神様のサウナ ~神様修業がてらサウナ満喫生活始めました~

俺は納品で五郎さんのところに来ている。

「五郎さん、いつものところでいいですか?」

「ああ、そうしてくれ。島野そういやあ、エンゾが来てるぞ、会っていくか?」
エンゾさんか、お地蔵さん大作戦の結果が気になるから会ってこようかな。

「そうですね、せっかくですので」

「茶屋にいるから、覗いてみてくれや」

「分かりました」
納品を終え、俺は茶屋に向かった。

中に入ると、窓際の席で、エンゾさんが一人お茶を飲んでいた。
窓からの光を受け、エンゾさんはその美貌を隠すことなく、佇んでいた。
絵になるなー、と心の中で呟いた。

「エンゾさん、ご無沙汰です」

「あら、島野君」
手を振るエンゾさん

「お元気ですか?」

「ええ、ありがとう」

「この前は大変だったわね」

「ほんとですよ、無茶振りですよ、もう止めてくださいよね」
エンゾさんが微笑んだ。

「何言ってるの?島野君なら朝飯前でしょ?」

「だから、エンゾさんは俺を買い被り過ぎなんですよ」

「フフフ」
店員が注文を取りにやってきた。

「お茶をお願いします」
軽く一礼し、立ち去る店員。

「それで、お地蔵さんの効果のほどはいかがでしょうか?」
俺の体感としては、少し持ち直したと思うのだがどうだろう?

「神気の件ね、一段と濃くはなっていると感じるけど、百年前に比べれば、まだまだ神気の濃さは届かないわね」
やはりか。

「そうですか、まだまだですか」

「ええ、残念ながらね」

「それで、他の動きの方はどうなってますか?」

「これといった報告は無いわね」

「そうですか、話は変わりますが『温泉街ゴロウ』にはよく来るんですか?」

「ええ、五郎の影響で私は温泉好きになっちゃったからね」

「そうなんですか?」
これぞ湯煙美人だな。

「ええ、温泉には一時間は入るわね」
いるんだよね、たまにそういう人、俺には無理だな。
『おでんの湯』の常連さんで、炭酸泉に一時間以上入ってるおじいさんがいたな。
入浴中に何度も寝ちゃって、お湯に顔を付けては起きるを繰り返してたな。水面にキッス爺さん元気かな?話したこと無いけど。

「『温泉街ゴロウ』はいろんな温度の温泉があるわ」

「へえー」
知らなかったな。

「あら?知らなかったの?」

「ええ、松風旅館の温泉にしか入ったことないんですよ」

「それはもったいないわ。各旅館で温泉の温度を変えて、一番好きな温泉を選んで入るのが通の入りかたよ」
通って、はまってんなー。

「エンゾさんは、どれぐらいの温度の温泉が好きなんですか?」

「私は低めね、長いこと入るには高い温度は駄目ね」
ここで店員がお茶を運んできた。
会話が止まる。
お茶を置くまで待つしかない。

「ごゆっくりどうぞ」
店員は一礼して去っていった。

「『温泉街ゴロウ』はね、いろいろな所に気配りがされているのよ、なにもそれは温泉に限った話ではないわ」

「どんなところですか?」

「なにより目を引くのは接客ね、ここまで丁寧なのは外ではまず無いわ」

「確かにそうかもしれないですね」

「あとは、旅館によっては無いところもあるけど、おしぼりを渡してくれたり」

「ああ、向うの世界では一般的なんですけどね」

「そのようね、ただこの世界ではない気配りよ」

「なるほど」

「あと私が好きなのは浴衣ね、あれは軽くて着やすいわ」
エンゾさんの浴衣姿か、似合うんだろうな。

「あとは、なんと言っても料理ね、特に最近更に美味しくなったわ」
意味深に見つめられているような気がするが・・・何か知っているのかな?

「確かに温泉宿の料理は美味しかったです、日本酒も良かった」

「そう、日本酒は良いわ。あと、最近見かけるようになった、味噌というのもいいわね、あれは格別に美味しいわ」

「味噌と醤油は日本人の心ですから」

「みたいね、五郎はこれまでに、何度も挑戦してたみたいだけど、完成したのは誰のお陰かな?」

「ハハハ、誰でしょうね」
絶対にバレてる・・・

「あなた以外にいる?」

「バレてますよね・・・」
喉が渇いたのでお茶を飲んだ。

「じゃあ、エンゾさんそろそろ行きますね」

「もう行くの?」

「ええ、ちょっと用事があるので、ああ、ここは奢りますね」

「そう、ごちそうさま、またね」
俺は会計を済ませて五郎さんのところに戻った。



「五郎さんちょっといいですか?」

「おお、どうした島野」

「これなんですけど」
といって、俺は『収納』から、なんちゃって冷蔵庫を取り出した。

「ほう、なんでえ?これは」

「これは、なんちゃって冷蔵庫と言う家電です、野菜や肉などの長期保存が可能なものです」

「なに?本当か?」
五郎さんの目が輝いている。

「ええ、ここの扉を開きますと」
俺はなんちゃって冷蔵庫の扉を開いて、中を見せた。

「ここに氷を作製して入れて置きます。数時間後には、このなんちゃって冷蔵庫内は、キンキンに冷えます、その状態が結構な日数続きます」
と説明すると、五郎さんはニヤリと笑った。

「凄えじゃねえか!島野おめえ、またやってくれたな!」

「ハハハ」
そんなことを言われると思ってましたよ。

「で、いくらだい?」

「それを聞きたくての、相談なんです」

「なるほどな、まあこれはこの世界にとっては、最先端の技術だ。これは生活を大きく変える。難しいが、このサイズなら金貨十枚以上出してもおかしくねえな。うーん、どうしたものか・・・」
金貨十枚か。結構するな。

「金貨十枚ですか、俺の予想では、もう少し低く見積もってましたけど」

「いや島野、これは最低金貨十枚だ、よく考えてみてくれや。これまでは、食料の長期保存は出来ないものとして生活が行われてきている。卵一個とってみても、これまでは一週間以内に喰わなくちゃあいけないのが常識だった。だが、これはそれを大きく変えるぞ、どこまで期限が伸びるかは分からねえが、儂の見立てでは、三週間はいけると思うぜ、間違えねえな」

「消費期限が長くなるということが革命的だと?」
俺は元々冷えたビールを皆が飲めるようにする為に造った、ということは決して言わないでおこうと思った。
五郎さんの呆れた顔が想像できる。

「だから、儂の感覚では、これは金貨一五枚だ」
おお!それは凄いな。

「分かりました、で、五郎さんはいくつ必要ですか?」

「お前え、分かってんじゃねえか、ええ!」
それぐらいのこと、言われるぐらい分かってますって、ハハハ。
もう付き合い長いんですから。
ズブズブの関係じゃないですか。
ハッハッハッ!

「ちなみにサイズはカスタマイズできますよ」

「カスタマイズ?ってなんでえ?」

「ああすいません。サイズはご希望道りに、変えれますよってことです」

「本当か?お前え凄げえじゃねえか、よし、となりゃあ、サイズは儂の方で考える。決まったら、その時はよろしく頼むぜ」

「ええ、お買い上げありがとうございます」
さてさて、稼がせてもらいましょうかね。
しめしめ。これであれが造れるぞ。
なんちゃって冷蔵庫を一台置いて、俺は島に帰った。



なんちゃって冷蔵庫の素材だが、これまではアルミを使用していたが、頑丈さを重視してステンレスに変更した。
おそらく五郎さんの発注は、業務用になるだろうと考えたからだ。
ただ、そうしたことで、なんちゃって冷蔵庫の重量は上がるので、運ぶのが大変だが、俺は『収納』があるので問題はない。その先のことは、先方に任せるつもりだ。
納品後のことはお任せしまーす、ってこと。

ひと先ずは、一般家庭用として、今俺達が使っているものを五十台ほど作成した。
素材はどっちがいいのか悩んだが、運んだ時に傷がついて、なんちゃって冷蔵庫が駄目になっては良くないと思い、頑丈なステンレスにした。

販売価格は一台金貨十五枚と、五郎さんの意見に従うつもりだ、販売も五郎さんのところで一括にて行う。それ以外の場所での販売は今のところ考えてはいない。

販売先を増やさない理由は、いろいろな所に飛び周るのは勘弁して欲しいからだ。
それに価格が高いので、それなりの収入がある者しか買えないだろうと考えている。
その点、温泉街『ゴロウ』にくる客は、懐事情の良い人達が多い。

結局なんちゃって冷蔵庫を五十台作成するのに、金貨百枚近く材料費として掛かった。
結構な先行投資となったが、売れないとは思えない。
それに実際に販売するのは五郎さんだ。
問題は五郎さんにいくらで卸すかということだ。
利益は折半にしたいと考えているが、五郎さんはなんと言うか?



再び、五郎さんのところに来ている。

「早速だが、島野、前回預かったものの倍の高さと、倍の横幅の物を十台頼む。およそ、四倍となるが、値段は金貨四十枚でどうでえ?」
単純計算では金貨六十枚だが、手間はほとんど変わらないから、金貨四十枚でも十分だと思う。

「ええ、いいですよ、明後日には持って来れると思います」
ありがたい、いい売上になる。

「普通サイズの方はどうするんでえ?」

「五郎さんに販売の全てをお任せしますよ、独占販売ってやつですね」
他では売りたくありませんのでね。

「そうか、金額と卸値はどうするよ?」

「販売価格は予定道り金貨十五枚、卸し価格は金貨九枚でどうですか?」
ほとんど折半なのがこれぐらいかなと思う。

「そうか、妥当だな、だが本当にそんな卸し値で本当にええのか?」

「大丈夫です、充分に利益はありますので」

「そうか、ならいい、で、いつから始めるんでえ?」
前のめりな五郎さん。

「そうですね、ひとまず普通サイズは手始めに五十台作成済です」

「そうか、販売方法はちっと考えさせてくれ、ひとまず十台置いていってくれや」

「分かりました」
五郎さんに指定された場所に、なんちゃって冷蔵庫を十台置き、さっそく特注品の作成の為に島へ帰ることにした。



特注品の作成には、サイズが大きいこともあり、なかなか時間が掛かった。
手間は変わらないと考えていたが、そうでも無かった。
結局作成には二日間掛かり、何とか約束の日以内に引き渡すことができた。
納品日は、今後はゆとりを持って設定しようと反省した。

これにより、普通サイズで金貨九十枚と、特注品で金貨四百枚の売上げを確保できた。
合計で金貨四百九十枚になった。

今後は、普通サイズが定期的に販売できることを期待したい。
これで、あれが造れるぞ。やった!



実は、この様な金策に走ったのには、理由があった。
レケが島に来たことにより、全員で十二人となり、これを気にいろいろな建設を行うことを考えたからだ。

今考えているのは、新たな寮の建設と、遊技場の建設だった。
他にも細かい改築などもあるが、お金が掛かるのはこの二つだろう。

特に急ぎたいのは、寮の建設。
今は、俺の住んでいる家の二階の物置部屋を片付けて、その部屋にメルルが寝ており、マーク達は、ゴンが元々使っていた家に住んでいる、始めのログハウスはアイリスさんが使っている状態。

特にマーク達が手狭であるに違いない。
なので、レケには部屋がなく、ゴンの部屋で一緒に寝ている。

ゴンが言うには、レケは俺達の家じゃないと都合が悪いので、今メルルが使っている元物置部屋に移り、メルルが新たに作る寮に住んだ方がいいとのことだった。
どんな都合があるのかというと、レケは毎日深酒をする為、朝は起こさないと、起きれないらしい。

いい加減にせい!
でも、あれは治らんな。多分・・・
やれやれだ。

従って新たに寮を作る必要があると考えた。
皆には、今でも十分だと言われたが、福利厚生はもっと充実させたい。
寮には、今の俺達が住んでいるものと、同等のサイズの物をと考えている。

寮には『ロックアップ』一同と、アイリスさんに住んでもらいたい。
ログハウスは物置小屋に、ゴンの家は備蓄倉庫にしようと思っている。

早速マークとランドには、寮の建設を行う様に指示を出してある。
あいつらなら上手くやるだろう。

マークからは、お手本があるので、問題なくやれますよと、心強い返事を貰ってる。
他の皆にも、手が空いた時に手伝う様に伝えてある。

遊技場に関しては、ビリヤード台やらが、リビングにあり、少し窮屈に感じる時があるので、建設を決意した。
どれぐらいで出来るのか、完成を待とうと思う。



『漁師の街ゴルゴラド』で刺激を受けた俺は、マグロの養殖が出来ないかと考えている。
今の俺は海への興味が止まらない。
養殖場を設けることと、マグロを取ってくることは出来るが、問題はエサをどうするかということだった。

俺の覚えでは、マグロのエサはイワシなどの魚や魚粉がエサであったと覚えている。日本に帰って調べてみたが、概ね同じ内容だった。
小魚がエサとなると養殖は難しい事になる。
だがここは異世界、どうにかなるかもしれないと考えてしまうのだ。
さてどうしようか?

上手くいかなかったとしても、網などは漁で使い回しが出来るから、特に困ることはない。
マグロが死んでしまっても凍らせて置いて、食べたい時に食べればいいだけ。
決して損は無い。

まあ費やした時間は返ってこないが。
まずはやってみるか。
と安易な考え。



早速網の作成を行う。
ものすごい数の草が必要だった。
木からも出来ることを思い出したので。木からも網を作成していく。
なんだかんだで、網の作成には十日間近く掛かってしまった。

網の先端に、ゴムで造った浮を『合成』で付ける、網の下には鉄で造った重りを『合成』で付けておいた。

上から見ると円を描くように網を広げるが、波で形状が変わらないように、網の上部には形状を固定するように、アルミの棒を繋げてある。
アルミにしたのは、軽いことと、ステンレスよりも柔らかい為、形状維持に向いていると考えたからだ。

早速、ロンメルと、レケと共に海上に出て、養殖場を設置した。
次に前回の漁と同じ方法で、中サイズのマグロを十匹捕まえて。養殖場に放逐した。

そして、この日はとりあえずエサを与えずに様子見とした。
マグロに養殖場に慣れて貰う必要があると、考えたからだ。



翌日、ロンメルとレケと一緒に船に乗って、養殖場に向かった。
今はあくまで実験の段階なので、エサとなりえそうな物をいくつか準備している。
養殖場に到着した。
養殖場の中を覗き込んでみる。

「うん、泳いでるな」

「旦那、この先はどうするんだ?」

「この先は、何がエサになるかを実験することになる」

「へえー、実験か、面白そうだな」
レケは興味があるようだ。

「まずはこれだな」
俺は、ニンニクを取り出した。

「ニンニクは釣りのエサになるんだよ」

「えっ、ボスそれって野菜じゃないのか?」

「ああ、そうなんだ。何度かこれで魚を釣ったことがあるんだ。マグロは釣ったことはないけどな」

「へえー、野菜で魚をねー、凄いなボス」
俺はニンニクをばら撒いてみた。
すると、マグロがニンニクを食べていた。
おっ、いけるか?

全てのニンニクが無くなっていた。
マグロの様子を見てみたが、特に変化はない。
もう一度ニンニクを撒いてみた。

マグロは反応しなかった。

「あれ?どういうことだ?」
ロンメルが呟いた。
そう簡単にはいかないよな。

「これはもしかして、匂いにつられて食べただけってことなのかな?」
俺も理由は分からないが、そういうことだと考えるのは間違ってないと思う。

「ボス、匂いに反応して、一度は食べたが、マグロにとっては上手く無かったってことか?」

「おそらくな」
それ以外は考えられないな。

釣りでエサにできたのも、そういうことなのか?
まあいいだろう、これは実験だ、次に行こう。

「そうなると、次はこれだな」
前もって浄水池から捕まえておいた『プルコ』を用意した。

『プルコ』を十匹ほどばら蒔いてみる。
すると、マグロは『プルコ』を食べていた。

「これは、正解だな」

「お!てえと、早くも実験成功ってことなのか?」
ロンメルが目を見開いている。

「いやロンメル、そうじゃないんだ。マグロは小魚を食べることは、分かっていたことなんだ。これは念の為の確認でしかない」

「でもこれでエサは判明したんだろ?」
それはそうなのだが・・・

「そうであって、そうでは無いんだ」

「どういうことだ?」
ロンメルは気になって、しょうがない様子だ。
眉間に皺が寄っている。

「プルコはエサにするには数が足りなさすぎるんだよ」
的を得た感じのロンメル。

「ああ、そういうことか」
納得しているようだ。

「ボス、俺にはいまいちよく分からねえ、詳しく教えてくれよ」

「ああ、レケはまだ島に来て間もないから分からないかもしれないけど、島の浄水池で、プルコを飼っているのは知っているか?」

「いや知らねえな」
やっぱり知らないか。

「そうか、まずは島には水道があるだろ?」

「ああ、知ってる。あれは凄げえと思う。ゴルゴラドには無かったからな」

「あの水道は、実は川から水を引いているんだ、それでダイレクトに川の水を飲むのは衛生的にも良くないから、その途中で浄水池を設けることにしたんだ」

「へえ、それで?」
レケは興味は止まらない。

「その浄水池には、水のゴミや、微生物を食べてくれるプルコという、今ばら蒔いた魚を飼っているんだ」

「へえ、そうなんだな」

「そのプルコが成長して、繁殖して数が増えるんだが、その数が、マグロを飼えるほどの数が無いということなんだ」
レケは納得した様だ。

「なるほどな、そういうことか、だったらそのプルコをもっとたくさん飼ったらどうなんだ?」

「いい質問だ、それを行ったとしても、プルコの数は多くはならない、何故だと思う?」
レケは考えこんでいる。

「あー、分かんねえ!ボス教えてくれよ」

「ロンメルはどうだ?」
レケと同様に考え込んでいた、ロンメルにも振ってみた。

「旦那、俺にも分からねえな」

「そうか、プルコ自体の数は増えても、プルコのエサの数はどうだ?」
レケが手を叩いた。

「そうか、プルコのエサの数が増えないと、プルコの数は増えないってことなのか!」
ロンメルもレケも理解できた様子。

「だから、マグロのエサとしては、成り立たないということなんだ」

「そうか」

「なるほど」
だから他を当たるしかないんだよね、今は。

「なあボス、なんでボスはそんなに賢くて物知りなんだ?」

「賢くて、物知りか?それは異世界で得た知識があるし、異世界ではそれなりに俺も勉強をしてきたからな、それに俺はいろいろなものに、興味を持ってしまう性格だからじゃないかな?」

「勉強か・・・なあボス、勉強すれば俺でも賢くなれるかな?」

「ああ、間違いなくなれるぞ」
嬉しそうにしているレケ。

「本当かい?ボス、俺にいろいろ教えてくれよ、俺、賢くなりてえよ」

「ハハハ、そうか、よし、どうするかちょっと考えてみるよ」

「ありがとなボス、俺頑張るよ!」
嬉しい申し入れだった。
レケの向上心を感じる出来事だった。俺には養殖が上手くいく以上に、大事なことであると思えた。
こんな副作用があるとは思わなかったな。
良かった、良かった。
レケ頑張れ!

さて、次はどうするか?
準備してある中で、あり得そうなのは、獣の肉だった。

ジャイアントボアの肉を取り出して、ばら蒔いてみた。
すると、動きがあった。
マグロが近づいてきた。
しかし、食いつかない。肉が海面にプカプカと浮かんだあと、ゆっくりと沈んでいった。

駄目か・・・

「これは、どうなんだ?」
海下を良く見てみる必要がある。
こんな時の為に作っておいた、水中眼鏡を取り出し、装着して、海中を眺めてみた。

マグロが、肉の周りをぐるぐると周っている、興味はありそうだ。
するとその内の一匹が食いついた。
そして、吐き出していた。

駄目だったかー。
でも興味はあったようだな。要チェック。

「残念ながらジャイアントボアの肉は駄目なようだ、食ったことは食ったが吐き出していたよ」

「それは、駄目だな」

「次はどうするんだ?ボス」

「まずは、野菜を手当たりしだい試してみようと思う」

「おお、そうなのか」

「これぞ実験というところだな、大事なのはただエサをやるだけではなく、マグロの動きをよくみることだ」

「どういうことだ?」

「興味を示したかどうかを見極めるってことだ、興味を示した物は、エサの候補になりえるってことだよ」

「いまいちよく分かんねえな」
ロンメルが疑問を口にした。

「今日はひとまず、野菜をそのままで、試してみるが、興味がありそうな物を見極めて、その野菜を加工してみたら、エサになるかもしれないだろ?」

「そうか加工か・・・旦那は何手先まで考えてるんだ?適わねえな、まったく」

「何を言ってるんだロンメル、これが実験の面白いところなんだぞ」

「そういうものなのか?俺には分かんねえよ」
呆れているロンメル。

「俺にもなんのことだか分かんねえけど、面白いなボス、なんだかワクワクしてきたぞ!」

「そうか、それはよかった」
レケが変わってきていることを感じた。嬉しい変化だ。
この日は、ありったけの野菜を試して、夕方を迎えたので実験を止めた。
帰ると本日の内容を、木から造った再生紙に、炭で、記憶を記していく。
その様子をレケが熱心に眺めている。

記録を終えると、風呂に向かった。
本日もサウナを満喫している。
三セット目のサウナに、レケが入ってきた、

「ボス、期待してるぜ、養殖は上手くいくんだろ?」

「どうだろうな?でもなレケ、まずは基本からやっていくことが大事なんだ。苦労するかもしれないけど、頑張ろうな」

「ああ、ボス、俺は酒以外で、こんなに興味を覚えたのは初めてだ。ワクワクしてるぜ、本当にこの島は刺激が溢れてるな」

「そうか、それはいいことだ、お前の好きな事を好きなだけやればいい、俺はそんなレケを見てみたいと思うぞ」

「ボス・・・ありがとう」
レケが泣いた様に見えたが、汗が邪魔をしてよく分からなかった。



そして、晩御飯の時間となった。
最近では、俺は料理に加わることは少なくなってきている。
メルルに加えて、ギルとエルが、料理を作ってくれる様になっていた。
ギルは何かと、ピザを作りたがるが、それはまた後日、俺が教えることにしている。
まずは、その他の料理を学んだ上で教えることとなっている。

本日のメニューはシチューとパンといった。シンプルな晩飯。
良いじゃないか、シチューに隠し味として、醤油と、チーズが入っているのは俺直伝のレシピだ。
上手い、ノンとロンメルは早々にパンを食べ終え、ご飯をシチューに混ぜている。
こいつら、どんだけ混ぜたいんだ?気持ちは分かるけど・・・
さて、大事な話をしようか。

「なあ皆、聞いてくれ」
皆がどうしたと、俺の方を見ている。

「この中で、読み書きと計算ができる者はどれだけいるかを知りたい、出来る者は手を挙げて欲しい」
ノン、エル、ギル、ゴン、メタンが真っ先に手を挙げた。
遅れて、メルルが手を挙げる。
それ以外の者は何とも言えない反応。

「今手を挙げなかった者には、読み書きと計算の授業を受けて貰う、講師はメタンに任せていいか?」

「お任せください」
メタンは仰々しく一礼した。

「夕食後の三十分間勉強を受けて貰う、これは決定事項だ」

「「「ええー」」」
との反応。
手を挙げて俺はそれを制する。

「いいか、俺達は商売を行っている、商売人が計算をできないことはあり得ないし、文字が読め無いは話にならない、だから、これは強制的に学んでもらう。俺もサポートに回るから頑張って欲しい。これは今後の人生において、必ず役に立つことだと考えている、だから俺を信じて学んで欲しい」

「分かりました」

「そこまで言うなら」

「あたりまえだ」
どうやら合意を得られたようだ。
これで、皆が少しでも学んでくれたならいいと思う。
最低限の知識は学んで欲しい。

この日より、勉強会が行われるようになった。
全員がやる気に満ちた表情であることに安堵した俺であった。
まさか、レケの一言からこうなるとは。
人生は面白いと思う出来事だった。



また、養殖場に来ている。
エサの実験の時間だ。

まずは興味を示した。野菜に手を加えた物を使ってみる。
興味を示したのは、大豆とトウモロコシだった。
その二つを茹でてから潰して、混ぜ合わせた物を、大福ぐらいの大きさに丸めた物。
割合はちょうど半分ずつ。
これをエサとして使ってみる。

エサを撒くと、マグロが寄ってみきた。

「おお、食べてるぞ」
嬉しそうに観察しているレケ。

「うん、良い食いつきだな」
よく観察すると、ちゃんと吐き出さずに飲み込んでいる様子だった。

「でも、一つ二つしか食べないようだな」
ロンメルが言う通りだった。

「体の大きさからの推測だと、もっと食べると思えるが、何か違うのかもしれないな」

「何が違うんだろう?」

「今回のは、大豆とトウモロコシの割合を半分ずつにしてあるから。割合を変えてみるのも一つの手かな」

「なるほど」

「あと、こんな物も用意している」
俺は『収納』から違うエサを取り出した。
これは、先ほどのエサに、干し肉を粉にした物を混ぜているエサだ。

「先ほどの物に干し肉を混ぜてある、肉も興味を示していたからな」

「でも、確か肉は吐き出したんじゃなかったか?」

「ああ、そうだ、あれは生肉だったし、一度は口にしたんだから。可能性はあるかと思ってな」

「そうか、干し肉なら良いかもな、ボス早くエサをやってくれよ」
レケの表情からワクワクしているのが読み取れる。

「そう焦るなって、レケ、お前がやってみるか?」

「いいのか、やったぜ」
レケは俺からエサを受け取ると、養殖場にばら撒いた。

マグロが寄って来た。
勢いよく食べている。
バシャバシャと水飛沫を挙げていた。

「これが、今の所一番正解のようだな」

「凄い、ボスたくさん食ってるぞ!」

「じゃあ、これからはレケ、お前が引き継いでくれ」

「えっ、俺でいいのか?」

「ああ、先ほど言った様に、今後は大豆と、トウモロコシと干し肉の割合を変えて、どの割合が良いか、全部メモを取るようにしてくれ」

「ああ、ところで割合ってなんだ」
船の上じゃなかったら、確実にずっこけてたな。
そうだった、こいつはまだ勉強中だったな。

「帰ってから教えるよ」
マグロの養殖の道筋が、少し見えて来た気がした。
まだまだこれからだけどね。

帰ってからレケに割合を教えた。
興味があるからか、すんなりと理解したようであった。
興味ってすごいね。



メルルとの体力回復薬の研究も大詰めを迎えている。
様々な調理法を試し、様々な組合わせで野菜を試した。
最終的に出来上がったのは、野菜ジュースだった。

正直こうなるとは思ってたんだけどね。
遠回りしたのは、ご愛敬ということで、勘弁してください。

「やっと、出来あがったな」

「そうですね」

「ただ、問題がいくつかあるな」

「ええ、ここからは今の私では埋めようがありません」

「まずは、消費期限問題だな、結果はどうだった?」

「はい、日の当たるところで放置した場合では、十五日が限界でした」
これは俺の『鑑定』で見定めた結果だ。

「日の当たらない場所では三十日間持ちました」

「通常のハンター達が使う物と考えると、マジックバックに入れておくことが、多いんだよな?」

「はい、そうです」

「すると、最大三十日、安全性を考えると、二十日といったところか・・・」

「そうなりますね」

「これは長いと見るのか、短いとみるのかだが、どう思う?」

「正直判断に迷うところです。販売先は温泉街『ゴロウ』のみですよね?」

「ああ、そうだ、外では考えていない」

「そうですよね、そうなると微妙なところですね」

「そうだな・・・」
日数的に微妙ということだ。

「温泉街『ゴロウ』から二十日間歩きで行くとなると、どこまで行けるんだろうか?」

「それなら、ロンメルに聞いてみたほうが、いいですね」

「すまないが、ロンメルを呼んで来てもらえるか?」

「分かりました、行ってきます」
メルルが、ロンメルを呼びに行ってくれた。

需要が無いとは言えないが、あるとも言いづらい。
実験的に販売してみるしかなさそうだが・・・
使用に関しての説明書も付ける必要がある。
食当たりを起こしたとクレームが入るのも困る。

メルルがロンメルを伴って入室してきた。

「ロンメルすまない、ちょっと教えて欲しいことがあってな」

「ああ、旦那、ちょうどこっちも用事があったんだ、後で頼むぜ」

「そうか、じゃあ先にこちらからでいいか?」

「ああ、構わない」

「温泉街『ゴロウ』から、二十日間歩きで向かうとなると、どこぐらいまで行けると思う?」

「そうだな、足の速い遅いはあるかもしれないが、南に向かうなら『コロン』か『カナン』ぐらいまでかな、東になら『メッサーラ』までだろう。北なら『大工の街』ぐらいまでだな」
『大工の街』マークとランドの出身地だな。

「そうか、わかった『温泉街ゴロウ』で体力回復薬を買ったとして、今言った国に行くまでに、狩りを行うことはありそうか?」

「それは、あるとは思うぜ、ただ、ハンターってのは、ある程度腰を据えて街に滞在することが多いから、移動がてら狩りを行うことは、あまり無いな」

「そうなのか、分かった、ロンメルありがとう」
となると『タイロン』のハンター以外は、需要は無いかもしれないな。
どうしたものか・・・

「で、ロンメルの用事は何だったんだ?」

「実はマグロが一匹死んじまったんだよ」
マグロが死んだ?何でだ?

「そうなのか?」

「ああ、エルがいたから氷漬けにはしてあるが、レケが滅茶苦茶落ち込んじまって、これは旦那じゃねえと、話にならねえと思ってな」

「そうか、後で様子を見にいくよ」

「悪いが頼むぜ、旦那」
ロンメルが退室していった。

「マグロの養殖は上手くいっていると、聞いていたんですが」
メルルが心配そうにしている。

「生き物相手だと、こういうこともあるんだよ」

「そうなんですね、レケは大丈夫かしら?」

「レケは大人ぶってはいるが、案外心は子供だからな、まあ、俺に任せといてくれ」
メルルはコクリと頷いた。

「で、体力回復薬だが、どうする?」

「そうですね、さっきの距離などを考えると『タイロン』周辺で狩りを行うハンターには需要がありそうですね」

「そうだな、五郎さんと相談して実験的に販売してみるか?」

「そうですね」

「後、実験的に一つやってみたいことがあるんだが」

「実験的にですか?」

「小型のなんちゃって冷蔵庫を作って、回復薬を保存したら、どうかと思ってね」

「ええ!それ凄いアイデアじゃないですか?無茶苦茶良いアイデアですよ」

「だろ、で、どうする?その結果を待ってから、なんちゃって冷蔵庫とセットで販売を開始するってのも、有りだと思うが?」

「そうですね、そうしましょう、せっかくならセットで売ったほうが、画期的な商品として販売が立ちそうですね」

「ああ、それに中途半端に初めて、微妙な評判が付くもの良くないしな」

「ええ、まったくその通りです」

俺はさっそく小型のなんちゃって冷蔵庫を造った。
サイズとしては、高さ三十センチ、横幅三十センチ奥行が十五センチの物、体力回復薬の瓶が四本入る設計にした。
体力早速回復薬を入れて、あとは何処まで消費期限を延ばせるのかを検証することになった。



おれはレケの所に向かった。
レケは養殖場から帰ってきており、いつもの食事をする席に座っていた。
俺を見つけると駆け寄ってきた。
レケはそのまま土下座を始めた。

「ボスごめん!俺が引き継いだばっかりにマグロが死んじまった。すまねえ」
涙を流していた。
レケを地面から引き剥がすと椅子に座らせた。
かなりショックだったようだ。
悲しさが顔一面に張り付いているか

「なあ、レケ、マグロが死んでどう思ったんだ?」

「それは・・・せっかくボスが任せてくれたのに、下手打っちまったって・・・」

「そうか」

「ごめん、ボス」

「何で謝るんだ?」

「何でって・・・期待を裏切っちまったから・・・」

「期待を裏切った?何で?」

「死なせちまったから・・・」

「レケ、お前は期待を裏切ってなんかいないぞ」

「えっ・・・」

「だからお前は期待を裏切ってなんかいないんだよ」

「そう・・・なのか?」

「ああ、生き物、ってのはな、案外簡単に死んでしまうものなんだよ」

「・・・」

「俺達人間や、お前達聖獣だってそうだろう?意味も無く、いきなり死んでしまうことがあるんだよ」

「・・・」

「それにマグロには悪いが、あれは実験なんだ。死ぬことだって想定済みなんだ」

「そうなのか?」

「それにな、今回の出来事で、レケは何に気づいて、何を感じて、どう想ったのかが重要なんだよ」

「・・・」

「それを今後に生かしていく、それを俺は期待している。だからお前は俺を裏切っちゃいない。まだまだ俺はお前に期待してるんだぞ」
レケの表情が明るくなった。

「何を気づいて、何を感じて、何を想ったのか、だよな?」

「ああ、そうだ、で、どうなんだ?」

「気づいたのは、食事が原因とは思えないってことだ、食事が原因なら、もっとマグロが死んじゃうだろ?」

「ああ、そうだな」

「次に感じたのは、悲しかった。俺がマグロ達を育ててる気になってたんだ。最終的には食べるってことは、分かちゃいるんだが、愛着っていうのか、なんていうか、辛かった・・・」

「そうか」

「最後に想ったのは、ボスの期待を裏切ったって思った」

「で、今はどう思ってるんだ?」

「今回のことを次に生かそうと思う、マグロが死んだことは悲しいけど、何で死んだのかを考えてみたいし、もっとエサのことも、いろいろとやってみたい」
レケに笑顔が戻った。

「ああ、それでいいじゃないか、期待してるぞ」

「ああ、やってやるぜ!」
レケの目に光が帰ってきた。
成長していく様を目の前に、俺は嬉しさが込み上げて来た。
こうやって成長していくといい。
俺は、暖かく見守ろう。
そう切に想うのだった。
レケが島に来てから三か月近くが経っている。
正確なところは分からない、だいたいということで、勘弁して欲しい。
現在の島の、皆の暮らしぶりを話しておこうと思う。

まずは、重大発表があります。

なんと、
遂に、
泳げる水風呂を造っちゃいました!

はい、拍手!拍手!
いやー、やりましたよ!
やってやりましたよ!

早速利用しましたが、素晴らしい解放感です。
いやー、造って良かった。

「これってプールでしょ?」
とノンが言ったので、後で驚かせてやりましたよ、ハハハ!
サウナマニアはプールとか言わないの!
本当にあいつは、サウナマニアが何たるかを分かってないな、まだまだだな。

泳げる水風呂の深さは一メートル五十センチ、横幅は五メートル、縦幅は十五メートルとナイスなスペックです。
水温は十八度前後。
最高です!

あと、屋台の変形判として、鉄板焼きの設備を作製した。
家の中では場所が限られる為、野外専用に屋台を改造して造った。
カウンター部分を五メートルの鉄板にし、鉄板の下には薪を並べる様に空間を造ってある。更に屋台の骨組みに引火しない様に鉄を使用して、受け皿を設置してある。
念の為、受け皿の上には砂を敷いてある。
これで、火事にはならないはず。
安全第一です。

まず最初に行ったのは、ステーキのコース料理。
前菜として、ミックスサラダを提供し、食している間に焼き野菜を作っていく、焼き野菜はズッキーニや、山芋、エリンギ、鶴紫、カボチャ、を鉄板で焼いて塩コショウを振る、そして軽く醤油をかける。
焼き上がったところで、各自の皿にとり分けていく。

ここで一度鉄板の油をふき取り、新しく油を引き治す。
その間に前もって仕込んでおいた。メルルとギルとエルのウェイター達が、調味料として、塩、山葵の乗った器を各自に配る。

それを尻目に俺は、ジャイアントブルの肉を焼いて行く、ある程度焼けたところで、フランベを行う、アルコールはトウモロコシから作ったウィスキーだ。この島で一番酒精が高いアルコールだ。
フランベの後に蓋をして、軽く蒸し焼きにする。

その脇でガーリックチップを作るのも忘れない。
程よく焼けたところで切り分けて各自の皿に置いて行く。

ここで一言。
「まずは塩からお召し上がりください」
したり顔の俺。

一度言ってみたかったんだよね、このセリフ。
その後は肉からでた油を利用して、ガーリックライスを作っていく。
ガーリックライスを、ヘラを駆使して作っていく。
あえてカチャンカチャンと音を鳴らす。
出来上がったところで各自に取り分けていく。

「本日はご利用頂きまして、ありがとうございました」
その声と共に味噌汁が運ばれてくる。

ノンとロンメルは、さすがにガーリックライスは味噌汁には混ぜていなかった。
良い判断だ。
これにて終了。

メルルとギル、エルが私もやりたいと、数日これが続いた。

その後、お好み焼きや焼きそばも作った。
また連日同じメニューが続いた。

更に鉄板を変え、今度はたこ焼きを行った。
これは各自で作る様にした。
相当にウケた。
一週間たこ焼きが続いた。
俺は三日目から飽きていた。
だが楽しそうにしているこいつらを見ていると、リクエストには応えたくなる。
結構俺は甘いのかもしれないな。
喜ばれるのは嬉しいものだ。

お好み焼きやたこ焼きは、実はソースは使っていない。
俺の好みだが、醤油マヨで食べている。
俺は俄然醤油派なのだ。
俺の好みを皆に押し付けて申し訳ないが、ソースは当分の間必要ないと考えている。
ちなみに焼きそばは塩焼きそばだ。

連日の鉄板料理となってしまったが、ちょっと刺激が強すぎたかな?
エンターテイメント性のある食事はこの世界には強力過ぎたようだ。



島の暮らしについての話に戻そう。
皆自分のやりたいことを見つけ、日々の生活を楽しんでいる様に見える。

誰よりも、いきいきしていると思われるのはレケだ。
日々を全力で駆けているように見える。
例のマグロが死んでからというもの、さらにやる気を出して、マグロの養殖に励んでいる。
今のところ、エサの配分で分かっているのは、トウモロコシ三割、大豆七割の配合が食いつきがよく、今後は肉の種類や配合を変えて、推移を見守るということらしい。
マグロの養殖は順調にいっていると思う。
それに読み書き計算も頑張って習得している。
勉強熱心でなによりだ。

そして、レケは漏れなく毎晩飲んだくれている。
あいつの酒好きは折紙付きだ。留まることを知らない。
毎朝誰かに起こされている。
一番起こしに行かされるのはゴンらしく、一度懲らしめようと、アイリスさんが起こしに行ったところ、レケも流石に反省していたらしい。
だが、翌日も反省が実らず、起きてこなかったようだ。

あれは治らんな。病気みたいなものだと受け止めよう。
とは言っても、仕事にかける情熱は凄く、周りの皆を感化しているぐらい激しいものだ。
実にいいことだと思う。

それに研究というところに目がいったのだろうか、ワインの作成も、一樽は俺の仕上げを無しに作っているとのこと。
部屋の隅に大事に寝かせてあるそうだ。
良い傾向だと思う。

こっそりと手を貸そうかとも考えたが、止めておいた。
何度も失敗と成功を繰り返して、学んでいって欲しい。
今のレケならば、失敗してもめげることはもうないだろう。

あと、休日にもマグロの様子を見にいっているようだ。
熱心なことは良い事だが、根を詰め過ぎないで欲しいとも思う。

『漁師の街ゴルゴラド』に買い付けに行く際には、レケに一声かけてから行くようにしている。
決まってレケは同行をし、ゴンズ様の様子を見に行っている。
買い付けは主に貝類やエビが多い、ロンメルとレケの漁で魚は足りているが、海老と貝は捕っていない。

少し話は脱線するが、買い付けに行った際に本屋を見つけた。
適当に見繕い、数十冊の本を購入した。
やはり、紙は貴重品のようで、中には一冊で金貨一枚もする物もあった。
今では本はリビングに保管してあり、誰でも気軽に本を読めるようにしてある。
ただし、借りパクしない様にと、読書はリビングでのみとなっている。

購入の目的は、読み書きがまだできない者達に役立つと考えたからだ、あとは娯楽に良いだろうと。
購入した本の一冊が、勇者の英雄譚の上巻だった様で、ギルに中巻と下巻をおねだりされている。
ギルはどうやら英雄とかに憧れてを抱いているようだ。
まだまだ子供だな。

話を戻そう。
レケは帰省すると、ゴンズ様に近況を報告しているようだ。
酒を作っていると話したら、無茶苦茶笑われたらしい。
出来上がったら持って来いと言われたようで、誇らしくもしていた。

給料が入ったら、ワインの材料をたくさん買いたいと言っていた。
頑張れ!レケ!

ゴンズ様には、石像の件を伝えて、お地蔵さんを五体預けておいた。
近いうちに街と街道筋に設置されることだろう。
教会の石像もゴンズ様立ち合いの下、改修させていただいた。
シスターが涙を流しながら感謝してくれた。
どういたしまして。

最後に遂に養殖マグロが目標としていた、体長二メートル五十センチに達した。
五郎さんに買い取って貰ったら、金貨五十枚になった。
金額がどれぐらいが妥当か分からない俺としては、高い金額に思えたが、五郎さんは充分に利益は確保できると言っていたので、深くは考えないようにした。
よく年始に行われるマグロの買い付けでは、何千万円もの値段がついたとテレビでやっているのを思いだしたが、あれはご祝儀の為、まったくもって参考にはならない。
まあ五郎さんが利益が出ると言うのだから、適正な金額なんだろう。
俺は何も言うまい。

島に帰還後レケに報告したら、無茶苦茶喜んでいた。
晩御飯の時に皆に報告し、臨時のボーナスを一人金貨二枚渡すことにした。
お祝いを兼ねて宴会へと突入し、レケが嬉しさのあまり号泣していた。
それを見て、他の皆ももらい泣きしていた。
俺はまた乗り遅れてしまい、一人苦笑いをしていた。
年を取ると涙脆くなるというが、俺の涙腺は堅めのようだ。
鉄板入りである。
ハハハ。

【鑑定】

名前:レケ
種族:白蛇Lv16
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3503
魔力:1999
能力:土魔法Lv15 風魔法Lv16 石化魔法Lv3 人語理解Lv6 人化Lv5 人語発音Lv6



次にマークとランドの頑張りで寮が完成した。
俺が手を貸したのは、基礎と水道関係と、彼らの指示の下、木材の作成を行ったぐらいでしかない。
ほとんどの作業を二人が行ったといっても良いだろう。
ほんとに頼れる奴等だ。

寮は良い仕上がりで、寮に住んでいる皆からも、住み心地が良いと評判のようだ。
六人の部屋に加えて、水洗トイレ、キッチンや台所も完備している。お祝いになんちゃって冷蔵庫もプレゼントした。

「本当に至れり尽くせりです」
一同に感謝されてしまった。

福利厚生は大事です。お気になさらず。
より一層仕事に励んでくれることだろう。

伐採した木材だが、そのままでは良くないと、ちゃんと次木を行っている。
次木に神気を流すと、直ぐに根を張るから。上手くいっている。
自然破壊はよくないですからね。
でも本当は、アイリスさんに苦言を呈されたからなんだが、多くは語らないでおこう。
アイリスさんには逆らえません。

次の建設は遊技場を予定している。
小さな体育館といったイメージだ。
中では、スリーオンスリーが出来る広さと高さ、ビリヤード台の設置やダーツが出来るスペースと、ちょっとした寛げる空間が欲しいとだけ、伝えてある。

こちらは設計から二人に丸投げした。
二人でどうするこうすると、連日打ち合わせているようだ。

そういえば、マークの休日の過ごし方だが。
朝から風呂とサウナを満喫し、昼飯と共にビールを飲む、その後、昼寝などでゴロゴロし、夕方にはまた風呂とサウナを満喫する。晩飯にまたビールといった。スーパー銭湯で一日中ゴロゴロしているオッサンの様なことをしていた。いや、カプセルサウナでゴロゴロ・・・どっちでも一緒か。

だがその気持ちはよく分かる、というより痛いほどよくわかる。
特に昼から飲むビールは格別なんだよな、背徳感も相まって、最高に美味いんだよな、ああ、飲みたくなってきた。
俺もたまに同じ様なことをやっている。
うんうん。

ランドだが、バスケットボールに大ハマりしている。
暇さえあれば、バスケットボールを触っている。
ランド曰く
「初めて決めたダンクの爽快感が、俺を虜にしたんですよ」
とのことだった。

好きなことが出来るのはいいことだ。
あまりのハマりっぷりに、バスケットシューズを作ってやったら、大喜びされた。
家宝にするとまで言われたので、そんな事言わずにちゃんと使ってくれと念押ししておいた。

「なんか、ジャンプ力が増したような気がします」
とランドは言っていた。
うん、間違いなく気のせいだね。
今はどうしたらこの世界で、バスケットボールを広められるのか?
と真剣に考えているようだ。

スポーツを広めるのはいいことだ。
頑張れ!ランド!

『鑑定』

名前:マーク
種族:人間Lv9
職業:ガーディアン
神力:0
体力:1390
魔力:148
能力:パーフェクトウォールLV2 防御力倍増Lv1 鼓舞奮闘LV2

『鑑定』

名前:ランド
種族:獣人Lv10
職業:重戦士
神力:0
体力:1653
魔力:74
能力:咆哮Lv2 斧ぶんまわしLv2 土魔法LV1



メタンだが・・・
こいつの信仰心は行き過ぎていると思う。
正直手が付けられない。

畑作業中に何度も創造神様の石像の前を通る度に、祈りを捧げるので。畑作業の手が止まるだろうと、メタン専用の石像を掘ってやった。
そうしたら引くほどに喜ばれた、というか無茶苦茶泣かれた。

「私の創造神様、ああ、私の・・・」
気持ち悪いほど悦に浸っていた。

サイズは畑の石像の半分サイズなので、メタンの寝室に飾ってあるらしく、毎朝必ず磨いているようだ。
本人が言うには、毎朝一時間は祈りを捧げているらしい。

そういえば、一度こんなことがあった。
畑作業中に背後から悪寒を感じたので振り返ると、跪いたメタンが俺に祈りを捧げていた。
俺はドン引きしてしまった。多分かなり嫌な顔をしていたと思う。

その後、祈られることは無くなったが、あれは二度とやって欲しくない。
将来、創造神様の後任になったとしたら、在ることなんだろうが、今の俺にはとでもじゃないが、受け入れられない。
ああ、思い返すだけで悪寒がする。

でもメタンの信仰心が、この世界の神気不足に少しでも、役立っていることも事実なので、受け入れるしかないのだが・・・もう少し時間をください。

真面目な話として、ゴンの魔法研究は行き詰っているらしい。
メタンからは、このままでは打開策が無いため『魔法国メッサーラ』の『魔法学園』への留学を提案したと聞いている。

なんでも『魔法学園』では、広く魔法を極めたい者を募っているらしく、学園長は賢者とのことだった。
せっかくだから『メッサーラ』についていろいろ聞いてみたところ。
国家元首は賢者が勤めることが慣例らしく、またその賢者が国家の運営能力が無くても、その地位に就くことになっているらしい。

実際の国家運営は、大臣クラスの者達が行っているようで。
賢者の実情はお飾りらしい、だが賢者の魔法に関する知識や威力、仕える魔法の種類は多岐に渡る為、一目置かれていることに変わりはないようだ。

お飾りとはいっても、一応それなりの権力は有しているらしく、賢者の一言で国が動くこともあるらしい。

メタンは賢者と面識があるらしく、メタン曰く。
「彼の魔法は本物ですな」
ということだった。

何が本物なのかは俺には分からないが、まともな人物であることを祈るばかりだ。
後は、ゴンが留学をするのか否かは、本人が決めることなので、俺は特に何もする気は無い。
背中を押すようなことでも無いし、本人の意思に任せるだけだ。
決意が固まったら、相談にくるだろう。

『鑑定』

名前:メタン
種族:人間Lv10
職業:魔法士
神力:0
体力:899
魔力:603
能力:火魔法LV6 土魔法LV7 崇拝の魔力化LV6


メルルだが、今ではこの島の料理番と言っても過言では無いだろう。
最近では目新しい料理を作ることが無い限り、料理はメルルとギルとエルが担当している。
メルルも料理の楽しさに目覚めたらしく、料理は楽しく生きがいだ、と口にしていた。

本人がそう言うのだから、そうなのだろう。
俺は決して押し付けた訳では無い。
生きがい、いいじゃないか。

今ではギルとエルに的確に指示を出し、台所の番人となっている。
俺は料理番を手放せたので嬉しく思っている。

更にこれまで俺が行っていた、醤油や味噌、アルコール類の下ごしらえも行う様になっている。
俺は最後に仕上げを行うのみだ。
大変ありがたいです。
助かってます。

なによりそのお陰で、夕方にサウナに入る時間ができるようになった。
若干の寂しさもあるが、それよりもサウナに入れる時間帯が、広がったことの方がありがたい。
ああ、俺はサウナジャンキーなんだなと切に感じた。

料理ができ気前上手なメルルなら、いつでも嫁にいけるだろう。
俺にどうかって?
馬鹿いっちゃいけない、精神年齢定年の俺には娘にしか見えませんよ。

メルルの野菜ジュース、もとい、体力回復薬だが、結局のところ小型なんちゃって冷蔵庫に保管すると、八十日も保つことが判明した。

実際には七十日以内に使用することが望ましい為、使用に関する注意書きには消費期限は、小型なんちゃって冷蔵庫内保管の場合は七十日とすることにした。

早速五郎さんのところに持ち込んだが、残念ながら待ったがかかった。
流石にインパクトが強すぎると、ハンター協会の会長とかとも話し合いをさせて欲しいとのことだった。
良いお返事を期待しています。

『鑑定』

名前:メルル
種族:人間Lv11
職業:僧侶
神力:0
体力:783
魔力:601
能力:風魔法LV6 治癒魔法LV8 鎮魂歌LV2



ロンメルだが、漁と海苔の作成に従事してくれている。
会話にもそれとなく入ってきて、ボケとツッコミの両方をそつなくこなす。まさにムードメーカーだ。
島の暮らしにも満足らしく、よくギルをからかって遊んでいる。
いい加減大人気ないから辞めなさいっての。

休日は『漁師の街ゴルゴラド』に帰ることが多く、酒場に入り浸っているようだ。
島に帰った後には、いろんな噂話をよく披露してくれている。
中には眉唾ものもあるが、世界の情勢を知ることは必要なことなので、ありがたく思っている。
まあ、どうでもいい情報も結構多いのだが。それはそれで知っていたに越したことはない、と言ったところだろうか。

ロンメルなりに、島の皆のことを考えて動いてくれていることは、よく分かっている。
もしかしたら、こいつは漁や海苔作りをするよりも、新聞記者とかの方が向いているのかもしれないと思う。

ビリヤードの腕はまだまだといったところだな。
若いもんには負けませんよ。

『鑑定』

名前:ロンメル
種族:獣人Lv11
職業:斥候
神力:0
体力:1259
魔力:239
能力:ムードメーカーLV3 探索LV2 跳躍LV1



触れる必要はないのだが、一応アグネスについての話しておこう。
五郎さんの所との大口取引が始まり。
アグネス便を停止しようかとも考えたが、続けることにした。

コロンの街の野菜は、だいぶ良くなったらしいが、島の野菜には適わない。
まだまだ需要があるみたいだし、最初の取引先であることに変わりは無いから、今後も続けることにした。

相変わらずの態度で、島の皆からめんどくさがられている。
唯一丁寧に対応するのはメタンのみ。
メタンがいうには、天使は神様の使いです、敬うのは当然ですな。ですが、少々うざいです。
とメタンにまで、うざいと言われてしまっていた。

たまにノンから
「締めるゾ!」
と言われて反省はするが、少し経つとすぐに元に戻っている。

なかなか性格は変わりませんよね。
まぁアグネスは今後も変わらんだろう。



ノンは相変わらずのマイペースぶりだ。
たまにイラっとする時があるが、そういう時は、驚かせてイライラを解消させて貰っている。
ノンには悪いが、これが一番面白いし楽しい。

今では、森の狩りはほどんどノン一人で行っている。
戦力としては充分過ぎるぐらいだ。
ノンが言うには、狩れない獣は居ないとのことだった。
そして時々獣化して甘えてくる、甘えん坊さんは変わらないようだ。

休日は森に出かけることが多く、何をやっているのかはよく分からない。

前に森で小さなお友達が出来たと言っていたが、何のことだかさっぱりだ。
たぶん、小動物とでも仲良くなっているのだろう。
好きにすればいい。

相変わらず犬飯が大好物のようで、ロンメルまで一緒になって犬飯を食べている。
犬は犬飯が好きなようだ。
ゴンには毎回舌打ちされるようだが、飯ぐらい好きに喰わせろよ、とよく言っている。

『鑑定』

名前:ノン
種族:フェンリルLv21
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:4448
魔力:2985
能力:火魔法Lv19 風魔法Lv20 雷魔法Lv18 人語理解Lv8 人化Lv7 人語発音Lv7



アイリスさんは、今では島の野菜の全てを牛耳る支配者となっている。
水やりから、肥料の指示までそつなくこなしてくれている。
アイリスさんは、畑で野菜を育てることが大好きらしく、もっと育てたいと良くせがまれる。

考えてみれば、最初はノンと二人だったこともあり、家庭菜園規模のような畑だったが、人が増え販売まで初めて、十ヘクタールぐらいにはなっているかもしれない。
測ったことは無いし、成形には作れて無いので、よく分からないのだが。
今では広大だということだ。

ただ、これ以上増えるのは勘弁して欲しい。
管理ができないと思う。
まったくもって、人出が足りないのが現状だ。

島の皆にとって、アイリスさんは母親的な存在なんだと思う。
皆との接し方を観ているとそう感じる。

特にギルはそういう節が強い、よく今日は何があったであるとか、こんなことをしたとか話しをしている。
そんな時のアイリスさんは微笑を浮かべて、話を聞いている。
そういえばアイリスさんから、饅頭を作れないかとリクエストされ、小豆を栽培してみた。
そろそろ収穫が近いかもしれない。

『鑑定』

名前:アイリス
種族:世界樹の分身体Lv19
職業:島野 守の協力者
神力:0
体力:2497
魔力:4306
能力:土魔法LV23 治癒魔法Lv17 人語理解Lv9 人化Lv9 人語発音Lv8 聖霊召喚LV3


エルは相変わらず不思議ちゃんキャラで、何を考えているのかさっぱり分からない。

たまに変な子モードになって、変なことを言っては皆を笑わせている。
いやあれは、笑われているだな。
本人には何故笑われているのかの自覚はなさそうだ。

笑顔も素敵で、全力で歯茎を剥き出しにしている。
なんでだろうね?

最近のエルは、もっぱら料理に興味があるようで、メルルの指導の下、着実に腕を上げているとメルルが言っていた。
どうやらどう料理をしたら、人参が最も上手くなるのかを知りたいらしく、試行錯誤しているとのことだった。
なんのことらや・・・

ただ俺にはそうは映ってはいない、おそらくだが、ギルが料理をやりたがっているからだと思う。
エルは顔には出さないが、ギルの姉であるという自覚が強いと感じる、また飛行部隊としての絆もあるのだろう、ギルの面倒を見ているような感じなのではないかと考えている。
いいことだと思う。

それとなく寄り添う関係が心地いいのかもしれない。
ギルも良く「エル姉」と言っては、何かを一緒にやっていることが多い。

兄弟仲良くでいいじゃないか。
うんうん。

『鑑定』

名前:エル
種族:ペガサスLv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2490
魔力:4301
能力:風魔法Lv20 浮遊魔法Lv18 氷魔法Lv19 雷魔法Lv16 
治癒魔法Lv12 人語理解Lv8 人化Lv8 人語発音Lv7



ギルは今では、蓄えれる神力の量も増えたので、一部の畑の神気やりをさせている。
まだ俺の様に神気を足から流すということは出来ないようだが、神気銃は撃てるようになったと言っていた。
たまに漁で神気銃を撃つらしい。

神気操作もレベル2になっていた。
その他の能力はまだまだ先と考えている。

まあ、ギルには魔法が使えるから特に急ぐ必要も無いだろう。
神様修業はゆっくりやっていこう。

そういえば、前にリズさんの教会に行った時に、テリー少年と打ち解けていた。
何があったかは知らないが、
「ギルの兄貴」
と慕われていた。

もしかして締めちゃった?
あと気が付いたらベビードラゴンからドラゴンキッズになっていた。
子供の成長は早いですね。

『鑑定』

名前:ギル
種族:ドラゴンキッズLv3
職業:島野 守の子供
神力:668
体力:4021
魔力:4029
能力:人語理解Lv7 浮遊魔法Lv6 火魔法Lv8 風魔法Lv8 土魔法LV6 人語発言Lv6 人化魔法Lv6
 神気操作LV2



ゴンはメタンからの報告道りで、行き詰った感がある。
留学のことは本人次第だ。

管理部門の責任者として頑張ってくれている。
生徒会長的な雰囲気は変わっておらず。
気真面目なところも健在だ。

最近知ったのだが、イチゴが好物らしい。
狐だから、今度油揚げでも作ってみようかな?いやおいなりさんかな?
安易過ぎるだろうか?

『鑑定』

名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2009
魔力:2932
能力:水魔法Lv20 土魔法Lv17 変化魔法Lv16 人語理解Lv8
人化Lv7 人語発音Lv7


ゴンが俺の部屋にメタンを伴ってやってきた。
どうやら決意が固まったようだ。

「主、お話しがあるのですが」

「おお、どうした」

「大変重要な相談です・・・」
神妙な表情のゴン。

「どうした?」
分かってはいるが、あえて振ってみた。

「私『メッサーラ』の『魔法学園』に留学したいです」

「そうか、良いぞ行ってこい」

「えっ!いいので?」

「ああ、好きにすればいいさ」

「そんな簡単に?」
俺があっさり認めたので疑問に思ったようだ。

「ああ、メタンから大体のことは聞いている、好きにやってごらん」

「本当にいいので?」

「もちろんだ。いつ言い出すのか待ってたぐらいだ」

「ありがとうございます!」

「ゴン、思いっきり行けよ」

「はい!」

「そこでゴン、一つだけお前に目標を与える」

「なんでしょうか?」

「友達を作れ、一人以上は必ずだ」

「友達ですか?」

「ああそうだ、お前の人生において、大事な存在になることは間違いない、いいな?」

「分かりました、頑張ります!」
こうしてゴンの留学が決定した。
一回り大きくなって帰ってくることを期待しよう。



俺のステータスはどうかって?
しょうがないな、見せたくはないのだが秘密で頼むよ。

『鑑定』

名前:島野 守
種族:人間
職業:神様見習いLv15
神気:計測不能
体力:2003
魔力:0
能力:加工L6 分離Lv6 神気操作Lv6 神気放出Lv5 合成Lv5 
熟成Lv5 身体強化Lv4 両替Lv1 行動予測Lv3 自然操作Lv5
結界Lv2 同調Lv2 変身Lv2 念話Lv2 探索Lv3 転移Lv3 
透明化Lv2 浮遊Lv3 鑑定妨害lv1 初心者パック
預金:3598万4356円

ええそうです。だいぶ儲かってます。
ちなみに島野商事の現在の経常利益は金貨675枚と銀貨54枚。
まっ黒字経営となってます。

バンザーイ!
バンザーイ!
バンザーイ!
ゴンの留学が発表された。
出発は一週間後。
皆な様々な反応を見せている。

前打ち上げとして宴会となった。
そしてレケがまたやらかした。

「ゴン!行かないでくれよ!お願いだよ!」

「そんなこと言わないでよ、半年で帰ってくるんだからさ」

「そうじゃなくて、俺は朝どうやって起きたらいいんだよ?」

「そんなの自分で起きなさいよ!」

「「そりゃそうだ」」
全員総ツッコミ。
レケの悪酔いは止まらない。

「そんな寂しいことは言わないでくれ・・・ゴン・・・寂しいよ」
と大泣きした。
それに釣られて皆が大号泣し出した。

またこのパターン・・・勘弁してくれよ。
やれやれだな。



ゴンの留学前日、出発の日。
メッサーラへは『温泉街ゴロウ』から空路で移動することになっている。
移動時間はおそよ半日。

皆から盛大な見送りを受けているゴン。

「皆、本当にありがとう、行ってきます!」

「「「いってらっしゃーい!」」」

「気をつけていくんだぞ!」

「体を大事にな!」
盛大に送り出してくれている。

「じゃあゴンいいか?」

「はい、お願いします」

ヒュン!



『転移』で『温泉街ゴロウ』にやってきた。
五郎さんに挨拶しようと思ったが、取り込み中とのことだったので止めておいた。
既に、上空の移動に関する許可は『温泉街ゴロウ』のハンター協会から貰っているので、直ぐに移動を開始した。

俺はメタンとギルの背に乗り、ゴンはエルに背に乗っている。
上空へと飛び出した、向かう方角は北東方面、天候も良く、気持ちのいい風を受けている。

「まさか、ギル様の背に乗せていただける日がこようとは、感激ですな」
メタンが呟いた。
だか、顔色は悪い。

「おいメタン、大丈夫か?」

「じつは、私、高所恐怖症で・・・」
メタンは気絶した。

「あれ?メタンが気絶しちゃったよ」

「嘘でしょ?」

「「「ハハハ!」」」
大うけだった。

「ギル、ゆっくり飛んでくれ」

「分かった、あー、面白!」

「まあこれで、煩い創造神様の話を聞かなくて済むな」

「そうですの、煩いですの」

「違いない」

「まあ、吐かなかっただけよしとしよう」

「えー、吐かれたら僕は一生恨むよ」
楽しい空の旅となった。

メタン残念!
僕は賢者ルイ、魔族と人間のハーフ。
そして、魔法をこよなく愛する者さ。

魔法国メッサーラでは慣例として、賢者が国家元首を務めることになっているので、僕はメッサーラの国家元首でもある。
正直に言って国家元首なんてやりたくない。

三年前に僕は賢者になった。
元々僕は生まれながらに魔力量が多く、魔法の習得も早かった。
どうしてなのかは分からない。

生活魔法や攻撃魔法、防御魔法なんかを使える。
だが、固有魔法はまだ開花していない。
今の僕には固有魔法を開花できるとは思えない。
固有魔法は、その人物の性格や人間性から開花する魔法だ。

今の僕には無理だろう。
何故無理かって?
だって、毎日がつまらないんだ。

賢者になってからというもの、僕の周りの人は僕を見る目が明らかに変わった。
親や兄弟まで変わってしまった。
その目の奥には、恐れの感情が含まれている。
分からなくはない。
けど・・・

国家元首である僕には国を動かす力がある。その権利を持っている。
お飾りではあっても、僕の発言には高い関心が寄せられている。
実際、政治については、僕は何もしていない。
政治は大臣達が行い、僕は最終的に決まったことを了承するだけ。

僕が国家元首である必要はないと思う。
でもこの国の伝統にのっとり、そうしなければならない。

その他の国営に関することも同じで、決まったことを了承するだけ。
なによりそもそも興味がないので、決まったことをひっくり返すことなんてしない。出来る権利は持っているけど。

だからだと思う。
皆が僕に恐怖を覚えるのは。

でも皆な間違っても口にはしない。
そもそも僕を咎めたり、叱ったり、怒ったりなんて誰もしない。
間違ったことをしても、やんわりと諭される程度で、真剣に叱ってくれる人なんていない。

賢者になってから僕の世界は色を失ってしまった。
僕には世界が灰色に観える。
でも大好きな魔法の研究に没頭している時だけは、世界に色が戻ってくる。
そうその時だけは。

僕は『魔法学園』の学園長も兼任している。
だから生活のほとんどを『魔法学園』で過ごしている。

『魔法学園』の生徒たちは、魔法を学び、その研究を行っている。
時には僕が魔法を教えることもあるが、実力のある教師が揃っているので、あまり出しゃばらないようにしている。

そんな僕には友達も、親友も、恋人もいない。
灰色の世界に住んでいる。



特にやることもなかったので、学園の中を歩いていた。
何も考えずにボーっと歩いていた。
すると突然、僕は目を奪われてしまった。ある一人の女性に。

その女性には色があった。とても綺麗に輝いていた。
うつむき加減な女性が正面から歩いてきた。

僕は思った、いや思ってしまった。
この女性を知り合いと。

なぜこの女性には色があるのか。
美しとも感じた。可愛いとも感じた。
目が離せない。
知りたい、どうしても知りたい。
どうしよう。
知りたいんだ。

気が付くと『鑑定魔法』を使ってしまっていた。

『鑑定』

名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2009
魔力:2932
能力:水魔法Lv20 土魔法Lv17 変化魔法Lv16 人語理解Lv8 
人化Lv7 人語発音Lv7

やってしまった。とんでもない失礼なことを。
でもせっかくだからちゃんと見よう。
ゴン?
不思議な名前だな。
九尾の狐って聖獣じゃないか。
島野守?って何の神様なんだ?聞いたことも無いぞ。
言葉の響きからして、どこかの島を守る神様?いや分からない。
なによりレベルそのものが凄く高い、水魔法レベル20って川を氾濫させるレベルだと思うけど。
えっ、変化魔法?聞いたことがない。固有魔法なのか?

凄い、興味が止まらない。
どうする、どう声を掛けたらいい?
はじめまして、僕はルイ、賢者だよ。
駄目だ、それとなく逃げられそうだ。
君って聖獣なんだね?
あほか『鑑定魔法』使ったのが、バレバレじゃないか。
君の名前は?
始めて会った人にかける最初の一言ではない。
どうしたらいい、もう目の前にいるってのに
あああ、もう!

「僕と友達になってください!」
僕は下を向いて、右手を指し出していた。

何を僕はやってるんだ!
僕は馬鹿か!
絶対に間違った!
やってしまった!

とその時、右手に握り返された感触があった。
えっ!
思わず前を向ていた。
「こちらそ、よろしくお願いいたします」

素敵な笑顔だった。
僕はこの笑顔を一生忘れないだろうなと思った。

僕の世界に色が戻ってきた。



『魔法国メッサーラ』に到着した。
入国の際に、ここも『タイロン』と一緒で随分と待たされた。
『魔法国メッサーラ』の印象としては、他民族国家というところだった。
人間、魔人、獣人、エルフ、中には巨人と呼ばれる三メートル近い身長の人も居た。

そのせいだろうか、屋根の高い家が多い、あれだけの巨体が入るとなると、当然なのだろう。

街の至るところに街灯のようなものがあり、メタンに聞いてみたところ。街灯そのものだった。
ただ電気で光を出すのではなく『照明魔法』という物があり、夕方になると。照明屋と呼ばれる魔法士が明かりを点けにくるのだそうだ。

『照明魔法』そんな魔法があるのか・・・俺も能力で照明を開発してみようかな?

生活魔法の中では比較的簡単な魔法であるらしい。
だがメタンは習得できなかったそうだ。
適性がないということらしい。
ゴンが覚えてくれたら助かるなと思う。

ゴンの入学テストは明日の為、今日は適当に宿に泊まってと考えたが、島に帰ることにした。
ゴンは一人宿に泊まるということになった。
あんなに盛大に送り出してくれたのに、いきなり帰るのはバツが悪いらしい。
ギルがゴンが一人ではなんだと、ギルも宿に泊まることになった。
ならばと結局五人とも宿に泊まることになった。
要らないやりとりをしたようだ。

晩御飯を終え、宿の部屋に向かった。
部屋割りは、俺とメタン、ギルとゴンとエルとなった。

「それじゃあ明日、あんまり夜更かしするなよ」

「ええ、そうします」

「パパ、お休み」

「ああ、お休み」

部屋に入った。
宿の部屋は広く、天井が高かった。

「メタン、この天井高がこの国では一般的なのか?」

「そうですね、体の大きな人もこの国では多いですからな」

「そういえばメタン、ゴンのことだが、お前どう思う?」

「そうですね、魔法のレベルは高いですし、技量も高い、試験には間違いなく合格します」

「寮生活になるんだろ?」

「ええ、そうです。個室はありませんので、おそらく二人部屋になるかと思いますな」

「学園生活はどうだろう?」

「ゴン様はコミュニケーション能力は高いですが、正義感が強いので、そこが心配どころですな」

「そうか」

「メッサーラにも少なからず差別があります。他民族国家ならではかと」

「差別ね、あるんだろうな」

「ええ、変なことに巻き込まれなければいいのですが・・・」

「まあ、それも勉強の内だな」

「そうですな」

「じゃあ、休もうか」

「お休みなさいませ」

「ああ、お休み」
俺達は眠りについた。



翌日、朝食を終え、俺達は『魔法学園』に向かった。

「昨日はよく眠れたか?ゴン」

「いえ、実はあまり、緊張してしまいまして」

「そうか、緊張するなとは言わないが、自分の実力を信じることだ」

「自分の実力を信じる・・・」

「ああ、お前の魔法の実力は間違いないとメタンが言っていたし、俺もそう思うぞ」

「そうですか、ありがとうございます。主にそう言って貰えると励みになります」

「あとな、実は緊張を解す方法があるぞ」

「あるのですか?」

「ある」
そういうと、俺は手招きした。

「黄金の整いの呼吸法だ」
小声でゴンにだけ聞こえる様に話した。

「なるほど、私は知っていたんですね」
メタンが聞きたそうだったが、無視した。

『魔法学園』に着いた。

「じゃあゴン、気負わずにな、終わったら宿の食堂で合流だ」

「わかりました、いってきます」

「「いってらっしゃい」」

「頑張れゴン姉!」

「ゴン様なら楽勝ですな」
ゴンは『魔法学園』に入っていった。



「そういえばメタン、学園内を見学はできるのか?」

「どうでしょうか?聞いてみましょう」
学園の警備室のようなところに行った。
受付の警備員に尋ねてみる。

「すいません、学園内を見学することは可能でしょうか?」

「あの、生徒のご家族さんでしょうか?」

「ええ、娘が今日入学試験を受けるところです」

「そうですか・・・」
怪訝そうな顔つきだった。
まあ、見た目が若いからね。疑われてもしょうがないか。

「では『鑑定』をさせてもらいますね」

「『鑑定』ですか?」

「ええ、身元を保証してもらう必要がありますので」

「そうですか、じゃあいいです。辞めときます」

「島野様、ちょっとお待ちください」
とメタンが言うと、前に出て来た。

「君、島野様とギル様とエル様の身元はこの私が保証します。私はここの卒業生です」

「卒業生ですか?」

「そうです『鑑定』してみなさい」
怪訝そうな表情を崩さない警備員。

「では、そうさせていただきます」
鏡のような道具を警備員が持ち出した。

「では、失礼して・・・えっ!あなたは、もしかして・・・信仰のメタン・・・さん?」

「ええ、そうです」

「わかりました、信仰のメタンさんが身元を保証してくれるというのなら、どうぞご見学なさってください」
軽く会釈して、その場を立ち去るメタン。

俺はギルと顔を見合わせた。
両手の手の平を上にして、分かりませんのポーズをするギル。
それに頷く俺。
メタンの後を着いていった。



「なあメタン、お前ってもしかして、この国じゃあ有名人なのか?」

「いえいえさほどでも」
誇らしそうな表情を浮かべている。

それにしても、こいつに二つ名があるとはな。
信仰のメタンって、まんまじゃん。
こいつの信仰心の高さは二つ名になるほどなのか・・・まあそうだろうな。変態的だもんな。

学園内は家や宿と一緒で、天井が高かった。
それに懐かしの黒板があった。
この世界にも黒板があるとは・・・

「なあメタン、チョークもあるのか?」

「チョークですか?聞いたことがありませんが」

「じゃあ、黒板にはどうやって文字を書くんだ」

「それは魔道具で書きますな。魔道具の筆で、書くことも消すこともできます」

「そうなのか?そういえば、さっきの『鑑定』も鏡みたいな道具を使ってたけど、魔道具ってたくさんあるのか?」

「ええ、ここ『魔法国メッサーラ』の魔法道具は有名で、特産品となっております」

「そうなのか?じゃあ、後で見て周りたいな、いいか?」

「もちろんです島野様。あとで魔道具屋をご紹介させていただきます」

「そうか、助かる」

魔道具か・・・俺は使えないが、皆の助けになるような道具があれば、買っておきたい。
どんな魔道具があるんだろうか?気になるな。

この後、学園内を見学し終え、ひとまず昼飯にと街に出かけた。
食事は正直言って、美味しくはなかった。
まあ、食事には拘りが無い国なのかもしれない。
食事の満足度は低い。

「メタン、魔道具ってどんな物があるんだ?」

「そうですね、一般的なのは、先ほど島野様が興味を持たれた魔法筆、あとは魔法照明具ですな」

「照明か、いくつか買っていこうかな?」
値段はどうだろう?

「高いのか?」

「ピンキリですな」

「そうか、他には?」

「魔法消臭具、とかですな」

「魔法消臭具?」

「ええ、主にトイレに使用します、島のように水道が通っておりませんので、トイレの匂い消しに使われます」

「なるほど」

「あとは火をつける魔道具や、水を出す魔道具なんかもあります」
いろいろあるんだな。いくつか購入を検討だな。



魔道具屋にやってきた。
魔道具は、木の枝のような物に、魔石が埋め込まれている物が多く。ほかにも鏡のような物や杖のようなものもあった。

結局、筆の魔道具五つと、照明の魔道具を五つと、火の出る魔道具を一つ、水の出る魔道具を一つ購入した。
筆の魔道具の一つはゴンに渡すつもりだ。これを学園では皆が使用しているとのことだったので、必須だろう。
通信の魔道具もあったので購入してゴンに持たせようと思ったが、通信距離に制限がある為、役に立たないので止めておいた。
結構な値段になったが、暮らしが良くなるならいいと考え、購入を決意した。

これで暮らしが明るくなるといいな、照明なだけに・・・イマイチ。



こんにちは、ゴンです。
今日から私の『魔法学園』生活がスタートしました。
朝から緊張気味でしたが、主のアドバイスに従い、複式呼吸を行ったところ、だいぶ緊張が解れたようです。
複式呼吸ってこういうことにも使えるんですね。

先程入学試験を終え、今は学園内を観て周っているところです。
試験は問題なく筆記も実技も楽勝でした。
メタンの言う通りでした。

なんでも私は、特に実技試験の結果がよかったようで、特待生というものに選ばれたようです。
特待生だと、学費、食堂での食費、寮費などが免除されるらしく、助かりました。
念のため、お金は準備していましたが、使わなくて済むのなら、それはそれでありがたいことです。

それにしても、問題があります。
どうやって友達を作ったらいいのでしょうか?
私には家族や仲間はいますが、友達はいません。
島の皆は家族であり、仲間なので、友達とは違います。
どうしたものでしょう。

私のコミュニケーション能力は、低くはありません。
消極的でもありません。
友達できるといいな・・・誰か友達になってくれないかしら?

そんなことを考えながら歩いていると、いきなり目の前に手が差し出されました。

「僕と、友達になってください!」
と言われました。

えっ!嘘でしょ?
前を向くと、一人の男性が、深くお辞儀をし、右手を差し出していました。
私もう友達できちゃったの?
いいのこれで?
でも。向うからの申し入れだし、いいよね?
まだ名前も知らないし、顔も見てないけど、大丈夫よね?
身なりはきちんとしている様だし、問題ないよね?
こんなチャンスもう無いかもしれない。
えい!

右手を握り返した。

すると、男性が顔を上げた。
まあ、素敵な方。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
何故か私は笑顔になっていた。



再びルイです。
僕は幸せ者かもしれません。
こんな可愛い子が友達になってくれるなんて。

握手の後、一瞬気まずい空気が流れたが、お互いの自己紹介が始まった。

「僕はルイ、賢者です」

「私はゴンです。九尾の狐です」

「九尾の狐?」

「はい、そうです。今は人化して人の姿ですが、私は聖獣です」

そうですか、ごめんなさい『鑑定』して知ってます。
許してください。

「ゴンちゃんと呼んでいいですか?」

「ええ、構いません。あなたのことは何とお呼びすればいいでしょうか?」

「そうですね、ルイ君はどうでしょうか?」

「そうですね、そうしましょうルイ君」
ルイ君って呼んでくれた!
嬉しい、なんて幸福なんだ。

「それで、今は何をしていたんですか?」

「先ほど、入学試験を終えまして、これから魔法学園を観て周ろうかと思いまして」

「そうなんですね、僕に案内させてください」

「はい、よろしくお願いします」

「よろこんで」
やった、まだまだ話せるぞ。

「ではこちらからいきましょう」

「はい」
並んで歩きだす僕達。
それにしてもゴンちゃんか、なかなか聞かない名前だな。
嬉しいのは、僕が賢者だと知っても遜る様子が一切ない。
僕を一人の人間として見てくれている。
僕の目は間違ってなかった。

「そういえば、今日入学試験を受けたって言ってたね?」

「ええ、そうです」

「これまでは何をしていたんだい?」

「これまでは、とある島で暮らしていました」

「とある島?」

「ええ、島のことは訳あって、あまり話ができないのです」

「そうなんだ」

「なんで魔法学園に入学したの?」

「それは、島で魔法の研究をしていたんですが、どうにも行き詰ってしまい、仲間に魔法学園行きを提案されて、入学することにしたんです」

「そうなんだ、どんな魔法に興味があるのかな?」

「今は、生活魔法に興味があります」

「生活魔法か・・・生活魔法はいい魔法だよ。暮らしを良くすることが出来る」

「ええ、生活魔法を習得して、島の皆の役に立ちたいんです」
島の皆の役に立ちたいって、仲間想いなんだな。
羨ましいな。

「そういえば、試験はどうだったの?」

「ええ、優秀だと判断されたようです。なんでも特待生とかいう扱いをして貰えるようです」

「凄いじゃないか!特待生って、なかなか成れないよ」

「そうなんですか?そういったことはあまり良く分からなくて」
魔法のレベルから見たらそうなるだろうけど、学園側も思い切ったことをしたな。
審査員を褒めてあげないとって・・・あれ、こんなこと今まで考えたこともなかったよな。

「まずここが講堂だね。主に座学を行うところだよ」

「へー、広いところですね」
二人で講堂を観て周った。

「次に行こうか?」

「はい」
歩き出す僕達。

「そういえば、ゴンちゃんは聖獣なんだよね?」

「ええ、そうです」

「魔法学園に聖獣が学びに来たとなると、魔法学園としても鼻が高いよ」

「そうなんですか?」

「ああ、そうなんだ。聖獣は魔法の威力やレベルが、他の種族よりも優れてることが多いから、そんな聖獣が学びに来たとなれば、学園側も一目置かれるからね」

「私達聖獣は魔法が得意ということなんですね?」

「あれ?知らなかったのかい?」

「ええ、知りませんでした」

「これまでどうやって魔法を覚えてきたんだい?」

「そうですね、何となくです」

「なんとなくって、え!」

「なんとなくです、こうしたらできるんじゃないかな?とか、本能的に感じるというか」

「本能的に感じるか、もしかしたら、僕たちと魔法の捉え方が違うのかもしれないね」

「捉え方ですか?」

「うん、そういうところから魔法を学んでいったらいいのかもしれないね」

「そうですね、ありがとうございます」

「僕は聖獣のことはあまり知らないけど、神の使いなんだよね?」

「ええ、そうです」

「ゴンちゃんも神様に仕えてるのかな?」

「ええ、仕えてます、神様ではないですけど」

「神様じゃない?」

「そうです、人間です」

「えっ、人間に仕えてるの?」

「はい、主は凄いんですよ」

「凄い?」

「凄いんです。無茶苦茶強いし、料理も美味しいし、たくさんいろんな能力をもってて、尊敬してます!」
ゴンちゃん喜々として話し出したな。
それだけ主のことを慕ってるってことか。
羨ましいな。
僕もそんな風に誰かから思われてみたいな。

「それに、私だけじゃなく、何人も聖獣が仕えてるし、楽しくて、頼れる仲間もいるんです」
なんだか凄いなその人、会ってみたいな。

「なんだか凄いね、ゴンちゃんの主さんに、会ってみたいな」

「そうだ!いいですね。会いましょう!」

「え!」

「この後、合流する予定なんです。一緒に行きましょう!」
ゴンちゃんが興奮している。

「いいのかい?」

「はい、友達が出来たと報告したいので、着いて来てください!」

「じゃあ、行かせてもらうよ」

「はい!」
ハハハ、今日は何かとある日だな。



ゴンちゃんに連れられて、宿屋の食堂に来ている。

「ゴン姉こっち、こっち」
一人の少年がゴンちゃんに向かって手を振っている。
その隣には、二人の男性と一人の女性がいた。

「主、お待たせしました」

「いや、構わない、こちらも先ほど着いたばかりだ」
見た目が二十台ぐらいの男性が答えていた。

この人が、ゴンちゃんの主なんだろうか?
第一印象としては、捉えどころの無い雰囲気。
あれ、隣のもう一人の男性は見覚えがあるぞ、誰だったかなー。
名前が思い出せないな。

「主、聞いてください、友達ができました」

「はあ、本当か?」

「ええ、ルイ君こっちきて」
何だか緊張するな。

「主、今日友達になったルイ君です」

「初めまして、ルイといいます。賢者をやってます」

「俺は島野だ。しかし、賢者ねえ」
なにこの反応?これまでにまったく無かった反応だ。
真っすぐにこちらを観ている。

「まあ、良いんじゃないか?」
良いんじゃないか?ってどういうことなんだ。

「お久しぶりですな、ルイ様。メタンにてございます」
というと見覚えのある男性が立ち上がり、仰々しくお辞儀をした。
そうか思いだした。信仰のメタンだ。

「やあ、メタン、久しぶりだね」

「どうぞ、お掛けください」
メタンが着席を促す。

「それで、ゴン、初日にいきなり友達が出来るなんて、凄いじゃないか」

「はい!」
と誇らしげなゴンちゃん。

「それで、きっかけは何だったんだ?」

「はい、ルイ君から声を掛けてくださいました」

「へえー」
なにか喋れと視線が向けられてきた。

「はい、あの学園でお見掛けしまして、素敵な女性だなと思ってつい・・・」

「なるほどー」
纏わりつく眼つきで見られている。
なにこの感じ。

「ゴンに一目惚れしたな、おまえ」
えっ!

「ゴン姉すげえ!」
少年が騒いでいる。
その横で女性が口を押えて驚いている。

「ちょっと、主、からかわないでください!」

「ゴン様も隅に置けませんな」

「もうメタンまで」
からかわれている、この僕が・・・

「で、ルイ君とやら、君、賢者ともあろう者が、学園でナンパとはいただけないねー」

「ちょっと、待ってください。ナンパなんて」

「そうです主、止めてください」
にやけ顔でこちらを見ている。
冷やかされているのが分かる。
何とも言えない感覚・・・対等に扱われている?

「いやー、悪い悪い。からかってみただけだ。悪かった」
凄い、何だろうか、初対面でこの対応。
僕が賢者であることなどお構いなしだ。
メタンが一緒にいるから、おそらく僕が国家元首であることも知っているはず。
なのに、ただのゴンちゃんの友達扱いだ。

「もう止めてくださいよ、主」
ゴンちゃんがむくれている。

「それで、メタンとは知り合いなんだって?」

「はい、前に学園で知り合いました」

「ええ、仰る通りですな」
メタンはなにか雰囲気が変わったような気がする。

「メタン、雰囲気が変わったね」

「そうですか、お褒め頂きありがとうございます。私は島野様と知り合えて、変わりましたからな、今では私の信仰心は、創造神様と島野様に向けられております」
そうなのか、創造神様以外は神ではない、とまで言っていた、あのメタンが?
でもこの人は嫌そうな顔してるな。
なんだか本当に嫌そう。

「そうなのか・・・言葉も無いよ」

「ところでルイ君、君に尋ねたいことがある」
真っすぐに見られた。

「賢者ってことは、この国の国家元首なんだよな?」

「はい、そうです」

「君はこの国をどうするつもりなんだ?」

「どうするとは?」

「この国をどこへ導くのかってことだ」

「導くって・・・」

「理想でもいいんだ、聞かせて欲しいな」
理想、導くって、そんなこと聞かれても。僕には・・・

「僕は、確かにこの国の国家元首ですが、お飾りでしかありません」

「それで」

「僕は政治に関わることは無いし、国営も大臣達が行っています。僕は彼らが決めたことを承認するだけの存在でしかありません。なによりも、政治や国営に興味が持てません」

「そうなのか?」

「はい」
意味ありげに見つめられている。

「そうか、まあお節介は止めておくよ」
えっ!
お節介?
何だろう意見がありそうな表情をしていたな。

「ま、待ってください、聞かせてください。何か思うところがあるんですよね」
聞いてみたい、この人の意見を。
教えて欲しい、この僕に。

「とは言ってもなー」

「お願いします!」
僕は思わず立ち上がり、お辞儀をしていた。
自分でもびっくりしている。
僕がこんな行動をとるなんて。

「まあ、そう畏まるなよ、ルイ君」
僕は頭を上げた。

「まずは座りな」

「はい」

「まあ、ここまでされたら話すしかないな」
僕は椅子に座った。

「君は、お飾りでしかないと言ったね」

「はい、言いました」

「でもこの国の国民は君の発言や、行動に注目している。違うか?」

「その通りです」

「ということは、君は国民に対して影響力をもつ存在だ」

「はい、そうです」

「そんな君が本当にお飾りなのか?」

「それは・・・」

「君が君自身で、お飾りであろうとしたんじゃないのか?」
僕自身が・・・お飾りであろうとした?

「何も攻めている訳じゃないから、勘違いしないで欲しい。おそらく君は、政治のことは、政治が分かる者がやればいい、その道のプロに任せればいい、と考えたんじゃないかな?」

「はい、そうです」

「それは、一つの方法として正しいだろう。だが、国の行く末や理想もない中で『魔法国メッサーラ』はいったい何処に向かってるんだい?」

「どこに・・・ですか?」

「ああ、それに君は先ほど興味が持てないと言っていたね」

「はい」

「本当にそうかな?本当は興味を持とうともしなかった、の間違いではないかな?」
確かにそうだ、この人の言う通り、僕は興味を持とうともしなかった。
分からないからと、始めから関わろうともしなかった。自分自身でお飾りになる道を選んだんだ。

「君が賢者になったこと、国家元首になったことには、きっとなにか意味があるはずだ」
その通りかもしれない。

「国を治めることに興味を持て、とまでは言わない、だがせめて、政治であれば、政治の内容を知る。国営であれば、国営の内容を知る。これぐらいはやるべきことなんじゃないかな?」
そうだ、その通りだ。
訳も分からず承認するのではなく。せめて内容は知っておくべきなんだ。

「まあ、説教臭い話はこれぐらいにしておこうか」
とても優しい目で見つめられた。
ああ、本気で叱られたのはいつ以来だったろうか?
僕の世界の色が・・・取り戻した色が、輝き出すような気がした。

今日は忘れられない一日になった。
メタンの気持ちが少し分かったような気がした。
この人と話ができて、本当によかった。

「あー、そうそう。ゴンと友達になるのは構わんが、手は出すなよ」
にやけ顔で言われた。

「ちょっと、主、止めてくださいよ」

「パパってカッコいいことした後って、絶対にふざけるよね」

「あは、あはは、あっはは!あっははは!」
僕は笑いが止められなかった。
こんなに大笑いしたのは・・・いや、これから先だ!これから先もっと笑おう!
皆もつられて笑いだした。
笑顔って最高!



数日後の執務室。
ルイは、食後のお茶を楽しんでいた。

コン、コン!
ドアがノックされる。

「はい、どうぞ」
大臣と思わしき人物が数名入室してきた。

「ルイ様、こちらにサインをお願いします」
ルイに書類を手渡す大臣達。
書類に目を通すルイ。

「教えてほしいのですが、この軍備の増強は何が目的なのでしょうか?」

驚く大臣達、皆声を失っている。
変わろうとする賢者ルイがそこには居た。
『魔法国メッサーラ』で購入した、魔道具は、非常に役に立っている。
メルルは、料理の火付けに火の魔道具を使い。水の魔道具は食器洗いに使っている。
照明の魔道具は、寮と俺の家で各自二つずつ使っており、もう一つは外での食事の時に使っている。
筆の魔道具は勉強会で使用している。
魔道具はとても役立っている。

魔道具は、島の持ち物なので、保管場所は徹底され、各自使用後は保管場所に戻すことが義務付けされている。
借りパクは許さんよといったところだ。

便利になったと、皆な喜んでいる。
今度はどんな魔道具を買うか、皆の意見を聞いてみようと思う。

俺は、魔道具を使えないので、能力の開発を行った。
『照明』は電球の原理、電熱線に電気を流すことをイメージし、難なく獲得できた。

手の平を上に向け、その上に電熱線があるところをイメージし、そこに自然操作の雷を微量発生させる。
大事なことは、流す電気に電熱線が抵抗して、光が発生するということ。
なので、流す電気に対して抵抗を強くイメージする。
手の平に神気を集めて出来上がり。
といった感じだった。

火と水は自然操作でできるから、必要ない。
筆に関しては、既に作成済であり、炭から墨汁を作ってあるので問題ない。
ただ、魔法筆の様に消すことはできないが、それは出来なくてもいいと考えている。

あれから一ヶ月経つが、ゴンとルイ君は元気にやっているのだろうか?
今度様子を見に行ってやろうと思う。



俺とギルは納品を終え、五郎さんの執務室にいる。
最近では、納品後に執務室に通され、世間話をすることが多い。
『温泉街ゴロウ』はとても賑わっており、売上もうなぎ上りとのこと。
旅館によっては予約が三ヶ月先まで埋まっているところもあるらしい。
五郎さん曰く、空前の大ブームだ、洒落になんねえ。ということだった。

それに加えてなんちゃて冷蔵庫の販売も順調で、毎週発注をいただいている。
俺達は『温泉街ゴロウ』に貢献できているようだ、なんだか俺も嬉しい気分になる。

突然扉が空けられた。

「五郎さん、元気にしてた」
席を立ちあがり、五郎さんに駆け寄るギル。

「おお、ギル坊元気にしてるぞ」

「お前はどうでえ」
ギルの頭を撫でる五郎さん。

「うん、僕も元気にしてるよ」
ギルは五郎さんが大好きだ。五郎さんもギルを可愛がってくれている。
まるで祖父と孫といった関係に見えてしまう。

「五郎さん頂いています」
俺はお茶の入ったグラスを掴み、上に挙げた。

「おお、なかなか相手出来なくてすまねえな」

「いえいえ、お忙しそうでなによりです」

「本当だな、忙しくてなによりだ、だがちっと忙しすぎるな」

「そんなになんですか?」

「なにいってやがる、おめえの影響でこうなっちまってるんじゃねえか」

「俺の?」

「ああそうさ、考えてもみろよ、野菜が変わっちまって、料理に手を加えなきゃなんねえし、お地蔵さんは管理しなきゃなんねえ、味噌と醤油がまた料理を変えちまって、挙句の果てにはなんちゃって冷蔵庫なんていう発明品まで現れちまった。忙しくなるにきまってらあ」
ハハハ、それ全部俺案件ですね。
なんだかすいません。

「分かるってもんだろうが、まったく」

「すいませんね、でも五郎さんも儲かってるんでしょ?」

「ああ、お陰さんで儲かってる。そこは感謝している、にしてもここまで立て続けだと疲れちまう」

「五郎さんマッサージしてあげる」
ギルが五郎さんの肩を揉みだした。

「おっ、ギル坊うめえじゃねえか。気持ちいいぞ」

「ほんとう?やった!」

「ギル、力加減を間違えるなよ」

「分かってるよ」
ギルが楽しそうだ。

「そういえば、五郎さん、いつ島に来てくれるの?僕、楽しみに待ってるんだけど?」

「ああ、悪い悪い。いま言ったようにちと忙しくてな」

「ええー、そうなのー」

「だが、それももう少しで何とかなりそうだ」

「本当?やったー!」

「五郎さん何とかなるって、どうしてですか?」

「ああ、人を増やしたんだ」

「いいですね」
羨ましいなー、俺も人を増やしたいなー。

「ああ、噂を聞きつけて雇って欲しいって奴が随分現れてな。あと、修業に出してた奴なんかも帰って来てな。ありがてえ話だ」

「そうなんですね」

「ああ、人は財産だ。大事にしなきゃなんねえ」

「分かります」
そういえば、五郎さんが来るとして、どこに泊まってもらおうか?
ほどんどの部屋が埋まってるな。
この際だ、新しく作るか。
この後、世間話を終え島に帰ることになった。



島に帰ると、マークと、ランドに新たに家を作る指示をした。
イメージとしては、ロッジ、五人ぐらいが寛げるサイズだ。
五郎さんの為に造るというのではなく、休日に気分を変える様に、皆に使って貰うのもいいかと考えた。
あとは、メルルとアイリスさんは、他の男性陣と一緒に寮で暮らしているので、この際だからこっちに移ってもらうものありかなと。

丁度、遊戯場が完成間じかの為、タイミングもちょうどいい。
マークとランドには申し訳ないが、引き続き頑張ってもらおう。



それからだいたい二ヶ月後、再び五郎さんの執務室に俺とギルはいた。

「五郎さん、相変わらず忙しいですか?」

「おお、まあな」

「まだ、来れないの?」
ギルが尋ねた。

「それだがな、来週あたりどうかと思ってな」

「本当?やった!」
ギルが喜んでいる。

「いい加減、島野がいうサウナってやつも体験してえしな」
五郎さんがギルの頭を撫でている。

「サウナはいいですよ、是非堪能してください」

「ああ、そうさせてもらうさ」

「パパ、その日はさ、ピザ作ってくれるよね」

「ピザか、そうしようかな」

「ピザってなんでえ?」

「お楽しみということで」

「おお、これは楽しみが増えたようだな」

「ピザわねー、すごく美味しいんだよ」

「そうか、それはいいな」

「ギルの大好物だもんな」

「ギル坊が食べたいだけじゃねえのか?」
五郎さんにはお見通しのようだ。

「そうだけど、五郎さんに食べて欲しいんだよ」

「そうか、ハハハ!」
五郎さんは豪快に笑っていた。

「そういやあ、島野二人ほど連れていっていいか?」

「二人ですか?」

「ああ、儂のお付きみたいなもんだ、一人はおめえも知ってる奴だぞ」

「誰ですか?」

「『漁師の街ゴルゴラド』で屋台で寿司を出してた奴さ」

「あの大将ですか?」

「ああ、今はこの街に帰ってきて、儂の下で働いてる」

「そうなんですね」

「ああ、もう修業はお終めえだな。うち一番の戦力よ」

「そんな人を連れてって大丈夫なんですか?」

「だからこそ連れていくんだ」

「何でですか?」

「どうせお前の島なんてビックリ箱みたいなもんだろう?奴にとってもいい勉強になるんじゃねえかと思ってな」
ビックリ箱って、五郎さんにとって、俺達の島はどんな印象なんだ?
笑うしかないな。

「ハハハ」

「ビックリ箱って何?」
ギルが不思議そうな表情をしている。

「ギル坊知らねえのか?こう箱の中からな、ビヨーンと飛び出してくるんだ」
五郎さんが手を動かして説明している。

「それが僕たちの島なの?」
ギルは分かっていない様子。

「ギル、一つの例えだよ。島が面白いところってことだよ」

「へえ、そうなんだ」

「で、五郎さんもう一人は」

「ああ、もう一人はちょっとな、今は言えねえな」

「え?身元は確かな人物なんですか?」

「それは間違えねえ、儂が保証する」
なんか嫌な予感がするな。

「五郎さん、騙し討ちは止めてくださいよ」

「お!察しがいいな。とは言っても大丈夫だ、儂を信じてくれや」
なんだかなー、気になるな。

「まあ、五郎さんがそこまで言うなら信じますよ」

「すまねえな島野、よろしく頼む」

「そうだ、五郎さん、前もって言っておきますけど、島のサウナと水風呂ですが、男女共用ですので、水着を着用しますが、持ってますか?」

「水着か?大丈夫だ」

「他の二人にも伝えといてくださいね」

「ああ、分かった」
なんだかな、大丈夫なのか?
やれやれだ。



島に帰ってきた。
ロッジはほぼ完成していた。
マークとランドに感謝だ。

今は最後の仕上げを行っている。
『合成』で隙間を埋めていく。
ほどんど隙間は無いのだが、念の為の処置。

他の皆は、前もって作っておいた家具を運んでいる。
ベットや、タンス、椅子やテーブル等。
一応キッチンもあるので、食器なども運びこんでいる。
メルルが鼻歌を歌いながらカーテンを設置していた。

「メルル、ご機嫌だな」

「ええ、新し家ってなんだかワクワクします」

「そうだな、試しにここで住んでみるか?」

「試しにですか?」

「ああ、例しに住んでみて、使いずらいところや、改善した方がいいところが無いか確認してみて欲しいんだ」

「なるほど、実際に住んでみて、使い勝手などを見てみるということですね?」

「ああ、五郎さんが来週あたりに島に来れるみたいなんだ。せっかくだから、ちゃんともてなしたいからさ」

「そうですか、私一人ですか?」

「いや、アイリスさんにもお願いしようと考えててる」

「女性二人ってことですね」

「五郎さんが来てる時は、今の寮に戻ってもらうが、その後は何なら、ここに二人には住んでもらってもいいと思っている」

「ちょ、ちょっと待ってください。贅沢すぎますよ」

「そうか?よく考えたら、いくらハンター仲間とはいえ、同じ家に男女が住むのはどうかと思ってな」

「それは、嬉しい気遣いですが、でも・・・」

「まあ、無理にとは言わない、考えておいてくれ」

「わかりました、試しに住む件ですが、女性二人だけですか?もっといろいろな目でみた方がよいのでは?」

「ありがたい意見だが、女性二人がいいんだ。こういうのは女性の方が、気がつくもんだからな」

「そうですか」

「あとは、他の皆を信じて無いわけじゃないが、ガサツに扱われて傷が付いたら嫌だろ。五郎さんには最高のもてなしがしたいからさ」

「確かに、レケとかうちの男性陣はガサツなのが多いですからね」

「だろう、だからさ」

「いつから住みましょうか?」

「備品が全部揃うのは明日になりそうだから、明日からでどうだ?」

「分かりました」
メルルはカーテンを掛け終え、次の作業に向かっていった。



細かな打ち合わせが行われていく。
まずはノンとギル、エルには五郎さん達がいる間は『黄金の整い』は行わないように指示した。
サウナ自体に入ることは構わない、というと三人とも胸を撫で降ろしていた。
こいつら、そうとうサウナにはまってんな。

メルルからは、実際に住んでみての改善点が、マークとランドに伝えられていく。
それを踏まえてマークと、ランドが微調整をおこなっている。

時折俺にも注文が入る。主に備品について
調理具や食器に関しての注文が多い。
そつなくこなしていく。

ちなみに五郎さんのことは、俺とギル、ノン、エル、メタン以外は、直接会ったことはない。
ただ『ロックアップ』の皆は、五郎さんに直接会ったことは無いが『温泉街ゴロウ』へは行ったことがあるらしい。
屋台寿司の大将は、レケ以外の皆は屋台を利用しているので、おそらく面識はあるだろう。
レケに関してはよく分からない。

にしても、帯同するもう一人が誰なのかが気になる。
五郎さんは顔が広いから、まったく想像がつかないが。
困ったもんだ。

晩御飯時に、当日のメニューについての打ち合わせが始まった。
ちなみに本日の晩御飯のメニューはカレーだ。
パン派とご飯派両方に答えれるようにどちらも用意されている。
俺の本日の気分はパンだ。

「ピザは確定だよね、パパ」
ギルが喜々として言っている。

「ああ、そうだな、五郎さんとも約束したからな」

「それは、晩御飯ですか?」
メルルが尋ねてきた。

「そうだな、そうしよう」

「なにピザですの?」

「エルはなにピザが良いと思う?」

「私はマルゲリータが好きですの」

「マルゲリータは鉄板だな、他はどうだ皆」

「俺はシーフードが好きだな」
ロンメルが口にした。

「今食べているカレーも良いんじゃないか?」
ランドはカレー押しのようだ。

「カレーピザもいいな」

「はい、はい、はーい!味噌汁ピザ!」

「あれは上手いな」
ロンメルが後押しをする。

「分かった、分かった、絶対言うと思ったよ」

「えへへ」
何故か照れるノン。

「私は、ホワイトソースのベーコンが乗ったピザが好きですな」

「俺もあれ好きだな」
メタンとマークはホワイトソース押しのようだ。

「そうか、まあだいたいピザにする時にするトッピングでいこうかな」

「賛成!」
ギルは本当にピザが好きだな。

「あと、昼飯だが何がいいと思う?この島ならではの物ってなんだと思う」

「やっぱり、ツナマヨ丼では?」
アイリスさんが言った。

「実はツナマヨ丼は翌日の朝に、小サイズでと考えていたんですよ」

「なるほど、小サイズならありですね」
メルルが答えた。

「ボス、俺あれが好きだな。鉄板焼き」

「鉄板焼きかー、悪くないな。五郎さんは知ってるかな?」

「どっちのこと?」
この島では、肉のコース料理と焼きそばやお好み焼きのことを、鉄板焼きとしている。

「ああ、お好み焼きのほうだ、時代的にはどうなのか?」

「俺達が『温泉街ゴロウ』に行ったときには、見かけなかったですよ」
マークが言った。

「私も見かけませんでしたな」

「そうか、まあ今では鉄板屋台も二台あるし、両方ってものありだな」

「無茶苦茶豪勢だな、旦那」

「やっぱ、そうなるよな」

「でも五郎さんにはお世話になってますから、良いのでは?」
流石はアイリスさん、大人の意見だ。

「よし、せっかくだから豪勢に行こう。」

「「「おお!」」」
皆が盛り上がっている。
そりゃそうだろう、こいつらも食べるんだからな。

「そうだ、レケ、ロンメル『漁師町ゴルゴラド』では伊勢海老は手に入るのか?」

「伊勢エビってなんだ?」

「こんなサイズの海老だよ」
俺は、手でサイズを見せて説明した。

「ああ、それなら手に入るはずだ」
ロンメルが頷いている。

「そうか、今度買い付けにいこう」

「わかったぜ、ボス」

「あと皆、当日は俺とギルが五郎さん達に島を案内するから、いつも通りに仕事をしてくれていいからな」

「「「了解!」」」

「料理番のメルルとエル、ギルは大変だろうがよろしく頼む」

「分かりました」

「任せてくださいですの」

「OK」
こうして、一通りの打ち合わせは終わった。
さて、おもてなしさせていただきましょうかね。



五郎さんの所に迎えにきた。
いつもの執務室で五郎さん達を待ってる。
お迎えは俺とギル、ギルは朝からウキウキで、ずっとそわそわしている。

ドアがノックされた。
ドンドン!

「どうぞ」

「失礼します」
大将が入ってきた。

「大将、お久ぶりです」
俺は立ち上がって、大将に近づいた。
右手を差し出した。

「島野さん、こちらこそお久しぶりです」
握手を交わした。

「ゴルゴラド以来ですね」

「ええ、あの後急いで『温泉街ゴロウ』に戻ったんですよ、今ではここの料理長をやらせてもらってます」

「もう屋台は引かないんですか?」

「ええ、師匠から修業はお終いだと、戻ってこいといわれまして」

「そうなんですね、おめでとうございます」

「ありがとうございます、でもまだまだです、醤油に加えて味噌まで加わってから、料理の幅が広がってしまいまして、やることだらけです」
なんだかすいません。

「今回は勉強の為に同行しろと、師匠にいわれまして、島野さんの島にはこれまで以上の料理が眠ってるはずだと、仰ってました」
ハハハ、また五郎さんからいろいろ言われるんだろうな。

「そうかもしれないですね・・・」

「こちらは?」
ギルの方を見ていた。

「ああ、すいません紹介します。ギルです」
ギルが立ち上がる。

「ギルです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、確か屋台に来てくれていたね」

「はい、大将の寿司は美味しかったです」

「そうかい、それは良かった」

「でも、パパのピザほどじゃなかったけどね」

「ギル、おまえ何言ってるんだ」

「ピザとは?」
ああ、もうほんとにまだまだ子供だな。

「ええ、晩御飯で出しますので、楽しみにしててください。俺には大将の寿司の方が美味しいと思いますよ」

「いやいや、子供の舌は正直です。勉強させていただきます」
真面目な人だな。なんだかごめんなさい。

ドアが開かれた。
五郎さんと、もう一人が入室してきた。

デカい魔人がいた、引き締まった体をしている。
ランドの様に角が頭に二つあるが、牛の獣人のそれとは違う。
鋭い眼つきに、きっちりと刈上げられた髪、そしてなぜか甚平を着ており、靴は下駄をはいていた。

「島野、紹介させてくれや、ガードナーだ、警護の神をやってる。よろしく頼む」
警護の神?たしかタイロンの神様だったな。

「島野さん、始めまして、ガードナーです」
野太い声をしていた。

「私が五郎さんに無理を言って、付いてこさせて貰いました」

「こいつがな、例の件のお礼がどうしてもしたいと言って、きかなくてな」

「はい、タイロンの街を、いや国を救っていただきありがとうございました」
ガードナー様は深く、お辞儀をした。

「いやいや、ガードナー様止めてくださいよ。顔を上げてください。ハンターとしての義務に従っただけなんですから」
ガードナー様は顔を上げた。

「そう言って貰えると助かります。私のことはガードナーとお呼びください。本当は国を挙げて感謝の意を、伝えたいところなのですが、五郎さんが、島野さんはそういうのは嫌がるから辞めとけと、今回もハノイ王も連れてこようと考えたのですが、これも嫌がるから辞めろと言われまして」
五郎さんナイス、いい仕事してくれてます。
王様なんてめんどくさいの嫌だよ。

「五郎さん、ありがとうございます。助かります」
五郎さんがガードナーさんの方を向いた。

「な、ガードナー、言った通りだろ、こいつは目立つのは嫌がるんだ」

「そのようですね、真の勇者ですね」
勇者って、この人も何か勘違いしてそうで、怖いんですけど。

「まあ、ここで立ち話もなんですので、さっそく行きませんか」

「そうだよ五郎さん、いろいろ準備したんだからね」

「そうか、ギル坊。そりゃあ楽しみだ!」

「じゃあいいですか、行きますよ」

ヒュン!



島に到着した。

「こっ、これはいったい」

「これは強烈だな、聞いちゃあいたが・・・」

「何が起こって」

『転移』でいきなり島にやってきたことに驚いているようだ。

「五郎さん、島にようこそ」

「おお、久しぶりにビビったぞ、ここがお前えの島か」
徐々に落ち着きだしている一同。

「へえ、これが島野さんの島か」
大将が景色に見入っている。

「なんと、この様な島があるとは」
ガードナーさんはまだ少し上の空だ。

「島野、良い島じゃねか」

「ありがとうございます、ひとまず荷物を置きにいきませんか?」

「ああ、そうさせてもらうぜ」
三人は周りをきょろきょろしながら、後を付いてきた。
ロッジに荷物を置きに行った。

「島野、立派な家じゃねえか」

「ありがとうございます、優秀な大工がいますからね」

「そうなのか?これはスカウトしねえとな」

「勘弁してくださいよ、内の大事な戦力なんですから」

「ハハハ、冗談だ」

「でも実際、こういう家もいいもんですね」
大将が家の中を見回しながら言った。

「ロッジというものなんですが、広々として好きなんですよね」
実はこのロッジは、大きなスペースを意識して、天井高も高く作ってある。
メッサーラの家をみて、この造りを取り入れる様に、マーク達には注文した。
高い天井は、それだけで家の中を広く感じる印象を与える。

「樹の匂いが気持ちいいですね」
ガードナーさんもロッジを褒めている。

「じゃあまずは、この島の自慢の畑から見てもらいましょうか」

「おお、見させて貰おう」

「勉強させていただきます」
俺達は五郎さん達を伴って畑に向かった。
畑の向かうと、既に午前中の畑作業が終わったのだろうか、アイリスさん以外は居なかった。
アイリスさんに五郎さん達を紹介する。

「あんたが、アイリスさんかい?」

「ええ、アイリスです、よろしくお願いいたします」

「かあー、ギル坊から聞いちゃいたが、えらい別嬪さんじゃねえか」

「あら、お上手な方」
ギルがニコニコしている。

「あっ、そうだ、アイリスさんとやら、あんた内の饅頭のお得意さんなんだって?」

「ええ、美味しく頂いております」

「そうかい」
五郎さんは『収納』から饅頭を取り出した。

「よかったら貰ってくれないか、いつもお世話になってる、お礼みてえなもんだ」

「まあ、よろしいのですか?」

「ああ、貰ってくれ」
アイリスさんは五郎さんから饅頭を受け取り、軽くお辞儀をしていた。

「ありがたく頂きますわ、ごちそう様です」

「島野さん、立派な畑ですね、凄いです」

「この畑はアリスさんが管理してくれているから、上手くいっているんですよ、アイリスさんが居なければ、ここまでのレベルは保てないです」

「流石だな、これはプロの仕事だな、すげえよアイリスさん」
五郎さんが褒めている。
やはり分かる人には分かるものなのだな。

「いいえ、私は畑が大好きなんです。作物が育っていくこと、そしてそれを皆さんが美味しく頂いてくれることが、私には嬉しくて、本当はもっと拡張して欲しいですわ」
だからこれ以上は無理ですって。

「アイリスさん、勘弁してくださいよ」

「どうやら島野でも、アイリスさんには適わねえようだな」

「ほんとですよ、じゃあ次行きましょうか」
これ以上いると、アイリスさんが何を言い出すか分からない。
はい、次!



農業用倉庫を拡張しているマーク達のところに来た。

「マーク、ランド、ちょっといいか、五郎さんだ」
マーク達は作業を止め、俺達のところにやってきた。

「紹介します、建設部門のマークとランドです」

「初めましてマークです」

「ランドです」
二人は汗を拭うと一礼した。

「おお、ごついあんちゃん達じゃねえか、儂は五郎だ、よろしく頼む」

「こちらこそ、あれ?寿司屋の大将?」

「ああ、二人とも食いに来てくれていたな、よろしく」

「私は、ガードナーだ、よろしく」

「えっ、ガードナーって警護の神様の?」
マークはガードナーを知っていたようだ。

「ああ、縁あって来させていただいている」

「そうですか・・・」
マークが俺に意味ありげに視線を送ってきた。
んん?何だろう?
あとで聞いてみるか。

「では、島野さん仕事に戻ります」

「ああ、よろしく頼む」
マーク達のところを離れた。



次に向かったのは養殖場だった。
前もってギルに指示し、ロンメルとレケには伝えてある。
岸に着くと、ロンメルが船を準備して待っていた。

「ロンメル、待たせたか?」

「いや、今丁度帰ってきたところだ」

「そうか、紹介するよ」

「儂が五郎だ、よろしく頼む」

「俺はロンメルだ」

「俺はレケだ、あんたが五郎さんか、待ってたぜ」

「私はガードナーだ、よろしく頼む」

「俺は」

「あれ?寿司屋の大将?」
大将の言葉を遮ってロンメルが言った。
結局大将の名前って聞いたことがないよな・・・

「ああ、あんたも屋台に食いに来てくれていたな。よろしく頼む」

「大将の寿司は上手かったぜ、また食いてえな」

「そう言って貰えると助かる」

「今日は養殖場を見せればいいんだよな?旦那?」

「ああ、そうしてくれ」
船に乗り込む一行。

すると獣化したギルが
「五郎さん、僕の背中に乗ってよ」
と言い出した。

「おっ!ギル坊、儂を乗せてくれるってか、そりゃあいい、おい島野、儂はギル坊に乗っていくぞ」

「ご自由にどうぞ」
ギルは五郎さんを背中に乗せたかったんだろうな、嬉しそうにしている。

「じゃあ、いくぜ」
というと帆を扱いだしたロンメル。
俺は帆に自然操作で風を当ててやる。
船が推進力を得て、進みだす。

ギルはというと、五郎さんを背に上空にホバリングしている。
俺は『念話』でギルに
「ほどほどにしろよギル、ゆっくりな」
と伝えた。

「分かってるよ」
と返事が返ってくる。

船に追随するように、ギルは上空を進んでいた。
五郎さんも楽しんでいるようだった。



養殖場に着いた。

今では二十匹近いマグロが養殖場にはいる。
二メートル以下のマグロを捕まえて、二メートル半以上になったら出荷する。
そうやって養殖場は運営されている。
もちろん出荷先は五郎さんのところ、今のところ順調にいっている。

村の皆はツナが大好きなので、こちらでも消費はある。
ツナをパンに挟んで食べたり、おにぎりの具にも使用している。

「なるほど、こうやってマグロを養殖しているんですね」
大将が関心している。

「ええ、始めは試行錯誤しましたが、今ではだいぶ落ち着いてきました」

「それは苦労したんでしょうね」

「そんなことはないぜ、ボスが出来ねえことなんてねえからな」
レケが有頂天になっている。頑張りが認められて嬉しいのだろう。

「じゃあ、そろそろ島に帰って昼飯にしましょうか?」

「そうですね、お世話になります」
俺は『念話』でギルに島に帰ることを伝えた。



鉄板用屋台に皆が集まっている。

「さて、お待ちかねの昼飯としましょうか」

「おっ!何を食わせてくれるんだ?」

「それはお楽しみだよ」
ギルが俺の横に並んで、五郎さんの目の前に位置どった。

「じゃあ始めようか」
俺とギルの鉄板では、コース料理が作られていく。
メルルとエルの鉄板では、お好み焼きと焼きそばが作られる。
皆な喜々としてその様子を眺めている。

炒めた野菜に軽く塩を降って、五郎さん達の皿に振り分けられていく。
「うん、上手いです」
ガードナーが頬を緩めていた。
その隣でギルは、肉を焼いていく。

「五郎さん、これからが見せ所だよ」

「ほう、何を見せてくれるんだい」

「行くよ」
ギルがフランベを行ったが、勢いよくアルコールを入れ過ぎた。

「熱っちい!」
五郎さんが叫んでいる。

「ごめん、大丈夫」
ギルが心配そうにしている。

「ビックリした!ああ、大丈夫だ、何ともねえ」

「ごめん、力が入り過ぎた」

「いやあ、参った。大迫力だな、ガハハハ!」
何ともなかったようで、五郎さんは豪快に笑い飛ばしている。

「ギル、五郎さんの前だからって、恰好つけすぎ」
ノンにツッコまれていた。

「いや、ギル坊気にすることはねえ、驚いちまっただけさ」

「ありがとう」

「「「ハハハ」」」
笑いが起こっていた。
ギルは肉を切り分けて、提供していく。

「うめえ、ギル坊最高じゃねえか!」

「本当?よかった」
その横では俺が伊勢海老の仕上げに掛かっている。
真っ二つにし、マヨネーズをかける、最後に自然操作の火で表面を焼き上げる。

「伊勢海老とは贅沢じゃねえか」

「五郎さんにはお世話になってますので」

「しかし師匠、こういった料理の見せ方もあるんですね」

「ああ、そうだな。寿司も握るのを見せることが、味を更に上手くする秘訣だ、これも同じだな。肉や伊勢海老でやるとは感心するぜ、まったく」
大将はまだまだ勉強モードの様子。

「こちらも出来ましたの」
エルがこちらの屋台に声を掛けている。

「おお、あっちのも頂こうじゃねえか」

「そうしましょう」

「んん?これは・・・どんどん焼きか?」

「ええ、今ではお好み焼きといって、大衆食として日本では食べられています」

「かあ、懐かしいじゃねえか、どれ一つ貰おうじゃねえか」
エルが切り分けて、五郎さんの皿に乗せた。

「どれどれ、これに付けるのか?」

「ええ、この島ではそうしてます。日本ではソースが一般的だと思いますが」

「おお、こりゃあ上手え、日本人の舌にはもってこいだな」

「本当だ、この付けたタレは、醤油と何かを混ぜたものですか?」

「はい、マヨネーズという調味料を混ぜてあります」

「マヨネーズ?」

「はい、これです」
『収納』からマヨネーズを取り出し、大将と五郎さんの皿に乗せた。
箸の先に付けて味見にする二人。

「これはいけるな」

「ええ、そうですね、また料理革命が始まりますね」
料理革命って大げさな。

「すいません、私にも一口いいでしょうか」
ガードナーがすまなさそうに皿を持ち上げた。
皿にマヨネーズを付けてやる。

「おお!これがマヨネーズ、これだけでも上手いです。ずっと食べられそうだ」
太るから辞めておきなさい。

「島野、分かってるな?」

「はいはい、マヨネーズも卸しますよ。ただ消費期限が分からないので、使う前に『鑑定』してくださいよ」

「ああ、分かった」
五郎さんが物思いに耽っている。
多分何にかけようか考えているんだと思う。
その隣では、大将がなにかぶつぶつ呟いている。
似たもの同士の子弟だな。

こうして、いろいろありつつも、昼飯は終了した。



皆で、和気あいあいと話が弾み、そろそろいい時間を迎えようとしていた。

そういえば、大将の名前が判明した。
大将の名前はダンだった。
ダンさんと呼ぶべきか、大将と呼ぶべきか悩み処だ。

「さて、そろそろ風呂とサウナの時間にしましょうか?」

「おっ!いよいよか」
手ぐすね引いて待ってた、と言わんばかりの五郎さん。

「行こう、行こう」
五郎さんの手を引っ張るギル。
俺達は風呂場へと向かった。
準備を済ませ、露天風呂へと向かう。

「島野、良い解放感だな、この眺めは」

「ええ、そうでしょ?自慢の光景ですよ」
海を眺めながらの露天風呂、最高です。
掛け湯を済まして、露天風呂に浸かった。

「ふう」
思わず漏れる声。

「どうですか?五郎さん」

「ああ、最高だな、ちょっと待ってろよ」
というとお湯に手を翳した。

「うん、良い泉質だ。温泉ほどじゃねえが、風呂としてはまずまずだな」

「五郎さんは、泉質が分かるんですか?」

「ああそうだ、儂の能力の一つだ『水質鑑定』っていうんだがな」
というと、目を閉じて集中し出した。
にやり顔の五郎さん。

「島野、今回のお礼といっちゃあなんだが、吉報だ」

「なんですか?」

「この島には泉源があるぞ」

「嘘でしょ!」

「本当だ、儂の能力『泉源探索』に反応があった。こりゃあ明日にでも見に行こうじゃねえか」

「やった、温泉ゲット!」
俺はガッツポーズを決めていた。

「「「ハハハ」」」
笑いが起きていた。
女子風呂の方から騒めきが聞こえた。
騒いでしまってすいません。
だって、温泉ですよ!

「お前え、つくづく引きが強えな、感心するぞ」

「ありがとうございます、嬉しいー!」

「ハハハ、いいってことよ」

露天風呂を出て、塩サウナへと向かった。
塩サウナのやり方を教えて、実践中。

「これは、部屋の密閉が重要そうですね」
ガードナーさんが話しだした。

「おっ、ガードナーさん目の付け所がいいですね」

「ありがとうございます、しかし、私は素人ですけど、この塩はとても純度が高いのでは?」

「ええ、その通りです」

「これは、海水から作ってますか?」
大将、ダンさん、ああもう、どっちでもいいや、が疑問を口にした。

「そうです、俺の能力で作ってます」

「島野、これもだな」

「わかりました、次回の納品に持っていきます」
なんだか、島の食材の品評会みたいになってないか?

「じゃあ出ましょうか?」

「おう」
塩サウナを出て、体の塩を洗い流した。
そしてサウナへ向かった。



蒸されている、五郎さんが蒸されている。
大将も、ガードナーさんも蒸されている。
おじさん達が蒸されている。

「これは強力だな」

「ええ、じんわりときますね」

「なんだか、食材になった気分です」

「もう少し、頑張りましょう」

「まだか?」

「ええ、もう少しです。この先が大事なんです」

「そうか、もう汗びっしょりだぞ」

「あと少しです」

「なかなか忍耐力を試されますね」

「よし、じゃあ行きましょうか」
皆我先にと、一斉にサウナ室を飛び出した。
水風呂に入る前に、掛け水をすることを指導した。
水風呂に飛びこむおじさん達。

「ああ、冷たいけど気持ちいい」

「おお、体が引き締まる」

「何も考えられない」
等と口々に感想を述べている。

「さあ出ましょう」
インフィニティーチェアーへと誘導した。
気持ちよさそうに横になるおじさん達。
各自余韻を楽しんでいるようだ。
解放感と爽快感に包まれているおじさん達。
多幸感を満喫している。

サウナっていいね。
最高!

「島野、いい経験をさせて貰った」

「ええ、こんな解放感があるとは知りませんでした」

「島野さん、これ以上ない満足感です」
各自、想い想いを口にしている。

「島野、これはあれだな。ご褒美だな。儂らに許された、最高のご褒美だ」
五郎さん語りますねえ。

「ええ、俺が人生を駆けているのも分かって貰えたようですね。ここから後二セットいきますよ、もっと整いますよ」

「まだ行くのか?」

「お供いたします」

「喜んで!」
そこからサウナを二セットを行い。更におじさん達は整っていった。
サウナジャンキーがまた増えたようだ。



夕食の時間を迎えた。
五郎さんにとっては、ギルから先刻された時間。

「ギル坊、遂にってことなのか?」

「五郎さん、いよいよだよ」

「そうか、いよいよか、楽しみにしてるぜ」

俺は集中している、既にある程度のトッピングを終え、ピザ釜の温度の調整に入っている。
島の皆は、ここからは俺に話掛けるのは厳禁と分かっている。
その緊張が伝わったのか、島に訪れたおじさん達も口を噤んでいる。
釜の温度を確かめ、マルゲリータを釜に入れる。
状態を確認しながら、ピザを回していく。

あえて焼きムラを意識しながら。特性のピザの下にある網を回していく。
既に身体強化でいつでもどの様な動きでもできる状態にしてある。

今だ!
時計周りにピザを回し仕上げを確認する。

「メルル、あとは頼む」

「はい!」
テーブルの上にピザが運ばれてくる。
それをメルルが、ピザカッターで八等分に切り分けていく。
それを尻目に俺は、次のピザに集中する。

二枚目はホワイトソースのベーコンピザ。
ホワイトソースは改良を重ね、今では、トマトソースに次ぐ最高の仕上がりをみせている。
更にこのホワイトソースは、ピザのみならず、グラタンにも応用が出来る一品となっている。
まさに至極の一品と言っても、過言では無いと俺は自負してる。

ピザを仕上げていく。
俺は何枚ものピザを作っていった。

「島野、儂は舐めていたかもしれねえ」

「ええ、これは格別です」

「この複雑な味、表現に困る」
評判はいいようだ。

「島野このトマトソースも卸してくれるか?」

「すいません五郎さん、これだけは門外不出なんです。五郎さんの頼みでもこればっかりは卸せないです」

「そうか、残念だな、まあしょうがねえな」

「このピザは、この島でしか食べれないんだよ」
偉そうにギルが語った。

「そのようだな。いいなあギル坊は、こんな上手い飯が、しょっちゅう食えて」

「へへへ」



ここで騒ぎが起こった。
マークとロンメル、ランドとメタンがガードナーを囲んでいる。

「ガードナーさんよ、これまでは旦那を立てて、黙っていたが、何であんたがこの島にいるんだ?」
ロンメルが喧嘩口調で詰め寄っている。

「ああ、そうだ、聞かせて貰おうじゃないか」
マークまで食って掛かっている。
慌てて五郎さんが止めに入った。

「ちょっと、待てあんちゃん達、何だってんだ?」

「五郎さん、すまないがどいてくれないか。こいつは『鑑定』のガードナーなんて言われている奴なんだ。なんでこの島にいるのか知らないが、島野さんに仇なすってんなら、相手が神様だろうが、俺達は引けないな」
ランドがいきり立っている。

「その通りですな」
頷くメタン。

「まあ、待てちょっと話を聞け」
と四人を押しやる五郎さん。

「これには理由があるんだ」

俺も割って入る。
「お前達、俺の為にしていくれていることはよく分かってるが、ちゃんと話を聞こうじゃないか」
後ろに下がるロンメル達。

「旦那がそういうなら話ぐらい聞くが、ことの次第によっては許さねえからな」

「まあ、そういきり立つんじゃねえよ、な、あんちゃん達よ」
五郎さんが宥める。

「いいか、そもそもガードナーがここにいる理由は二つだ。まずはタイロンを救ってくれた島野にお礼を伝えることだ、もう一つが」
ここでガードナーさんが割って入る。

「五郎さん、ここは私が話します」
そうかとガードナーさんを見つめ返す五郎さん。

「もう一つの理由は、島野さんに謝罪することです。どう切り出そうか、ずっと悩んでいましたが、良いきっかけを頂けたようです」
どういうことだ?

「島野さんがタイロンに来られた時に、失礼を働いてしまいました。申し訳ございません」
と頭を下げるガードナーさん。

「ん?失礼とは?」

「島野さんが、野菜の販売をしている時に、私の部下が『鑑定』をしてしまいました、申し訳ございませんでした」

「ああ、そんなこともあったな」

「実は一部の部下に鑑定の魔道具を持たせています。ただ、滅多にそれを使用することはありません。あの時は島野さんが初見であったことと、ものの数分で長蛇の列を作っていることに、異常さを感じた部下が疑ってしまい『鑑定』を行ってしまったのです」
確かに、タイロンでの屋台の販売は凄かったな。
とんでもない勢いで売れてたからな、疑われて当然か。

「なあ、ガードナーこの際だから、話してもいいんじゃねえか?」

「そうですね、誤解を解くいい機会です。君達、よく聞いて欲しい。私は『鑑定』の能力は持ってはいない」

「はあ?」

「嘘だろ」

「事実です、今ここで『鑑定』を受けてもかまいません」

「いや、そこまでする必要はないだろう」
俺は割って入った。

「あんちゃん達、儂は実際にこいつを『鑑定』したことがあるが『鑑定』の能力は持っちゃいなかったぞ」
五郎さんが保証した。

「はあ?じゃあなんで『鑑定』のガードナーなんて噂がたってるんだよ?」

「それは、私がその噂を広める様に、部下に指示したからです」
怪訝そうな表情を浮かべているマーク達。

「なんでそんなことを?」

「それは抑止力になると考えたからです。タイロンは大国です、毎日たくさんの人々が出入国します。その中には好まれない者達も多くいます。そういった者達の入国を減らすにはこの方法が良いと考えたからです」

「マジか?」
と頭を抱えるロンメル。

「そういうことか、そんな噂が広まれば、悪事を考える者達は近づかなくなるってことか」

「そういうことです、行き違いがありましたが、島野さん、謝罪を受け入れて頂けないでしょうか?」
目立ち過ぎた俺が悪いという気もするが・・・

「ああ、もちろんだ。お前達もなにか言った方がよくないか?」
俺はマーク達を見た。

「すまなかった」

「申し訳ありませんでした」

「早とちりでした。すいませんでした」

「これは悪いことをしましたな」
マーク達は、ガードナーに頭を下げた。

「いや、疑われて当然のことです。それよりも、私に向かってくる者がいるとは・・・島野さん、素晴らしい仲間達ですね。どうか、この者達を叱らないでください」

「ああ、分かってるよ、ガードナーさん」

「いえいえ、いいんです」
誤解が解けて何よりです。

でも、タイロンに対しての違和感が変わらないのはどうなんだろうか・・・
まだ何か引っかかるものを感じる。
今は考えることでは無いのかもかしれないな。
俺は考える事を止めることにした。
翌日の朝、結局朝食はビュッフェ形式にした。
ツナマヨ丼でもよかったのだが、せっかくならいろいろ選べる方が、良いと思ったからだ。

ご飯にパン、味噌汁に卵スープ、卵焼きにスクランブルエッグ、ツナマヨにウィンナー等々を用意した。
朝食も評判が良かった。

「このいろいろ選べるってのはいいですね、参考になります」
大将は食事のことになると、真面目になるな。それが仕事だもんな。

「それにこのツナマヨ丼、一度食べてみたかったんですよ、ゴルゴラドの祭りの後で聞いたんですが、島野さんが三日間だけ出店してたって。そうとう上手いって評判でしたからね」

「そうだったんですか?」

「ええ、来年はどうするんですか?」

「いや、今はまだ何も決めてないね」

「来年も出店するなら教えてください、食べに行きますよ」

「わざわざ来るってのか?」

「はい、もちろんです」
食に対する情熱が凄いな。関心するよ。

食事を終え、泉源を探しに行くことになった。
ギルの背に五郎さんが乗り、俺はエルの背に乗ることになった。

「それじゃあ、儂らが先行するから、着いてこい」

「分かりました」
五郎さんとギルが先行して空を駆けていく。
方角は北西、どうらや川の方に向かっているようだ。
村から二キロメートルほどだろうか、森の中に到着した。
森の中とはいっても、木々があまり生い茂っているようなところではなく、少し開けた所であった。

「よし、ギル坊は土魔法が使えたな」

「うん、使えるよ」
五郎さんが指をさした。

「ここを二メートルほど掘ってみてくれ」

「分かった」
ギルは土魔法で地面を掘っていく。
二メートルはなかなか深い。
すると、地面から水がちょろちょろと漏れ出て来た。

「五郎さん水が出て来たよ」

「ああ、もう少し掘ってくれ」
更に掘り進めると水が一気に溢れ出て来た。

「熱い、熱い!」
源泉が噴き出し、ギルに掛かっていた。

「ハハハ、ギル坊大丈夫か?」

「熱いよもう、教えといてよ」

「ハハハ、悪りい悪りい。どうでえ島野、源泉を掘り当てたぞ!」

「お見事です、流石五郎さんだ」

「さてと、泉質を見てみるか」
五郎さんが源泉に手を翳した。

「おお!こりゃあ凄げえ。とんでもねえぞ」

「何が凄いんですか?」

「何がって、この源泉、魔力の回復効果があるぞ」

「嘘でしょ?」

「いや本当だ、ちょっと待ってろよ」
というと五郎さんは『収納』から湯呑を取り出した。
源泉を湯呑で掬っている。

「ギル坊、飲んでみな」

「ちょっといいですか、念のため」
といって、五郎さんから湯呑を預かった。
『分離』で不純物を取り除いた。
いちおう俺も『鑑定』してみる

『鑑定』

源泉 飲料可

ってこれだけかい。

五郎さんの『水質鑑定』のようにはいかないようだ。
湯呑に少し自然操作で水を加えてギルに渡した。

「飲んでみるね」
というと、ギルは湯呑に口を付けた。

「少し味がするけど、嫌じゃないよ、あっ!本当だ!魔力が回復してるよ!」

「な、儂の『水質鑑定』に間違げえはねえのさ」
ドヤ顔の五郎さん。

「凄い、体力の回復薬に続いて、魔力の回復薬もできてしまうことになるとは」

「それにしても、おめえの引きは無茶苦茶強えな。こんな源泉なかなかねえぞ。儂の街の源泉も多少の回復効果はあるが、ここまでじゃねえ」

「そうなんですね、まいったな」

「まあ、ひとまず、他言無用だな」

「そうですね」
困ったもんだ、後で考えることにしよう。
でも、魔力回復薬となると、メッサーラが一番需要がありそうだな。
ルイ君と相談してみるか。
ひと先ずは温泉を造るのが先か。
川からは近いし、どうにかなるだろう。

隣を見ると五郎さんが遠くを見るような目をしていた。
五郎さんがぼそりと呟いた。
「爺さんの温泉はどうなったことらや・・・」
そうか、日本の実家を思い出していたのか、ならば。

「五郎さん日本に帰りませんか?」

「はあ?おめえ何言ってやがる」

「俺の能力で、現在の日本にいけるんですよ」

「うっ!それは本当か?」

「ええ、俺はしょっちょう帰ってますよ」
五郎さんは頭を抱え込んでいる。

「ほんとお前えって奴は・・・ちくしょう。こればかりは考えさせてくれ。気持ちの整理が出来てからだ」

「ええ、構いませんよ」

「なんてこったい、お前えには呆れるぞ、ほんとに」

「気持ちの整理がついたら教えてください」
一度皆の所に帰ることにした。
昼飯を前にして、五郎さん一行は『温泉街ゴロウ』へ帰って行った。



今は温泉の建設中。
本当は男女別々にしようと思っていたが、後から増設は可能なので、まずは混浴にて温泉を建設することにした。
建設場所は、泉源から三十メールほど離れた場所。
都合が良い事に、傾斜がある開けた土地があったので、源泉が取り込みやすいのでそこにすることにした。

源泉から水道管で引き込み、浄水池を設置、ここにはプルコではなく、浄化能力を付与された魔石を使用した。実はゴンの様子を見に『メッサーラに』立ち寄ったところ、浄化能力が付与された魔石が売っていたので数個購入していたのだ。

五郎さんの温泉街でも使用していると聞いたので、同じ仕様にしてみた。
川から引き込む水も同じ仕様となっている。
湯加減の調整は温泉に蛇口を設けて行うようにしてある。

温泉は雰囲気を重視して岩風呂にしてみた。
皆で協力して岩をふんだんにかき集め、隙間をコンクリートで埋めて造った。
皆の頑張りの甲斐もあり、サイズとしては、皆で入れるほどの大きさとなった。
皆で温泉っていいよね。
楽しみだ。

獣に荒らされないように目隠し用のフェンスを建てた。
勿論脱衣場も作成した。
後は、洗い場も忘れない。

今は簡単な作りだが、今後手を加えていきたいと考えている。
今後は村との行き来が出来る様に、簡単な街道を造る予定で、ここはマークとランドに一任するつもりだ。
まずは、皆で温泉を楽しみたい。



さっそく温泉に皆なで行くことにした。
ちょっとした慰安旅行の気分だ。
大きく作っただけあって、皆で入ると、直ぐにお湯が溢れだした。
その様子に皆なで笑い合った。

「この温泉は、ちょっと匂いがしますが、気持ちいいですね」
満足そうなメルル。

「これは気持ちいいですね、守さん。村のお風呂も好きですが、これはまた違う心地よさです」
アイリスさんは、温泉に嵌るだろう思う。
無類の風呂好きだからね。

「まあ、多少村から距離はありますが、この距離なら歩いてもこれるでしょうね」

「ええ、そうですね、島野さんが居ない時には、ギルやエルに運んでもらうこともできますしね」
マークも気持ちよさげだ。

「「「ああ・・・」」」
皆な口から余韻が漏れてますね。
気持ちよさそうでよかったです。
にしても、この温泉は本当に気持ちがいい。
五郎さんに感謝だな。



ふと気づいたことがある。
季節感の無いこの島では、季節を感じる料理をすることはあまりない。
時折風が冷たかったり、日差しの強い日もあるが、季節を感じることは全くといっていいほどない。
今までしてこなかった料理をしようと考えたところ、鍋料理をしてこなかったことに気づいた。
そこで、キノコを食べていないことに俺は気づいた。

早速、キノコの栽培に取り掛かった。
切り分けた木に、切れ目を入れて、そこに『万能種』を入れる。
確かキノコは湿り気がある方が良いと思いつき、農業用倉庫の片隅で栽培してみることにした。
シイタケ、マイタケ、シメジ、エノキ、マッシュルーム、そして松茸。
これも野菜と同様に神気を流すとあっという間に成長した。

始めはすったもんだあった『万能種』だが、今となってはありがたい能力である。
あと、タケノコも栽培した。
タケノコは少し苦戦した。
というもの神気をやり過ぎると竹になってしまうからだ。
まあ、それでも竹を使った食器などに早変わりして重宝しているのだが、神気のやり過ぎには注意が必要だった。

この日より、鍋料理が数日続いた。
だが、毎回鍋に関してはベースとなる味が変えられたので、俺は飽きずに済んだ。

トマトスープの鍋、水炊き鍋、昆布ベースの鍋、キノコ鍋等、いろいろな鍋を楽しむことができた。
更に、鍋にはこれでしょうということで、ポン酢ができ上がった。
内容は簡単で、醤油に酢を混ぜただけの物、配分には少し手間取ったが、なんとか完成した。

そして、松茸ご飯は皆ががっつく様に食べていた。
がっついて食べる様なご飯ではないとは思うのだが、あの風味がそうさせるのだろう、お代わりを頻繁に求められた。

これはこれで有りだな。
また食の幅が広がったことに俺は満足した。
後は何に幅を広げようかと考えた結果、一つの結論に達した。
中華が足りてない。

まずはタケノコが捕れたことから、チンジャオロースを作ってみた。
無茶苦茶受けた。

だが、ここで物足りなさを感じた俺は『ゴルゴラド』に向かい、カキを買い漁った。
作るのはオイスターソースだ。
思いのほか、たくさんのカキを使用することになったが、美味しさの追求に金は惜しまないのが、俺の方針。

試行錯誤の上、これだというオイスターソースが出来上がった。
それで改めて作ったチンジャオロースは、エルに「神食!」と言わせるレベルに達していた。

次に取り掛ったのは、チャーハンだった。
案外あっさりできてしまった。
皆嬉しそうに食べていた。
そして、いよいよこれに取り掛かった。
餃子である。

これは、あえて皆なを巻き込んで、餃子作りを行った。
不格好な餃子を作る者、上手に作る者と様々だ。
皆なで和気あいあいと餃子を作った。
その味はというと、言うまでもないだろう。
自分達で作って不味いという者は絶対にいない。
上手いに決まっている。

餃子のたれは、ポン酢で済ませた。ラー油も作らなかった。
作ることは出来る。だがしなかった。
理由は簡単で、めんどくさいと思ってしまったからだ。
俺の良くない所なのかもしれないな。

常にゆとりを残しておきたいのだ。
俺は間違っても完璧主義者ではない。
少しの遊びを残しておきたいという想いがあるのだ。
どこかまだ開発の余地がある状態が好きなのだ。
やろうと思えばやれる。
でもやらない、ここに楽しみを残したくなってしまうのだ。
俺はそれでいいと思うのだ。
完璧が良いとは限らない。



ところで、久しぶりに能力の開発を行っている。
決してサボっていた訳ではない。
嘘つけというクレームは受け付けない。
今行っているのは『睡眠』の能力開発だ。

なぜそれを考えたかと言うと、万が一戦闘になった際に、一番活躍する能力について考えた結果、これだろうという考え。
誰一人死なれては困る。
あくまで俺は、神様の修業の身なのだ。
誰かに死なれてはその資格は無いと思う。

ならば、どうしたらそれを防げるのか?
殴ったら、下手をすると誰かを殺してしまうほどに、俺は強くなっていることは分かっている。
それを回避するには、眠らせれば良いんじゃないかという安易な発想。
なので『睡眠』の能力を開発するようにした。

既に獲得の道しるべは出来ている。
催眠をこれまで行って来た俺にとっては、睡眠は類似性があり過ぎる。
いつも道りの『黄金の整い』のなかで、あえて眠気に自分を誘導する。
そこで神気を纏ってみる。
薄っすらと音が聞こえた。

ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認ください」

ああ、お休みなさい・・・
『睡眠』の能力を獲得していた。
むにゃむにゃむにゃ・・・



遂に五郎さんから打診があった。
日本に帰ってみたいと。
俺は確認を兼ねて五郎さんの所にやってきた。

「五郎さん本当にいいのですか?」

「ああ、心は決まった。行こうじゃねえか。日本に」

「分かりました、いつから行きますか」

「来週から頼む」

「分かりました」

ここで俺は五郎さんに条件を出した。
・日本では能力は使わないこと
・日本の物は持ち帰らないこと
・日本では六十歳の私であること

これらを条件としたことには意味がある。
能力を使わないことに関しては、誰かに見られる危険性があるからで、五郎さんはこちらでの生活があまりにも長いため、無意識に使用してしまう可能性があるからだ。
ここでちゃんと言っておくことに意味がある。

次に日本の物を持ち帰らないことだが、やはり日本製の物はこの世界にはあまりに異物だからということと、この先も日本の物を落ち帰れると思われたくはないからだ。
日本の物を商品と思われてはかなわない。
どうしてもという時は考えることはするが、基本姿勢としてはNGだ。
最後の六十歳の私はそのまんま。

「この条件は守ってくださいね」

「ああ、かまわねえ」

「じゃあ、来週迎えにきますね」

「おう、頼む」
俺は島に帰ることにした。



皆なに五郎さんを連れて日本へ行くことを話した。
三日間ぐらいの旅になると伝えた。

「気をつけて行ってきてくださいね」
アイリスさんから、気遣う言葉をもらった。

「ありがとうございます」

「五郎さん大丈夫かな?」
ギルは心配しているようだ。

「五郎さんなら大丈夫だ。俺もついてるしな」

「そうだね、パパが一緒なら大丈夫だね」
一週間後が楽しみだ。



一週間後。
五郎さんを迎えに『温泉街ゴロウ』に来ている。
ひとまずいつもの部屋に通された。
出されたお茶を飲んでいると、五郎さんが大将を連れて、入室してきた。

「大将、どうしたんですか?」

「島野悪いな、今すぐ行きたいところだが、ちょっとだけ付き合ってくれ」

「ええ、どうしましたか?」
五郎さんと大将が椅子に腰かける。

「マヨネーズについて聞きたいことがありまして」
と大将がきり出す。

「ええ、なんでしょう?」

「原材料なんですが、卵と油と酢なのは分かるのですが、どうしても島野さんのところで仕入れてる味にならないんですよ」

「ああ、それは酢は島の野菜を使用しているからだと思います」

「なるほど、だから味が違うのか、納得です。島野さんのところの野菜から酢を作ってみます」

「ええ、そうしてみてください」

「ダン、これで良かったか?」

「はい、師匠ありがとうございます。ではお気をつけて行ってきてください」

「ああ、後のことは任せたぞ」

「任せてください」

「じゃあな」
大将は立ち上がり、退室した。

「じゃあ、こちらも行きましょうか?」

「ああ、よろしく頼む」
俺は五郎さんの隣に立ち、五郎さんが俺の肩に手を置いた。

フュン!

俺達は日本へと転移した。



まだ慣れない様子の五郎さん。
かれこれ一時間近く私の家の中をうろちょろしている。

転移してから直ぐに、電気のスイッチを入れた。
部屋が明るくなる。

「お前え今何した?」

「電気のスイッチを押しました」

「スイッチってなんだ?」

「これです」
スイッチを切る付けるを繰り返した。

「すげえ!なんだそれ、儂にもやらしてくれ」

「どうぞ」
喜々として五郎さんは電気のスイッチを操作している。
まあこうなることは予想していたが、にしてもここまでとは・・・

次に家電に興味を持ったご様子。
エアコン、電子レンジ、オーブントースター。
俺は一通り説明した。

冷蔵庫に至っては。
「これが本物の冷蔵庫か」
といって顔を突っ込んでいた。

たぶんこれが一番驚くだろうと、テレビのリモコンを操作した。
テレビが点く。

「なっ・・・おいおいどうなってやがる」
案の定のリアクション。

説明は結構苦戦した。
幸い五郎さんは写真のことは知っていたようで、それの動くような物から、技術発展してこうなったと、結構不親切な説明になってしまった。
正直説明はめんどくさい。

それから一時間はこんな調子なのだ。
慣れるまでまだまだ時間がかかりそうだ。
ひとまずお茶を入れて、休憩中。

「五郎さんもお茶をどうぞ」

「ああ、貰おうか」
やっと五郎さんは椅子に腰かけてくれるようだ。
五郎さんは私の顔を覗き込んでいる。

「お前え、急に老け込んだな」

「だから説明しましたよね、これが私の本来の年齢なんです」

「そうだったな、しかし上手く化けてながんな、感心するぞ。そこまでやる必要あるのか?」

「あります。私の知り合いに会ったらどうやって説明するんですか?」

「一人称まで変わっちまってやがる」

「こういう些細なことが肝心なんですよ」

「そんなもんかね?」

「そんなもんです」

「まあいいや、でこれからどうする?」

「そうでえすね、とりあえず現在の日本に慣れてもらう為に、散歩でもしましょうか」

「ああ、いいな、お前えから、かなり発展したと聞いてはいるが、見るのが一番早えからな」

「そうしましょう」
と言って、俺は出かける準備をした。

「五郎さん、その格好では目立つので、これに着替えてもらってもいいですか?」

五郎さんは男性用の着物に下駄を履いていた。下着は褌。
流石に今の日本では目立つ。
Tシャツに短パン、草履に新品のパンツを渡した。

着替え終わると。
「なんだか、この下着はしっくりとこねえな」
と体をくねらせていた。

家を出て、適当に散歩に出る。
五郎さんの興味が止まらない。
またも質問攻めにあってしまった。

「なんで地面がこんなに堅いんだ?」

「あれは本当に車か?」

「あれは英語か?今の日本に英語はありなのか?」

「やたらと色鮮やかな街じゃねえか」

「あのでけえ建物はなんだ?」

「飛行機が飛んでるぞ!」
等々、やはり慣れさせる時間を設けて正解だったな。

「島野、今のところ、儂の知る日本はねえな、儂にとっては、もはや日本は異世界だ」

「そこまでですか?」

「ああ、まちげえねえ」

「じゃあ、今も昔も変わらないところにいきましょうか?」

「そんなところがあるのか?全部変わっちまってるぞ?」

「ありますよ、もう少しで着きますよ」
と歩を進めた。

「ここは・・・確かに日本だ。間違えねえ。ここだけはあまり変わっちゃいねえな」
私達は神社に居た。

ここは今も昔も変わらないと思ったからだ。
連れてきて正解だったようだ。
五郎さんが懐かしい物を見る目になっている。

せっかくなので、五郎さんに小銭を渡し、お賽銭をすることにした。
いったい何を拝んでいるだろう?
五郎さんは長い時間手を合わせ、目を瞑っていた。

「いやー、神社でお賽銭が出来るとは考えてもなかったぞ、ハハハ!」

「それはなによりです」
私達は家に帰ることにした。



今後の予定として、夕方には『おでんの湯』に行き、帰ったら、近くの居酒屋でも行こうと考えている。
五郎さんの帰省は明日の予定だ。

五郎さん曰く
「戦争で、泉源が潰れちまってたから、どうなっちまってるかは分からねえ。兄貴は廃業だと言っちゃあいたが、どうだろうな?」
ということだったが、念の為泊りの準備はしている。

というのも、五郎さんの帰省先は私の家から、高速道路を使って片道三時間はかかりそうだった。
道に迷ったりすることも考えての準備だ。
最悪はどこかのホテルに泊まるしかないかもしれない。



五郎さんを車に乗せて『おでんの湯』に向かった。
車に乗ることが初めての五郎さん。
ドアを開けてあげるところから始まった。
車の中でも全開の五郎さん。
始めは慣れないせいか、静かだったが、次第に。

「車ってのは、こんなに便利な物なんだな」
と始まり。

「車にもテレビがあるじゃねえか」

「いえこれは、カーナビといって、道案内をしてくれるんですよ」

「道案内だと?凄えじゃねえか」

「車は進歩が速いですからね。海外では、自動運転の車まであるんですから」

「はあー、なんてこったい、進歩が早えな。まだ戦後から百年経ってねえんだろ?」

「ええ、そうですね。特に日本は戦後から今日に至るまで、科学技術や医療の技術、産業技術等、あらゆる分野で発展してきましたからね。諸外国からも、一目置かれる国になってますから」

「そうなのか・・・日本人は凄えな」

「凄いと思います。特に日本人の食に対する拘りは凄いと、異世界にいってから痛感しましたよ」

「そうか、食は人生を豊かにする。いいことじゃねえか」
にこにこ顔の五郎さんであった。



『おでんの湯』に着いた。

靴をロッカーに入れ、鍵のついたリストバンドを受付で、係の方にリストバンドのバーコードをスキャンして貰う。
そして、チケットを二枚差し出した。

「おい、島野お前え今何を渡したんだ?」
気になったのはそこなのか?
リストバンドのバーコードをスキャンしたことじゃないのか?
気になるのはそっち?

「ええ、あれは入泉チケットです」

「チケット?」

「回数券です」

「ほう、回数券?」

「ええ、一回この施設に入るのに一人七百五十円するんですが、十回分纏めて買うと七千円で済むんです。五百円得するということですね」

「なるほど、それは良い事を聞いた。儂の温泉でも考えてみるか、ってか何だって一回七百五十円!無茶苦茶高えじゃねえか!」

「ちょっと、五郎さん声が大きいですよ」

「おお、すまねえ」

「五郎さん、今では金銭価値は当時とかなり変わっています。高卒の初任給がだいたい十八万円ぐらいだって話です」

「えっ、そうなのか・・・変わっちまったな・・・」

「まあ、そこは置いておきましょう、本場のサウナですよ」

「おお、そうだったな。島野お勧めのサウナだったな」

「ええ、風呂も炭酸泉とかあって楽しめますよ」

「ほう、儂を唸らせることができるかな?」

「きっと気に入りますよ」

「そりゃあ、楽しみだ」
脱衣所で服を脱いで、裸となり、タオルを持って、まずは洗い場に向かった。

「島野、石鹸がねえぞ」

「ええ、これが頭を洗うシャンプーで、これが体を洗うボディーソープです」

「ほう、そんなことになってやがるのか」

「結構泡が立ちますから出し過ぎ注意です」

「そうか」
と洗い出す五郎さん。

すると
「これは良い匂いがするな」
と興味深々。

「五郎んさん、念のために言っておきますが、持ち帰れませんからね」

「うっ!やっぱりか・・・」

「駄目です、約束ですよね?」

「そうだよな・・・」
これは認めたらきりがないから断固拒否だ。
絶対に温泉街で使いたいと言い出すに決まっている。
それを想定してたから、条件にしたんだよ。



まずは、露天風呂に入った。

「いい湯加減だな。まあ唸るほどじゃねえがな」

「そうですか、もう少し浸かったら炭酸泉に入りましょう」

「おっ、いよいよだな」
数分後炭酸泉に浸かった。

「五郎さん、どうですか?」

「うう、これは良いな・・・いや凄くいいぞ」

「唸りましたね」

「ああ、しょうがねえ。身体は正直だからな、この低めの温度帯ってのもにくいな」

「長い時間入れる気遣いですね」

「ああ、そうだな。同じことを内の温泉でもやってはいるが、この炭酸泉ってのはねえからな」

「五郎さん『水質鑑定』しないでくださいよ」

「うっ!バレたか」

「絶対バレるに決まってるでしょうが、でもやっても向うでは再現は難しいと思いますよ。この炭酸は二酸化炭素ですから」

「そうなのか、ならしょうがねえな。じっくり風呂を楽しむとするさ」

「ええ、満足したら、サウナに行きますよ」

「ああ、分かってらあ」
その後十分ほど炭酸泉に浸かった。

「じゃあそろそろ行きますか」

「おうよ」



サウナに入室した。一番上の席が空いていた。

「五郎さん一番上にしましょう」

「そうだな」
着席した。

「これは強烈だな」

「ええ、サウナストーブをガスで暖めるので、強烈なんですよ」

「そうなのか、向うの世界では、再現は無理そうだな」

「残念ながら」

じっくりと汗をかきだしている。
五郎さんも同様な感じ。

「後数分で出ましょうか?」

「そうだな、そろそろしんどいな」
数分後私達はサウナを出た。

掛け水をして、超冷水風呂に飛び込む。
そして、通常の水風呂に移った。

「ああー」
思わず声が漏れる。

「気持ちいいなー」
水風呂を出た。

残念ながらインフィニティーチェアーは空いていなかった。
椅子に腰かける。
隣には五郎さんが腰かけた。

五郎さんがいるので『黄金の整い』は行わない。
でも充分に整っている。

「いやー、この余韻がたまんねえなー」

「ですね」
この後、更に二セット行い。
『おでんの湯』を後にした。



家に帰ると、近所にある居酒屋に徒歩で出かけた。

「「いらっしゃいませ!」」
元気な掛け声に迎えられる。

「あそこの席にしましょう」
指を指した先には、四人用の座席が空いていた。

「ああ」
席に着いた。
店員さんがおしぼりを持ってきた。

「とりあえず生を二つ」

「はい、かしこまりました」
店員さんが、立ち去っていった。

「何を食べましょうか?」

「何でもいいぞ、任せる」
メニュー表を見て、適当に見繕った。

「五郎さん苦手なものはありますか?」

「特にねえな」
ここで、店員さんが生中を二つ持ってきた。

「注文いいですか?」

「はいどうぞ」

「じゃあ、枝豆と、ツナサラダ、串の盛り合わせと、刺身の盛り合わせ、ポテトフライ、とりあえずこんな所で」

「はい、ありがとうございます」
店員さんが軽く会釈して立ち去っていった。

「では」

「「乾杯」」
グラスがガシャンと音を立てる。
ゴクゴクと生中を流し込む私達。

「パァー!」

「上手え!」

これだよこれ、サウナ明けの一杯。
最高!

「サウナ明けは格別に上手く感じるな、ええ!」

「そうなんですよ、汗をかいた後の一杯、これぞ至極の一杯です」

「至極の一杯か、あながち間違ってねえな」

「しかし、スーパー銭湯は凄えな、所詮銭湯と舐めてた儂は恥ずかしいぞ」

「今や、日本のスーパー銭湯は娯楽の中心と言っても過言では無いですからね。今ではサウナもブームとなっていて、若い子や女性にも人気なんですよ」

「そうなのか?」

「ええ、ひと昔前は、メタボゾンビのたまり場なんて、言われてたんですがね」

「メタボゾンビ?」

「ああ、太ったおじさんのことです」

「そうか、しかし、日本語も難しくなっちまってるな」

「時代によって、言葉も変わりますからね」

「そんなもんかね?」
ここで、枝豆とツナサラダが運ばれてきた。

「ではいただきます」

「おお、頂こう」
箸を持って、小皿に取り分ける。

「これは、お前えのところのツナか?」

「ええ、そうです」

「しかし、何だな、島野」

「ん?なんですか?」

「このメニュー表を見て見ろや、日本はなんて飽食なんでえ、こんなにたくさんの種類を提供できるだけの食材や、保存方法があるってことなんだろ?」

「そうですね、ただそれが良いばかりでもないんですよ」

「どういうことでえ?」

「食品ロスといって、提供する前に食材を駄目にしてしまって捨てている現状があるんですよね」

「なんだって?」

「行き過ぎたサービスの弊害だと思うんですが、社会問題の一つです」

「お前え、それは・・・向うの世界では、食うに困ってる者の方が多いってえのに、何だろうな・・・」

「ええ、私もあっちの世界に行って、始めのころは、食べるのに困ったことがあるので、良く分かります。恵まれる環境が善では無いと思います」

「だな、儂も褒められたもんじゃねえが、食料ゴミが問題になるって、狂ってねえか?」

「それだけじゃないですよ、この世界にはこの世界の問題がたくさんあります」

「そうなのか?」

「でも、どっちがいいとも言えないですけどね」

「だろうな、何となく分かるぞ。そういえば、こっちに来てからおめえがずっと気にしてるそれは何なんでえ?」
五郎さんは顎でスマホを指した。

「これですね、これはスマートフォンです」

「で、何なんだ?」

「これの基本的な機能は電話です」

「電話?電話線がねえじゃねえか」

「ええ、今では電話線無くして通話ができます」

「へえ」

「他にも様々な機能があって、メールっていう文字を送る機能であったり、お財布代わりになったり、調べものをしたり、と今では一人一台持っていると言われている代物です」

「そうなのか・・・一人一台って、なんか物に振り回されてる様に、儂には見えるがな」

「そうかもしれません、今では私も定年を迎えて、会社勤めは終わりましたが、就業中はこれは手放ませんでしたからね、唯一手放せる休日が嬉しくって仕方がありませんでしたよ」

「そんなもんなのかね?」

「便利さが、暮らしを豊かにするとは思いますが、弊害もあるということなんでしょう」

「儂にはよく分からんが、一つ言えるこたあ、儂にはこの世界についていくことはできねえってことだな」

「かもしれませんね」
豊かであることが決して幸せとはイコールでは無い事だと、痛感する会話となった。
二つの世界で生きている私には、痛いほどに分かることだった。



結局、しこたま飲んだ私達が起きたのは翌日の朝九時だった。

「ちょっと飲みすぎましたね」

「ああ、ちっと酒が残ってる気がするな」

「いっそのこと、サウナに行って、酒を抜きましょうか?」

「それもいいかもの知れねえな」

『おでんの湯』に行って。二セットほど行った。

「すっきりしたな」

「ええ、そうですね。では行きましょうか?」

「ああ、頼むぜ」
高速道路に乗り、目的地を目指した。
途中でお腹が減ったので、パーキングエリアに入り、食事を取ることにした。

「この高速道路ってのは何なんでえ、無茶苦茶早く移動してるのは分かるが、こんな道を日本人は作っちまったってことなんだな」

「そうですね、今では時間をお金で買えるってことの象徴ですね」

「時間を金で買うって・・・儂には理解が及ばねえな」
現役時代の私にとっては、いかに時間効率を上げるかを考えて行動予定を立てていたが、今思うと、遊びがないことに気づく。
効率ばかり考えてゆとりがなかったなと。

高速道路を降りて市街地に入る。
おそらくこの辺ではないかというところに、セットしたナビが導くままにハンドルを操作する。
既に人里を離れ、山道を走っている。

すると開けた町並みが現れた。
『温泉街』の看板が見受けられる。

「五郎さん、そろそろですが、どうですか?」

「うーん、何ともいまいち分からねえな」

「そうですか、ひとまずこの辺かも、ってところに向かいますね」

「ああ、そうしてくれ」
迷わず『温泉街』の標識に従い、ハンドルを進めていく。

不意に山瑛に『温泉街』が現れた。
雰囲気のある温泉街だった。
残念ながら私は温泉には通じていない。
ここが有名な温泉街なのかどうかも分からない。

五郎さんが温泉街に興味を示している。
車の窓を開けて、匂いを確認している。

「この匂い、ああ・・・懐かしい・・・島野間違えねえ・・・このまま進んでくれ」
何かを感じ取った五郎さん。

言われるが儘に車を進めて行く。
すると、大きな温泉旅館に行き当たった。

「ここでいいのでしょうか?」

「ああ、間違えねえ」
真剣な顔の五郎さんが、一つの旅館を凝視していた。
『清風館』と銘打った旅館がそこにはあった。

「清風館・・・まさか・・・」
五郎さんが言葉にもならない呟きを漏らしていた。

私は車を止め、清風館に立ち寄ることにした。
横を見ると五郎さんが複雑な表情を浮かべていた。
何を感じているのかはいまいち読み取れない。
だが、ここが重要な場所であると感じる。
旅館の中に入り、受付に立ち寄ることにした。

「一泊できますか?」

「少々お待ちください」
受付の女性がパソコンと格闘している。

「申し訳ございません、本日は予約で満室でして、宿泊はご利用できません」

五郎さんが割り込んで言った。
「温泉だけでも入れねえのか?」

「それならば、大丈夫です。温泉のみでよろしいでしょうか?」

「ああ、そうしてくれ」
どうやら日帰り温泉旅行となってしまったようだ。
でも、雰囲気を読み取るとこれが最善なのかもしれない。
五郎さんが明らかに興奮している。

受付の女性に誘導され。
脱衣所の中へと入っていく。
ロッカーがあり、服を脱いで入浴の準備をする。

タオル片手に風呂場に入った。
身体を洗い、まずは室内の風呂に入る。
残念ながら、この温泉にもサウナは無かった。
隣に五郎さんがやってきた。

「島野、儂は・・・儂は・・・本当にここに来れてよかった」
五郎さんは静かに泣いていた。

「ここは爺さんが見つけた泉源で造った温泉だ、間違えねえ・・・兄貴が造り治してくれてたんだな。この泉質、懐かしいぞ」
そうなのか、ここが五郎さんの故郷。
そして、このお湯が五郎さんが生れた時に浸かった産湯。
そりゃあ泣けるに決まってる。

「よかった、本当によかった。ハハハ」
五郎さんは泣きながら笑っていた。

「よかったですね」

「ああ、ありがとうな。島野」
素敵な笑顔だった。
ここまで優し気に笑う五郎さんは初めて見た。
なんだか、私も嬉しくなった。



帰り際に受付を通ると、支配人らしき男性が居た。

顔の雰囲気がなんとなく五郎さんに似ている。
胸の位置に名札があり「山野」と書いてあった。
すると五郎さんが声を掛けた。

「あんちゃんが支配人かい?」

「はいそうです」

「良い湯だったぞ、この世界では使いもんにならねえかもしれねえが貰ってやってくれや、駄賃だ」
と言って、異世界の金貨を一枚渡していた。

キョトンとしている支配人、気を取りとり直すと
「ありがとうございました、またのご来館をお待ち申しあげております」
と良く通る声で送り出してくれた。

まったく、五郎さんは粋なおじさんだ。
御帰郷、おめでとうございます!
私は今行きつけの『おでんの湯』にて、サウナをサンセット行い『黄金の整い』を行った後の余韻に浸っている。
できればもう少し余韻を感じていたいのだが、あることを思い出していた。
これはある出来事がこのことを思い出させたのだった。



前に、ヒプノセラピーについて詳細を話すと言ってから随分経つが皆さんは覚えているだろうか?
待ってる人がいたらいけないと、ヒプノセラピーについて今回は話をしようと思う。

まずは、私の三十台半ばの頃からの話をしようと思う。
その当時は、金銭的にもゆとりが生まれ始め、仕事も順調にいっており、時間的なゆとりも生まれていたころだった。
激動の二十台とは打って変わり、心にも余裕が生まれ始めていたと思う。

二十台の頃の私は、転職を繰り返し、中にはブラック企業で勤めていたこともあった。
その当時はブラック企業なんて言葉はなかったと思う。
自分で言うものなんだが、彼女も何人か居た。だが結婚にたどり着くことは無かった。ご縁がなかったということだろう。

生活にゆとりが生まれると、不思議なもので、あれほど嫌になっていた勉強がしたいと考えるようになった。
そこで私が学びたいと思ったのは、心理学だった。

とはいっても、今さら大学生に戻る訳にはいかなない。
私が選んだのは、心理カウンセラーの免許取得だった。

まだ、日本において公的な心理カウンセラーの免許は存在していない。
唯一存在するのは臨床心理士。
しかし、その資格を得るには、大学に通わなければ所得は出来ない。

私が選択したのは、社団法人が発行する心理カウンセラーの免許取得だった。
いわゆる企業が心理カウンセラーの養成学校を開いており、そこが提携する社団法人が免許を発行するというシステムだ。
ただ、その心理カウンセラーになる為の勉強内容や、実技などはしっかりとしている。
それそれなりの授業料がかかったのを覚えている。

毎週日曜日の午前中のみ授業が行われ、私は一年半かけて、心理カウンセラーの資格を得た。
そして、その後はせっかく得た資格なので、副業として心理カウンセラーを行うことになった。
しかし、日本にはまだ心理カウンセリングは根付いておらず。需要は低い。

カウンセラー養成学校からの紹介で、クライアントがあてがわれるのだが、月に一、二度心理カウンセリングを行う程度。
それ以外では、私の家の前に『心理カウンセリングオフィス』の看板は出していたので、たまに興味がある人からの、問い合わせが数件あったぐらいだった。

そして私は一年ぐらい経ったころには、心理カウンセリングの壁にぶち当たっていた。

心理カウンセリングは、メインの作業としてクライアントの話を聞くことにある、いろいろな角度から質問し、クライアントの悩みを聞き出す。
そして、悩みを解決する方向にもっていくのだが、それはあくまでクライアント本人が見つけなければならないのが基本となっている。

心理カウンセラーが、アドバイスや自分の考えを伝えることは厳禁とされている。
クライアントを誘導し、自己解決するサポートをすることが、心理カウンセリングなのだ。
心理カウンセリングで行われる会話は、日常の会話ではない。

心理カウンセラーはクライアントと信頼関係を構築し、気持ちに寄り添い、クライアントのことを理解すること、その上でクライアントを自己解決へと導く。
と言葉にしてしまえば単純だが。十数件の心理カウンセリングを行って気づいてしまったことがある。
クライアントは問題解決の前に、問題となった原因を、本人が理解していないことが大半であることに。
また、その原因が本人が気づいていたとしても、本質ではなかったりする。
そうなると自己解決なんてできる訳がない。

問題の原因を知らずして、解決したかの様に感じていても、それは一時的なことでしかなく、数日後には問題は解決していないことに気づく。
つまり、心の悩みを解消するには、心理カウンセリングでは弱すぎるのだった。
もっと何か本質的な方法が無いものかと考えるようになった。

そして、一つの結論にたどりついた。
実は心理カウンセラー養成学校でのデモンストレーションとして、授業であることを私は体験していたのだった。
それがヒプノセラピーだ。

今思えば雑な催眠誘導で、よく催眠の状態に入れたなとは思うが。体験できたことは間違いなかった。

講師がこう言った。
「本日はイメージワークの授業を行おうと思います、この中でトラウマがある人は居ますか?」
周りを見渡したが、誰も手を挙げなかった。
それを確認した上で、私は手を挙げた。

実は私には原因不明のトラウマがあった。
それは何かというと『生き埋め』という言葉だった。

この言葉を聞くだけで、身体に悪寒が走る。
映画やドラマでこのシーンを観るだけで、気分が悪くなった。
この様子を想像するだけで、体が硬直したりしたのだ。

『生き埋め』になったことなど、幼少期を振り返っても一度もなく。
生れてから一度も経験をしたことはないのにだ。

講師に導かれて皆の前に出て、椅子に腰かけた。
皆に見られていると、始めは緊張した。
次第に慣れてきて、準備ができたことを伝えると。
目を瞑って、深く深呼吸を繰り返すことを指示された。
言われた通りに何度も深呼吸を繰り返した。

講師が言った。
「生き埋め・・・生き埋め・・・生き埋め・・・頭の中で繰り返してください」
私は指示された通り、頭の中で何度も繰り返した。

「今度は生き埋めにされている、自分をイメージしてみてください」
生き埋めになっている自分をイメージした、背中に悪寒が走る。だがその時、イメージがまるで映像でも見るかのように変化した。

自分の状態を俯瞰で見ていた。
その自分は今の私ではない。
どこか違う場所で違う自分。姿形は似てもいないが、それが自分だと分かる。
何故だか分かってしまう。

良く見ると、古い時代の中国人が着ているような服を着ていた。
三十歳ぐらいの男性だった。

その男性は生き埋めにされ、あろうことか、土の中で蘇生し、土の中で意識を目覚めさせていた。
それと分かると、とてつもない恐怖感に襲われた。息苦しさも感じる。
怖い、恐ろしく怖い。

横を見ると、少女と女性がいた。
少女は私の娘であると分かる、女性は私の妻であると分かる、なぜか分かってしまった。

二人は絶命していた。
こんな恐怖を味合わせなくてよかったと、私は少しほっとした。

「今何が見えてますか?」
これまでのことを説明した。

「なぜ生き埋めになったのですか?」
すると頭に、言い争うイメージが浮かんだ。
街の権力者と言い争いをする自分と、それを後押しする数名の男性。

「街の権力者に逆らったから」

「その権力者に見覚えはありますか?」
ある、あり過ぎる。

その権力者は二十台の頃勤めていた、ブラック企業の暴力社長だった。
前世でも今世でも人を迫害してるなんて、なんて惨めで弱い人なんだろう。
私は彼をとても哀れに感じた。

講師の質問に答えようとしたら。
「答えたくなければ答えなくていいですよ」
と言われたので、答えるのを止めておいた。



これが私のたどり着いた答えだった。

あのイメージワークはなんだったのか。
その答えを探した。
そして一冊の本と出合う。
「ブライン・L・ワイス博士著『前世療法』」
そして私は、ヒプノセラピーの存在を知った。

だが、当時ヒプノセラピーを学べるところは無く、探す方法も限られていた。
しかし、インターネットの普及により、その問題は数年後に解決することになった。

前世療法の創始者ともいわれる、ブライアン・L・ワイス博士に直々に師事した、日本人のM氏がヒプノセラピストの養成講座を開いていることを知ったのだ。
私は心が震えた。

その時私は、四十歳になったばかりだった。
当然養成講座に申し込んだのだが、地方都市に住む私にとっては結構な負担となった。

毎週末新幹線を使い東京に向かい、ビジネスホテルに泊まり、講義を受けた。
かなりの費用と時間を有したが、何とか工面した。

結果、私はヒプノセラピーを習得し、ヒプノセラピストとしての、活動を行うことになった。
M氏には感謝しかない。
なにより、彼の講義はとても楽しかった。
講義は座学と実技を伴うものだったが、途中途中で挟まれる、彼の実談が面白く、その後の私の指針となったことは、間違いないだろう。

ちなみに実技の催眠ワークによって、私が見た前世の世界は以下の通りであった。

・原始人チャド(知力の低い少年、寿命により死亡)
・日本の城の警備兵(忍びに後ろから首を斬られて殺される)
・インディアンの戦士(戦争にて戦死)
・古代ローマの政治家(意見の合わない主流派から追いやられ、崖から落とされて死亡)
・江戸時代の町娘(事故に巻き込まれて死亡)



前世という言葉を聞くと、有る無し論争が勃発するが、私はその論争には加わらない。
正直言って、有ろうが無かろうがどっちでもいいのだ。
但し、有ると思って人生を送ると、人生は豊かな物になると考えている。

想像してみて欲しい。
今隣にいる奥さんや、ご主人、友人や同僚、両親や子供が前世では、どんな人生を送っており、どんな生き方をし、そして自分とはどんな関係性だったのかを。

私でいうならば、ノンとは魂の繋がりを強く感じる、もしかしたら、前世では兄弟だったのかもしれない、或いは親子だったかも。
そう考えると、よりノンが愛おしくなる。
だから私は論争に付き合う必要はないと考えている。



ヒプノセラピーを日本語にすると、催眠療法となる。

催眠と聞くと身構える日本人は実に多い。
残念ながらこれは、メディアによるイメージが大きい。

催眠と聞くと、催眠ショーを思い浮かべる人が実に多い。
これはテレビで、派手な恰好と奇抜な髪形をした催眠術師が、芸人さんを相手に、したくもないことをやらせたり、嫌いなものを食べさせたりする、といったことを面白可笑しく取り上げてしまったことが原因である。

そもそも催眠ショーと、催眠療法は違うものであると受け止めて欲しい。
催眠という言葉で、一括りにはしないで欲しい。
催眠ショーは、あくまでショーである。
それに相手も芸人さん達や、テレビの向う側の方達だ。
私が言わんとすることを理解して頂けただろうか?

前もって言っておくが、催眠術にかかった状態でも、したくないことは拒否できる。
したくないことは、断ることは出来るのだ。
何故かというのは、この後の解説を聞いて欲しい。



そもそも催眠とは何なのか?
答えは簡単だ、無意識の状態のことだ。
無意識とは何なのか?
解説しよう。

まず人は意識を有しており、その意識が物事を判断して、生活を行っている。
人生のほとんどが、意識の有る状態で過ごしいている、と言っても過言では無いだろう。
この意識の有る状態は、言い換えると顕在意識。
そして意識の薄い状態は潜在意識。

潜在意識は、言い換えると無意識。
常に人はこの顕在意識と、潜在意識の両方で生活している。
普通に食事をし、仕事をするといった。ありふれた日常そのほとんどを顕在意識で行っている。
そして潜在意識は時折現れる。

こんな経験はないだろうか?
いつもの通い慣れた帰り道、気が付いたら家の前に着いて居た。
気が付いたら携帯電話を持っていた、等々。
もっと分かりやすく言えば、朝起きて直ぐのボーっとした状態。
これが潜在意識の状態。

特に何を考えることも無く思わず行動を取ってしまっている、無意識の状態。
催眠とは潜在意識を大きくし、顕在意識を小さくした状態。

つまりは無意識に近い状態のことをいう。
この無意識に誘導を行い。様々なセッションを行う。これが催眠療法。

催眠療法の内容は多岐に渡る。
有名なところでは『前世療法』『年齢退行療法』『暗示療法』
他には『悲観療法』『インナーチャイルド』『ソマティックヒーリング』『未来世療法』等々。
取り上げたらいくつも出てきてしまう。

この先は興味があるようなら自分で調べてみて欲しい、きっと自分合う催眠療法が見つかるだろう。



ある出来事について、それは思いもよらぬ者からの話だった。

「ボス、聞きたいことがあるんだけどいいか?」

「どうした?レケ」

「ボスはさ、異世界人なんだろ?」
ワイングラス片手に、ほろ酔いな感じのレケ。

「ああ、そうだ」

「異世界人ってことは、異世界があるってことだよな?」

「そうだな」

「異世界ってのは、いくつあるんだ?」

「さあ、わからないな。俺が居た世界とこの世界、それ以外の世界もきっとあるんだろうが、俺は行ったことはないな」

「そうなんだ、いろんな世界があるってことは、今生きている俺は、何かの生まれ変わりってこともあるのか?」

「生まれ変わり?」

「ああ、前は違う人生を生きていたことがあるのかなって?」

「あるだろうな、知りたいのか?」

「知りたい!ボス分かるのか?」

「俺がレケの前世を知っている訳がないだろ?」

「なんだ、ボスの能力で分かるのかと思ったぜ」

「まあ、あながち間違っちゃいないが、俺がレケの前世を知るんじゃなくて、レケが知る手助けはできるぞ」

「俺が前世を知る?」

「ああ、そうだ」

「本当か?」

「本当だ」

「どういうことだ?」

「俺は催眠療法を行えるんだ」

「催眠療法?」

「ああ、そうだ、催眠って分かるか?」

「分からねえ」

「催眠ってのはな、無意識の状態にすることなんだ」

「無意識?」

「朝起きてボーっとする時ないか?」

「ある、ほとんど毎朝そうだ」

「その状態だよ、その状態にして、無意識に前世の記憶を見る様に誘導するんだ」

「へえー、なんか凄いな。やってみてくれよ」

「ああ、いいぞ、でも今直ぐは駄目だぞ」

「なんでだよ」

「お前いまそれ何杯目だ?」
ワインの入ったグラスを指刺した。

「これ?・・・確か・・・六杯目だな」

「酒の入った状態では無理だ」

「ええー、いいだろ、やってくれよ」

「駄目だ、それじゃあ催眠じゃなく睡眠になっちゃうだろうが」

「そうか・・・しょうがないか」

「明日だな、今日はアルコールは控えめにしろよ」

「ちぇっ、分かりましたよ」



翌日、俺の忠告が効いたのかは分からないが、レケは寝坊しなかった。

俺は寝室で、レケを待っている。
午前中の畑作業を終え、昼食時にレケに声をかけた。
レケはマグロの様子を見てから行くと言っていた。

ドアがノックされる。

「どうぞ」
レケが入室してきた。
椅子に腰かけるように促す。

「じゃあ、さっそくだが、もう一度簡単な説明をしてから始めるぞ」

「分かったぜ」

「昨日話した様に、俺が催眠の状態へ誘導する」

「ああ」

「俺の誘導に従う様にしてくれればいい」

「うん」

「万が一、嫌だなと感じたり、不快感があるようなら言って欲しい」

「分かった」

「質問はあるか?」

「昨日の話だと、俺が前世の世界を見る、ということであってるかボス?」

「そうだ、イメージとして、見るという感じで捉えてくれて構わない」
レケにはテレビを見る様に、と言っても伝わらないからね。

「イメージとして見る・・・いまいちよく分からねえな」

「まあ、いいだろう、やってみれば分かる。他にはあるか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうか、じゃあそこのベットに横になってくれ。ちょっと準備するぞ」
レケはベットに横になり、もぞもぞとしている。
俺はカーテンを閉めて、部屋を暗くした。決して真っ暗にはしない。薄明りは入る程度。
椅子をベットの脇に据え、腰かける。

「じゃあ始めるか?」

「ああボス、よろしく頼むぜ」
ここで俺は声音を変える、いつもより低く響く声に、そして話すテンポをゆっくりにする。いわゆる催眠声というやつだ。

「それでは・・・まず・・・呼吸に意識を向けよう」
レケが二ヤリと口角を上げたが、直ぐに元に戻った。

「深い呼吸を繰り返そう・・・何度も・・・何度も・・・繰り返そう」
レケの状態を見る。大きく胸が上下している。
深く呼吸が出来ているようだ。

「吸う息は・・・鼻から・・・吐く息は・・・口から・・・何度も・・・何度も・・・繰り返そう」
もう一度レケを見る。お腹が上下するのを確認する。
よし、大丈夫。

息を吐くタイミングを見計らって。
「鼻から吸う息は・・・空気中の・・・綺麗な空気・・・体に良い・・・新鮮な空気を・・・取り込むイメージをしよう・・・色は・・・金色・・・」

今度は息を吸うタイミングを見計らって。
「口から吐く息は・・・体の中の・・・悪い物・・・ストレス・・・体のコリ・・・疲れ・・・要らない物を吐くイメージをしよう・・・色は・・・黒色」
と誘導する。

「これを・・・何度も・・・何度も・・・繰り返そう」
レケを確認する。
次第に、神気がレケに吸い込まれる様に、漂いだした。
そうだった、この世界ではこれがあったんだ。わかり易くて丁度いい。

「何度も・・・何度も・・・繰り返そう」

「すると・・・体が・・・どんどんと・・・金色に輝いてくるよ・・・何度も・・・何度も・・・繰り返そう・・・」
神気がレケを完全に覆いつくした。

「この呼吸を・・・繰り返すだけで・・・どんどんと・・・どんどんと・・・催眠の状態に・・・入って・・・いくよ・・・」

「深ーい・・・深ーい・・・催眠の状態に・・・ぐんぐんと・・・ぐんぐんと・・・入って・・・行くよ・・・」

「ただただ・・・呼吸を・・・繰り返す・・・だけで・・・深ーい・・・深ーい・・・催眠の状態に・・・入って・・・いくよ」

「深ーい・・・深ーい・・・催眠の状態に・・・入って・・・いくと・・・体から・・・力が・・・抜けていって・・・とても・・・リラックスした・・・状態に・・・なって・・・いくよ・・・どんどんと・・・どんどんと・・・催眠の状態に・・・入って・・・いくよ・・・もっと・・・もっと・・・力を抜いて・・・いいよ・・・」
レケの状態を確認する。
だいぶ表情が解れているが、まだまだだ。

「頭の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・顔の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・首の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・次は・・・肩の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・胸の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・腕の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・そして・・・腰の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・最後に・・・足の・・・力が・・・無くなって・・・いくよ・・・」
レケの状態を確認する。
いい具合に体の力が抜けているようだ。

「ぐんぐんと・・・ぐんぐんと・・・催眠の・・・状態に・・・入って・・・いくよ・・・もっともっと・・・深く・・・もっもと・・・深く・・・さらに・・・深く・・・さらに・・・深く・・・」

「ぐんぐんと・・・深く・・・ぐんぐんと・・・深く・・・これから・・・私が・・・十から・・・ゼロ・・・まで・・・数を・・・数えて・・・いくよ・・・すると・・・さらに・・・深ーい・・・深ーい・・・催眠の・・・状態に・・・入って・・・いくよ・・・催眠の状態に・・・入っても・・・ちゃんと意識を・・・保つことができるよ・・・」
レケが軽くコクリと頷く。
順調、ここで眠っていないことを確認した。

「十・・・さらに深ーく・・・九・・・もっと・・・もっと・・・深ーく・・・八・・・心地の良い・・・催眠の・・・世界に・・・七・・・けど・・・意識は・・・ちゃんと・・・あるよ・・・六・・・催眠の・・・世界でも・・・ちゃーんと・・・意識は・・・あるよ・・・五・・・より深ーく・・・もっともっと・・・深ーく・・・四・・・ぐんぐんと・・・ぐんぐんと・・・入って・・・いくよ・・・三・・・遠慮は・・・要らない・・・もっと・・・入って・・・いこう・・・二・・・もう・・・深い・・・催眠の・・・世界は・・・感じて・・・いるだろう・・・一・・・さらに・・・深い・・・催眠の・・・世界へ・・・次の・・・カウントで・・・最も・・・深い・・・催眠の・・・世界に・・・辿り・・・着くよ・・・ゼロ、はいスーと催眠の世界に・・・辿り着いた・・・」
レケを確認する。
よし、催眠の状態に入っている。

「今・・・どんな・・・状態か・・・教えて?」
一拍おいてから、囁く様にレケが答える。

「ふわふわした・・・感じ・・・宙に・・・浮いてる・・・みたい・・・心地いい・・・」

「そう・・・それは・・・よかったね・・・レケは・・・ここに・・・この・・・安全な・・・場所に・・・いつでも・・・帰って・・・くることが・・・できるよ・・・」
レケの左手を掴み、胸のところに置いた。
レケの声は、いつもと違う、ふわりとした、優しい響きのする声になっている。

「今の・・・様に・・・左手を・・・胸に・・・あてて・・・呼吸を・・・深く・・・繰り返す・・・だけで・・・この・・・安全で・・・心地いい・・・世界に・・・帰って・・・くることが・・・出来るよ」
レケがこくんと頷いた。

「この状態を・・・この余韻を・・・たくさん・・・味わおう・・・気が・・・済んだら・・・教えて・・・」
と言って。レケを見守る。
当然俺も催眠の状態に入っている。
心地よさを堪能する。

数分後

「もう・・・大丈夫・・・」
とレケが呟いた。

「じゃあ・・・ここから・・・前世の・・・世界に・・・入って・・・いくよ・・・」

「うん・・・」

「目の前に・・・階段が・・・あるところを・・・イメージ・・・してみて・・・十段の・・・下りの・・・階段を・・・イメージ・・・できた・・・かな?」
頷くレケ。

「じゃあ・・・これから・・・合図に・・・合わせて・・・ゆっくりと・・・階段を・・・下って・・・いこう・・・一番下の・・・階段の・・・先には・・・大きな・・・扉が・・・まって・・・いるよ・・・じゃあ・・・右足から・・・ゆっくりと・・・降って・・・いこう・・・扉の・・・前に・・・着いたら・・・教えて・・・」
レケの回答を待つ。

「着いたよ・・・」

「OK・・・その・・・扉は・・・どんな・・・扉かな?・・・もし・・・分からなかったら・・・触れて・・・みると・・・分かるよ」

「木の扉・・・」

「ドアノブは・・・あるかな?」

「ある・・・」

「どんな・・・ドアノブ?」

「金属の・・・捻るやつ・・・」

「そう・・・そのドアの・・・先には・・・川岸が・・・あるよ・・・合図と・・・共に・・・ドア
を・・・開けよう・・・そして・・・川岸に・・・移るんだ・・・」

「うん・・・」

「じゃあ・・・いこうか・・・」
レケの状態を確認する。
閉じた目の中で、眼球がぐるぐる動いている。
ちゃんとイメージが出来ているようだ。

「今は・・・どんな・・・状態かな?」

「川岸で・・・川を・・・見てる・・・」

「立っているのかな?・・・座っているのかな?・・・」

「立ってる・・・」

「立っていたければ、そのまま立っていてもいいよ・・・座りたければ・・・座っていいよ」

「座りたい・・・」

「じゃあ・・・座ってごらん・・・川以外に・・・何が・・・見えるかな?」

「橋が・・・見える・・・」

「他には・・・」

「特には・・・なにも・・・」

「川は・・・深いかな?・・・浅いかな?」

「浅いみたい・・・」

「川幅は・・・広いかな?・・・狭いかな・・・」

「広い・・・」

「橋は・・・どんな橋かな?」

「赤くて・・・木できている・・・少し・・・丸みがあるやつ・・・」

「そう・・・ここに・・・見覚えは・・・あるかな?・・・」

「ある気がする・・・でも・・・分からない・・・」

「そう・・・じゃあ・・・川を・・・眺めて・・・みよう・・・」

「うん・・・」

「レケは・・・ただただ・・・川を・・・眺めて・・・いよう・・・ただただ・・・川を・・・眺めて・・・いよう・・・すると・・・周りから・・・前世の・・・世界が・・・ゆっくりと・・・確実に・・・迫って・・・来るよ・・・でも・・・レケは・・・ただただ・・・川を・・・眺めて・・・いるよ・・・前世の・・・世界は・・・レケの・・・背中に・・・ゆっくりと・・・触れているよ・・・でも・・・レケは・・・ただただ・・・川を・・・眺めて・・・いるよ・・・前世の・・・世界は・・・じわりと・・・レケを・・・包み込んで・・・きたよ・・・イメージの・・・世界の・・・目を・・・瞑ろう・・・前世の・・・世界が・・・レケを・・・包み込んで・・・いるよ・・・合図を・・・したら・・・目を・・・開けよう・・・そこは・・・レケの・・・知るべき・・・前世の・・・世界だよ・・・レケが・・・感じるべき・・・前世の・・・世界だよ・・・じゃあ・・・いいかな?」

「うん」

「じゃあ・・・目を・・・開けよう」
と言うと共にレケの肩に優しく手を添えた。

レケの閉じた目の中で眼球がぐるぐる動いている。
前世の世界に入ったことが確認できた。

「何が見えるかな?」

「街が見える・・・知らない街・・・」

「足元をトントンとやってみよう・・・すると、自分のことが強く感じられるよ」
レケの足が動いている。

「今足元に、何が見えるかな?」

「地面がある・・・これは・・・下駄を履いている」

「どんな服装をしている?」

「これは、着物かな?」

「着物を着ているの?」

「うん」

「触ってごらん、より鮮明に感じることができるよ」

「ほんとだ、赤色の着物だ・・・何か模様が入ってるけど・・・分かんないや」
レケの声は、子供の様な声で、口調はレケのそれではない。

「誰か周りに人がいるかな?」

「人がいっぱい要るよ・・・着物の人も居る・・・知らない格好の人もいる」

「君は、何ちゃんかな?もし、分からなかったら胸に手を当てると分かるよ」
既に胸に置かれた手を、軽く動かすレケ。

「シズちゃん、そうシズエ、シズちゃん」

「シズちゃんだね。手はもう降ろしていいよ」
レケは胸に当てた腕を降ろした。

「シズちゃんは何歳かな?だいたいや、何となくでいいから教えて?」

「シズはねー、六才」

「そう、ここは何ていうところなんだい?」

「分かんないや」

「いいんだよ、シズちゃんはなんでここにいるの?」

「お父ちゃんと、お母ちゃんを待っているの」

「そう、そろそろ来るかな?」

「あ、来たよ」

「お父ちゃんかな、お母ちゃんかな?」

「どっちも来たよ、嬉しいな」

「そう、嬉しいんだ。じゃあ、まずはお母ちゃんの目を良く見てごらん、会ったことがある人なら分かるよ」

「うーん、会ったことはないかな・・・」

「そう、じゃあ今度は、お父ちゃんの目を見てみようか」

「うん、えっ!ゴンズの親方だよ、親方だ。分かる、親方だ!似てないよ、まったく似て無いよ。でも分かる、親方だよ」

「そう、それは良かったね」
レケは涙を浮かべていた。

「うん、よかった」

「少し余韻に浸ろうか?」

「うん、ちょこっとだけね」
レケは笑顔になっていた、その表情は女性のそれではなく、少女のようだった。

「もういいよ」

「わかった、この世界でどこか行きたいところとかあるなか?」

「うーん、分かんない」

「そう、じゃあ、この人生において重要な所に行こう、私が合図すると場面が変わるよ、いいかな?」

「うん、わかった」

左手をレケの肩に置くと同時に、
「はい、変わった」
と強めの声で伝える。

レケの閉じた目の中の眼球が、またぐるぐると動いている。

「ここは・・・」
言葉を失っているレケ、いやシズちゃん。

「何が見えるのかな?」

「ここは、酒蔵だよ、ハハハ」
そりゃあ笑えるわな。

「この酒蔵は、お父ちゃんが持っている酒蔵よ」
声が、少女から女性の声に変っている。

「今のシズちゃんはいくつかな?」

「そうね、十六歳ぐらいかしら?」

「そうなんだ、他に何が見えているのかな?」

「隣に男性が、います」

「そうそれは誰かな?」

「私の旦那様になる人」

「そう、目を除きこんでごらん」

「うーん、初めて見る人だわ」

「そう、他には何か気になることはあるかな?」

「他には無いわね」

「じゃあ、次に移ろうか?」

「はい」

「この人生において重要な所にいこう」

レケの肩に合図を送ると共に、
「はい、移った」
と誘導した。
レケの閉じた目の中の眼球が動いている。

「何が見える?」

「これは・・・天井・・・ああ・・・私は死ぬんだわ・・・」

「そうか・・・周りを見てごらん、何が見える?」

「旦那様と二人の子供・・・子供には見覚えがないわね・・・」
声がまた変わっている、声質が重ねた年齢を感じさせている。

「私は、旦那様と酒蔵を守ってきた・・・そして今は息子へと受け継がれているわ・・・満足のいく人生だったわ・・・子供にも恵まれて・・・楽しい人生だったわ・・・ありがとう・・・」
レケはまた静かに泣いていた。

「そろそろ、死を迎えそうかな?」

「ええ、そうですわ・・・」

「じゃあ、私の合図でその体から離れて、上え上えと向かっていこう、いくよ」

レケの肩に合図を送る。
「はい」

「ここでいいと感じることろで止まっていいよ、止まったら教えてね」

「はい、ここで大丈夫です」

「今はどんな状態かな?」

「今は肉体を離れて、魂のような存在となって、宙に浮かんでいますわ」

「今見て来た人生を、どう感じたかな?」

「私は幸せだったと感じています。恵まれた人生であったと・・・何も思い残すことはありませんわ」

「そう、じゃあシズちゃんの魂をレケはどうしてあげたい?」

「このまま抱きしめてあげたい」

「じゃあ、そうしてごらん、声に出さなくていいから、伝えたいことは伝えてあげな」

「うん」
レケは再び涙を流している。

「満足出来たら、教えてね」
コクリと頷く。

「もう、大丈夫です」

「OK、シズちゃんとお別れする前に、シズちゃんから能力を一つ貰うことができるよ、何をもらいたい?」

「うーん、あっ」

「言いたくないなら言わなくていいよ、貰ってみてごらん」

「うん」

「貰い終わったら教えて」
少し間が生れた。

「貰えた」

「じゃあ、シズちゃんとはここでお別れしよう、大丈夫、彼女はレケの一部だ、決して失うことはないよ、お別れ出来たら教えて」

「ああ、分かれは済んだよ・・・」
口調が現世のレケに戻っている。

「何かやり残したことはあるかな?」

「ないな」

「OK、じゃあ、あのフワフワしたところに戻るよ」

レケの肩に合図を送る。
「はい、移った」

「じゃあ、目覚めていこうか、いいかな?」

「大丈夫だ」

「じゃあ、目覚めていくよ、私が一から十まで数えると、すっきり、しゃっきりと目が覚めるよ」
ここで声色を変え、大きな声にボリュームも変える。

「1、2、3、足と手を動かしてみよう!」
レケが足と手をバタバタ動かした。

「4、5、6、腰を動かしてみよう!」
腰を捩じっている。

「7、8、9、大きく伸びをして!」
背伸びをしている。

「10!お帰り!」
と言って、肩に強く手を添える。

レケが目覚めた。

ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認ください」

これは、いるのかな?
まああってもいいか?
能力に『催眠』が加わっていた。

カーテンを開けて、レケを見る。
「レケ、ゆっくりでいいぞ」

「ああボス、まだボーっとするぞ」
再び伸びをしている。
レケが起き上がってきた。
椅子に座るように誘導する。

レケが腰かけると言った。
「強烈だったよ、前世の世界は」

「そうか、どうだった?」

「ああ、ゴンズの親方がお父ちゃんだったと感じた時は、嬉しかったな」

「そうか」

「それに俺にも前世があったんだな、他の聖獣達もあるのかな?」

「どうだろうな」

「新鮮な感覚だったよ、あっそうだボス『鑑定』してみてくれよ」

「ん?どうしてだ?」

「いいから、いいから」

「まあ、そう言うなら」

【鑑定】

名前:レケ
種族:白蛇Lv16
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3503
魔力:1999
能力:土魔法Lv15 風魔法Lv16 石化魔法Lv3 人語理解Lv6
   人化Lv5 人語発音Lv6 日本酒作成魔法LV1

「はあ?なんだこれ?日本酒作成魔法?」

「シズちゃんに貰ったんだよ」

「固有魔法だよな?」

「たぶんな」
シズちゃん、これじゃあ益々飲んだくれが激しくなるじゃないか、しかも日本酒って、さすが酒蔵の娘さんです。

「これで、新しく酒が作れるぞ、それもボスの手助け無しで、へへへ」

「ほどほどにしろよ」

はあ、なんなんだろうね異世界って。
参りましたよ。
降参です。
ゴンです。
主と別れてから、私とルイ君は学園の寮に向かいました。
ルイ君とまだ話がしたかったので、部屋へとお誘いしましたが。
「とんでもない、いくら学園長の僕でも女子寮に入ることはできないよ」
と断られてしまいました。

女子寮は男性が立ち入ることは、禁止されているようでした。
ただし、男子寮には女性の立ち入りは禁止されてないようです。

この違いは何なのでしょうか?
男女の間にはたいして違いはないのに、なぜでしょうか?
女性は男性よりも劣るとでもいうのでしょうか?
これがもしかしたら主が言う、差別というものなのでしょうか?

島ではお風呂場と脱衣所は分けていますが、それも最初は一緒でした。
主が『温泉街ゴロウ』に行ってから、気遣いできず申し訳なかったな、と言って分けたのですが、どの道サウナは男女一緒なので、お風呂場も水着を着用しています。
分ける必要はなかったのでは?

『温泉街ゴロウ』で水着を着けずに入浴した時は、ほんとうに恥ずかしかったです。
私の寮部屋を警備室で教えて貰い、寮部屋に入ると、既に同室の方がいらっしゃいました。

私は挨拶をしました。
「始めまして、私はゴンです。今後ともよろしくお願いいたします」
右手を差し出しお辞儀をすると、ちょっとビックリしたのか、彼女は少し後ろに態勢を崩しました。
そのまま足元にあるバックに足を引っかけ、彼女は後ろに倒れてしまいました。

「痛たたあ」

「大丈夫ですか?もしかしてビックリさせてしまいましたか?」

「ああ、ごめんなさい、気にしないでください」
と彼女は頭を掻いていました。
立ち上がらせようと、もう一度手を差し出すと。やっと掴んでくれました。
彼女を起こすのは大変でした。
なにせ彼女は大きいのです。

「ありがとう、ごめんなさい私ドジで、へへへ」
とはにかんでいます。
なんだか可愛らしく思いました。

「私は、リンです。よろしくお願いします」

「リンさんとお呼びすればよろしいですか?」

「できれば、リンかリンちゃんでお願いします」
消え入りそうなちいさな声で彼女は言いました。
どうやら照れているようです。

「分かりました、ではリンちゃんと呼ばせていただきます。私のことはゴンちゃんと呼んでください」

「ゴンちゃん・・・ですね・・・分かりました」

「それにしてもリンちゃんは大きいですね」

「ええ、私は巨人族ですので・・・」
巨人族?始めて会う種族です。
リンちゃんはランドよりも大きかったです。

「そうなのですね、私は九尾の狐です」

「えっ!」
とまたリンちゃんは後ずさりました。

「はい、珍しいのでしょうか?」
聖獣が珍しいのは私も分かってます。

「あっ!ごねんなさい。そういう訳では・・・」

「今は人化の魔法で人の形ですが、本来は獣型です」
ほんとうなの?という感じで、リンちゃん目が見開かれました。

「そうなのですね、人間かと思っていましたので・・・」
リンちゃんは自信なさげな感じがします。そういう子なのでしょうか?

「リンちゃんは、どうして『魔法学園』に入学なされたのですか?」

「私は・・・特にこれといった、特技も無く・・・魔法でも覚えられたらと思いまして」

「そうですか」

「あの・・・ゴンちゃんはどうして・・・」
大きなリンちゃんが小さく縮こまっています。

「私は、島の皆の役に立つ魔法を覚えたくて入学しました」

「そうですか・・・今後ともよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」
挨拶を済ませて、荷物をほどきました。

ほどなくすると時間となり、講堂に私達は集められました。
これから『レクリエーション』が行われるということらしいです。

リンちゃんと一緒に講堂へと向かいます。
講堂に着くと、すでに四十人近い生徒達がおり、ランダムに席に座っています。

どうやら席の指定はないようです。
リンちゃんと奥の方の席に並んで座りました。

すると着席すると同時に、眼鏡を掛けた人間の男性らしき教師が入室してきました。
一番前の席の前にある、黒板の前に来ると
「皆さん、まずは入学おめでとうございます」
と賛辞を贈ってくれました。

「続けて、今から『魔法学園』内のルールを説明させていただきます、そして最後に質問を受け付けます」
と言いました。

『魔法学園』のルールとしては、寮に関しては、前にお話しさせていただいたことに加えて、部外者の立ち入りも禁止とのこと、家族とかが会いにきた場合は、警備室からお呼びがかかるらしいです。

学園内では、支給された制服を着用すること。
学園の外でも着用は許されているが、周りの目を気にして行動すること。
講義に関しては、午前中はこの講堂で行われ。
午後からは各自で選択した、講師に師事することとなる、これをゼミと呼んでいる。
生徒間でのトラブルは禁止。
金銭の貸し借りなども禁止。
トラブルが発生してしまった際には、学園はその責任を取らない。
学費に関しては、明日までに学園に収めること、ただし免除されている者はこの限りではない。
食堂の利用に関しても、食堂にて支払を済ませた後に、食事の提供を受けること。これも免除者には適用されない。

寮費は月の初めに警備室にて支払を行うこと、これも免除者には適用されない。
この様な内容でした。
その他には、掃除や洗濯物などの取り扱いに関する説明があり、ランドリー室にて行うようにとのことでした。
「以上となりますが、質問はありますか?」
眼鏡の講師が締めとして言いました。

私は手を挙げました。
「どうぞ」
と手を向けられます。
私は生徒全員の視線を浴びました。

「お風呂はありますでしょうか?」

「お風呂ですか。残念ながらありません『浄化』の魔法を行える生徒に魔法をかけて貰ってください」

「『浄化』の魔法ですか?」

「はい、そうです。ご存じありませんか?」

「はい、知りません」

「そうですか『浄化』とは生活魔法の一つで、汚れ等を落とす魔法です」
なるほどと頷く。
浴びせられる視線から、なんでそんなことを知らないんだ、という視線を感じました。

「分かりました、ありがとうございます」
やっと皆の視線から解放されました。

「他にはありませんか?」

「無いようですので、これから学生証を配ってから、各自解散となります。よろしいでしょうか?」

「はい」
私だけ返事していました。
また、全員からの視線を浴びせられました。

何か間違ってますか?
返事をするのは当たり前では?

眼鏡の講師は構わずに続けた。
「えー、ではまず特待生のゴンさん、前に来てください」

「はい!」
と答え席を立った。
一部から
「おおー」
というどよめきが上がりました。

学生証を受け取り、講堂を出てリンちゃんを待ちました。
何人もの生徒が私の前をすれ違っていきました。
好奇の目、侮辱の目、忌避の目などいろいろな目で見られたのを覚えています。

やっとリンちゃんがやってきました。
「リンちゃん帰ろう」

「うん」
私の後ろを付いてくるリンちゃん。
もどかしくなって、私は隣に並びました。

「リンちゃん、さっき話に出た『浄化』の魔法使える?」

「うん、使えるよ」
リンちゃんは何故だが目を合わせてくれない。
でもこれは助かる、風呂無し、浄化無しでは不衛生です。

「お願いしてもいいかな?」

「うん、いいよ」

「やった!」
と拳を突き上げると、リンちゃんはまたも驚いて、倒れそうになっていた。
慌てて、腕を掴んで態勢を戻せた。
そんなに驚かなくてもいいのに。
リンちゃんは、ビビり屋さんなのかな?

さっそく寮の部屋に入ると『浄化』の魔法をリンちゃんにお願いしました。
リンちゃんは右手を私に翳し『浄化』と唱えた。
すると、体や衣服から汚れが落ちていくのを感じました。

「凄い!リンちゃん凄い!」
しまった、興奮して大声を出してしまった。
って、あれ?
リンちゃんは下を向て、照れていた。
そっちなんだ・・・
リンちゃんは不思議な人だなと思いました。

その日の夜、私は眠る気分にはなれず、ベットでゴロゴロしていると、リンちゃんに声を掛けられました。

「ゴンちゃん、起きてる?」
声を掛けられてちょっと嬉しかった。

「うん、起きてるよ」
リンちゃんが起き上がる気配がした。部屋は薄暗い。
私も起きることにしました。

「ゴンちゃん聞きたいことがあるだけどいいかな?・・・」

「うん、いいよ、何でも聞いて」

「ありがとう・・・ゴンちゃんは特待生なんだよね?」

「そうみたい」

「そうみたいって・・・凄い事なんだよ・・・」

「そうなんだ、私は『メッサーラ』の人間じゃないから、そういうことは良く分からないの」

「えっ、どこから来たの?」

「とある島からだよ」

「とある島?」

「ごめんね、島のことは訳あってあまり話せないの」

「そうなの・・・」

「でもね、そこには私の家族と仲間達がいてね、毎日賑やかに暮らしているんだ」

「へえー」
声に興味が含まれていた。

「私は九尾の狐で、聖獣なの」

「うん、知ってる」

「それで、島には私の主がいるんだけど、主は凄いんだよ。ものすごく強いし、料理も上手で、何よりも優しいんだよ、たまに抜けてる所もあるけど、いろんな物を簡単に作っちゃうし、とにかく凄いの!」

間を置いて返事がありました。
「羨ましいな・・・」

「えっ・・・」

「そんな凄いと思える人が近くにいるなんて、羨ましいよ・・・」

ここは・・・なんて声を掛けたらいいんだろう・・・分からない・・・

「私はね『メッサーラ』に住んでるの」

「うん」

「巨人族は『メッサーラ』では珍しくもない種族なの」

「へえ」

「巨人族はその力の強さから、建築関係の仕事に着くことがほとんどなのね」

「そうなんだ」

「私の両親も、兄弟の皆も建築関係の仕事をしてるわ・・・」

「そう」

「でも、私は巨人族にしては小さいほうで、力もみんなより弱いから、建築関係では戦力にならないのよ」

「そうなの?」
島ならマーク達と、仕事ができそうな感じがするんだけど。

「それで、家族の中では浮いてるというか・・・私だけ違うというか・・・」

「私だけ違うって普通のことなんじゃないの?」

「普通のこと?」

「ええ、皆違って当然で、多くの人がこうしているからって、それに自分が加わる必要は無い、皆違って当然だって、主が言ってたわよ」

「えっ!」

「私もそう思うな、疎外感は感じるかもしれないけど、自分にしかできないこともあるはずじゃない?」

「そうなのかな?」

「そうよ、島ではね、午前中は皆で畑仕事をするけど、昼からは、皆が皆それぞれのことを行っているの」

「そう」

「各自の役わりだって、主は言ってたわよ、それに好きな事、出来ることを探して、思いっきりやれって」

「そうなんだ」
リンちゃんの声の響きが変わってきました。

「だから、私は皆の為に何ができるか考えたの、でね、得意な魔法を開発して、皆の為になれればって」

「凄いね」

「凄くないよ、凄いのはそれを教えてくれた主で、私は主に出会えて幸運だっただけなの、だから少しでも恩返しがしたいのよ」

「やっぱりゴンちゃんは羨ましいよ」

「そう?」

「そうだよ、それに自信満々だし」

「そうかな?」

「だって、講師に一人で返事してたじゃない」

「あっ、そっか」

「ハハハ」

「面白いね」

「ほんと笑えるね」
打ち解けたような気がしました。

「そうだリンちゃん、友達になってよ」

「えっ!良いの」

「うん、お願い!」

「そんな・・・私なんか・・・だってゴンちゃんは聖獣でしょ?」

「聖獣が友達じゃ駄目かな?」

「駄目じゃないけど、恐れ多いというか、なんというか・・・」

「種族とか、立場とか関係ないんじゃないかな?」

「そういうなら・・・友達になりましょう。よろしくね」

「こちらこそ、やった!今日はついてるわ!」

「なんで?」

「友達が二人もできたの」

「二人?」

「リンちゃんにルイ君」

「ルイ君?」

「そう賢者のルイ君」

「えっ!」
ん?なにか間違ってるの?

「賢者ルイ様と友達って、ゴンちゃん・・・聞く限りゴンちゃんの主さんも大概だけど、ゴンちゃん、あなたも大概よ」

「へ?」

「ほんとに・・・面白い友達ができちゃったな」

「ハハハ、よく分からないけど」

「もういいよ・・・そろそろ寝ましょう・・・」

「そうだね・・・寝ましょう。お休みリンちゃん」

「お休みゴンちゃん」


何が大概なのか理解できないゴンであった、似たもの親子である。



翌日、朝食を終え、講堂にて座学を受けた最後に、ゼミの選択を行うことになりました。
わたしが選択したのは『生活魔法』リンちゃんは随分悩んでいましたが私と同じ『生活魔法』を選択していました。
ちなみに他には『攻撃魔法』『守備魔法』『召喚魔法』『古代魔法』などがありました。
『古代魔法』が気になりましたが、私の求める魔法は『生活魔法』です。
一番人気があったのは『攻撃魔法』で、リンちゃんが言うには『攻撃魔法』を覚えてハンターになる人が多いらしいです。
私は充分に『攻撃魔法』は取得しているし、威力もこれ以上は必要ないと感じるので、気にもなりなせんでした。

昼食後『生活魔法』のゼミ室へと向かいました。
ゼミ室に入ると、ネズミの獣人が居ました。
服装から講師であると分かります。
『コロンの街』のシスターのリズさんに似ているなと思いました。

「あら、新入生の方達ね、もう少しで皆集まるから、ちょっと待っててね」
と声を掛けてくれました。

リンちゃんと部屋の隅の方へ移動しました。
その後、六人の女性達が入室してきました。
私は全員女性であることに違和感を感じました。

「では、皆さん、ごきげんよう」

「「「ごきげんよう」」」
ごぎげんよう?ってなに?

「本日は新入生が二人加わります、皆さんご挨拶を」
と言うと、六人全員が自己紹介を始めました。

「では今度はお二人の番ね、あなたからどうぞ」
と指名されました。

「私はゴンです、今は人化しているので、分からないかもしれませんが、九尾の狐の聖獣です」
というと、六人の先輩と講師が固まっていました。
少しすると講師が前に出て来ました。

「今、なんと?」

「はい、私はゴンです、今は人化しているので、分からないかもしれませんが、九尾の狐の聖獣です」

「聖獣様?」

「様は止めてください。ゴンかゴンちゃんでお願いします」

「よろしいので?」

「はい、そうしてください」
この反応にも慣れてきました。
聖獣は少ないですからね。
珍しいのでしょう。

「わかりました、では、皆さんもその様に」

「「はい」」

「では、あなたもよろしいでしょうか?」

「はい、私はリンです。よろしくお願いします」

「リンさんね、よろしく」

「私はここ『生活魔法』のゼミ講師のメリアンです。よろしくどうぞ」
講師のメリアンさんね、いやメリアン先生ですね、覚えました。

「では、簡単に説明しますね。まずこのゼミでは『生活魔法』を習得することを基本として、皆さんには新たな『生活魔法』の開発に挑戦してもらいます。まずは確認をしましょう」
私のとリンちゃんに視線が向けられました。

「『浄化』と『照明』は使えますか?」

「私は『浄化』は使えますが『照明』は使えません」

「私はどちらも使えません」

「そうですか、ではあなた達はまず『浄化』と『照明』を習得することを目指してください。その後で、新たな『生活魔法』の開発を行いましょう」

「「はい」」

「では、キャロライナさん、お二人の面倒を見てやってくれますか?」

「かしこまりました」
と耳の尖った女性が前に出て来ました。おそらくエルフでしょう。

「よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」
こうして、キャロライナさん指導の下『浄化』と『照明』の習得を目指すことになりました。

キャロライナさんは、実に兵寧に教えてくれます。
「まずは、この汚れた雑巾から始めましょう」
汚れた雑巾を一枚手渡されました。キャロライナさんも汚れた雑巾を一枚持っています。

「この汚れた雑巾に右手を翳して『浄化』と唱えます」
すると、雑巾が綺麗になりました。

「と、こうして汚れた雑巾の汚れが落ちます」

「なるほど」

「では、まずはやってみましょう」

「はい」
私は左手に汚れた雑巾を掴み、右手を汚れた雑巾に添えた。

「『浄化』」
汚れは落ちません。

「うん、いいわね。次は汚れが落ちるとこをイメージしながらやってみて」

「はい」
先程と同様の動きに、汚れが落ちるイメージを加えました。

「『浄化』」
汚れは落ちなかった。

結局この日は習得できませんでした。
なかなか『浄化』は難しいです。
リンちゃんと食事に向かいました。
お腹が減った、晩御飯早く食べたいな。
学園の食堂の食事は不味くはないですが、上手くも無いです。島の食事が美味しすぎるのだと思います。
食事をしているとルイ君を見かけました。

「ルイ君」
手を振ってみた。
ルイ君が私に気づき駆け寄ってきました。

「ゴンちゃん、会いたかったよ」

「まあ、ルイ君、お上手ね」
ルイ君は照れていました。まあ可愛い。

「これから食事なの?」

「うんそうだよ、一緒していいかな?」

「リンちゃんどう?」

「えっと・・・どうぞ・・・」

「じゃあ晩御飯取ってくるから待っててね」

「早くね」

「分かった」
ルイ君が晩御飯を取りに行きました。

「ゴンちゃん、本当だったのね」

「リンちゃん、私が友達に嘘を付く訳ないでしょ?」

「そうだけど、こうやって目の当たりにすると・・・大概だわ・・・」
大概?何で?
ルイ君が食事を手にやってきました。

「ルイ君紹介するね、新しい友達のリンちゃんです」

「リンです、どうぞよろしくお願いいたします」

「やあ、僕はルイだよ、よろしくね」

「はい・・・」

「ルイ君、リンちゃんは私の友達ってことは、ルイ君の友達にもなるんだよね?」
考え込んでいるルイ君。

「うん、そうだね、リンちゃん改めてよろしくね」
とルイ君はリンちゃんに手を指し出していました。
ビックリして後ろに倒れそうになっているリンちゃんを片手で支えました。
んん!かなり重いよリンちゃん。

「そんな滅相もない」
手を振って、嫌々をしているリンちゃん。
その手を私は握って、ルイ君と握手させました。

「これで友達だね」
ルイ君が笑いながら言いました。
リンちゃんはその言葉を受けて、諦めた様な表情をしていました。

「分かりました、よろしくお願いいたします・・・」

「僕のことはルイ君と呼んで欲しい」

「・・・ルイ・・・君ですね・・・では私はリンちゃんで・・・」
リンちゃんは下を向いてぼそぼそと言っていました。
と思ったら、私の方を振り返り、何故なら睨んで来ました。

えっ!いけないことしてないでしょ?友達の友達になって貰っただけじゃない。
怖いよう、リンちゃん!

「あはは、リンちゃん、諦めたほうがいいよ、ゴンちゃんには立場とか、地位とか関係ないから。気持ちは分かるよ」
その言葉に深く同意するかの様に、リンちゃんは何度も頷いていました。

「ルイ君そうなんですね、ルイ君に一気に親近感が湧きましたよ」

「でもね、リンちゃん、ゴンちゃんの主はもっと強烈だよ」

「その様ですね、昨日の夜、ゴンちゃんの主の話を聞いて呆れてしまいました」
ここで、ルイ君が真面目な顔になった。

「でもねリンちゃん、その人に僕は救われたのも事実なんだよ。もし、会える機会が有ったら会ってみた方がいいよ」

「うん、主が近々来るから会ってみる?」
主が一週間後に様子を見に来るって言ってたんだよね、早く会いたいな。
リンちゃんがまた諦めた顔をしていました。

「はあ、なんだか、ゴンちゃんに会ってから、もう・・・」

「もう?」

「言いたいことはわかるよ・・・」

「ルイ君までなに?」

「・・・」

「・・・」
何か言ってよ、分かんないよ!
その後世間話を交えながら三人で楽しく食事をしました。

食事を済ませ女子寮に帰ると、ルイ君は女子寮の入り口まで送ってくれました。

寮の部屋に入り、ベットに横たわったら。
「ゴンちゃん、あなたと出会ってから驚きの連続よ・・・でも私・・・なんだか変われる様な気がする」

「そうなの?そんなに驚くことがあったかな?」
じとり目でリンちゃんに見つめられました。
だから、何が間違ってるのよ!分からないって!

「まあいいわ、ゴンちゃん『浄化』するよ」

「はい、お願いします・・・ところでリンちゃん、『浄化』のコツって何かあるの?」

「『浄化』のコツ?」

「うん、コツってある?」

「コツかあ、なんだろうな・・・キャロライナさんは汚れを落とすって言ってたけど、私の場合は汚れを落とすというより、汚れを分解して離れるイメージをしてるかな?」

「分解して離れる・・・なるほど・・・」

「はい、いいからやるよ、ゴンちゃんこっちに来て」

「よろしくです」
リンちゃんに『浄化魔法』をかけてもらった。

ああ、お風呂に入りたい、サウナにも入りたい。島に帰りたいよ・・・これが主が言っていたホームシックってやつなのかな?
せめてお湯で体を洗いたいな・・・



翌日
リンちゃんの言っていた、分解して汚れが離れることころをイメージしたことろ。

ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しましたステータスをご確認ください」
のアナウンスが流れました。

やった!

魔法の習得に明け暮れたこの一年間、やっと魔法の習得・・・
嬉しい・・・涙が止まらない・・・ああ、この魔法学園に来てよかった・・・
私は『浄化』を取得していました。



約束の一週間を迎えていました。
そろそろ主に会える。朝からそわそわしてしかたがないです。
リンちゃんと共に、午前中の講義を終え、今は昼飯を取りに、食堂へと向かっています。

「今日の昼御飯は何だろうね?」

「そうだねー、シチューとか?」

「いいね、シチュー」
等と話していると、三人連れの男性が急に横から飛びだしてきました。
ドン!
一人の男性とリンちゃんがぶつかっていた。
吹き飛ばされる男性。

リンちゃんは大丈夫そうです。
頑丈だね。

すると、飛ばされた男性が言いました。
「おい!何やってくれてんだよ、そこの女!謝れよ!」
三白眼で睨みつけてきます。
残りの二人もやってきて

「なにやってんだよ女!こんなところに突っ立てないで、掃除でもしてろよ!」

「そうだ!洗濯でもしてろよ、まずは謝れよ!」
勢いに負けてリンちゃんが謝ろうとしました。

「ごめ」
私はリンちゃんを制止しました。

「ちょっとあなた達、ぶつかってきたのはあなた達のほうでしょう?謝るのはそっちよ、それに何?さっきから女、女って、どういう意味なの?」
立ち上がった男性が言いました。

「そのままの意味さ、女なんて所詮炊事や洗濯、掃除しかできないだろ。それを言って何が悪い!」

「そうだそうだ!」
周りに人が集まってきました。
駄目だ、これは男女差別ってやつだ、気に入らないです。

「あなた達ね、女が何にもできないっていうの?世間知らずも大概じゃない、その女からあなた達は生れてきたんでしょうが!」

「「「うっ」」」
勢いに任せて言ってみました。

「けっ!行こうぜ」

「ああ、そうだな」
と言って三人は立ち去って行きました。

「リンちゃん大丈夫だった?」

「ええ、大丈夫よ」
集まって来た人達は、既に何事もなかったかの様に、元に戻っていった。

「差別主義者め!もっと言ってやりたかった」

「ゴンちゃん・・・怖いよ・・・」

「えっ!そう?間違ったことはちゃんと言ってやらないと気が済まないよ」

「だろうけど・・・まあいいか、これがゴンちゃんだもんね」

「どういうこと?」

「いいの、それより早く昼御飯にしましょ、私お腹ペコペコ」

「そうだね、早く行きましょ」
私達は食堂に向かいました。



約束の宿の食堂に行くと、既に主とメタンとギルが居た。

「主、お待たせしてすいません」

「ああ、大丈夫だ、今来たところだ」

「そう言って貰えると助かります」
三人とも元気そうな表情をしていた。

「ゴン姉、元気にしてた?」

「ええ、元気よ」

「一週間ぶりですな、ゴン様」

「メタン、なんだか久しぶりのような感じがする」

「それだけ、濃い学園生活が出来ているということでしょうな」

「主、紹介させてください、また友達ができました。リンちゃんです」
主が座る様に促しました。

「やあ、初めまして島野だ。よろしく」
と言って主は、右手をゆっくりと差し出しました。
リンちゃんは一瞬ビクッとしましたが、主の手を握り返していた。
あれ?私の時と違う・・・

「リンと言います、よろしくお願いします」

「僕はギル」

「私はメタンでございます」

「よろしくお願いいたします」
皆な挨拶を終えた。

「で、ゴン、足りない物とかあるか?」

「いえ、得にはないです」

「そうか」
と言うと、主が『収納』から何かを取り出しました。

「そろそろ、島の飯が恋しくなってきるんじゃないか?」

「えっ!嬉しい!」

「ツナマヨおにぎりを用意しておいたぞ、多めに入ってるからちょうどいい、リンちゃんも食べてみてくれ」

「いいのですか?」

「島のご飯は絶品ですからな」

「そうそう、他では味わえないんだよ」
ギルが偉そうにしている。

「ではあとで遠慮なく頂きます」

「ぜひ、そうしてくれ」
主のこういうところが好きなんだよなー。ツナマヨおにぎり食べたかったー!
やったー!

「それでゴン、学園生活はどうなんだ?」

「はい、リンちゃんのお陰で、一つ魔法を習得しました!」

「そうか、リンちゃんありがとう。これからもゴンをよろしく頼むよ」

「いえいえ、たまたまですから・・・」

「それと生活魔法を学べるゼミを選択しました」

「やはり、そうしましたかな」
メタンに進められてたからね。

「ゴン姉は何の魔法を覚えたの?」

「それはね『浄化』よ」

「『浄化』?」

「そう、汚れを落とす魔法よ。できるようになって分かったけど、主の『分離』みたいな感じかな」

「へえー」

「メッサーラにはお風呂が無いから必須なの」

「風呂が無い?それは地獄だね、ゴン姉」

「メッサーラには『浄化屋』という職業もあるんですな、ギル様」

「へえ、僕は絶対に風呂がいいな」

「贅沢なのよギルは」

「ハハハ、間違いないな。で、他はどうなんだ?」

「そうですね、あっ!主が言う差別主義者に絡まれました」

「ほう?それで」

「女は掃除でもしてろとか、洗濯でもしてろって、バカじゃないのって感じです」

「そうか、どこでも差別はあるものだからな」

「ねえ、パパ、なんでどこでも差別があるの?」

「そうだな、差別ってのは、自分とは違う者を恐れることや、自己肯定感を得たいが為に生まれる傾向にあると思うな。あとは単純に人よりも上にいたい、と思う気持ちとかから生まれてるんだろうな」

「人より上に?」

「ああ、見下されるのは嫌だろ、だから見下される前に差別という枠を作って、見下そうとする。または、自分が正しいと主張したいからだな」

「無くならない物なのでしょうか?」

「直ぐには無理だろうけど、差別の無い社会になって欲しいなとは思うよ」

「どうしたら無くなるのでしょうか?」

「まずは対話だな、相手の考えを聞いて、相手のことを理解する。どういった考えで差別に繋がっているのか、そこがまずは第一歩じゃないかな?」

「対話ですか・・・」

「ああ、それしかないとも思えるな。結局は個人の思考や価値観だからな」

「そうなのですね」
個人の思考や価値観か・・・
差別なんて無くなればいいのに。
リンちゃんと宿の食堂を後にしました。

寮に帰ると、ツナマヨおにぎりを食べました。
何故だか、少し泣けてしまった。

リンちゃんは猛烈な勢いでツナマヨおにぎりを食べていました。
気持ちは充分にわかります。
でも、もう少し落ち着いて食べてって。あーもう、喉に詰まらせてるじゃない。



翌日の昼食時、昨日の三人組を見つけたので、私は話をしてみようと思いました。

前の席に座ると
「なんだよ、またお前かよ。なんのつもりだ?」
と睨まれました。

「話がしたいのよ」

「話?俺には無いが」

「そう、まず昨日は言い過ぎたかもしれない、謝るわ」
と言うと、私は軽く一礼しました。

「おお、いきなりなんだよ。ビックリするな・・・」
と仰け反っていた。

「あのさ、聞きたいんだけど、あなた達は、どのゼミを専攻しているの?」

「全員攻撃魔法だよ、それが何だってんだよ?」

「そのゼミには女性は居ないの?」

「はあ、居るにはいるが少ないな、片手もいないぞ」

「そう、攻撃魔法を専攻しているってことは、将来はハンターを目指してるってこと?」

「ああ、そうだが、てか何だよ、さっきから何が言いたいんだよ?」

「いや、あなた達を知ろうとしているのよ、いけない?」

「いけないって・・・あとは何を知りたいんだよ」

「そうね、実は私はハンターなの」

「はあ!何言ってやがる、なんでハンターが『魔法学園』にいるんだよ?」

「何でって、魔法を学ぶ為にだけど?」

「魔法を学ぶ為って・・・で、あんたのハンターのチーム名は何ていうんだ?」

「ハンターチーム名はね、島野一家よ」

「「「島野一家!」」」
凄い驚いている、何で?

「嘘だろ?お前」

「冗談だろ?」

「島野一家って『タイロンの英雄』じゃないか?」

「ええそうよ、そう呼ばれてるみたいね。まあ私の主はそう呼ばれたくないみたいなんだけど」

「主ってお前何者なんだよ」

「何者って、九尾の狐だけど?」
黙ってしまった三人。

ん?どうかした?

「聖獣かよ・・・」
心ここにあらずな感じで呟いていた。

「あ、そうそう、魔法士はね前衛に出ては駄目よ、後衛でサポートするのが、一番チームの為になるのよ」

「おまえ、詳しいんだな」
本当はマークから教えて貰っただけだけどね。

「まあね、ちなみにどの魔法が使えるの?」

「俺は火魔法」

「俺は水」

「俺は土だな」

「そう、私は水魔法と土魔法が使えるわよ」

「えっ!二つも使えるのか?」

「凄いな、レベルは?」

「水魔法はLV20で土魔法はLV17よ」
あれ?固まってる?

「大丈夫?あなた達?」

「大丈夫じゃないよ、なんてレベルなんだよ、嘘じゃないのか?」

「『鑑定』してくれてもいいけど?」

「そこまではしなくてもいいだろ」
一人が制止した。

「そうだ、あなた達、時間がある時に稽古つけてあげましょうか?」

「本当か?」

「いいわよ、ハンターは命がけの仕事よ、今のうちから学んでおけば、有利だと思わない?」

「確かにそうだ」

「ああ、経験談なんかも聞きたいな」

「あとね、ハンターで気をつけないといけないのは、対人で訓練してもあまり腕は上がらないのよ」

「何でだ?」

「何でってよく、考えてみて相手は獣なのよ、獣相手に訓練しなくちゃ間合いの取り方から全部違うのよ」

「確かにそうだ、一理あるな」

「で、こういうこと」
私は人化を解いた。

「「うわあ!」」

「ね、これ相手にしないと訓練にならないでしょ?」
周りがざわついている。
三人も椅子からずり落ちていた。

「ちょっとゴンちゃん、ここじゃあ不味いって。騒ぎになっちゃうよ」

「えっ?そうなの?」

「いいから元に戻って」
リンちゃんがそういうので、人化しました。

「分かった?」

「ああ・・・分かった・・・よく理解した・・・姉御・・・そう呼んでも?なあお前ら?」
二人は全力で首を縦に振っています。

「姉御かあ?なんかレケみたい・・・ゴンちゃんにして」

「わかった・・・ゴンちゃんにしよう・・・うん・・・そうしよう」

「あと、何となく分かった気がするから言っておくけど、私の様に強い女性ハンターは結構いるのよ。あまり女性を舐めてかからないことね!」

「わ・・・分かりました・・・すいません」

「分かりました・・・」

「気をつけます・・・」

「分かってくれたならいいわ、今度ちゃんと稽古つけてあげるからね」

「「「はい、お願いします!」」」
三人はお辞儀をしていた。

「ゴンちゃん・・・やり過ぎ・・・はあ・・・もう」
やり過ぎた?そうかな?
でも主の言う通り、話せばわかるものなのね。
姉御も悪く無かったかも?
私達は昼食を終えてゼミに向かいました。

その後あの三人はとても懐いてくれました。
これは友達カウントしていいのかしら?
後日、主に聞いたら駄目だろうと言われました。

残念です。

いつもの午前中の畑の作業を終え、俺はどうしたものかと考えている。

考えているのは『魔力回復薬』について、例の島の温泉のお湯のことだ。
魔力の回復ができるということは、異例の話であり、画期的な物であると、島の皆に聞かされている。
魔力のない俺には、どうでもいい物なのだが、だからといって放置する訳にもいかない。

魔法といったらメッサーラだ。
幸いゴンによって、国家元首との直接的なやり取りが可能となっている為、この国から販路を広げようと考えている。
販路はこれまでアグネスは置いておいて、五郎さんの所に限定していたが、魔力については、五郎さんも俺と同じで無いため、五郎案件では無いと思っている。

ただ、メルル曰く
「これは世界の有り様を変えるかもしれません」
メタン曰く
「世紀の大発見ですな」
とのことだった。

メルルはともかく、メタンが大袈裟なのは分かっているが、これがあながち過言と言い捨れないことは理解している。
この世界では、魔力は大事な要素であり、無視できないことも確かだ。
特に『魔法国メッサーラ』では、魔法が国の根幹を担っているとメタンは言っていた。
はたしてどうしたものか・・・

まあ、そろそろゴンが留学して三ヶ月近く経っている為、顔を見がてらルイ君に相談してみようと考えている。
俺なりのプランも考えてみたから、今度話してみようと思う。



そういえば今さらだが、メッサーラには神様は居ないらしい。

メタン曰く
「これだけ魔法が浸透した国ならば、神の権能に頼らなくてもやっていけるのですな」
ということだった。

でも、たまにひょっこりと、神様が現れることはあるらしい。
だいたいは、数日見学してどこかに行ってしまうらしいのだが。
そんな気ままな神様がいるんだなと、俺は始めて知った。

さて、俺はギルとメタンを伴って、ゴンに会いに来ている。
魔法学園の女子寮の前にある警備室の前で、ゴンを待っている。

「主、お待たせしました!」
ゴンが駆け寄って来た。
リンちゃんも一緒のようだ。

「ゴン姉、遅いよ」
ギルがゴンに言った。

「ギルごめん、今取り込んでてね」

「そうなの?」

「そうなの、詳しくはまた教えるね」

「へえー」

「ゴン、元気にしてるか?」

「主、待たせてしまってすいません」

「いやそんなことはいい、リンちゃん久しぶりだな」

「お、お久しぶりです。あ、あの、前に頂いたおにぎりとかいうの、本当に美味しかったです。ご馳走様でした」
リンちゃんはペコペコしていた。

「なあに、欲しければまた作ってあげるよ」
と言うと、リンちゃんは羨望の眼差しで俺を見て来た。

そんなにだったのね・・・
これは・・・今回は別の物を用意してきたけど、作らないといけないのかな?

「でゴン、ルイ君に用事があるんだが、案内できるか?」

「ルイ君ですか?ええ、出来ますよ」

「じゃあ頼む」
ゴンとリンちゃんに誘導されて、ルイ君の元にやってきた。

途中、警備兵に止められそうになったが、ゴンの顔をみると、普通に通過するのを許してくれた。
顔パスってやつ?ありがたいです。
ルイ君の執務室であろう部屋の前に来た。
扉の両隣に警備兵が立っている。
国家元首ともなれば、警備は厳重のようだ。
ここも顔パスで通される。

ドアをノックするゴン。
ドンドン!
「ルイ君、私よ、開けていい?」
遠慮がまったくないゴン。

頼もしい娘です。
隣を見ると、慣れた様子のリンちゃんが居た。
その表情は平然としているが。
半ば諦めた様な表情に見えるのは、どうなんだろうか・・・

「いいよ、ゴンちゃんどうぞ」
と声が返ってくる。

扉を潜ると、
「えっ!島野さんご無沙汰してます」
と立ち上がって駆け寄って来るルイ君。

「やあルイ君、元気だったかい?」

「ええ、元気です。どうぞこちらへ」
とソファーに座るように誘導された。

「島野さん、本当に会いたかったです、何よりお礼が言いたくて・・・」
感極まっているルイ君。

「お礼なんて大袈裟だよルイ君、ハハハ」
とりあえず笑っておいた。

「いや、そんなことはありません。島野さんに叱られてから僕も考えを改めました」
へえー、確かにルイ君の雰囲気は変わったな。
まあ、今は詮索しないでおこう。

「まあ、それはいいとして、ルイ君ちょっと相談があるんだがいいかな?」
表情を改めるルイ君。

「僕に何を相談してくれるんですか?僕にできることなら何でもさせていただきますよ」
おい!国家元首が何を勝手に言っているんだ?
安易なコメントは差し控えてくださいな。

俺は『収納』から瓶に入った『魔力回復薬』を取り出した。
三本をテーブルに置く。
『魔力回復薬』の分量は百五十ミリリットル、比較的少量と思われる。

「これはな『魔力回復薬』だ」

「『魔力回復薬』ですか?始めて聞きます」
ゴンの反応はいまいち。
ルイ君とリンちゃんは固まっていた。
そうなるとは思っていましたよ。
もう慣れましたよ、この反応は。

「島野さん、本当でしょうか?これまでメッサーラが、長い歴史をかけて開発を行ってきましたが『魔力回復薬』は未だ完成しておりません。いや開発の目途すらも立っていない代物です」
ルイ君が目を細めている。

「そうなのか、だいだいメタンから聞いた通りだな」
メタンから今ルイ君が言ったことは前もって聞いていた。
メタンが誇らしそうに俺の横に座っている。

「じゃあルイ君『鑑定』してみろよ、出来るんだろ?」

「うっ!」
言葉に詰まるルイ君、下を向きだした。

「案の定だな、ルイ君、素直でよろしい、どうせゴンに始めて会った時にも、ゴンを『鑑定』したんだろ?」
こちらを向いたルイ君、図星だったんだろう、目に罪悪感が滲んでいる。

「すいません・・・もう二度としません・・・」
目に涙が浮かんでいるルイ君。

「何も怒ってはいないよ『鑑定』したのも分からなくはないからな、聖獣は独特な気配をしているから、勘が鋭い奴は興味を持って当然だ。それに安全面から、万が一を考えて『鑑定』するのはしょうがないことだろ?」
ルイ君の表情はさらに罪悪感が募ったものになっていた。
あれ?間違ったのか?

「申し訳ありません、違うのです。ゴンちゃんを始めて見た時に、僕は彼女の同意無く『鑑定』を行いました。今でも後悔しています。ゴンちゃん本当にごめんなさい」
とゴンに向かって頭を下げた。
ゴンは眉間に皺を寄せて、考え込んでいる様子。

するとゴンはルイ君の頭を撫でて
「もういいよ、過去のことでしょ?それに『鑑定』されなかったら、ルイ君とはお友達になれなかったかもしれないでしょ、許します!」
と胸を張って宣言した。

ゴンは成長したな。いいことだ。うんうん。
でも・・・こっちは・・・
まだ項垂れているルイ君。

「ルイ君・・・君はまさか・・・ただの興味本位で『鑑定』をしたのか?」
俺の方に向き直り、頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!」
あらら・・・お行儀の悪い事・・・まあ今となってどうでもいいかな?ゴンが許したんだし。

「もう二度と相手の許可なくするなよ、分かったな!」

「相手の許可なく『鑑定』を行ったのは、これが最初で最後です。もう二度としません、約束します!」

「分かった、君を信じよう」
ルイ君は顔を上げた。しっかりと泣いていた。
うえーん!うえーん!と号泣しだした。
ありゃりゃ・・・相当な罪悪感を感じていたんだろうな。
ひとしきりルイ君が泣き終えたところで、改めて聞いてみる。

「それでルイ君はゴンの何に興味を持ったんだ?」

「それは・・・」
言うとルイ君の顔が見る見る赤くなっていった。

「ゴ、ゴンちゃんが可愛いかったから・・・」
今度はゴンが真っ赤になっていた。
青春かよ!

「それで、もういいだろ?『鑑定』してみてくれ」

「はい、すいません、もう大丈夫です」
と立ち直ったルイ君。

「『鑑定』」
とルイ君が唱えた。

「あれ?島野さん『鑑定』しましたけど、温泉水としか出ませんよ?」
勝った!どうやら俺の『鑑定』の方が、ルイ君より優れているようだ、俺の時はちゃんと飲用可と出てたからな。むふん!

「そうか、これはな、温泉街の神様の五郎さんから教えて貰ったんだが、五郎さんには『水質鑑定』という能力がある。それで見ると魔力回復効果有りと出たようなんだ。そうだよな?ギル」

「うん、そうだよ、僕は実際にそれを飲んでみたから分かるけど、魔力が回復したよ」

「ということで、一度飲んでみてくれ」

「いいんですか?そんな貴重な物を・・・」

「いいも何もその為にここに来てるんじゃないか、ルイ君も、ゴンもリンちゃんも飲んでみてくれ」

「私もいいのですか?」
リンちゃんが、私で本当にいいんですか?という具合に言った。
この子は謙遜が過ぎるな。

「ああ、申し訳ないが、検証も兼ねてみたいから、飲んで欲しいんだ」

「検証ですか?」

「そうだ、島の仲間で大体のことは検証済みだが、島には巨人族が居なくてね、種族によって回復効果に違いが無いかを知りたいんだ。ちなみに今のところ違いは出ていない」

「そうなのですね、お役に立てるのなら、飲ませて貰います」
意を決したリンちゃんが俺を見つめている。

「頼むよ、あと悪いが三人とも俺が『鑑定』をしていいか?個人情報は必ず守る、魔力以外は観ないようにするからさ」

「はい、喜んで」

「お願いします」

「もちろんです」

「悪いな、じゃあルイ君から」

「はい、飲ませて貰います」
『鑑定』して魔力を測定する。

「飲んでみてくれ」
ルイ君はグイっと飲んだ。
うんこれまでと変わらないな。

「じゃあ次はリンちゃんいいかな?」

「はい」
同じ様に測定を行う。
ほとんど変わらないな。

「次はゴン」

「はい」
測定を行う。
同じだな。

「三人とも体感としてはどうだ?」

「凄い、魔力が戻っています」

「ええ、間違いなく回復してます、凄いです!」

「主、味はいまいちです」
そんなことは聞いてませんよ、ゴンちゃん。

「な、ルイ君、分かっただろ?」

「はい、これはメッサーラを救うかもしれません」

「メッサーラを救う?」

「ええ、実は最近僕も知ったのですが、メッサーラには、慢性的な魔力不足を訴える者が多くいるのです」

「そうなのか?」

「ええ、特に農家が顕著なんです」

「農家か・・・水魔法と土魔法の魔法士だな」

「その通りです、特に水魔法の魔法士は、雨の日以外は毎日ですし、広大な畑の水やりとなると・・・」

「水道管は設置してないのか?」

「したくても、技術がありませんので」

「確かに技術がなければ難しいな、まあ提供できなくはないが、国中となると数年でどうにかなる物ではないからな」

「ですが、これがあれば、救えるかもしれない」

「それはそうだな、だがいろいろ検討しなくてはいけないことが多々ある」

「そうですな、価格であったり販売方法等ですな」

「メタン、その通りだ」

「そうですね、手に入らない値段では救えませんからね」

「ああそうだ、それを今後見定めていきたい。後『魔力回復薬』の効果だが、今飲んで貰った百五十ミリリットルの物で、多少の個人差は置いておいて、大体その者の最大魔力量の3割ほど回復できるようだ」
これが多いのか、少ないのか、回復出来るだけ益しとも思えるが。

「三割もですか?」
どうやら「しか」ではなく「も」の方だったようだ

「そうだ、ただ最大値を超えることは流石にないようだ」

「そうでしょうね、それが起こったら大変なことになります」

「そこでこの『魔法回復薬』だが、これは俺達の島の資源だ。いくら魔力不足だからと言われても、タダで譲るという考えはない」

「もちろんです」
ルイ君の表情は硬い。

「だからと言って、あまり稼ごうとも考えていない、定価に対して二割も貰えればいいと思っている」

「それだけでいいのですか?」

「ああ、但し条件がある」

「条件ですか?」

「そうだ、まず『魔力回復薬』の卸し先だが『魔法学園』にしたい」

「メッサーラでは無く、何故『魔法学園』なのでしょうか?」

「その理由として、まずはこの『魔法回復薬』は『魔法学園』が開発したことにして欲しい」
ルイ君が驚いている。

「それはいったい?」

「ああ、簡単にいえば、島に注目を集めたくはないからだ」

「注目を集めたくない・・・理由を聞かない方がよさそうですね?」

「悪いな、あとはその方が大衆も受け入れやすいと思ってさ」

「確かにそうかもしれません」

「それに学園長としても、これでもっと生徒数が増えるんじゃないか?」
したり顔で見つめてやった。

「お気遣い、ありがとうございます・・・」

「あと学園で得た利益の使い道だが、利益の何割かは、教会と孤児院に寄付して欲しいと考えている」
ルイ君の表情が変わった。

「それは素晴らしいです、特にメッサーラでは孤児の数が多いのです」
孤児の数が多い?何でだ?

「それは何でなんだ?」

「メッサーラでは、魔獣の森と呼ばれる地域があります。その名の通り魔獣が良く出る森です。幸いジャイアントラットや、ジャイアントピッグのような比較的弱い獣が多いのですが、魔獣化してますのであなどれません、場合によっては高ランクのハンターでも深手を負うこともあります。それによる死傷者が多く、孤児が多いのです」

「なるほど、だからメッサーラには、魔石が潤沢にあって魔道具の開発が出来ているということだな」
良かれ悪かれといったところか・・・

「はい、そういった側面もあり、国としては何も対策も出来ずにいる状況なのです」
憂鬱な表情を浮かべているルイ君。

「話は変わるが、俺は『魔力回復薬』の利益で、学校を作って欲しいと考えている」

「学校をですか?」
いまいち理解を得ていない様子のルイ君。

「但し、魔法を教えるのではなく、計算と読み書きと、一般常識を教える学校を作って、その運営資金にして欲しいと思っている」
一瞬間が出来た。

「それはどうしてでしょうか?」

「これは俺個人の感覚と想いになってしまうかもしれないが、この世界には読み書き計算が出来る者が、少ないと感じている。読み書き計算は生活する上で、最低限得ておかなければならない能力だと俺は思っている。考えてみて欲しい、計算が出来なくて屋台で食事を買って、お釣りをちょろまかされているなんてことがあるだろうし、大事な書類の意味も分からずにサインをさせられて、高額の金利を払わされている者もいるかもしれない、だから最低限の教育は必ず必要なんじゃないか?」
ルイ君は下を向いていた。

「それは・・・よく聞く話です。ちょろまかされた、騙されたとか、島野さんの言う通りです」
そうなんだろうな・・・現実は甘く無い。

「だろ?それは良くないと思わないか?」

「確かにそうです」

「だからさ、これが俺の条件だ、一度良く考えてみて欲しい」

「わかりました、検討させてください」

「ああ、そうしてくれ」

「島野さん、一つ我儘を言っていいでしょうか?」

「何だ?」

「一度島野さんの島を見学させて貰えないでしょうか?」

「ああ、ルイ君細かいことをいう様で申し訳ないが、島野の島ではなく島野達の島といって欲しい」

「すいません、というより、島に名前は無いんですか?」
あっ!そういえば無いな・・・今さら過ぎるが・・・島の皆と相談だな・・・島の名前ってそもそもいるのか?

「確かに、無いな・・・」

「無いんですか?」

「ああ、無いな」
無いもんは無いんだよ!これまで特に困ったことなんてないんだよ!

「まあ、それは良いとして、どうでしょうか?」
うーん、ルイ君を信用できなくはないが、こいつはこれでも国家元首だしな。
どうしたものか・・・

「主、ちょうどいい魔法を、私先日覚えました」
ゴンがここぞとばかりに言った。

「ん?なんの魔法だ?」

「契約魔法です」

「契約魔法?」

「はい、そうです。島の秘密を話せない様に、契約で縛ることができます」

「ほう、それはいいかもしれないな、で、仮に契約を破ったらどうなるんだ?」

「はい、いろいろな条件が付けられますが、私との友人関係の抹消なんてどうでしょうか?」
ルイ君が目玉が飛び出るほど驚いているのだが・・・
リンちゃんは頭を抱えているよ・・・
ゴンちゃん本当にそれでいいのかい?

「ああ、いいんじゃないか?どう思うルイ君?」

「ええ、契約に背くつもりはありませんので・・・」

「本当にいいのか?なかなかの契約だと思うが」

「はい、いいです・・・」
ルイ君は諦めているようだ。

「来るのはルイ君のみにして貰うぞ、警備の者とか付き人とかは無しだぞ」
考え込むルイ君。

「はい、なんとかします」
なんとかなるんだ。やるね、賢者君。

「じゃあ、島に来て貰おうか、リンちゃんも来るかい?」

「はい、是非お願いします!」
おっ!リンちゃんは直ぐに持ち直したな。
なんだかこの子も、随分腹が座った子になった様な気がするが、もしかしてゴンの影響か?
ああ、ルイ君がまた泣きそうになっているが、これは放っておこう。うん、見なかったことにしよう。

「で、いつ来るんだ?」

「ちょうど半期が終わり、三日間の休暇が与えられることになってますから、来週にでも行けます」
ゴンが嬉しそうに言った。
島の皆に会いたいのだろう。
ゴンのワクワク感が手に取れるようだ。

「ルイ君は大丈夫なのか?」
まだ、ダメージがありそうに見えるが、なんとか持ち直しているようだ。

「はい、何とかします」

「そうか、分かった準備しておくよ、後そうだった」
『収納』からお土産を取り出した。

「ゴンとリンちゃんにお土産だ」
今回はゴンの好きなイチゴとサンドイッチにした。
リンちゃんの興味が半端ない、凄い眼力でサンドイッチを見つめている。

「で、ルイ君はこちら」
『収納』からお地蔵さんを取り出した。

「おお、これがゴンちゃんが言ってた、お地蔵さんなのか?」

「そうよ、凄いでしょ?」

「凄い、再現度が高いと感じるよ」
どうやら話は聞いていたようだ。

「ルイ君、ひとまずお地蔵さんを十体預けるから、配置する場所の選定や、管理を頼む」

「ありがとうございます、メッサーラは信仰心の高い人が多いので、喜ばれます」

「私にかなう者はおりませんがな」
ドヤ顔のメタン。
そうでしょうね。あんたにゃ誰も適わんよ。

「教会の石像は、改修してもいいのか?」

「はい、是非お願いします」
後日ルイ君立ち合いのもと、五ヶ所の教会の石像の改修を行った。
涙に暮れるシスターが何人もいた。
神気をたくさんお願いします。

こうして、ルイ君とリンちゃんが島に来ることになった。
ゴンの一時帰省である。



俺は、女子寮の前でゴンとリンちゃんを待ってる。

「お待たせしました、主」

「島野さん、お待たせしました」

「ああ、じゃあルイ君のところに行こうか?」

「はい、行きましょう」
とルイ君のところに向かった。

「ルイ君、準備はいいか?」

「はい、お願いします」

「じゃあ行くぞ」

ヒュン!



島に帰ってきた。

「おお!これが『転移』なのか!」
ルイ君が興奮している。

「嘘でしょ、こんな一瞬で・・・」
驚きを隠せないリンちゃん。

「島にようこそ!」
ゴンが喜々として言った。
島の皆にはゴンが友人を伴って一時帰省するとだけ、伝えている。
さっそく、皆から歓迎を受けているゴン一行。

「ゴン、お帰り!」

「久しぶりだな。ゴン」

「少し垢抜けたか?」
等と、和気あいあいのご様子。
挨拶は晩飯の時にと、まずは温泉を見に行くことにした。

『転移』にて温泉に移動した。

「これが温泉ですか・・・少し独特な臭いがしますね」

「ルイ君は、温泉は始めてか?」

「はい、始めてです」

「リンちゃんはどうだ?」

「はい、私も始めてです」

「そうか、じゃあ入ってみるか?」

「「是非」」
脱衣所へと向かった。
脱衣所で水着に着替えて、まずは洗い場で体を洗う。
ルイ君は石鹸を知らなかったようで、使い方を教えてやった。

「なんだか、汚れがしっかり落ちたような気がします」
と高評価である。

「じゃあ、温泉に浸かろうか」

「はい、お願いします」
掛け湯をして、温泉にドボン!

「ふうー、今日も良い湯だなー」

「気持ちいいです島野さん、温泉に浸かってるだけでも、魔力が回復していくことを感じますよ」

「そうらしいな、島の皆もそう言っていたな」
するとゴンがリンちゃんを引き連れて温泉にやってきた。
掛け湯をしてから、温泉に浸かる二人。

「はあー、最高!」

「うん、気持ちいいね」

「主、いつの間にこんな温泉が出来たんですか?」

「ああ、五郎さんが来た時にちょっとな、五郎さんには『泉源探索』という能力があって、この温泉を掘り当てることができたんだよ」

「五郎さん凄いですね」

「ああ、まったくだ。なにかと頼りになる人だよ」

「メッサーラにも温泉があるのでしょうか?」

「どうだろうな、俺には分からんな」

「あると良いね、ルイ君?」

「そうだね、ゴンちゃん」

「そうだ、契約魔法以外は習得できたのは無いのか?」

「あとは、照明魔法が使えるようになりました」

「そうか、良かったな」

「はい、これで帰ってきてからも皆の役に立つことができます」

「期待しているぞ」

「はい、ありがとうございます」

「そうだ、リンちゃんは卒業後は、なにか進路は決まってるのか?」

「いえ、得には決まってないです」
リンちゃんは下を向いてしまった。

「じゃあ、リンちゃんがよければ、この島で働かないか?」

「えっ!いいのですか?」
喜んでいるようだ。目がキラキラしている。

「ああ、島野商事の社員として働いて欲しい、正直に言ってこれには打算もあるんだ」

「打算ですか?」

「そうだ、メッサーラと『魔力回復薬』の取引が始まったら、メッサーラを知る者にやって欲しいと考えていてね。メタンもいるが、あいつはそういったことには向かないし、管理部門で手がいっぱいなんだ。それで、ちょうど良いところに君が現れてくれたって訳さ、ゴンの友人だし、人物的にも問題ないってね」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」
と涙を浮かべるリンちゃん。

「よし!従業員ゲット!」

「リンちゃんやったね、卒業後も一緒に居られるね」

「うん、ありがとう」

「島野さん、国家元首の前で国民を引き抜かないで貰えますか・・・」

「ああ、すまない」

「僕もここで暮らしたいよ・・・」

「君には無理だな」

「そうですね・・・」

「まあ、でも正式に取引が始まったら、ここに来ることも、あるかもしれないじゃないか?そう落ち込むなよ」

「だといいんですけど・・・リンちゃんが羨ましいです」

「もお、ルイ君そんなこと言わないの!」
ゴンに叱られてますよ・・・国家元首が。
やれやれだな。

「すいません」

「じゃあ、そろそろ上がろうか。湯あたりしそうだ」

「そうですね」



三人を迎えて晩御飯となった。というより宴会が始まった。
まず最初にゴンからの一言で始まった。
「皆、お久しぶりです。元気でしたか?」

「ああ、元気だぞ」

「元気よ」
等と声が飛び交う。

「数日だけど、帰ってきました。皆の顔を見れて・・・私・・・嬉しくて・・・」
ゴンが泣きだした。
ん?この流れは・・・

「ああ、僕も嬉しいぞ」
ノンが割り込んできた。
珍しいな、ノンゴンに声を掛けるなんて。

「そうね、泣いてちゃいけないね。いろいろ報告もあるけどまずは乾杯しましょう」
おお!持ち直した。

「それでは乾杯」

「「「乾杯!」」」
自然と拍手が発生した。
こういうのっていいね。

「じゃあ皆いいか、紹介させてくれ。まずはルイ君」
ルイ君が立ち上がる。

「彼は賢者のルイ君だ、よろしく頼む。ちなみにゴンの友達だ」
一瞬静まり返ると、大爆笑が起こった。

「アハハハ、ゴンの友達が賢者だって!」

「嘘だろ!」

「ゴン!あっぱれ」

「聞いちゃあいたが、本当だったのかよ!」
ルイ君とリンちゃんは、ついて来れていない様子。

「ちょっと、皆どういうことよ?」
ゴンもついていけてないようだ。

「ゴン、おまえだいぶ旦那に感化されてんな、アハハハ!」

「あ、あのー、自己紹介してもよろしいでしょうか?」

「ああ、すまない、そうしてくれ」
場の空気がじんわりと戻っていった。

「始めまして、賢者ルイです。この度はお招きいただきありがとうございます」
不意にレケが立ち上がる。

「堅苦しいのは、いらないんだよ、それ乾杯!」
ルイ君の肩に手を回している。

「おお、そうだそうだ」
マークまで立ち上がってルイ君と乾杯しだした。

「ということだ、ルイ君諦めてくれ」

「ええ、そんなー」
皆からの乾杯が始まった。
そのまま自然と宴会が始まった。

ゴンは早々にリンちゃんを紹介したそうであったが、雪崩式に宴会が始まってしまい、食い気に走ったリンちゃんを止めることが出来ず、タイミングを見失っていた。
一息つき、タイミングの良いところでゴンがリンちゃんを皆に紹介した。

「リンです、私は魔法学園を卒業後、この島にお世話になることが決まりました、精一杯働きます。よろしくお願いします!」

「おっ!新たな仲間だな、リンちゃんに乾杯!」
レケがまた調子よく乾杯しだした。

「こっちも乾杯!」

「こっちも、こっちも」
乾杯周りをされられているリンちゃん。
なんとも賑やかでごめんなさい。

「島野さん、いつもこんな感じなんですか?」

「まあだいたいそうかな、賑やかだろう?」

「ええ、それもそうなんですが、皆さん僕が賢者であることを気にしないんですね」

「そうだな、皆に言わせると慣れて来たということらしいぞ」

「ああ、もういい加減、島野さんの出鱈目ぶりには慣れてきましたよ。普通は国家元首を警備兵も付けること無く、島に来させるなんて、ありえないでしょ?」
マークが割り込んできた。

「あと、この島では皆平等にすることが、島野さんの教えなんだ。賢者だろうが特別扱いはしない、失礼があるようなら詫びておくよ」

「いや、大丈夫です、僕もこうして、接して貰えるほうが助かります」

「お、賢者さんは話が分かる人のようだな」

「ゴンちゃんで慣れましたから」

「ゴンも随分成長したようですね」

「そのようだな」

「それにしても、ここの食事は最高に美味しいですね」

「おっ!お褒めに預かり恐悦至極に存じます、なんてな」

「勘弁してくださいよ」

「「ハハハ!」」

「ゴンも成長したが、ルイ君も随分と成長したようだな」

「ありがとうございます、ゴンちゃんに出会ってからというもの、周りの人達から変わったと言われることが増えました」

「それはいいことだな、楽しいだろう?笑顔が増えてさ」

「ええ、本当に」
隣でランドがリンちゃんにバスケットボールについて熱く語っている。
ランドの奴、リンちゃんの身長に目がいったな。
俺もリンちゃんに話し掛けにいこうかな。

「リンちゃん、食事はどうだった?」

「最高です!毎日これが食べられるようになるんですね、夢のようです!」
夢のようですは大袈裟だろう、まあ褒められて嬉しいけどね。

「明日は、ランドとバスケットボールをやるのか?」

「ええ、誘われてます」

「島野さん、彼女は逸材だと思いませんか?」

「お前、それ身長だけで言ってないか?」

「分かってますって、今では俺もスリーポイントの成功率は五割を超えましたからね」

「ほう、それはそれは・・・まだまだだな」

「うう、精進します」

「まあでも、リンちゃんの身長なら、ダンクを決めれると思うぞ」

「ダンクですか?」

「ああ、ランドに教えて貰ってくれ」

「はい、そうします」

「あと、リンちゃんアイリスさんとは話したか?」

「まだです」

「そうかちょっとついて来てくれ」
途中でルイ君にも声を掛けた。

「アイリスさん、いいですか?」

「守さん、どうしましたか?」
まずは二人に挨拶をさせた。

「俺達がこの島をあまり知られたくない理由を話そう」
緊張している二人。

「アイリスさんは、世界樹の分身体なんだ」

「「世界樹の分身体?!」」
おお、息ぴったりだな。

「ああそうだ、この島には世界樹がある、世界樹は知ってるか?」

「ええ、伝説の存在です」

「まあ、伝説だなんて嬉しいわ」
嬉しいわって・・・この人も分かってらっしゃらないようですね。

「世界樹は俺の保護下にある、それには理由があってな」
世界樹に起きた出来事を、俺は二人に伝えた。

「そんなことが・・・」

「アイリスさん、辛かったですね」

「ええ、でも今はこうして楽しくできてます、守さんのお陰ですわ」
二人は理解してくれたようだった。

そんなこんながあり、宴会も終盤に突入していた。
俺は周りを見渡してみた。
レケがゴンに絡みまくっていた。
皆、和気あいあいと話に花を咲かせている。
うん、良きにはからってくれい。



翌日、朝食後に、畑作業にルイ君とリンちゃんが参加したいとのことだったので、遠慮なく参加して貰った。

ルイ君にとって、大地に触れることはいい経験になるだろう。
汚れてはよく無いと、作業着を貸してあげた。
こうして見るとルイ君も、ただの気の良い兄ちゃんにしか見えないな。
リンちゃんは作業着のサイズが無かったので、ささっと作ってあげた。

畑作業を終え、昼食の時間。

本日の昼食のメニューは、カレーライスだ。
何とリンちゃんは五杯も食べていた。
これはいよいよギルの記録を抜くかもしれない。
負けじとギルが六杯食べたことは、記録しておこう。

「畑作業はどうだった、ルイ君」

「大変勉強になりました」

「そうなのか?」

「ええ、この島には水道があるので、水やりには困らないかもしれませんが、魔法で水を撒くことを考えると、慢性的に魔力切れになることは、よくわかりました」

「実際に触れて見ると、分かることがあるってことだよな」

「はい、こうやって、僕たちの生活は成り立っているんだと、感慨深いものがあります、一次産業の人達への見る目が変わりますね」

「そうだな、一次産業が国を支えていることに気づくことは重要なことだ、権力者は絶対ここを間違えてはいけない」

「ええ、実感しました」
昼からは、島のアテンドだが、ゴンに任せることにした。

俺はマーク達と打ち合わせ。
既に温泉と繋がる街道も設置が完了した為、次の建設は何を行うかを検討中である。
するとマークから提案された。

「次は、護岸整備はどうでしょう?」

「護岸の整備か、それもいいな」
今のところ船は、ギルに海岸に打ち上げさせてる。これを続けると船の底が痛むかもしれないしな。

「ランドはどうだ?」

「俺は可能なら一度大工の街に帰ってみたいと思います」

「ほう、その心は?」

「俺とマークは、多少の大工の技術を持っていますが、やはりプロとは呼べんと思うのです。一度大工の街に帰って、改めて家の造りであったり、作業の内容を見てみたいと思うのですが、どうでしょう?」

「素晴らしい意見だな、ちなみに大工の街には神様はいるのか?」

「はい居ます。大工の神『ランドール』様です、俺もマークも面識があります」

「そうか、そのランドール様に俺も挨拶がしたいな。よし行ってみよう。ただ、マークが言う護岸工事を終えてから行こう」

「分かりました。ちなみに大工の街には、五郎さんが掘り当てた温泉がありますよ」

「なに?」

「何でも、五郎さんがふらっと立ち寄って、ここ掘れば温泉が出るからと言って、造ってしまったらしいんですよ」

「なんだそれ」

「ただ温泉があるだけで、旅館とかはないですけどね」

「あの人なにやってんだか・・・」

「でも随分と前のことですよ、俺が物思い着いたころには温泉はありましたからね」

「そうなんだ・・・まあいい、とりあえずは護岸工事に着手しよう、何かあったら言ってくれ、お前達に任せる」

「「了解!」」
五郎さん・・・なにやってんの?さすらいの温泉探索者ってところかな?
一通りの見学を終え、ゴン達が帰ってきた。

「島野さん、ここは楽園です。確信しました」
ルイ君は興奮気味の様子。

「私がここで働けるなんて、夢のようです」
だからリンちゃん言い過ぎですって。

「まだまだこの島の魅力はある、次に行くんだろ?ゴン」

「はい、主、いよいよです」

「そうか、いよいよか、俺も行こう」

俺達はまず風呂へと向かった。
シャワーに驚くルイ君、ここで驚いてもらっては困るな。
露天風呂の展望に感動し、テンションが上がっている様子。

そこから塩サウナに突入する。
リンちゃんの興奮が凄い、何でも巨人族は肌がガサつく人種だそうだ。
それをこんなにツルツルにできるのは、巨人族としてはあり得ない現象とのこと。
興奮が冷めやらないようだったので、水風呂を勧めた。

そこからサウナをサンセット行う。
完全に整いまくっている一同。
もう何も言うまい。
余韻を楽しんでいる。

「これは、なんて解放感なんでしょう・・・生まれて来てよかったと、始めて思いましたよ」

「ああ、幸せ・・・」
と感想を述べていた。

今日の晩飯も宴会の様相。
なにやらいつも以上に騒がしい。
急にこんな話になっていった。

「ところで島野さん、この島の名前はどうするんですか?」
ルイ君からのめんどくさい一言だ。

「ああ、どうしよっか?」
興味を引いた者達が、話に加わる。

「この島の名前か、そもそもこの島はなんて呼ばれてるんだ?」

「たしか捨てられた島、とか言われてましたね」
マークが思い出したようだ。

「そうだったね、この島の名前が無いなんて今さらだけど、ちゃんと付けたにこしたことは無いと思いますよ」
真っ当な意見のメルル。

「そうなのか・・・何が良いと思う?」
皆が一斉に手を挙げた。

次々にどうぞ。

「島野島」

「ボスの島」

「主の島」

「島野一家の島」

「創造神の島ですな」

「ピザの島」

「ダッシュ」
俺は即座に割り込んだ。
「ちょっと待てい、ノン!それ以上言うな・・・おまえ、グググ」
思いっきりノンを睨みつけてやったが、完全にふざけているノン。
こいつ、日本のテレビを持ち込むんじゃないよ、まったく!

リンちゃんが答えた。
「サウナ島ってどうですか?」
一瞬時間が止まったようだった。
その後一斉に

「それだな!」

「いいじゃないか!」

「リンちゃん、お手柄!」

「これしかないな!」
等と大騒ぎ、結果この島の名前は『サウナ島』ということになりました。

本当にこれでよかったのでしょうか?・・・まあ・・・嫌いじゃないけど・・・安易過ぎやしませんかね・・・サウナ島って・・・まあいいか・・・こいつら漏れなくサウナジャンキーだからな!
ということで、この島は今後『サウナ島』ということになりました。

めでたし、めでたし