ゴンです。
主と別れてから、私とルイ君は学園の寮に向かいました。
ルイ君とまだ話がしたかったので、部屋へとお誘いしましたが。
「とんでもない、いくら学園長の僕でも女子寮に入ることはできないよ」
と断られてしまいました。
女子寮は男性が立ち入ることは、禁止されているようでした。
ただし、男子寮には女性の立ち入りは禁止されてないようです。
この違いは何なのでしょうか?
男女の間にはたいして違いはないのに、なぜでしょうか?
女性は男性よりも劣るとでもいうのでしょうか?
これがもしかしたら主が言う、差別というものなのでしょうか?
島ではお風呂場と脱衣所は分けていますが、それも最初は一緒でした。
主が『温泉街ゴロウ』に行ってから、気遣いできず申し訳なかったな、と言って分けたのですが、どの道サウナは男女一緒なので、お風呂場も水着を着用しています。
分ける必要はなかったのでは?
『温泉街ゴロウ』で水着を着けずに入浴した時は、ほんとうに恥ずかしかったです。
私の寮部屋を警備室で教えて貰い、寮部屋に入ると、既に同室の方がいらっしゃいました。
私は挨拶をしました。
「始めまして、私はゴンです。今後ともよろしくお願いいたします」
右手を差し出しお辞儀をすると、ちょっとビックリしたのか、彼女は少し後ろに態勢を崩しました。
そのまま足元にあるバックに足を引っかけ、彼女は後ろに倒れてしまいました。
「痛たたあ」
「大丈夫ですか?もしかしてビックリさせてしまいましたか?」
「ああ、ごめんなさい、気にしないでください」
と彼女は頭を掻いていました。
立ち上がらせようと、もう一度手を差し出すと。やっと掴んでくれました。
彼女を起こすのは大変でした。
なにせ彼女は大きいのです。
「ありがとう、ごめんなさい私ドジで、へへへ」
とはにかんでいます。
なんだか可愛らしく思いました。
「私は、リンです。よろしくお願いします」
「リンさんとお呼びすればよろしいですか?」
「できれば、リンかリンちゃんでお願いします」
消え入りそうなちいさな声で彼女は言いました。
どうやら照れているようです。
「分かりました、ではリンちゃんと呼ばせていただきます。私のことはゴンちゃんと呼んでください」
「ゴンちゃん・・・ですね・・・分かりました」
「それにしてもリンちゃんは大きいですね」
「ええ、私は巨人族ですので・・・」
巨人族?始めて会う種族です。
リンちゃんはランドよりも大きかったです。
「そうなのですね、私は九尾の狐です」
「えっ!」
とまたリンちゃんは後ずさりました。
「はい、珍しいのでしょうか?」
聖獣が珍しいのは私も分かってます。
「あっ!ごねんなさい。そういう訳では・・・」
「今は人化の魔法で人の形ですが、本来は獣型です」
ほんとうなの?という感じで、リンちゃん目が見開かれました。
「そうなのですね、人間かと思っていましたので・・・」
リンちゃんは自信なさげな感じがします。そういう子なのでしょうか?
「リンちゃんは、どうして『魔法学園』に入学なされたのですか?」
「私は・・・特にこれといった、特技も無く・・・魔法でも覚えられたらと思いまして」
「そうですか」
「あの・・・ゴンちゃんはどうして・・・」
大きなリンちゃんが小さく縮こまっています。
「私は、島の皆の役に立つ魔法を覚えたくて入学しました」
「そうですか・・・今後ともよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
挨拶を済ませて、荷物をほどきました。
ほどなくすると時間となり、講堂に私達は集められました。
これから『レクリエーション』が行われるということらしいです。
リンちゃんと一緒に講堂へと向かいます。
講堂に着くと、すでに四十人近い生徒達がおり、ランダムに席に座っています。
どうやら席の指定はないようです。
リンちゃんと奥の方の席に並んで座りました。
すると着席すると同時に、眼鏡を掛けた人間の男性らしき教師が入室してきました。
一番前の席の前にある、黒板の前に来ると
「皆さん、まずは入学おめでとうございます」
と賛辞を贈ってくれました。
「続けて、今から『魔法学園』内のルールを説明させていただきます、そして最後に質問を受け付けます」
と言いました。
『魔法学園』のルールとしては、寮に関しては、前にお話しさせていただいたことに加えて、部外者の立ち入りも禁止とのこと、家族とかが会いにきた場合は、警備室からお呼びがかかるらしいです。
学園内では、支給された制服を着用すること。
学園の外でも着用は許されているが、周りの目を気にして行動すること。
講義に関しては、午前中はこの講堂で行われ。
午後からは各自で選択した、講師に師事することとなる、これをゼミと呼んでいる。
生徒間でのトラブルは禁止。
金銭の貸し借りなども禁止。
トラブルが発生してしまった際には、学園はその責任を取らない。
学費に関しては、明日までに学園に収めること、ただし免除されている者はこの限りではない。
食堂の利用に関しても、食堂にて支払を済ませた後に、食事の提供を受けること。これも免除者には適用されない。
寮費は月の初めに警備室にて支払を行うこと、これも免除者には適用されない。
この様な内容でした。
その他には、掃除や洗濯物などの取り扱いに関する説明があり、ランドリー室にて行うようにとのことでした。
「以上となりますが、質問はありますか?」
眼鏡の講師が締めとして言いました。
私は手を挙げました。
「どうぞ」
と手を向けられます。
私は生徒全員の視線を浴びました。
「お風呂はありますでしょうか?」
「お風呂ですか。残念ながらありません『浄化』の魔法を行える生徒に魔法をかけて貰ってください」
「『浄化』の魔法ですか?」
「はい、そうです。ご存じありませんか?」
「はい、知りません」
「そうですか『浄化』とは生活魔法の一つで、汚れ等を落とす魔法です」
なるほどと頷く。
浴びせられる視線から、なんでそんなことを知らないんだ、という視線を感じました。
「分かりました、ありがとうございます」
やっと皆の視線から解放されました。
「他にはありませんか?」
「無いようですので、これから学生証を配ってから、各自解散となります。よろしいでしょうか?」
「はい」
私だけ返事していました。
また、全員からの視線を浴びせられました。
何か間違ってますか?
返事をするのは当たり前では?
眼鏡の講師は構わずに続けた。
「えー、ではまず特待生のゴンさん、前に来てください」
「はい!」
と答え席を立った。
一部から
「おおー」
というどよめきが上がりました。
学生証を受け取り、講堂を出てリンちゃんを待ちました。
何人もの生徒が私の前をすれ違っていきました。
好奇の目、侮辱の目、忌避の目などいろいろな目で見られたのを覚えています。
やっとリンちゃんがやってきました。
「リンちゃん帰ろう」
「うん」
私の後ろを付いてくるリンちゃん。
もどかしくなって、私は隣に並びました。
「リンちゃん、さっき話に出た『浄化』の魔法使える?」
「うん、使えるよ」
リンちゃんは何故だが目を合わせてくれない。
でもこれは助かる、風呂無し、浄化無しでは不衛生です。
「お願いしてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「やった!」
と拳を突き上げると、リンちゃんはまたも驚いて、倒れそうになっていた。
慌てて、腕を掴んで態勢を戻せた。
そんなに驚かなくてもいいのに。
リンちゃんは、ビビり屋さんなのかな?
さっそく寮の部屋に入ると『浄化』の魔法をリンちゃんにお願いしました。
リンちゃんは右手を私に翳し『浄化』と唱えた。
すると、体や衣服から汚れが落ちていくのを感じました。
「凄い!リンちゃん凄い!」
しまった、興奮して大声を出してしまった。
って、あれ?
リンちゃんは下を向て、照れていた。
そっちなんだ・・・
リンちゃんは不思議な人だなと思いました。
その日の夜、私は眠る気分にはなれず、ベットでゴロゴロしていると、リンちゃんに声を掛けられました。
「ゴンちゃん、起きてる?」
声を掛けられてちょっと嬉しかった。
「うん、起きてるよ」
リンちゃんが起き上がる気配がした。部屋は薄暗い。
私も起きることにしました。
「ゴンちゃん聞きたいことがあるだけどいいかな?・・・」
「うん、いいよ、何でも聞いて」
「ありがとう・・・ゴンちゃんは特待生なんだよね?」
「そうみたい」
「そうみたいって・・・凄い事なんだよ・・・」
「そうなんだ、私は『メッサーラ』の人間じゃないから、そういうことは良く分からないの」
「えっ、どこから来たの?」
「とある島からだよ」
「とある島?」
「ごめんね、島のことは訳あってあまり話せないの」
「そうなの・・・」
「でもね、そこには私の家族と仲間達がいてね、毎日賑やかに暮らしているんだ」
「へえー」
声に興味が含まれていた。
「私は九尾の狐で、聖獣なの」
「うん、知ってる」
「それで、島には私の主がいるんだけど、主は凄いんだよ。ものすごく強いし、料理も上手で、何よりも優しいんだよ、たまに抜けてる所もあるけど、いろんな物を簡単に作っちゃうし、とにかく凄いの!」
間を置いて返事がありました。
「羨ましいな・・・」
「えっ・・・」
「そんな凄いと思える人が近くにいるなんて、羨ましいよ・・・」
ここは・・・なんて声を掛けたらいいんだろう・・・分からない・・・
「私はね『メッサーラ』に住んでるの」
「うん」
「巨人族は『メッサーラ』では珍しくもない種族なの」
「へえ」
「巨人族はその力の強さから、建築関係の仕事に着くことがほとんどなのね」
「そうなんだ」
「私の両親も、兄弟の皆も建築関係の仕事をしてるわ・・・」
「そう」
「でも、私は巨人族にしては小さいほうで、力もみんなより弱いから、建築関係では戦力にならないのよ」
「そうなの?」
島ならマーク達と、仕事ができそうな感じがするんだけど。
「それで、家族の中では浮いてるというか・・・私だけ違うというか・・・」
「私だけ違うって普通のことなんじゃないの?」
「普通のこと?」
「ええ、皆違って当然で、多くの人がこうしているからって、それに自分が加わる必要は無い、皆違って当然だって、主が言ってたわよ」
「えっ!」
「私もそう思うな、疎外感は感じるかもしれないけど、自分にしかできないこともあるはずじゃない?」
「そうなのかな?」
「そうよ、島ではね、午前中は皆で畑仕事をするけど、昼からは、皆が皆それぞれのことを行っているの」
「そう」
「各自の役わりだって、主は言ってたわよ、それに好きな事、出来ることを探して、思いっきりやれって」
「そうなんだ」
リンちゃんの声の響きが変わってきました。
「だから、私は皆の為に何ができるか考えたの、でね、得意な魔法を開発して、皆の為になれればって」
「凄いね」
「凄くないよ、凄いのはそれを教えてくれた主で、私は主に出会えて幸運だっただけなの、だから少しでも恩返しがしたいのよ」
「やっぱりゴンちゃんは羨ましいよ」
「そう?」
「そうだよ、それに自信満々だし」
「そうかな?」
「だって、講師に一人で返事してたじゃない」
「あっ、そっか」
「ハハハ」
「面白いね」
「ほんと笑えるね」
打ち解けたような気がしました。
「そうだリンちゃん、友達になってよ」
「えっ!良いの」
「うん、お願い!」
「そんな・・・私なんか・・・だってゴンちゃんは聖獣でしょ?」
「聖獣が友達じゃ駄目かな?」
「駄目じゃないけど、恐れ多いというか、なんというか・・・」
「種族とか、立場とか関係ないんじゃないかな?」
「そういうなら・・・友達になりましょう。よろしくね」
「こちらこそ、やった!今日はついてるわ!」
「なんで?」
「友達が二人もできたの」
「二人?」
「リンちゃんにルイ君」
「ルイ君?」
「そう賢者のルイ君」
「えっ!」
ん?なにか間違ってるの?
「賢者ルイ様と友達って、ゴンちゃん・・・聞く限りゴンちゃんの主さんも大概だけど、ゴンちゃん、あなたも大概よ」
「へ?」
「ほんとに・・・面白い友達ができちゃったな」
「ハハハ、よく分からないけど」
「もういいよ・・・そろそろ寝ましょう・・・」
「そうだね・・・寝ましょう。お休みリンちゃん」
「お休みゴンちゃん」
何が大概なのか理解できないゴンであった、似たもの親子である。
翌日、朝食を終え、講堂にて座学を受けた最後に、ゼミの選択を行うことになりました。
わたしが選択したのは『生活魔法』リンちゃんは随分悩んでいましたが私と同じ『生活魔法』を選択していました。
ちなみに他には『攻撃魔法』『守備魔法』『召喚魔法』『古代魔法』などがありました。
『古代魔法』が気になりましたが、私の求める魔法は『生活魔法』です。
一番人気があったのは『攻撃魔法』で、リンちゃんが言うには『攻撃魔法』を覚えてハンターになる人が多いらしいです。
私は充分に『攻撃魔法』は取得しているし、威力もこれ以上は必要ないと感じるので、気にもなりなせんでした。
昼食後『生活魔法』のゼミ室へと向かいました。
ゼミ室に入ると、ネズミの獣人が居ました。
服装から講師であると分かります。
『コロンの街』のシスターのリズさんに似ているなと思いました。
「あら、新入生の方達ね、もう少しで皆集まるから、ちょっと待っててね」
と声を掛けてくれました。
リンちゃんと部屋の隅の方へ移動しました。
その後、六人の女性達が入室してきました。
私は全員女性であることに違和感を感じました。
「では、皆さん、ごきげんよう」
「「「ごきげんよう」」」
ごぎげんよう?ってなに?
「本日は新入生が二人加わります、皆さんご挨拶を」
と言うと、六人全員が自己紹介を始めました。
「では今度はお二人の番ね、あなたからどうぞ」
と指名されました。
「私はゴンです、今は人化しているので、分からないかもしれませんが、九尾の狐の聖獣です」
というと、六人の先輩と講師が固まっていました。
少しすると講師が前に出て来ました。
「今、なんと?」
「はい、私はゴンです、今は人化しているので、分からないかもしれませんが、九尾の狐の聖獣です」
「聖獣様?」
「様は止めてください。ゴンかゴンちゃんでお願いします」
「よろしいので?」
「はい、そうしてください」
この反応にも慣れてきました。
聖獣は少ないですからね。
珍しいのでしょう。
「わかりました、では、皆さんもその様に」
「「はい」」
「では、あなたもよろしいでしょうか?」
「はい、私はリンです。よろしくお願いします」
「リンさんね、よろしく」
「私はここ『生活魔法』のゼミ講師のメリアンです。よろしくどうぞ」
講師のメリアンさんね、いやメリアン先生ですね、覚えました。
「では、簡単に説明しますね。まずこのゼミでは『生活魔法』を習得することを基本として、皆さんには新たな『生活魔法』の開発に挑戦してもらいます。まずは確認をしましょう」
私のとリンちゃんに視線が向けられました。
「『浄化』と『照明』は使えますか?」
「私は『浄化』は使えますが『照明』は使えません」
「私はどちらも使えません」
「そうですか、ではあなた達はまず『浄化』と『照明』を習得することを目指してください。その後で、新たな『生活魔法』の開発を行いましょう」
「「はい」」
「では、キャロライナさん、お二人の面倒を見てやってくれますか?」
「かしこまりました」
と耳の尖った女性が前に出て来ました。おそらくエルフでしょう。
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
こうして、キャロライナさん指導の下『浄化』と『照明』の習得を目指すことになりました。
キャロライナさんは、実に兵寧に教えてくれます。
「まずは、この汚れた雑巾から始めましょう」
汚れた雑巾を一枚手渡されました。キャロライナさんも汚れた雑巾を一枚持っています。
「この汚れた雑巾に右手を翳して『浄化』と唱えます」
すると、雑巾が綺麗になりました。
「と、こうして汚れた雑巾の汚れが落ちます」
「なるほど」
「では、まずはやってみましょう」
「はい」
私は左手に汚れた雑巾を掴み、右手を汚れた雑巾に添えた。
「『浄化』」
汚れは落ちません。
「うん、いいわね。次は汚れが落ちるとこをイメージしながらやってみて」
「はい」
先程と同様の動きに、汚れが落ちるイメージを加えました。
「『浄化』」
汚れは落ちなかった。
結局この日は習得できませんでした。
なかなか『浄化』は難しいです。
リンちゃんと食事に向かいました。
お腹が減った、晩御飯早く食べたいな。
学園の食堂の食事は不味くはないですが、上手くも無いです。島の食事が美味しすぎるのだと思います。
食事をしているとルイ君を見かけました。
「ルイ君」
手を振ってみた。
ルイ君が私に気づき駆け寄ってきました。
「ゴンちゃん、会いたかったよ」
「まあ、ルイ君、お上手ね」
ルイ君は照れていました。まあ可愛い。
「これから食事なの?」
「うんそうだよ、一緒していいかな?」
「リンちゃんどう?」
「えっと・・・どうぞ・・・」
「じゃあ晩御飯取ってくるから待っててね」
「早くね」
「分かった」
ルイ君が晩御飯を取りに行きました。
「ゴンちゃん、本当だったのね」
「リンちゃん、私が友達に嘘を付く訳ないでしょ?」
「そうだけど、こうやって目の当たりにすると・・・大概だわ・・・」
大概?何で?
ルイ君が食事を手にやってきました。
「ルイ君紹介するね、新しい友達のリンちゃんです」
「リンです、どうぞよろしくお願いいたします」
「やあ、僕はルイだよ、よろしくね」
「はい・・・」
「ルイ君、リンちゃんは私の友達ってことは、ルイ君の友達にもなるんだよね?」
考え込んでいるルイ君。
「うん、そうだね、リンちゃん改めてよろしくね」
とルイ君はリンちゃんに手を指し出していました。
ビックリして後ろに倒れそうになっているリンちゃんを片手で支えました。
んん!かなり重いよリンちゃん。
「そんな滅相もない」
手を振って、嫌々をしているリンちゃん。
その手を私は握って、ルイ君と握手させました。
「これで友達だね」
ルイ君が笑いながら言いました。
リンちゃんはその言葉を受けて、諦めた様な表情をしていました。
「分かりました、よろしくお願いいたします・・・」
「僕のことはルイ君と呼んで欲しい」
「・・・ルイ・・・君ですね・・・では私はリンちゃんで・・・」
リンちゃんは下を向いてぼそぼそと言っていました。
と思ったら、私の方を振り返り、何故なら睨んで来ました。
えっ!いけないことしてないでしょ?友達の友達になって貰っただけじゃない。
怖いよう、リンちゃん!
「あはは、リンちゃん、諦めたほうがいいよ、ゴンちゃんには立場とか、地位とか関係ないから。気持ちは分かるよ」
その言葉に深く同意するかの様に、リンちゃんは何度も頷いていました。
「ルイ君そうなんですね、ルイ君に一気に親近感が湧きましたよ」
「でもね、リンちゃん、ゴンちゃんの主はもっと強烈だよ」
「その様ですね、昨日の夜、ゴンちゃんの主の話を聞いて呆れてしまいました」
ここで、ルイ君が真面目な顔になった。
「でもねリンちゃん、その人に僕は救われたのも事実なんだよ。もし、会える機会が有ったら会ってみた方がいいよ」
「うん、主が近々来るから会ってみる?」
主が一週間後に様子を見に来るって言ってたんだよね、早く会いたいな。
リンちゃんがまた諦めた顔をしていました。
「はあ、なんだか、ゴンちゃんに会ってから、もう・・・」
「もう?」
「言いたいことはわかるよ・・・」
「ルイ君までなに?」
「・・・」
「・・・」
何か言ってよ、分かんないよ!
その後世間話を交えながら三人で楽しく食事をしました。
食事を済ませ女子寮に帰ると、ルイ君は女子寮の入り口まで送ってくれました。
寮の部屋に入り、ベットに横たわったら。
「ゴンちゃん、あなたと出会ってから驚きの連続よ・・・でも私・・・なんだか変われる様な気がする」
「そうなの?そんなに驚くことがあったかな?」
じとり目でリンちゃんに見つめられました。
だから、何が間違ってるのよ!分からないって!
「まあいいわ、ゴンちゃん『浄化』するよ」
「はい、お願いします・・・ところでリンちゃん、『浄化』のコツって何かあるの?」
「『浄化』のコツ?」
「うん、コツってある?」
「コツかあ、なんだろうな・・・キャロライナさんは汚れを落とすって言ってたけど、私の場合は汚れを落とすというより、汚れを分解して離れるイメージをしてるかな?」
「分解して離れる・・・なるほど・・・」
「はい、いいからやるよ、ゴンちゃんこっちに来て」
「よろしくです」
リンちゃんに『浄化魔法』をかけてもらった。
ああ、お風呂に入りたい、サウナにも入りたい。島に帰りたいよ・・・これが主が言っていたホームシックってやつなのかな?
せめてお湯で体を洗いたいな・・・
翌日
リンちゃんの言っていた、分解して汚れが離れることころをイメージしたことろ。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しましたステータスをご確認ください」
のアナウンスが流れました。
やった!
魔法の習得に明け暮れたこの一年間、やっと魔法の習得・・・
嬉しい・・・涙が止まらない・・・ああ、この魔法学園に来てよかった・・・
私は『浄化』を取得していました。
約束の一週間を迎えていました。
そろそろ主に会える。朝からそわそわしてしかたがないです。
リンちゃんと共に、午前中の講義を終え、今は昼飯を取りに、食堂へと向かっています。
「今日の昼御飯は何だろうね?」
「そうだねー、シチューとか?」
「いいね、シチュー」
等と話していると、三人連れの男性が急に横から飛びだしてきました。
ドン!
一人の男性とリンちゃんがぶつかっていた。
吹き飛ばされる男性。
リンちゃんは大丈夫そうです。
頑丈だね。
すると、飛ばされた男性が言いました。
「おい!何やってくれてんだよ、そこの女!謝れよ!」
三白眼で睨みつけてきます。
残りの二人もやってきて
「なにやってんだよ女!こんなところに突っ立てないで、掃除でもしてろよ!」
「そうだ!洗濯でもしてろよ、まずは謝れよ!」
勢いに負けてリンちゃんが謝ろうとしました。
「ごめ」
私はリンちゃんを制止しました。
「ちょっとあなた達、ぶつかってきたのはあなた達のほうでしょう?謝るのはそっちよ、それに何?さっきから女、女って、どういう意味なの?」
立ち上がった男性が言いました。
「そのままの意味さ、女なんて所詮炊事や洗濯、掃除しかできないだろ。それを言って何が悪い!」
「そうだそうだ!」
周りに人が集まってきました。
駄目だ、これは男女差別ってやつだ、気に入らないです。
「あなた達ね、女が何にもできないっていうの?世間知らずも大概じゃない、その女からあなた達は生れてきたんでしょうが!」
「「「うっ」」」
勢いに任せて言ってみました。
「けっ!行こうぜ」
「ああ、そうだな」
と言って三人は立ち去って行きました。
「リンちゃん大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫よ」
集まって来た人達は、既に何事もなかったかの様に、元に戻っていった。
「差別主義者め!もっと言ってやりたかった」
「ゴンちゃん・・・怖いよ・・・」
「えっ!そう?間違ったことはちゃんと言ってやらないと気が済まないよ」
「だろうけど・・・まあいいか、これがゴンちゃんだもんね」
「どういうこと?」
「いいの、それより早く昼御飯にしましょ、私お腹ペコペコ」
「そうだね、早く行きましょ」
私達は食堂に向かいました。
約束の宿の食堂に行くと、既に主とメタンとギルが居た。
「主、お待たせしてすいません」
「ああ、大丈夫だ、今来たところだ」
「そう言って貰えると助かります」
三人とも元気そうな表情をしていた。
「ゴン姉、元気にしてた?」
「ええ、元気よ」
「一週間ぶりですな、ゴン様」
「メタン、なんだか久しぶりのような感じがする」
「それだけ、濃い学園生活が出来ているということでしょうな」
「主、紹介させてください、また友達ができました。リンちゃんです」
主が座る様に促しました。
「やあ、初めまして島野だ。よろしく」
と言って主は、右手をゆっくりと差し出しました。
リンちゃんは一瞬ビクッとしましたが、主の手を握り返していた。
あれ?私の時と違う・・・
「リンと言います、よろしくお願いします」
「僕はギル」
「私はメタンでございます」
「よろしくお願いいたします」
皆な挨拶を終えた。
「で、ゴン、足りない物とかあるか?」
「いえ、得にはないです」
「そうか」
と言うと、主が『収納』から何かを取り出しました。
「そろそろ、島の飯が恋しくなってきるんじゃないか?」
「えっ!嬉しい!」
「ツナマヨおにぎりを用意しておいたぞ、多めに入ってるからちょうどいい、リンちゃんも食べてみてくれ」
「いいのですか?」
「島のご飯は絶品ですからな」
「そうそう、他では味わえないんだよ」
ギルが偉そうにしている。
「ではあとで遠慮なく頂きます」
「ぜひ、そうしてくれ」
主のこういうところが好きなんだよなー。ツナマヨおにぎり食べたかったー!
やったー!
「それでゴン、学園生活はどうなんだ?」
「はい、リンちゃんのお陰で、一つ魔法を習得しました!」
「そうか、リンちゃんありがとう。これからもゴンをよろしく頼むよ」
「いえいえ、たまたまですから・・・」
「それと生活魔法を学べるゼミを選択しました」
「やはり、そうしましたかな」
メタンに進められてたからね。
「ゴン姉は何の魔法を覚えたの?」
「それはね『浄化』よ」
「『浄化』?」
「そう、汚れを落とす魔法よ。できるようになって分かったけど、主の『分離』みたいな感じかな」
「へえー」
「メッサーラにはお風呂が無いから必須なの」
「風呂が無い?それは地獄だね、ゴン姉」
「メッサーラには『浄化屋』という職業もあるんですな、ギル様」
「へえ、僕は絶対に風呂がいいな」
「贅沢なのよギルは」
「ハハハ、間違いないな。で、他はどうなんだ?」
「そうですね、あっ!主が言う差別主義者に絡まれました」
「ほう?それで」
「女は掃除でもしてろとか、洗濯でもしてろって、バカじゃないのって感じです」
「そうか、どこでも差別はあるものだからな」
「ねえ、パパ、なんでどこでも差別があるの?」
「そうだな、差別ってのは、自分とは違う者を恐れることや、自己肯定感を得たいが為に生まれる傾向にあると思うな。あとは単純に人よりも上にいたい、と思う気持ちとかから生まれてるんだろうな」
「人より上に?」
「ああ、見下されるのは嫌だろ、だから見下される前に差別という枠を作って、見下そうとする。または、自分が正しいと主張したいからだな」
「無くならない物なのでしょうか?」
「直ぐには無理だろうけど、差別の無い社会になって欲しいなとは思うよ」
「どうしたら無くなるのでしょうか?」
「まずは対話だな、相手の考えを聞いて、相手のことを理解する。どういった考えで差別に繋がっているのか、そこがまずは第一歩じゃないかな?」
「対話ですか・・・」
「ああ、それしかないとも思えるな。結局は個人の思考や価値観だからな」
「そうなのですね」
個人の思考や価値観か・・・
差別なんて無くなればいいのに。
リンちゃんと宿の食堂を後にしました。
寮に帰ると、ツナマヨおにぎりを食べました。
何故だか、少し泣けてしまった。
リンちゃんは猛烈な勢いでツナマヨおにぎりを食べていました。
気持ちは充分にわかります。
でも、もう少し落ち着いて食べてって。あーもう、喉に詰まらせてるじゃない。
翌日の昼食時、昨日の三人組を見つけたので、私は話をしてみようと思いました。
前の席に座ると
「なんだよ、またお前かよ。なんのつもりだ?」
と睨まれました。
「話がしたいのよ」
「話?俺には無いが」
「そう、まず昨日は言い過ぎたかもしれない、謝るわ」
と言うと、私は軽く一礼しました。
「おお、いきなりなんだよ。ビックリするな・・・」
と仰け反っていた。
「あのさ、聞きたいんだけど、あなた達は、どのゼミを専攻しているの?」
「全員攻撃魔法だよ、それが何だってんだよ?」
「そのゼミには女性は居ないの?」
「はあ、居るにはいるが少ないな、片手もいないぞ」
「そう、攻撃魔法を専攻しているってことは、将来はハンターを目指してるってこと?」
「ああ、そうだが、てか何だよ、さっきから何が言いたいんだよ?」
「いや、あなた達を知ろうとしているのよ、いけない?」
「いけないって・・・あとは何を知りたいんだよ」
「そうね、実は私はハンターなの」
「はあ!何言ってやがる、なんでハンターが『魔法学園』にいるんだよ?」
「何でって、魔法を学ぶ為にだけど?」
「魔法を学ぶ為って・・・で、あんたのハンターのチーム名は何ていうんだ?」
「ハンターチーム名はね、島野一家よ」
「「「島野一家!」」」
凄い驚いている、何で?
「嘘だろ?お前」
「冗談だろ?」
「島野一家って『タイロンの英雄』じゃないか?」
「ええそうよ、そう呼ばれてるみたいね。まあ私の主はそう呼ばれたくないみたいなんだけど」
「主ってお前何者なんだよ」
「何者って、九尾の狐だけど?」
黙ってしまった三人。
ん?どうかした?
「聖獣かよ・・・」
心ここにあらずな感じで呟いていた。
「あ、そうそう、魔法士はね前衛に出ては駄目よ、後衛でサポートするのが、一番チームの為になるのよ」
「おまえ、詳しいんだな」
本当はマークから教えて貰っただけだけどね。
「まあね、ちなみにどの魔法が使えるの?」
「俺は火魔法」
「俺は水」
「俺は土だな」
「そう、私は水魔法と土魔法が使えるわよ」
「えっ!二つも使えるのか?」
「凄いな、レベルは?」
「水魔法はLV20で土魔法はLV17よ」
あれ?固まってる?
「大丈夫?あなた達?」
「大丈夫じゃないよ、なんてレベルなんだよ、嘘じゃないのか?」
「『鑑定』してくれてもいいけど?」
「そこまではしなくてもいいだろ」
一人が制止した。
「そうだ、あなた達、時間がある時に稽古つけてあげましょうか?」
「本当か?」
「いいわよ、ハンターは命がけの仕事よ、今のうちから学んでおけば、有利だと思わない?」
「確かにそうだ」
「ああ、経験談なんかも聞きたいな」
「あとね、ハンターで気をつけないといけないのは、対人で訓練してもあまり腕は上がらないのよ」
「何でだ?」
「何でってよく、考えてみて相手は獣なのよ、獣相手に訓練しなくちゃ間合いの取り方から全部違うのよ」
「確かにそうだ、一理あるな」
「で、こういうこと」
私は人化を解いた。
「「うわあ!」」
「ね、これ相手にしないと訓練にならないでしょ?」
周りがざわついている。
三人も椅子からずり落ちていた。
「ちょっとゴンちゃん、ここじゃあ不味いって。騒ぎになっちゃうよ」
「えっ?そうなの?」
「いいから元に戻って」
リンちゃんがそういうので、人化しました。
「分かった?」
「ああ・・・分かった・・・よく理解した・・・姉御・・・そう呼んでも?なあお前ら?」
二人は全力で首を縦に振っています。
「姉御かあ?なんかレケみたい・・・ゴンちゃんにして」
「わかった・・・ゴンちゃんにしよう・・・うん・・・そうしよう」
「あと、何となく分かった気がするから言っておくけど、私の様に強い女性ハンターは結構いるのよ。あまり女性を舐めてかからないことね!」
「わ・・・分かりました・・・すいません」
「分かりました・・・」
「気をつけます・・・」
「分かってくれたならいいわ、今度ちゃんと稽古つけてあげるからね」
「「「はい、お願いします!」」」
三人はお辞儀をしていた。
「ゴンちゃん・・・やり過ぎ・・・はあ・・・もう」
やり過ぎた?そうかな?
でも主の言う通り、話せばわかるものなのね。
姉御も悪く無かったかも?
私達は昼食を終えてゼミに向かいました。
その後あの三人はとても懐いてくれました。
これは友達カウントしていいのかしら?
後日、主に聞いたら駄目だろうと言われました。
残念です。
主と別れてから、私とルイ君は学園の寮に向かいました。
ルイ君とまだ話がしたかったので、部屋へとお誘いしましたが。
「とんでもない、いくら学園長の僕でも女子寮に入ることはできないよ」
と断られてしまいました。
女子寮は男性が立ち入ることは、禁止されているようでした。
ただし、男子寮には女性の立ち入りは禁止されてないようです。
この違いは何なのでしょうか?
男女の間にはたいして違いはないのに、なぜでしょうか?
女性は男性よりも劣るとでもいうのでしょうか?
これがもしかしたら主が言う、差別というものなのでしょうか?
島ではお風呂場と脱衣所は分けていますが、それも最初は一緒でした。
主が『温泉街ゴロウ』に行ってから、気遣いできず申し訳なかったな、と言って分けたのですが、どの道サウナは男女一緒なので、お風呂場も水着を着用しています。
分ける必要はなかったのでは?
『温泉街ゴロウ』で水着を着けずに入浴した時は、ほんとうに恥ずかしかったです。
私の寮部屋を警備室で教えて貰い、寮部屋に入ると、既に同室の方がいらっしゃいました。
私は挨拶をしました。
「始めまして、私はゴンです。今後ともよろしくお願いいたします」
右手を差し出しお辞儀をすると、ちょっとビックリしたのか、彼女は少し後ろに態勢を崩しました。
そのまま足元にあるバックに足を引っかけ、彼女は後ろに倒れてしまいました。
「痛たたあ」
「大丈夫ですか?もしかしてビックリさせてしまいましたか?」
「ああ、ごめんなさい、気にしないでください」
と彼女は頭を掻いていました。
立ち上がらせようと、もう一度手を差し出すと。やっと掴んでくれました。
彼女を起こすのは大変でした。
なにせ彼女は大きいのです。
「ありがとう、ごめんなさい私ドジで、へへへ」
とはにかんでいます。
なんだか可愛らしく思いました。
「私は、リンです。よろしくお願いします」
「リンさんとお呼びすればよろしいですか?」
「できれば、リンかリンちゃんでお願いします」
消え入りそうなちいさな声で彼女は言いました。
どうやら照れているようです。
「分かりました、ではリンちゃんと呼ばせていただきます。私のことはゴンちゃんと呼んでください」
「ゴンちゃん・・・ですね・・・分かりました」
「それにしてもリンちゃんは大きいですね」
「ええ、私は巨人族ですので・・・」
巨人族?始めて会う種族です。
リンちゃんはランドよりも大きかったです。
「そうなのですね、私は九尾の狐です」
「えっ!」
とまたリンちゃんは後ずさりました。
「はい、珍しいのでしょうか?」
聖獣が珍しいのは私も分かってます。
「あっ!ごねんなさい。そういう訳では・・・」
「今は人化の魔法で人の形ですが、本来は獣型です」
ほんとうなの?という感じで、リンちゃん目が見開かれました。
「そうなのですね、人間かと思っていましたので・・・」
リンちゃんは自信なさげな感じがします。そういう子なのでしょうか?
「リンちゃんは、どうして『魔法学園』に入学なされたのですか?」
「私は・・・特にこれといった、特技も無く・・・魔法でも覚えられたらと思いまして」
「そうですか」
「あの・・・ゴンちゃんはどうして・・・」
大きなリンちゃんが小さく縮こまっています。
「私は、島の皆の役に立つ魔法を覚えたくて入学しました」
「そうですか・・・今後ともよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
挨拶を済ませて、荷物をほどきました。
ほどなくすると時間となり、講堂に私達は集められました。
これから『レクリエーション』が行われるということらしいです。
リンちゃんと一緒に講堂へと向かいます。
講堂に着くと、すでに四十人近い生徒達がおり、ランダムに席に座っています。
どうやら席の指定はないようです。
リンちゃんと奥の方の席に並んで座りました。
すると着席すると同時に、眼鏡を掛けた人間の男性らしき教師が入室してきました。
一番前の席の前にある、黒板の前に来ると
「皆さん、まずは入学おめでとうございます」
と賛辞を贈ってくれました。
「続けて、今から『魔法学園』内のルールを説明させていただきます、そして最後に質問を受け付けます」
と言いました。
『魔法学園』のルールとしては、寮に関しては、前にお話しさせていただいたことに加えて、部外者の立ち入りも禁止とのこと、家族とかが会いにきた場合は、警備室からお呼びがかかるらしいです。
学園内では、支給された制服を着用すること。
学園の外でも着用は許されているが、周りの目を気にして行動すること。
講義に関しては、午前中はこの講堂で行われ。
午後からは各自で選択した、講師に師事することとなる、これをゼミと呼んでいる。
生徒間でのトラブルは禁止。
金銭の貸し借りなども禁止。
トラブルが発生してしまった際には、学園はその責任を取らない。
学費に関しては、明日までに学園に収めること、ただし免除されている者はこの限りではない。
食堂の利用に関しても、食堂にて支払を済ませた後に、食事の提供を受けること。これも免除者には適用されない。
寮費は月の初めに警備室にて支払を行うこと、これも免除者には適用されない。
この様な内容でした。
その他には、掃除や洗濯物などの取り扱いに関する説明があり、ランドリー室にて行うようにとのことでした。
「以上となりますが、質問はありますか?」
眼鏡の講師が締めとして言いました。
私は手を挙げました。
「どうぞ」
と手を向けられます。
私は生徒全員の視線を浴びました。
「お風呂はありますでしょうか?」
「お風呂ですか。残念ながらありません『浄化』の魔法を行える生徒に魔法をかけて貰ってください」
「『浄化』の魔法ですか?」
「はい、そうです。ご存じありませんか?」
「はい、知りません」
「そうですか『浄化』とは生活魔法の一つで、汚れ等を落とす魔法です」
なるほどと頷く。
浴びせられる視線から、なんでそんなことを知らないんだ、という視線を感じました。
「分かりました、ありがとうございます」
やっと皆の視線から解放されました。
「他にはありませんか?」
「無いようですので、これから学生証を配ってから、各自解散となります。よろしいでしょうか?」
「はい」
私だけ返事していました。
また、全員からの視線を浴びせられました。
何か間違ってますか?
返事をするのは当たり前では?
眼鏡の講師は構わずに続けた。
「えー、ではまず特待生のゴンさん、前に来てください」
「はい!」
と答え席を立った。
一部から
「おおー」
というどよめきが上がりました。
学生証を受け取り、講堂を出てリンちゃんを待ちました。
何人もの生徒が私の前をすれ違っていきました。
好奇の目、侮辱の目、忌避の目などいろいろな目で見られたのを覚えています。
やっとリンちゃんがやってきました。
「リンちゃん帰ろう」
「うん」
私の後ろを付いてくるリンちゃん。
もどかしくなって、私は隣に並びました。
「リンちゃん、さっき話に出た『浄化』の魔法使える?」
「うん、使えるよ」
リンちゃんは何故だが目を合わせてくれない。
でもこれは助かる、風呂無し、浄化無しでは不衛生です。
「お願いしてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「やった!」
と拳を突き上げると、リンちゃんはまたも驚いて、倒れそうになっていた。
慌てて、腕を掴んで態勢を戻せた。
そんなに驚かなくてもいいのに。
リンちゃんは、ビビり屋さんなのかな?
さっそく寮の部屋に入ると『浄化』の魔法をリンちゃんにお願いしました。
リンちゃんは右手を私に翳し『浄化』と唱えた。
すると、体や衣服から汚れが落ちていくのを感じました。
「凄い!リンちゃん凄い!」
しまった、興奮して大声を出してしまった。
って、あれ?
リンちゃんは下を向て、照れていた。
そっちなんだ・・・
リンちゃんは不思議な人だなと思いました。
その日の夜、私は眠る気分にはなれず、ベットでゴロゴロしていると、リンちゃんに声を掛けられました。
「ゴンちゃん、起きてる?」
声を掛けられてちょっと嬉しかった。
「うん、起きてるよ」
リンちゃんが起き上がる気配がした。部屋は薄暗い。
私も起きることにしました。
「ゴンちゃん聞きたいことがあるだけどいいかな?・・・」
「うん、いいよ、何でも聞いて」
「ありがとう・・・ゴンちゃんは特待生なんだよね?」
「そうみたい」
「そうみたいって・・・凄い事なんだよ・・・」
「そうなんだ、私は『メッサーラ』の人間じゃないから、そういうことは良く分からないの」
「えっ、どこから来たの?」
「とある島からだよ」
「とある島?」
「ごめんね、島のことは訳あってあまり話せないの」
「そうなの・・・」
「でもね、そこには私の家族と仲間達がいてね、毎日賑やかに暮らしているんだ」
「へえー」
声に興味が含まれていた。
「私は九尾の狐で、聖獣なの」
「うん、知ってる」
「それで、島には私の主がいるんだけど、主は凄いんだよ。ものすごく強いし、料理も上手で、何よりも優しいんだよ、たまに抜けてる所もあるけど、いろんな物を簡単に作っちゃうし、とにかく凄いの!」
間を置いて返事がありました。
「羨ましいな・・・」
「えっ・・・」
「そんな凄いと思える人が近くにいるなんて、羨ましいよ・・・」
ここは・・・なんて声を掛けたらいいんだろう・・・分からない・・・
「私はね『メッサーラ』に住んでるの」
「うん」
「巨人族は『メッサーラ』では珍しくもない種族なの」
「へえ」
「巨人族はその力の強さから、建築関係の仕事に着くことがほとんどなのね」
「そうなんだ」
「私の両親も、兄弟の皆も建築関係の仕事をしてるわ・・・」
「そう」
「でも、私は巨人族にしては小さいほうで、力もみんなより弱いから、建築関係では戦力にならないのよ」
「そうなの?」
島ならマーク達と、仕事ができそうな感じがするんだけど。
「それで、家族の中では浮いてるというか・・・私だけ違うというか・・・」
「私だけ違うって普通のことなんじゃないの?」
「普通のこと?」
「ええ、皆違って当然で、多くの人がこうしているからって、それに自分が加わる必要は無い、皆違って当然だって、主が言ってたわよ」
「えっ!」
「私もそう思うな、疎外感は感じるかもしれないけど、自分にしかできないこともあるはずじゃない?」
「そうなのかな?」
「そうよ、島ではね、午前中は皆で畑仕事をするけど、昼からは、皆が皆それぞれのことを行っているの」
「そう」
「各自の役わりだって、主は言ってたわよ、それに好きな事、出来ることを探して、思いっきりやれって」
「そうなんだ」
リンちゃんの声の響きが変わってきました。
「だから、私は皆の為に何ができるか考えたの、でね、得意な魔法を開発して、皆の為になれればって」
「凄いね」
「凄くないよ、凄いのはそれを教えてくれた主で、私は主に出会えて幸運だっただけなの、だから少しでも恩返しがしたいのよ」
「やっぱりゴンちゃんは羨ましいよ」
「そう?」
「そうだよ、それに自信満々だし」
「そうかな?」
「だって、講師に一人で返事してたじゃない」
「あっ、そっか」
「ハハハ」
「面白いね」
「ほんと笑えるね」
打ち解けたような気がしました。
「そうだリンちゃん、友達になってよ」
「えっ!良いの」
「うん、お願い!」
「そんな・・・私なんか・・・だってゴンちゃんは聖獣でしょ?」
「聖獣が友達じゃ駄目かな?」
「駄目じゃないけど、恐れ多いというか、なんというか・・・」
「種族とか、立場とか関係ないんじゃないかな?」
「そういうなら・・・友達になりましょう。よろしくね」
「こちらこそ、やった!今日はついてるわ!」
「なんで?」
「友達が二人もできたの」
「二人?」
「リンちゃんにルイ君」
「ルイ君?」
「そう賢者のルイ君」
「えっ!」
ん?なにか間違ってるの?
「賢者ルイ様と友達って、ゴンちゃん・・・聞く限りゴンちゃんの主さんも大概だけど、ゴンちゃん、あなたも大概よ」
「へ?」
「ほんとに・・・面白い友達ができちゃったな」
「ハハハ、よく分からないけど」
「もういいよ・・・そろそろ寝ましょう・・・」
「そうだね・・・寝ましょう。お休みリンちゃん」
「お休みゴンちゃん」
何が大概なのか理解できないゴンであった、似たもの親子である。
翌日、朝食を終え、講堂にて座学を受けた最後に、ゼミの選択を行うことになりました。
わたしが選択したのは『生活魔法』リンちゃんは随分悩んでいましたが私と同じ『生活魔法』を選択していました。
ちなみに他には『攻撃魔法』『守備魔法』『召喚魔法』『古代魔法』などがありました。
『古代魔法』が気になりましたが、私の求める魔法は『生活魔法』です。
一番人気があったのは『攻撃魔法』で、リンちゃんが言うには『攻撃魔法』を覚えてハンターになる人が多いらしいです。
私は充分に『攻撃魔法』は取得しているし、威力もこれ以上は必要ないと感じるので、気にもなりなせんでした。
昼食後『生活魔法』のゼミ室へと向かいました。
ゼミ室に入ると、ネズミの獣人が居ました。
服装から講師であると分かります。
『コロンの街』のシスターのリズさんに似ているなと思いました。
「あら、新入生の方達ね、もう少しで皆集まるから、ちょっと待っててね」
と声を掛けてくれました。
リンちゃんと部屋の隅の方へ移動しました。
その後、六人の女性達が入室してきました。
私は全員女性であることに違和感を感じました。
「では、皆さん、ごきげんよう」
「「「ごきげんよう」」」
ごぎげんよう?ってなに?
「本日は新入生が二人加わります、皆さんご挨拶を」
と言うと、六人全員が自己紹介を始めました。
「では今度はお二人の番ね、あなたからどうぞ」
と指名されました。
「私はゴンです、今は人化しているので、分からないかもしれませんが、九尾の狐の聖獣です」
というと、六人の先輩と講師が固まっていました。
少しすると講師が前に出て来ました。
「今、なんと?」
「はい、私はゴンです、今は人化しているので、分からないかもしれませんが、九尾の狐の聖獣です」
「聖獣様?」
「様は止めてください。ゴンかゴンちゃんでお願いします」
「よろしいので?」
「はい、そうしてください」
この反応にも慣れてきました。
聖獣は少ないですからね。
珍しいのでしょう。
「わかりました、では、皆さんもその様に」
「「はい」」
「では、あなたもよろしいでしょうか?」
「はい、私はリンです。よろしくお願いします」
「リンさんね、よろしく」
「私はここ『生活魔法』のゼミ講師のメリアンです。よろしくどうぞ」
講師のメリアンさんね、いやメリアン先生ですね、覚えました。
「では、簡単に説明しますね。まずこのゼミでは『生活魔法』を習得することを基本として、皆さんには新たな『生活魔法』の開発に挑戦してもらいます。まずは確認をしましょう」
私のとリンちゃんに視線が向けられました。
「『浄化』と『照明』は使えますか?」
「私は『浄化』は使えますが『照明』は使えません」
「私はどちらも使えません」
「そうですか、ではあなた達はまず『浄化』と『照明』を習得することを目指してください。その後で、新たな『生活魔法』の開発を行いましょう」
「「はい」」
「では、キャロライナさん、お二人の面倒を見てやってくれますか?」
「かしこまりました」
と耳の尖った女性が前に出て来ました。おそらくエルフでしょう。
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
こうして、キャロライナさん指導の下『浄化』と『照明』の習得を目指すことになりました。
キャロライナさんは、実に兵寧に教えてくれます。
「まずは、この汚れた雑巾から始めましょう」
汚れた雑巾を一枚手渡されました。キャロライナさんも汚れた雑巾を一枚持っています。
「この汚れた雑巾に右手を翳して『浄化』と唱えます」
すると、雑巾が綺麗になりました。
「と、こうして汚れた雑巾の汚れが落ちます」
「なるほど」
「では、まずはやってみましょう」
「はい」
私は左手に汚れた雑巾を掴み、右手を汚れた雑巾に添えた。
「『浄化』」
汚れは落ちません。
「うん、いいわね。次は汚れが落ちるとこをイメージしながらやってみて」
「はい」
先程と同様の動きに、汚れが落ちるイメージを加えました。
「『浄化』」
汚れは落ちなかった。
結局この日は習得できませんでした。
なかなか『浄化』は難しいです。
リンちゃんと食事に向かいました。
お腹が減った、晩御飯早く食べたいな。
学園の食堂の食事は不味くはないですが、上手くも無いです。島の食事が美味しすぎるのだと思います。
食事をしているとルイ君を見かけました。
「ルイ君」
手を振ってみた。
ルイ君が私に気づき駆け寄ってきました。
「ゴンちゃん、会いたかったよ」
「まあ、ルイ君、お上手ね」
ルイ君は照れていました。まあ可愛い。
「これから食事なの?」
「うんそうだよ、一緒していいかな?」
「リンちゃんどう?」
「えっと・・・どうぞ・・・」
「じゃあ晩御飯取ってくるから待っててね」
「早くね」
「分かった」
ルイ君が晩御飯を取りに行きました。
「ゴンちゃん、本当だったのね」
「リンちゃん、私が友達に嘘を付く訳ないでしょ?」
「そうだけど、こうやって目の当たりにすると・・・大概だわ・・・」
大概?何で?
ルイ君が食事を手にやってきました。
「ルイ君紹介するね、新しい友達のリンちゃんです」
「リンです、どうぞよろしくお願いいたします」
「やあ、僕はルイだよ、よろしくね」
「はい・・・」
「ルイ君、リンちゃんは私の友達ってことは、ルイ君の友達にもなるんだよね?」
考え込んでいるルイ君。
「うん、そうだね、リンちゃん改めてよろしくね」
とルイ君はリンちゃんに手を指し出していました。
ビックリして後ろに倒れそうになっているリンちゃんを片手で支えました。
んん!かなり重いよリンちゃん。
「そんな滅相もない」
手を振って、嫌々をしているリンちゃん。
その手を私は握って、ルイ君と握手させました。
「これで友達だね」
ルイ君が笑いながら言いました。
リンちゃんはその言葉を受けて、諦めた様な表情をしていました。
「分かりました、よろしくお願いいたします・・・」
「僕のことはルイ君と呼んで欲しい」
「・・・ルイ・・・君ですね・・・では私はリンちゃんで・・・」
リンちゃんは下を向いてぼそぼそと言っていました。
と思ったら、私の方を振り返り、何故なら睨んで来ました。
えっ!いけないことしてないでしょ?友達の友達になって貰っただけじゃない。
怖いよう、リンちゃん!
「あはは、リンちゃん、諦めたほうがいいよ、ゴンちゃんには立場とか、地位とか関係ないから。気持ちは分かるよ」
その言葉に深く同意するかの様に、リンちゃんは何度も頷いていました。
「ルイ君そうなんですね、ルイ君に一気に親近感が湧きましたよ」
「でもね、リンちゃん、ゴンちゃんの主はもっと強烈だよ」
「その様ですね、昨日の夜、ゴンちゃんの主の話を聞いて呆れてしまいました」
ここで、ルイ君が真面目な顔になった。
「でもねリンちゃん、その人に僕は救われたのも事実なんだよ。もし、会える機会が有ったら会ってみた方がいいよ」
「うん、主が近々来るから会ってみる?」
主が一週間後に様子を見に来るって言ってたんだよね、早く会いたいな。
リンちゃんがまた諦めた顔をしていました。
「はあ、なんだか、ゴンちゃんに会ってから、もう・・・」
「もう?」
「言いたいことはわかるよ・・・」
「ルイ君までなに?」
「・・・」
「・・・」
何か言ってよ、分かんないよ!
その後世間話を交えながら三人で楽しく食事をしました。
食事を済ませ女子寮に帰ると、ルイ君は女子寮の入り口まで送ってくれました。
寮の部屋に入り、ベットに横たわったら。
「ゴンちゃん、あなたと出会ってから驚きの連続よ・・・でも私・・・なんだか変われる様な気がする」
「そうなの?そんなに驚くことがあったかな?」
じとり目でリンちゃんに見つめられました。
だから、何が間違ってるのよ!分からないって!
「まあいいわ、ゴンちゃん『浄化』するよ」
「はい、お願いします・・・ところでリンちゃん、『浄化』のコツって何かあるの?」
「『浄化』のコツ?」
「うん、コツってある?」
「コツかあ、なんだろうな・・・キャロライナさんは汚れを落とすって言ってたけど、私の場合は汚れを落とすというより、汚れを分解して離れるイメージをしてるかな?」
「分解して離れる・・・なるほど・・・」
「はい、いいからやるよ、ゴンちゃんこっちに来て」
「よろしくです」
リンちゃんに『浄化魔法』をかけてもらった。
ああ、お風呂に入りたい、サウナにも入りたい。島に帰りたいよ・・・これが主が言っていたホームシックってやつなのかな?
せめてお湯で体を洗いたいな・・・
翌日
リンちゃんの言っていた、分解して汚れが離れることころをイメージしたことろ。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しましたステータスをご確認ください」
のアナウンスが流れました。
やった!
魔法の習得に明け暮れたこの一年間、やっと魔法の習得・・・
嬉しい・・・涙が止まらない・・・ああ、この魔法学園に来てよかった・・・
私は『浄化』を取得していました。
約束の一週間を迎えていました。
そろそろ主に会える。朝からそわそわしてしかたがないです。
リンちゃんと共に、午前中の講義を終え、今は昼飯を取りに、食堂へと向かっています。
「今日の昼御飯は何だろうね?」
「そうだねー、シチューとか?」
「いいね、シチュー」
等と話していると、三人連れの男性が急に横から飛びだしてきました。
ドン!
一人の男性とリンちゃんがぶつかっていた。
吹き飛ばされる男性。
リンちゃんは大丈夫そうです。
頑丈だね。
すると、飛ばされた男性が言いました。
「おい!何やってくれてんだよ、そこの女!謝れよ!」
三白眼で睨みつけてきます。
残りの二人もやってきて
「なにやってんだよ女!こんなところに突っ立てないで、掃除でもしてろよ!」
「そうだ!洗濯でもしてろよ、まずは謝れよ!」
勢いに負けてリンちゃんが謝ろうとしました。
「ごめ」
私はリンちゃんを制止しました。
「ちょっとあなた達、ぶつかってきたのはあなた達のほうでしょう?謝るのはそっちよ、それに何?さっきから女、女って、どういう意味なの?」
立ち上がった男性が言いました。
「そのままの意味さ、女なんて所詮炊事や洗濯、掃除しかできないだろ。それを言って何が悪い!」
「そうだそうだ!」
周りに人が集まってきました。
駄目だ、これは男女差別ってやつだ、気に入らないです。
「あなた達ね、女が何にもできないっていうの?世間知らずも大概じゃない、その女からあなた達は生れてきたんでしょうが!」
「「「うっ」」」
勢いに任せて言ってみました。
「けっ!行こうぜ」
「ああ、そうだな」
と言って三人は立ち去って行きました。
「リンちゃん大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫よ」
集まって来た人達は、既に何事もなかったかの様に、元に戻っていった。
「差別主義者め!もっと言ってやりたかった」
「ゴンちゃん・・・怖いよ・・・」
「えっ!そう?間違ったことはちゃんと言ってやらないと気が済まないよ」
「だろうけど・・・まあいいか、これがゴンちゃんだもんね」
「どういうこと?」
「いいの、それより早く昼御飯にしましょ、私お腹ペコペコ」
「そうだね、早く行きましょ」
私達は食堂に向かいました。
約束の宿の食堂に行くと、既に主とメタンとギルが居た。
「主、お待たせしてすいません」
「ああ、大丈夫だ、今来たところだ」
「そう言って貰えると助かります」
三人とも元気そうな表情をしていた。
「ゴン姉、元気にしてた?」
「ええ、元気よ」
「一週間ぶりですな、ゴン様」
「メタン、なんだか久しぶりのような感じがする」
「それだけ、濃い学園生活が出来ているということでしょうな」
「主、紹介させてください、また友達ができました。リンちゃんです」
主が座る様に促しました。
「やあ、初めまして島野だ。よろしく」
と言って主は、右手をゆっくりと差し出しました。
リンちゃんは一瞬ビクッとしましたが、主の手を握り返していた。
あれ?私の時と違う・・・
「リンと言います、よろしくお願いします」
「僕はギル」
「私はメタンでございます」
「よろしくお願いいたします」
皆な挨拶を終えた。
「で、ゴン、足りない物とかあるか?」
「いえ、得にはないです」
「そうか」
と言うと、主が『収納』から何かを取り出しました。
「そろそろ、島の飯が恋しくなってきるんじゃないか?」
「えっ!嬉しい!」
「ツナマヨおにぎりを用意しておいたぞ、多めに入ってるからちょうどいい、リンちゃんも食べてみてくれ」
「いいのですか?」
「島のご飯は絶品ですからな」
「そうそう、他では味わえないんだよ」
ギルが偉そうにしている。
「ではあとで遠慮なく頂きます」
「ぜひ、そうしてくれ」
主のこういうところが好きなんだよなー。ツナマヨおにぎり食べたかったー!
やったー!
「それでゴン、学園生活はどうなんだ?」
「はい、リンちゃんのお陰で、一つ魔法を習得しました!」
「そうか、リンちゃんありがとう。これからもゴンをよろしく頼むよ」
「いえいえ、たまたまですから・・・」
「それと生活魔法を学べるゼミを選択しました」
「やはり、そうしましたかな」
メタンに進められてたからね。
「ゴン姉は何の魔法を覚えたの?」
「それはね『浄化』よ」
「『浄化』?」
「そう、汚れを落とす魔法よ。できるようになって分かったけど、主の『分離』みたいな感じかな」
「へえー」
「メッサーラにはお風呂が無いから必須なの」
「風呂が無い?それは地獄だね、ゴン姉」
「メッサーラには『浄化屋』という職業もあるんですな、ギル様」
「へえ、僕は絶対に風呂がいいな」
「贅沢なのよギルは」
「ハハハ、間違いないな。で、他はどうなんだ?」
「そうですね、あっ!主が言う差別主義者に絡まれました」
「ほう?それで」
「女は掃除でもしてろとか、洗濯でもしてろって、バカじゃないのって感じです」
「そうか、どこでも差別はあるものだからな」
「ねえ、パパ、なんでどこでも差別があるの?」
「そうだな、差別ってのは、自分とは違う者を恐れることや、自己肯定感を得たいが為に生まれる傾向にあると思うな。あとは単純に人よりも上にいたい、と思う気持ちとかから生まれてるんだろうな」
「人より上に?」
「ああ、見下されるのは嫌だろ、だから見下される前に差別という枠を作って、見下そうとする。または、自分が正しいと主張したいからだな」
「無くならない物なのでしょうか?」
「直ぐには無理だろうけど、差別の無い社会になって欲しいなとは思うよ」
「どうしたら無くなるのでしょうか?」
「まずは対話だな、相手の考えを聞いて、相手のことを理解する。どういった考えで差別に繋がっているのか、そこがまずは第一歩じゃないかな?」
「対話ですか・・・」
「ああ、それしかないとも思えるな。結局は個人の思考や価値観だからな」
「そうなのですね」
個人の思考や価値観か・・・
差別なんて無くなればいいのに。
リンちゃんと宿の食堂を後にしました。
寮に帰ると、ツナマヨおにぎりを食べました。
何故だか、少し泣けてしまった。
リンちゃんは猛烈な勢いでツナマヨおにぎりを食べていました。
気持ちは充分にわかります。
でも、もう少し落ち着いて食べてって。あーもう、喉に詰まらせてるじゃない。
翌日の昼食時、昨日の三人組を見つけたので、私は話をしてみようと思いました。
前の席に座ると
「なんだよ、またお前かよ。なんのつもりだ?」
と睨まれました。
「話がしたいのよ」
「話?俺には無いが」
「そう、まず昨日は言い過ぎたかもしれない、謝るわ」
と言うと、私は軽く一礼しました。
「おお、いきなりなんだよ。ビックリするな・・・」
と仰け反っていた。
「あのさ、聞きたいんだけど、あなた達は、どのゼミを専攻しているの?」
「全員攻撃魔法だよ、それが何だってんだよ?」
「そのゼミには女性は居ないの?」
「はあ、居るにはいるが少ないな、片手もいないぞ」
「そう、攻撃魔法を専攻しているってことは、将来はハンターを目指してるってこと?」
「ああ、そうだが、てか何だよ、さっきから何が言いたいんだよ?」
「いや、あなた達を知ろうとしているのよ、いけない?」
「いけないって・・・あとは何を知りたいんだよ」
「そうね、実は私はハンターなの」
「はあ!何言ってやがる、なんでハンターが『魔法学園』にいるんだよ?」
「何でって、魔法を学ぶ為にだけど?」
「魔法を学ぶ為って・・・で、あんたのハンターのチーム名は何ていうんだ?」
「ハンターチーム名はね、島野一家よ」
「「「島野一家!」」」
凄い驚いている、何で?
「嘘だろ?お前」
「冗談だろ?」
「島野一家って『タイロンの英雄』じゃないか?」
「ええそうよ、そう呼ばれてるみたいね。まあ私の主はそう呼ばれたくないみたいなんだけど」
「主ってお前何者なんだよ」
「何者って、九尾の狐だけど?」
黙ってしまった三人。
ん?どうかした?
「聖獣かよ・・・」
心ここにあらずな感じで呟いていた。
「あ、そうそう、魔法士はね前衛に出ては駄目よ、後衛でサポートするのが、一番チームの為になるのよ」
「おまえ、詳しいんだな」
本当はマークから教えて貰っただけだけどね。
「まあね、ちなみにどの魔法が使えるの?」
「俺は火魔法」
「俺は水」
「俺は土だな」
「そう、私は水魔法と土魔法が使えるわよ」
「えっ!二つも使えるのか?」
「凄いな、レベルは?」
「水魔法はLV20で土魔法はLV17よ」
あれ?固まってる?
「大丈夫?あなた達?」
「大丈夫じゃないよ、なんてレベルなんだよ、嘘じゃないのか?」
「『鑑定』してくれてもいいけど?」
「そこまではしなくてもいいだろ」
一人が制止した。
「そうだ、あなた達、時間がある時に稽古つけてあげましょうか?」
「本当か?」
「いいわよ、ハンターは命がけの仕事よ、今のうちから学んでおけば、有利だと思わない?」
「確かにそうだ」
「ああ、経験談なんかも聞きたいな」
「あとね、ハンターで気をつけないといけないのは、対人で訓練してもあまり腕は上がらないのよ」
「何でだ?」
「何でってよく、考えてみて相手は獣なのよ、獣相手に訓練しなくちゃ間合いの取り方から全部違うのよ」
「確かにそうだ、一理あるな」
「で、こういうこと」
私は人化を解いた。
「「うわあ!」」
「ね、これ相手にしないと訓練にならないでしょ?」
周りがざわついている。
三人も椅子からずり落ちていた。
「ちょっとゴンちゃん、ここじゃあ不味いって。騒ぎになっちゃうよ」
「えっ?そうなの?」
「いいから元に戻って」
リンちゃんがそういうので、人化しました。
「分かった?」
「ああ・・・分かった・・・よく理解した・・・姉御・・・そう呼んでも?なあお前ら?」
二人は全力で首を縦に振っています。
「姉御かあ?なんかレケみたい・・・ゴンちゃんにして」
「わかった・・・ゴンちゃんにしよう・・・うん・・・そうしよう」
「あと、何となく分かった気がするから言っておくけど、私の様に強い女性ハンターは結構いるのよ。あまり女性を舐めてかからないことね!」
「わ・・・分かりました・・・すいません」
「分かりました・・・」
「気をつけます・・・」
「分かってくれたならいいわ、今度ちゃんと稽古つけてあげるからね」
「「「はい、お願いします!」」」
三人はお辞儀をしていた。
「ゴンちゃん・・・やり過ぎ・・・はあ・・・もう」
やり過ぎた?そうかな?
でも主の言う通り、話せばわかるものなのね。
姉御も悪く無かったかも?
私達は昼食を終えてゼミに向かいました。
その後あの三人はとても懐いてくれました。
これは友達カウントしていいのかしら?
後日、主に聞いたら駄目だろうと言われました。
残念です。