いつもの午前中の畑の作業を終え、俺はどうしたものかと考えている。

考えているのは『魔力回復薬』について、例の島の温泉のお湯のことだ。
魔力の回復ができるということは、異例の話であり、画期的な物であると、島の皆に聞かされている。
魔力のない俺には、どうでもいい物なのだが、だからといって放置する訳にもいかない。

魔法といったらメッサーラだ。
幸いゴンによって、国家元首との直接的なやり取りが可能となっている為、この国から販路を広げようと考えている。
販路はこれまでアグネスは置いておいて、五郎さんの所に限定していたが、魔力については、五郎さんも俺と同じで無いため、五郎案件では無いと思っている。

ただ、メルル曰く
「これは世界の有り様を変えるかもしれません」
メタン曰く
「世紀の大発見ですな」
とのことだった。

メルルはともかく、メタンが大袈裟なのは分かっているが、これがあながち過言と言い捨れないことは理解している。
この世界では、魔力は大事な要素であり、無視できないことも確かだ。
特に『魔法国メッサーラ』では、魔法が国の根幹を担っているとメタンは言っていた。
はたしてどうしたものか・・・

まあ、そろそろゴンが留学して三ヶ月近く経っている為、顔を見がてらルイ君に相談してみようと考えている。
俺なりのプランも考えてみたから、今度話してみようと思う。



そういえば今さらだが、メッサーラには神様は居ないらしい。

メタン曰く
「これだけ魔法が浸透した国ならば、神の権能に頼らなくてもやっていけるのですな」
ということだった。

でも、たまにひょっこりと、神様が現れることはあるらしい。
だいたいは、数日見学してどこかに行ってしまうらしいのだが。
そんな気ままな神様がいるんだなと、俺は始めて知った。

さて、俺はギルとメタンを伴って、ゴンに会いに来ている。
魔法学園の女子寮の前にある警備室の前で、ゴンを待っている。

「主、お待たせしました!」
ゴンが駆け寄って来た。
リンちゃんも一緒のようだ。

「ゴン姉、遅いよ」
ギルがゴンに言った。

「ギルごめん、今取り込んでてね」

「そうなの?」

「そうなの、詳しくはまた教えるね」

「へえー」

「ゴン、元気にしてるか?」

「主、待たせてしまってすいません」

「いやそんなことはいい、リンちゃん久しぶりだな」

「お、お久しぶりです。あ、あの、前に頂いたおにぎりとかいうの、本当に美味しかったです。ご馳走様でした」
リンちゃんはペコペコしていた。

「なあに、欲しければまた作ってあげるよ」
と言うと、リンちゃんは羨望の眼差しで俺を見て来た。

そんなにだったのね・・・
これは・・・今回は別の物を用意してきたけど、作らないといけないのかな?

「でゴン、ルイ君に用事があるんだが、案内できるか?」

「ルイ君ですか?ええ、出来ますよ」

「じゃあ頼む」
ゴンとリンちゃんに誘導されて、ルイ君の元にやってきた。

途中、警備兵に止められそうになったが、ゴンの顔をみると、普通に通過するのを許してくれた。
顔パスってやつ?ありがたいです。
ルイ君の執務室であろう部屋の前に来た。
扉の両隣に警備兵が立っている。
国家元首ともなれば、警備は厳重のようだ。
ここも顔パスで通される。

ドアをノックするゴン。
ドンドン!
「ルイ君、私よ、開けていい?」
遠慮がまったくないゴン。

頼もしい娘です。
隣を見ると、慣れた様子のリンちゃんが居た。
その表情は平然としているが。
半ば諦めた様な表情に見えるのは、どうなんだろうか・・・

「いいよ、ゴンちゃんどうぞ」
と声が返ってくる。

扉を潜ると、
「えっ!島野さんご無沙汰してます」
と立ち上がって駆け寄って来るルイ君。

「やあルイ君、元気だったかい?」

「ええ、元気です。どうぞこちらへ」
とソファーに座るように誘導された。

「島野さん、本当に会いたかったです、何よりお礼が言いたくて・・・」
感極まっているルイ君。

「お礼なんて大袈裟だよルイ君、ハハハ」
とりあえず笑っておいた。

「いや、そんなことはありません。島野さんに叱られてから僕も考えを改めました」
へえー、確かにルイ君の雰囲気は変わったな。
まあ、今は詮索しないでおこう。

「まあ、それはいいとして、ルイ君ちょっと相談があるんだがいいかな?」
表情を改めるルイ君。

「僕に何を相談してくれるんですか?僕にできることなら何でもさせていただきますよ」
おい!国家元首が何を勝手に言っているんだ?
安易なコメントは差し控えてくださいな。

俺は『収納』から瓶に入った『魔力回復薬』を取り出した。
三本をテーブルに置く。
『魔力回復薬』の分量は百五十ミリリットル、比較的少量と思われる。

「これはな『魔力回復薬』だ」

「『魔力回復薬』ですか?始めて聞きます」
ゴンの反応はいまいち。
ルイ君とリンちゃんは固まっていた。
そうなるとは思っていましたよ。
もう慣れましたよ、この反応は。

「島野さん、本当でしょうか?これまでメッサーラが、長い歴史をかけて開発を行ってきましたが『魔力回復薬』は未だ完成しておりません。いや開発の目途すらも立っていない代物です」
ルイ君が目を細めている。

「そうなのか、だいだいメタンから聞いた通りだな」
メタンから今ルイ君が言ったことは前もって聞いていた。
メタンが誇らしそうに俺の横に座っている。

「じゃあルイ君『鑑定』してみろよ、出来るんだろ?」

「うっ!」
言葉に詰まるルイ君、下を向きだした。

「案の定だな、ルイ君、素直でよろしい、どうせゴンに始めて会った時にも、ゴンを『鑑定』したんだろ?」
こちらを向いたルイ君、図星だったんだろう、目に罪悪感が滲んでいる。

「すいません・・・もう二度としません・・・」
目に涙が浮かんでいるルイ君。

「何も怒ってはいないよ『鑑定』したのも分からなくはないからな、聖獣は独特な気配をしているから、勘が鋭い奴は興味を持って当然だ。それに安全面から、万が一を考えて『鑑定』するのはしょうがないことだろ?」
ルイ君の表情はさらに罪悪感が募ったものになっていた。
あれ?間違ったのか?

「申し訳ありません、違うのです。ゴンちゃんを始めて見た時に、僕は彼女の同意無く『鑑定』を行いました。今でも後悔しています。ゴンちゃん本当にごめんなさい」
とゴンに向かって頭を下げた。
ゴンは眉間に皺を寄せて、考え込んでいる様子。

するとゴンはルイ君の頭を撫でて
「もういいよ、過去のことでしょ?それに『鑑定』されなかったら、ルイ君とはお友達になれなかったかもしれないでしょ、許します!」
と胸を張って宣言した。

ゴンは成長したな。いいことだ。うんうん。
でも・・・こっちは・・・
まだ項垂れているルイ君。

「ルイ君・・・君はまさか・・・ただの興味本位で『鑑定』をしたのか?」
俺の方に向き直り、頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!」
あらら・・・お行儀の悪い事・・・まあ今となってどうでもいいかな?ゴンが許したんだし。

「もう二度と相手の許可なくするなよ、分かったな!」

「相手の許可なく『鑑定』を行ったのは、これが最初で最後です。もう二度としません、約束します!」

「分かった、君を信じよう」
ルイ君は顔を上げた。しっかりと泣いていた。
うえーん!うえーん!と号泣しだした。
ありゃりゃ・・・相当な罪悪感を感じていたんだろうな。
ひとしきりルイ君が泣き終えたところで、改めて聞いてみる。

「それでルイ君はゴンの何に興味を持ったんだ?」

「それは・・・」
言うとルイ君の顔が見る見る赤くなっていった。

「ゴ、ゴンちゃんが可愛いかったから・・・」
今度はゴンが真っ赤になっていた。
青春かよ!

「それで、もういいだろ?『鑑定』してみてくれ」

「はい、すいません、もう大丈夫です」
と立ち直ったルイ君。

「『鑑定』」
とルイ君が唱えた。

「あれ?島野さん『鑑定』しましたけど、温泉水としか出ませんよ?」
勝った!どうやら俺の『鑑定』の方が、ルイ君より優れているようだ、俺の時はちゃんと飲用可と出てたからな。むふん!

「そうか、これはな、温泉街の神様の五郎さんから教えて貰ったんだが、五郎さんには『水質鑑定』という能力がある。それで見ると魔力回復効果有りと出たようなんだ。そうだよな?ギル」

「うん、そうだよ、僕は実際にそれを飲んでみたから分かるけど、魔力が回復したよ」

「ということで、一度飲んでみてくれ」

「いいんですか?そんな貴重な物を・・・」

「いいも何もその為にここに来てるんじゃないか、ルイ君も、ゴンもリンちゃんも飲んでみてくれ」

「私もいいのですか?」
リンちゃんが、私で本当にいいんですか?という具合に言った。
この子は謙遜が過ぎるな。

「ああ、申し訳ないが、検証も兼ねてみたいから、飲んで欲しいんだ」

「検証ですか?」

「そうだ、島の仲間で大体のことは検証済みだが、島には巨人族が居なくてね、種族によって回復効果に違いが無いかを知りたいんだ。ちなみに今のところ違いは出ていない」

「そうなのですね、お役に立てるのなら、飲ませて貰います」
意を決したリンちゃんが俺を見つめている。

「頼むよ、あと悪いが三人とも俺が『鑑定』をしていいか?個人情報は必ず守る、魔力以外は観ないようにするからさ」

「はい、喜んで」

「お願いします」

「もちろんです」

「悪いな、じゃあルイ君から」

「はい、飲ませて貰います」
『鑑定』して魔力を測定する。

「飲んでみてくれ」
ルイ君はグイっと飲んだ。
うんこれまでと変わらないな。

「じゃあ次はリンちゃんいいかな?」

「はい」
同じ様に測定を行う。
ほとんど変わらないな。

「次はゴン」

「はい」
測定を行う。
同じだな。

「三人とも体感としてはどうだ?」

「凄い、魔力が戻っています」

「ええ、間違いなく回復してます、凄いです!」

「主、味はいまいちです」
そんなことは聞いてませんよ、ゴンちゃん。

「な、ルイ君、分かっただろ?」

「はい、これはメッサーラを救うかもしれません」

「メッサーラを救う?」

「ええ、実は最近僕も知ったのですが、メッサーラには、慢性的な魔力不足を訴える者が多くいるのです」

「そうなのか?」

「ええ、特に農家が顕著なんです」

「農家か・・・水魔法と土魔法の魔法士だな」

「その通りです、特に水魔法の魔法士は、雨の日以外は毎日ですし、広大な畑の水やりとなると・・・」

「水道管は設置してないのか?」

「したくても、技術がありませんので」

「確かに技術がなければ難しいな、まあ提供できなくはないが、国中となると数年でどうにかなる物ではないからな」

「ですが、これがあれば、救えるかもしれない」

「それはそうだな、だがいろいろ検討しなくてはいけないことが多々ある」

「そうですな、価格であったり販売方法等ですな」

「メタン、その通りだ」

「そうですね、手に入らない値段では救えませんからね」

「ああそうだ、それを今後見定めていきたい。後『魔力回復薬』の効果だが、今飲んで貰った百五十ミリリットルの物で、多少の個人差は置いておいて、大体その者の最大魔力量の3割ほど回復できるようだ」
これが多いのか、少ないのか、回復出来るだけ益しとも思えるが。

「三割もですか?」
どうやら「しか」ではなく「も」の方だったようだ

「そうだ、ただ最大値を超えることは流石にないようだ」

「そうでしょうね、それが起こったら大変なことになります」

「そこでこの『魔法回復薬』だが、これは俺達の島の資源だ。いくら魔力不足だからと言われても、タダで譲るという考えはない」

「もちろんです」
ルイ君の表情は硬い。

「だからと言って、あまり稼ごうとも考えていない、定価に対して二割も貰えればいいと思っている」

「それだけでいいのですか?」

「ああ、但し条件がある」

「条件ですか?」

「そうだ、まず『魔力回復薬』の卸し先だが『魔法学園』にしたい」

「メッサーラでは無く、何故『魔法学園』なのでしょうか?」

「その理由として、まずはこの『魔法回復薬』は『魔法学園』が開発したことにして欲しい」
ルイ君が驚いている。

「それはいったい?」

「ああ、簡単にいえば、島に注目を集めたくはないからだ」

「注目を集めたくない・・・理由を聞かない方がよさそうですね?」

「悪いな、あとはその方が大衆も受け入れやすいと思ってさ」

「確かにそうかもしれません」

「それに学園長としても、これでもっと生徒数が増えるんじゃないか?」
したり顔で見つめてやった。

「お気遣い、ありがとうございます・・・」

「あと学園で得た利益の使い道だが、利益の何割かは、教会と孤児院に寄付して欲しいと考えている」
ルイ君の表情が変わった。

「それは素晴らしいです、特にメッサーラでは孤児の数が多いのです」
孤児の数が多い?何でだ?

「それは何でなんだ?」

「メッサーラでは、魔獣の森と呼ばれる地域があります。その名の通り魔獣が良く出る森です。幸いジャイアントラットや、ジャイアントピッグのような比較的弱い獣が多いのですが、魔獣化してますのであなどれません、場合によっては高ランクのハンターでも深手を負うこともあります。それによる死傷者が多く、孤児が多いのです」

「なるほど、だからメッサーラには、魔石が潤沢にあって魔道具の開発が出来ているということだな」
良かれ悪かれといったところか・・・

「はい、そういった側面もあり、国としては何も対策も出来ずにいる状況なのです」
憂鬱な表情を浮かべているルイ君。

「話は変わるが、俺は『魔力回復薬』の利益で、学校を作って欲しいと考えている」

「学校をですか?」
いまいち理解を得ていない様子のルイ君。

「但し、魔法を教えるのではなく、計算と読み書きと、一般常識を教える学校を作って、その運営資金にして欲しいと思っている」
一瞬間が出来た。

「それはどうしてでしょうか?」

「これは俺個人の感覚と想いになってしまうかもしれないが、この世界には読み書き計算が出来る者が、少ないと感じている。読み書き計算は生活する上で、最低限得ておかなければならない能力だと俺は思っている。考えてみて欲しい、計算が出来なくて屋台で食事を買って、お釣りをちょろまかされているなんてことがあるだろうし、大事な書類の意味も分からずにサインをさせられて、高額の金利を払わされている者もいるかもしれない、だから最低限の教育は必ず必要なんじゃないか?」
ルイ君は下を向いていた。

「それは・・・よく聞く話です。ちょろまかされた、騙されたとか、島野さんの言う通りです」
そうなんだろうな・・・現実は甘く無い。

「だろ?それは良くないと思わないか?」

「確かにそうです」

「だからさ、これが俺の条件だ、一度良く考えてみて欲しい」

「わかりました、検討させてください」

「ああ、そうしてくれ」

「島野さん、一つ我儘を言っていいでしょうか?」

「何だ?」

「一度島野さんの島を見学させて貰えないでしょうか?」

「ああ、ルイ君細かいことをいう様で申し訳ないが、島野の島ではなく島野達の島といって欲しい」

「すいません、というより、島に名前は無いんですか?」
あっ!そういえば無いな・・・今さら過ぎるが・・・島の皆と相談だな・・・島の名前ってそもそもいるのか?

「確かに、無いな・・・」

「無いんですか?」

「ああ、無いな」
無いもんは無いんだよ!これまで特に困ったことなんてないんだよ!

「まあ、それは良いとして、どうでしょうか?」
うーん、ルイ君を信用できなくはないが、こいつはこれでも国家元首だしな。
どうしたものか・・・

「主、ちょうどいい魔法を、私先日覚えました」
ゴンがここぞとばかりに言った。

「ん?なんの魔法だ?」

「契約魔法です」

「契約魔法?」

「はい、そうです。島の秘密を話せない様に、契約で縛ることができます」

「ほう、それはいいかもしれないな、で、仮に契約を破ったらどうなるんだ?」

「はい、いろいろな条件が付けられますが、私との友人関係の抹消なんてどうでしょうか?」
ルイ君が目玉が飛び出るほど驚いているのだが・・・
リンちゃんは頭を抱えているよ・・・
ゴンちゃん本当にそれでいいのかい?

「ああ、いいんじゃないか?どう思うルイ君?」

「ええ、契約に背くつもりはありませんので・・・」

「本当にいいのか?なかなかの契約だと思うが」

「はい、いいです・・・」
ルイ君は諦めているようだ。

「来るのはルイ君のみにして貰うぞ、警備の者とか付き人とかは無しだぞ」
考え込むルイ君。

「はい、なんとかします」
なんとかなるんだ。やるね、賢者君。

「じゃあ、島に来て貰おうか、リンちゃんも来るかい?」

「はい、是非お願いします!」
おっ!リンちゃんは直ぐに持ち直したな。
なんだかこの子も、随分腹が座った子になった様な気がするが、もしかしてゴンの影響か?
ああ、ルイ君がまた泣きそうになっているが、これは放っておこう。うん、見なかったことにしよう。

「で、いつ来るんだ?」

「ちょうど半期が終わり、三日間の休暇が与えられることになってますから、来週にでも行けます」
ゴンが嬉しそうに言った。
島の皆に会いたいのだろう。
ゴンのワクワク感が手に取れるようだ。

「ルイ君は大丈夫なのか?」
まだ、ダメージがありそうに見えるが、なんとか持ち直しているようだ。

「はい、何とかします」

「そうか、分かった準備しておくよ、後そうだった」
『収納』からお土産を取り出した。

「ゴンとリンちゃんにお土産だ」
今回はゴンの好きなイチゴとサンドイッチにした。
リンちゃんの興味が半端ない、凄い眼力でサンドイッチを見つめている。

「で、ルイ君はこちら」
『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「おお、これがゴンちゃんが言ってた、お地蔵さんなのか?」

「そうよ、凄いでしょ?」

「凄い、再現度が高いと感じるよ」
どうやら話は聞いていたようだ。

「ルイ君、ひとまずお地蔵さんを十体預けるから、配置する場所の選定や、管理を頼む」

「ありがとうございます、メッサーラは信仰心の高い人が多いので、喜ばれます」

「私にかなう者はおりませんがな」
ドヤ顔のメタン。
そうでしょうね。あんたにゃ誰も適わんよ。

「教会の石像は、改修してもいいのか?」

「はい、是非お願いします」
後日ルイ君立ち合いのもと、五ヶ所の教会の石像の改修を行った。
涙に暮れるシスターが何人もいた。
神気をたくさんお願いします。

こうして、ルイ君とリンちゃんが島に来ることになった。
ゴンの一時帰省である。



俺は、女子寮の前でゴンとリンちゃんを待ってる。

「お待たせしました、主」

「島野さん、お待たせしました」

「ああ、じゃあルイ君のところに行こうか?」

「はい、行きましょう」
とルイ君のところに向かった。

「ルイ君、準備はいいか?」

「はい、お願いします」

「じゃあ行くぞ」

ヒュン!



島に帰ってきた。

「おお!これが『転移』なのか!」
ルイ君が興奮している。

「嘘でしょ、こんな一瞬で・・・」
驚きを隠せないリンちゃん。

「島にようこそ!」
ゴンが喜々として言った。
島の皆にはゴンが友人を伴って一時帰省するとだけ、伝えている。
さっそく、皆から歓迎を受けているゴン一行。

「ゴン、お帰り!」

「久しぶりだな。ゴン」

「少し垢抜けたか?」
等と、和気あいあいのご様子。
挨拶は晩飯の時にと、まずは温泉を見に行くことにした。

『転移』にて温泉に移動した。

「これが温泉ですか・・・少し独特な臭いがしますね」

「ルイ君は、温泉は始めてか?」

「はい、始めてです」

「リンちゃんはどうだ?」

「はい、私も始めてです」

「そうか、じゃあ入ってみるか?」

「「是非」」
脱衣所へと向かった。
脱衣所で水着に着替えて、まずは洗い場で体を洗う。
ルイ君は石鹸を知らなかったようで、使い方を教えてやった。

「なんだか、汚れがしっかり落ちたような気がします」
と高評価である。

「じゃあ、温泉に浸かろうか」

「はい、お願いします」
掛け湯をして、温泉にドボン!

「ふうー、今日も良い湯だなー」

「気持ちいいです島野さん、温泉に浸かってるだけでも、魔力が回復していくことを感じますよ」

「そうらしいな、島の皆もそう言っていたな」
するとゴンがリンちゃんを引き連れて温泉にやってきた。
掛け湯をしてから、温泉に浸かる二人。

「はあー、最高!」

「うん、気持ちいいね」

「主、いつの間にこんな温泉が出来たんですか?」

「ああ、五郎さんが来た時にちょっとな、五郎さんには『泉源探索』という能力があって、この温泉を掘り当てることができたんだよ」

「五郎さん凄いですね」

「ああ、まったくだ。なにかと頼りになる人だよ」

「メッサーラにも温泉があるのでしょうか?」

「どうだろうな、俺には分からんな」

「あると良いね、ルイ君?」

「そうだね、ゴンちゃん」

「そうだ、契約魔法以外は習得できたのは無いのか?」

「あとは、照明魔法が使えるようになりました」

「そうか、良かったな」

「はい、これで帰ってきてからも皆の役に立つことができます」

「期待しているぞ」

「はい、ありがとうございます」

「そうだ、リンちゃんは卒業後は、なにか進路は決まってるのか?」

「いえ、得には決まってないです」
リンちゃんは下を向いてしまった。

「じゃあ、リンちゃんがよければ、この島で働かないか?」

「えっ!いいのですか?」
喜んでいるようだ。目がキラキラしている。

「ああ、島野商事の社員として働いて欲しい、正直に言ってこれには打算もあるんだ」

「打算ですか?」

「そうだ、メッサーラと『魔力回復薬』の取引が始まったら、メッサーラを知る者にやって欲しいと考えていてね。メタンもいるが、あいつはそういったことには向かないし、管理部門で手がいっぱいなんだ。それで、ちょうど良いところに君が現れてくれたって訳さ、ゴンの友人だし、人物的にも問題ないってね」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」
と涙を浮かべるリンちゃん。

「よし!従業員ゲット!」

「リンちゃんやったね、卒業後も一緒に居られるね」

「うん、ありがとう」

「島野さん、国家元首の前で国民を引き抜かないで貰えますか・・・」

「ああ、すまない」

「僕もここで暮らしたいよ・・・」

「君には無理だな」

「そうですね・・・」

「まあ、でも正式に取引が始まったら、ここに来ることも、あるかもしれないじゃないか?そう落ち込むなよ」

「だといいんですけど・・・リンちゃんが羨ましいです」

「もお、ルイ君そんなこと言わないの!」
ゴンに叱られてますよ・・・国家元首が。
やれやれだな。

「すいません」

「じゃあ、そろそろ上がろうか。湯あたりしそうだ」

「そうですね」



三人を迎えて晩御飯となった。というより宴会が始まった。
まず最初にゴンからの一言で始まった。
「皆、お久しぶりです。元気でしたか?」

「ああ、元気だぞ」

「元気よ」
等と声が飛び交う。

「数日だけど、帰ってきました。皆の顔を見れて・・・私・・・嬉しくて・・・」
ゴンが泣きだした。
ん?この流れは・・・

「ああ、僕も嬉しいぞ」
ノンが割り込んできた。
珍しいな、ノンゴンに声を掛けるなんて。

「そうね、泣いてちゃいけないね。いろいろ報告もあるけどまずは乾杯しましょう」
おお!持ち直した。

「それでは乾杯」

「「「乾杯!」」」
自然と拍手が発生した。
こういうのっていいね。

「じゃあ皆いいか、紹介させてくれ。まずはルイ君」
ルイ君が立ち上がる。

「彼は賢者のルイ君だ、よろしく頼む。ちなみにゴンの友達だ」
一瞬静まり返ると、大爆笑が起こった。

「アハハハ、ゴンの友達が賢者だって!」

「嘘だろ!」

「ゴン!あっぱれ」

「聞いちゃあいたが、本当だったのかよ!」
ルイ君とリンちゃんは、ついて来れていない様子。

「ちょっと、皆どういうことよ?」
ゴンもついていけてないようだ。

「ゴン、おまえだいぶ旦那に感化されてんな、アハハハ!」

「あ、あのー、自己紹介してもよろしいでしょうか?」

「ああ、すまない、そうしてくれ」
場の空気がじんわりと戻っていった。

「始めまして、賢者ルイです。この度はお招きいただきありがとうございます」
不意にレケが立ち上がる。

「堅苦しいのは、いらないんだよ、それ乾杯!」
ルイ君の肩に手を回している。

「おお、そうだそうだ」
マークまで立ち上がってルイ君と乾杯しだした。

「ということだ、ルイ君諦めてくれ」

「ええ、そんなー」
皆からの乾杯が始まった。
そのまま自然と宴会が始まった。

ゴンは早々にリンちゃんを紹介したそうであったが、雪崩式に宴会が始まってしまい、食い気に走ったリンちゃんを止めることが出来ず、タイミングを見失っていた。
一息つき、タイミングの良いところでゴンがリンちゃんを皆に紹介した。

「リンです、私は魔法学園を卒業後、この島にお世話になることが決まりました、精一杯働きます。よろしくお願いします!」

「おっ!新たな仲間だな、リンちゃんに乾杯!」
レケがまた調子よく乾杯しだした。

「こっちも乾杯!」

「こっちも、こっちも」
乾杯周りをされられているリンちゃん。
なんとも賑やかでごめんなさい。

「島野さん、いつもこんな感じなんですか?」

「まあだいたいそうかな、賑やかだろう?」

「ええ、それもそうなんですが、皆さん僕が賢者であることを気にしないんですね」

「そうだな、皆に言わせると慣れて来たということらしいぞ」

「ああ、もういい加減、島野さんの出鱈目ぶりには慣れてきましたよ。普通は国家元首を警備兵も付けること無く、島に来させるなんて、ありえないでしょ?」
マークが割り込んできた。

「あと、この島では皆平等にすることが、島野さんの教えなんだ。賢者だろうが特別扱いはしない、失礼があるようなら詫びておくよ」

「いや、大丈夫です、僕もこうして、接して貰えるほうが助かります」

「お、賢者さんは話が分かる人のようだな」

「ゴンちゃんで慣れましたから」

「ゴンも随分成長したようですね」

「そのようだな」

「それにしても、ここの食事は最高に美味しいですね」

「おっ!お褒めに預かり恐悦至極に存じます、なんてな」

「勘弁してくださいよ」

「「ハハハ!」」

「ゴンも成長したが、ルイ君も随分と成長したようだな」

「ありがとうございます、ゴンちゃんに出会ってからというもの、周りの人達から変わったと言われることが増えました」

「それはいいことだな、楽しいだろう?笑顔が増えてさ」

「ええ、本当に」
隣でランドがリンちゃんにバスケットボールについて熱く語っている。
ランドの奴、リンちゃんの身長に目がいったな。
俺もリンちゃんに話し掛けにいこうかな。

「リンちゃん、食事はどうだった?」

「最高です!毎日これが食べられるようになるんですね、夢のようです!」
夢のようですは大袈裟だろう、まあ褒められて嬉しいけどね。

「明日は、ランドとバスケットボールをやるのか?」

「ええ、誘われてます」

「島野さん、彼女は逸材だと思いませんか?」

「お前、それ身長だけで言ってないか?」

「分かってますって、今では俺もスリーポイントの成功率は五割を超えましたからね」

「ほう、それはそれは・・・まだまだだな」

「うう、精進します」

「まあでも、リンちゃんの身長なら、ダンクを決めれると思うぞ」

「ダンクですか?」

「ああ、ランドに教えて貰ってくれ」

「はい、そうします」

「あと、リンちゃんアイリスさんとは話したか?」

「まだです」

「そうかちょっとついて来てくれ」
途中でルイ君にも声を掛けた。

「アイリスさん、いいですか?」

「守さん、どうしましたか?」
まずは二人に挨拶をさせた。

「俺達がこの島をあまり知られたくない理由を話そう」
緊張している二人。

「アイリスさんは、世界樹の分身体なんだ」

「「世界樹の分身体?!」」
おお、息ぴったりだな。

「ああそうだ、この島には世界樹がある、世界樹は知ってるか?」

「ええ、伝説の存在です」

「まあ、伝説だなんて嬉しいわ」
嬉しいわって・・・この人も分かってらっしゃらないようですね。

「世界樹は俺の保護下にある、それには理由があってな」
世界樹に起きた出来事を、俺は二人に伝えた。

「そんなことが・・・」

「アイリスさん、辛かったですね」

「ええ、でも今はこうして楽しくできてます、守さんのお陰ですわ」
二人は理解してくれたようだった。

そんなこんながあり、宴会も終盤に突入していた。
俺は周りを見渡してみた。
レケがゴンに絡みまくっていた。
皆、和気あいあいと話に花を咲かせている。
うん、良きにはからってくれい。



翌日、朝食後に、畑作業にルイ君とリンちゃんが参加したいとのことだったので、遠慮なく参加して貰った。

ルイ君にとって、大地に触れることはいい経験になるだろう。
汚れてはよく無いと、作業着を貸してあげた。
こうして見るとルイ君も、ただの気の良い兄ちゃんにしか見えないな。
リンちゃんは作業着のサイズが無かったので、ささっと作ってあげた。

畑作業を終え、昼食の時間。

本日の昼食のメニューは、カレーライスだ。
何とリンちゃんは五杯も食べていた。
これはいよいよギルの記録を抜くかもしれない。
負けじとギルが六杯食べたことは、記録しておこう。

「畑作業はどうだった、ルイ君」

「大変勉強になりました」

「そうなのか?」

「ええ、この島には水道があるので、水やりには困らないかもしれませんが、魔法で水を撒くことを考えると、慢性的に魔力切れになることは、よくわかりました」

「実際に触れて見ると、分かることがあるってことだよな」

「はい、こうやって、僕たちの生活は成り立っているんだと、感慨深いものがあります、一次産業の人達への見る目が変わりますね」

「そうだな、一次産業が国を支えていることに気づくことは重要なことだ、権力者は絶対ここを間違えてはいけない」

「ええ、実感しました」
昼からは、島のアテンドだが、ゴンに任せることにした。

俺はマーク達と打ち合わせ。
既に温泉と繋がる街道も設置が完了した為、次の建設は何を行うかを検討中である。
するとマークから提案された。

「次は、護岸整備はどうでしょう?」

「護岸の整備か、それもいいな」
今のところ船は、ギルに海岸に打ち上げさせてる。これを続けると船の底が痛むかもしれないしな。

「ランドはどうだ?」

「俺は可能なら一度大工の街に帰ってみたいと思います」

「ほう、その心は?」

「俺とマークは、多少の大工の技術を持っていますが、やはりプロとは呼べんと思うのです。一度大工の街に帰って、改めて家の造りであったり、作業の内容を見てみたいと思うのですが、どうでしょう?」

「素晴らしい意見だな、ちなみに大工の街には神様はいるのか?」

「はい居ます。大工の神『ランドール』様です、俺もマークも面識があります」

「そうか、そのランドール様に俺も挨拶がしたいな。よし行ってみよう。ただ、マークが言う護岸工事を終えてから行こう」

「分かりました。ちなみに大工の街には、五郎さんが掘り当てた温泉がありますよ」

「なに?」

「何でも、五郎さんがふらっと立ち寄って、ここ掘れば温泉が出るからと言って、造ってしまったらしいんですよ」

「なんだそれ」

「ただ温泉があるだけで、旅館とかはないですけどね」

「あの人なにやってんだか・・・」

「でも随分と前のことですよ、俺が物思い着いたころには温泉はありましたからね」

「そうなんだ・・・まあいい、とりあえずは護岸工事に着手しよう、何かあったら言ってくれ、お前達に任せる」

「「了解!」」
五郎さん・・・なにやってんの?さすらいの温泉探索者ってところかな?
一通りの見学を終え、ゴン達が帰ってきた。

「島野さん、ここは楽園です。確信しました」
ルイ君は興奮気味の様子。

「私がここで働けるなんて、夢のようです」
だからリンちゃん言い過ぎですって。

「まだまだこの島の魅力はある、次に行くんだろ?ゴン」

「はい、主、いよいよです」

「そうか、いよいよか、俺も行こう」

俺達はまず風呂へと向かった。
シャワーに驚くルイ君、ここで驚いてもらっては困るな。
露天風呂の展望に感動し、テンションが上がっている様子。

そこから塩サウナに突入する。
リンちゃんの興奮が凄い、何でも巨人族は肌がガサつく人種だそうだ。
それをこんなにツルツルにできるのは、巨人族としてはあり得ない現象とのこと。
興奮が冷めやらないようだったので、水風呂を勧めた。

そこからサウナをサンセット行う。
完全に整いまくっている一同。
もう何も言うまい。
余韻を楽しんでいる。

「これは、なんて解放感なんでしょう・・・生まれて来てよかったと、始めて思いましたよ」

「ああ、幸せ・・・」
と感想を述べていた。

今日の晩飯も宴会の様相。
なにやらいつも以上に騒がしい。
急にこんな話になっていった。

「ところで島野さん、この島の名前はどうするんですか?」
ルイ君からのめんどくさい一言だ。

「ああ、どうしよっか?」
興味を引いた者達が、話に加わる。

「この島の名前か、そもそもこの島はなんて呼ばれてるんだ?」

「たしか捨てられた島、とか言われてましたね」
マークが思い出したようだ。

「そうだったね、この島の名前が無いなんて今さらだけど、ちゃんと付けたにこしたことは無いと思いますよ」
真っ当な意見のメルル。

「そうなのか・・・何が良いと思う?」
皆が一斉に手を挙げた。

次々にどうぞ。

「島野島」

「ボスの島」

「主の島」

「島野一家の島」

「創造神の島ですな」

「ピザの島」

「ダッシュ」
俺は即座に割り込んだ。
「ちょっと待てい、ノン!それ以上言うな・・・おまえ、グググ」
思いっきりノンを睨みつけてやったが、完全にふざけているノン。
こいつ、日本のテレビを持ち込むんじゃないよ、まったく!

リンちゃんが答えた。
「サウナ島ってどうですか?」
一瞬時間が止まったようだった。
その後一斉に

「それだな!」

「いいじゃないか!」

「リンちゃん、お手柄!」

「これしかないな!」
等と大騒ぎ、結果この島の名前は『サウナ島』ということになりました。

本当にこれでよかったのでしょうか?・・・まあ・・・嫌いじゃないけど・・・安易過ぎやしませんかね・・・サウナ島って・・・まあいいか・・・こいつら漏れなくサウナジャンキーだからな!
ということで、この島は今後『サウナ島』ということになりました。

めでたし、めでたし