先日のこと、俺はある魚を求めて、漁に同行することにした。

ロンメルと、ギル、そして、エルと俺の四人で船に乗り込む。
出発して直ぐに『探索』を行う。
脳内マップに魚群が表示される。

魚の大きさによって、光点のサイズが変わる為、大きな物を探す。
どうやら海獣はいないようだ。
だが、お目当ての魚もいない様子。
もしかしたらこの世界にはいないのだろうか?

『探索』の範囲を広げてみる。

お!あった、おそらくこれだと思う。
二メートル近くある影が何匹かあった。
ロンメルに指示を出し、その方角に向かって貰う。

ターゲットもなかなかスピードが速い、行動予測にて、行く先を予想する。

「ロンメル、もう少しだけ一時の方角に向かってくれ」

「了解」
ロンメルが帆の位置を調整し、船の向きが変えられていく。

「ギル、エル、網の準備だ」

「OK!」

「はいですの!」
俺達は網の準備に取り掛かった。

徐々にターゲットとの距離が詰まってきた。
ギルとエルが、合図と共に網を持って飛び出す手筈となっている。
この辺だな。
よし!

「ロンメル、船を止めてくれ、錨を降ろすぞ」
ロンメルは船の固定用の錨を降ろしている。
俺は網を海に降ろした。
網の先端には重りがついており、一斉にその重りを海に沈めた。

「ギル、エル、やってくれ」
そう言うと二人は船から飛び出した。

二人の手には網の先端が握られている。
二人は半時計周りと時計周りに飛んで。四十メートル先で合流した。

「そのまま止まっててくれ」
脳内マップを見ると、三匹ほど網の中にいた。

「ロンメル、行ってくる」
と俺は言うと、海中にダイブした。
海の中を潜っていく。

『浮遊』の能力で海中でも推進力を持って進むことが出来る。

いたいた、まずは一匹。
神気銃で打ち抜くとターゲットが気絶した。
捕獲して海上に引き上げる。

「ロンメル、引き上げてくれ」

「はいよ、うわ!なんだこの魚は、マグロじゃねえか」

「ああ、まだ二匹いるから捕ってくるよ、あと、そいつは気絶してるだけだから。慎重に頼むぞ」
マグロをロンメルに預けて、もう一匹を捕獲しに行った。



二メートルクラスのマグロを、三匹確保した俺達。

二匹は既に自然操作で凍らせてある。
もう一匹は『分離』で千貫だけ行い『収納』に収めてある。

「旦那、良いのも見させて貰ったよ、あんな漁が可能とはな」
船の帆を操作しながらロンメルが言った。

「普段はどうしているんだ?」

「俺は投げ縄でやっているよ」

「そうなんだ」

「しかし、マグロとは恐れ入った、久しぶりにあんな大物を見たぜ」

「ちょっとマグロで作りたい料理があってさ、まあ期待していてくれよ」
そう言うと、ロンメルが二ヤリと笑った。



この日の為に用意しておいた、三メートルサイズのまな板を、庭のテーブルに設置した。
これからマグロの解体ショーの始まりである。

日本で買って来た出刃包丁を『収納』から取り出して、まずは腹から包丁を入れていく。
ギルとメルルとエル、そしてロンメルが興味深々に眺めている。メルルは俺のお手伝いだ。

内臓を取り出して、メルルに渡す。
次に頭と尻尾を落として、これもメルルに渡す。
後で砕いて肥料とする予定だ。

包丁を骨に這わせるように、捌いていく。中まで届いたところで、今度は背に包丁を入れていく。
よし、まずは一枚。

同じ要領で半身も行い、無事にマグロを三枚におろした。

皮は面倒なので『分離』で剥がす。
本当は解体自体も『分離』で全て出来るが、一度やってみたかったので、やってみることにした。
まあ皮を剥がすのはズルしたけどね。

これにて解体ショーは終了。

「パパ、すごいね」

「ご主人様、すごいですの」

「旦那、包丁さばきも一流なんて、出鱈目過ぎじゃねえか?」
とお褒めの言葉を頂いた。

さて、実は本番はこれからなんですよね。
適当な大きさに切り分けて、蒸し器にマグロを入れる。
火をつけマグロを蒸す。
二時間ほどたったところで、状態を確認する。

うん、よさそうだ。
容器から取り出し、冷ましていく。
自然操作の風で一気に冷やしていく。
後は、触れる程度に冷ましたら、身を解して容器に入れていく。

最後に油に漬けて完成。油は主に菜の花と大豆とトウモロコシから作っている。
ツナが出来上がった。

「へえー、マグロってこんな調理方法もあるんだな」
ロンメルが関心していた。

これでまた、料理の幅が広がったぞ。
えへへ。



晩御飯は豪勢な物となった。
マグロの刺身を大量に振舞った。
この世界には醤油が無いため、醤油と山葵に、付けるマグロの刺身は高評価だった。

「なにこれ、美味しい」

「マグロはこうやって食べるのか?」

「マグロとはこんなに美味しい魚だったんですな」

更に酢飯を用意し、寿司を握ってみた。
流石に不格好な物になってしまったが、こちらも高評価だった。

マグロの漬け丼も振舞った。
こちらはマグロの切り身に酒と醤油、生姜に漬けたマグロをご飯の上に置き、仕上げに大葉と海苔と胡麻を散らして完成。

皆が、がっつくように食べていた。
ひと段落ついてから
「まだ食べれる奴いるか?」

「まだいけるよ」
とギルが応えた。

「よし、ちょっと特別なものを出してやろう」
俺は先ほど完成したツナと、マヨネーズを『収納』から取り出した。

丼にお米をよそい、その上にツナを乗せて、仕上げにマヨネーズをかけて完成。

ツナマヨ丼だ。

「ギル出来たぞ」

「これ今日パパが作ってたツナだね」

「そうだ、ツナマヨ丼だ」
ギルが舌なめずりをしている。

「いただきます」
がっつくギル、そして手が止まった。

「なにこれ、感動、美味しい!」
その声に他の皆が興味を持ったらしく。どれどれといった感じで集まってきた。

「皆、これ無茶苦茶美味しいよ、食べてみなよ!」
それを皮切りにツナマヨ丼の催促が始まった。

「少しだけいいですか?」
メルルが言った。

「もうお腹いっぱいなんですけど、気になっちゃって」

「ああいいよ、少しだな」

「私しも少なめで」
今度はゴンだ。

「私も」
アイリスさんまで。
もういいや、

「いる人は何人だ?」

全員かよ。
みんな凄い食欲だな。
結局、小ツナマヨ丼を全員分振舞った。

「島野様、今日の料理は、全部マグロなんでしょうかな?」
メタンが話し掛けて来た。

「ああ、そうだよ、刺身も寿司も、漬け丼もツナマヨ丼も全てな」

「素晴らしですな」

「料理は調理法でいくらでも幅が広がるからな。マグロでもまだまだ他にも違う料理が出来るぞ」

「そうなのですな」
関心しているメタン。

「ねえパパ、僕にも料理を教えてよ、メルルだけズルいよ」

「ご主人様、私もですの」
ギルとエルに催促されてしまった。

「ああ、いいぞ、今後は時間を取るようにするよ」

「「やった!」」
と喜ぶギルとエルだった。

「ノンはいいのか?」

「ん?僕は食べ専でいいよ」
食べ専って、どこでそんな言葉覚えるんだよ!

ロンメルが近づいてきた。
「旦那、そういえば、この時期に俺の故郷で祭りがあるんだがな」
祭りか・・・良い響きだな。

「ほう、祭りか」

「食べ物の祭りなんだよ」
フードフェスってことか?

「食べ物の祭り?」

「ああ、全国から腕利きの料理人や、一般人まで集まって、屋台で料理の味を競うんだ。期間は一週間、旦那なら優勝してもおかしくないと思うんだが、どうだい?」

「うーん、料理コンテストってことだな。だが流石にプロの料理人には勝てないと思うぞ」
その道のプロにはなかなかね。
プロを舐めてはいけない。

「いや、旦那には他にはないアイデアがある。まあ出ないまでも、食べに行くってだけでも楽しめると思うぜ」

「そうだな、せっかくだし行ってみるか、皆はどうする?」

「行きたい!」

「僕も!」

「私も!」

これまた全員だな。おっアイリスさんまで、珍しいな。
いいじゃないか祭り、大いに楽しもうじゃないか。

「アイリスさんもよろしいので?」

「ええ、外出は初めてですので、緊張しますわ」

「俺達がついてますので、大丈夫ですよ」
うん危険は無いと思うよ。

「そうだな、希望者は全員行くことにしよう、ロンメルは現地の案内に必要だから、一週間丸々だな」

「ああ、構わない」

「ちなみにどんな料理があるんだ?」

ロンメルが応える。
「一番多いのは肉料理だな。串ものが多いな。野菜関係は煮込みものとか、汁物とかに入っているけど。この島の野菜よりも小さいな。あとは饅頭とかかな」

「饅頭ですって!」
アイリスさんが割り込んできた。

「ただ『ゴロウ』の饅頭とは違って、中に肉とかが入ってるやつです」

「それでも食べてみたいですわ」
たぶん肉まんとかだろうな。

「まあ行ってみれば、分かるか」
と俺が呟くと、ノンが前に出て来た。

「そう、行けば分かるさ、行くぞー!1!2!3!ダアー!」

「「「ダアー!」」」
皆な拳を上にに突き出していた。

なんでそうなるんだよ。
てかノンのやつ、テレビで見てたな。
今度問い詰めてやろう。



『漁師の街ゴルゴラド』は『コロンの街』から更に東に行った所にあるらしく、ギルに乗っていけば、コロンから二時間も掛からないらしい。
となると、リズさんのところに寄ってから、ギルに乗っていくかな?

まずはリズさんの所に、ギルとロンメルを連れて訪れた。

「旦那、この転移ってやつは強烈だな、肝を冷やしたぜ」

「慣れだよ」
ギルが偉そうに言った。
横目でにらむロンメル。

仲良くやってくれよな。
リズさんの所に行くと、なぜかアグネスが居た。

「なんで守が居るの?」

「こっちのセリフだよ」

「ちょっとリズに用事があってね」

「ふーん、あっそ」
面倒なことにならないといいけど。

「リズさん、こんにちは」

「島野さん、その説はありがとうございました」

「いえいえ、どうってことないですよ」

「守、あんた何かやったんじゃないでしょうね?」
偉そうな態度をとるアグネス。
本当にこいつは、ぶれないねー。

「野菜を寄付したんだよ。悪いか?」

「いい心がけじゃないの」

「旦那、先を急ごうじゃないか」
めんどくさそうにロンメルが割り込む。

「そうだな、リズさんまたお土産を持参したんですが」

「いつもいつも、ありがとうございます」
野菜の詰め合わせと、ジャイアントピッグの肉を四キロほど手渡した。
育ち盛りの子供達には肉が必要でしょ、たくさん食べてくださいな。

「守、先を急ぐってどこ行くのよ?」

「はあ?内緒だよ」

「いいじゃない教えてよ、教えてよ!」
ポコポコと肩を叩かれた。
めんどくさい奴だな。

「『漁師の街ゴルゴラド』に行くんだよ」

「えっそうなの?連れてってよ、ね、お願い!」
手を合わせるアグネス。

「嫌だね」

「なんで、なんでよ、良いじゃない、だってあれでしょ?料理祭りに行くんでしょ、良いじゃない一緒に行っても」

「おまえ何で一緒に行きたいんだ。奢らないぞ」

「うっ、バレたか」
アホかこいつ、バレバレなんだよ。

「お前、アグネス便でそれなりに稼いでるんだろ?」

「ハハハ」
ハハハじゃねえよ。一体何に使ってんだよ。
どうせ無駄遣いしてるんだろうな。

「実は・・・」
何かを言いかけたリズさんを、アグネスが制止した。
ん?なんだろう?こいつもしかして、寄付でもしてるのか?
だとしたら、見直すところだけど。
まあでも、アグネスだからね。

「じゃあ、行かせて貰いますね」
リズさんに一礼して、その場を去った。
ギルの背に乗り『ゴルゴラド』に向かった。



ゴルゴラドの街は大いに賑わっていた。
祭りを控え、その準備が進んでいるようであった。
漁師の街だけあって、塩の香りがする。
既に、いくつかの屋台が出店されており、食べ物の匂いが鼻を衝く。

「ロンメル、そういえばこの街に神様は居るのか?」

「ああ居るぜ、漁師の神様ゴンズ様だ」
漁師の神様か、そのまんまだな。

「どこにいるんだ?挨拶がしたいんだが」

「どうだろう、漁に出て無ければ、ゴンズ様はたいていは酒場にいるからな」
漁以外は酒場って、それだけで呑兵衛だって分かるぞ。

「じゃあ酒場に行ってみようか」
ロンメルの案内によって、酒場へ向かった。

この街の人々だろうか、魚人が多数見受けられる。
他には、旅行客が祭りに参加する為か、人間も多く見られた。
街の様相としては、建築物はレンガ調の家が多い、塩害対策で木造は少ないといったところなのだろう。

そうこうしていると酒場に着いた。

酒場は前に『サンライズ』の皆さんと行ったことがあったが、その酒場と雰囲気は似ていた。
酒場も随分な賑わいで、席の空きはわずかといった具合だった。

「旦那、空ぶりの様だな。ゴンズ様はいねえな」

「そうか、残念だな」
居ないのなら、しょうがない。

「どうする?まだ酒を飲むには日が高いと思うが」

「そうだな、止めておこうか」
酒場を後にしようとしたその時、声を掛けられた。

「おい、島野さんじゃないか?」
振り向くと『サンライズ』の皆さんが居た。

「ギル、久しぶりだな、こっちこいよ」
カイさんがギルに声を掛けていた。
その横で、ウィルさんが手を振っている。

「皆さん、お久しぶりです」
ライドさんが立ち上がり、手を指し出してきた。
それに答えて、俺達は握手を交わした。
横では、カイさんにギルが頭を撫でられていた。

「ちょっと、カイさん止めてよ、酔ってるの?」

「ハハハ、いいじゃねえかギル、元気にしてたか?」
カイさんは、明らかに酔っている。
顔が真っ赤だ。
これは相当飲んでるな?

「ライドさんお久しぶりです、元気にしていましたか?」

「ああ元気にしているよ、久しぶりだな島野さん、そちらこそどうなんだ?元気にしていたかい?」

「ええ、おかげさまで元気にしています。ところでここにはどうして?」

「祭りだよ、祭り、こいつらが、行きたい行きたいって聞かなくてさ。祭りが終わるまでは、多分この調子だと思う」
ジョーさんは、手を挙げて挨拶をしてきた。
それに応えて俺も手を挙げた。
ウィルさんは、ギルに絡むカイさんを宥めている。
ジュースさんは、頷く形で挨拶をしてきた。
俺もそれに応える。
皆な元気そうだ。

「ライドさん、紹介しますね、俺達の新しい仲間で、ロンメルです」

「『サンライズ』のリーダーのライドだ、よろしく頼む」
と手を差し出した。
それに応え、握手を交わすロンメル。

「ロンメルだ、こちらこそよろしく」
ライドさんは相変わらず気さくだな、気安さが変わっていない。

「で、島野さんどうしてここへ?」
ジュースさんが尋ねた。

「ええ、実はロンメルの地元がここでして、ロンメルから祭りがあるから行かないか?と誘われて来てみたんですが、ここの神様に挨拶をしたくて、酒場に寄ってみたんです」

「ああ、あの神様は酒場に入り浸りだからな」

「違いねえ」

「そうなんですね」

「あの神様は酒豪だからな、それも無茶苦茶」
ライドさんが首を横に振りながら言った。
怖!酒豪の神様ってなんだよ、お土産でワインを準備してたけど、何本いるんだ?

「でも漁の腕は確からしい」

「そうなんですね、会うのが楽しみです」
酒豪の神様って、怖いけど、会ってみたいのも確かだ。

「ところで、考え中なんですが、俺も屋台を出店するかもしれないんですよ」

「そうなのか?」
興味がありそうな反応だ。

「へえー、島野さんの料理か、興味がありますね」
ジュースさんが二ヤリと笑った。

「もし出店したら、来てくれますか?」

「ああ、絶対に行くよ!」

「必ず行く!」

「ああ、なんといっても島野さんは、俺達の命の恩人だからな」
などと口々に言う。

「ありがとうございます」
嬉しかぎりだ。

「パパ、助けてよ!」
ギルからの救難要請だ。
どうやらまだ、酔っ払いのカイさんに絡まれているようだ。

「ロンメル頼む」
ロンメルは明らかに嫌そうな顔をしたが、従ってくれた。
だって面倒なんだもん、ごめんよ、ロンメル。

「ところで、島野さんは飲まないのか?」

「今日は視察なので止めておきます、また一緒に飲みましょうね」

「ああ、必ずな」
ギルを救出し、俺達は酒場をあとにした。



商人組合に行ってみた。
ここも大した賑わいだった。
祭りの屋台の手続きなんだろう、結構な人の数だった。

祭りの内容だが、お客に一日一枚の札が渡されることになっており、自分が美味しいと判断した店に札を渡す、といったシステムとなっており、その札の枚数で優劣が付けられるといったものだった。

優勝した店には賞金も出るらしく、またここで結果を出すことで、名を挙げるといった側面もあるようだ。
優勝したお店には、祭りで優勝したことを、告知できる権利が与えられるらしい。
まあ、俺達には不要の産物でしかないのだが。

せっかくだから出店しようと考えているが、祭りを楽しみたいことを優先させたいので、長くても三日ぐらいしか、屋台の営業はしないつもりでいる。
まだメニューも決めていないし、誰が店に立つのかも決めていない。
島に帰ったら、皆と相談だな。

手続きはこちらとの看板を見かけたので、そこに行くと、魚人の方が受付をしていた。

「すいません、祭りの屋台の出店希望なんですが、こちらでよかったでしょうか?」

「はい、こちらでいいですよ。出店は初めてですか?」

「はい、初めてです」

「では、会員証はお持ちですか?」
そう言われると思って、前もって準備していたのだ。
俺の右手には既に会員証が握られている。
会員証を手渡した。

「お預かりしますね」
というと、手続きの作業を進めてくれた。
少し待った後、会員証を返してくれた。

「これで手続きは終了です。場所や出店に関する詳細は、あちらで案内させて頂いてます」
指さした方向に、違う受付があり、数名が案内を受けていた。
受付してくれた魚人に会釈し、そちらに向かった。

案内された内容としては
・売上の5%を商人組合に渡すこと
・アルコール類の販売は禁止
・屋台の場所は指定されたところのみ、また場所の変更は受付ない
という簡単なものだった。

アルコールを禁止するのは、過去に酔ったお客の間で、トラブルになったことがあるらしく、それを防止するのが目的とのこと、又、祭りの為、上納金は通常の半分、場所に関しては、希望を聞いていると収集が付かなくなる為、変更は受け付けないということだった。
妥当な内容といえる。

場所の案内の時に、ロンメルが眉を潜めていたから、あまりいい場所ではなさそうだ。
まあ場所は重要だが、別に優勝を狙っている訳ではないので、気にしない。
念の為、場所を確認しに行ったが、確かに立地に関してはよく無かった。
屋台が立ち並ぶ中でも、奥の方にあったからだ。
またメインストリートからも離れており、屋台がメインストリートから視認出来なかった。
こればかりは決まり事なのでしょうがない。
俺は祭りが楽しめればそれでいい。

俺達は一旦島に帰ることにした。



晩御飯がてら、皆と屋台の相談をした。

「三日間だけ、屋台を出すことにしたよ」

「なんで三日間だけなんですか?」
メルルが質問してきた。

「今回の目的は祭りを楽しむことが目的で、儲けを出すためじゃないからさ」

「なるほど」

「で、まず皆に相談したいのはメニューなんだけど、出来れば手間が掛からず簡単なものにしたいし、極力野菜を使いたくないんだが、何がいいと思う?」

「そうなると肉料理しかないのでは?」
ゴンが言った。

「確かにそうなんだが、どうやら肉料理の屋台は多いらしいんだ、あまり被りたくはないんだよな」

「犬飯は?」
ノン君、人の話をちゃんと聞いていましたか?すべて野菜からできてますけど?

「駄目だ、全部野菜から出来てるじゃないか」

「あっ、そうだった」
こいつふざけてるのか?

「ピザは?」
ギルはほんとにピザが好きだな。

「ピザは手間が掛かるからな、却下だな」
エルが手を挙げている。
おお!珍しい。

「人参をマヨネーズにディップするのはどうですの?」
こいつも人の話を聞いてないのか?
こいつら自分の好物ばっかり言ってないか?

「駄目です、思いっきり野菜です」
ランドが手を挙げている。

「先日島野さんが作ってくれた、ツナマヨ丼はどうですか?あれなら、手間がかからないだろうし、お米は入っているけど、分量を変えるとかできますよね?」
おお!やっとまともな意見が出たな。

「ああ分量は変えられるよ、良い意見だと思う。他にはないか?」
皆一様に考え込んでいるが、意見は無さそうだった。

「ではランドの意見を採用して、ツナマヨ丼とします!」
拍手が起きていた。

「次にお店の手伝いだが、俺とロンメルは決定だが、他にやりたい人はいるか?」

「「「はい!」」」
全員の手が挙がった。
こいつら、島に飽きてるのか?
アイリスさんまで手を挙げてるよ。

「島の外でお店なんて、ワクワクしますわ」

「ほんと、楽しそう」

「ツナマヨ丼の評価が気になりますな」

「お店って楽しいよねー」
どうやら飽きているわけでは、なさそうだ。
よかった、よかった。

「じゃあ、初日はメルルとメタンとマークで」

「「「はい!」」」

「二日目はゴンとギルとランドで」

「「「はい!」」」

「三日目はアイリスさんとノンとエルで」

「「「はい!」」」

「それ以降は適当に行きたい人は祭りに参加しよう、そうそう、午前中の畑作業は全員参加する様に、行くのは午後からだ。どのみち屋台もほとんどが昼からだろうしな。それでどうだ?」

「私の場合はお店の手伝いは初日ですが、二日目と三日目は、祭りに参加するのはいいということですか?」
メルルが尋ねた。

「ああそうだな、行きたければ行って貰って構わないが、島の行き帰りの移動は一斉にするから、そのつもりで頼む」
メタンが手を挙げている。

「メタンどうぞ」

「祭りはいつから開催されるのですかな?」

「明後日からだ、それまでにいろいろ準備しないといけないから、皆手伝いを頼む」

「了解!」

「任せておけ」

「もちろん」



祭りの準備を開始した。
マークとランドには、屋台の作成を指示した。
メルルとギルとエルには、ツナの作り方を教え、その後各自で作るようにした。
俺はというと、木製の丼を五十個とお茶碗五十個と、スプーンを百個作製し、その後マヨネーズを大量に作った。
あと当日用に、全員のユニフォームを作っておいた。
メタンには、木製のメニュー表の作成をお願いした。
順調、順調。
皆で賑やかに準備を楽しんだ。
これで祭りを楽しめそうだ。
祭りって楽しいよね。