僕は賢者ルイ、魔族と人間のハーフ。
そして、魔法をこよなく愛する者さ。

魔法国メッサーラでは慣例として、賢者が国家元首を務めることになっているので、僕はメッサーラの国家元首でもある。
正直に言って国家元首なんてやりたくない。

三年前に僕は賢者になった。
元々僕は生まれながらに魔力量が多く、魔法の習得も早かった。
どうしてなのかは分からない。

生活魔法や攻撃魔法、防御魔法なんかを使える。
だが、固有魔法はまだ開花していない。
今の僕には固有魔法を開花できるとは思えない。
固有魔法は、その人物の性格や人間性から開花する魔法だ。

今の僕には無理だろう。
何故無理かって?
だって、毎日がつまらないんだ。

賢者になってからというもの、僕の周りの人は僕を見る目が明らかに変わった。
親や兄弟まで変わってしまった。
その目の奥には、恐れの感情が含まれている。
分からなくはない。
けど・・・

国家元首である僕には国を動かす力がある。その権利を持っている。
お飾りではあっても、僕の発言には高い関心が寄せられている。
実際、政治については、僕は何もしていない。
政治は大臣達が行い、僕は最終的に決まったことを了承するだけ。

僕が国家元首である必要はないと思う。
でもこの国の伝統にのっとり、そうしなければならない。

その他の国営に関することも同じで、決まったことを了承するだけ。
なによりそもそも興味がないので、決まったことをひっくり返すことなんてしない。出来る権利は持っているけど。

だからだと思う。
皆が僕に恐怖を覚えるのは。

でも皆な間違っても口にはしない。
そもそも僕を咎めたり、叱ったり、怒ったりなんて誰もしない。
間違ったことをしても、やんわりと諭される程度で、真剣に叱ってくれる人なんていない。

賢者になってから僕の世界は色を失ってしまった。
僕には世界が灰色に観える。
でも大好きな魔法の研究に没頭している時だけは、世界に色が戻ってくる。
そうその時だけは。

僕は『魔法学園』の学園長も兼任している。
だから生活のほとんどを『魔法学園』で過ごしている。

『魔法学園』の生徒たちは、魔法を学び、その研究を行っている。
時には僕が魔法を教えることもあるが、実力のある教師が揃っているので、あまり出しゃばらないようにしている。

そんな僕には友達も、親友も、恋人もいない。
灰色の世界に住んでいる。



特にやることもなかったので、学園の中を歩いていた。
何も考えずにボーっと歩いていた。
すると突然、僕は目を奪われてしまった。ある一人の女性に。

その女性には色があった。とても綺麗に輝いていた。
うつむき加減な女性が正面から歩いてきた。

僕は思った、いや思ってしまった。
この女性を知り合いと。

なぜこの女性には色があるのか。
美しとも感じた。可愛いとも感じた。
目が離せない。
知りたい、どうしても知りたい。
どうしよう。
知りたいんだ。

気が付くと『鑑定魔法』を使ってしまっていた。

『鑑定』

名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv18
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:2009
魔力:2932
能力:水魔法Lv20 土魔法Lv17 変化魔法Lv16 人語理解Lv8 
人化Lv7 人語発音Lv7

やってしまった。とんでもない失礼なことを。
でもせっかくだからちゃんと見よう。
ゴン?
不思議な名前だな。
九尾の狐って聖獣じゃないか。
島野守?って何の神様なんだ?聞いたことも無いぞ。
言葉の響きからして、どこかの島を守る神様?いや分からない。
なによりレベルそのものが凄く高い、水魔法レベル20って川を氾濫させるレベルだと思うけど。
えっ、変化魔法?聞いたことがない。固有魔法なのか?

凄い、興味が止まらない。
どうする、どう声を掛けたらいい?
はじめまして、僕はルイ、賢者だよ。
駄目だ、それとなく逃げられそうだ。
君って聖獣なんだね?
あほか『鑑定魔法』使ったのが、バレバレじゃないか。
君の名前は?
始めて会った人にかける最初の一言ではない。
どうしたらいい、もう目の前にいるってのに
あああ、もう!

「僕と友達になってください!」
僕は下を向いて、右手を指し出していた。

何を僕はやってるんだ!
僕は馬鹿か!
絶対に間違った!
やってしまった!

とその時、右手に握り返された感触があった。
えっ!
思わず前を向ていた。
「こちらそ、よろしくお願いいたします」

素敵な笑顔だった。
僕はこの笑顔を一生忘れないだろうなと思った。

僕の世界に色が戻ってきた。



『魔法国メッサーラ』に到着した。
入国の際に、ここも『タイロン』と一緒で随分と待たされた。
『魔法国メッサーラ』の印象としては、他民族国家というところだった。
人間、魔人、獣人、エルフ、中には巨人と呼ばれる三メートル近い身長の人も居た。

そのせいだろうか、屋根の高い家が多い、あれだけの巨体が入るとなると、当然なのだろう。

街の至るところに街灯のようなものがあり、メタンに聞いてみたところ。街灯そのものだった。
ただ電気で光を出すのではなく『照明魔法』という物があり、夕方になると。照明屋と呼ばれる魔法士が明かりを点けにくるのだそうだ。

『照明魔法』そんな魔法があるのか・・・俺も能力で照明を開発してみようかな?

生活魔法の中では比較的簡単な魔法であるらしい。
だがメタンは習得できなかったそうだ。
適性がないということらしい。
ゴンが覚えてくれたら助かるなと思う。

ゴンの入学テストは明日の為、今日は適当に宿に泊まってと考えたが、島に帰ることにした。
ゴンは一人宿に泊まるということになった。
あんなに盛大に送り出してくれたのに、いきなり帰るのはバツが悪いらしい。
ギルがゴンが一人ではなんだと、ギルも宿に泊まることになった。
ならばと結局五人とも宿に泊まることになった。
要らないやりとりをしたようだ。

晩御飯を終え、宿の部屋に向かった。
部屋割りは、俺とメタン、ギルとゴンとエルとなった。

「それじゃあ明日、あんまり夜更かしするなよ」

「ええ、そうします」

「パパ、お休み」

「ああ、お休み」

部屋に入った。
宿の部屋は広く、天井が高かった。

「メタン、この天井高がこの国では一般的なのか?」

「そうですね、体の大きな人もこの国では多いですからな」

「そういえばメタン、ゴンのことだが、お前どう思う?」

「そうですね、魔法のレベルは高いですし、技量も高い、試験には間違いなく合格します」

「寮生活になるんだろ?」

「ええ、そうです。個室はありませんので、おそらく二人部屋になるかと思いますな」

「学園生活はどうだろう?」

「ゴン様はコミュニケーション能力は高いですが、正義感が強いので、そこが心配どころですな」

「そうか」

「メッサーラにも少なからず差別があります。他民族国家ならではかと」

「差別ね、あるんだろうな」

「ええ、変なことに巻き込まれなければいいのですが・・・」

「まあ、それも勉強の内だな」

「そうですな」

「じゃあ、休もうか」

「お休みなさいませ」

「ああ、お休み」
俺達は眠りについた。



翌日、朝食を終え、俺達は『魔法学園』に向かった。

「昨日はよく眠れたか?ゴン」

「いえ、実はあまり、緊張してしまいまして」

「そうか、緊張するなとは言わないが、自分の実力を信じることだ」

「自分の実力を信じる・・・」

「ああ、お前の魔法の実力は間違いないとメタンが言っていたし、俺もそう思うぞ」

「そうですか、ありがとうございます。主にそう言って貰えると励みになります」

「あとな、実は緊張を解す方法があるぞ」

「あるのですか?」

「ある」
そういうと、俺は手招きした。

「黄金の整いの呼吸法だ」
小声でゴンにだけ聞こえる様に話した。

「なるほど、私は知っていたんですね」
メタンが聞きたそうだったが、無視した。

『魔法学園』に着いた。

「じゃあゴン、気負わずにな、終わったら宿の食堂で合流だ」

「わかりました、いってきます」

「「いってらっしゃい」」

「頑張れゴン姉!」

「ゴン様なら楽勝ですな」
ゴンは『魔法学園』に入っていった。



「そういえばメタン、学園内を見学はできるのか?」

「どうでしょうか?聞いてみましょう」
学園の警備室のようなところに行った。
受付の警備員に尋ねてみる。

「すいません、学園内を見学することは可能でしょうか?」

「あの、生徒のご家族さんでしょうか?」

「ええ、娘が今日入学試験を受けるところです」

「そうですか・・・」
怪訝そうな顔つきだった。
まあ、見た目が若いからね。疑われてもしょうがないか。

「では『鑑定』をさせてもらいますね」

「『鑑定』ですか?」

「ええ、身元を保証してもらう必要がありますので」

「そうですか、じゃあいいです。辞めときます」

「島野様、ちょっとお待ちください」
とメタンが言うと、前に出て来た。

「君、島野様とギル様とエル様の身元はこの私が保証します。私はここの卒業生です」

「卒業生ですか?」

「そうです『鑑定』してみなさい」
怪訝そうな表情を崩さない警備員。

「では、そうさせていただきます」
鏡のような道具を警備員が持ち出した。

「では、失礼して・・・えっ!あなたは、もしかして・・・信仰のメタン・・・さん?」

「ええ、そうです」

「わかりました、信仰のメタンさんが身元を保証してくれるというのなら、どうぞご見学なさってください」
軽く会釈して、その場を立ち去るメタン。

俺はギルと顔を見合わせた。
両手の手の平を上にして、分かりませんのポーズをするギル。
それに頷く俺。
メタンの後を着いていった。



「なあメタン、お前ってもしかして、この国じゃあ有名人なのか?」

「いえいえさほどでも」
誇らしそうな表情を浮かべている。

それにしても、こいつに二つ名があるとはな。
信仰のメタンって、まんまじゃん。
こいつの信仰心の高さは二つ名になるほどなのか・・・まあそうだろうな。変態的だもんな。

学園内は家や宿と一緒で、天井が高かった。
それに懐かしの黒板があった。
この世界にも黒板があるとは・・・

「なあメタン、チョークもあるのか?」

「チョークですか?聞いたことがありませんが」

「じゃあ、黒板にはどうやって文字を書くんだ」

「それは魔道具で書きますな。魔道具の筆で、書くことも消すこともできます」

「そうなのか?そういえば、さっきの『鑑定』も鏡みたいな道具を使ってたけど、魔道具ってたくさんあるのか?」

「ええ、ここ『魔法国メッサーラ』の魔法道具は有名で、特産品となっております」

「そうなのか?じゃあ、後で見て周りたいな、いいか?」

「もちろんです島野様。あとで魔道具屋をご紹介させていただきます」

「そうか、助かる」

魔道具か・・・俺は使えないが、皆の助けになるような道具があれば、買っておきたい。
どんな魔道具があるんだろうか?気になるな。

この後、学園内を見学し終え、ひとまず昼飯にと街に出かけた。
食事は正直言って、美味しくはなかった。
まあ、食事には拘りが無い国なのかもしれない。
食事の満足度は低い。

「メタン、魔道具ってどんな物があるんだ?」

「そうですね、一般的なのは、先ほど島野様が興味を持たれた魔法筆、あとは魔法照明具ですな」

「照明か、いくつか買っていこうかな?」
値段はどうだろう?

「高いのか?」

「ピンキリですな」

「そうか、他には?」

「魔法消臭具、とかですな」

「魔法消臭具?」

「ええ、主にトイレに使用します、島のように水道が通っておりませんので、トイレの匂い消しに使われます」

「なるほど」

「あとは火をつける魔道具や、水を出す魔道具なんかもあります」
いろいろあるんだな。いくつか購入を検討だな。



魔道具屋にやってきた。
魔道具は、木の枝のような物に、魔石が埋め込まれている物が多く。ほかにも鏡のような物や杖のようなものもあった。

結局、筆の魔道具五つと、照明の魔道具を五つと、火の出る魔道具を一つ、水の出る魔道具を一つ購入した。
筆の魔道具の一つはゴンに渡すつもりだ。これを学園では皆が使用しているとのことだったので、必須だろう。
通信の魔道具もあったので購入してゴンに持たせようと思ったが、通信距離に制限がある為、役に立たないので止めておいた。
結構な値段になったが、暮らしが良くなるならいいと考え、購入を決意した。

これで暮らしが明るくなるといいな、照明なだけに・・・イマイチ。



こんにちは、ゴンです。
今日から私の『魔法学園』生活がスタートしました。
朝から緊張気味でしたが、主のアドバイスに従い、複式呼吸を行ったところ、だいぶ緊張が解れたようです。
複式呼吸ってこういうことにも使えるんですね。

先程入学試験を終え、今は学園内を観て周っているところです。
試験は問題なく筆記も実技も楽勝でした。
メタンの言う通りでした。

なんでも私は、特に実技試験の結果がよかったようで、特待生というものに選ばれたようです。
特待生だと、学費、食堂での食費、寮費などが免除されるらしく、助かりました。
念のため、お金は準備していましたが、使わなくて済むのなら、それはそれでありがたいことです。

それにしても、問題があります。
どうやって友達を作ったらいいのでしょうか?
私には家族や仲間はいますが、友達はいません。
島の皆は家族であり、仲間なので、友達とは違います。
どうしたものでしょう。

私のコミュニケーション能力は、低くはありません。
消極的でもありません。
友達できるといいな・・・誰か友達になってくれないかしら?

そんなことを考えながら歩いていると、いきなり目の前に手が差し出されました。

「僕と、友達になってください!」
と言われました。

えっ!嘘でしょ?
前を向くと、一人の男性が、深くお辞儀をし、右手を差し出していました。
私もう友達できちゃったの?
いいのこれで?
でも。向うからの申し入れだし、いいよね?
まだ名前も知らないし、顔も見てないけど、大丈夫よね?
身なりはきちんとしている様だし、問題ないよね?
こんなチャンスもう無いかもしれない。
えい!

右手を握り返した。

すると、男性が顔を上げた。
まあ、素敵な方。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
何故か私は笑顔になっていた。



再びルイです。
僕は幸せ者かもしれません。
こんな可愛い子が友達になってくれるなんて。

握手の後、一瞬気まずい空気が流れたが、お互いの自己紹介が始まった。

「僕はルイ、賢者です」

「私はゴンです。九尾の狐です」

「九尾の狐?」

「はい、そうです。今は人化して人の姿ですが、私は聖獣です」

そうですか、ごめんなさい『鑑定』して知ってます。
許してください。

「ゴンちゃんと呼んでいいですか?」

「ええ、構いません。あなたのことは何とお呼びすればいいでしょうか?」

「そうですね、ルイ君はどうでしょうか?」

「そうですね、そうしましょうルイ君」
ルイ君って呼んでくれた!
嬉しい、なんて幸福なんだ。

「それで、今は何をしていたんですか?」

「先ほど、入学試験を終えまして、これから魔法学園を観て周ろうかと思いまして」

「そうなんですね、僕に案内させてください」

「はい、よろしくお願いします」

「よろこんで」
やった、まだまだ話せるぞ。

「ではこちらからいきましょう」

「はい」
並んで歩きだす僕達。
それにしてもゴンちゃんか、なかなか聞かない名前だな。
嬉しいのは、僕が賢者だと知っても遜る様子が一切ない。
僕を一人の人間として見てくれている。
僕の目は間違ってなかった。

「そういえば、今日入学試験を受けたって言ってたね?」

「ええ、そうです」

「これまでは何をしていたんだい?」

「これまでは、とある島で暮らしていました」

「とある島?」

「ええ、島のことは訳あって、あまり話ができないのです」

「そうなんだ」

「なんで魔法学園に入学したの?」

「それは、島で魔法の研究をしていたんですが、どうにも行き詰ってしまい、仲間に魔法学園行きを提案されて、入学することにしたんです」

「そうなんだ、どんな魔法に興味があるのかな?」

「今は、生活魔法に興味があります」

「生活魔法か・・・生活魔法はいい魔法だよ。暮らしを良くすることが出来る」

「ええ、生活魔法を習得して、島の皆の役に立ちたいんです」
島の皆の役に立ちたいって、仲間想いなんだな。
羨ましいな。

「そういえば、試験はどうだったの?」

「ええ、優秀だと判断されたようです。なんでも特待生とかいう扱いをして貰えるようです」

「凄いじゃないか!特待生って、なかなか成れないよ」

「そうなんですか?そういったことはあまり良く分からなくて」
魔法のレベルから見たらそうなるだろうけど、学園側も思い切ったことをしたな。
審査員を褒めてあげないとって・・・あれ、こんなこと今まで考えたこともなかったよな。

「まずここが講堂だね。主に座学を行うところだよ」

「へー、広いところですね」
二人で講堂を観て周った。

「次に行こうか?」

「はい」
歩き出す僕達。

「そういえば、ゴンちゃんは聖獣なんだよね?」

「ええ、そうです」

「魔法学園に聖獣が学びに来たとなると、魔法学園としても鼻が高いよ」

「そうなんですか?」

「ああ、そうなんだ。聖獣は魔法の威力やレベルが、他の種族よりも優れてることが多いから、そんな聖獣が学びに来たとなれば、学園側も一目置かれるからね」

「私達聖獣は魔法が得意ということなんですね?」

「あれ?知らなかったのかい?」

「ええ、知りませんでした」

「これまでどうやって魔法を覚えてきたんだい?」

「そうですね、何となくです」

「なんとなくって、え!」

「なんとなくです、こうしたらできるんじゃないかな?とか、本能的に感じるというか」

「本能的に感じるか、もしかしたら、僕たちと魔法の捉え方が違うのかもしれないね」

「捉え方ですか?」

「うん、そういうところから魔法を学んでいったらいいのかもしれないね」

「そうですね、ありがとうございます」

「僕は聖獣のことはあまり知らないけど、神の使いなんだよね?」

「ええ、そうです」

「ゴンちゃんも神様に仕えてるのかな?」

「ええ、仕えてます、神様ではないですけど」

「神様じゃない?」

「そうです、人間です」

「えっ、人間に仕えてるの?」

「はい、主は凄いんですよ」

「凄い?」

「凄いんです。無茶苦茶強いし、料理も美味しいし、たくさんいろんな能力をもってて、尊敬してます!」
ゴンちゃん喜々として話し出したな。
それだけ主のことを慕ってるってことか。
羨ましいな。
僕もそんな風に誰かから思われてみたいな。

「それに、私だけじゃなく、何人も聖獣が仕えてるし、楽しくて、頼れる仲間もいるんです」
なんだか凄いなその人、会ってみたいな。

「なんだか凄いね、ゴンちゃんの主さんに、会ってみたいな」

「そうだ!いいですね。会いましょう!」

「え!」

「この後、合流する予定なんです。一緒に行きましょう!」
ゴンちゃんが興奮している。

「いいのかい?」

「はい、友達が出来たと報告したいので、着いて来てください!」

「じゃあ、行かせてもらうよ」

「はい!」
ハハハ、今日は何かとある日だな。



ゴンちゃんに連れられて、宿屋の食堂に来ている。

「ゴン姉こっち、こっち」
一人の少年がゴンちゃんに向かって手を振っている。
その隣には、二人の男性と一人の女性がいた。

「主、お待たせしました」

「いや、構わない、こちらも先ほど着いたばかりだ」
見た目が二十台ぐらいの男性が答えていた。

この人が、ゴンちゃんの主なんだろうか?
第一印象としては、捉えどころの無い雰囲気。
あれ、隣のもう一人の男性は見覚えがあるぞ、誰だったかなー。
名前が思い出せないな。

「主、聞いてください、友達ができました」

「はあ、本当か?」

「ええ、ルイ君こっちきて」
何だか緊張するな。

「主、今日友達になったルイ君です」

「初めまして、ルイといいます。賢者をやってます」

「俺は島野だ。しかし、賢者ねえ」
なにこの反応?これまでにまったく無かった反応だ。
真っすぐにこちらを観ている。

「まあ、良いんじゃないか?」
良いんじゃないか?ってどういうことなんだ。

「お久しぶりですな、ルイ様。メタンにてございます」
というと見覚えのある男性が立ち上がり、仰々しくお辞儀をした。
そうか思いだした。信仰のメタンだ。

「やあ、メタン、久しぶりだね」

「どうぞ、お掛けください」
メタンが着席を促す。

「それで、ゴン、初日にいきなり友達が出来るなんて、凄いじゃないか」

「はい!」
と誇らしげなゴンちゃん。

「それで、きっかけは何だったんだ?」

「はい、ルイ君から声を掛けてくださいました」

「へえー」
なにか喋れと視線が向けられてきた。

「はい、あの学園でお見掛けしまして、素敵な女性だなと思ってつい・・・」

「なるほどー」
纏わりつく眼つきで見られている。
なにこの感じ。

「ゴンに一目惚れしたな、おまえ」
えっ!

「ゴン姉すげえ!」
少年が騒いでいる。
その横で女性が口を押えて驚いている。

「ちょっと、主、からかわないでください!」

「ゴン様も隅に置けませんな」

「もうメタンまで」
からかわれている、この僕が・・・

「で、ルイ君とやら、君、賢者ともあろう者が、学園でナンパとはいただけないねー」

「ちょっと、待ってください。ナンパなんて」

「そうです主、止めてください」
にやけ顔でこちらを見ている。
冷やかされているのが分かる。
何とも言えない感覚・・・対等に扱われている?

「いやー、悪い悪い。からかってみただけだ。悪かった」
凄い、何だろうか、初対面でこの対応。
僕が賢者であることなどお構いなしだ。
メタンが一緒にいるから、おそらく僕が国家元首であることも知っているはず。
なのに、ただのゴンちゃんの友達扱いだ。

「もう止めてくださいよ、主」
ゴンちゃんがむくれている。

「それで、メタンとは知り合いなんだって?」

「はい、前に学園で知り合いました」

「ええ、仰る通りですな」
メタンはなにか雰囲気が変わったような気がする。

「メタン、雰囲気が変わったね」

「そうですか、お褒め頂きありがとうございます。私は島野様と知り合えて、変わりましたからな、今では私の信仰心は、創造神様と島野様に向けられております」
そうなのか、創造神様以外は神ではない、とまで言っていた、あのメタンが?
でもこの人は嫌そうな顔してるな。
なんだか本当に嫌そう。

「そうなのか・・・言葉も無いよ」

「ところでルイ君、君に尋ねたいことがある」
真っすぐに見られた。

「賢者ってことは、この国の国家元首なんだよな?」

「はい、そうです」

「君はこの国をどうするつもりなんだ?」

「どうするとは?」

「この国をどこへ導くのかってことだ」

「導くって・・・」

「理想でもいいんだ、聞かせて欲しいな」
理想、導くって、そんなこと聞かれても。僕には・・・

「僕は、確かにこの国の国家元首ですが、お飾りでしかありません」

「それで」

「僕は政治に関わることは無いし、国営も大臣達が行っています。僕は彼らが決めたことを承認するだけの存在でしかありません。なによりも、政治や国営に興味が持てません」

「そうなのか?」

「はい」
意味ありげに見つめられている。

「そうか、まあお節介は止めておくよ」
えっ!
お節介?
何だろう意見がありそうな表情をしていたな。

「ま、待ってください、聞かせてください。何か思うところがあるんですよね」
聞いてみたい、この人の意見を。
教えて欲しい、この僕に。

「とは言ってもなー」

「お願いします!」
僕は思わず立ち上がり、お辞儀をしていた。
自分でもびっくりしている。
僕がこんな行動をとるなんて。

「まあ、そう畏まるなよ、ルイ君」
僕は頭を上げた。

「まずは座りな」

「はい」

「まあ、ここまでされたら話すしかないな」
僕は椅子に座った。

「君は、お飾りでしかないと言ったね」

「はい、言いました」

「でもこの国の国民は君の発言や、行動に注目している。違うか?」

「その通りです」

「ということは、君は国民に対して影響力をもつ存在だ」

「はい、そうです」

「そんな君が本当にお飾りなのか?」

「それは・・・」

「君が君自身で、お飾りであろうとしたんじゃないのか?」
僕自身が・・・お飾りであろうとした?

「何も攻めている訳じゃないから、勘違いしないで欲しい。おそらく君は、政治のことは、政治が分かる者がやればいい、その道のプロに任せればいい、と考えたんじゃないかな?」

「はい、そうです」

「それは、一つの方法として正しいだろう。だが、国の行く末や理想もない中で『魔法国メッサーラ』はいったい何処に向かってるんだい?」

「どこに・・・ですか?」

「ああ、それに君は先ほど興味が持てないと言っていたね」

「はい」

「本当にそうかな?本当は興味を持とうともしなかった、の間違いではないかな?」
確かにそうだ、この人の言う通り、僕は興味を持とうともしなかった。
分からないからと、始めから関わろうともしなかった。自分自身でお飾りになる道を選んだんだ。

「君が賢者になったこと、国家元首になったことには、きっとなにか意味があるはずだ」
その通りかもしれない。

「国を治めることに興味を持て、とまでは言わない、だがせめて、政治であれば、政治の内容を知る。国営であれば、国営の内容を知る。これぐらいはやるべきことなんじゃないかな?」
そうだ、その通りだ。
訳も分からず承認するのではなく。せめて内容は知っておくべきなんだ。

「まあ、説教臭い話はこれぐらいにしておこうか」
とても優しい目で見つめられた。
ああ、本気で叱られたのはいつ以来だったろうか?
僕の世界の色が・・・取り戻した色が、輝き出すような気がした。

今日は忘れられない一日になった。
メタンの気持ちが少し分かったような気がした。
この人と話ができて、本当によかった。

「あー、そうそう。ゴンと友達になるのは構わんが、手は出すなよ」
にやけ顔で言われた。

「ちょっと、主、止めてくださいよ」

「パパってカッコいいことした後って、絶対にふざけるよね」

「あは、あはは、あっはは!あっははは!」
僕は笑いが止められなかった。
こんなに大笑いしたのは・・・いや、これから先だ!これから先もっと笑おう!
皆もつられて笑いだした。
笑顔って最高!



数日後の執務室。
ルイは、食後のお茶を楽しんでいた。

コン、コン!
ドアがノックされる。

「はい、どうぞ」
大臣と思わしき人物が数名入室してきた。

「ルイ様、こちらにサインをお願いします」
ルイに書類を手渡す大臣達。
書類に目を通すルイ。

「教えてほしいのですが、この軍備の増強は何が目的なのでしょうか?」

驚く大臣達、皆声を失っている。
変わろうとする賢者ルイがそこには居た。