのか?」

「はい、建築部材も俺の能力をフル稼働しますので、大工道具一式と職人さえ提供して貰えればいいと考えています」

「これは至れり尽くせりというか・・・そんな現場は始めてだよ」

「ありがとうございます、その分作業に集中してもらえれば、工期も短縮できるかと思いますが、どうでしょうか?」

「間違いなくそうなるね、正直一番大変なのは、建築部材の調達なんだよ、それが一瞬で調達できるなんて、そんなありがたいことはないな。後、明日でいいから上下水道の視察をさせて貰えないか?」

「ええ、大丈夫です。これから数週間は喧々諤々と打ち合わせをしていきましょう」

「楽しみだな」

「そうですね」
その後酔っぱらったランドール様は、オリビアさんに絡み、オリビアさんの歌で眠らされていた。
あんな撃退法があるなんてな。
凄!



翌日、朝食を終え、さっそく上下水道の視察を行う。

「そうか、こんな仕組みになっていたんだな。納得がいったよ」

「コツは浄水池を造ることなんです。これが無いと、綺麗な水にはなりませんからね」

「それに、このプリコという魚。初めて見るな」

「この魚は繁殖力も高く、食べても美味しい魚です。まさに一石二鳥の魚なんです」

「実は水道には前から興味があって、私の街にも導入を検討していた所だったんだよ。目の前にその正解があるんだ、再現は可能だ。ありがとう島野さん」

「いえ、どういたしまして」
こうやって技術交流を深めていくことも、転移扉を設置した意味があると言う事だ。

「じゃあ、大体の所は把握出来たから、簡単なスケッチを用意しようと思うんだが、その前に、どの建物から手を付けるんだい?」

「そうですね、完成の順番としての理想は、社員寮が一番先で、その次にスーパー銭湯、最後に迎賓館という順番です。後すいません伝え漏れてました」

「何をだい?」

「転移扉を設置する館の作成も必要でした」

「転移扉を設置する館?」

「はい、今はダイレクトに島の中心に繋げてますけど、設置個所は変える必要があるんです、いきなりダイレクトに島の中心では、安全面などを考えても不味いかと」

「それはそうだろう、転移扉を出て、門を通過してから島に入るということだね」

「はい、そうです、それ専用の館です」

「そうであれば、簡単に出来ると思うよ。検問所の室内版といった所なんだろ」

「そこまで物騒な物では無いですが、平たく言えばそうですね」

「じゃあ心配には及ばない、それ含めてラフ案を作っておくよ」

「ありがとうございます」

「三日ほど貰えるかな?」

「はい、よろしくお願いします」

「ああ、その間にも遊びに来させて貰うよ」

「是非そうしてください。お待ちしています」

「ああ、よろしく頼むよ」
ランドール様は転移扉を使って帰っていった。
頼もしい協力者を得て、順風満帆な心持となった。
さて、面白くなってきたぞ!
スーパー銭湯!造っちゃうぞ!

一人盛り上がる守であった。